五等分の姉   作:プラム2

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3話

 

「……ふぁーあ」

 

 睡魔との激戦の末、見事午前中睡眠権を獲得した俺。

 転校しても性能の劣化しない俺の脳内目覚ましがきっちり昼休みを告げるチャイム同時に起こす。

 

「食堂に行きましょう!」

 

 学生全員が待ちに待った昼休み。

 弁当を持参してもよかったのだが、食堂の魅力に取りつかれた五月きっての希望で本日も食堂を利用することとなった。

 この様子だとほぼ毎日利用すんだろうなあ…。

 

 学生のための食堂であるためその価格は非常にリーズナブルであるが、毎回一人で千円近く使っていれば中野家のエンゲル係数は著しく上がっていく。

 まあ、あの父親なら娘の食費ぐらい表情一つ変えずむしろ「足りるかい?」といって更にお金を出すぐらいするだろう。

 とにかく俺の悩むことではない。

 

「あいよ。ちょい便所寄ってくるから先に行っててくれ」

「分かりました、皆で待ってますね。……待ってますからね?」

「念を押さなくても大丈夫だっての」

 

 五月と一旦別れ、教室近くの男子トイレに入る。

 入った瞬間に周りの男子生徒がギョッとした目で見てくるが、もう見慣れた反応だ。

 下手したらパンツを下げるところまで確認される可能性があるので、小便ではあるが個室に入る。

 

 今日の昼飯は何にするか。

 そんな事を考えながら用を済ませ、手を洗っていると、隣から声がかかった。

 

「よ、よう奇遇だな」

「……えっと、上杉だよな?」

 

 視線を向けるとそこには昨日既に五月から敵認定された男子生徒が。

 クラスの連中から聞いたのだが、上杉は入学以来試験で一位を取り続けている優等生らしい。

 しかしながらコミュニケーション能力に難があるらしくいつも一人とのこと。

 そんな彼がわざわざ自分から俺に話しかけに来るなんて一体なんの用だろうか。

 

「し、知っててくれたか!」

「有名だしな。改めてだけど中野六海。呼ぶときは紛らわしいから六海で頼む」

「わかった」

 

 と、まあ、改めて自己紹介したわけだが、そこで会話が止まった。

 何か用があったのではないだろうか。

 

「「…………」」

 

 沈黙が続く。

 にしても、彼ーー上杉はなんだか無理をしているよう見えなくもない。

 昨日の印象と違うというか、取り繕っている感じだ。

 

 はっ!

 

 鋭い俺は気付いた。 

 

「……なんだ急にニヤニヤと」

「いやいやいや」

 

 

 上杉、惚れたな五月に。

 

 こう言うと遠回しに自画自賛しているようだが、五月ーー中野家は全員整った顔立ちをしている。

 客観的に評価すれば美人や可愛いといった評価が妥当だろう。

 しかも同じ顔ながら、それぞれが異なった魅力を持っている。

 身内である俺から見れば姉五人に共通して性格にやや難がある上に馬鹿だが、それも見ようによっては可愛いらしいものかもしれない。

 特に頭の良い人間からしたら馬鹿は逆にポイントが高かったりするのではないだろうか。

 

 以前の学校でも何人もの男子生徒がその見た目や化けの皮に騙され、そのハートを射止められてきたが、大方上杉もそんなところだろう。

 そんな男子生徒達がまず考えるのが、身内であり男で恋のライバルになる心配のない俺を味方につけることだ。

 

 結構、結構。

 そういうことなら俺は全力で応援しようではないか。

 流石に名前も知らない見ず知らずの相手に姉達を紹介したりなぞしないが、上杉なら優等生ということだし紹介するぐらいなら問題はないだろう。

 

 姉達そろって高校生にもなって男の気配がまるでないし、そろそろ男女交際の一つや二つ経験していい年頃なはずだ。

 万が一、上杉がろくでもない奴だったらその時は無理矢理にでも別れさせ金輪際関わらせないようにすればいいし。

 

 まあ、ここで俺がどれだけ考えても無駄なときは無駄なのだが。

 なんせ、まず最初にルックスが基準値を越えなければ厳しい一言と共に門前払い。その場合は来世からやり直す必要がある。

 例えこのルックス審査を乗り越えても、次は五人の姉それぞれに認められなければ関係が進展することはないだろう。

 

 今までルックス審査を乗り越えたイケメンでさえ、この第二の関門を突破した者はいない。

 乱数調整でもしない限りクリア不可能な第二関門。

 これを突破することがあるようなら、そのスーパーマンには法律を無視してでももれなく五人全員を娶ってほしい。

 

 なぁにこの無理ゲー。

 難題過ぎてかぐや姫もドン引きするだろう。

 

「どうかしたのか?」

「い、いや」

 

 上杉のためにここで止めておいた方がいいのかもしれない。

 が、上杉にとってもき、きっといい経験になるはずだよな。な?

 男はフラれた数だけ強くなると言うし。うん。

 

「大変だと思うが俺は応援するからな」

「お前、知ってたのか」

「まあ、なんとなく察したというか」

「そういうことなら話は早い。お前からも姉の方を説得してくれ。昨日のせいでこのままじゃ拒否される可能性が高い」

 

 やだ、上杉君ったら積極的。

 見た目に反してもしかして肉食系?

 同性である以上いくらギャップを見たところで萌えはしないが。

 

 このまま立ち話を続けるのはなんだし、上杉も今から食堂に向かうということだったので、このまま一緒に向かうことにした。

 

「焼き肉定食焼き肉抜きで」

「……じゃあ俺は焼き肉定食。焼き肉抜かないで」

「それは言わなくてもいいだろ」

 

 上杉の個性的な注文を見て、昨日の寂しい空食器はこれだったかと一人納得する。

 昨日同様水を汲み、周囲を見渡すと……いた。

 

 既に五人勢揃いしている。

 五人もいれば制服関係なく目立つこと他ない。

 

「友達と食べてる…!」

 

 上杉も見つけたようだが、何故だが驚愕している。

 

「あれは友達とは言わないだろ」

「えっ、仲良く見えるのに?……やっぱ人付き合いってめんどくせーな」

 

 姉妹は姉妹で友達ではないと思うのだが。

 あと人付き合いしている時にそういうことは言わない方がいいと思う。

 

「じゃあ」

「ま、待てっ」

 

 五人に近づこうとしたところで上杉に止められる。 

 何か問題でもあるのだろうか。

 

「想定と違うというか姉以外は予想外というか」

 

 姉しかいないんだが。

 俺たちが六つ子ということは学年中の噂になってるし、知らないことはないだろう。

 それにこうして顔を見れば六つ子ということは一目瞭然だろうし。

 

 俺達が席に座らず不自然に立ち尽くしていると、姉達も俺達に気付いたみたいだ。

 

「すみません。席は一人分しか空いていませんので」 

「くっ…!」

 

 勝ち誇った顔で意地の悪いことを言う五月に、苦い顔をする上杉。

 すまん、上杉。

 本来であれば五月は姉弟の中でも親しみやすい性格のはずなんだが余程お前のこと嫌っているようだ。

 ただ本当に昨日水汲んでいるだけの僅かな時間に何をしたんだお前。

 

「すまん。やはり一人で食べる」

「えっ、あっ、ちょ」

 

 俺の返事を聞かずに上杉は踵を返し、止める間もなく立ち去る。

 ……さすがに姉弟六人にいきなり混じるのはハードルが高かっただろうか。

 立ち去ったのを無理矢理呼び戻すのも悪いので、俺一人確保してもらった席に座る。

 

「なんだったのアイツ」

「いや、まあ、一緒に食べる予定だったんだけど都合が悪くなったみたい」

「六海ったら早速友達作れたんだ。えらいねー」

「立派」

「どんだけガキ扱い!?ってこらぁっ!頭撫でんなっ!」

 

 わざわざ食事の手を止め頭を撫でてくる一花と三玖の手を払い除ける。

 手を払い除けられた二人は大して気にした様子なくそのまま食事に戻る。

 

「てか上杉とは友達というか、ただのクラスメイトだから。それに友達になりたいとしたら俺じゃなくてーー」

「ふむ、この料理も中々ーーって、どうかしました?もしかして六海も食べたいですか?」

「いや、いいから。そのまま食べててくれ」

「わかりました?食べたくなったらいつでも言ってくださいね」

 

 色々と残念な姉である。

 

 もし上杉が五月の見た目だけで一目惚れしたのなら、まだ他の姉妹がいるからそちらをチャレンジした方が懸命かもしれない。

 多分五月は脈なしだ。

 

 と、なると誰を紹介すべきか。

 俺は改めて周りにいる姉達の顔をみる。

 

「ん?どうしたのかな?」

 

 一花なら適度なお付き合いをしそうだが、一花はきっかけがないと人と打ち解けないだろうし、姉弟相手でも本心を見せないところがあるので攻略難易度は高めだろう。

 あと、なんだかダメな男が好きそう。

 

「なによ」

 

 二乃は……ダメだろうな。 

 恋バナや男子の視線に姉妹一敏感でミーハー気質なのだが、面食いだし。 

 決して上杉がイケてないわけではないが、二乃は多分もっとヤンチャそうな男性がタイプなはず。

 後なんやかんやで少女チックだから、上杉とは合わないのではないだろうか。

 でも落ちたらチョロそうな気がする。

 

「食べないの?」

 

 三玖は……わからん。

 本人は内緒にしている様だが、根っからの戦国武将フェチということを俺を知っている。

 髭面のオジサマに魅力を感じるようだが、男性のタイプもそうだとしたら姉妹で一番業が深いかもしれない。

 とりあえず保留。

 

「なんだか馬鹿にされている気がするわ」

「私も」

 

 となると後は四葉のみのわけだが……うん、悪くないのではないだろうか。

 姉妹の誰よりも人懐っこい性格のため、前の学校でも一番友達が多かった四葉だ。

 上杉の運動神経は未知数だが、四葉は勉強はともかく運動神経はピカイチ。

 妬むことなく相手の長所を素直に褒められるし、自分にないものを持つ相手こそ魅力的に見えるというもの。

 勉強の出来る上杉に運動の出来る四葉。

 なんともお似合いではないだろうか。

 

 で、あれば後は本人さえ嫌でなければ……あれ?

 

「四葉は?」

「あそこ。あの子が落とした答案用紙を届けにね」

 

 一花の視線を追うと、先程去った上杉の正面に既に四葉が座っている。 

 おお。まさか俺が動く前にこうなるとは。

 なんて話の早い姉だろう。

 是非とも他の四人にも見習ってほしいものだ。

 

 ああして二人を引き合わせたのなら、俺の役目はもうないだろう。

 後は当人達の問題だ。

 教室に戻った時にでも話を聞かせてもらうさ。

 

「でも彼、凄いね」

「上杉がか?」

「私も落とした答案用紙見たんだけど、百点だよ百点」

 

 噂通り流石は学園一といったところか。

 てか百点なんて見たことないな。

 記念に後で見せてもらうか。

 

「成績が良くても人格に問題があるかと思います」

「いかにも勉強しか出来なそーな根暗くんっぽいもんねアイツ。友達もいなそーだし」

 

 ボロクソ言い過ぎだろ。

 二乃に関してはまだ一言も会話してないというのに。

 

「六海も友達を作るのは結構ですが、付き合う友達は選んだ方がいいですよ。いらぬ影響を受けますから」

 

 マルフォイ以外で初めて聞いたわその台詞。

 

 

 食事を終え、五月以外とは途中で別れて教室に戻ってきた。

 その五月とも午後最初の授業が体育のため別れたのだが、何故か上杉と四葉がまだ一緒にいた。

 

 えっ、なに。 

 もう既に昼休みどころか着替えの間まで一緒にいる仲になったの。

 流石に関係を進めすぎじゃないか。

 

「お前がそこにいると他の男子が着替えにくいだろうが」

「あー!六海、聞いてよー!上杉さんったら落とし物拾ってもらった時は『ありがとう』って言うのを知らないみたいなんだよ!」

「うん、まずはお前が俺の話聞こうな」

 

 変なとこで頑固な四葉を無理矢理押し出し、扉を閉める。

 ずっと一緒にいると思ったら感謝の一言を待ってただけなのかよ。

 

「なんだったんだアイツは……」

 

 返す言葉もないです。

 

 だが、なんやかんやで他の姉達よりいい感じではないだろうか。

 上杉的にどうだろうか。

 

「いや、どうもなにも中野五月じゃなきゃ意味がないんだ」

 

 やだ、上杉くんったら男らしい。

 一目惚れの相手にそこまで一途になれるのか。

 その誠意を五月の前でも見せれば五月の態度も少しは和らぐだろうに。

 

「そうだ。六海から姉に俺が謝ってたって伝えてくれないか?」

「ダメだろ。そういうことは五月本人に直接言わないと」

「なんでお前もアイツも同じことを言うんだ……」

 

 四葉にも既に頼んでいたのだろうか。

 

 そりゃあ、まあ姉弟だからな。

 

「ん?」

 

 俺も着替えるかとポケットの中の携帯を取り出すと、姉弟RINEの通知とメールが一件届いていることに気付く。

 姉妹RINEから確認すると、発信主は五月からで、家庭教師を雇い今日から来てもらうので寄り道せず帰ってこいとのこと。

 

 そしてメールは、父。

 

 …………父?ファザー?ダディ?ナンデ?

 

 父とは定期的に姉弟の様子を電話にて話したりするが、それ以外での連絡はまずない。

 それこそ日中にメールを送ってきたことなんて今までにない。

 何かあっただろうか。

 恐る恐るメールを開いてみると、そこには信じ難い内容が記されていた。

  

 要約すると『家庭教師雇ったった☆しかも同じ学校のタメだお(^3^)実力は試験で毎回一位だから問題はないから安心してね(はぁと。負担かけるかもだけど、同じ男の子だからサポートしてあげるんやで(にっこり』とのこと。

 勿論実際の文面はこんなんではなく、もっとカッチカチである。

 というか、あの父親が崩したポップな文面のメールを送ってきたら新手のスパムと判断し即ゴミ箱に入れるだろう。

 

 てか、毎回一位のタメって……。

 

「どうかしたか?」

 

 あっ、そういうこと?

 

 

 




六海……たまには一人の時間がほしいと思うこの頃。

一花……休日はよく買い物に付き合ってもらう。文句を言いながらも毎回付き合ってくれるので、ついついからかってしまう。
二乃……料理の腕前が徐々に迫ってきたことに焦りを覚え、最近は更に凝った料理を練習している。
三玖……某歴史戦略ゲームの話で盛り上がる。六海がどちらかというと三国派なので、なんとか戦国派に取り込めないかと日々勧誘している。
四葉……中野家清掃隊の隊長と副隊長。どちらがどの役職かはお察し。メンバーは二人のみである。
五月……一人で外出させるのが心配のため、出来る限り着いていく。六海の用で出掛けたはずが、いつの間にか五月のお勧めのお店巡りになるのが毎度のお約束。
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