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「望ちゃん」
僕は雨の中で佇む望むちゃんに声をかけた。
彼が抱いている不安や悲しみが強すぎて…
どうにも痛たまれなくなった僕は、暫くの間彼を見つめた。
彼の口が幽かに動き、顔が悔しそうに歪む。
それを見た刹那、僕もまた奥歯を噛みしめた。
そして…雨の音に掻き消された望ちゃんの静かに頬を流れる涙が、僕の瞳に飛び込んだ瞬間(トキ)
僕は温もりという名の見えないタオルを広げ、強く抱きしめる。
“気色悪い…離さぬか!”
望ちゃんの恥ずかしさに満ちた声が、僕の耳に飛び込んでくるもそのまま抱き続けた。
やがて望ちゃんは諦めたのだろう。彼は抵抗することをやめ、震える腕で僕の体を優しく抱いた。
望ちゃんらしい温かい抱き方だ。
しばしそのままでいた僕たちの体に、本降りと言える雨粒が落ちてくる。
それを合図に、僕はそっと彼から離れた。
名残惜しそうに見た彼の表情は、“まだ話足りない”と訴えていた。
「望ちゃん…仕事だから、行かなくちゃ」
「うむ…」
小さく返事をした彼のを愛おしく思った僕は、敢えて微笑む。
「あっ、そうだ!」
「なんだ普賢…大声をだしをって!」
「誤解をすると嫌だからいうけど…
僕のこの行為は、決して恋愛感情から出たものじゃないからね」
「…じゃぁ、何だ?」
1人の人間として、尊敬しているからこそ出た行動だから…」
「似たようなものではないか!」
“たくっ、恥ずかしい思いをさせおって
こんな言葉に後押しされた僕は、もう1度今度は満面の笑みを浮かべて
「また近いうちに様子を見に来るから」
と、言葉を付け足し、ふわりと空へ舞い上がる。
「もう来んでよいわ!!」
本音を隠している彼の言葉に一瞬気を取られた僕は、これからお世話になる縹夫妻に傘を勧められた望ちゃんの姿を見て、何故か肩の荷が下りた気がした。
「君の身に沢山の不幸が起きた分、それよりもっと多くの幸せがこれから降り注ぐから」
“両手を広げて待っててね!”
僕は家に入っていく彼の姿を瞳で追いながら、そんな事を呟く。
今は届かないこの言葉が、いつか彼の心の片隅に届くだろう…
この先彼がずっとこの地で生きていくことを選ぶかは、誰にも分からない。
だけどね…僕は菩薩になって、君の未来も過去も同時に視られるようになったから分かる。望ちゃんの近い将来は、楽しい事や初めて体験する出来事が一杯で…
仲間にも家族にも恵まれたひとときを送れるんだ。
「僕は、望ちゃんが笑ってくれることをいつも望んでいるよ」
そんな曖昧な確信を抱きながら、僕はこの地を離れた。
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