五等分の姉   作:プラム2

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15話

「うわーおいしそー。中野君、料理上手なんだねぇ」

「カレーぐらいで大袈裟だよ」

 

 林間学校の身内だけで過ごした一日目が終わり、二日目。

 俺達は無事に先に出発した学校側と合流する事ができた。

 というより合流だけなら昨日のうちに出来ていた。

 どうやら大雪で足止めされてたのは俺達だけでなく学校側もだったようで、更にはなんと同じ旅館に泊まっていたらしい。

 今朝、いち早く目が覚めた俺は釣られて起きた五月と共に朝風呂に。

 風呂を堪能した後、部屋に戻る際に教師陣と遭遇し、そのまま合流となった。

 

 ……今更ながらこんな行き当たりばったりな行動でウチの学校は本当に大丈夫なのだろうか。

 元々林間学校のメインイベントの一つにスキー・スノボ体験がある為、ある程度の雪は想定内だろうが……。

 まあ、その辺りは大人達がしっかり考えてくれているのだろう、きっと。

 所謂大人の事情ってやつだ。

 俺が気にしても仕方ない。

 

 そんなわけで学校側と合流した以上、中野家+上杉だけでいつまでも好き勝手しているわけにもいかないので、さっさと自分のクラスに。

 そこからバスで本来の林間学校の宿に向かい、午前中のオリエンテーリングを終え、今は各班毎に夕飯の支度をしているわけだ。

 

「さて。こっちはこんなもんか」

 

 欲を言えば一晩寝かせたいところだが、これでも充分の出来だろう。

 

 手も空いたところで、離れた姉達の様子を見てみる。

 夕飯の支度だけとはいえ、姉達の様子がどうしても気になってしまうのは我ながら実に過保護である。

 毎度のことながら何で弟の俺がここまで心配しなければならないのだろうか。

 普通逆だろ。

 

「これ、もう使い終わった?片付けておくね」

「は、はい!……中野さん、美人で気が利いて完璧超人かよ」

 

「二乃、野菜切るの速っ」

「これくらい楽勝よ」

 

「三玖ちゃん何を入れようとしてるの!?」

「お味噌。隠し味」

 

「いや!もう薪割らなくていいから!」

「あはは。これ楽しいですね」

 

 一花と四葉は適材適所というべきか、上手い事立ち回っている。

 猫被りモードで片付けを率先するという家ではありえない一花に、薪割りや火起こし等肉体労働をやや空回り気味に率先してやる四葉。

 三玖は……止めるべきだろうか。カレーを作っているとは思えない工程が幾つかあり、出来上がりが不安だが、それもきっといい思い出になるだろうというかなって下さいごめんなさい三玖の班の方々。

 唯一、心配の必要のない二乃は──うん。米を焦がしたっぽい男子に笑顔でブチギレている。

 

 俺は何も見なかった事にした。

 

 すると、飯盒炊爨を任せていた班の子がちょうど炊き上がったご飯を持ってきてくれた。

 

「ご飯炊けたよぉ」

「おっ、ありがと」

「にしても中野君ほんとに手際いいねぇ。私もだけど、皆何もしてないよぉ」

「んな事ないって。他の事皆がやってくれたおかげでカレーに専念できただけだし」

「ふふ、ならそういう事にしよっかぁ」

 

 料理に関しては日頃のおかげで自信あるが、こうも家族以外、加えて女子に褒められるというのは何ともむず痒い。

 というより、鍋のカレーを覗き込むためだろうが、やけに距離が近いのではないだろうか。

 普段クラスの女子と話す時は五月も一緒にいるので、こうして二人きりになると何を話していいか分からない。

 妙な距離感に少し気まずさを感じていると、不意に向こうから話しかけてきた。

 

「ねえ、今日肝試しあるよねぇ」

「ああ、自由参加のね」

「中野君は参加するの?」

「ん?あー……係の方で四葉──姉と上杉が頑張るみたいだから様子は見に行こうかと思ってるけど」

「ねえ、それじゃあさぁ。よかったら私と「ご飯まだですか?」──五月ちゃん」

 

 相手の子が何か最後までいう前に、食器等の準備を任せていた五月が待ち切れなくなったのか皿を持っていつの間にか背後にいた。

 五月は同じ班だったので特に心配なく気にしていなかったが、ついにお腹が根を上げたか。

 

「もうちょっと待てって。後少し煮込んだ方が美味しくなるから」

「六海のカレーはどのタイミングで食べても一番美味しいので大丈夫です!それにカレーは食べたいと思った時に食べるのが一番なんですから」

 

 何だその食いしん坊理論。

 空腹の五月に何を言ったところで無駄だろうから、俺は大人し玖五月から皿を受け取る。

 

「わかったわかった。なら今盛り付けるから待ってろ」

「わぁい!あっ、そうです。夜の肝試し、二乃と一緒に四葉の様子を見にいくつもりなんですけど、六海も行きませんか?」

「肝試しも姉弟で参加すんのかよ……まあ、誰とも行く予定なかったしいいけどさ」

「約束ですよ」

「はいはい」

 

 たかが肝試しにやけに念を押す五月に多めに盛り付けたカレーを渡すと満足そうに微笑んで先にテーブルへと戻っていった。

 

「……ほんとに仲良いねぇ」

「食い意地張った姉で恥ずかしいばかりだよ。って、そうだ。さっき何言おうとしてたの?」

「ううん、何でもないよぉ」

「そう?ならいいけど」

 

 何だか先程とは様子の変わったクラスメイトの様子に少し訝しがりながらも、作ったカレーに舌鼓を打った。

 

 そして夜。

 俺は予定した肝試しの時間となり肝試しのコースを歩いていた。

 二乃とスタート直後に恐怖で腕にしがみ付いたお荷物(五月)を連れて。

 何で参加したこいつ。

 

「……六海。アンタせっかくの林間学校ぐらいもう少し青春した方がいいんじゃないの」

「弟と妹を連れて肝試しに参加してる二乃に言われたくない」

「わわっ。む、六海!も、もう少しゆっくり歩いてください!」

「「はあ……」」

 

 因みにここにいない一花と三玖だが、そこはそこで二人で肝試しに参加し、俺達の前にスタートしている。

 学校側と合流したところで結局ほぼ家族で行動している気がする。 

 

 今の一花と三玖を二人きりにするのはどうかと思ったが、むしろ何かのきっかけで当事者達で平和的な方向に話が進んでくれるかもしれないし。

 決して投げやりになったわけではない。

 

 溜息を吐きながら森の中を歩いていく。

 途中、肝試しの実行委員が用意したお化けのおもちゃが目に入るが、実にチープである。

 むしろおもちゃのない自然体な森のままの方が怖かった気さえする。

 ただ所詮は学生主催のものだし、粗を探すのは野暮だろう。

 

「し、知っていますか。この森は出るらしいのです。森に入ったきり行方知らずになった人が何人もいるんだとか」

「もうそれ実行委員も帰ってこれないじゃない」

「というか本当なら何ちゅう場所を林間学校先にしてんだ」

「ううー……離れないでくださいね六海」

 

 本当にここまで怖がるのなら参加しなければいいものを。

 自由参加だぞこれ。

 

「そういえば、こないだの話は解決したの?」

「こないだ?」

「恋バナよ恋バナ」

「ああ」

「恋バナ!?」

 

 意外と長いコースに少し飽き始めていると、思い出したかの様に二乃が尋ねてきた。

 姉弟の誰かの相談と話した際に見抜かれていたし、二乃としても姉弟の話とあれば気になるのだろう。

 だが残念ながら相談した時から問題は何一つ解決していない。

 もう二乃にも全て打ち明けるべきかと悩んでいると、先程まで怯えていたとは思えない鬼気迫る形相で五月が俺の正面に回った。

 

「こ、ここ恋バナって六海のですか!?というか相談って!?わ、私何も聞いてないですよ!?」

「俺じゃないから」

「だ、誰ですか!?もしかしてさっきの──って、えっ、あ、そうなんですか。はぁー……驚きました。でも水臭いですよ。何で私には相談してくれなかったんですか」

「恋バナをアンタに相談するわけないじゃない」

「なんでですか!?」

 

 急にやかましい程賑やかになってしまった。

 これでは余計に肝試しの雰囲気が台無しだなと俺が呆れていると、前方に騒いでいる内に脅かしていたらしい逆さまに吊り上げられた金髪ピエロがこちらを見ていた。

 

「…………」

「うわっキモ」

 

 そこはせめて怖いと言ってあげてくれ。

 表情の分からない仮面越しなのに実に悲しげである。

 

「よお上杉。お疲れさん」

「ったく……連続でネタがバレてる奴らかよ」

「私もいるよー」

 

 うんざりした様子で仮面を取る上杉と茂みから飛び出す全身砲隊姿の四葉。

 その様子だと前を歩いた一花と三玖にもいい反応を得られなかったのだろう。

 脅かす側としては確かにやる気も削がれるはずだ。

 

「はいはいお疲れさんお疲れさん」

「四葉、頑張ってくださいね」

 

 形ばかりの労いの言葉をかける二乃に、敢えて四葉を名指しして言う五月。

 どっちもどっちである。

 

「看板が出てるから分かると思うが、この先は崖で危ない。ルート通り進めよ」

「そんな危ない場所をコースにすんなや」

「コース通り進めば安全なんだよ」

 

 それでもと思ってしまうが、危険と知りながらコースを外れて整備もされてない暗い森の道を進む奴なんていないか。

 

「なあ六海」

「うん?どうした?」

「──いや、やっぱいい」

「そう?」

 

 一人納得した俺は少し様子のおかしい上杉と四葉に労いの言葉を投げかけ、再び歩き出した。

 変な上杉。

 

 

 

 ◆

 

 

 クラス毎に割り振られたペンションの部屋に戻りくつろいでいると、疲れのせいかいつにも増して暗い顔の上杉が帰ってきた。

 

「どうした。ただでさえ暗い顔が限界突破してるぞ」

「うるせー」

 

 肝試しの実行委員としての仕事はもうないだろうし、上杉としても後は気楽なものだろう。

 時刻を確認すると、そろそろ予定の時間。

 上杉と入れ替わるように俺は外に出る準備をする。

 

「何処か行くのか?」

「一花と四葉がキャンプファイヤー用の木材運搬係でな。俺も手伝いに行こうかと」

 

 朝っぱから誰よりも動き回りで、お化け役だけでなくそんな面倒毎も引き受けていたらしい。

 毎度のことながら同じ六つ子であるのに四葉一人だけよくもまあ体力があるものだ。

 動きっぱなしの四葉が心配というのもあるが、逆にやる気が空回りして周囲に迷惑をかけないかも心配だし。

 一花?

 アイツは要領よくこなすだろう。

 何なら上手いことやって体力の使わない指示側に回ってても俺は驚かない。

 

「お、俺も行こう」

「上杉が?勉強しに行くんじゃないぞ?肉体労働だぞ?」

「言われなくても分かってるわ」

 

 思わぬ上杉からの申し出に少し驚く。

 お化け役でさえ渋々やっていたのに、自分から更に面倒毎に首を突っ込むとは一体どういう風の吹き回しだろうか。

 

「まっ、人手は多い事に越した事はないだろうし、そういうことなら一緒に行くか」

「お、おう」

 

 本当に珍しい事もあるもんだ。

 俺なら姉達の誰かがいなければ絶対に御免だが。

 もしかして林間学校というイベントが上杉の性格を劇的に変化させたか。ねえな。

 

 

「さみぃ……」

 

 夜になり、益々寒さが厳しくなっている。

 肌を突き刺すような寒さに体を奮わせながら、白い吐息が口から漏れる。

 身を縮こませながら作業をしている倉庫に着くと、そこには丁度作業をしている四葉がいた。

 

「あっ!六海に上杉さん!どうしたんですか、こんなところで?」

「手伝いに来たんだよ」

「ほんとに!ありがとー!……上杉さん、流石にこの寒さの中外で勉強したら風邪引いちゃいますよ?」

「しねえよ!なんだお前ら姉弟揃って!」

「「だって……」」

 

 隙あれば勉強してるしコイツ。

 林間学校も二日目。

 上杉の禁勉もそろそろ限界を迎え、禁断症状の一つや二つ出ても不思議じゃない。

 

「ったく……これを運べばいいんだな」

「あっ、はい。それを広場までお願いします」

 

 それなりに作業は進んでいる様だが、まだ運ぶ木材の量は残っており、俺達も何度か往復しなければならなそうだ。

 広場まで坂道も段差もあることを考えると、中々にキツい作業だ。

 

「んじゃあ一人は誰か来るまで待ってるとして、二人は先に運ぶか。上杉と四「六海は俺と運ぶか!」おおう、急にやる気出すなよ」

 

 男同士で運ぶより男女で分けた方がいいかと思ったが、女子側が四葉なら関係ないかもしれない。

 中野姉弟唯一の男としてあまり認めたくないが、そう俺と変わりないだろうし。

 

 それならば反対する理由もないので、上杉と二人で運ぶことにする。

 頑張ってー!と一切疲労の様子を見せない四葉に見送られて俺達は広場に向かった。

 

「ふぅ。一つ運ぶだけでもいい運動になるなこれ」

「あ、ああ……い、いい汗かける……ぜ……」

「死にそうじゃねーか」

 

 数分かけて上杉と木材を広場に運び、再び倉庫に戻る。

 一度の運搬でほぼ全ての体力を使い切った上杉。

 よくそんな調子で手伝いを申し出たもんだ。

 心意気だけは評価したい。

 

 倉庫に戻ると、想像より人手がいたのか周りが頑張ってくれたのか積まれていた木材も残りは俺達が運ぶ分で最後となっていた。

 最後のひと踏ん張りの前に息を整える上杉を待っていると、まだ少し息の乱れた上杉が話しかけてきた。

 

「なあ、六海。お前の姉達の事何だが」

「ん?」

「もしかして俺って思ったより好感度高い?」

 

 ……真剣な表情で何を言っているんだろうかコイツは。

 予想外過ぎて思わず足を止めてしまう。

 

「さっき出会い頭にキモいって言われたの忘れたか」

「いやアイツは別だ」

「五月には会う度に親の仇みたいな視線向けられてるのに」

「……すまん。自惚れてたかもしれん」

 

 事実を突きつけたのは俺だが、撤回するの早いだろ。

 言い出した以上もう少し自信を持ってくれ。

 

 しかしながら上杉がこんな事を言い出すと言う事は、そう思わせる何かがあった訳だ。

 素直に上杉の発言を認めるのも何だか癪だったで、敢えて二乃と五月を挙げたが、何となく予想がついている。

 

「一花か」

 

 俺の言葉に体をびくっと実に分かりやすい反応をしてくれる。

 やはりそうか。

 現状、上杉に対して好感度が高いのは一花、三玖、四葉。

 三玖に関しては普段の態度から丸わかりだが、鈍な上杉が今更気付くとは思えない。

 四葉は……まあ先程の様子からも普段と変わりないし、今回の件では関係ないだろう。

 すると残りは一花に絞られる訳だ。

 そうなると一花と何かあった事になるわけで、俺はそこを問い出そうとするが、何故か煮え切らない様子の上杉。

 

「あー……いや。一花といえばそうなんだが、それだけでないというか何というか」

「何だよ」

 

 重ねて問い出すと、ゆっくりと上杉の口が開かれ──

 

「あれ、全部運び終わったのかな?」

「っ!隠れろ!」

「むぐっ!?」

 

 ──る前に倉庫の外から聞き慣れた声が聞こえた瞬間に俺の口を押さえ、有無を言わさず俺を外から見えない様倉庫の奥へと連れ込んだ。

 

「んー、本当に風太郎君も手伝いに来てたの?六海はともかく風太郎君が勉強せず手伝いに来てくれるとは思うわないんだけど」

「ほんとだって!あれー?もう帰ったのかなぁ」

 

 声から一花と四葉だと分かる。

 何で俺がこの二人から隠れなきゃならないんだ。

 

「むぐぐぐっ」

「大人しくしてろ……!」

 

 この現場といい発言といい客觀的に見たらどう見てもギルティなのだが。

 

「今一花と顔を合わすのは、何だ。少しタイミングが悪い」

 

 一花と何があったらそうなるんだよ。問い詰めたいが、未だに口を塞がれているせいで視線で訴える。

 というかもう大人しくしてるんだから離してほしいんだが。

 程なくして外から声が聞こえなくなり、ようやく上杉から解放される。

 

「上杉……お前俺だったからいいものを姉達にはこんなことすんなよ」

「当たり前だ。お前だから出来たんだ」

 

 やだキュンとはならんぞ。

 

 いいから早く話せと上杉に無言の圧力をかけると、観念した様子で話し出した。

 

「実は、ダンスに誘われた。キャンプファイヤーの」

「お、おお?」

 

 昔から欲しい物はすぐに手に入れる一花ではあったが、色恋沙汰までそうだとは思わなかった。

 俺に協力してくれとは言ったが、俺の力なんて必要ないぐらい積極的じゃないか。

 

「返事はどうしたんだ」

「……保留にしてある」

 

 ヘタレかこいつ。

 思わずそう言いかけたが、三玖のことを考えると保留にしてもらって正解かもしれない。

 それなら三玖にこの事を伝え流べきか。

 でも伝えたところで三句がすんなり上杉をダンスに誘えるとは思えないしな。

 ──どうするべきか悩む俺であったが、どうやらその心配は無用だった。

 

「一花と三玖に誘われるなんて考えもしなかったし、一体どうすれば……」

「……は?」

 

 ──ガシャン

 

 耳を疑う言葉の後、倉庫の扉の閉まる音だけがやけに響いて聞こえた。

 

 




原作の名場面をことごとく潰す系主人公
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