五等分の姉   作:プラム2

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久々の投稿にも関わらず沢山の感想をありがとうございます。
この場にて改めて感謝を。


14話

 

「なあ、何でこんな事になってるんだ」

「…………俺が聞きてえよ」

 

 住み慣れた街を離れ、見慣れない街並みを車の窓から眺める。

 江端さんの車で。

 上杉と姉弟全員揃って。

 

 先生から上杉が欠席の連絡を伝えられてから、中野家緊急集合。

 露骨に悲観な顔を見せたのが一花、三玖、四葉。

 あの二乃と五月でさえ気の毒そうな表情を見せた。

 

 その顔を見た瞬間、俺のやるべき事は決まっていた。

 すぐ様携帯から江端さんに連絡。

 上杉家の住所を伝え、そこに車を出してもらうことに。

 江端さんの予定が空いていて助かった。

 ……いや、もしかしたら予定があったのをキャンセルしてくれたのかもしれない。

 そうであるなら尚更感謝しなければ。

 

 江端さんに連絡をした俺もそのまま上杉家に向かう事に。

 

 俺一人でいいと言ったのだが、一緒に行くと言って聞かなかった三玖に四葉。

「六海が行くのでしたら!」と五月。

「皆行くなら私も行こうかな」と一花。

「えっ、ちょっ、待ちなさいよ!? 皆行くわけ!? ……うぅー……! 私もいくわよっ!」と結局六人全員で上杉の家に向かうことになった。

 

 一人ならなんとか誤魔化せるんじゃないかと考えていたが、六人全員抜けては誤魔化しようがないだろう。

 江端さんが学校側に伝えておくと言ってくれたが、それでいいのかウチの学校。

 そして車で向かう事、数分。上杉家に到着し、上杉父に案内され中へ。

 

『学年1位の優等生がサボりとか急に不良にでも目覚めたか?』

『六海!? な、なんでここに……』

 

 あそこまで驚愕した上杉は中々見ものだった。

 突然の俺の登場に狼狽える上杉に、事情を説明。

 俺が来た時には、一度寝て回復したのか風邪とは思えない元気な様子で上杉の背を押すらいはちゃんの姿が。

 それでもらいはちゃんが心配な上杉を俺の到着前に帰宅していた上杉の親父さんが更に背中を押した。

 そして今に至る。

 

「らいはちゃんなら心配ねえよ。軽く診ただけだけど熱も下がってた。念の為病院も手配しておいたし」

「……正直助かる。何から何まで悪いな」

「…………」

 

 上杉からのお礼に俺は胸がちくりと痛んだ。

 何故なら俺は後悔していたからだ。

 勢いに任せて上杉を拉致した事を後悔しているのではない。

 上杉の欠席を伝えられたあの時、俺は一瞬良かったと思ってしまったのだ。

 

「むぎゅ!?」

 

 そんな状態で会話などする気になれず、上杉から顔を背け再び無言で窓の外を眺めていると、突然頬を引っ張られた。

 思わず変な声が出てしまった。

 

「何すんだよ」

「何もかにも楽しめって言った上、引っ張って来たのはお前だろ。そのお前がつまらなそうな顔してんじゃねーよ」

 

 恨めし気に言う俺を意に介さず、らしくもない笑みを見せながらそんな事を言う上杉。

 その表情に先程までの陰りはなく、それとなく目が輝いている様に見える。

 出発間際、らいはちゃんが上杉に楽しんできてねと伝えていたおかげか。

 上杉の中で意識は完全に林間学校へと切り替えられた様だ。

 流石エンジェル。

 

 上杉の言う通り、人に偉そうな事言ってた俺がこんな様子でどうするんだ。

 悩みは何も解決していないが、もう流れに任せ、なる様になるしかないか。

 

「よし! なら到着するまでトランプでもするか!」

 

 この後めちゃくちゃババ抜いた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「雪道で進路を塞がれ、同級生と山奥の旅館に宿泊。何も起きない筈がなく──」

「お前は何を言ってるんだ」

 

 現実逃避に決まってるだろ馬鹿野郎。

 高速道路を法定速度内で飛ばし順調かと思われたが、一般道に降り山道を進んでいるところで問題が起きた。

 雪による渋滞で車が止まってから数時間、これ以上進むのは危険と判断した江端さんによって本日は空いていた近くの旅館で一泊してから学校側と合流する事となった。

 問題を起こした側が言うのは何だが学校としてそれでいいのか。

 

「こんな良い旅館に泊まるんだ。そんな辛気臭い顔してないで楽しもうぜ」

「うわー普段の上杉からは1番言われたくない一言」

 

 普段の雰囲気とはまるで異なり、イキイキとした上杉。

 どうやら意外にも旅行ではテンションが上がるタイプらしい。

 普段からこれぐらいのテンションならば学校でももう少しクラスメイトから話しかけられると思うのだが、常にこのテンションの上杉は気持ち悪いというか旅行の間だけでなにも言わないでおく。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 手荷物を下ろした途端、くだらない会話をしている俺達とは異なり、部屋の隅っこに固まった姉達。

 満更ではないチームとあからさまに不満げなチームがこそこそとこちらを見ている。

 それもそのはず。

 急な宿泊だったため一部屋しか取れず、そこに七人全員泊まる事となった。

 同性である俺は何ともないのだが、姉達からしたら仲良くなったとはいえ異性である上杉と一緒の部屋というのは抵抗があるのだろう。

 上杉はまるで気にした様子がないが。

 お前の神経何で出来てるんだよ。

 

「やっぱコイツと同じ部屋なんて無理っ!」

 

 耐え切れず叫ぶ二乃。

 予想通りの反応だが、こればかりは部屋が空いていない以上どうしようもない。

 ただ不思議な事に二乃と同じくらい嫌がりそうな五月が何も言わないのが少し気になるが。

 

「なあ五月。お前はいいの上杉と同じ部屋で? まあ嫌がられてもどうしようもないんだけどさ」

「ええ何て事はありません。思うところが全くないわけではありませんが事情が事情ですし仕方ないですともええ」

 

 小声で本人に聞いてみると、そんな返事が。

 その声から嫌悪感は一切感じないどころか、少し嬉しそうでもある。

 まさか五月も上杉の事を……? 

 

「おいおい二乃。せっかくの良い旅館なんだ。文句言ってないで楽しめよ」

 

 俺の胃を更に痛めかねない可能性に冷や汗を流す中、まだまだ一人浮かれた様子の上杉。

 宿泊代を払ってもらってるくせに何を偉そうなことを言っているんだろうコイツは。

 

「中野家集合」

 

 二乃の呼びかけに姉弟全員部屋の角に集まる。

 

「不本意だけどご覧の有様よ。各自気を付けなさいよ」

「気を付けるって何を……」

「俺も?」

「それは……ほら……一晩同じ部屋で過ごすわけだから……アイツも男ってことよ……」

「「「「っ!!」」」」

「ねえ俺も?」

「当たり前でしょ」

 

 な訳あるか。

 

 二乃の言いたい事も分かるが、相手は上杉である。

 万が一もないだろう。

 むしろ怪しい動きの一つでもしてくれれば俺の悩みは一気に解決するかもしれないけど。

 

 その後、とても高校生だけの食事とは思えないグレードの、我が家からしたら慣れてしまった豪華な食事を終え、皆思い思いにのんびりしていると上杉が旅館のパンフレット片手に声をかけてきた。

 

「おい六海。ここの温泉どうやら凄いらしいぞ。入りに行こーぜ」

「おっ、いいね」

「だ、駄目ですっ!」

 

 最近は姉達と旅行に行く事はあっても、温泉は当然だがいつも一人だしな。

 密かに男同士の裸の付き合いというのに憧れを持っている俺としては願ってもいない申し出だ。

 そう思ったのだが、何故か五月から止められた。

 

「何が駄目なんだよ」

「駄目に決まってます! 六海と上杉君は男同士なんですよ! それを二人きりでお風呂だなんて!」

「五月ちゃん、それ普通普通」

「六海は……そう! 私達と一緒に入るべきです! ほら、家族風呂もありますよ!」

 

 何を言っているんだろうかこの姉は。

 確かに小さい頃まではお風呂も一緒に入ったりはしたが、あくまで小さい頃の話だ。

 この歳になって姉と一緒にお風呂なんて入るわけがない。

 

「皆も六海が一緒の方がいいですよね!?」

「一緒なのは構わないけど……ねえ?」

「構うわよ!」

「それだと上杉さんが一人で寂しいよ」

「そういう問題じゃないでしょうが!」

 

 常識人が一人でもいてくれるとこんなにも助かるのだとありがたいほど実感する。

 他四人に常識が一切ないとは思ってないが、もう少し年頃の弟の気持ちを考慮してくれてもいいのではないだろうか。

 

「よし、行くか上杉」

「おお」

「ああっ!? 待って下さい六海! ……わ、分かりました! なら私がそっちの方に「はーい。馬鹿言ってないで私達も準備するわよー」む、六海ぃ──!」

 

 もはや断末魔にしか聞こえない叫び声をスルーして、部屋を出る。

 見るからにご機嫌な上杉を隣に俺は考える。

 

 これは上杉の想いを確認する絶好のチャンスではないか。

 裸の付き合いというのは仲を深める効果があるというし、口も軽くなるかもしれない。

 そうなれば普段胸に秘めている想いの一つや二つポロリと漏らしてくれるかもしれない。

 上杉だって男だ。

 旅行前にはくだらんと一蹴していた上杉だが、トラベラーズハイ状態の今なら答えは変わるかもしれない。

 ほぼ毎日異性と接しているのだから、誰か1人にぐらい恋愛感情や劣情を抱いていても不思議じゃないしな。

 

 それに俺個人として男同士の裸の付き合いというのは密かに憧れがあるし、まさに一石二鳥な作戦だ。

 そう考え、意気揚々と男性用の暖簾をくぐり、服を脱いでいった……のだが、何故か上杉が手を止め、何とも言えない表情を浮かべている。

 

「どうしたんだよ。早く脱げよ」

「いや……なんていうか……」

「もしかして男同士でも脱ぐの恥ずかしいタイプ?」

「そういうわけじゃないんだが……」

 

 じゃあ何だというんだ。

 先程までノリ気だったくせに、いきなり複雑そうな表情になった上杉を中へ引っ張り、服を脱いでいく。

 

「いかん……顔と身体のギャップで脳内が……アイツは男……アイツは男……男男男男」

 

 隣で身体を洗いながら何やら不気味にブツブツと呟いている。

 おかげで風呂の間上杉の本心を探るどころか、普通の会話でさえ碌に出来なかった。解せぬ。

 

 

 二人で部屋に戻ると、まだ姉達は入浴中の様で姿が見えない。

 入浴している間に仲居さんが布団を用意していてくれたようで、部屋には布団が敷き詰められている。

 ……六枚分だけ。

 

 元々四人部屋であったのを旅館側に無理を言って七人泊めさせてもらっているのだ。

 こういった事態も想定はしていたのだが、実際に現実を見せつけられると何とも言えない気持ちになってくる。

 

「はぁー……眠くなったし、明日も早いんだから先に寝かせてもらうぞ」

「は? いやいやいや。何も解決してないまま勝手に一人で寝ようとするなよ!?」

「何か問題でもあったか?」

 

 角の布団に入りながら面倒くさそうに答える上杉。

 コイツには六枚しかない布団が目に入らないのだろうか。

 

「そんなんお前ら姉弟の誰かが一緒の布団に入ればいいじゃねーか。狭い思いをさせるのは悪いとは思ってるけど」

 

 言われてみればそうだ。

 普段なら、考えれば直ぐにその発想に至ったと思うが俺も予期せぬ事態に少し動揺していたのかもしれない。

 角の布団に上杉を寝かせれば、隣になるのは一人だけ。

 そこに俺が寝て、姉達の誰かが一枚の布団で二人出れば何の問題もない。

 文句を言いそうな二乃も上杉から一番離れた場所の布団に寝かせればいいだろう。

 

「「「「「ただいまー」」」」」

「おっ。おかえり」

 

 湯上がりで全員いつにも増して艶々しい肌の姉達。

 頬も少し紅潮しており、姉でなければその姿に色気を感じた事だろう。

 流石の上杉もこの姉達の姿には感じるものがあるはずだが、その上杉は既に夢の中。

 つくづくイベントシーンを無駄にする男である。

 ギャルゲーの主人公には決して成れないタイプである。

 

「何? アイツもう寝たわけ?」

「疲れたんだよ」

「あのテンションじゃねー……」

 

 フリーダムな上杉に皆苦笑い。

 それはともかく。

 

「何で皆同じ髪型にしてるわけ?」

 

 姉全員髪を中央で分けている。

 俺は見間違えるわけなぞないが、もし上杉が起きていたらさぞ混乱していた事だろう。

 

「あはは……万が一風太郎君が、その、ねえ?」

「皆平等にした」

 

 一花と三玖の言葉で納得した。

 どうやら姉達も俺と同じ心配をしていたらしい。

 皆に先程の考えを説明すると、気が抜けたかの様に息を吐いた。

 

「言われてみればそうね」

「でもそれじゃあ六海が危険じゃない?」

「じゃねーよ!」

 

 ホッとしたからか、程なくして全員眠気がやってきた。

 林間学校の初日の夜としては呆気ない気もするが、身内+上杉しかいない以上特別感はないので明日に備えて就寝する事となった。

 俺は予定通り上杉の隣の布団にさっさと入り、目を閉じる。

 それぞれが布団に入っていく気配を感じながら、そのまま睡魔に身を任せ……ようとしたところで、背中に温もりを感じた。零距離で。

 布団をめくり振り返ると、そこには身体を丸めて俺の背中にピッタリとくっついた五月の姿が。

 

「……何してんだ」

「はい? 寝るんですよ?」

 

 何を当たり前の事を。

 そう言わんばかりの五月。

 

「ほら、風邪ひいても困りますし、早く布団かけて寝ましょ──って、な、何するんですか六海! や、や──!」

 

 俺は五月を無言で布団から追い出す。

 が、がっちりと俺の背中にしがみ付いた五月は離れようとしない。

 

「ふつーここは俺以外の誰かの布団に入るべきだろ!」

「いーやーでーすぅ! それじゃあ上杉君と同じ部屋なのを我慢してる意味がないじゃないですかー!」

「あっ、てめえ! さては最初からこのつもりでいたんだろ! 通りで大人しいと思ったわ!」

「ええい! うっさいわアンタたち! 六海も我儘言ってないでさっさと寝る!」

 

 二乃に顔面に枕をぶつけられ無理やり黙らせられる。

 えっ……これ俺が悪いの? 我儘なの? 

 

「えへへ」

 

 二乃という頼もしい味方を得たせいか、これ以上俺が抵抗しないと思ったか嬉しそうに改めて背中にしがみつく五月を見て、俺はもういいやと諦めた。

 




林間学校編はまだまだ続きます。
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