インフィニット・ストラトス 銀河は俺を呼んでいる   作:OLAP

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第10話

「織斑、お疲れ様」

 

アリーナでの謎の生命体の襲撃事件の後の夜、一夏は一人自室でギターを弾いていた。

 

そこにやってきたのは姉であり、先生でもある千冬だった。彼女は一夏が心配だった。

 

「お前のおかげで、犠牲者はいなかった。我々には他に方法があるのかわからなかった。もしあの場で教員たちも含めて戦うことになっていたら、もしかしたら犠牲者が出ていたかもしれない。だから、今回のやり方は正しかった筈だ……」

 

謎の生命体が襲来してきた際の対処法のマニュアルなんて存在していない。だから今回の事件は一夏がいてくれたおかげで犠牲者がなしで済んだ。他の方法ではどうなっていたかわからない。結果論だが。

 

千冬は千冬なりに一夏を励まそうと努力している。

 

「わかってるよ、姉さん。そんなに気を使わなくても、あの先生だって自分なりに考えて対処しようと考えたんだ。怒ってないし、責めてない」

 

優しい声音だ。

 

「……それと、聞きたいのだが。アレは何だ?お前は知っているようだったがや

 

「彼女は白騎士事件の時に切り裂かれた隕石にいた存在だよ。俺はあの事件の時に初めて彼女の声を聞いた。そして、何度も…………正直なところそれくらいしかわからない。彼女って言ってるのもそんな気がするからだよ」

 

「………なるほど、お前が昔から言ってたモノの正体か。束もそんなことを言ってたな。ISの声を聞けるモノだけが聞こえていた声」

 

「でも、俺にも何を言ってるのか未だにわかってない。だから、もっと聞かないと」

 

「…………わかった。今日はもう休め。事後処理で聞くことがあるかも知れんが、それは明日だ。今日は助かった。お休み」

 

千冬は部屋から出て行った。

 

残った一夏は再び演奏を続けるが、普段はしないようなミスを立て続けにしてしまう。集中力が足りていない。

 

これ以上続けるのはダメだと判断した一夏はギター元あった位置に戻した。

 

「………あいつの歌、まだ聞けてねえ」

 

ベッドの上で大の字に寝転がる一夏。彼の頭の中では今日の出来事が何度も繰り返して流れている。

 

──コンコン

 

ノック音が扉から聞こえる。

 

誰か来訪者が来たのだろうか、一夏はそう考えて真っ先に鈴音の可能性を消す。彼女だったらもう少し強いノックをする筈だから。

 

ならば誰だろう。

 

「一夏、聞こえますか?私です、ヴィシュヌです」

 

声の主はクラスメイトのヴィシュヌだった。珍しい訪問だと一夏は思った。何せ彼女がこの部屋にやってくるのは初めてだったからだ。

 

一夏はベッドから起き上がると、ドアのロックを解除して開ける。

 

「珍しいな、やってくるなんて」

 

「どうしても、今の貴方と話したいのです。今日の出来事について」

 

ヴィシュヌは寝る直前ということもあって可愛らしい寝巻きを着ている。ジャージでやってくる鈴音とは大違いだ。

 

一夏はヴィシュヌを室内に招き入れると、彼女をベッドに座らせて自分はソファーに座った。

 

「何か飲む?コーヒー?カフェオレ?」

 

「あ、いえ……大丈夫です。すぐに戻りますから」

 

ヴィシュヌは男性の部屋に一人でやってくるなんて初めてだった。しかもそれがクラスメイトであり、好きな歌手でもある一夏の部屋だということで緊張感マックスだ。

 

「今日はありがとうございました。貴方のおかげで、誰も犠牲を出さずに済みました」

 

ペコリと綺麗にヴィシュヌは頭を下げた。

 

「………そんなに感謝される事はしてないよ。俺は俺のやりたいことをやっただけだから」

 

「そんな事はありません、貴方がいなければひどいことになっていたかも知れません。だからありがとうございます」

 

お礼を言うヴィシュヌに対して一夏は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。彼としてはただ単に謎の生命体と歌で語り合いたかっただけなのだから。

 

「それに、私は貴方に励ましてもらったからオルコットさんと戦うことができました。貴方がいなければ、ただ単に圧倒されてただけだと思います………結果は、出ませんでしたけど」

 

「そっか、ありがとうか。俺もありがとう…………お礼にさ、俺の秘密の一つ教えるよ」

 

「秘密……ですか?」

 

一夏はゆっくりソファーから立ち上がると、ベッドに座るヴィシュヌの隣に座った。

 

「え!?」

 

それに思わずヴィシュヌはドキリとしてしまった。ドキドキと心臓の鼓動が聞こえてくる。

 

「前言ったよね、昔束さんのラボでISを動かしたことがあるって……その理由を」

 

一夏はヴィシュヌの右手を掴むと、自身の左胸に当てた。

 

「え!?ちょ、ちょっと一夏!?何を──」

 

突然の出来事に混乱したヴィシュヌであったが、一夏の左胸に当てられている自分の右手から伝わってくる感覚に違和感を覚えた。

 

心臓の音が違う。普通の人の心臓の鼓動とは明らかに違う鼓動が右手から伝わってくる。

 

「俺の心臓、本当の心臓じゃなくて人工心臓なんだよ」

 

突然の告白、ヴィシュヌは思わず息を止めてしまった。あまりにも衝撃的すぎる発言。

 

「昔、第二回モンドグロッソの時に誘拐されてね。その時に心臓を銃で撃たれたんだよ。それで、心臓が使い物にならなくなって、束さんが代わりに人工心臓をつけてくれたんだよ」

 

織斑一夏は第二回モンドグロッソの後、暫くの間行方不明になっていた。誘拐した犯人たちは皆殺され、誘拐されていたであろう場所では火事が起きていた。

 

死んだかと当初は思われていたが、突然日本にある自宅で寝ているのを千冬に発見された。

 

その誘拐されてから発見されるまでの間に篠ノ之束によって人工心臓を埋められたのだ。

 

「最初は戸惑ったけど、今では慣れた。でもまだ定期的な検査が必要だから束さんと会ってるんだけどね」

 

たしかに一夏はそんなことを話していた。

 

「…….そ、その人工心臓はな、何なんですか?」

 

ヴィシュヌは伝わってくる鼓動とは別の何かを人工心臓から感じている。触れる前までは全くわからなかったが、触れることによって初めて感じ取れた。

 

「そうか、ヴィシュヌはISに乗ってるから何となくわかるのか」

 

一夏はヴィシュヌの手を離した。

 

「この人工心臓はね、ISだよ」

 

「………まさか、それが炎華の待機形態?」

 

「ご名答」

 

一夏の愛機である炎華の待機形態については一切の情報がなかった。この学園に入る前に行われていた手荷物検査では全くわからず、だからこそ使い出した際には驚かれていた。

 

「俺の心臓は炎華……ISのコアが代わりに入ってる。最初は慣れなかったけど、今では自分の一部のようになじんでる。それに、これのおかげで勉強しなくても知識が入ってくるし、喋れない言語も喋れる」

 

「あ…………」

 

ヴィシュヌは一夏にタイ語で話された事を思い出した。たしかにあの時彼は初めて話したと言っていた。

 

あの時は違和感を感じていたが、その後のことでどうでも良くなっていた。

 

「ISの操縦も自分で念じれば手足のように簡単に動かせる……まあ、ここまでできるようになったのはリハビリのおかげだけどね」

 

ニコリと笑う一夏の顔には一切の暗さがない。

 

「……あの、もう一つ聞いても良いですか?」

 

「何だい?」

 

「炎華とは何なんですか?今日のアレを含めて、謎が多すぎます。明らかに他のISとは性能がかけ離れてる」

 

炎華に関する情報はほとんど明かされていない。誰が作って、性能はどれくらいのものなのか、ある程度は開示されているがそれが本当なのかどうかすらもわからない。

 

今日のアリーナで展開された炎の翼も一切情報がなかった。

 

「炎華は炎華のISコアが生み出したISだよ。俺の身を守るために、俺の翼になる為に作り出してくれたんだ。最初の頃はこんな姿じゃなかったんだけど、何年もの間改良を重ねた結果こうなった」

 

「…………え?」

 

理解が追いつかなかった。ISコアによって作り上げられたISなど今まで聞いたことがないし、信じられなかった。

 

「これ、内緒にしててね?」

 

「は、はい」

 

ヴィシュヌはうなずくことしかできなかった。底知れなさがあった一夏の一部がわかったと思ったら、その先にはより深い何かがあった。

 

「おっと、ソロソロ消灯時間だから……部屋に戻らないといけないよ」

 

一夏の部屋の時計は消灯時間5分前を指していた。

 

「そ、そうですね……では、今日はありがとうございました」

 

ヴィシュヌは立ち上がり、お礼を述べると部屋を後にした。

 

残った一夏はベッドに寝転がった。そして目を閉じて今日の光景を思い浮かべる。

 

「俺の歌はあいつに届いていたのか……わからねえ。だが次はもっと歌う。絶対に」

 

天井に向けて拳を突き出した一夏は心の中で固く誓った。

 

 

 

 

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