五等分の姉   作:プラム2

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7話

 

 

 

 きっかけは上杉の何気ない一言であった。

 

「しかし……相変わらずお前らの見分けがつかねえな」

 

 その言葉を聞いた俺は今更ながら、これは後々の事も考えて不便なのではと思った。

 だからこそ上杉にこんな提案をした。

「簡単に見分けるコツを教えようか」と。

 

 んなわけで。

 

「うーん!お腹がすきましたー!」

「五月か?」

「おっ、やりますね上杉さん!流石です!」

「よ、四葉!」

「ていうかアンタなに当たり前の様に人ん家に居座ってんのよ。出ていきなさいよ」

「二乃だーー!」

「ーーって、こんな感じで俺達は顔は一緒でも性格は全然違うのは知っての通りだ」

「……なんていうか、すげえな」 

 

 急遽開催された中野家六つ子講座。

 声だけを聞くとあたかも姉達もいるように聞こえるだろうが、居間にいるのは俺と上杉のみ。

 今は変装せずにただただ口調を真似ただけだが、出会いから短い間で上杉も俺達それぞれの性格は把握し始めているようだ。

 

「まあ、この辺は今みたいに喋ればわかる。ただ上杉としては見た目から判別したいわけだろ?」

「あ、ああ」

 

 俺は上杉の前に姉一人一人の変装道具を広げる。

 ここに用意したのは小道具だけだが、部屋にはそれぞれのウィッグ等もある。

 

「なら一番簡単なのは身に付けてるもので判断しろ。三玖ならヘッドホン。二乃や四葉ならリボンっていった感じにな」

「お、おお。なるほど」

 

 一花に関してはつい先日までならピアスの有無というのがあったのだが、俺も開けてしまったからな。

 髪型に関しては今のところ二つに分けるならショート派とロング派。

 俺と一花に四葉がショート派。

 二乃、三玖、五月がロング派といったところだ。

 中でも俺と一花は髪の長さだけでなくピアスまでも見た目の特徴が被ってしまっている。

 以前は今以上に間違われることがあったのだが、俺がパーマをするようになってからは心なしか間違われる数も減った気がする。

 髪型以外にもそれぞれの好きな色が見た目に現れていたり、細々な違いがあったりする。

 ただ俺に関しては性別という大きな壁がある……はずだ。

 

 

 と、こんな感じで上杉に俺達を見分けるコツをレクチャーしていく。

 勉強の出来る上杉ならコツさえ教えれば俺達を難なく見分けられるようになるのも時間の問題ではないだろうか。

 流石に誰かが変装した姿を見抜くのは難しいだろうけど。

 もしそれが出来るのなら上杉には中野家六つ子検定一級を進呈しよう。

 

 しかし、家庭教師の上杉に俺が教えるというのは何ともおかしな話である。

 勉強と一緒で一気に詰め込むのは逆効果だろうし、今日はここまでにしておくか。

 そう思ったところで上杉の口が開かれた。

 

「で、六海の見分け方は?」

「え?」

「だから見分け方だ。お前の見分け方だけまだ教えてもらってないぞ」

「…………そっかー……そうだよなあ。俺も見分けがつかないよなあ……」

 

 どうやら上杉の前には壁なんてなかったようだ。

 同じ顔である以上仕方ないことではあるのだが、上杉からしたら俺も見分けがつかないらしい。

 俺の見分けがつかないなんて今まで当たり前のことで何一つ気にする必要はないのだが、何故か普段よりダメージを受けている気がする。

 

「……学校にいる時に関しては制服があるだろ。ズボンなら俺だ」

「その手があったか!」

 

 話していてわかったが、上杉は確かに頭はいいが色々と残念な気がする。

 というか他人に興味が無さすぎる。

 

「ちなみに参考までに聞きたいんだが、お前ら姉弟はどうやって見分けてんだ?」

「どうやるも何も……顔を見ればわかるというか」

 

 言葉にしようとすると中々説明しづらい。

 それこそ見ただけで分かるものだから今まで意識して考えたことはなかった。

 俺が何と説明するべきか悩んでいると、ふと頭に懐かしい声が流れた。

 俺はその言葉を繰り返すように呟く。

 

「愛、かな」

「は?」

「……い、いや!違う!忘れてくれ!テキトーに言っただけだから!」

 

 無意識に凄まじく恥ずかしい事を言ってしまった。

 慌てて撤回しようとするが、上杉の耳にしっかり届いてしまったようだ。

 

「くっくっく……愛か。なんだ、お前もそう言うロマンチックな事を言うんだな」

「忘れろー!」

「……何男同士でイチャイチャしてんのよ」

 

 俺が上杉の肩を揺すっていると二乃と三玖、五月が居間にやってきた。

 三玖と五月の手元を見ると勉強道具があるのだが、隣の二乃は……うん。どう見ても外出用の格好をしている。

 

「いらっしゃい、フータロー」

「あ、ああ。お前らだけか?後の二人は……」

「一花なら外せない予定があるとか。四葉は運動部の助っ人」

「あいつら……」

 

 肩を下ろす上杉。

 言っちゃなんだが実に見慣れた光景である。 

 上杉が落ち込んでいる隙に無言で今から出ていく二乃。

 引き止める事も出来たが、約束は前回限りだったので引き止めたところで無駄だろう。

 それに今は五月が心底嫌そうながら参加してくれることだけでも充分だろう。

 

「ありがとな五月。まだ上杉の事認めてないだろうに」

「…………」

「……ありがと、五月姉」

「いいんですよ!六海のお願いですからね!」

 

 こないだの件で味を占めたのか、俺が普通に呼んでも反応しなくなりやがった。

 一体何でそんなに姉と呼ばれたいのかイマイチ理解出来ない。

 

「………」

「……まさか三玖もそう呼ばれたいわけじゃないよな?」

「別に」

 

 上杉には聞こえていなかったようだが、近くにいた三玖には聞かれてしまったようだ。

 何故か相変わらずの無表情ながら何か言いたげな目でこちらを見ていたので聞いてみたのだが、相変わらず読めない姉である。

 

「……ヨーシ、ソレジャアハジメルゾー」

「上杉それデジャヴ」

 

 遠い目をし始めた上杉の頭を叩き正気に戻す。

 家庭教師に来て生徒が全然いなくて現実逃避ってのが最近のお約束になってきてないかこれ。 

 それに半分いるだけでも大分進展したのではないだろうか。

 

 世間話はさておき。

 とりあえず集まった奴らだけでも授業をしようということになり、上杉の授業が始まった。

 

「三玖。そこはさっきの数式を使うんだ」

「わかった」

「六海……問題文の()の間に記号入れて顔文字を作ってどうすんだ…!」

「いや、眠気を覚まそうと」

「なんでお前は勉強に関してだけ頭がおかしいんだ!?」

 

 言い過ぎだろ。

 

 にしても俺は既に数回上杉の授業を受けているが、なんだろう。

 俺が言う立場ではないのは重々承知なのだが、良い選手が良い監督になれるわけではないといった良い例ではないだろうか。

 上杉と姉達の学力の差がありすぎるためだろう。上杉的に何が何故わからないのか理解出来ない故に上手く教えられないし、こちらは上杉の説明事態に知識が足りなさすぎて理解出来ないでいる。

 三玖の社会、特に歴史といったそれぞれの得意科目でぎりぎり理解が追い付くレベルだ。

 

 それでもあまりに遅く小さいながらも確実に一歩ずつ進んでいる。

 一部を除いて。

 

「……なあ、五月。今のお前は授業受けてるんじゃなくて授業受けてる奴の隣にいるだけの奴だからね?もうそれただの授業参観みたいなもんだからね?」

「い、いいんです!彼に教わる事なんて何もないんですから!」

「何もないどころか何もかも教えてもらわねーと駄目な学力で何言ってんだ」

「うわーん!六海が苛めます!」

「わっ」

「勉強しろっ!!」

 

 との感じで今日も順調に授業は続いていった。

 上杉的には納得がいかないようだったが、他が完全にお開きモードになっているので今更どうしようもないだろう。

 

 適当に各自の飲み物等を用意し、再び世間話が始まる。

 

「そういや上杉。お前とらいはちゃんは次の日曜日はどうすんだ?」

「日曜?何かあったか?家庭教師は休みだったはずだが」

「マジかお前」

 

 日曜日は地元でも有名な花火大会があり、姉達なんて既にそれぞれの浴衣を用意しているくらい楽しみにしているイベントだ。

 加えてその花火大会は毎年姉弟全員で見ている俺達にとって欠かせないイベントである。

 

「というわけで、らいはちゃんを連れてお前も来い」

「何がというわけなんだ」

「ちなみにらいはちゃんには連絡済み」

「何故知ってる!?」

 

 上杉を自宅まで送った日に晩飯をご馳走になった時に連絡先は交換している。

 愛想のない兄と違って妹のらいはちゃんは天使の様な可愛らしさ。

 小学生でありながら上杉家の家事を担っていると聞いた時は健気すぎて泣きそうになった。 

 小学生は最高だぜと誰かが言っていたが、間違いではないかもしれない。

 

「あぁん?普段頑張ってる妹を兄として労ってやるぐらい出来ねえのか?なあ、おい上杉くんよお!」

「色々とキャラが崩壊してるぞ!?」

「……六海の知らなかった面を見ている気がする」

「む、六海が女の子と連絡……!?」

 

 姉しかいない俺にとって妹という存在は他人のであっても輝いて見えた。

 らいはちゃんの可愛さを姉達に説明するのだが、反応が芳しくない。

 解せぬ。

 というか五月は何に衝撃を受けてんだ。

 俺が何か突っ込む前に「ハッ」と何か思い付いたらしい五月は携帯を取り出し、素早く操作していく。

 その操作が終わった途端、俺の携帯に連絡の通知が届いた。

 なんとなく展開が読めているのだが、一応確認してみると個人RINEに五月からメッセージ。

 何故かスタンプのみ。

 

 五月の方を見ると期待した眼差しを俺に向けている。

 既読スルー。

 聞こえるはずのない「ガーン!!」という擬音が聞こえた気がする。

 

「六海が何処の馬の骨とも分からない女の子に取られてしまいました……」

「小学生相手に何言ってんだこの姉は」

「というか人の妹を馬の骨呼ばわりしたぞコイツ……!」

 

 見るからに落ち込んでしまった五月。

 どごぞのスカイウォーカーさんすらドン引くレベルで暗黒面に堕ちてる。

 三玖からの視線が痛い。

 流石に勉強の時から素っ気なくし過ぎたかと思い、仕方ないが慰めるとする。

 

「……前々から思ってたんだが、お前ら姉弟の中で五月だけが異常に六海の事好きじゃないか」

「五月からしたら他は姉だけど六海だけが弟だから。それにーー」

「それに?」

「ーーううん。何でもない」

「おーい、五月。悪かったって。機嫌直してくれって」

「つーん」

「今度一緒に食べ歩き付き合うからさ」

「本当ですか!……ハッ。だ、駄目です。それに最近私の事食べ物で釣れば何とかなると思って「五月姉」仕方ないですね!本当に六海はお姉ちゃんっ子なんですから!」

「……ああ、うん。面倒だからもうそれでいいよ」

 

 

 そんなわけで日曜日の花火大会には中野家上杉家合同で参加することとなった。

 

 

 




六海……中学時代自分も何か見分けるためのアイテムが欲しいと思い、一時期チュッパ○ャプスを常に舐めていたことがある。黒歴史。包装を見ただけで即座に味を答えられるという披露する機会のない特技を持つ。

一花……男の子はそんなもんだよねーと理解を示していた。最近は六海との共通点が増えてご機嫌。次の買い物が楽しみ。
二乃……チュッ○チャプスを見かけるたびに六海の黒歴史を抉る。「ねえ、ほら。あんたの好きなのあるわよ。もう授業中に舐めだして怒られるんじゃないわよ」と。六海のピアスを羨ましげに見つめるが相変わらず踏ん切りがつかない。
三玖……触れないのが一番と当時から何も言わなかった。姉の鏡。
四葉……「最近見かけなくなったけどこれ好きだったよね!」と定期的に黒歴史を思い出させてくる。二乃と違い悪意がないのだが、その分余計に質が悪い。
五月……かつて「それなんの味ですか?」と六海が舐めている飴を要求され、冗談抜きでドン引きされた。姉弟なのに何故と本人は納得してない。
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