「風太郎くーん!」
時はあっという間で、花火大会当日。
俺は午前の内に上杉家へと足を運んでいた。
インターホンを鳴らしても良かったのだが、友達の家に遊びに行くというのは密かに憧れていたので、前々からやってみたかった呼び方をしている。
周囲の家の迷惑にならないぐらいの声でやっているのだが、どうやら聞こえていないらしい。
もしくは無視してるか。
だが、そんなので諦める俺ではなかった。
「上杉ぃー!フータロー!うっえすっぎさぁーん!上杉君?遊ぼーよー」
「やかましい!!あと呼び方は統一しろ!」
なんとなく姉の上杉の呼称を順番に言ってみたんだが、なんだかこのまま歌いたくなるぐらいしっくり来た。
その後はなんか喜びも悲しみさえも五等分出来そうな気がする。
俺たちは六つ子なのに何故五等分と思ったかは気にしない。
「……こんな朝っぱらから何しに来たんだ」
「立ち話もなんだし中に入ろーぜ」
「最近やたら図々しくなったなお前…」
それはお互い様と突っ込みつつ家の中に入れてもらう。
中にいたらいはちゃんに挨拶をした後、そのまま居間に案内された。
時間も惜しいのでさっさと本題に入る。
「ほい、これ。親父殿から預かった給料。一応確認しといてくれ」
封筒をそのまま上杉に渡す。
少なくとも高校生が手にするには破格の金額に、中身を確認した上杉の手が震える。
「ちなみ言いたいことがあれば俺じゃなくダディに言ってくれな」
「お兄ちゃん、すごい頑張ったんだね」
「だが、しかしこれは……」
「で、話はもう一つ」
何か言いたげな様子ではあったが、恐らくその言いたい事は俺に言われても困ることなので無視して続ける。
「上杉にらいはちゃん。今からウチに来てくれ」
「……は?」
「えっ、いいのー!?」
リアクションがまるで違う上杉兄妹。
まるで可愛げのない上杉に相変わらず天使と見間違える可愛さのリアクション。
ああ、どうして兄妹でこんなにも違うものか。
俺が言える立場ではないが、上杉も少しはらいはちゃんの様に可愛げがあれば……うん。考えてみたが上杉に可愛げはいらなかったわ。
「花火は夜からだろ。準備にしては少し早くないか」
「ところで上杉。宿題も終わらせずに遊びに行こうとする奴等ってどう思う?」
「そりゃあ言語道断……って、まさか」
「俺以外終わらせてない」
「あいつら……」
どうやら呆れて言葉が出ないらしい。
姉達が自主的に宿題を終わらせると思っていたのだろうか。
そうなら、まだまだ俺達への理解が浅いとしか言えない。
「上杉が協力してくれれば昼過ぎ頃には終わるだろ。臨時の家庭教師ってことで頼む」
「……まあ、そういう話なら構わないが、別にらいはは」
「は?なにお前。可愛い妹が花火大会に行くんだよ?ならやらなきゃいけないことがあるだろーが!!」
「そろそろお前が危険に思えてきた」
解せぬ。
だが、これだけは譲れない。
「らいはちゃん、浴衣選びに行こう!」
意気揚々と俺は言った。
何故か上杉は浮かない顔をしていたが、らいはちゃんの目が輝いたのでよしとする。
ともかく、無理矢理に上杉を納得させ、らいはちゃん共々家まで連行。
初めて俺達の住むマンションを見たらいはちゃんは「はー!」と感嘆の声を漏らしていたのが大変可愛かったですまる
「この子が噂の上杉さんの妹さんですか!あーん、可愛いです!」
「だろ!」
「なんで六海が肯定してんだ」
前日に勝手に家から出歩かない様に言っておいたおかげで家には全員揃っていた。
なので改めて簡単に自己紹介をしたところ、姉達は上杉の妹の可愛さに。らいはちゃんは本当に俺達が六つ子であることに驚いていた。
「んー私の妹にしたいです……はっ。待ってくださいよ。六海とらいはちゃんが結婚すれば合法的に義妹に」
「四葉、何寝ぼけた事を言っているんですか?」
「い、五月!?あ、あはは、冗談、冗談だから!ね?」
「笑えない冗談は好きじゃありません」
「怖いよ!?」
姉達もらいはちゃんも互いに好印象の様でなによりである。
と、話している間に時間は刻一刻と過ぎていくので行動に移る。
「よし、じゃあ俺はらいはちゃんと店に行ってくるから皆は上杉と宿題を終わらせてくれ」
「待ってください。私もいきます」
「……五月。そういう事は宿題を終わらせてから「終わってます」ーーえっ」
「「「「「えっ」」」」」
「な、なんですか全員でそんな顔して!私が宿題を終わらせてるのがそんなにおかしいんですか!?」
ほら、とノートやプリントを見せ付ける五月。
確認すると空白はないし、きちんと終わらせているのが分かる。
正解率は無視するが。
「確かにらいはちゃんの浴衣選ぶのに姉一人欲しかったけど……ほんとよく終わらせたな」
「愛の力です!」
ふんす、と拳を握る五月。
相変わらず滅茶苦茶な理由である。
むしろ愛の力でどうにかなるなら普段から使って欲しい。
「ええ。いくら年下とはいえ知り合って間もない女の子と六海を二人きりになんてさせられません」
「小学生相手に何を言ってんだ」
とはいえ姉一人でも着いてきてくれるのは本当にありがたい。
理想を言えば一花か二乃が良かったのだが、贅沢は言ってられない。
俺と五月はらいはちゃんを連れて、お店へ向かうことにした。
「というわけで来たぜ花火大会!」
女の子の買い物は長引くというのが姉達から得た俺の経験なのだが、らいはちゃんはある程度店内を見て回った後「これにする!」と即決。
姉達にも見習ってほしいほどであった。
宿題を終わらせるはずの姉達との合流までだいぶ時間が余ったので他の店を回ったりゲーセンでプリクラを撮る等、楽しい時間を過ごせた。
一番楽しんでたのは五月の様だった気が、姉の尊厳の為にも黙っておく。
「……俺のは別にいらなかったんだが」
俺と上杉はちゃっちゃっと浴衣に着替え、女性陣を待つ。
隣で待つ上杉は着なれない浴衣のせいか居心地悪そうな顔をしている。
本人は否定的だが、ちゃっかり渡した浴衣を着こなしている流石である。
男子二人で他愛ない雑談を繰り広げていると、色鮮やかな浴衣に身を包んだ女性陣がようやく現れた。
「「「「「おまたせー」」」」」
おおっ、と思わず声が漏れた。
「一花はいつも以上に大人っぽいな!三玖は浴衣とヘッドホンのミスマッチ感がたまらない!四葉の色も華やかで似合ってるし、五月もその髪型は俺好きだわ!二乃はーーーーすまん。そのセンスは俺にはよく分からん」
「アンタ、私をオチに使ったわね」
可愛いじゃない!と一人褒められなかったのが余程気に食わなかったかのか、頬を膨らませツーンとする二乃。
俺だって出来るならそうしたいが、流石にウサギを複数飼ってるような浴衣をどう褒めていいのかなんてわからない。
ウサギはカワイイトオモイマス。
「それじゃあ確認なー花火は19時からだからそれまでは各自自由行動。10分前にはRINEに送った場所に集合するように。緊急時は俺に連絡してくれ」
「「「「「「はーい」」」」」」
全員に連絡事項を伝えたところで、俺は時計を確認する。
時刻は17時を少し回ったところ。
屋台を見て回るには充分だろう。
「よし、五月!先ずは片っ端から食べ尽くしていこうぜ。らいはちゃん、俺が美味しいもの沢山食べさせてやるからな」
「はいっ!あっ、六海。早速あれ食べましょう!」
「わーい!」
「待って私も行くー!」
俺、四葉、五月、らいはちゃんと食べ歩きチームを結成し、屋台に突撃する。
去年とは人数も、俺達の環境も変わったが、大切ところは変わらなかった。
今日はとても楽しくなりそうだ。
「……なあ。今日、アイツやたらテンション高くないか」
「あはは。六海は私達の中で一番イベント好きだからね。今日も前からずっと楽しみにしてたし」
「ふーん、意外だな」
「そんなことないわよ」
「そうか?ただ花火なんて毎年見れるだろうに」
「花火はお母さんとの思い出なんだ。六海にとっては特にね」
「特にって」
「ーーほら私達も行こ、フータロー」
「あ、ああ」
◆◆◆
「よし、全員いるな」
屋台を楽しんだ後、俺達は予定通り予約して貸し切ったお店の屋上に来ていた。
「危うく人混みに流されるところでした……」
「いやー先に集合場所教えてくれてて助かったよー」
各々がそれぞれ好き勝手行動した結果、結成したチームもすぐ解散したり、また別チームが結成されたりと慌ただしかったが、なんとか全員花火までに再会することが出来た。
「パピーと江端さんも来れたらよかったのにな。どうしても仕事で抜けられないらしい」
「えっ、あんたパパ達も誘ってたの?」
「家族だからな」
「いや、まあ、そりゃあそうだけど」
花火が上がるまであと僅か。
直前になると、ふと昔を思い出す。
幼い頃。まだ姉達の見た目が今まで以上にそっくりだった頃。
姉達の奔放っぷりに付いていけずいつも置いてきぼりだった俺の手を握っていてくれた温もりがあった頃。
いつまでだっただろう。六人で見る花火が寂しかったのは。
いつからだろう。六人で見る花火が寂しくなくなったのは。
いつか、六人揃って見ることすら叶わなくなってしまうのだろうか。
それぞれの人生を歩み出した後も俺達は共にいれるだろうか。
そして、俺はそれを受け入れることが出来るだろうか。
柄にもなくそんなことを考えてしまう。
忘れよう。
そうなったとしても、それはきっとまだ先の話だ。
それに今日は楽しい一日にしなければならないのだ。
「そろそろか」
下から聞こえる花火を待つ人達の喧騒をBGMに、皆の様子を確認する。
俺と同じく余程可愛いのか屋台を回っている時からずっと一緒に仲良さげに話す四葉とらいはちゃん。
終わらないモグモグタイムを繰り広げる五月に、それを茶化す二乃。
そして心なしか普段より距離の近い三玖と上杉。
この二人、もしかして祭りの間に何か進展でもあったのだろうか。
二人の仲がこのまま進展していけば、冗談でもなくもしかするかもしれない。
一花はーーーー屋上の隅で一人携帯を操作している。こんな大事な時まで一体何をしているのだろうか。
花火が打ち上がった瞬間に携帯を見ていたなんてことになったら台無しなので、俺は隅にいる一花に近づき、声をかける。
「どーした一花。男から連絡でも来たか」
「えっ、あっ、六海。な、なんでもないよ?」
冗談で言ったのだが、何故か珍しく動揺する一花。
なに?俺の知らないところで三玖だけでなく一花にも春が来たの?
「もうっ。本当に違うから!」
「ふぅん。まあ、いいけど、そろそろ花火が上がるんだから携帯ばっか見てんなよ」
いくら姉弟といえ詮索し過ぎはよくないので、俺はそれだけ告げて戻ろうとする。
その俺を一花が止めた。
「ねえ」
「ん?」
「私、ちょっと抜けていいかな」
「…………は?」
思いもよらない言葉に俺は一瞬固まってしまう。
何を言っているのか理解する前に一花が話を続ける。
「ほら。祭りは姉弟全員で回れたし、今回は風太郎くん達もいるわけだしさ」
「ーー何言ってんだよ」
「私が仕事してるって言ったよね?その関係で今連絡があって、それにどうしても行かないとダメなんだ」
いつになく真面目な顔で話す一花。
その顔から冗談ではないということが分かる。
そっか。なら仕方ないな。
頭にはそんな言葉が浮かんできた。
なんてことはない。
先程考えていたことが今日になっただけだ。
一花には一花の付き合いがあるし、俺達は姉弟の中だけで関係が出来上がっている傾向があるから、それ以外にも目を向けるべきだ。
「ね?だから悪いけどーー」
だが、その想いとは裏腹に、出てきた言葉はまるで逆のものだった。
「駄目だっ!!」
ーー夜空に光が散った。
六海……姉弟で一番のイベント好き。部屋のカレンダーには大分前から花丸が付けられている。ちなみに浴衣は男女兼用と間違った知識を植え付けられ、何も疑うことなく女性用の浴衣を着ていた。いつ頃まで?察してください。
一花……姉弟揃ってのイベントが近づくと部屋を汚していても「仕方ないな」の一言で済む。それを見て「もうそんな時期かー」と季節を感じる。
二乃……祭りの近い時期に料理を任せると焼きそばやらたこ焼き、じゃがバタ等のメニューを作るので六海にキッチンには立たせない。でも味は上手い。悔しい。
三玖……この時期の六海はテンションが高く、懐かしく思う反面少し鬱陶しい。
四葉……普段色々とサポートに回っている六海がはしゃいでいる姿が見れて嬉しい。中野家イベント盛り上げ隊副隊長。ちなみに隊は隊長との2名のみ。
五月……この時期は五月が誘う前に六海から色々誘ってくれる。しかも無意識に「五月姉」と呼んでくれる時がありご満悦である。