五等分の姉   作:プラム2

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5話

 

「もう、なんなのよせっかくの日曜日に」

「六海が何を言おうとも私はあの人の授業を受ける気はありませんから」

「まあまあ今日だけ今日だけ」

 

 本当に随分と嫌われたもんである。

 

 二乃に眠らされた上杉をタクシーにて自宅まで送った翌日。

 日曜日ということもあり俺を含め姉達も思うがままに休日を謳歌しようとしていたのだが、上杉から連絡が届いた。

 

 内容としては、全員を家に引き留めておいてくれというもの。

 

 俺としては参加したくない奴は参加しなくていいという考えだ。

 それに授業を受けさせるのも家庭教師の仕事だろうと思う。 

 しかし、俺は昨日上杉の自宅に行った際にある程度上杉家の事情を知ってしまった。

 

 どの家庭にもそれぞれの事情があり、勿論上杉だけでなく俺達姉弟にもそれぞれ事情がある。

 知ったところで、言葉を選ばないのであれば赤の他人が余所様の事情に首を突っ込む必要はない。

 

 ……ないのだが、それでも姉弟六人で俺一人ぐらいは協力的でもいいのではないかと思った。

 決して上杉の妹のらいはちゃん手製のカレーに手懐けられたわけではない。

 

「昨日の悪行は心優しい俺がギリギリ許すとしよう。今日はよく集まってくれた!」

「まぁ私たちの家ですし」

「まだ諦めてなかったんだ」

「友達と遊ぶ予定だったんだけどー?」

 

 散々な言われようである。

 上杉が投手ならこのヤジだけで降板しても可笑しくないと思う。

 

 きっちり俺に伝えた通りの時刻に家に到着した上杉は、昨日の重たい表情とは真逆に活気があるように見える。

 何か妙案でも思い付いたのだろうか。

 

「お前達は家庭教師はいらないと言った。だったらそれを証明してくれ」

 

 上杉が人数分の紙を取り出し、テーブルに広げる。

 他の四人は分からないだろうが、これは昨日俺と四葉が名前を書いた答案用紙と同じものだ。

 

「合格ラインを超えた奴には金輪際近づかないと約束しよう。勝手に卒業していってくれ」

 

 なるほど。

 どうやら六人全員見るのではなく、赤点候補のみ教える作戦か。

 雇用的にどうかと思うが、効率的にはいい判断だろう。

 相手が俺達姉弟以外の場合だが。

 

「あー……上杉。言ってなかったが俺達は「わかりました。受けましょう」……えー」

 

 テストしたところで無駄ということを伝えようとしたのだが、その前に五月が俺の言葉を遮る。

 一体どこにそんな自信があるのだろう。

 

「合格すればいいんです。それで彼の顔を見なくて済むのですから」

 

 眼鏡を付け、準備万端の五月。

 その姿はいかにも勉強の出来る秀才なのだが、それが見かけ倒しというのを上杉以外全員が知っている。 

 何度も言うが何で合格出来ると思っているのか。

 

「そういうことならやりますか」

「みんな!頑張ろ!」

 

 上杉の顔を見なくて済むのがそんなに魅力的なのか他の姉達まで乗り気になってしまった。

 こうなると俺一人がどうこう言ったところで無駄なのは自明の理。

 もう何も言うまい。

 ただ人生で一番無駄なテストになることは間違いない。

 

 尋ねたところ合格ラインは50点とのこと。

 つまり半分当たってさえいればいい。

 それでも見上げるのも億劫な程の高き壁であることには変わりない。

 

 時間にしておよそ30分。

 学校の試験と比べればやや短いが、まあ気にするほどではない。

 上杉が答案を回収して一枚。また一枚と採点していく。 

 その顔がどんどん険しくなっていくのは見違えではないだろう。

 

「採点終わったぞ。100点だ。ーー全員合わせてな!!」

 

 これは酷い。

 俺が言えたものではないが。

 

 一花10点の二乃18点。

 三玖30点の四葉6点。

 五月26点の俺が10点。

 

 うん、全員合わせて100点だ。

 平均点は16点あたりだろうか。

 

「おかしい……勉強したはずなのに……」

 

 五月が呆然として呟く。

 変に自信があったのはそのためだったようだが、一瞬で打ち砕かれたみたいだ。

 

 上杉の用意した試験は五教科それぞれから数問ずつ出題されたものだったため、苦手な教科だった等の言い訳は出来ない。

 急な試験に加えて元からやる気のなかったテストだ。

 結果に不満なんぞないが、姉弟全員が似たような点数なのは呆れを通り越して笑えてくる。

 

「お前ら……まさか……」

「「「「「「逃げろ!」」」」」」

 

 ようやく気付いた上杉。

 何か言われる前に俺達は自分の部屋に逃げ去っていく。

 俺と四葉は逃げ出す必要はなかったのだが、つい流れで一緒に動いてしまった。

 

 まあ、今日はテストもしたし充分だろ? 

 

 それに言ったじゃないか、上杉。

 落第しかけて転校してきたって。

 一人か二人だけかと思っていたとしら、それは俺達の学力を過大評価。馬鹿さを過小評価しすぎというものだ。

   

「六人揃って赤点候補かよ!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

「げぇっ」

「あっ、おはよフータロー」

「おはようございます!」

 

 翌日。 

 集団登校と見間違える中野家の通学。

 昨日の家庭教師の話なんてまるでなかったかのように呑気に話す姉達に適当に返事をしていると、校門近くで上杉と出くわした。

 

 それぞれが挨拶をする中、二乃だけが露骨に嫌な……いや、よく見たら五月も二乃と同じような表情を浮かべていた。 

 ただ女子的にも「げぇっ」はないだろ。

 

「お前ら一昨日はよくも逃げ……ああっ!また!よく見ろ!俺は手ぶらだ害はない!!」

 

 何も持っていないことを証明するために両手を広げる上杉。

 なんのアピールだよ。

 そう思ったが、いつの間にか俺以外が上杉からだいぶ距離を取っていたことに気づく。

 なんて危機察知能力の早い姉達だ。

 そして黙って弟を置き去りにするあたり流石である。

 

「騙されねーぞ」

「参考書とか隠してない?」

「油断させて勉強教えてくるかも」

 

 それもう妖怪じゃね? 

 勉強教え妖怪なんていればさぞかし子供にとって恐怖の対象だろう。

 

「私達の力不足は認めましょう。ですが、自分の問題は自分で解決します」

「勉強は一人でもできる」

「そうそう。要するに余計なお世話ってこと」

 

 五、三、二が合いの手すら許さない怒涛の勢いで突き放す。

 我が姉ながら一体どの口で一人でも勉強できるなんて言えるのだろうか。

 

「そ、そうか。じゃあ昨日のテストの復習は当然したよな!」

 

 …………誰も答えない。

 

「問一。厳島の戦いで毛利元就が破った武将を答えよ」

 

 ………………………誰も答えない。 

 唯一復習した可能性がある五月を見ると、唇を噛み締めプルプルと震えている。 

 多分大見得を切った直後に答えられないのが悔しいのだろう。

 これは答えられないな。

 

 続いて三玖を見る。

 うん、何を考えているかわからない。

 ただ元から武将好きの三玖だ。

 この問題の答えぐらい当然知っているだろうし、昨日のテストでも難なく正解していたはずだ。

 なのに無言ってことは、答えるつもりがないのだろう。 

 はあ、時間もないし仕方ないか。

 

「陶晴賢だろ」

「せ、正解だ!」

「突っ立てるとここにきて遅刻するぜ?上杉も言いたいことはあるだろうけど、休み時間にしてくれ」

「あ、ああ」

 

 俺が答えた隙に他の五人はさっさと歩き出す。

 同じクラスである五月までも。

 人格を嫌っている二乃と五月はともかく、一花や三玖に四葉までもこの態度となると余程勉強が嫌なのだろう。 

 ……いや、四葉だけは他に合わせてるだけか。

 少なくとも四葉個人としては家庭教師には乗り気だったし。

 

 そのまま上杉と教室に向かう。

 その顔は既に疲れきっている。

 これはもう数日もたないんじゃないか。

 

「お前と……後、四葉もか。二人だけとはいえ全員じゃない限りマシと思うしかない。それにお前はしっかり復習してくれていたみたいだしな」 

「復習?あー……そうな。まあ、大事だよな」

「……?ただ昨日のテストで思ったが解答欄を白紙ってのはやめた方がいい。わからなくても何か書いとけば正解する可能性もなくは」

「わかったわかったっての。朝から耳が痛くなる話題はやめてくれ」

 

 矛先を俺一人に変えてきた上杉を適当に流し、どうしたものかと考える。

 家庭教師に反対なのが多数派である以上、少数派の俺と四葉が何を言ったって呑み込まれてしまう。

 方法としては簡単だ。

 俺達が多数派になればいい。

 ただ言うは易し行うは難しという言葉があるよう、姉達を説得するには生半可なものでは無理だ。

 果たして上杉にそれが出来るかどうか。

 

「……で、他の姉様方は?」

「あ、あはは。一花と二乃は今日はクラスの子と食べるって。三玖はあそこで、ほら」

 

 本日も食堂に来たのだが、集まったのは俺と四葉のみ。

 四葉の示した先を見ると、そこにはトレイを持ったまま話す三玖と上杉。

 察するに上杉も俺と同じ考えに至ったのか、一人一人説得する方向にしたようだ。

 

「そういえば五月は?」

「五月は上杉がいるなら行きたくないって今日は購買に向かった」

「……ほんとうに何でそんな嫌いになっちゃたんだろうね」

 

 俺が聞きたい。

 

 しかし、説得相手を三玖からにしたのはいい判断だ。

 一花はあの通り一筋縄でいかない上に無理矢理参加させたところで眠るなり手を抜くなりするだろう。

 二乃は正直一番難しい気がする。 

 ただ二乃以外の全員が上杉の授業に参加するようになれば寂しがって参加する可能性がなくはない。 多分。

 五月は相手が悪かったとしか言えない。

 で、三玖なら……三玖ならなんだろ。

 いい判断とは言ったが三玖の攻略方法が思い付かない。

 他の攻略難易度があまりにも高すぎるせいでマシに思えただけかもしれない。

 

「上杉さん、あんな必死に家庭教師するなんて何か事情があるのかな」

 

 妙なところで鋭い姉である。

 脳裏に上杉家の貧しいながらも暖かみのあった家庭の姿が甦る。

 

「ねえ六海、上杉さんに協力しようよ」

「協力って……俺らはもう協力的だろ?」

 

 教わる立場の者が協力的というのもおかしな話だが。

 

「そうじゃなくて。私たちもみんなに上杉さんの授業受けてもらうように説得しようってこと」

「俺的には受けたくないなら受けなくても…」

「私もそうだけど、それでも勉強するなら全員がいいよ。六人揃った方が絶対楽しいし!」

 

 真っ直ぐな四葉の言葉。 

 そのあまりの真っ直ぐっぷりに思わず戸惑ってしまう。

 

「そりゃあ……いや、そうだけど。説得ったって俺が何言ってもあの姉達は聞いちゃくれないだろ」

「聞くよ」

「なんでんなことわかるんだよ」

「だって私もお姉ちゃんだもん」

 

 理由を聞いたのにまるで根拠のない答えが返ってきた。

 ただ、四葉の言葉は時折核心を突いたように心に届くことがある。

 今回もそうだ。

 

「……しゃあねな。頑固な姉達のために一肌脱ぐとしますか」 

「うん!」

 

 そうと決まれば早速上杉を援護するかと見ると、何故か困惑している上杉にこちらも何故か顔を赤らめている三玖。

 ……一体何の説得をしてるんだあの男は。

 

 こっちまで困惑していると急に無表情に戻った三玖が上杉を置いてこちらに来る。

 置いていかれた上杉は「あっ」と手を伸ばすが、その手は空を掴むことしか出来ない。

 そしてそのまま肩を落とす。

 

「み、三玖。上杉さんはいいの?」

「うん」

 

 いや、うんってお姉様。 

 どうするべきか分からない俺達を余所に何事もなかったかのように席に座り、食事を始める。

 相変わらずその趣味の悪い飲み物はなんだと突っ込みたいが、今はそこじゃない。

 上杉と一体何の話をしていたのか聞こうとするがーー

 

「ねえ六海」

「あん?」

「六海の水に鼻水入れていい?」

「いいわけねーだろ!?なんで唐突に三成!?あっ、いや、この場合は吉継か?」

「ふふっ。ーーうん、やっぱり好きな話なら六海と出来るもんね」

「はい?」

 

 意味の分からない一方的なやり取りに何故か満足気の三玖。

 

 ……えーっと、もしかして俺なんかやっちゃいました?

 

 

 

 

 




フラグ(姉の)折っていくスタイル
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