インフィニット・ストラトス 銀河は俺を呼んでいる 作:OLAP
「〜〜〜〜♪♪」
そろそろクラス代表戦の決勝が始まろうとしている時間、一夏は一人校舎の屋上でギターを弾きながら歌を歌っていた。
その歌は子供を寝かせつけるような優しくてユックリとした子守唄のようなものだった。
屋上には心地の良い海風が吹いており、一夏はすでにこの場所で何回もギターを弾いて歌っている。
「………」
一夏は突然歌をやめ、ギターを弾く手を止めた。
「……ああ、やっぱ変だ。今日は一段と声が大きい…………あ?お前には言ってないから安心しろ」
誰もいない虚空に向けて一夏は会話を始めた。
「あの時だ。あの時の事を今になって思い出してきやがった」
一夏は昔………白騎士事件が起きた日の事を思い出した。
宇宙から隕石が降ってきた日の出来後を………あの日から一夏を取り巻く環境は大きく変わったと言っても良いのかもしれない。
「……でも何で今思い出してるんだ?」
その時だ。
「あ、やっぱりここにいた」
屋上にはいるためのドアが開かれ、凰鈴音が姿を表した。
「……鈴」
「ここにいていいの?そろそろヴィシュヌの試合が始まるのよ。会場にいないから探しに来たのよ」
鈴音は先ほどまで準決勝でヴィシュヌに負けた二組のクラス代表の子を慰めていた。
その子の調子がだいぶ元に戻ったのでこうして一夏を迎えに来たのである。
「……いや、俺は行かねえよ。ヴィシュヌにもそう伝えてある」
「へえ、練習に付き合ってたから、てっきり見るものだと思ってたから探しに来たのに……コレじゃあ無駄足じゃない」
鈴は一夏の隣には座らず、その近くに置かれてあったベンチに座った。
「……どうしたの?様子が変だけど」
「……いやな、なんかこう……どうも……変な感覚がするんだよなぁ。こう上手く説明できないが
IS以外の何かをさっきからずっと感じてるんだよ」
「…………たまにあるやつじゃないの?」
「それに限りなく近いが別だ。なんて言うか、コッチに向けて声を出してる?」
「何それ?」
鈴は一夏が言っていることがよくわからなかった。一夏は時たまこう言ったことがあるが、今日は一段と酷い。
「始まるわね」
「……ああ、そうだな」
屋上に備え付けられてある時計が試合開始時刻を告げた。
試合開始を告げるブザーがメインアリーナに鳴り響く。
観衆の盛り上がりはすでに最高潮、溢れ出てくるパッションがアリーナ内部の気温を周囲よりも何度も高くしている。
それとは対象的にこれから戦うことになるヴィシュヌとセシリアの二人は非常に落ち着いていた。
遠距離型のISであるためにヴィシュヌとの間に一定の距離を取ろうとするセシリアに対して、ヴィシュヌは常に距離を一定に保つように動き続ける。
距離が離れてしまえば近接格闘を得意としているヴィシュヌは一気に不利になってしまう。
距離を詰めすぎず、取りすぎず、攻めに移るその瞬間まで耐え忍ぶ。
セシリアとしては一気に距離を取りたいが、ヴィシュヌの操縦の上手さと機体の性能を十分に理解するためにそれが困難であると理解している。
「……」
なので策の一つを切ることにした。
セシリアは僅かに速度を上げると、それに合わせてヴィシュヌも速度を上げて彼女を追いかける。
その瞬間にセシリアはブルーティアーズのスカート装甲からミサイル型のBT兵器を撃ち出した。
「チッ!」
ヴィシュヌはその存在のことについては知っていたが今までの彼女の練習試合を見て来たが、こんな序盤でコレを撃って来たことはなかった。
ヴィシュヌがそれに対して武装『ロウ・アンド・ハイ』で作り出したエネルギーの刃を飛ばして爆発させる。
だがセシリアにとってはヴィシュヌがミサイルに対する僅かな時間でも彼女にとっては非常に十分であった。
ヴィシュヌとの距離を一気に突き放し、彼女は自分の間合いを作り上げる。その距離はたとえヴィシュヌが接近戦を得意とするISがよく使用する瞬時加速を行っても反応できるほどだ。
セシリアはスターライトmkⅢを構え、そしてブルーティアーズという機体名の元にもなったBT兵器『ブルーティアーズ』を四基周囲に展開させる。
ティアーズはヴィシュヌを球場に取り囲む。
「……ふぅ」
ヴィシュヌは息を吐いてさらに気持ちを引き締める。本来ならコレを展開される前に一気にカタをつける予定であった。
コレを展開する前と後では勝てる確率が大幅に変わってくる。
今のヴィシュヌは5機のISに取り囲まれているようなものだ。
(……だが、コレを展開している間は彼女は動けない。それに彼女は接近戦用の武装『インターセプター』を十分に使いこなせてはいない…………勝機があるならそこ)
ヴィシュヌはオルコットの事をある程度研究していたために彼女と戦った際の勝機は考えてある。
そんなことを考えているうちに四基のティアーズから次々とビームが撃ちだされる。
ヴィシュヌはコレを躱しながら、手に拡散弓クラスターボウを呼び出した。大量に矢を撃ちだすコレならば空中をちょこまかと動き回るティアーズを破壊できる可能性が高い。
セシリアもこの装備については知っていたようで、矢を警戒してかティアーズが描く球の半径が大きくなる。
攻撃の要であるビット兵器を破壊されないように最大の注意を払う。
相手が攻撃の届かない位置から取り囲んで一方的に攻撃を仕掛ける。一撃一撃が弱くても、それは真綿で首を絞めるかの如くユックリと相手を底に追い詰めていく。
危険な真似はしない。自分の最善策をこれまでもとってきた。つまらないと貶されることもあった。だが勝たなければ意味がないとセシリア・オルコットは思っている。
(勝負は一瞬!一気に決めないと負ける!)
ヴィシュヌはクラスターボウで攻撃を続けながら僅かな隙を探す。このままいけば負けるのが目に見えている。だからこそ、隙を見つけて一気に勝負を決める必要がある。
──そして隙が生まれる
それはクラスターボウを警戒しすぎてしまったがために生まれてしまった隙だ。ヴィシュヌはそれ。本能的にニオイで感じ取った。
この機を逃せば次がないことも理解した。
クラスターボウを収縮して一気に距離を詰める。
瞬時加速、ヴィシュヌは元々この技術を得意にしていたが一夏からのレッスンを受けたことによってそのレベルは入学前とは比較にならないほど上がっている。
(向こうは切り札を隠してる)
セシリアがブルーティアーズに残っていたミサイル型のBT兵器を発射する。彼女本人としては使いたくなかったが、使わなければ距離を詰められ不利になると判断した。
(来た!)
ヴィシュヌはこの攻撃を予測していた。飛んできたミサイルを無駄な動きなく躱し、すれ違いざまに脚部のエネルギーの刃で切り落とす。
さらに一夏から習っていた二段瞬時加速を行い先ほどよりも速い速度で距離を詰める。
(この速度なら武装は出せない!)
ヴィシュヌは勝利のニオイを嗅いだ。
ハイアンドロウの刃がセシリアを捉えるまさにその時であった。
セシリアが持っていたスターライトmkⅢの銃口から伸びたエネルギーの刃がハイアンドロウの一撃を受け止めた。
「は!?」
ヴィシュヌは予想外だった。こんな武器があるとは一切知らされていなかったからだ。
「予想外でしょう。なにせ私もこれを実戦でやるのは初めてですから。理論上は可能と言われていたので、練習した甲斐がありましたわ。特に、貴方のような接近戦を得意とする相手に対しては!!」
セシリアが刃を振るいながら後ろに下がる。元々接近戦用ではなく、近づいてきた相手との距離を取るための技のようだ。
「折角です。未完成でしたので使うつもりはありませんでしたが…………それも言ってられないようですわ」
セシリアが銃口から伸びる刃を解除して銃口をヴィシュヌに向ける。そして引き金を引き、ビームが放たれる。
ヴィシュヌはそれを躱した。
しかし、躱したはずのビームがヴィシュヌの背中に直撃した。
何が起きたのか、ヴィシュヌは直ぐに理解した。
「偏光射撃!?」
「ご名答!」
続け様に数発放たれる。それらは全て直進せずにカーブを描きながらヴィシュヌに襲い掛かる。
「まさか偏光射撃ができるなんて………」
一気に追い詰められる。十数秒ほど前の優勢がなくなり、一気に劣勢に追いやられる。
同じ代表候補生でも相手は次期代表筆頭、かなりの実力差があったようだ。
(でも、負けたくない)
ヴィシュヌは訓練を手伝ってくれた一夏のために負けるわけにはいかなかった。
距離を取り、仕切り直す。
そして、天から何かが降ってきた。
「ん?」
時を遡ること数分前、屋上でギターを弾いていた一夏は突然演奏を止めて空を見上げる。
「どうしたの、一夏」
彼の直ぐ隣で肩を寄せて座っていた鈴音は一夏の違和感に気がついた。曲の途中なのに突然止め、空を見上げる一夏の横顔を不安げに見つめる。
「…………来る」
「何が?」
一夏の呟きに鈴音は底知れぬ不安が生まれる。
一夏は空を見上げながら、遠い遠い海から飛び出した『ナニカ』の存在を心で感じとる。『ナニカ』の存在は昔に感じたことがある。忘れることはない。あの白騎士事件、姉である織斑千冬が隕石を切り裂いたときに感じた感覚だ。
「……あの時以来だな、久しぶり」
猛速で何かが迫ってくる。誰も、機械でさえもそのことに気が付いてはいない。
ただ一夏だけが第六感で感じ取っている。
白騎士事件の際に隕石が落ちたのは太平洋上、速ければ数分でここにやってくるだろうと彼は推測する。
「鈴、俺昔言ったことあるよな……白騎士事件の時に、隕石から声が聞こえたって」
「ええ、聞いたけど……………まさか」
「ああ、どうやらその声の主が目覚めたみたいだ。そしてこっちに向かってる」
一夏は目を見開き、ユックリと手を空に掲げる。表情はこの学園に入ってきてから一番ワクワクしている。
「俺はあの時歌っていた。束さんに向けて………そして、あいつに向けて!!だから今日の俺は歌うぜ!!」
直後、海から襲来した『ナニカ』がアリーナに降り立った。
「……何が」
「………………」
突然空から何かがアリーナの中心に落下した。突然すぎるその出来事に戦っていたヴィシュヌとセシリアの二人は一時的に戦いを中断して、落下物を確認する。
砂煙に覆われていて肉眼では確認することはできないが、センサーがソレが何かを告げる。
『識別不可能』
少なくともISではない。ISであればコアの反応から分かるはずだ。そして生物であるかどうかも怪しい。
砂煙が晴れて、ソレが姿を表す。
「は?」
「何………ですの?」
それを間近で見た二人は戸惑いを隠せない。それは生物であるが生物ではない。少なくとも地球上の生物の姿をしていない。
ISと同じくらいの大きさで、人型。その色は銀色で、人型と言ったがどちらかと言えば人型のロボット………ロボット生命体というのが正しいのかも知れない。だが、その姿にはどこか女性らしさを感じた。
あまりの異形に二人は息を呑んだ。
異星生命体、そんなものが実際に存在しているとは思ってもいなかった。攻撃を仕掛けるべきなのか、それとも何も仕掛けないべきなのか、二人は判断を管制室にいる千冬にあおぐ。
『二人とも、そのままゆっくり後退しろ。相手を刺激しないように気を付けろ。観客席にいる生徒たちは先生方が避難させている。あと5分で避難が完了する…………もしもの時は迎撃を頼む』
千冬の指示を確認した二人はゆっくりと、熊から逃げるように相手に背を見せずにゆっくりと後ろに下がる。
謎の生命体はそんな二人のことなど気にしていないようで、空を見上げながら首を横に振って周囲の状況を確認している。
「オルコットさん、戦闘になった際の確認をしましょうか」
「………あまり望ましくはないですけど、しないわけにはいかないようですね」
二人は武装を解除しているが、いつでも戦えるように準備している。
「なんだアレは」
管制室の中で織斑千冬は混乱しながらも自分が打つことのできる最善の策を他の教員たちに対して支持する。
教員の動きは速く、生徒たちも事態の危険性を理解しているために素早く静かに避難していく。
「織斑先生……あれは一体………」
隣にいる一組の副担任である山田麻耶が不安げな声で聞いてくる。
「私は知らん、だが今は生徒の避難が最優先だ…………だが、ギャラクシーとオルコットの二人には申し訳ないことをしてる」
千冬の視線の先にはモニターがあり、そこには今も襲撃してきた謎の存在に対して警戒を行なっているヴィシュヌとセシリアがいる。
彼女たちは息を殺し、生命体に警戒されないようにしている。
『織斑先生』
突然管制室に男性の声が聞こえる。
「なんだ、織斑」
この学園に男性は二人しかおらず、そのうち一人は老人であるために声の主は直ぐに分かった。
『今、アリーナに来ている彼女の相手は俺にやらせてください』
一夏が謎の生命体への対応を自ら志願した。だがそれよりも木になることが千冬にはある。
「彼女?どういうことだ。お前は何を知っている」
一夏は謎の生命体のことを彼女と言った。それはつまり彼が謎の生命体について何かを知っているということである。
『そのことについては後で話します。ここでは………言いにくいですから。でも、任せてください。彼女は俺が話しかけます』
「……………わかった。お前がそういうのであれば何らかの考えがあるのだろう。だが、行うのは避難が完了してからだ」
『わかってます』
そして通信が切られる。
「……あの、織斑先生。弟さんに任せて良いんですか?」
「問題ない………と、言いたいな。あいつの考えていることは私にも予想できないことがある…………だが、あいつのあの声色なら心配ないだろう」
『……………?』
謎の生命体が空を見上げ、固まる。
アリーナに残っている二人もそれに釣られて上を見上げると、此方に向けて赤い何かが飛んでくる。
フワリとした動きで着地したソレを生命体は見つめる。
既にアリーナにいた他の生徒たちの避難は完了しており、教員たちはいつでも攻撃を仕掛けられるように隠れている。
「ようやくだ………俺はこの時を待っていた。あの日から………」
アリーナにやってきた一夏の手には赤く燃え盛る炎のような色をしたギターが握られている。
「……一夏?」
ヴィシュヌは突然やってきた一夏に対してまず驚き、次にギターを持ち出して今にも演奏しそうなことに驚く。
「二人とも、あとは任せてくれ。彼女とは俺が語り合う」
「言ってる意味がわかりませんわ、あれが何なのかわからないのに」
セシリアは一夏の言ってることが理解できなかった。だがそれは何の問題もない。この学園にいるほとんどの人間が理解できないのだから。
「まあ、俺にできるのは歌うことだけだ。だから歌で語り合う」
非固定のウイングスラスターに搭載されているスピーカーが起動する。
「………馬鹿ですの?」
「だが、これしか知らねえ!」
一夏がギターを軽く鳴らし、スピーカーから音が出ると謎の生命体は一夏に顔を向けた。
「さあ、聞かせろ。お前の心を、お前の歌で。俺は確かにあの時お前を聞いた。だから、俺も歌う。俺が聞かせる。さあ、俺の歌を聞け!!」
一夏がギターで演奏を始める。それは激しくない、子守唄ような安らぎを感じる音色だ。一夏の機体の色からは想像できないほどの優しい音色がアリーナ全体に響く。
「〜〜♪」
そしてその演奏に合わせるように一夏も優しい歌を歌う。それは話しかけるように、手を差し伸べるような歌い方だ。
「…………」
突然の出来事に対しても謎の生命体は一切の反応を示さない。ただ歌っている一夏を青色の瞳のようなものが捉えている。
そして残された二人は何が起きているのか、そしてこれから何が起きようとしているのか全くわからない。
いきなりやってきたと思ったら歌い始めた。訳がわからない。
「〜〜♪」
歌い続ける一夏は、ヘルメットの奥底から謎の生命体の瞳を見ている。
謎の生命体がゆっくりと右腕を上げ、そして………動き出す。
「え?」
ヴィシュヌは一瞬目をつぶってしまったためにその瞬間を見逃してしまった。
目を閉じる前は腕を上げているだけの謎の生命体が、目を開けた瞬間には一夏の前に迫って腕を振り下ろそうとしていた。
あまりにも速すぎる。
「〜〜♪」
だが一夏はこれを歌を止めることなく、簡単に躱す。続け様に攻撃が飛んでくるが、それを踊るようにかわし続ける。
楽しそうに歌を続ける一夏、そして一曲目が終わる。二曲目が始まると今度は先ほどまでの優しい唄とは打って変わって激しいロック調の歌が始まる。
「ahhhhhh!!!!!!」
激しいシャウトがアリーナにコダマする。
教えろ、お前を教えろ。
一夏の歌声からはそんな想いが伝わってくる。
「………」
謎の生命体の指先からエネルギーが発射される。数にして十、不規則な軌道を描きながら一夏に向けて飛んでくるソレは一夏に近づくと炎華の放つエネルギーの余波によって打ち消される。
「あんな武装があるなんて………」
ヴィシュヌは一夏の乗る炎華にあのような装備があることを知らなかった。何故なら、普段の彼なら簡単にかわしてしまうからだ。
「〜〜♪」
演奏を続ける一夏、そして変化が訪れる。
「☆¥・=¥!!」
人の言葉ではない。どう文字で表現すれば良いのかもわからない、音を謎の生命体が放った。それは彼女なりの言葉なのか、それとも単なる音にすぎないのかこの場にいる誰もわからない。
「………まだだ。もっと、もっと!!お前の歌を聞かせろ!!」
ただ一夏だけがこの出来事に喜んでいる。
演奏が激化する。
「…%=+×・|!!」
生命体の声も激しくなり、直接襲いかかってくる。両腕両足を使った攻撃をするが、一夏は踊るように躱す。
その一人と一体の様子はまるでデュエットで踊っているかのようだった。異質な組み合わせ、だが不思議と美しかった。
「オルコットさん………」
「悔しいですが、私たちにできることは何もありませんわ。織斑さんが何をやろうとしているのかは理解できませんが、今はこれが最善だと思いましょう」
残された二人はこれを見守ることしかできなかった。
一夏には戦うつもりがないことを二人は既に理解している。やろうとしてる事も理解できていないが…………
フワリと一夏が空を舞うと、謎の生命体もそれに連れられるように空に上がる。
そしてこのままゆっくりと時間をかけて歌を歌い、どこにも被害を出させないようにする。
彼女が出現したであろう太平洋上の地点に大人しく帰って貰えば満点の結末。
──だが
一発の弾丸が彼女に直撃した。
発砲を行なったのはアリーナに待機していた一人の教員、ライフルを用いた頭を狙った狙撃。普通ならば頭に直撃すれば死ぬ、つまり殺すために放った攻撃だ。
弾丸が頭に直撃し、動きが止まる謎の生命体。だが体には一切の傷がない。ライフルによる一撃も無傷だ。
一夏は驚き、眼下を確認すると多くの教員たちが謎の生命体に向けて発砲しようと銃を構えている。
「逃げろ!!」
思わず言ってしまった。
彼女と教員たちの射線に割り込むように一夏が動くと、アリーナにいる教員たちの動きが鈍った。
「…………<4=¥」
寂しがっているような、惜しむような音を彼女は出す。彼女には一夏が言ってる言葉を理解していない。だが自分に危険が及んでいることを本能で理解している。
だから、逃げなければならない。
「行け!!」
炎華のウイングスラスターから炎のように燃え盛るエネルギーが放出され、アリーナの屋上を覆うように展開される。それは目眩しになり、さらに蜃気楼のようになりセンサーを僅かに狂わせる。
狙いがつけられなくなった教員は銃を下ろし、最初に発砲した一人は一夏に辞めるように指示を出す。
炎の後ろにいる謎の生命体は別れを惜しみながらも太平洋上の元いた地点に向けて飛び去った。
一夏は遠ざかっていく彼女の気配を感じながら、寂しそうに演奏を続けた。
一夏の乗る炎華は設定上はヤバイことにしてるけど、戦わなければ問題はない。