犬吠埼樹(憑依)は勇者である   作:夏目ユウリ

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大赦に勤めている人間でなおかつ娘が二人揃って勇者に選ばれるなんて絶対組織とか神樹様に対する忠誠心強いと思いません?(友奈ちゃんは……ほら…あの子は例外の中の例外ですしね)


とにかく何においてもその二つが絶対的で一種の盲目的な状態にさえなっちゃうもんじゃないかなぁと思って今回の話書いてます。

普通の親ならそんなことする?みたいなことでも喜んでしちゃうんじゃないかなぁーって。


鷲尾須美の章
崩壊の序章


犬吠埼樹として生き始めてから4回目の春を迎えようという時。

 

あるいは今年お姉ちゃんに送るプレゼントを密かに考えているころ

 

それは前触れもなくやってきた。

 

学校の終業式を迎え家に帰ってきた俺を待っていたのはお姉ちゃんではなく両親であった。

 

平日のそれも昼間にどうして仕事で忙しいはずの両親がいるのか、そんな疑問は神妙な顔つきだがどこか嬉しそうな両親の次なる言葉で消え去った。

 

『樹、あなたは選ばれたのよ』

 

『あぁ、とても光栄なことだ』

 

開口一番二人が何を言っているのか全く分からずただ呆然としていた。

 

選ばれた?光栄?

 

意味がわからず俺はすぐに聞き返した。

 

『ま、待って…なんの話してるの?』

 

当然の疑問だ。なにせ両親の言葉には主語がない。ただ表情を変えることがほとんどないお父さんの顔つきが普段と違うのは妙な不安を感じて仕方がなかった。

 

俺の疑問に両親はすぐに答えた。

 

『あなたは上里様のところにお声掛け頂いたのよ』

 

お母さんは若干興奮気味に続ける。

 

『本当にすごいことだわ。よりにもよってあの上里様に』

 

お父さんは紙面を合わせるように屈んで俺の肩を強く握った。

 

こんなにも表情を変えるお父さんを見たのは初めてで俺は思わずビクッとした。

 

握られた肩が痛くて『痛い』と言ったその主張を無視してお父さんは言った。

 

『いいか樹。お前はまだ子供だから詳しいことは知らないだろう。でもそれでいいんだ。とにかくとても光栄で名誉あることなんだぞ』

 

『お母さんとお父さんのこ務めている『大赦』の最高権力を持つ名家なのよ』

 

興奮を高めながら俺のこともそっちのけですごいことだ、光栄だ、名誉だ、ありがたいことだ、と言い続ける両親に俺は先ほどまで抱いていた不安にプラスして恐怖を覚え始めた。

 

二人の言っていることがわからなくて、どうしたらいいのかわからなくて怖かった。

 

『わかんないよ……二人が何言ってるかわかんないよ…』

 

二人は突然どうしてしまったのだろうか、そう思った。いつも通り学校に行ってつまらない学校生活を送ってようやく春休みというタイミング。

 

本当にいつも通りの日常を送っていただけのはずなのにこの二人だけはまるで非日常の中にいるみたいだった。

 

両親は『なぜわからないのか』とでも言いたげに、聞き分けがない子供に諭すように言葉を俺に投げかける。

 

『今朝上里様の方から連絡があったんだ。そちらのご息女の樹さんを養女として引き取りたいとな』

 

「お父さんとお母さんも突然のことでとても驚いたわ。でもあの上里家ですもの。間違いはないわ』

 

 

 

お父さんのその言葉の意味を俺はしばらく頭の中で反復していた。

 

上里家。養女。引き取りたい。

 

(樹…………樹は俺の名前だ。三年前のこの時期から俺がずっとなのってきた俺の名前で…………大好きなお姉ちゃんがいつも笑顔で呼んでくれる名前で…………)

 

その俺を………引き取りたい……

 

そんな難しい話をされているわけではない。でもそれがあまりにも唐突すぎて、意味がわからなくて、おもわずなんどもなんどもなんども反復する。

 

でも解決も納得も何もない。本当に訳がわからないから。

 

そんな俺を見かねてなのか、両親は互いに顔を見合わせて意図的–––––かどうかはわからないが俺を応援するような言葉を放ってきた。

 

『樹が困惑するのはわかるわ。突然のことだものね。でも心配しないでいいのよ?』

 

『あぁきっと今よりもずっと有意義で人に褒められることなんだぞ。生活だって今の何倍良くなるしお前を不自由におもわせることはあるまい』

 

『ご先祖様もきっとお喜びになっているわ。何代にもわたって『大赦』に務めてきてついにその努力が認められたのだから』

 

『神樹様に我々の功績が認められたに違いない』

 

『そうよ。これも神樹様のお導きだわ』

 

 

そう言って二人は手を合わせて祈りを捧げるように地に頭を付けだした。

 

『感謝いたします!!』

 

『誠に感謝いたします神樹様ぁ!!』

 

特別好きって訳でもない。でも二人とも優しくていい人だとは思っていた。

 

少なくともこんな風に取り乱すような人たちではないと思っていた。

 

神樹様を祀っている大赦に二人が所属してあることは知っていたし、この世界で生きているものは皆等しく神樹様について小さな頃から教わるから俺だって人並みには神樹様についてだって知っている。

 

朝のホームルームの時や集会の時給食の時には祈りを捧げてもいる。

 

礼の気持ちが全くないわけではない。でも前から、そして未だに現実味がない話だと思っていて宗教みたいだなぁぐらいにしか考えていなかった。

 

でも両親は今こうして手を合わせて地に頭を付け大声で感謝を伝えている。

 

当の本人が何も言えずにいるのも知らずに二人だけで興奮しきっている。

 

それが常識なのか、大赦に所属する二人だからこそなのか、それとも俺がこの世界で生きている年数が少ないからなのか。

 

それはわからない。もしかしたら自分の反応がおかしいだけで学校の先生やクラスメイトたち、地域の商店街の人たちもこれはとても光栄で名誉あることだと言うのかもしれない。

 

ただ俺がおかしいだけで、俺が変なだけで、俺が歪なだけで。

 

 

 

 

『風もとても喜ぶだろう』

 

『ええ本当に。妹が立派になったと喜ぶでしょうね』

 

 

 

喜ぶ……

 

 

お姉ちゃんが……

 

 

俺は今こんなにもたまらなく不安でいっぱいなのに。

 

 

それでもお姉ちゃんは

 

 

いつものように眩しい笑顔で喜ぶのだろうか。

 

 

『すごいことよ樹!おめでとう!!』

 

 

 

(お姉ちゃんに褒められるんだから……嬉しいことなのかな)

 

 

俺はそんな風に思うことでしかこの場で自分を納得させられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな…ふざけないでよっ!!」

 

「何度言わすの風!これはとてもありがたいとことなのよ!」

 

「意味わかんないもん!なんで…なんで樹が…!」

 

「風。お前なら樹よりも良くわかるだろう?これがどれだけすごいことなのか」

 

「知らない知らないっ!!そんなの知らないっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

リビングの方からこうして言い合いをしているのが聞こえてくる。

 

お姉ちゃんはあの後程なくして帰ってきた。その頃には両親も少し落ち着きを取り戻しお姉ちゃんにある程度冷静に事情を語った。

 

お姉ちゃんの反応に関しては……もうずっとこんな感じだった。

 

両親は俺に声がかかったことを褒め称えそれをお姉ちゃんにもわからせようとしている。しかしお姉ちゃんはそもそもこのことを受け入れようとしない。

 

話は平行線を描いたままだった。

 

俺はその場にいることが耐えきれなくなり今こうして逃げ出して自分の部屋にこもりイヤホンをつけて寝転がり続けている。

 

夜も深まり外はすでに暗い中電気もつけていないため部屋の中は全くらで何も見えない。でもそうでもないと落ち着かないからこれは好都合だった。

 

(イヤホンつけて音楽聴いてても聞こえてくるんだから……よっぽど大声なんだろな……)

 

どこか他人事のように自分のことながら思ってしまう。

 

 

もっと音量を上げれば何も会話が聞こえてこなくて済むのにそれをしないのはきっと聞きたい気持ちもあるから。

 

「お父さんもお母さんもおかしいよっ!樹が!!家族が他の家に行っちゃうんだよ!?」

 

今まで聞いた事のないようなお姉ちゃんの絶叫、…なんでだろうな……自分のことを思って言ってくれてるはずなのにもうやめてほしいって思っちゃうな。

 

「上里家に引き取られるならそれは樹の幸せにもなる。大赦のトップツーの片割れなんだぞ」

「ねえわかるでしょ風。これがあの子の幸せなのよ?神樹様に最も近い上里家の人間になれるんだから」

 

「だってうちは普通の家族なのにっ…!なんでそんな大きな家から引き取りたいだなんて……!」

 

「樹みたいな子でも役に立てることがあるのよ。それをきっと上里様は見抜いてくださったの」

 

「そんなのおかしいよっ!!樹のこと見たこともあったこともないくせに!!」

 

「上里様がきっと神樹様のお声をお聞きになったんだよ。それで樹が、弱いあの子でも役に立てることがあると–––」

 

「みたいなって…弱い子って……なんでそんな酷いこと…」

 

「風だってわかるだろう。あの子は悪い子ではないが、弱く脆い」

 

「きっとあの子にとっていい経験になる。大赦のため神樹様のために何かできる子になってくれるはずなのよ」

 

 

 

 

 

 

 

大赦の最高権力を持つ上里という家から俺を引き取りたいっていう願いがきたのはわかった。でもなんで俺なんだ。見抜いた?お声をお聞きになった?俺は人付き合いが苦手でそんな自分が嫌いでお姉ちゃんがいないとまともに日常生活すら送れないような人間なのに、なんで…なんでそんな。

 

俺はお姉ちゃんだけが必要としてくれてる人間で、でもそれで満足でみんなに慕われててなんでもできるお姉ちゃんに愛されてるだけが取り柄なのに

 

–––––なんでお姉ちゃんじゃなくて俺なんだ。

 

俺はお姉ちゃん以外の人に必要とされたことなんてないのに。

 

 

今だってこうして両親に遠回しにいなくても困らない子だって言われてるようなものなのに。

 

 

(なんで俺なんだ–––––)

 

 

「でも…!でもでもっ!あの子が……樹本人が嫌だって言ったら……」

 

「嫌だなんて言うものか。あの子はわたしたちの子だ。代々大赦に、神樹様に使えてきたわたしたちの家の子なんだぞ」

 

「それに––これはもう決まったことなのよ。上里様がお決めになったことなの」

 

「そんな…………そんな…ことって……」

 

「風、樹が心配なのもわかるがお前だってもう六年生になるんだろう。だったら妹のことばかり心配してないで自分のことを少しは考えたらどうなんだ」

 

「そうよ、いつも樹にばかり構ってばかりで最近成績が落ちてきてるのだってそのせいなんじゃないの?」

 

「でも…だって樹は……アタシの妹で…」

 

「その妹がこれから立派になるんだ。お前も胸を張って将来のために努力しなさい」

 

「そうしたら樹のようにどこか名家から誘いが来るかもしれないわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドア越しのリビングからお姉ちゃんの泣き叫ぶ声が聞こえる。

 

両親はお姉ちゃんをなんとかして泣きやまそうと躍起になっている。

 

そして俺は–––––

 

俺は–––––

 

何もしなかった。何もしたくなかった。何も聞きたくなかった。

 

ただウォークマンの音量を上げて耳をふさぐことしかしなかった。

 

 

逃げたかった–––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、気味が悪いほどに話は早く進んんでいった。

 

翌日にも引越しの準備は整いその日の夜に迎えの車が到着。

 

結局俺は準備が整い迎えが来るまで部屋を一歩も出ることはなかった。ずっと耳を塞いで布団に入り込んだまま

 

水分もとらず食事もとらず誰とも話さず

 

ただ耳だけを働かせていた。いや、どんな音楽を聴いていたのか記憶がないから単に聴いていただけで覚えてなどいない。だから働かせてたのではなく放っておいただけ、付けっ放しにしていただけ。

 

 

引越しの準備といっても自分の部屋にはもともとあまりものはない。いくつかお姉ちゃんが俺に気を遣って買ったものが少々ある程度。大切にしてるものなんてないし、これがないとダメってものもない。

 

だから持っていくものなんてほとんどない。

 

俺はとっくに充電が切れているウォークマンのイヤホンを耳につけたまま部屋を出た。

 

それだけはなぜか、不思議と置いていこうとしない。

 

 

その理由を考えることももうしていない。

 

すでに家の外には迎えの車が来ており両親は誇らしそうに俺を見ている。

 

「頑張るのよ樹」

 

「立派になるんだぞ」

 

返事はしない。聞きたくないから。

 

俺はそのまま馬鹿でかい車の後部座席に乗せられた。

 

 

結局お姉ちゃんは最後まで俺に顔を見せることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「到着いたしました。どうぞ、こちらへ」

 

「はい」

 

車で何時間かゆられたころ目的地となる上里家の本邸に到着した。大きく立派な門をくぐるとそこには広大な日本庭園が広がり、さらにその奥には平安時代の貴族屋敷あるいは皇族の屋敷を思わせるほど大きく両翼に広がる平屋の和風建築、他にも何棟かにわたる同じくこれも

和風の平屋が建っている。

 

執事らしき人に案内されながら玄関にいくと玄関だけでも一般家庭のリビングなんかよりも軽々大きく内装も豪華であった。

 

長い廊下にはあちこちに洋風、又は和風の部屋と幾多もの曲がり角があり家主であろうと道に迷ってしまいそうなほどである。

 

数分歩いた先の部屋に通される。どうやら客間のようであった。

 

 

そこではひとりの人物が椅子に腰掛けて待っていた。

 

 

 

「君が『犬吠埼樹』か。座りたまえ」

 

「はい」

 

言われた通りに椅子に座る。

 

「君も聴いているだろうが今日から君は『上里』の人間になる。三百年前––––西暦の終わりから神世紀の始まりを支え今日まで『大赦』の要となってきた偉大なる上里家のだ」

 

「はい」

 

「本来であれば君のような一般の家の人間がなれるものでない。だからこそ君に望むものはない」

 

「はい」

 

「ただ–––然るべき時のために居さえすればそれで構わない。–––––いいかね」

 

「はい。わかりました」

 

「よろしい–––ではこれで失礼する」

 

 

上里家当主のその視線の先にはだらしなくイヤホンが耳につけられたままの樹がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(風呂大きかったな。食事も豪華だったし)

 

用意された部屋のベッドに寝転がりながら風呂や食事のことを思い出す。

 

風呂は大理石のものや檜風呂など多種にわたるもので構成されておりサウナや露天風呂まで備えていた。

 

食事は今回出されたのは全体的に和で構成されたものであった。

 

ただどちらにしても広さと人数が比例していない。自分一人でホテルを使っているようなものだ。

 

執事らしき人に案内されながら食事会場に移動しその後お風呂場に案内され入浴し明日にでも本邸のほかの施設の説明をするとのこと。

 

今日から自室になる部屋は無駄に広くて大した荷物もない俺は完全に持て余していた。少量の段ボールと下着や衣服がすでに入れられているクローゼットや箪笥。それ以外は何も手をつけていない、真新しい汚れもシミも一切ない部屋。

 

今自分がいるのが今後自分が使っていく部屋であるという自覚が全く湧かない、ホテルにでもいるような感覚。

 

(ホテルでもこんなに居心地悪いことないか)

 

天井を見上げつつそう思う。イヤホンから聞こえてくるウォークマンの曲が変わった。

 

(シミひとつない–––知らない天井だ)

 

荘厳なシャンデリアがぶら下がっているのはなかなか強烈で違和感の塊のようである。

 

(当たり前か、この家に知ってる場所なんてどこにもないもんな)

 

ほんの昨日までごく一般的な生活を送っていたはずだったのに昨日の今日でこれなのだから訳がわからない。

 

(なんでここにいるんだろ)

 

(なんで俺は捨てられたんだろ)

 

(あの人はなんでよりにもよってお姉ちゃんじゃなくて俺にしたんだ。なんで俺なんだ)

 

(学校ではクラスメイトに馬鹿にされて、家では全く役に立たなくて)

 

(あれが義父さん?あの人が義父さん?あんな俺のことを同じ人間とも思ってなさそうな人が義父さん?)

 

脳裏に浮かぶのはその眼鏡の奥に隠された冷たい視線。

 

(–––でももうそんなの関係ないのかな。血の繋がった父親と母親に捨てられるぐらいなんだしな)

 

自分の子として大切に育てられてると思っていた。それ自体はあながち間違いでもないかもしれない。でもそれ以上に彼らには大赦と神樹様が大事だったというだけ。

 

自分の子供は利用できるものなら、使えるものなら迷わず使うし捨てる。むしろそれが喜びであり誇りである。それがあの両親であり、人間なのだ。

 

(大赦ってなんなんだ…神樹様ってなんなんだよ)

 

あの両親をあんなにしてしまうその二つの存在が俺には何もわからない。

 

(俺は何も知らないんだな)

 

当事者が一番何もわかっておらず、何も知らされていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

(お姉ちゃんは今どうしてるんだろ)

 

どんな顔して会えばいいかもわからないくせにそんなことを考え始めた。

(またそのうち会えるかな)

 

その願いは長く叶うことはなかった。

 

 

 

 

 

そして–––俺は、上里家の人間として出会うことになる。

 

 

上里家とともに三百年もの間大赦ならびに神樹、さらに言えば人類そのものを支えてきたもう一つの名家

 

乃木家の一人娘–––––乃木園子に俺は–––犬吠埼樹は出会うのだった。




わすゆキャラと樹ちゃん(憑依)

お楽しみにっ!

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