心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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59話 再会と鼓動~緋の帝都~⑥

 

 

 結局、問題を解かなければならないのは変わりない。

 ブルブランの試練。Ⅶ組は最後の暗号を解いて回った。アリサたちは既に南オスティア街道で待っている。リィンたちはドライケルス広場、そしてカイトたちは帝国時報社だった。

「『紅燿石(カーネリア)の十二時を望む場所』……十二時は終わりであり始まり(0時)でもある、そして小説《カーネリア》の初巻と最終巻のタイトルは《帝国時報》。よってオレたちの最後の鍵は帝国時報社にある」

 カイトたちは最後の暗号を解いた。そして発見したカードは、透明な地にいくつかの文字が途切れ途切れに書かれていた。

 そして先の暗号に書かれてある言葉のとおり、重心であるリィンがいるドライケルス広場に向かう。

 数時間ぶりにⅦ組が集合した。

 リィンたちのカードも、アリサたちのカードも、最後のそれは透明な地。必然重ね合わせるものだと理解する。そして文字が列を作り、文章が浮かび上がってくる。

 

『いざ道は開かれた。重なる心で、諸君らの始まりの地へ馳せ参じよ。紅蓮の小冠はこの手に有り』

 

 一同は、アルト通りへと戻る。カイトとリィンのみならず、他全員の精神的な疲れがほぼ頂点に達していた。ガイウスすら無言になるほどに。

遊撃士協会の扉を開けたのはカイトだ。次にリィンが続き、他のⅦ組が続く。

 協会支部の一階は、扉を開いて正面が受付。そして右手には応接用のソファ-がある。昨日フィオナを交えた大所帯での夕食を食べた場所だ。

「フフ……よくぞ我が試練を乗り越えた。特科クラスⅦ組の諸君」

 白のマント。貴族風の豪奢なアスコットタイや杖。素顔を見せない、翼を模した派手な仮面。

 怪盗紳士ブルブランが普通に、さも当たり前のようにソファーに座って珈琲を飲んで楽しんでいた。

「あ、僕が昨日買ったとっておきの豆を……!」

 マキアスが呻く。この状況でも珈琲豆を気にするあたりは流石だが。

 ケルディックとバリアハートでちょっかいをかけたという変態。つまりフィーを除く全員に面識がある。

 エマとアリサが呻いた。

「ブルブラン男爵……」

「いえ、怪盗紳士ブルブランというわけね」

「ふふ、その通りだ。翡翠華やぐ麗しき乙女たち」

「軟派は結構よ」

「こちらも同じく。間に合っています」

「これは手厳しい。さすがに私のことはそこの騎士(ナイト)から聞いたか」

 ブルブランはカップをソーサラーに置いた。そしてリィンとカイトを見る。

「まあ、そんなに固くなることはない。歓迎しよう、座りたまえ」

「いや、ここ私たちの拠点なんだけど」

 フィーが突っ込んだ。ひたすらに事実である。

 代表してカイトとリィンが座らざるを得ない。他のメンバーは拒否している。

「それで、なんの用だよ変態紳士」

「フフ、君にそう罵られるのも久方ぶりだ」

「窃盗、不法侵入。その他諸々。お前ふざけてんのか」

「これでも大真面目だよ、カイト・レグメント。アラン・リシャールと邂逅したのだろう? 再会の鼓動に震える緋色の帝都だ、その流れに興じるのもまた一興だ」

「うぜぇ」

 めちゃくちゃ双銃を構えたいと思った。

「もう一回その仮面を粉々に割ってやろうか」

「君が護るべき友と主君がいないこの場で、私に勝てるとでも?」

 まったく持って意に介さない変態に、カイトは顔を歪めて獰猛な犬型魔獣のように威嚇する。

 リィンがそんなカイトを手懐けて制し、冷静に聞いた。さすがにこの役目はカイトではなくリィンでないとできない。

「怪盗紳士ブルブラン……《紅蓮の小冠》はどこにやった?」

「話が早いな。リィン・シュバルツァー。約束ではある、それを違えなどしない」

 ブルブランは足元に注目を促した。トランクケースがある。

「……」

「何を躊躇う? 開けてみるがいい」

 ブルブランが持ち上げたトランクは、その辺りにも売っていそうなものではある。だが帝国軍から導力戦車を盗んだり、遊撃士協会支部から看板を盗み取った人間だ。みずぼらしいトランクの中に一億ミラ相当の宝飾があることは有り得る。

 リィンが慎重にトランクを受け取り、後ろに回した。

「……アリサ、ユーシス。確かめてくれ」

「いいだろう」

「ちょ、ちょっと緊張するけど……」

 リィンが向き直った。

「それで……アンタはどうしてこんなことをしでかした? 宝飾そのものが目的じゃないのはわかっている」

「青い果実はいつの時代もそそられる。その滴りを舌で楽しまずして怪盗、美の探求者は名乗れない」

「ど、どう考えても盗賊のやることじゃない気がするけど……」

「エリオット、気にするだけ無駄だろう」

 ガイウスすら断言してしまった。この時点でブルブランを少しでも擁護する人間はいなくなった。そもそも誰も味方ではないけれど。

「もっとも、そこの少年は当時私の眼中にはなかった。そんな存在が私を乗り越えたことは想定外だったのでね。故に視野は広く持たねばと、そう浅学を見直したわけさ」

「一々オレを行動の原因に数えるな」

「それでも、この二年間カイトの前に現れなかったんだろう?」

「ククク……」

 言葉の一つ一つがこちらの神経を逆なでしてくる。カイトとリィンのやけくそな怒りは頂点に達しかけている。仲間たちは同情した。

 ブルブランの指がしなやかに、リィン一人を示した。

「カイト・レグメントのクラスメイト……八葉一刀流を修める少年」

 かつてカイトとリベールの仲間たちを苦しめた奇術を操る執行者。仮面越しのその目線が、卑しく光る。相手は数々の常識はずれな窃盗を犯した犯罪者であり、おちゃらけていてもクラス随一の使い手であるカイトが最大限警戒する存在だ。油断などしない。

「私は君に、君の根源に興味があるのだよ。リィン・シュバルツァー」

 リィンの膝に置かれた拳が、強く握られる。

「……どういう、意味だ」

 リィンの()()姿()を実際に見ているのはⅦ組ではカイトだけだ。クロウとパトリックがいたずらに広めるとも思えない。

 カイトは思う。こいつのアンテナはどこに広がってるんだ。

「そのままの意味だ。君の君たる根源。君を構成する全てを知りたい」

「……」

「変態……お前気持ちわるいぞ」

「何よりの褒め言葉だ、カイト・レグメント」

「怪盗紳士ブルブラン……俺のそれをどこで知った」

「美しいもの。強いもの。奇抜なもの……おぞましいもの。光るものは言葉がなくとも伝え広がるもの。君のその力を前に野暮な経緯は不要だ」

「……っ」

「おい変態、これ以上うちのリィンを苦しめんな」

「ふふ、これは失敬。君こそ怒らせるとなかなか困りものだからね」

 カイトは反応に困る。リベールの仲間もいない、異変の時の非常事態でもないのに怪盗紳士を相手にしている。頭がおかしくなりそうだ。

「カイト・レグメント。以前君に対しては、私を打ち破ったことへの賞賛でもある。我が宿敵や姫君……そうではない、美しくもない存在に私が執着するというのは珍しいものなのだよ?」

「こえーよ」

「そしてⅦ組の諸君へは、挨拶さ。青い果実の成長……支え合う姿は美しい。そしてそれが壊れる瞬間も」

 一々こちらの神経を逆なでしてくる。

 カイトはちらりと隣のリィンの様子を伺った。

 ()()姿()を見れば、優しいリィンが自分の中の凶暴さを恐れていることは簡単に理解できる。そのうえで目の前の怪盗紳士は『Ⅶ組が壊れる』という言葉をあろうことか使った。

 中枢塔の一角でブルブランを倒して仮面を破壊した時、少しは紳士な態度を見せてくれたと思ったのだが。本質は全く変わっていない。

 カイトが言い返そうと口を開く前に、後ろからブルブランへの返答がくる。フィーとラウラだ。

「結局変態ってことしかわからないけど。Ⅶ組は強いよ、壊れたりなんかしない」

「同感だな。Ⅶ組の絆はそんな柔なものではない」

 マキアスとユーシスもすかさず。

「みんな、戦いにそれなりには慣れてる。僕やエマ君なら知識も貸せる。今のⅦ組は磐石だ」

「そもそも、怪盗如きが語る土俵などないと知れ」

「よく覚えておこう」

 ブルブランは両手を上げて首をかしげた。笑い声を漏らす。

「カイト・レグメント。君と()()ように元気なクラスメイトじゃないか」

「それ、馬鹿にしてんだろ。そういう性格がリベールでオレに負ける原因になったんだろ」

「それも覚えておこう。そうだ、カイト・レグメント。君には聞きたいこともあった」

「なにがだ!?」

 うざいうざいうざい。後ろで委員長が丸眼鏡を光らせなければすぐさま双銃をぶっぱなしているのに。

「リベールは君の祖国だった。アリシア女王が治める賢しき王国。我ら(結社)と君たちは正面から迎え撃った」

「……」

「ここはエレボニア帝国。闘争によって国を纏め上げた暗黒の国。そこでは味方も敵という概念すら危うい場所だ」

「何が言いたいんだよ?」

 とことんムカつく。仲間たちの故郷を《暗黒の国》と罵りやがった。

「君の信じる同志が牙を向いた時……君は何を思うのかと思ってね」

「はぁ? オレはもうⅦ組の一人だ。今更百日戦役の恨みを燃やそうとしても意味ないぞ」

「そうではない。確かに君たちは仲間たちの絆を信じている。美しい。だが」

 ブルブランが身を乗り出す。

「君の、君たちの信用と信頼を裏切ることになった時……君はどう動く?」

「……ヨシュアみたいに?」

「あれは《白面》殿のお遊び、ヨシュアの意図ではなかっただろう。確かな意志による裏切り、だ」

「……」

 ふざけるな。Ⅶ組の中の誰かが裏切るとでも言うのか。

「フフ、怒りが冷静さに切り替わったな。それでこそ私を倒した騎士」

 ブルブランが立ち上がった。カイトとリィンを見下す。

「カイト・レグメント。リィン・シュバルツァー。そして特科クラスⅦ組。この出会いを祝し、《紅蓮の小冠》はお返しする。これは深き縁の始まり。また再会する時を楽しみにしている」

 動き出すブルブランに対し、誰も動くことができなかった。カイトも事前に「下手に戦わないほうがいい」と伝えているし、見逃すことしかできない。

 結局、ブルブランは去っていった。

 たっぷり十秒ほどの沈黙を経て、仲間たちが大きくため息を漏らす。

「ああああ!! あいっ……変わらずあの変態紳士むかつく!!」

 カイトが頭を掻きむしる。虫酸が走るほどだ。

 リィンも珍しく顔を膝下まで落とした。

「……怪盗紳士か。強敵だな」

「あの野郎……下手に勝っちゃったせいで余計変態になっちまった」

「《身喰らう蛇》か……得体の知れない奴らだな」

 後ろのクラスメイトたちも辟易している。たった一回の接触で奴の恐ろしさと気持ち悪さを理解してくれたのなら、悪くはない結果だったというべきか。そもそも会いたくもない相手なのだが。

「カイト。《リベールの異変》ではああいった者どもが現れたと言ったな」

 ユーシスが聞いてきた。貴族の御曹司まで疲れている声だ。

「あ、うん。あんなのがあと五人くらいね」

「ご、五人……?」

「他に少年ピエロ、幻術使い、戦闘狂、大鎌振ってくる女の子に、最強の剣士がいたな」

「戦闘狂? 大鎌振ってくる女の子……?」

 エリオットが静かに怯える。いずれも人間を踏み外したおかしい奴らである。

 マキアスがため息を吐いた。

「まったく先が思いやられるな……ん?」

 眼鏡のブリッジを触れた矢先、副委員長のARCUSが鳴り響いた。

「もしもし? ああ、父さんか。うん、うん……」

 マキアスが少し遠くへ。エリオットとガイウスが付いていく。

 背もたれに顎を乗せたフィーがリィンとカイトの間に顔をうずめる。

「カイト」

「ん? フィー?」

「ごめん、保健室でカイトからリベールのことを聞いたとき、正直疑ってた」

「へ?」

「『いろいろあったぞ。変態に絡まれたり、変態に絡まれたり……変態に絡まれたり?』って言ってた」

「ええっと、そんなこと言ったっけ?」

「ラウラと喧嘩して相談したとき」

「ふむ、そんなことがあったのか?」

「変態に絡まれたって、本当だったんだ」

「あー、そうね……」

 一方で、アリサとエマがリィンに話しかけている。

「リィンさん、大丈夫ですか?」

「ああ……平気さ。少し予想外のことだったが」

「デリカシーの欠片もない変人だったわね。そもそも盗人に礼儀を求めるのもおかしな話だけど」

「あまり気にしない方がいいですよ。……私たちはリィンさんの味方ですし」

「……ありがとう、二人とも。アリサ、《紅蓮の小冠》は本物だったのか?」

「本物だったぞ」

 アリサではなくユーシスが返した。

「大した審美眼は持っていないが……本物には違いない。既に宝飾店には連絡した。これから店の者が預かりに来ると言っていた」

「よかった……いろいろあるが、まずは盗まれたものが返ってきてよかったよ」

 非常に疲れた様子のリィンだったが、宝飾を取り戻せたことだけには安堵の息を吐くのだった。

「リィン、ごめん。まさかこんなことになるとは」

「カイトのせいじゃない。そもそもⅦ組自体に興味がある口ぶりだった」

「もう忘れよう……戦闘力はともかく、それ以外はたぶん何も考えてない奴だよ。一リジュも糧にならない」

「そうだな、それがいい。少なくとも、不幸な事故でまた会ってしまうまでは」

「嫌な予想だなあ」

「みんな、聞いてくれ!」

 通信を終えたマキアスが、少し慌てた様子で戻ってくる。カイトにちょっかいをかけたフィーたちも、リィンを心配していたアリサたちも、Ⅶ組全員がマキアスに注目した。ユーシスすらもだ。

 全員同じ気持ちなのだろう。この数時間帝都中を走り回ることになり、やっとの思いで最後の暗号を解いたと思ったら自分たちの拠点にさも当たり前のように鍵を開錠されて、挙句カイトとリィンを筆頭にクラス全体を小馬鹿にされ、そして逮捕もせず帰られる虚しさと怒り。

 頼むからもう変態のことなんて忘れさせてくれと思った。そう思いながらマキアスに続きを促した。

「たった今父さんから連絡があった。A班B班ともに午後五時になったら実習活動を切り上げろと」

 マキアスは、特にリィンを見て話す。

「それで……サンクト地区の《聖アストライア女学院》に行くようにとのことだ」

 疲れ切ってたリィンの瞳に、にわかに光が閃くのだった。

 

 

────

 

 

 そうして、各種課題を済ませたⅦ組は何度目かのサンクト地区にやってきた。

 五時、まだ夕方にはならない。夏日なのでわずかに空がオレンジになろうかというところ。

 導力トラムから降りると、エリゼやアリスと同じ黒の制服を来た少女たちが入れ違いトラムに乗り込んでいく。Ⅶ組はそれらをちらりと見ながらすれ違う。逆に少女たちは、カイトたち高等学校の制服が珍しいのか結構な凝視をされた。

 大聖堂を横目に女学院へ。カイトは一度だけ門の前まで来たことがある。マキアスとエリオットはなんとなくこの地区に女学院があることだけ知っていて、リィンは導力トラムの降車地点から何アージュ程どちらの方角に向かうと女学院の門があることまで知っていた。リィン以外のⅦ組の頭に《どシスコン》という言葉が浮かんだ。

 正門前で待つ。トールズとは違い門は閉じられている。中にいるのが男子含めた十代後半の生徒ではなくて、エリゼや彼女よりも年下の中等部学生も含めたうら若き乙女たちが多いからなのだろう。

 カイトから見ても、Ⅶ組のメンバーは華やかなものだ。男女ともにそうなので、正門前にいる時点で三分も待っていれば十代前半の少女たちの黄色い声が聞こえてきた。

 居心地悪くなりつつも、ユーシスやラウラ、ガイウスなどは気にもせず話し続ける。前者二人は貴族社会でも有名なので、黄色い声は驚声に変わる。

 そして、少女たちをかき分け一人がリィンたちの前に現れた。

「兄様……!?」

「エリゼ!?」

 リィンの挙動が途端素早いものに変わった。エリゼ・シュバルツァーだ。

「どうして……って、ここに通ってるんだしおかしくはないか」

 エリゼとアリスの学院来訪は一週間前だ。記憶にも新しい。リィン以外の面々もお互い声を掛け合う。クラスメイトの妹ということで、エリゼは可愛がられている。

 が、再会を喜ぶ以前にエリゼは若干のしかめっ面となっていた。

「兄様たち、ひょっとして五時過ぎにいらっしゃるという十名のお客様……ですか?」

「それじゃあ、エリゼが俺たちを呼んだのか?」

「いえ、わたくしの知り合いです。……まったくもう、本当にいたずら好きなんだからっ……!」

「えっと……エリゼ?」

 リィンが妹がご立腹だ。エリオットやアリサなどは、リィンが学院の屋上で『兄様の馬鹿! わからず屋! 朴念仁!』と罵りを受けていたことを思い出した。

 とはいえ、今回のエリゼの怒りの原因はリィンではないらしい。少女は咳払いをして佇まいを整えると、改めて淑女たる礼儀作法でⅦ組を迎える。

「……コホン、失礼しました。トールズ士官学院・特科クラスⅦ組の皆様」

 未だ乙女たちのざわめきが響く中、注目を集めたエリゼは笑顔を取り繕うのだった。

「ようこそ、聖アストライア女学院へ。エリゼ・シュバルツァー、皆様を本学院の聖餐室までご案内させていただきます」

 エリゼに促されて、Ⅶ組は聖アストライア女学院の敷地内を進む。

 Ⅶ組を女学院に招待したエリゼの知り合いは、女学院の聖餐室にいるのだという。そのまま校舎の中へ入らないのは幸いだったが、それでも下校途中の女学生の注目になってしまってしまった。

 自分たちにとっても女学院は珍しいものだし、視線を真っ直ぐに固定するわけにもいかないので多少は女学生にも目が行く。その度に「お、男の方……!?」とか「ラウラ様だわ……!」だとか、「凛々しくて……素敵な方ですわね……!」とか黄色い声が飛び交うのだ。ちなみに男子だけでなくて、他のアリサやエマなど他の女子にも羨望の眼差しが向けられている。

 先頭で案内するエリゼ。その後ろを歩き、他の女学生に軽い笑顔を振りまいて他ならぬ妹に冷たい怒りを点けさせてしまうリィン。エリゼのつっけんどんとした言葉を最後に会話が切れたところで、カイトはリィンの隣までやって来た。

「エリゼちゃん、アリスももしかしているのかな?」

「はい。アリス先輩が招待したわけではありませんが、恐らくいるはずです」

「いる……はず?」

「何分、招待人はいたずら好きでして。私も先ほど皆様とお会いするまで事情を知らなくて」

「あはは……心中お察しするよ」

 目的の場所にはすぐに着いた。扉の前に立って、エリゼはⅦ組に向かい振り返る。

「御足労をおかけしました。こちらに、本日皆様をお招きした方々がいらっしゃいます」

 実習管理者レーグニッツ知事が許可を出し、Ⅶ組を招待することができる人物。明らかにそのあたりの一般人ではない。

 そして、中に誰がいるのかはすぐに明らかになる。

 エリゼが扉の中に声をかけつつ開いた。

 聖餐室。広い晩餐会会場、高い天井。豪奢なシャンデリア。何十人も入れそうな長テーブル。控えめに備えられた薔薇の花が微かに鼻腔をくすぐる。

 まず一人、アリスがいた。

「一週間ぶりです、皆さん」

 女学院生らしく、淑やかに。しかし彼女は今日の主役ではなかった。一歩下がり、隣の人物にカイトを含めたⅦ組からの視線を譲る。

「ようこそ、トールズ士官学院Ⅶ組の皆さん」

 少女は、服装こそエリゼやアリス、他の女学生と変わらない黒の制服だ。その容姿は見目麗しく、可憐で、愛らしい。ふわふわと揺れる長い金の髪が、その存在感を顕にしている。

 声もまた、聴く者を溶かしていくようだった。

 その少女を見て、誰なのかに気付かなかったのは先の怪盗騒ぎで異邦組と認定された三人だけだ。それ以外の帝国臣民は、ただただ圧倒されていた。

「私はアルフィン。アルフィン・ライゼ。アルノールと申します。どうかよろしくお願いしますね」

 そして──さらにもう一人。

 同じく金髪。この場にいるのが驚くべきことに、少年だ。エリオットと同じように中性的で端正な顔をしていて、少し幼い。服装は貴族のように豪華で、赤い服装。

「ぼ、僕も自己紹介をさせていただきますっ……セドリック・ライゼ・アルノールです」

 エレボニア帝国皇帝ユーゲントが子供たち。帝国の至宝と称される二人が、それぞれ笑顔を向けていたのだ。

 

 








答え合わせ

貴族組
イ『水晶の中の木漏れ陽』マーテル公園
ロ『赤い月の乙女を偲ぶ』七燿教会大聖堂
ハ『学び舎へ至る道』東オスティア街道
ニ『戦乱を平定せし獅子の現在』ドライケルス帝の像

平民組
A『帝都を支えし篭手──誰も見逃しはしない』帝国遊撃士協会西側
B『落ち行く太陽が憩う庭』ヒンメル霊園
C『巡る思念の心臓部を眺めよ』帝都中央駅
D『巡る思念の細血管──走れ』導力トラムの中(南オスティア街道)

異邦組
1『四燿の愛が悦ぶ音』音楽喫茶エトワール
2『白き雛鳥の巣に一番近い場所』リベール大使館
3『世界が一歩進む場所』北オスティア街道
4『紅燿石の十二時を望む場所』帝国時報社



次回、60話「Ⅶ組、飛翔」
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