新しい制服に身を包み、鏡でチェックする。
チェックするといっても、男子の夏服の制服なんぞワイシャツにパンツだけ。
特に拘る箇所もないので、身だしなみが整っていることだけを確認し部屋を出る。
「さて」
部屋を出ると一階への階段までに五つの扉が待ち構えている。
俺の部屋から順に五月、四葉、三玖、二乃、一花という部屋割りになっている。
一人一人部屋が用意されているのは本当にありがたい。
六部屋分も個室に使える家を用意してくれた父親には頭が上がらない。
今度肩揉みでもしよう。
断られるとは思うが。
「五月ー朝だぞー」
「は、はーい。着替え終えたら降りますので」
いつからか登校前の朝、各自の部屋にノックして回るのが俺の仕事になった。
確かに俺は産まれたのが一番遅いが、僅かな差で何故ここまでこき使われなければいけないのだろうか。
せめて7人目がいればと考えたが、下手したら今以上に肩身の狭い思いをしなければならないので、やっぱり今のままでいいやと無理矢理自分を納得させる。
朝起こす難易度として五月はハードで、起きていることもあれば寝ていたりもする。
最近は起きていることがデフォだが、たまにギリギリまで寝ていることがあるので質が悪い。
今朝は声が焦っていたあたり髪が爆発でもしていたのだろう。
「四葉ー、三玖ー」
「はーい!」
「………んっ」
四葉と三玖はイージーといったところか。
四葉は例え寝ていたとしても起きてからのスイッチが入るのが断トツで早い。
三玖は五人の中で化粧等一番無頓着だからか起きてからの準備が早い。
返事がか細いが、それは日中も変わらないので気にすることはないだろう。
さて次はと二乃の部屋の扉を見ると、タイミングよく内側から扉が開けられる。
中から新しい制服をお洒落に着崩し、見事着こなした二乃が現れた。
「あら、おはよう」
「おはよ」
二乃に関してはイージーどころかボーナスステージみたいなものだ。
中野家の料理長である二乃の朝は早い。
三玖とは真逆で化粧等にかなり気を配るため準備に時間はかかる。
が、その分早く起きているので問題ない。
「ほら、姉の新しい制服姿を一番に見て何か感想はないわけ?」
「はいはい似合ってる似合ってる」
「適当な返事ね」
姉の新しい制服姿にテンション高める弟もどうかと思う。
「ねえ、それより男の子的にまだ長いかしら?」
そう言いながらスカートの裾を摘まみ、ひらひらとさせ健康的な脚をこれでもかと見せる二乃。
これが家族以外ならラッキーなのだが、姉相手では頭が痛くなる光景でしかない。
「パンツ見えても知らないぞ」
「そこは見せない技術があるのよ。あんたにも教えてあげる」
「何処で使えと!?」
さらっと恐ろしい事を吐いた二乃とそのまま一花の部屋の扉の前に向かう。
「「…………」」
扉の前に立つと同時に会話がばっさりと途絶える。
一花の難易度はベリーハード。エキスパート。インフェルノ。
どれも生温い表現であり、これといった言葉が思いつかない。
ただ圧倒的に厄介だということは間違いない。
恐らく最後のダンジョンに挑む勇者も今の俺と同じ気持ちのはずだ。
最近もうスルーしてもいいんじゃないかと悪魔が囁くが、そんなことをした日には後程悪魔共々滅せられるに違いない。
「……じゃあ一花は任せるわね。私は朝食の準備してるから」
「あっ、ずりぃ二乃!」
早い者勝ちと言わんばかりに軽快な足取りで階段を下りていった二乃。
咄嗟に手を伸ばしたのが、悲しくも俺の手は何も掴むことはなかった。
「……はあ」
覚悟を決めるか。
扉を開ける。ノックはしない。無駄だから。
「うわっ」
部屋の中に入ると、そこには脱ぎ散らかした服やら買ったままの紙袋やらとあたりに散乱している。
正直足の置き場を確保するだけで精一杯だ。
仮にも花のJKの部屋がこんな汚部屋でいいのだろうか。いや、よくない。
入居からまだ間もないというのに、どうやればここまで汚せるのだろうか。
今日明日にでも四葉と共に掃除しなければと決意し、この汚部屋の主の元に近寄る。
「んんっ……」
そこにはこっちの悩みなんぞ知っちゃことはないと言わんばかりに穏やかな寝顔を見せる一花が。
様子見はしない。
最初から全力で起こす。
「ほーら!起きろ一花っ!朝だぞー!」
「んー……あと五分」
なんてお約束な姉だろうか。
「ここで寝たら絶対五分後にも起きねーだろうが!いいから起きろって!」
「わかったよぅ……」
今朝はやけに素直で、比較的楽に起床させることに成功した。
一花がベッドから身体を起こそうとした瞬間、直ぐ様俺は背を向ける。
「おはよ、六海」
「今の攻防の後にどの顔でそんな穏やかな挨拶が出来るか知りたいが、おはよう一花」
身体でも伸ばしているのだろう。
背後から「んーっ」と声が聞こえてくる。
「……一花、服は?」
「うん?着てないよ?」
「当たり前の様に言わないでくれ……」
この長女。
寝る前に服を着ようが、朝起きる頃には無意識の内に服を脱ぐ癖がある。
今の部屋の状態ではその着ていた服を発掘するのでさえ困難であろう。
二乃といい一花といい全くうちの姉達は年頃の弟の事をもう少し考慮してほしい。
俺の性格がひねくれたのも少なからずこの辺りに原因があるに違いない。
「どれ着んだ?」
「任せるよ」
「本当にもうこの姉は……!」
周囲に散乱している物だと既に一度着用済みの可能性があるので、タンスから洗濯済みなのを探す。
幸いにも在庫があったようで、特に意識することなく一花に手渡す。
下着を。当然女性物。
「おっ、六海の今日のチョイスは黒かー。やっぱりセクシーなのが好きなのかなー?」
「黒ばっかなんだから仕方ないだろうが!」
「黒以外もちゃんとあるよ」
知らんがな。
「どうする?着ける練習してみる?」
「なんでやねん」
ニヤニヤと脈絡もなく突然とんでもない発言する一花。
これは間違いなく人をからかっている時の顔だが、まるっきり意図が読めない。
「つまんないなー。せっかくお姉さんが彼女出来ていざという時の練習台になってあげようっていってるのに」
「……?よく分かんねえけど女性物の下着も洗濯出来るし必要ないだろ」
「……この子、変なとこで純粋なんだから」
何故か出来の悪い子を見る目で見られる。
解せぬ。
「なんだ、まだ余裕じゃない」
「慌てて登校したくないだろ。こういうのは余裕を持ってるぐらいでいいんだよ」
ようやく一花を部屋から出すことに成功した。
本当になんで朝からこんな疲れなきゃならないんだ。
「で、どうかな。お姉さんの新しい制服姿を見て何か言うことはない?」
「それはもうやった」
「えー」
カーディガンを腰に巻いたスタイルの一花をスルーし、家を見渡すと二乃はキッチン。
三玖はテレビを見ながら待機中。
四葉と五月がいないが、部屋にもリビングにもいなければ洗面所なりトイレなりにいるのだろう。
特に言葉を交わすことなく二乃から食器を受け取り、テーブルに置いていく。
どうやら今朝は和食らしい。
味噌汁のいい匂いが鼻孔を通り抜けていく。
「おはよう六海。制服どうかな?」
「それもうやったっての!」
「皆、おはようございます。あっ、六海!ど、どうですかお姉ちゃんの制服は?」
「他の四人の姿見ればわかるだろうがっ!!何回同じやり取りすんだよ!?」
「ひゃあ!?な、なんで怒ってるのですか!?」
配膳していると青のカーディガンを着た三玖に赤のセーターの五月までも既に聞き飽きたことを言ってくるので、いい加減にしてほしい。
別にキレているわけではない。
しかし、この流れだと四葉もーー
「おまたせー。おはよう、みんな。あっ、六海。私の制ふ「似合ってる超似合ってるもう間違いなく可愛いから」えへへへ」
展開が読めていたので先に黄色のセーターとリボンが目立つ四葉をこれでもかと褒めておく。
「……四葉だけずるいです」
「私は一番最初に褒めてもらったわよ」
「二乃もずるいです!」
ついに俺を含め六人がリビングに集まり、騒がしさはピークに。
それぞれが適当に会話を交わしつつ、それぞれの定位置に座る。
そして
「「「「「「いただきます」」」」」」
ーー改めて中野家の朝が始まった。
六海……言わずがな彼も姉妹同様同じルックス。顔はともかく身長まで姉妹と一緒なのがコンプレックス。
髪型はショートヘアで長さは一花とほぼ同じ。あまりにも一花と間違われるので現在は軽めのパーマをかけている。
以前ベリーショートにしようとしていたが、姉達の強い反対により断念。
一花……同じ髪型で密かに嬉しかったのだが、いつの間にかパーマをかけてて少しショック。
二乃……変な髪型でなければ好きにすればいいと言うが、ベリーショートは認めてくれない模様。今の髪型については概ね納得。
三玖……六海の髪を弄るのが楽しみであったため、今の長さには不満。
四葉……似合ってていいと思ってる
五月……どんな髪型でもよし!