インフィニット・ストラトス 銀河は俺を呼んでいる 作:OLAP
「──織斑くん、だよね?」
学食で多くのクラスメイトと食事を取っている一夏の前にカメラを持った一人の女性生徒がテーブルまでやってきた。
制服につけられてある装飾品から二年生であることがうかがえる。
「はい、そうですけど……何の用ですか?」
一夏はその女子生徒に見覚えがあった。
その女子生徒とは一度もあったことがないのは間違いがない。だが一夏の知り合いの誰かに似ているのだがそれがわからない。
「はじめまして、新聞部二年の黛薫子なんだけど……今、取材させてもらってもいいかな?」
「………黛……薫子?………………ああ!!渚子さんの妹か!!」
一夏は思わず立ち上がって、上級生である薫子を思いっきり指差した。
誰かに似ていると思ったら、一夏たちのバンドを以前取材した黛渚子だった。まぁ、妹だから当たり前といえば当たり前なのだが。
「そう、お姉ちゃんから何度か話は聞かせてもらってるわ」
「渚子さんの妹さんかぁ……渚子さん元気?ライブにあまり来てくれないから心配だったんだよねぇ」
「ああ……お姉ちゃん、部署が変わって忙しくなったからね………ライブいけないって凄く不満がってたよ」
そんな軽い話をすること一分ほど、薫子は本題である取材に関する話をはじめた。
「話題の新入生、織斑一夏くんに質問です……よろしいですか?」
「大丈夫ですよ」
ニコリと返答を返す一夏、それを見た薫子は一度強く頷くと持っていたレコーダーを作動させた。
「一つ目の質問です………ズバリ、IS学園に入学した今、どんな気持ちですか?」
「……そうですね………そんな気がしてた……って言うのが正直な気持ちですかね」
「……え?」
一夏の口から出た言葉は薫子が全く予想もしていなかった言葉であった。
寧ろ真逆だ。
驚いた、信じられない……そんな言葉を一夏の口から出ることを期待していた薫子であったが、彼はそれとは真逆の感情を持っていた。
「あの……それって、どう言うこと?」
「そのままの意味ですよ。何となく、確信はしてなかったけど」
一夏の目は捉えどころがない。この言葉が本当なのかどうかすらわからない。
薫子は無限に深いナニカを見ているような気持ちになってしまう。
不気味……だが、同時に不思議な安心感がある。
「……じゃあ次の質問です。一夏くんは何になりたい?折角のIS学園だから、将来はISに関する職につきたい?」
世界でただ一人の男性IS操縦者、それが今の一夏に与えられた肩書き。
余りにも貴重な実験サンプルとして、世界各国が一夏の身柄に関して奪い合いを水面下で行っている。
「そうですね、ISに関する職業に就く気は今はありません。俺は……やっぱり歌っていたいです」
それは叶わぬ事かもしれないが、一夏はそれでも宣言する。
「お姉さん……織斑先生みたいに、国家代表になってモンド・グロッソでの優勝を目指したりはしないの?」
昔はよく言われた言葉であった。
姉みたいになれ、姉のような立派な人間になれ。
昔からわけのわからない人間たちが一夏に向けてそんな言葉を言ってきた。姉と比較してくる奴らがいた。
自分と姉は違う。
そんな事は一夏が幼い頃からわかっていることだ。自分にはできて姉にはできないこと、姉にはできて自分にはできないことがある。
それなのに比べるな、同じにみるな。
「んん、ないですね。俺と姉さんじゃ得意なことは違いますから。俺は家事ができるけど、姉さんは苦手だったりしますからね………それに、姉さんも俺と同じ考えだと思いますよ」
「……そうなんだ、ちょっと残念だなぁ………じゃあ──」
インタビューは結局、昼休みの終わり近くまであった。
放課後、一夏は文科系の部活動やサークルをいくつか訪れた後、図書館で時間を潰していた。
学園の図書館には週刊誌や専門誌が豊富におかれていたため、世間の話題においていかれることはないと思われる。
「晩飯でも食うか……………」
図書館から学食に続く廊下を歩きながら、一夏は晩飯で何を食べるのか頭の中でずっと考えている。
昼は日本食だったから、夜は洋食や中華も悪くはない。だが昼は焼き魚定食だったために、夜はトンカツ定食もありなのが一夏の気分だ。
「一夏」
名前を呼ばれた。
声だけでその人物が誰なのか判断した一夏は少しだけ微笑みながら声をかけてきた人物の方を見た。
「どうしたの、千冬姉…………ああ、いや……………織斑先生?」
ついついいつもの癖で名前を呼んでしまったが、ここが学校であり、教師と生徒という関係を考慮して苗字で呼び直した。
「気にするな、今は就業時間外だ。別に問題はない」
織斑千冬、一夏の唯一の血のつながりのある家族であり、元世界最強、そしてこの学園の教師。
千冬は普段から忙しいためにあまり会話をする機会がない。
なので、互いにこうして距離を確かめている。
「わかったよ、千冬姉…………それで、何の用?」
「入学祝い………と言いたいが、それはまた別の機会だな。久しぶりに一緒にご飯でも食べないか?」
「……珍しいね、良いよ」
その言葉を聞いた千冬は優しく微笑んだ。
夕方の食堂はいつもよりも酷くざわついていた。昼のランチタイムが終わり、夜のメニューに食堂は変わっている。
利用客はチラチラととある窓側の席を何度も何度もできる限りばれないように見ている。
「初日はどうだった?」
「どうと言われてもねぇ……いきなり女子校に入学することになったからね。結構戸惑ったりしてるよ…………まぁ、救いがあるとすればクラスメイトが結構話しかけてくれたのは助かるよ」
「……そうか、それはよかった」
二人の周りには生徒がいない。皆が二人に遠慮をしてしまい、その周りの席には座ることがなかったので、今の二人は完全に孤立している。
「……調子はどうだ?」
「健康優良だよ。風も引いてないし、怪我だってしてない」
「そうじゃない……アッチの方だ」
「………ああ、何の問題もないよ。束さんに定期的に検査してもらってるし、束さんが言うにはあと少しすれば定期検査も不要になるみたい」
「そうか…………すまない、私のせいでこんな事になってしまって」
「千冬姉はまた謝るの?その言葉はとっくの昔に聞き飽きてるからさ………それに、案外今は気に入ってるんだよ」
「そうか」
明るく振舞う一夏とは対象的に、千冬の表情には少しの影が見える。それは一夏に対するとある事情からの負い目によるものだ。
「そういえばさ、俺は授業でアレは使って良いの?それとも学校の機体を使えば良いの?正直言うと、学校のやつは量産コアだから使いたくないんだよね。使ったら拗ねるもん」
ISに使われてるコアは大まかに分けて二種類ある。
篠ノ之束が作り上げたオリジナルコア。
そして近年開発された量産型コアだ。
その二種類の違いを上げるとするならば、それはISのコアに意思があるかどうかだ。
オリジナルのコアには意思があることによって、搭乗者との間に相性が存在するために搭乗者次第で性能に大きな差が生まれてしまう。
コアに意思のない量産型コアは搭乗者との相性は存在しないために誰が乗っても同一な安定した性能を出すことができる。
更に一次移行を省略することも可能である。
だがその代わりに二次移行を行うことができず、単一能力が発動する可能性も存在しない。
安定を求めた代わりに可能性を潰してしまっているのだ。
その量産コアを使用するのに一夏は乗り気ではない。
「……少し我慢しろ。アレに関しても私の方で手続きをしている。早ければ数日のうちに使用できるようになる」
「マジ?ありがとう」
久しぶりの家族の会話ではあったが、それなりに楽しく行われていた。
そんな二人の空気とは対象的に周囲の人間たちは緊張し切っていた。
「広い部屋、完全防音………………しかも一人!!!!完璧だ!!!」
食後、一夏は与えられた学生寮の一室にやってきた。
普通の生徒は二人で一室与えられるのだが、一夏は男性ということもあり特別に一人で一室を使うことになっている。
部屋には二つのベッドが普通は置かれているはずなのだが、一夏の部屋には一つのベッドしか置かれていない。
本来ベッドが置かれているはずの空間は現在空きスペースになっており、一夏としてはこの場所に何を置くかが最近の悩みになっていたりしている。
「今日は新たな出会いがあった。新たな日々が始まった…………だから今日は新しい音楽が始まる」
一室は部屋に置かれてあるアンプに繋がれたエレキギターを手に取り、ワイヤレスヘッドホンの電源をいれて耳に装着する。
部屋の鍵は入るのと同時にかけてあるために誰かに邪魔をされることはない。
「音が生まれる。音が繋がり、音楽が作られる」
ギターから音が生まれる。
一夏の奥底から溢れ出てくる感情の音を綺麗に繋ぎ合わせて音楽を生み出す。
楽譜は一切必要ない。
心の中に生まれた音楽を今はただ演奏するだけ、楽譜に示すのはこの演奏が終わって一夏が満足した時だ。
まぁ、楽譜を作ってから演奏する時もあるが。
室内には音楽が響いてる。
一夏の耳にはヘッドホンがつけられている。
誰かが来ても一夏がその事に気がつく事はない。
だから誰かがこの部屋をノックしたのも一夏は気がつかなかった。
結局、一夏は一時間以上一人で演奏を続けた。
「……最高」
ニコリと楽しげな笑みを浮かべながら、一夏はギターを置いた。
次回は多分ISの操縦シーンが入ります。