五等分の姉   作:プラム2

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17話

 

 

 夢を、見ていた。

 

 夢の中の俺は見たことのない場所──光が射し込んでいるせいか、元からそうなのか真っ白な部屋で誰かと話していた。

 

『馬子にも衣装ってやつか、義兄さん?』

『その呼び方はやめろ』

 

 夢の中だというのに──いや、夢の中だからだろうか。

 身体も口も自由に動かせず、勝手に口を開いていた。

 それはまるで誰かが操作しているTVゲームを後ろから眺めている様な感覚で、自分の事なのに他人事の様にも思える。

 むしろこれは本当に俺だろうか。

 俺と思う人物は見たことのない場所で着たことのない高そうなスーツ、それこそ父が着ていそうな物を着ている。

 

『というより、お前だけか?他の奴らは一向に姿を見せないんだが』

『ははっ、ちょっとしたサプライズがあってな。もうすぐ会えるさ』

『それバラしていいのかよ』

『内容がサプライズであってサプライズ自体を隠したいわけじゃないからな』

「──み」

 

 話している相手は最初は分からなかったが、目の前の相手は風太郎か?

 面影は強くあるが、何だか普段より大人びた様子で目も死んでいない。

 そう判断すると風太郎じゃない気がしてきた。

 それに服装も風太郎からは想像もつかない俺同様高そうな白スーツだし。

 それはまるで新郎が着るようなものだ。

 

「──つみ」

『何だか嬉しそうだな』

『ん?当たり前だろ。家族ぐるみの付き合いだったのが、これからは本当に家族の付き合いになるんだ。しかもその相手がお前なら尚嬉しいさ』

『……よくもまあ、そんな木っ端ずかしい事を』

『今日ぐらいはな』

 

 夢の中の俺と思わしき人物は、俺からは分からないが相手が言うには嬉しそうな表情をしているらしい。

 当然だと思った。

 見たことのない、自分かどうかも分からない夢の中の光景だが、その光景が俺はとても尊く見えているからだ。

 

『お前には先に言っておく。お前達六つ子に出会えた事。それは──』

 

「六海!」

「うおっ!?」

 

 身体への揺れと耳元の大声で飛び上がるように目覚める。

 寝惚け眼で周囲を見渡すと、そこは見慣れた教室。

 クラスメイト達は帰り支度を始めていて、すぐ近くには俺を起こした五月が立っていた。

 

「珍しいですね、六海が居眠りだなんて。林間学校の疲れがまだ取れなかったりします?」

「あー……五月?サプライズは?」

「サプライズ?」

「そう、サプライズ……って、あれ?なんだっけサプライズって」

「ふふ、まだ寝惚けてるんですか?久々に寝惚けてる六海を見れてラッキーかもしれません」

 

 なんだか夢を見ていた気がするのだが、目が覚めた今では内容が思い出せない。

 いい夢だった気がするんだが。

 

「ほら、六海は上杉君の家へプリントを届けに行くんでしょ?あっ!やっぱり私も付いて行きましょうか!」

 

 言われて思い出す。

 林間学校が開けての登校。

 これからまた今まで通りの日常が始まると思った矢先、旅行疲れか二日目の夜が原因か、風太郎が風邪でダウン。

 学校を休んでいた。

 学校からの配布物や先月分給料、次の授業の日程等色々と確認したい事もあるので風太郎の家へお見合いに行くことにしたのだ。

 

 他の姉達も一部を除いて行きたがっていたのだが、予防接種の予約が重なっていたのと、見舞い不参加組を残すと逃げかねないという理由から見舞いは俺一人となった。

 

「だーめ。俺も渡すもん渡したらすぐ行くから五月はちゃっちゃっと受けてこい」

 

 五月と二乃。

 この二人は未だに注射が苦手で、予防接種の度にあれこれ理由をつけて逃げようとする。

 結局受ける事になるんだからたまには最初から諦めていてほしいものだ。

 

「うぅー絶対ですよ。早く来てくださいね。注射の時一緒にいてくれないと泣いちゃいますからね」

「いてもいなくても泣くじゃん」

「な、泣きません!」

 

 俺も帰り支度を進めると、教室の外には姉達が迎えに来ていた。

 四葉ががっちり二乃をホールドしている。

 あの様子なら二乃も問題なさそうだな。

 

 俺は姉達に声をかけてから風太郎の家へと向かった。

 

 

「やっぱ風太郎は少し目が死んでる方が見慣れてるな」

「病人に喧嘩売ってんのか」

 

 家に入り、布団で寝る風太郎を見て第一声がこれだった。

 

 すまん、理由は分からんが一目見た瞬間にそう思ってしまったんだ。

 とりあえずの謝罪をしつつ、俺は風太郎に持ってきた物を渡していく。

 

「はい、あとこれ一応見舞いの品な。食欲があるか分からなかったから消化にいいもんと、水分」

「お、おお。なんか悪いな」

「んで、これがらいはちゃんへのお土産な。五月がオススメしたお菓子と二乃が教えてくれたアクセサリー。こっちは可愛くて使いやすい文房具で──」

「俺の見舞いの品より多いじゃねーか」

 

 是非もなし。

 誤魔化しもかねて風太郎には不要だと思うが、一応休んだ分の授業のノートも渡していく。

 

「しっかりノート取ってるのはいい心掛けだな。まとめ方も悪くない」

「黒板書き写すだけなら誰でも出来るって」

「それを全員がしっかりやってくれれば俺も苦労しないんだがな……」

 

 ほんと苦労をおかけします。

 その後も他愛ない話をしてらいはちゃんが帰ってこないかと期待もしたが、これ以上時間をかけたら本当に五月が泣きかねない。

 会話を程々にして、俺は決心して立ち上がる。

 

「ん?」

 

 立ち上がり、ふと家の中を見渡すと素人目から見ても高そうなカメラやそのパーツ、それらに関する本がまとめて置かれている。

 

「これ」

「ああ、親父の仕事道具だ。触んなよ」

「……そっか。だからあの時も」

「えっ?」

「いや、なんでもない。またな、風太郎。安静にしとけよ」

「あっ、おい!今の」

 

 その後、病院に着くと未だ決心のつかない二乃と俺が来て安堵の表情を浮かべた五月を病室へ押し込み、予防接種を受けた。

 そういや二乃。結局人の耳に開けといてまだ自分の開けてねえじゃねえか。

 

 

 

 

 数日後、今度は逆に風太郎が家に来ていた。

 風太郎が家に来るのは珍しい話じゃない。

 だが、今日は勤労感謝の日で授業は休みだと言っていた。

 それがわざわざ家にまで来て何の用だろうか。

 ひとまずリビングに通し、話を聞く。

 

「その、何だ。らいはに林間学校や見舞いの件を伝えたら六海に礼の一つでもした方がいいってうるさくてな」

「本当にらいはちゃんはお前の妹か?」

「どういう意味だ」

 

 まだ小学生なのに出来た子過ぎるだろ。天使か。

 

 というかお礼か。

 風太郎が予算1500円以内の物をプレゼントすると言っているが、特に欲しいものが思い付かない。

 気持ちは嬉しいんだが。

 どうするかなと、なんとなく上を見上げてみる。

 

「「…………」」

 

 目があった。

 2階にいる一花と三玖と。

 その視線は最近やたら感じるようになった恨みの入ったものだ。

 毎回の事ながら男友達と話す弟に向ける視線じゃない。

 

 な、なんだ。

 今回は心当たりがないぞ。

 流石にあの二人も風太郎と話しているだけであの視線は向けてこないと信じたい。

 必死に心当たりを探していると、一つ思い当たった。

 

「……なあ、風太郎。因みになんだが、今日誰かから連絡来なかったか?」

「ん、ああ。一花と三玖から来てたな」

「な、内容は?」

「出掛けないかって連絡だが、休日だし六海の件があるから断った」

「休日だから誘ってんだろうが!」

 

 想像通りの風太郎の対応に思わず大声を出してしまう。

 おかげで納得した。

 つまりは風太郎は自分の誘いを断って俺を優先した訳だ。

 この視線も納得だ。理不尽だが。

 

 状況を把握した俺は風太郎からのプレゼントを決めた。

 

「なあ、それって金のかからないプレゼントでもいいのか?」

「勿論だ!」

「そこを力強く返事すんなよ」

 

 よっぽど金は使いたくなかったんだな。

 風太郎の家の事情を知る立場としてはそれも当然だとは思うが。

 それでも最初に提案してくれた辺り律儀というか何というか。

 

「内容は今日一日付き合ってほしいこと。そん時にかかる費用については全部こっち持ち。どうだ?」

「そんなんでいいのか!」

 

 食い入る様に頷く風太郎。

 ちょろい。

 

「んじゃあ、まず一花からな」

「…………んんっ?」

「…………え、私?」 

 

 俺以外、状況を理解出来ず、間の抜けた声だけがやけに部屋に響いて聞こえた。

 

 

 

『もうお終いよ。四国の人間は全員ゾンビになってしまったわ』

『瀬戸大橋封鎖出来ませぇん!』

『ダメだこりゃ』

 

 家を出て、近くの映画館。

 今日公開された映画『死国~shikoku~』を俺達は観に来ていた。

 姉弟全員に上杉姉弟を加えて。

 一花と風太郎だけ前の席に座っており、俺達残りの面子は少し離れた後方の席に座っている。

 

 この映画は端役とはいえ、映画初出演の作品だ。

 姉弟分のチケットを貰っていた事もあり、観ない訳にはいかない。

 

 俺が風太郎に求めたプレゼントはつまるとここれだ。

 姉達の行きたい所に付き合ってほしいというものだ。

 少々言葉が足りなかったが、きちんと聞かないまま風太郎も了承したから問題はない。

 まあ、病み上がりだし無理だけはさせないが。

 そんでせっかくだし、家にいた姉達を全員誘い、更には家にいるというらいはちゃんも誘って結果大人数で観に来た。

 二乃等は渋々と言った感じだったが、それでも一花が出る映画は気になったのだろう。

 文句を言いつつ、大人しく付いてきた。

 

 しかしながら身内がこうして映画の大スクリーンに登場するとは妙な気分だ。

 一花はどんな気分なのだろうか。

 暗い上に席が離れているため分かりづらいが、耳まで赤くなってそうだ。

 あっ、一花死んだ。勿論画面の。

 

 その後もちょくちょく来る一花の出番にテンションを上げながら、ラスト15分の流れは手に汗を握った。

 予想以上の充実感を胸に俺達は劇場を出た。

 

「う~チケットを渡したのは私だけどさ、姉弟全員とフータロー君達と一緒に観るのは流石に照れたよ」

「何言ってんだ。立派な死にっぷりだったぜ」

「あはは……褒めてるんだよね?」

 

 次の目的地に向かうまで俺達は各々好き勝手に映画の感想を述べていく。

 もう少しあーすればよかっなあとか、中々あの俳優イケメンだったわ等と。

 四葉は一花の活躍に興奮の熱が冷めない様子だし、五月は五月で感極まって映画の内容とは別に涙ぐんでる。

 

 今回は端役だったが、今後も仕事が入っており、一花の女優業は順調らしい。

 初めて打ち明けられた時は全員驚いたが、こうして活躍を目の当たりにすると、成る程。

 一花には向いてると思う。

 

「それじゃあ私達はこっち」

「おう。コースは何時も通りだよな?なら終わる頃に店前で待ってるよ」

「うん」

 

 分かれ道に差し掛かり、今度は三玖と風太郎がペアになる。

 今度は三玖に付き合ってもらう番で、二人はこれから三玖御用達のスパに行くとの事。

 映画と違って流石にスパはらいはちゃんには早いからな。

 俺を含めた他の面子はスパの間、二乃の要望で近くの服屋を見に行く事にしていた。

 因みに二乃の番はない。

 二乃ならそうすると最初から分かっており、念のため確認もしたが「なにそれ罰ゲーム?」と取り繕う暇もなかった。

 まあ、そうだろうよ。

 

「あっ、これ欲しかったのよ」

「ルームウェアなら持ってたろ」

「こういうのは何着あってもいいの。それに持ってるのも随分前に買ったのだし」

 

 傍目からは違和感ないだろうが、こうして男一人女性に囲まれブランド店でショッピングというのは相変わらず慣れず、少々居心地が悪い。

 前にその事を愚痴ると「あんたもその辺は一応男の子ね」と馬鹿にされた様に言われたが。

 それでも、特に二乃からは「同じ顔をしてる以上適当な服装は許さない」と定期的に付き合わされてるが。

 周りを見てみると、らいはちゃんを含めた他の面子は和気藹々と普段より二割増しのテンションだ。

 こういう光景を見ると女の子は小さくても女性なんだと実感させられる。

 あと、四葉。

 そのロゴが623のパーカーは棚に戻そうか。

 一旦そのロゴの服を俺に何着渡すつもりだ。

 

「うーん……やっぱり着てみないとイメージが湧かないわね。六海、ちょっと試着してもらえる?」

「自分でいいじゃん!?百歩譲っても他の誰かでいいだろ!?」

「冗談よ」

 

 俺の反応に満足してサディスティックな笑みを浮かべたまま試着室に入っていた二乃。

 なんかやけに生き生きしてるな……。

 

 それぞれ目当ての品を買って店を出る。

 人数分の購入量に両手が塞がってしまった。俺の手だけだが。

 らいはちゃんにも、そう値段の張る物ではなかったが姉弟全員からという事で皆で見繕った物を買って上げている。

 当然ながら遠慮していたが、俺達に押しきられた。

 後、ついでに風太郎にも土産でシンプルなシャツを買っておいた。

 帽子という案も出たが、風太郎は帽子被らないだろうし。

 

 時間も丁度よく、肌艶も機嫌もだいぶ良くなった三玖達と再び合流してからは今度は五月御用達のレストランへ。

 五月と風太郎がペアに、なんて事にはならず、今度は全員で食事をした。

 メニューに書かれた金額に戸惑う上杉姉弟。更に出された料理を食べて混乱する姿は中々に見物だった。

 

「はあ」

「お疲れさん」

 

 そうして夕方。

 最後は四葉とらいはちゃんの希望で公園に来ていた。

 未だ元気に公園内を走り回る四葉とらいはちゃん。

 一花、二乃、三玖も付き合ってるが二人の元気には付いていけない様だ。

 あっ、三玖が死んだ。こっちは現実の。

 あの様子ではせっかくのスパ効果も切れてしまったのだろう。

 

「ったく。金のかからないプレゼントって聞いたから期待したのに、金かけるより面倒毎に付き合わせやがって」

「でも楽しかったろ?」

「……まあな」

 

 三玖よりも先にダウンしていた風太郎の座るベンチの隣に俺も座る。

 買ってきたドリンクを手渡すと、風太郎が口を開いた。

 

「六海は何がしたかったんだ。結局お前もほぼアイツらに付き合った形だろ」

「まあな」

「あれか?庶民にお前ら金持ちの生活を見せつけて優越感に浸りたかったのか」

「どんだけ嫌な奴なんだよ俺」

 

 風太郎のその言葉に、思わず苦笑してしまう。

 

「今日は勤労感謝の日だろ」

「……?ああ」

 

 それで伝わると思ったのだが、察しの悪い風太郎には伝わらなかった。

 仕方なく説明していく。

 

「俺も皆も風太郎には感謝してんだよ。二乃はああだけど、それでも何も思ってなかったら最後まで付き合ってないさ」

 

 風太郎は俺にお礼をと言っていたが、勤労感謝で礼をするなら間違いなく俺達の方だろう。

 一人でさえ大変な家庭教師を六人まとめて見ているんだから。

 だから何らかの形で感謝を示したかった。

 

 俺は買ってきた服を風太郎へ渡す。

 自分へ渡す物とは予想しなかったのか、面食らった表情で受けとる。

 

「はいよ、いつもお疲れさんセンセ」

「お、おう、悪いな。……一体今日だけで幾ら金使ったんだ」

「風太郎の予算数十年分ぐらいじゃないか?」

「聞かなきゃ良かった……」

 

 とても一日で使う事のない金額にげっそりとする風太郎。 

 思わず笑ってしまう。

 

 

「ん?そっちの紙袋は自分用のか?」

「ああ、こっち?こっちはあれだ。感謝する人は他にもいるってわけさ」

「?」

 

 

 ──期末試験が始まる。

 

 




今更ですが、ようやくアニメ二期一話に追い付けました。

ぼちぼち前までやっていたオマケコーナー再開しようかと検討中です。
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