魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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戦乱の声

●中央歴1639年3月22日

 

クワ・トイネ公国首相カナタは、視察に赴いたロウリア王国との国境付近の街ギムの上空を編隊を組んで飛行するワイバーンを眺めながら感慨にふける。

2ヶ月前のあの日、日本皇国の軍艦がクワ・トイネへと現れたあの日から、この国の歴史的変化は始まった。

クワ・トイネ公国そしてクイラ王国と同時に国交を樹立した日本皇国は、事前協定に則り両国に対しすぐさま政府開発援助によるインフラ整備に着手した。

その結果、大都市間を結ぶ道は土を踏み固めただけの道や簡素な石畳から、黒く継ぎ目の無いものへと変わった。

また専用の道を走る連結高速輸送船と言う、大規模かつ迅速な物資輸送が可能な輸送網の構築も勧められており、これの完成によって国全体での人の移動や経済活動が活発になり、今までとは比較にならない発展をするだろうと言う試算を経済部が上げてきている。

クイラでも同じようなインフラ整備が進められていて、あちらは日本が求める鉱物資源輸出の準備を進めていると言う。

 

日本には魔法技術の輸出も要求したのだが、「技術そのものの輸出は法的に不可能だ」と断られてしまった。

その代わりと言ってはなんだが、日本側は販売した製品の研究は指定する物以外に関しては自由に行って構わないと言ってきた。

おそらく、研究されてコピーされても日本的には大してダメージも無い古い技術だとかなのだろうが、クワ・トイネ側からすればどれもこれも生活水準を底上げしてくれるものなのだ。

生で飲む事など到底出来なかった水道の水は生で飲む事の出来る水になり、夜も明るく照らしてくれる照明魔法具やそれらに魔力を供給する大型の魔力炉(あいにくこの魔力炉の解析は禁止されている)、物を温め一瞬で水を沸かせる魔法具など。

これらは今のところサンプルだけで、区画ごとに魔力炉の設置と各家屋への魔力送信ラインの構築の必要がある為普及はまだ先の事だが、そのサンプルを見た経済部の担当者は「これらによって我が国はとてつもなく豊かになる」と放心してしまったと言う。

 

そして日本皇国が輸出したのは民生品だけでなく、兵器と軍事技術の輸出も行なっていた。

今カナタの目線の先を飛行しているワイバーンもそうだ。

アレらはクワ・トイネ公国が元々保有していたワイバーンではなく、日本皇国から輸入した機竜と呼ばれる兵器だ。

軍事目に於ける支援や兵器の販売を打診した結果だ、クワ・トイネとしては主力制空兵器である戦闘航空艇を欲したのだが、保守整備などの問題や運用形態がワイバーンのそれと違い過ぎるとの事から、比較的ワイバーンの運用形態に近いこの機竜の採用を提案された。

機竜であってもクワ・トイネが保有するワイバーンや、ロウリア王国の保有するワイバーンの性能を遥かに凌駕している事もあり、クワ・トイネは機竜の採用を決定した。

日本はクワ・トイネ向けに数種類の機竜を候補として示し、クワ・トイネはその中から皇国陸軍の採用している攻撃機竜「紅龍」を採用、現在はクワ・トイネ向けの機体の製造待ち状態で、民間の機竜レース用の機体で訓練を行なっている。

陸軍も小銃と言う弓よりも長射程の武器を輸入し、日本皇国陸軍から軍事顧問団を招き日本の進んだ戦闘方式の取り込みを行なっている。

海軍も現在水兵の半数程が日本に渡り彼らの進んだ軍艦の操船技術を学んでいるところである。クワ・トイネ向けの軍艦の整備が終わり次第、船と共に帰国して以降はこちらで訓練を続ける事となっている。

 

「凄いものだな日本と言う国は。民生技術も軍事技術もおそらく三大文明圏のそれを超えている。このまま順調に行けば我が国も生活水準において三大文明圏を超える日も、そう遠くはないのではないだろうか」

 

そして国力もいずれは文明圏のそれに届くだろうし、ロウリア王国が相手で有れば間も無く追い越すと考えられる。

 

「日本皇国が覇権国家ではなくて助かりました。彼らが国力と軍事力を前面に押し出してくれば、我が国に許されるのは早期降伏か滅亡だったでしょう」

「『植民地政策は時間経過と共に破綻する』『武力と恐怖による支配は長続きしない』と言っていたな」

 

日本皇国が植民地政策に否定的なのはそもそもが周辺に欧米列強の被植民地が多いアジアの国であった事と、最大の同盟国である大英帝国と英領インド帝国との間で起こったインドの独立戦争が凄まじいまでの泥沼となり、イギリスが東アジアの戦力をすり減らした事に起因する。

この英印戦争でイギリスがインドに配置していた陸軍戦力は壊滅し、ロイヤルネイビー東洋艦隊は半数以上がインド洋の魚礁となった。

イギリスの同盟国として、またアジア地域の国家として中立を維持していた日本皇国の介入によって、痛み分けの様な形で終結したこの戦争の発端は長年続いたイギリスによる植民地政策に対する反発が、【魔法】を得た事により一気に暴発した事にあると認識した日本は植民地政策に消極的になり、第一次大戦後に手に入れていた旧ドイツ植民地を早急に独立させている。

 

「何にせよ、日本の協力によって我が国は力を付けつつある。こうやって国境付近で新しい飛竜隊の飛行訓練も行なっている、牽制になれば良いのだがな」

 

カナタの願いは茜色に染まり始めた空に溶けた。

 

 

 

 

ロウリア王国の王都ジン・ハーク

ロデニウス大陸で最大の都市、大陸で最も発展した都市である。

少なくともロウリア人からすればこれまでも、これからも。

実際には既にクワ・トイネ公国のマイハークに抜かれつつあるのだが、彼等はそれに気付く事が出来ていない。

 

三重の強固な城壁に囲まれたロウリア王の居城ハーク城。

月の綺麗なこの夜に、ロウリア王国の行く末を決める御前会議が開かれていた。

白い鎧に身を包んだ偉丈夫、この国の防衛騎士団の将軍パタジンは王の前に跪き報告を行う。

 

「報告致します偉大なる大王陛下、全ての準備は整いましてございます」

「うむ。だが2国を同時に相手取り勝てるか?」

 

ロウリア王国国王、ハーク・ロウリア34世は威厳を持ちパタジンに尋ねる。

 

「クワ・トイネは戦いも知らない農民供、クイラは不毛の土地に住まう者共、更に亜人の数が多い2国に陛下の強大なるロウリア軍が破れる事などあり得ません」

「そうだな。して宰相よひと月程前に接触してきた、日本皇国とか言う国について報告はあるか」

 

日本皇国は同じクワ・トイネ公国とロデニウス大陸にある国として、ロウリア王国にも接触を行なっていたのだが、クワ・トイネ公国及びクイラ王国と国交を結んでいる事から、敵対国であると判断され門前払いをされていた。

最も日本側としてもその頃既にロウリア王国による亜人の迫害を知っていたので、取り敢えずと言う面が大きかったので素直に帰っている。

 

「ロデニウス大陸から北東に1000km程行った所にある新興国でございます。仮に亜人供と同盟を組んでいようと、到着するまでに何方も滅んでおりますれば、問題ございません。

また、奴らはワイバーンを見て驚いていたとの事ですから、飛竜騎士の存在しない辺境の蛮族です。仮に力の差もわからずに軍を送り込んで来たとしても、何ら問題ございません」

「ならば良い」

 

飛竜騎士は軍にとって無くてはならない職種だ。

ワイバーンの火力支援を受けられない軍ははっきりと言って弱い。

流石にワイバーンの攻撃だけで全てを壊滅させる事は出来ないが、それでもいつでも敵は頭上から攻撃されると言う恐怖とも戦わなければならない為、精神的に持たない。

ならばこそ、ワイバーンの存在に驚いていた様な蛮族など取るに足らない。

 

ちなみにその時の会話は以下の通り

『あれは......』

『ワイバーンが何か?』

『ワイバーン、(生体のワイバーンが)いるとは聞いていたが始めてみたな』

『そちらの国にはワイバーンはいないと?』

『ええ、ワイバーンなどと言う生物は生息していませんね。似た様なもの(機竜)なら有りますが』

『成る程。(似たようなもの?どうせ火喰い鳥か何かだろう、蛮族が)』

 

まぁハッキリと言わなかった日本の外交官にも問題が無かったとも言えない。その後ロウリア王国の担当者は日本を蛮族の国と見下し彼等をさっさと追い返したので、説明の機会が無かったのも確かだが。

 

「ではついに亜人供は根絶やしとなり、このロデニウス大陸は我が国の下に統一される日が来たと言う事だ。余は嬉しいぞ」

「くくくっ大王様、大陸統一の暁にはあのお約束もお忘れなき様」

 

王の前で不快にも黒いローブを被ったままの男が、気持ち悪い声でロウリア34世に囁く。

 

「わかっておるわ!!(クソが文明圏外の蛮地とバカにしおって!ロデニウスを統一し終われば次は貴様らの所だ!)将軍!!作戦について説明せよ!」

「ははっ!」

 

怒気をはらんだ王の声にパタジンは自分に向けられた怒りでは無いものの背筋を伸ばす。

 

「説明致します、ロデニウス統一作戦に投入する戦力は総兵力50万。今自作戦では本国防衛に10万を残し、40万をクワ・トイネ公国攻略へ当てます。

作戦初期段階でクワ・トイネの国境付近の街ギムを強襲コレを陥落させます、ギムには大した防備もありません前衛部隊だけで簡単に陥落するでしょう。

次段作戦においては本隊の到着を待ち、全軍でもって城塞都市エジェイを強襲コレを叩き潰します。

最終段階では一気に首都クワ・トイネを強襲陥落させます。尚道中にある街などに関しては、我が国と違い街ごとに城壁で囲むと言う事をしておらず、あっても街の中の貧相な城がせいぜいです。ですので適当な量の兵を置き囲んでおけば直ぐに降伏するでしょう。

航空戦力についてですが、彼我の戦力比は我が方が圧倒的であり彼らのワイバーンは瞬く間に空から駆逐されるでしょう。

また、同時に北方周りで4,400隻からなる大艦隊をクワ・トイネの主要港マイハークに向かわせ、隣接する経済都市マイハークを制圧致します」

 

日本皇国陸軍とクワ・トイネ公国軍務局の思惑であった、国境付近の街であるギムで機竜の慣熟訓練を行うことによって、ロウリアに警戒させ動きを鈍らせると言う思惑は、「亜人供を相手に偵察など不要」と言うロウリア王国の慢心によって破綻する事となった。

 

「食料についてはどうする?武器の増産は行なっていたが、食料の備蓄や集積は行なっていないだけろう」

「はっ、クワ・トイネはそこかしこに食べ物が溢れて、家畜すら美味い飯を食っている国です。食料補給は現地調達で十分と判断致します」

「ならばよい」

 

クワ・トイネ公国が焦土作戦を行うとは考えてもいないのは、そもそも焦土作戦と言う知識が無いのか、はたまたクワ・トイネ公国人が自分達で畑を殺す筈がないと言う信頼でもあるのか。

 

「次いでクワ・トイネの戦力ですが、掻き集めて5万程度しかありません。即応戦力にあっては1万にも満たず、長く準備をしてきた我が国の戦力を一気にぶつければ、小賢しく作戦を立てたとしても意味をなさないでしょう。

またクイラ王国に関しては基本放置いたします。あの国はクワ・トイネから食料を輸入していますので、それを止めて仕舞えば勝手に干上がります。

以上を持ってロデニウス統一作戦の概要説明となります。

6年の月日をかけた準備がついに実を結ぶ時がやってまいりました」

 

「ふふふっははっ、はぁーはっはっはっ今宵は良い夜だ!我が人生で最も良き日と言って良い!ハーク・ロウリア34世の名において、クワ・トイネ公国クイラ王国の殲滅を許可する!!我等がロデニウス大陸の覇者となるのだ!!!」

 

ウォォォォ!!!

 

まだ得てもいない勝利に酔いしれる歓声が夜のハーク城に響きわたった。


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