五等分の姉   作:プラム2

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本編再開です。


9話

 

「ーーっ。ーーーーつみってば」

 

 花火大会の日から数日経っていたが、俺はあの瞬間の一花の表情が頭から離れずにいた。

 

『六海……?』

『ち、ちがっ。今のは……今のは……』

 

 咄嗟に出た言葉だった。

 自分でも何故あんなことを言ったのか分からない。

 気付いた時には俺の頭の中は真っ白になっていた。

 

 その時の俺はどんな顔をしていたのだろう。

 少なくとも情けない顔をしていたのは間違いない。

 だからこそ一花はそんな俺を見かねて言ったのだろう。

 

『なーんて嘘嘘。ほんとは大した用事じゃないしね。言ってみただけ』

『……そうなのか?』

『うん。私の代わりはいるはずだしね』

 

 そんなはずなかった。

 一花だって大した用事でなければ俺に聞くことなくこちらを優先して断ったはずだ。

 それなのに一度はそちらを優先したということは、一花にとって大事な用事に違いなかったはずだ。

 けれど、その時の俺は気付かない振りをした。

 いつもの優しい笑顔ではなく、作った笑顔を浮かべた一花を。

 

「六海っ!」

「うわっ!?…………って、なんだ五月か。急に大声出したりして驚かすなよ」

 

 耳元で名前を呼ばれ驚きながら反応すると、目の前にいつの間にか五月がいた。

 

「さっきから普通に呼んでも反応してくれなかった六海がいけないんです」

 

 頬を膨らませツーンと拗ねた態度を見せる五月。

 そんなはずは、と思ったが周囲にいるはずのクラスメイトがほとんどいない。

 時間も確かめるといつの間にか下校時間となっている。

 

「もうっ。何があったのかは知らないですが最近ボーっとし過ぎですよ。今日もずっと上の空でしたし」

「す、すまん」

 

 言われてみれば今日話した内容がまるで頭に入っていない。

 五月や上杉、クラスメイトに話しかけられたような気はするが。

 

「なあ、五月姉」

「は、はい!?」

「俺達が一緒にいることに間違いなんてない、よな?」

「六海……?」

 

 考えが纏まらないまま声をかけられたせいだろうか。

 普段であれば思っていても照れ臭くて言えないことを無意識に言っていた。

 

「わ、忘れてくれっ」

「大丈夫ですよ」

「えっ?」

「一緒にいたい気持ちに間違いなんてあるはずがありません。それは六海だけじゃなく皆が思っていますよ」

 

 口調のせいだろうか。

 俺に優しく告げた五月のその言葉が、姿が、一瞬記憶の中の懐かしい姿と重なって見えた。

 

 そうだ、そうだよな。

 

 五月の言葉が胸に落ちた。

 自分は何を不安に思っていたのか。

 一花もそう思ったからこそ結果的に一緒にいることを選んだのではないか。

 そもそもあの花火は六人全員で見なきゃいけないものだったのだから、間違えかけたのは一花の方だ。

 俺はそれを防いだだけじゃないか。

 第一、俺達は六人でいなきゃいけない。意味がないんだ。

 

 だって、そう約束したんだから。

 

「ーー俺が守らなきゃ」

「六海?今なんてーー」

「いや。なんか久々に五月の事を姉なんだなーってさ」

「あっ、ひどいです!私はいつだって六海の姉らしくいようとしてるのに!」

「あはは、冗談だって。いつも五月が姉で良かったって思ってるよ」

「そ、そうですか?それならいいんです。わ、私も六海が私の弟で本当によかったと」

 

 不機嫌になりかけた五月だが、これは少しちょろ過ぎではないだろうか。

 それに変なスイッチも押してしまったと少し後悔したところで、声をかけられた。

 

「何の話しか知らんが、イチャイチャもほどほどに本当に頼むぜ」

「いたのか上杉」

「い、イチャイチャ……」

 

 声の方向に視線を向けるとそこにはリュックを背負い、いつでも帰れる状態の上杉が呆れた様子でいた。

 

「六海ならもうすぐ何があるか分かるだろ。そんな調子じゃ困る」

 

 言われて何かあったかと思い返す。

 おぼろ気な記憶の中、担任やらクラスメイト達が何やら話題にしていた様な……ああ、そうか。

 

「林間学校か」

「中間試験だっ!!」

「じょ、冗談だよ」

 

 二年生のビッグイベントである林間学校。

 その前に立ち塞がる中間試験。 

 家庭教師の上杉からしたら見過ごせないイベントのはず。

 その試験はまだ一週間先なのだが、上杉にとってはもう一週間しかないのだろう。

 

 試験科目は国数英理社の五科目。

 学園一の学力を持つ上杉の授業を何度か受けてはいるが、今のままでは結果は見るまでもなく絶望的に違いない。

 何より本人達のモチベーションも高いわけではないし。

 

「なわけで今日から一週間は徹底的に対策していく。早速図書室に行くぞ」

「ん?今日はウチに来ないのか?」

「お前らの家だと部屋に閉じ籠ったり遊びだしたり何かと勉強に集中出来ないしな」

 

 仰る通りである。

 

「で、他の皆は参加するって?」 

「………」

「おい」

 

 俺の問いに黙る上杉。 

 詳しく聞けば休み時間の間にそれぞれアクションを起こしたらしい。

 その結果、三玖と四葉は参加してくれることになったそうだが、一花にはのらりくらりとかわさられ、二乃にはビンタにて断られたらしい。 

 先程から気になってた頬の紅葉はそれが原因か。 というか、どんな誘い方をしたらビンタされるんだよ。

 

 じゃあ五月は、と視線を向けるとばったり視線が合う。

 ニコッと、視線があっただけで笑顔を見せる五月の顔は「六海が行くなら行きます」と言わんばかりの顔である。

 どんな顔だよと自分で思ってしまったが、五月の顔を見たら自然とそう思ってしまったのだから仕方ない。

 上杉も俺が来れば五月も来ると予測していたのか、五月だけには声をかけなかったようだ。

 セット感覚で扱われるのは少々不服だが、まあ正しい判断である。

 

「まあ、俺は参加するよ」

「六海が行くなら行きます」

 

 やっぱりそう言うんかい。

 

 

 

 場所は変わって図書室。

 試験が近いということだけあって普段より人がいるようだ。

 見知った図書委員に軽く挨拶した後、三玖四葉が待つ席へ。

 中野家家庭教師肯定派の二人ということだけあって上杉がいなくても集中して勉強しているようだ。

 進捗具合は見ないものとする。

 ちなみに否定派は二乃。五月もやや否定よりか。

 一花は気分次第だし中立派って感じだ。

 

「あっ、フータロー」

「へえー」

「五月と六海も…………って、な、なに?」

「いんやあ別に」

 

 俺達に気付いた二人が顔を上げ名前を呼ぶ。

 無意識かもしれないが、この時三玖は一緒に視界に入った俺と五月でなく、上杉に最初に声をかけた。

 これは日に日に三玖の中で上杉の存在が大きくなっている証拠だろう。

 上杉の中でどうなっているかは知らんが。

 

 その上杉は何故か四葉のリボンを握り潰し、レ点のみの答案用紙について言及している。

 そう言えば四葉の今日のリボンもレ点だらけだなとどうでもいい感想を抱く。

 

「いいか!このままではとてもじゃないが試験は乗り切れない!」

 

 リボンから手を放し、元の形に整える上杉。

 変なところで律儀である。

 そして何故か満更でもない表情で受け入れている四葉。

 それでいいのか。

 

「先ずはそれぞれ得意科目以外もしっかり対策するんだ。三玖なら日本史以外も………勉強してる!?しかも苦手な英語を!?」

「少し頑張ろうと思って」

「み、三玖……!」

 

 教え子の嬉しい成長に震える上杉。

 

「……六海、さっきから何でニヤニヤしてるの」

「いやあ、まあ、勉強頑張って試験でもいい点数とれば上杉はもっと喜ぶんだろうなーって」

「べ、別にフータローのために頑張ってるわけじゃないから」

「ほうほう」

「その顔の六海はイジワルだから嫌い」

 

 おっと。

 理由はどうあれせっかく勉強する気になっているのだ。 

 下手な茶々を入れて台無しにするわけにはいかない。

 というか上杉にぶちギレられる。

 今も睨んできてるし。

 

 俺も授業に参加した以上、勉強している姿は見せておくかと鞄の中の教材に手をかけたところでポケットが震えた。

 ポケットの中から震えている原因の携帯を取り、確認すると電話がかかっていた。

 画面で相手の名前を確認する。 

 出ないわけにはいかなった。

 

「すまん、電話に出てくる」

「一花か二乃なら今からでも来るように伝えてくれ」

「あいよ」

「あっ、私お手洗い行ってくるね」

 

 言伝てを預かり図書室から一旦出る。

 そして、ようやく携帯を耳に当ててて通話を始める。

 

「もしもし」

 

 すまん、上杉。 

 残念ながらその伝言は伝えることはなさそうだ。

 

『やあ、六海君。調子はどうかな』

 

 

 一波乱起きそうな気がした。

 

 

【分岐点】

 

 

「上杉、ちょっと電話代わってくれってさ」

「俺に?誰だ」

「お前の雇い主」 

 

 それだけを告げるとバッと立ち上がり、急いで俺から携帯を受け取る。

 俺はそのまま上杉と入れ替わる形で机に戻る。

 するとほぼ同じタイミングで席を離れていた四葉も戻ってきた。

 

「お父さんからって、何かあったのかな?」

「さあ?家庭教師の調子はどうかなとか試験は大丈夫かと上杉の立場から確認したかったんじゃないか」

「ふーん」

 

 上杉がいないからといってサボっていると戻ってきた時何を言われるか分かったものではないので、いない間も各自で勉強を進めていく。

 するとほどなくして上杉が戻ってきた。

 見るからに沈んだ表情で。

 

「あー、上杉。パピーに電話で何か言われたか?」

「い、いや。なんでもない」

「その表情で何でもないことはないだろ」

 

 電話を代わる前と後であまりにも表情が違い過ぎる。

 そのあまりの変わり様に上杉に否定寄りの五月でさえ心配そうに見ている。

 

 口を塞いでいた上杉だが、ジッと見つめる中野家4人からの視線に耐え切れなくなったのだろう。

 一度俺達全員の顔を見た後、溜息を吐き、電話の内容を語った。

 

「5人で赤点回避しなければ家庭教師は辞めさせられるーーーって、5人?6人じゃなくてですか?」

「そういや1人足りてないな」

「フータローの聞き間違いじゃない?」

「いや、確かにそう聞いたんだが」

「動揺して聞き間違えたんだろ。もしくははなから一人諦められてるとか」

「なんで私の顔見て言ってるの六海!?」

 

 誰の顔を見ていたのかは察してくれ。

 

 現実逃避は程々にし、俺達は勉強を中断して作戦会議を始める。

 出された条件は一つ。

 次の中間試験で全員が赤点を回避。

 出来なければ上杉は家庭教師をやめさせられるというものだ。

 

 確か30点以下が赤点だったと記憶している。

 常日頃から勉強しているものやテスト直前の一夜漬けタイプでも越える者は簡単に超えられる点数だろう。

 けれど我ら姉弟にとっては見上げるのも億劫なほど高い壁であった。

 厳しい条件に皆黙ってしまい、空気が重い。

 が、黙っていては何も始まらないので、俺が口を開く。

 

「なあ皆」

 

 皆の顔が一斉に俺に向けられる。

 俺はオホン、と一息入れてから言った。

 

「辞任式はどこでやる?」

「諦めんなよっ!!」

 

 急に熱血キャラみたいになるなよ。

 

「そうだよ!今から頑張ればきっとーー!」

「どうにかなりそうなのかせんせ?」

「ーー正直厳しい。何より放課後だけじゃ時間が足りない」

 

 上杉だけじゃなく姉達も何となく察していたのだろう。

 このままの調子で勉強していても間に合わないということに。

 それに一人頑張ったところで全員が回避しないと意味がないのだ。

 つまりは上杉の授業を全く受ける気のないニ乃にも頑張ってもらわなければならないわけだ。

 こうして毎日勉強会を開いたところで逃げられてしまえば意味がないしーーーーあっ。

 

 

「なあ上杉」

「なんだ」

「ウチに泊まるか」

「ーーーーは?」

 

 

 

 

 

 

 

※この先は本編とは無関係のIFルートとなります。

【 分岐点 】

 

 上杉的にはまだまだ物足りない様子であったが、下校時間が迫り俺達の集中力も切れかけたということで今日の勉強会はお開きとなった。

 わざわざ別々に帰る必要はないので、勉強会のメンバー五人でそのまま帰路に立つ。

 

 先頭では三玖と五月が並びながら疲れたやら甘いもの食べて帰ろう等と実に学生らしい会話をしている。

 その少し後ろでは上杉がぶつぶつと何か呟きながら思い詰めた表情をしている。

 電話を変わった後からあの調子なので、原因は聞かなくともわかる。

 そして一番後方。

 俺と四葉だが、こうなってから何も話すことなく歩いている。

 普段の騒がしいくらいの四葉からは考えられない姿だ。

 四葉も何故か上杉と電話を代わったあとからこんな調子である。

 このままでは俺まで調子が狂いそうである。

 

「どうかしたのか?」

「あっ、うん」

 

 四葉に回りくどく聞いても答えが返ってくるとは思えないので、ここはストレートに尋ねる。

 そうすると四葉は俺の顔を見て、おずおずと聞いてきた。

 

「ねえ、六海」

「ん?」

「どうしてお父さんにあんなこと言ったの?」

 

 立ち止まった四葉に合わせて俺も足を止める。

 その一言で俺は四葉の態度がおかしかった理由が分かった。

 なんて事はない。

 四葉は聞いていたのだろう。

 俺と父の会話を。

 

「何か変な事言ってた俺?」

「言ってたよ!だって、あんな条件ーーどうして。六海と上杉さん、友達じゃないの!?」

「友達がどうか家庭教師を頼むのに何か関係あるのか?」

「!?」

 

 要領を得ない四葉の言葉に、俺は父との会話を思い出す。

 

『家庭教師として上杉君はどうだい?』

『確かに頭はいいよ。でも学力の差が出過ぎてる。上杉的に何故分からないのかが分からない故に教えられないケースが多々ある』

『ふむ』

 

 父との通話は珍しいわけではない。

 いくら6人いるとはいえ俺達はまだ高校生なのだ。

 子供達だけで暮らしているというのは親としては色々と気になるものなのだろう。

 以前、何故俺に聞くのかと尋ねたら俺が一番皆の事を見ているかららしい。

 なのでこうして父から電話が来るたびに俺は自分たちの近況を報告している。

 

『それにいい意味でも悪い意味でも上杉が理由で勉強するしないが俺たちの中で別れてる』

『そうなると六海君は彼は家庭教師として相応しくないと考えているのかい』

『それはなんとも。そういうのは結果を見てこそじゃない?ちょうど来週にはお誂えむきなイベントがあるわけだし、どう?そこで上杉を見極めれば』

 

 俺がそう告げると父は「なるほど」と呟いた後、上杉に電話を代わってほしいと頼んできた。

 その後の会話は何となく予想がつく。

 家庭教師を続けるために大方赤点回避とか総合点何点とかの条件を出されたのだろう。

 上杉の授業を続けたいと考えている四葉にとったら確かに少しはショックだったのかもしれない。

 その点だけは申し訳なく思う。

 

「このままぐだぐだと続けたところで俺達のためにも上杉のためにもならないだろ」

 

 それに、と続ける。

 

「前はさ、四葉が皆で授業を受けたいって言ったから協力したよ。そこで皆が家庭教師に乗り気になればこんなことにはならなかったさ」

 

 でも、それは仕方ないことなのだ。

 

「けど乗り気なのは三玖と四葉だけ。一花はどっちでもいいみたいだし、五月は俺がいなきゃ参加しない。二乃に限っては露骨に嫌悪感見せてる」

「それは、まだ皆上杉さんの魅力に気付いてないだけで、きっともう少し続ければ皆も!」

「そうかもね。でも乗り気な四葉にだけ協力して嫌がってる二乃に協力しないのは、なんていうかな」

 

 

「平等じゃないだろ」

 

 上杉の授業を続けたいのなら続けたい奴だけでいい。

 これ以上嫌がったり乗り気じゃないメンバーに無理強いさせてところで結果には繋がらないだろう。

 ただの時間の無駄である。

 それなら俺はそれぞれが楽しめる過ごし方をしてもらいたい。

 幸いなことに今の学校は全科目赤点を取ったとしても即退学なんてことにはならないのだから。

 

「六海は、上杉さんのこと何とも思ってないの?」

「いい奴だとは思ってるよ。でもそんなことどうでもいいじゃん」

「えっ?」

「俺達家族以外のことなんてさ」

「っ」

「安心しなって。上杉がどんな条件出されたのかは知らないけど、わざと条件をクリアしないなんてことはしないから」

 

 それでも全員回避なんて無理だろうけど、と最後に付け加えると、四葉は俯いて何も答えなかった。

 前を向けばいつのまにか3人の姿が見えない。

 思ったよりも長く話してしまったようだ。

 

 さあ帰ろう。俺達六人の家に。

 

 後ろから足音は聞こえなかった。

 

 

 




六海……クラスメイトから男女問わず未だにどんな距離感で接していいか悩まれているなど本人は全くそんなこと知らない。

一花……たまにクラスに遊びにきてもいいのにと思ったり。六海の事を聞かれると嬉しそうに話す姿が目撃されてる。
二乃……クラスの男子が中野家可愛さランキング(非公認)をたまたま耳にし、六海に八つ当たり。結果には不満しかない。
三玖……忘れ物や用がある時に六海のクラスに来るが、教室に入る直前に毎回躊躇うため先に六海が気付くことが多い。
四葉……女子運動部での四葉の活躍を聞き、男子も六海を助っ人に呼ばないかと考えてる。絶対やらないと分かっているので笑って誤魔化してる。
五月……六海と話したいクラスの女子を視線だけで威嚇してる。真の姉は目で止める的なあれ。六海は気づいていない。


今回また初の試みとして分岐点を書いてみました。
名付けるなら「六海ルートBADEND1」。
条件は【中間試験1週間前時点で六海との好感度が一定以下の場合強制突入】といったところでしょうか。

別話の番外編として投稿するほどでもなかったので、本編のおまけとして気軽に読んで頂ければかと。
好評のようならこれ以降も時々こういうことしていこうかと考えてます。
というか最近おまけが本編してる気が……
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