インフィニット・ストラトス 銀河は俺を呼んでいる 作:OLAP
IS学園生活二日目、今日からは本格的にISを使用した授業が始まる。
そのISの授業のために、一夏たち八組の生徒達は複数あるアリーナの一つに集められた。
皆がISを操縦するためのスーツを着ており、一夏自身も男性用の特注のISスーツに身を包んでいる。
クラスメイト達は一夏にバレナイようにチラチラと彼の姿を観察している。
中には数名食い入るように見ている。一夏が気づいていないのが………それとも気づいているが気づきたくないのか。
クラスメイト達のテンションは上がり切っている。このクラスで良かったと死ぬほど思っている。他のクラスに対する優越感がすごい。
一夏の顔は同年代の他の男子高校生と比較すれば明らかに優れている。
そして身体つきも平均身長よりも大きい180cm、筋肉だって非常に美しく鍛え抜かれている。
それに加えてISスーツときたものだ。
少女たちにとってはかなり刺激が強い。
そして授業が始まり、実際にISを操縦することになった。
最初は代表候補生であるヴィシュヌがみんなの前で操縦の手本を見せた。
代表候補生らしく、動きは非常に美しかった。滑らかで、しなやか、まるで演舞を披露しているかのようにその動きは見るものを魅了する。
ある程度基礎的な動きを皆の前で披露した後に、ヴィシュヌは先生の指示に従って動きを止めた。
「とまぁ、練習に練習を重ねればここまで綺麗に、美しくISを操縦することができるようになるから、皆頑張れよ」
先生からの激励に一夏とヴィシュヌ以外の生徒は大きな声で返事を行う。
「……んじゃ、始めるぞ。取り敢えず織斑、やってみろ」
いきなり一夏が指名され、彼は少しだけ驚いたような表情を見せた。
一夏は出席番号が一番だと言うわけではない。
だが指名されたと言うことは、単なる担任の気分なのかもしれない。
一夏は少しだけやる気のなさげな返事を行い、集団から抜け出す。
「どれでも良い、試しに動かしてみろ」
担任の後ろに鎮座する様々な種類の量産型コアを使用した量産機達、一夏としてはどれを使っても良いのだが、そうはいかないのだ。
一夏は端から順に鎮座する量産機に触れていく。ゆっくりと一つ一つを確かめるかのように触れる。
そしてとある一機の前で動きが止まった。
「…………コレ?」
それは倉持技研という日本の企業が開発した打鉄と呼ばれるIS、近距離戦闘に特化させてある。
一夏は指先だけで触れてたのを、手のひら全体で強く触れる。
次の瞬間には打鉄が起動され、一夏は乗り込んでいた。
「………おお!!」
クラスメイト達から歓声が上がる。
一夏が男性でありながらISを動かせるというのはニュースなどで知ってはいたが、今こうして実際に目の前で操縦するまでは半信半疑であった。
だが、実際に動かしている。
それだけでテンションが上がる。
「…………ご機嫌は良くないようだね」
一夏は軽く手や足を動かしてISの調子を確かめる。反応速度は悪くはなく、精度も悪くはないが一夏は少しだけ不満そうな表情をしている。
「よし織斑、そのまま自由に動いてみろ」
先生の指示に一夏は浅めに一度首肯を行った。
「ふぅ……」
一夏は大きな深呼吸を行い、一歩足を踏み出す。歩けると判断すれば次はかるく小走り始めた。
「……楽しい?………そう」
それまで少しだけハニカんでいた一夏の表情が少しだけ鋭くなり、彼が動かしている打鉄の動きが変わる。
簡単な動きしていたのが、いきなり高難易度な動きへと変わる。その動きはまるで体操の床の演技のようである。バク転やバク宙を組み合わせながら華麗に動く。
その動きに誰もが驚き、魅入ってしまう。
担任である篠原祭と代表候補生であるヴィシュヌは一夏の動きに驚きを隠せなかった。
一夏の動きは明らかに昨日今日ISに乗ったばかりの素人の動きではない。何百、何千という数の鍛錬をこなして来た国家代表レベルの人間の動き。
一切の無駄がなく、完璧な洗練のされ方。
(…………何処で……何処でこのレベルに?)
篠原は一夏がどうやってこのレベルまで動かせるようになったのか、気になった。
一夏は明らかにこの学園にくる前からISを動かしている。だが何処でやってたのか、それが問題である。
(篠ノ之束か?織斑は確か繋がりがあった筈だが)
真っ先に疑ったのはISの生みの親である篠ノ之束の存在だ。彼女ならば何か知っている、篠原はそう確信している。
(だがいつからだ。少なくと世間が適性者だとわかる前から、あいつはISに乗ってたのか?………聞いてみる必要があるな)
「……織斑、もういいぞ」
篠原の指示に一夏は返答を行い、打鉄から降りた。
髪を掻き上げながらもといた場所に戻っていく一夏、少しだけ気だるそうにしながら自分の左胸──心臓がある部分を軽く撫でた。
「なあ、織斑」
「?何すか?」
声をかけられ、振り返る一夏。
「織斑、お前は世間に知られるより前からISを動かしていたのか?あまりにも動きが慣れていたからな」
この場で何かを聞けるとは篠原も思ってはいない。確実にはぐらかされると想定している。
「え?はい、動かしたことありますよ。でもそれがどうしたんすか?」
まさかの発言だった。
まさか認めるとは一切思っていなかった。
篠原は戸惑いはしたが、それを表面には出さないように必死に堪えた。
クラスメイト達は二人の会話に衝撃を受けた。ザワザワと少しだけ騒ぎ出す。
「いつから、何処で?」
「場所は束さんのラボですね、それは覚えてます。いつからって言われても…………確か……第二回モンドグロッソの後ですね。でもそれがどうしたんですか?」
「いや、何でもない」
篠原は今の情報を元に思考を巡らせる。
(確か、織斑は第二回モンド・グロッソの決勝の時に誘拐され、それから数週間後に発見された。本人は覚えてないと言っていたが、何かがあったに違いない)
篠原は一つの考えを出したが、これ以上はこの場で聞く気にはなれなかった。というか下手をすれば厄介なことに巻き込まれてしまうと直感している。
一夏は元にいた場所に戻り、多くのクラスメイトから質問ぜめにあった。
放課後、一夏はバッグに荷物を詰めながら次に何をしようかずっと考えていた。
先ほど姉からのメールがあり、その内容が一夏にとっては良いもので、今は非常に上機嫌である。
「あ、あの!!」
声をかけられた。一夏が声をした方を見ると、そこにはクラスメイトでクラス代表でもあるヴィシュヌが立っていた。
「ん?どうかしたの?」
「あ、あの……その」
ヴィシュヌはうまく声が出せていない。
男性恐怖症であるヴィシュヌは勇気を持って一夏に声をかけた。
男性である一夏に声をかけるのは彼女にとってはかなり勇気がいる。それに加えて彼女は一夏の音楽のファンなのだ。
必要な勇気は並のものではない。
バクバクとなり続ける心臓を抑えながら、彼女はうまく回っていない頭で次に何を言えば良いのか必死に考える。
「ああ、その………そっか」
一夏は声を出そうとしているヴィシュヌを見て、ある事を考えた。そしてそれを解決するためにある事をした。
『どうしたの、ギャラクシーさん。何か用?』
「……………え?」
一夏から出た言葉にヴィシュヌは驚いた。
それはあまりにも流暢なタイ語、母国語として使っていたヴィシュヌでさえ違和感は一切感じられない。
『あれ?言葉間違ってた?……日本語だと話しづらいと思ったから、タイ語で話してるんだけど』
一夏はヴィシュヌの反応が良くなかったので、自身のタイ語が間違っていると勘違いしてしまった。
彼女の反応が良くないのは、一夏がタイ語を話せるのに驚いているからなのだが。
「い、いえ。大丈夫です。少し驚いただけです。タイ語を喋れるなんて知らなかったですから」
ヴィシュヌは驚きのあまりに日本語で返事をしてしまった。
『はは、これじゃあどっちが日本人で、どっちがタイ人かわからないな──』
「──なら日本語でも大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですよ。練習しましたから………それにしても、タイ語が話せるなんて知りませんでした」
ヴィシュヌは一夏の気遣いのおかげて少しだけ気楽に話せるようになった。
一夏がタイ語を話せるというのはヴィシュヌにとっては有難かった。何処で学んだのか少し気になる。
「俺も初めて話したから、あってるかどうか心配だったよ」
「……………え?」
ヴィシュヌは一夏の言葉の意味がよくわからなかった。自分の日本語の知識が間違っているのではないのかとも思った。
一夏のタイ語は明らかに初めて話した人間の喋り方ではなかった。完全にネイティブの発音だった。
それなのに、初めて話したと一夏は言ってる。
「あの……それは──」
「それで、何の用?ギャラクシーさん」
話を掘り下げようとした瞬間に、一夏は話の流れをさりげなくぶった切った。
「あ、そうでした。もしよろしければ、この後ISの特訓に付き合っていただけませんか?」
「特訓に?良いけど、俺で良いの?」
「ええ、貴方じゃないとダメなんです。授業で見せたあの動きが私には必要なんです!!」
ヴィシュヌの脳裏には授業で見せた一夏の動きが焼き付いていた。あの動きが出来れば自分は次の段階にレベルアップできるとヴィシュヌは信じている。
だからこそ、もう一度見たいのだ。目の前で。
「………わかった。良いよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
ヴィシュヌは一夏が誘いに乗ってくれたのが本当に嬉しかった。一夏の動きをもう一度見れるのもそうだが、一夏のファンである彼女にとっては一対一で会話できるのは貴重な経験だ。
自分が男性恐怖症である事を忘れているのではないのだろうかと言いたくなるほどだ。
「貴方のISは此方で用意しますので、一時間後に第三アリーナ集合で大丈夫ですか?」
「時間は良いよ………でも」
「でも?」
「ISに関しては心配しなくて良いよ、俺の分は俺が用意するから」
「……わかりました。では一時間後に第三アリーナで会いましょう………待ってますから!」
ヒラヒラと手を振り、満面の笑顔をしながらヴィシュヌは教室から立ち去って行った。
残った一夏も笑顔で見送った後、アリーナに向かうための準備を始める。
「……久しぶりに飛べそう……嬉しそうだね」
一時間後、第三アリーナに集まった二人はそれぞれ準備運動を始めた。怪我をしないようにジックリと時間をかけてストレッチを行う。
それが終われば次はいよいよ実際にISを動かす番だ。
「行きますよ!!」
ヴィシュヌが大きな声を上げると、彼女のISの待機形態である赤い蝶タイが煌き、彼女の身を包むと次の瞬間にはISを纏っていた。
『ドゥルガー・シン』、蹴りを主体にして戦う彼女にとってこの機体は非常に相性が良い。
「あの織斑さん、ISは何処にあるんですか?」
ヴィシュヌは一夏がISを用意していない事に気がついた。学園からISを借りる際には待機形態で借りるのだが、一夏はソレを身につけている様子が一切ない。
「ん?大丈夫だよ。心配ない」
一夏は心配するヴィシュヌを他所に、ユックリと深呼吸を始めた。大きく息を吸い、そしてソレと同じ量の息を吐く。
「久しぶりだから……楽しそうだね」
それは誰に向けて話しかけているのか………
「………
一夏の体が発火して、激しい炎に体全体が包み込まれる。その焔は波の焔よりも遥かに美しく、神々しささえ持っていると言っても過言ではなかった。
ヴィシュヌは一瞬驚き、炎を消そうと動きかけたが直ぐに動きが止まった。
一夏の体を包み込んでいるのが本物の炎ではないと気がついたからだ。だがそれが何かまではわからない。
炎ではない炎が一夏の体を包み込んでいる。
「これは…………」
火炎の内側がら機械の腕が飛び出した。
それがISであると気がつくのに時間はかからなかった。
飛び出した腕は大きく横に振られ、火炎を吹き飛ばす。
火炎の奥から姿を表した一機のIS、焔で染め上げられたような赤色をメインにしたカラーリングの全身装甲タイプのIS。
そのISの背後には大きめの一対の巨大な非固定ユニットのウイングスラスターが装備されてある。
そのISを見てヴィシュヌが真っ先に思った事は「どのISとも異なる」だ。
理由はわからないが違うと言える。
「さあ、やろうか」
ヴィシュヌは一夏に対して、言いようのない感情を得た。
さて、主人公機の登場ですね。