インフィニット・ストラトス 銀河は俺を呼んでいる 作:OLAP
季節が移り変わるのは早いモノだ。ついさっきまで春が終わった頃だと思っていたのに、今は季節が巡り廻って一年経った。
一夏もこの一年間、勉学と音楽活動を完璧に両立させて望んでいた高校に合格する事ができた。
……………できたはずなのだが、何故か一夏は今女子校の教室にいる。
別に不法侵入したわけではない。
彼はしっかりとこの女子校の生徒になったのだ。
勿論去勢手術はしてないし、戸籍も男から女に変わったわけではない。
学校の名前は『IS学園』、説明は省略させてもらう。
入学した経緯も省略させてもらう。
何かあった。
それだけお伝えしよう。
今日は入学式が終わって、簡単なオリエンテーションが行われる日。
新入生たちは夫々の教室に集められた。
「~~♪」
ワイヤレスイヤホンをして音楽を聞きながら、上機嫌に音楽雑誌を読んでいる一夏。
周りの女子生徒たちは一夏に話しかけようかどうかと戸惑っている中、一夏ただ一人だけがマイペースを貫いている。
一夏本人としては合格した高校に入れないのは少し嫌だったが、今は音楽ができれば何処でも良いと完全に割り切っている。
辛いところがあるとすれば周りが女性だけで、男性は用務員の人を除けば自分だけだと言う事だろう。
思春期の一夏にとって同性の友達がいないと言う事はかなり辛いモノであった。
IS学園『一年八組』の教室の中で、一夏は一人ぼっちであった。
「はーい、全員席につけ。朝礼の時間だ」
暫くすると担任の女性らしき人が教室に入ってきた。
一夏は音楽を切って、イヤホンを制服の内ポケットの中に収めた。
テキパキと自分たちの席に戻って行く生徒達、全員席に座り静かになる…………のだが、一夏以外の生徒の視線は担任ではなく、何処となく一夏に向けられている。
「あのなぁ、お前たち。織斑は減らないから、これから一年見る事ができる。珍しいかもしれねえが、今は私の方を見ろ」
少しぶっきらぼうな言い方で、何処となく元ヤンっぽい雰囲気を出している担任の先生。
年齢は一夏の見たてでは彼の姉と同年代であると予想する。
そして左手の薬指には結婚指輪がされてある事から、既婚者である事が判断できる。
「ええ、私がこれから一年お前たちの担任をする事になった篠原祭だ。よろしく頼む」
担任が挨拶を終えると生徒達からの拍手が続いた。
「ソレでは、次にお前たちの自己紹介だ。まず最初に……織斑、お前からだ」
ビシィッ!
と聞こえてきそうなほどの勢いで担任は一夏を指差した。
「俺からですか?」
一夏には自分から自己紹介だというのが驚きだった。出席番号だったら彼よりも早い人がいるからだ。
「そうだ、なんか君が一番最初の方が良いだろう。合コンっぽくて」
ガハハハと豪快に笑う。整っている顔立ちをしているのだが、その言動のせいで台無しになっているような気がする。
「そうですか、なら………」
一夏は担任からの指示に従ってユックリと立ち上がり、窓を背にしながらクラスメイト全員を見渡せるようにした。
そして人の良さそうな笑みを浮かべて、自己紹介を始める。
「皆さん始めまして、織斑一夏です。なんやかんやあってこの学園に入学することになりました」
なんやかんや、そうなんやかんやあったのだ。
「趣味はギター弾いたり、曲を作ったりすること……かな。これから一年よろしくお願いします」
最後に一礼をして、自己紹介を締めくくった。
……………………………………
沈黙、クラス全体から音が消えた。
「……あ?」
予想外の反応に一夏は思わず声を出してしまった。
何か反応の一つ──拍手ぐらいくれてもイイだろうと一夏は思った。
「ッゥウオオオオオオオオオ!!!!」
一人の女子生徒が沈黙を打ち破って、欲望に素直に従った化け物のような重低音塗れの咆哮を叫んだ。
「ッゥオオオオオ!!」
「ゥ男ォオオオオオオ!!!!」
「ィイケメェエエエエエエエン!!」
「嫌いじゃないわァアアアアアアアア!!!!」
オオカミの遠吠えのように伝播する欲望に塗れた乙女の激しい咆哮。
その余りの激しさに一夏は引いた。
スゲぇ引いた。
後に一夏はこの事を思い返して、こんな事を言っていた。
『あの時のクラスメイトは夫々が最強に見えた。下手したら、喰われていましたよ』
女子校の中に長身のイケメンが一人紛れ込んだ。
しかも自分たちのクラスだけに。
その優越感と喜びが彼女たちの欲望のタガを簡単に外してしまったのだ。
「はーい、そこまでにしておけよ欲望塗れの乙女たち。直ぐに黙らないと、私の鉄拳が飛んできちゃうぞー」
硬く握りしめた拳を天たかく掲げながら担任は彼女たちに静止を促した。
「はい…………」
そこは皆大人しく担任の言う事に従った。
「じゃあ黙ったところで……出席番号順に自己紹介していけ!!」
「ふぃーっ」
休み時間、質問ぜめに来るクラスメイトたちの波と廊下にいた生徒たちの波を掻き分けて一夏は男子トイレで用を済ませてる。
男子用トイレと言ってもこの学園で使うのは彼と用務員のおじいさんくらいである。
「ああ、やっぱアレだな。便所は落ち着いてすべきだなぁ」
今のところ、学校生活では便所くらいしか落ち着ける場所がないというのが、なんともいえない悲しさがある。
出し終えるとご自慢のモノを閉まってチャックをあげる。自動で水が流れるのでそのまま手を洗いに向かい、これまたセンサー式の蛇口から出てくる水で手を洗う。
乾燥機で手を乾かした後にハンカチで手を拭い、トイレから出る。
「おい」
便所を出るなり、目の前に女子生徒がいた。女子生とは腕を組んで仁王立ちしており、少し怒っているかのような不満げな目と頭のポニーテールが少し特徴的だ。
「ああ?あー…………便所、使いたいの?ここ、男便所だよ?」
この男、何を勘違いしたのか目の前の子が男子便所を使いたいと思っていると勘違いしているようだ。
「違う!そうじゃない」
少女は思わず声をあげてしまった。
「えぇ?じゃあ用はなに?俺教室に戻らないといけないんだよね」
「……覚えてないのか?」
少女が不満げな声で聞いてきた。
覚えてないのか、そう言われても一夏としては「ごめん、覚えてない」としか言えないが、そんなことを言ったら拳銃で撃たれそうなのでやめておいた。
「いや、覚えてる。箒だろ?束さんの妹の………その後頭部見て思い出した。うん」
ポニーテールを見て思い出した。彼の人生の中でポニーテールが特徴的な人物といえば今目の前にいるを除けば数人しかいない。
そして彼女にとって悲しいことは、認識のされ方が嫌いな姉の妹であるということだ。
「そうだ、久しぶりだな………あの時以来か」
「そうだな、私が引っ越す時以来か…………元気だったか?」
「其れなりにな。お前の方こそどうなんだよ。束さん、お前が連絡してこないって嘆いてたぜ。少しは連絡してやったらどうなんだ?」
「…………え?」
箒は衝撃を受けた。
自身が一夏と離れ離れになる原因を作り上げた姉が一夏と連絡をとっているなどと考えたくなかった。
「まて、一夏。お前は姉さんと連絡を取り合っているのか?」
「ああ、取り合ってるぜ。だいたい一ヶ月か二週間に一回くらいかな?それと直接あったりもするな」
「そうか、そうなのか」
今現在世界的指名手配犯である姉がどうして簡単に一夏と連絡を取り合えているのか箒にはわからない。
彼女は悔しくて悔しくてたまらなかった。
何故姉が一夏と連絡を取り合っているのか、彼女のせいで離れ離れになったというのに。
「そういえば。一夏は剣道を続けているのか?」
篠ノ之箒といえば剣道、一夏という人間の中ではそんな数式が何時の間にか成り立っていた。
一夏も同じ剣道道場に通っていた。だが彼女が姉のせいで転校すると同時に彼は剣道をやめてしまった。
もともと一夏自身は剣道に関して言えばあまり興味がなかったので、良い機会だと思ってキッパリと絶ったのだ。
「いや、やってない…………お前が引っ越してからすぐにやめた。元々姉さんに憧れて始めたからな……」
「……え?」
箒としては一夏が剣道をやめたという話は非常にショックだった。彼女は中学での三年間、一夏と剣道の会場で会えるのではないのかと期待に胸を膨らませていたからだ。
それなのに、彼はやめていた。
「お前の方はどうなんだ?まだ剣道続けているのか?」
「去年全国大会で優勝したんだ……………知らないのか?」
「すまねえ、スポーツニュースで剣道は見てないんだ。それにスポーツの世界とはここ最近縁がないからねぇ」
一夏の言葉を聞いた箒は目に見えて落ち込んでいた。
だが直ぐに気持ちを切り替える。
やめたならもう一度始めれば良いだけだ。もう一度剣道をやって、もう一度あの頃を取り戻せば良いだけの話だ。
「なら、もう一度剣道を始めないか?この学校には剣道部があるんだ」
縋るような思いであった、彼女の中で一夏との思いでは大きな割合を占めている。
「誘ってもらえるのは嬉しいが、遠慮しとくよ。スポーツ系の部活で男一人は虚しすぎるし、なにより剣道以上にやりたいことがあるからな…………じゃあな、また」
一夏は箒の横を通り過ぎて教室へと戻っていく。
残された箒はただ呆然としながら、涙がこぼれ落ちないように目に力をいれていた。
「一夏………私には、お前しかいないのだ」
「はーい、それじゃあクラス代表を決めるぞ。自薦他薦は問わない。じゃんじゃん意見を言ってけ」
休憩時間が終わると、オリエンテーションは次の段階に進んだ。
どうやら次はクラス代表とやらを決めるらしいが、一夏はあまりソレがどんなモノか理解しておらず、学級委員程度の事だと認識している。
だがどうやら違うらしいと一夏が気がついたのはこの後の事だった。
「はーい!折角なんだから織斑君がいいと思いまーす!!」
「はい!ギャラクシーさんが良いと思います!!」
一斉に始まるクラスメイトからの他薦の嵐。手を上げて名前を述べていく生徒たちは皆、自分の名前ではなく一夏と一人の女子生徒の名前をあげている。
「あー、もう。一斉に喋るんじゃねえ。私は聖徳太子じゃないんだぞ………今のところ名前が上がっているのは織斑とギャラクシーの二人か」
一夏は同じようにクラスメイトから他薦されたギャラクシーという苗字の少女を見た。
『ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー』、タイの代表候補生。
日焼けしたような褐色の肌、そして深い緑色の髪が特徴的な見た目麗しい少女。
一夏の視線に気がついたギャラクシーはその視線から逃れるようにそっと顔を背けた。
「あのぉ先生、ちょっと聞いていいですか?」
「なんだぁ?織斑」
「その、クラス代表ってどんなことするんですか?俺よくわからないんですよ」
「あぁ、そうか。なら────」
担任の先生によるクラス代表に関する話を聞かされた。
大体は学級委員みたいなものだったが、大きく異なるところが一つあった。
それは数週間後に行われるクラス代表対抗戦に出場しなければならなということであった。
「…………」
その話を聞かされて一夏は考え、一つの結論を出した。
「先生」
「どうした、織斑。まだ何か聞きたいことがあるのか?」
「俺、辞退します」
その直後、クラスメイトから落胆の声が上がった。皆、一夏がクラス代表になることを期待していたのだから仕方のないことか。
その声たちを鎮めるように、祭は手を前に出して静かにするように促した。
静まる教室。
「理由は?」
「……そうですねぇ、理由としては…………言えないですけど、辞退させてもらいます」
「…………わかった。お前が何を考えているのかはよくわからないがな…………と言うことだ。このクラスの代表はギャラクシーで構わないか?」
一夏の代表就任を望んでいた一部の生徒たちから少しだけ不満げな息が漏れた。
「……ギャラクシー良いか?」
「わかりました。全力で務めさせてもらいます」
ほぼ強制的だというのにギャラクシーは嫌な顔一つせずにクラス代表になることを了承したのだ。
本当に一夏とは大違いである。
「代表も決まった事だ。授業に戻るぞ」
授業は何一つ問題なく終わった。
祭は一夏がISに関する専門的な授業に突いて来れるか非常に心配していたのだがそれは杞憂に終わった。
一夏は勉学について来れないどころかその真逆であった。
それどころかISに関する知識でいえば自分よりも詳しいのではないのかと思えるほどの知識量を持っていた。
まるで本を丸々一冊頭の中にいれているかのようだった。
「織斑、わからないところはあるか?」
「大丈夫ですよ。問題はないです」
「そうか………なら次は白騎士事件について話して行こう」
──白騎士事件
別の名を『星の降った日』。
それは世界が変わった日なのだ。
数年前に起きた隕石の落下事件、それを止めた『白騎士』の活躍がこの世界を大きくかえることとなった。
一夏もその日のことをよく覚えている。
篠ノ之束のラボでの出来事をよく覚えており、彼の人生に大きな影響を与えた。
「先生!質問があります」
授業が一区りついたところで一人の生徒が手を上げて質問を始めた。
「どうした?」
「その白騎士事件で使用されたISのコアって今は誰が持っているんですか?」
世界中にある篠ノ之束が作り上げたオリジナルのISコアは、その一つ一つが何処が所有されてあるのか明らかにされている。
例外は勿論あるが。
その一つが白騎士に使われたと言われているNo.001のISコアである。
コレは今も一切の情報が明らかにされていないISコア、世界中がその存在を求めていると言っても過言ではない。
「………そうだな、それに関していえば殆ど情報がない。今も篠ノ之博士が持っているというのが最有力だな……………それに、No.001のコアに関しては変な噂もある」
「噂?」
「私にもよくわからん、噂があると聞いたことがあるだけだからな………授業に戻るぞ」
祭は授業に戻り、クラスメイトたちは再び教科書とノート、そして黒板に意識を向けた。
「…………」
ただ一人、一夏だけは過去を思い出して心の中で歌を歌っていた。
『………こんな筈じゃなかったのに……コレじゃあ、飛べなくなっちゃう』
思い返すのは白騎士事件の起きた日の、ラボでの出来事。
午前中の授業はすんなりと終わり、今からは待ちに待った昼飯の時間だ。
IS学園の食堂は多くの国から学生が集まるということもあり、並の学校の学食のメニューの種類を遥かに凌駕している。
それが一夏にとっては楽しみで仕方がなかった。望んできたわけではないIS学園だから、せめて学食だけは楽しみたかった。
一夏は授業が終わるなり、席を立って一人の女子生徒の元に向かった。
「ギャラクシーさん」
先ほどのクラス代表決定の際に、役目を押し付ける形になってしまった『ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー』の席だ。
「ッ!?な、なんでしょうか?」
彼女は声をかけられたのが意外だったのかビクリと身体を大きく反応させた。
「さっきは君にクラス代表を押し付けることになったからさ……お詫びや……親睦も兼ねてご飯を食べにいかない?俺が奢るし……勿論、他にクラスメイトも一緒だし」
一夏は右手の親指を立てて背後を指差すと、そこには十数名のクラスメイトが固まっていた。
「あ……あの」
ヴィシュヌは何かを言いたいようだが言葉がうまく出てこない。そして少しだけ紅潮した頬と一夏に対する緊張感がある。
「どうしたの?」
「……いえ、あの……私の事は大丈夫ですから、皆さんで行かれてください……それに、さっきの件は気にしないでください。こうなる事はある程度予想していましたから………それじゃあ」
ヴィシュヌは机の上に置いてあった音楽機器を取って席から立ち上がり、何処かへ立ち去って行った。
「あーー、嫌われたかな」
遠くへ去っていくヴィシュヌの背中を、一夏は少し悲しげにみていた。
「はぁ……はぁ」
教室から少し離れた人通りの少ない廊下、ヴィシュヌはこの場所ま走ってきた。
少しだけ息が荒く、彼女は廊下の壁にもたれかかるなり深呼吸を行って息を整えていく。
「……緊張しました」
ヴィシュヌは今まであまり同年代の男と関わった事がほとんどないため、男性と接する際に非常に緊張してしまう。
先ほどの一夏とのやり取りもそういう事だ。
だが彼女が一夏と話す際に緊張していたのは、男性だからという理由だけではない。
「……変に思われなかったでしょうか…………まさか、一緒のクラスになるなんて思ってもいませんでした」
彼女はギュッと強くポータブル音楽プレイヤーを握った。ソコから伸びるイヤホンからはある歌が流れていた。
それはある日本の音楽バンドの歌であった。
そのバンドは特にメジャーだというわけではない。日本のごくいちぶの地域で活動しているマイナーバンドなのだ。
まぁ、活動は日本の極一部だけなのだが、ファンは意外な事に世界中にごく少数だけいたりする。
その声は一夏の歌声であった。
そう、ヴィシュヌは一夏のファンなのであった。
ヴィシュヌが一夏の歌の存在を知ったのは本当に偶然であった。
一夏のバンド仲間である御手洗数馬が上げた一夏達が演奏している時の映像を偶々偶然ヴィシュヌが見たのだ。
その時ヴィシュヌの身体に電撃が走った事を彼女は今でも覚えている。
すぐさまネットにあげられていた彼の歌をダウンロードして、ほぼ毎日のように聞いている。
日本語で歌っていたために何を言っているのかよくわからなかったが、それでもその歌が素晴らしい心を動かされるものだという事はわかった。
日本語ではなく他の国の言語で歌っているのもあったが、ヴィシュヌは一夏の母国語である日本語での歌を聞きたいと思ったために日本語を必死で勉強した。
「まさか、こんなに早く会話できるなんて思っていませんでした…………今度生歌を聞かせてもらえないでしょうか………」
以前取材された際に一夏の知り合いだという記者が言っていた。
『一夏くんの歌は生で聞くと段違いよ。もう、凄いんだから!!』
その言葉を聞いた時からヴィシュヌは一夏の生歌を聞いて見たいと思っていた。
「あーあ、恥ずかしがらずにご飯を食べにいけば良かったな」
誘いを断った事をヴィシュヌは後悔していた。
アーキタイプブレイカーの中で誰が一番ヒロインできそうかと言われたらヴィシュヌな気がする。