赤のランサー・カルナと殺り合ってから約12時間が経った頃に目が覚めた。
目覚めと同時にマスターから謁見の間に来るよう招集がかかったらしく、俺は身形を整えてから向かった。
着いた頃にはほぼ出揃っており、俺が着いたと同時にホログラムにある映像が映された。
「諸君、このサーヴァントは昼夜を問わず真っ直ぐこのミレニア城に向かっている。私はこれが赤のバーサーカーだと睨んでいる。」
「どうしますか、叔父様?」
「無論この気を逃す手はない。このバーサーカー、上手くすれば我らの手駒に出来るやもしれん。」
黒のランサーのマスターから事情と正体の推測を言われ、黒のアーチャーのマスターがどうするのか尋ねた。それをランサーのマスターは好機と見て、利用するそうだ。
「ダーニック、戦術を聞かせてもらおうか。栄光ある戦いの幕を開こう。」
「はい、我が王よ。」
そこからダーニックの戦術を教えられ、黒のアーチャーが少し手を加えたりして決まり、軈て、夜へとなった。
夜になり、赤のバーサーカーを黒のキャスター作ゴーレムが足止めしている。
俺は既に森に入って待機しており、近くには黒のバーサーカーもいる。
黒のライダーが到着して、赤のバーサーカーと戦闘を開始。赤のバーサーカーは膂力が強く、剣の一振で巨木を切断し、黒のライダーはギリギリで躱していた。
黒のライダーが名乗りあげようと赤のバーサーカーが切り倒した木の切り株に乗り上げたが、妨害された。
そして、早速黒のライダーが宝具を使い、赤のバーサーカーの右脚を黒のライダーが突いた。
赤のバーサーカーが振り返り、黒のライダーに攻め込むも、右脚が消えていたため、転けた。
槍の力を誇示しても、赤のバーサーカーはライダー目掛けて飛び込んだ。が、黒のランサーの宝具により、腕を突かれて足止めを喰らう。ライダーはそれを見てからサラリと高台に移る。
「叛逆者赤のバーサーカーよ、汝が求めしものが権力者ならば余こそがその頂きに立つ者だ。」
「ハッハッハッハッ!貴様達が圧政者か?おぉ、圧政者よ!我勝利の凱旋謳わん!!」
黒のライダーが高台に移り、黒のランサーがダーニックと黒のキャスターを伴って赤のバーサーカーの前に立ち、立場を名乗る。それを聞いた赤のバーサーカーは攻め立てようとするも、黒のキャスターがゴーレムを精製して囲む。
そしたら、ゴーレムはそのまま粘土のようにうねり、赤のバーサーカーを飲み込まんと動く。
赤のバーサーカーは気にすることなく剣を黒のランサーに突き付ける。
「……
しかし、黒のランサーの宝具が更に刺さったことで、黒のランサーには1歩たわなかった。
「ソナタの叛逆は強者が弱者をいたぶるのを良しとせん。気高き魂の表れだ。初めて叛逆者に敬意を評したくなったぞ?」
「圧政者よ、叩き潰す!!」
「叛逆者よ、変転せよ。…………後は頼んだ。」
更に棘を刺し、赤のバーサーカーは剣を手放さざるを得なくなった。それでも尚ランサーを狙う赤のバーサーカー。
黒のランサーがトドメの一撃を与え、後を任せた。
それを見届けたら、黒のライダーは一言告げて立ち去ろうとした。しかし、黒のライダーのマスターが止める。
黒のランサーのマスターが赤のバーサーカーの契約者とのパスを切り離して此方側に仕込もうと、キャスターに協力を仰いだ。
黒のキャスターは了承し、己のマスターと黒のライダーのマスターに手伝うよう促す。
そして、黒のアーチャーは構え、俺と黒のバーサーカーは霊体化を解いてスタンバイをする。
「では、残る2騎の迎撃はお前達に任せる。」
黒のランサーのマスターはそう言い残して、キャスターと共に作業を始め、黒のライダーは城に帰って行った。
ちなみに俺のマスターは城に篭っている。
俺と黒のバーサーカーは森の中を進むと、1人の緑髪の美丈丈が槍を肩に組んで、口笛を吹いていた。
俺たちに気付いたのか、此方に身体を向ける。
「よぉ、お二人さん。あぁと、セイバーとバーサーカー辺りか?いやぁ、俺も甘く観られたものだねぇ。たった2騎で俺を仕留めようとか………………屈辱にも程があるぜ!」
緑髪の美丈丈はそう言い、蟻が放つ程の殺気を放ち、カラスが舞う。バーサーカーが唸る中、俺は前に出た。
それを気にせず槍を構え、宣言した。
「俺のクラスはライダーだが、安心しろ。戦車は使わねぇ。たった2騎相手じゃあ役不足だからなぁ。真の英雄……真の戦士って奴をその身に刻んでやるよ。」
だから俺はこう返すことにした。
「バーサーカーはもう1騎の警戒を頼む…………ふむ、君は2騎で侮辱と言ったね?……俺からしてみたら、赤の陣営全員でかかってこない事の方が侮辱に当たるんだけど…………ねぇ!!!!!」
返すと同時に飛び出して、戦闘を開始した。
転輪する勝利の剣で薙ぎ、突いて、逸らし、急所を狙い続ける。それに対して赤のライダーは穂先で逸らし、石突で弾き、槍を掌で回転させることで上手く躱す。
1度距離を取ったところにマスターから何かしらの指示があったのか、そこを攻める黒のバーサーカー。しかし、躱されて蹴りを入れられて飛ばされた。
そこを尽かさず俺は攻め込むも、片手で抑えられた。俺は手合わせ気分で攻めているのだが、彼処は殺る気満々の様だ。
「残念だったなぁ。お前に俺と戦う資格は無い!」
槍の穂先を俺に突き立てて来た。しかし、それを俺は転輪する勝利の剣の柄頭で抑え、弾いた。恰も不死性を持っていると見せつけるように。そうなると、相手は勘違いをするのが道理。
赤のライダーは距離を取り、声をかけてきた。
「そっちも耐久力が自慢か?こりゃ長くなりそうだなぁ。」
「君がそう思うのなら、それでいいさ。……けど、代償で失わない限り不死であり続けるそっちのランサーとは違って君は単純だね。君の戦い方は顕著で分かりやすい。左踵を傷つけられないように立ち回ってるのがよく分かったよ。」
「あぁ?何が言いてぇ?」
「……俺は出し惜しみするタイプだからね。君が何処まで引き出してくれるかな?って独りごちただけさ。」
「そうか。」
その一言と同時にひとつの矢が俺を穿ちに来た。俺は半歩下がる事で躱した。それを見た赤のアーチャーは驚いているようで、赤のライダーは目を見張っていた。
「おぉ、姐さんの渾身の一撃を躱すとはなぁ。」
近づいてくる赤のライダーに黒のバーサーカーが唸り警戒をし、赤のライダーは俺から黒のバーサーカーに目配せをして、
「こっちもバーサーカーを失ったんだ。互いに1つ失うならフェアだ。そうだろ?」
俺に向けて槍を構えた。相手にされなかった黒のバーサーカーは魔力を高めて、雷を撒き散らし出した。
それと同時に念話が届いた。
【えぇい、何をしている!宝具だ。宝具を使え!!使わなければ勝てない!何を考えている!?今が宝具を使うべき機会だろう!どれだけ頑丈だろうとお前の宝具ならば打ち砕ける筈だ!】
いきなり、宝具を使うよう命令してきた。
【あのねぇマスター、俺の宝具は抑えても対陸宝具。全力だと対界宝具なんだよ?分かる?マスターはヨーロッパ州を消し炭にしたいのかい!?それに此奴は頑丈なんじゃない。不死性を有してるから傷つかないんだよ?】
俺の宝具は終末剣エンキによるもの。あれが使われたら最後、文字通り
【ッハ!…………戦いを楽しんでいるのだな?…………貴様は戦い続けることだけが喜びなのか!!!!!…………令呪を以て命ずる!セイバー、宝具を以てして赤のライダーを倒すのだ!!!!!】
令呪を1画使い、俺に強制させるが対魔力EXの俺には効かず、2画目を使われるも、叶わない。
最終的にマスターは黒のランサーのマスターに止められて、令呪を2画消費するだけに終わった。
「はぁ、済まないねライダー。馬鹿が馬鹿をしたせいで下がらなくなっちゃったよ。別れ際に一言だけ言っておきたいことがある。」
「はぁ?運ねぇのかよアンタ。それで、言いたいこととっとと言えばいいじゃねぇか。」
「……この聖杯大戦にて世界の抑止力が働いた。この意味が分かるかい?」
「…………なんか大掛かりなもんでもあるのか?」
「それは分からない。けれど、これだけは分かる。胡散臭い奴は信用するな。胡散臭いなら真意を問え。生憎とそっちにはあのランサーがいる。俺は人理に深く近づけないから君達が英雄として成してくれ。それじゃあ、また何処かで。」
赤のライダーに抑止力の旨を伝えてから霊体化をして立ち去る。馬鹿の元に向かうのだ。俺の宝具がどういうものなのか。そして、その発動が何を意味するものなのかを。
俺は急いで戻った。マスターの部屋に入り、霊体化を解いた。解いた途端、マスターはワイングラスを投げつけてきた。
投げられたワイングラスは壁にぶつかって割れた。
「お前のせいだ!この無能サーヴァントめ!!ダーニックの奴め……あんな目を………………私は…………どうすれば…………どうすればいいんだ!」
「俺は──────」
【ユグドミレニアの全マスターに告げる。ライダーがホムンクルスを一体引き連れて逃げた。そのホムンクルスは貴重な素体だ。必ず生きて取り戻せ。】
俺は以前告げたことをもう一度告げようとしたのだが、ダーニックの妨害を受けた。しかし、面白いことを言われた。黒のライダーが貴重なホムンクルスを1人連れて逃げたと言ったのだ。
そのホムンクルスが兵隊のあれらなのか、魔力供給源なのか。魔力供給源ならば、抑止力が渡してきたジークフリートの心臓が役に立つ。
否、このためにジークフリートの心臓を用意したのか?
それはともかくマスターの独り言が何言ってるか分からない。1度落ち着いたら如何なものか。
「セイバー!!追いかけるぞ!!!!!これしかもう後がないのだ!!!!!」
………………ほんと、このマスターはダメだな。ホムンクルスを生み出せてもマスターの才能は皆無だな。
俺はそう思いつつもマスターの後を追うことにした。
しばらく走り続け、キャスター作ゴーレムを倒し切った黒のライダーが背伸びをしていた。
「うーん、さてと!少し休んでから────」
「見つけたぞ!!」
「っ!!セイバー!?」
黒のライダーが俺の存在に気づくと同時にマスターが声をかけた。俺はマスターの指示通りにライダーを抑えることに専念しようか。
マスターに大きな隙が出来るのをしばらく待つか。
「えぇい、クソっ!こんな雑事に俺を使いおって!」
功績に焦り飛び出したのはどこの誰だったか…………
ライダーは俺を警戒しているようだ。まぁ、それもそうだ。サーヴァントだからこそ警戒するものだ。
「…………君、逃げろ…………」
「セイバー、ライダーを抑えろ!」
「何してるのさ!早く!!」
俺は転輪する勝利の剣を構えてライダーに飛び掛った。それを見たホムンクルスが喚く。
「いいから行け!生きたいなら迷うな!行け!!行け!!!行けェ!!!!」
ホムンクルスは逡巡した後、逃げ出した。それを見ていたマスターは舌打ちしながら後を追って行った。
それを脇目に俺はライダーを弾き飛ばして背を打たせる。そして、喉元に剣を突き付けた。抑えるならこれでいいだろう。
しかし、黒のライダーは喚く喚く。転かした今も喚いている。
「退けよ!この大馬鹿野郎!唐変木!僕はあの子を助けるんだ!」
助けようと宣言するこのライダーに現実を突きつけようか。
「何故助ける必要がある?抑止力に使われて残酷な終わり方をするくらいならキャスターの宝具の炉心として使われた方が楽に済むのに?」
「うぐっ………違う!僕が僕自身の意思で助けたいだけだ!サーヴァントが誰かを助けたらダメなのか!?生きていた頃確かにあった慈愛を、誇りを、正義を忘れろというのか!?僕はシャルルマーニュが十二勇士アストルフォだ!僕はあの子を見捨てない!見捨てないと誓ったんだ!!」
黒のライダー、シャルルマーニュが十二勇士アストルフォが名を賭けて見捨てないと誓った。何より、生前の
「はぁ、行けば?英雄としての誇りはともかく、慈愛と正義を言われたら俺は君と敵対は出来ない。早く行くといい。」
アストルフォは槍を霊体化して直ぐに駆け出した。俺は焔造した転輪する勝利の剣を解いて後を追う。
マスターの姿を捉え、次いで木元に血を吐いて倒れるホムンクルスの姿があった。
「君!大丈夫かい!?返事をしろ!?」
俺はアストルフォがホムンクルスの心配をするその姿を尻目にマスターに声をかけた。
マスターは狼狽しながら口答えをしてくる。
「こ、殺されていた!もし、腕を変換していなかったら……だ、だから仕方ない……私は悪くない!」
そして、俺はアストルフォの方を見る。アストルフォは懺悔?をしているようだ。だから俺はマスターに頼んだ。
「マスター、あのホムンクルスに治癒を施してくれないかい?俺はその子を救うことにした。」
「な、何をふざけたことを………………約立たずの使い魔如きが私に意見をするな!!お前はただ言うことに従っていればい────」
「救う気がマスターにはないんだね?」
俺はマスターを見下す様に迫る。しかし、マスターは物怖じするだけで言うことは変わらない。だから俺は、マスターの腹を殴り気絶させた。
「え…………何を…………」
アストルフォはこの行動に驚愕した様だ。
俺は再びアストルフォとホムンクルスの方に向き直った。そこに、闖入者が現れた。
「黒のセイバー」
「ん?あぁ、ルーラーかい。」
「ルーラー?」
俺は2度目だが、アストルフォは初見なため、いまいち分からないようだ。
「俺はさ、傍観者でしか居れない。傍観者は基本出しゃばることは無い。手助けはすれど救う事は無かったし、ただの象徴だったさ。」
「一体何を…………」
「ライダーに言ったように彼は巻き込まれる運命に入る。けれど、1度は救ってみるのもありだよね。だから、俺はこれを捧げるよ。」
俺は懐に仕舞っていた彼の竜殺しジークフリートの心臓を取り出した。ルーラーはこれが何か分かったようだが、何をするかまでは分からないようだ。
俺はこの心臓を焔で包む。しかし、その焔は優しく暖かな、何より、いつも見ている気がする焔だ。
「再び灯り、新たな生を芽吹け。」
枯れ果てていたジークフリートの心臓は心臓を包む焔を吸い取り、生気を取り戻し、胎動する。
「……そんな……それは……」
ルーラーはこの一連の流れに何か気付いたのか、唖然としている。それを尻目にジークフリートの心臓をホムンクルスに植え付けた。
「でも、これは何処で手に入れたの!?」
アストルフォはこの心臓の出処が気になるのだろう。俺は苦笑いしながら答えた。
「それは答えれん。だが、この心臓のおかげで俺はここに居るようなものさ。このマスターは最初、ホムンクルスに授けた心臓の持ち主、ジークフリートを召喚する積もりだった。だが、ジークフリートの心臓を持っていた俺が召喚された。何故かは知らんがな。
………………ルーラーに聞きたいんだけどさ、令呪の剥奪はこの聖杯戦争のルール違反に嵌るかい?」
「それは………………」
「嵌るか嵌らないでいいさ。正直このちょび髭デブに俺の心臓を握られるのは侮辱だ。だから俺はこの男から令呪を剥奪する。此奴はマスターに向いてないからね。」
「……………………例外によりますが基本嵌ります。」
「そうかい。なら、黒の陣営の存続のために令呪を剥奪するというのは特例でいいかい?否、それで押し通す。その子の為にもね?
あ、でもさ、俺にはアイツらにこの子を触れさせないことしか出来ないからさ、自由になったこの子を守ってやってくれないかい?」
「………………分かりました。」
俺はマスター、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアから最後の令呪を剥奪し、自由となった。これなら、縛られることなくアイツらに牽制出来る。逆に言えばそれだけしか出来ない。故にルーラーを頼った。
その途端、ホムンクルスが呻き出した。
「ちょ、どうしたのさ!君!?」
ホムンクルスの肉体が輝き、光が収まると、ホムンクルスの身形が変わっていた。服のサイズが変わっているのはご愛嬌だろう。
「…………どうなってるの、これ?」
「そう慌てるなアストルフォ。心臓とその子が適合して、最適な肉体に形作られるのだろう。」
しばらくしたら、ホムンクルスが目を覚ました。アストルフォはその事に感銘しているようだ。
「生きてる!心臓動いてる!良かったぁ!やったやったぁ!!」
そんなアストルフォを尻目にホムンクルスはルーラーに目をやって、尋ねた。
「俺は…………一体……」
「ご無事ですか?」
ルーラーはそのホムンクルスに手を差し伸べ、ホムンクルスは見蕩れ、そして手をとる。
「俺は…………どうして…………」
ルーラーが説明しようとしたが、俺が口を挟んでする。
「うん、問題は無いようだね。改めて、俺はセイバー。この馬鹿のサーヴァントをしていた奴さ。そして、君が生きている訳は偶然と偶然、そして偶然が重なったからさ。俺という存在が居合わせ、枯れた心臓を持っていた。俺にはその心臓を再活性させる力があった。使わない手はないだろう?君にはまともな心臓が宿り、ホムンクルスから人間になった。それだけさ。」
「…………初めまして、クラス・ルーラー。我が真名はジャンヌ・ダルク。約定に基づき、貴方の生命、貴方の魂をお守り致します。」
ルーラーは俺の頼みを了承してくれる様だ。良かったぁ。
と、思えばアストルフォがホムンクルスに抱きついた。そこをルーラーが避けるように言う。
「良かったぁ!生きてるよぉ!」
「彼の容態を知りたいのでちょっと避けてください。」
「生きてる、良かったぁ。」
「……………………失礼。」
言っても聞かなかったために、ルーラーは強硬手段を取り、引き剥がす。アストルフォはゴルドのケツ前で止まった。状態で言えばお尻合いである。
「ジークフリートの心臓は正常に機能している。過去の聖杯戦争にもこのような事案は無かったはず。」
「ジークフリート?ニーベルンゲンの歌の英雄……彼の心臓………」
ホムンクルスは心臓の鼓動を確認し、その間にアストルフォが近寄る。
「いいのいいの!君は助かった。それが重要なんだ!だろ?」
そして、事実確認をルーラーにとる。
ルーラーは何かしらの懸念事項がある様で暗い。その時に気配がした。
ふむ、黒の陣営が勢揃いしているな。
「っ…………セイバー、ライダー」
「あぁあ、来ちゃったか。」
「以外に早い者だね。みんな。」
「ライダー、何があった?そしてそこのサーヴァントは何者だ?」
ダーニックは開口1番に状況の確認をライダーに取った。
ライダーは言い淀んた。まぁ、ハチャメチャすぎてまだまとめきれてないのだろう。サーヴァント達が俺達を囲む。
「私はルーラー。此度の聖杯大戦の裁定を行う者です。」
「セイバーとゴルドの契約が切れてるのは何故だ?」
「それは俺が。この男と俺の相性は最悪だ。俺は願望を聞かれた時にこう言った。大望を抱き、それを成そうとすれば破滅へ至る。小望をコツコツと成して行けばいずれ大望に辿り着く。ってね。だがマスターは聞き入れてはいなかった。だから功績欲しさに焦り、結果、俺は見放した。此奴がホムンクルスという生命を生み出す聡明さを持つからいいかなって、思ってたんだけど……滑りまくりで落ちた。それだけさ。」
俺の言い分を黒のキャスターが無視して問う。
「ならば、何故ホムンクルスが謎の心臓を得て人間となっている?」
黒のランサーが元ホムンクルスの少年を睨み、アストルフォが庇うように前に出て、更に俺が前に出る。アストルフォのマスターはアストルフォの態度にイラついているっぽい。
「答えよ。この場所で何があったのかを。」
「う〜ん、実は………………」
そこから、アストルフォがある程度説明し、俺は補足をつけるくらいした。
「…………そのような匙でセイバーを失うとは。」
「…………参ったなぁ」
黒のバーサーカーのマスターの懸念事項は恐らく、今まで言いなりになっていた俺が自由になり、黒の陣営から離脱されることだろう。
そこに、黒のキャスターがダーニックに進言した。
「ダーニック、このホムンクルスは炉心として有用だ。」
それを聞いたダーニックはアストルフォに目をやり、一言。
「彼を引き渡せ。」
「断る。」
アストルフォは一刀両断し、アストルフォのマスターは令呪を翳す。
「くだらぬ事で令呪を使わせるな。」
そこで、ルーラーが口を挟んだ。
「彼をこの聖杯大戦に巻き込むことは許されません。」
「何?」
「この聖杯大戦にもルールがあります。彼は望んで参加した訳では無い。」
しかし、黒のキャスターは切り捨てる。
「だが無関係ではない。彼は此方側が用意した魔力供給源のひとつだ。」
それを更にルーラーが切り捨てた。
「だとしても、彼がサーヴァントになった訳ではありません。キャスター、貴方なら分かるでしょう?」
ルーラーの問いかけに賛同し、その上で己の欲を優先した。更にダーニックが付け加えた。
「確かに彼はホムンクルスだ。そしてそれこそが僕にとっては重要なのだ。」
「もとより、それはこの大戦のために用意した我々の資産だ。人格も歴史も家族もない。それらは戦う為に創り出されたのだ。」
「それは違うよ、ランサーのマスター。」
俺はダーニックの最後の台詞を否定した。
「彼に人格が無い?彼に人格があるからこそこうして動いてる。彼に歴史が無い?彼はたった2日3日だろうがそれでもあるじゃないか。彼に家族が無い?それならこれからつくればいい。彼はホムンクルスとしては3年が限界だったろうさ。でも、今は心臓を持ち、鼓動し、動いてる。彼には死する時までの
「貴様の言い分には何処にも無いな。だが、そのホムンクルスが生きて何になるという?」
「知るわけないだろう?何処ぞの金ピカの様な全能眼を持つ奴なんていない。アーチャーの千里眼でさえ、長くて数分がいい所だろう?未来は決して絶対は無い。その人その人の動きで変わってくる。未来が不定形だから平行世界なんてものがあるんだろう。平行世界の無い絶対な未来があるなら今頃何処ぞの金ピカが乖離してる。故に彼はこれからに可能性を秘めている。」
「ならばセイバー、惜しくはあるが此処で討ち果てるか?」
ルーラーが見守る中、ランサーが最終手段に乗り出した。ランサーのこの一言に俺たちを囲うサーヴァントが構える。
「そこまでして彼の生を否定する気かい?」
「僕は僕の願いが叶うのならばそうするよ。皆は僕の願うそれが有用だから加担してくれてる。僕のアダムが動けば君が居なくても勝てるだろうしね。」
黒のキャスターがそう豪語した。俺はそれが真意だと言うことを知り得て、そうすることを決めた。分かるとしてもそれはルーラーだけだろう。
「…………よくぞ吠えたキャスターよ。君達がこの子の生を否定するのなら、俺は黒のセイバーとしてでは無く─────」
俺は焔造していた鎧を解き、素顔を曝け出す。俺の顔は中性的で凛々しいらしく、髪が砂金の長髪故に身長と華奢な体躯も合わさって少女と間違えられやすい。
そして、俺本来の鎧を纏う。背には太陽の
周りの木々は熱により溶け始めた。
この威光を知るのはアーチャーだけだろう。実際神と会ったことがあるのはアーチャーだけだろうし。
「─────一人の善神として貴様らに引導を渡してくれる。俺の力量は貴様を越えるぞ、ランサー?俺の知名度は貴様の倍以上あるからな。セイバーとしての俺ならそこまでは無い。だが、善神としてなら、俺は赤と黒のサーヴァント全てを相手取っても余裕だからな。」
俺のこの姿に皆が唖然としていた。まぁ、セイバーとして動くために神性は最低にまで落としていたが、解放したせいで神性がEXにまで上昇。
「…………ランサー、これは諦めた方が聡明ですよ。」
「……何となく分かるが申してみよ、アーチャー。」
「…………今の彼は紛うことなき神霊そのもの。逆にセイバーだったからこそ抑えられていた。今の彼に挑むのは愚策です。」
「…………そうか。……最後に問うが、ライダー。自らの行為が恥ずべき裏切りだと思っているか?」
俺の神としての宣誓にこの子を狙うことを諦めたようで、アストルフォに裏切りのつもりで動いたかそうでないかを問うランサー。それにアストルフォはこう答えた。
「思ってない。なぜなら僕は正しい行為をしたと信じているからだ。」
この物言いにアストルフォのマスターは驚愕し、ランサーの機嫌を伺う。
「ふ、とは言え、バツを与えぬ訳には行かぬな。キャスター。」
ランサーはライダーに罰を与えることは決定し、キャスターに手錠をする。ルーラーがそれに警戒し、アストルフォは潔く乗った。黒の陣営に行くように促した。
俺は焔造で鎧を造り纏う。そうすることで善神からセイバーにまで格落ちして、ライダーに続く。
「待て、まだ話は───」
「良い。ルーラー、神を信じる者同士、手を組めるのではないかね?」
ランサーはルーラーを勧誘仕出した。まぁ、結果は見えているが。
「いいえ、互いが聖杯を求め、己の名誉に基づいて戦う限り、私は全てを受け入れます。」
ルーラーは断り、ランサーは馬を引いて立ち去る。それに続くように黒の陣営も続く。アストルフォは1度立ちどまり、元ホムンクルスの少年に声をかけた。
「じゃあ君、僕が出来るのはここまで。さよならだ。大丈夫!今の君にならなんだって出来る。街に行って人と会って、誰かを好きになったり、嫌いになったりして愉快に人生を過ごすんだ。いいね!それでこそ、僕もセイバーも戦った意味がある。」
「俺は…………」
「生きろ!君にはその資格がある。」
アストルフォはそれだけ言い、黒の陣営に着いていく。アストルフォのマスターは最後までホムンクルスの少年を睨み続けていたが。
「少年、君は何れ君自身の成し遂げたい思いが出来るはず。愚直なまでに悩み悔み、克服し前に進み続けるそしたら、辿り着けるはずだ。焦る必要は無い。あるのは諦めない気持ちと精一杯今を謳歌することだ。君が君であり続ける限り、俺は君を見守っている。そして、ルーラー。君は真名看破のスキルで俺の真名を知ったはず。だからこそ教えておく。この聖杯大戦は何が原因かは未だ不明だが、世界の抑止力が働き出している。推測だがその子も抑止力により産まれた可能性がある。出来ればその子が出張る程ではなくなるように俺は努める。だから、その子を頼んだ。」
俺は顔を合わせずに(兜被ってるから俺の顔は見えない)これだけを言い残して、ゴルドを抱えて黒の陣営に着いて行った。
さて、あの子は何を思い何を成すか。俺は見届けてやりますか。
天舞う日輪の如く。