心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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60話 Ⅶ組、飛翔①

 

 

 聖アストライア女学院、聖餐室。

「もうエリゼ、悪かったから機嫌を直して? ちょっとしたお茶目じゃない」

「知りません。兄たちに話がおありならご勝手にどうぞ」

「もう……アリス先輩? どうしましょう」

「ふふ、いたずら好きの姫様ですから。少しは反省した方がいいと思いますよ?」

「ふう、わたくしに味方はいないのかしら? それはともかく……」

 エリゼ、アリス、そしてアルフィンの会話だ。アリスとアルフィンの静かな笑い方が響いて、同じテーブルについたⅦ組は困惑してしまう。

 ちなみに、唯一長テーブルの上座は誰も座っていない。

 アルフィンはユーシスとラウラ、二人の貴族子女に目を向けた。面識があったらしい。

「ユーシスさん、ラウラさん。お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」

「……殿下こそ。ご無沙汰しておりました」

 ユーシスの声が四月から聞いて恐らくもっとも優しい声色だった。マキアスとカイトが目を剥く。ユーシスがさりげなく流し目で威嚇していた。「さすがにこの場で妙なことはするなよ」と。

「ふふ……お美しくなられましたね」

 ラウラの声もまた柔らかい。女学生から人気が出るのも分かる勇ましさと優しさだった。

 アルフィンは笑った。目線だけは隣でそっぽを向くエリゼに流している。それはとてもいたずら好きな少女の目だ。

「ありがとう。でもラウラさんとはこの学院でご一緒できるかと期待していたのですけど、やっぱりトールズに行ってしまわれたのね」

「剣の道に生きると決めた身ですので。ご期待に添えずに申し訳ありません」

「アンゼリカさんもトールズに行ってしまうし……こうなったら、わたくしも来年そちらに編入しようかしら?」

 まさかのお姫様が軍事学校入り宣言である。そもそも貴族令嬢も入学しているトールズなので、有り得ると思えてしまうところが恐ろしい。

 微笑むアリスと好対照に、エリゼが顔面蒼白になってアルフィンを見た。

「ひ、姫様!?」

「ふふ、やっとこっちを向いてくれたわね」

「あっ……も、もう!」

 今度は頬を膨らませるエリゼであった。再三反応に困るⅦ組である。

 アリス・エリゼは面識がある。やはり招待されたアルフィンたちに注目せざるを得なかった。

 面識があるのはユーシスとラウラだけだ。それ以外の帝国出身のⅦ組が知っているのは帝国時報などで外見を知ってるからだけで、マキアスやエリオットはまだ緊張が隠せていないでいる。

 そんな中、アルフィンはまずリィンに目を向けた。

「リィン・シュバルツァーさん。お噂はかねがね。妹さんからお話はお聞きしていますわ」

「はは……恐縮です。自分の方も、妹から大切な友人に恵まれたと伺っております」

 リィンも貴族だ。普段はユーシスのような態度も見えないが、そのあたりの礼儀作法は持っていた。あくまで固くならず、自然体に。けれど無礼にはならない絶妙な態度で、アルフィンに頭を下げた。

「兄として、礼を言わせてください」

 その様子を見たアルフィンは少し恥ずかしそうにしつつも、目はしっかりとにんまりと笑っている。

「聞いていた通り……いいえ、それ以上ですわね」

「あ」

 カイトは漏れ出た声を抑えた。アルフィンの様子にとても既視感がある。

「あの、リィンさん。お願いがあります」

 忘れてはならない。この少女は他ならぬあのオリビエの妹なのだ。忘れてはならない。忘れてはならない……!

 カイトは表情を変えないようになんとか隠して、それでも怯えていた。オリビエの妹というだけで、自分にとてつもない恐怖を与えてくる。

 オリビエのことだ。弟妹に自分のことを話していてもおかしくはない。その意識を自分に向かせてはならない。

(影に徹するんだカイト・レグメント。今注目はリィンに向いている。リィンを犠牲にするんだ)

 この四ヶ月間苦楽を共にしたクラスメイト相手に女神も驚いて振り向く所業である。

 そうしてアルフィン手製の爆弾が投下された。

「今後妹さんに習って、リィン兄様とお呼びしてもいいですか?」

「……え゛」

 リィンだけではない。カイトを除く全員が何かしらの反応を示していた。口をあんぐり開けたり、持った紅茶のカップをこぼしそうになったり。

 そして淑女然としていたエリゼは叫声に近い声が漏れ出た。

「ひ、姫様ぁ……!?」

「その、事あるごとに妹さんからリィンさんのお話を聞いているうちに、他人とは思えなくなってしまって」

「あ、え、そ、その……殿下?」

 リィンが戸惑う姿というのは何度か見たことはある。アリサとの例の一件であったり、一週間前のエリゼとの喧嘩もある。

 しかし今回は相手が相手だ。これ以上ないくらい混乱している。

「実際にこうしてお会いして、気持ちが抑えきれなくなったんです。私にも兄がおりますし、すぐに慣れると思うのですが……」

 それはアルフィンが慣れる方だろう。リィンはいつまでたっても慣れるわけがない。

「いやいや! さすがに恐れ多いというかっ」

 空になったカップを強く置いた。リィンの声すら防がれる。エリゼによる所作だった。

 そして一言。

「い、い、か、げ、ん、に、し、て、く、だ、さ、い」

 少女の背後に修羅が見えた。カイトの背筋がぶるりと震えた。

「エリゼのケチ。ちょっとくらいいいじゃない」

 すっかりおいてけぼりにされるⅦ組である。

 暴走気味のアルフィン。エリゼやアリス、女学院生でも手がつけられないようだ。

 そして、そんな少女に喉を鳴らす少年が一人。

「まったく、アルフィン。皆さんが困っているじゃないか」

 アルフィンと同じ金髪で、整えられえた短髪。セドリック・ライゼ・アルノール、アルフィンの双子の弟だ。こちらの雰囲気は、アルフィンとは打って変わって大人しいものだった。

 アルフィンは言い返す。

「貴方は少し真面目すぎるの。……それよりもほら、セドリックこそ皆さんにお会いしたくて仕方なかったんでしょうに」

 そうして促され、セドリックはやっと最初の挨拶以降の第二声をⅦ組に向けて出した。

「コ、コホン……遅れましたが、ユーシスさん、ラウラさん。お久しぶりです」

 まずはアルフィンと同じく面識のある二人へ。

「はい、セドリック殿下こそ。去年の夏至祭の祝賀会以来でしょうか」

「……お二人ともそれぞれ剣技を磨いていると聞いています。僕は全然成長できてないと思うんですけど」

 ラウラが首を振った。

「そんなことはありません。一年前よりも一層精悍になられている。帝国臣民として、頼もしく感じます」

「あはは……お世辞でも嬉しいです」

 セドリックは困ったように笑っていた。

 ラウラが話を変えた。アルフィンとセドリックに向けてだ。

「しかし……我らを招待していただいたのは両殿下とエリゼ嬢からお聞きしたのですが」

「それはもう、わたくしたちもⅦ組の方々のお話は聞いていたので。一度お会いしたかったのです」

 先の会話を見れば丸分かりだ。アルフィンは確実にリィンを弄んで楽しんでいる。というかエリゼをからかうのも理由の一つに入っているんだろうけれど。

「わたくしはやっぱり、リィンさんとですが……ほら、セドリック」

「う、うるさいなアルフィン」

 そしてアルフィンに笑われたセドリックがめんどくさそうに頭をかいて、そして他のⅦ組を、カイトを見た。

「あ、あの、カイトさんですよね?」

「え、は、はい」

 急に話しが振られたものだからどもってしまった。カイトは冷や汗をかいた。

(あ、嫌な予感がする。まずいぞこれ)

 ユーシスとマキアスはこっち見んな。「なんで殿下がお前のことを知っている」とかそんな顔すんな。オレだって知らねぇよ。いや想像はつくんだけど

 アルフィンが口を開いた。

「セドリックもわたくしも、リィンさんだけではなくてカイトさんにもお会いしたかったんです」

「あ、あはは……恐縮です」

「僕、カイトさんのお話を是非お聞きしたかったんです! 《リベールの異変》の顛末を……!」

「友情や愛情を胸に、強敵たちと渡り合う……わたくしたち、胸が熱くなってしまいまして!」

 目を輝かせ、言葉の上ではあるがカイトに迫る帝国の至宝二人。帝国の皇子と皇女だ。さすがに戸惑ってしまう。

「あはは……お褒めいただいて光栄ですよ。あの人から聞いたんですよね?」

「はい……! 僕も、カイトさんが《怪盗紳士》に啖呵を切った台詞が忘れられなくて」

「わたくしは、カイトさんのクローゼさんに対する真っ直ぐな想いに心を打たれて……!」

「えっとまあ、たしかに啖呵は切りましたけど」

 一体どういうふうに話したんだ。そんな神格化されるようなことじゃないぞ。

 興奮冷めやらぬセドリックが言った。

「『お前は何かを盗む《だけ》しかできない。そんな輩にこのオレは負けない。お前を倒してこの国を護る』なんて、皇太子として憧れてしまいます」

「……オレそんなに強気に言ったかなあ?」

 なんか誇張して伝えられてないか。

 カイトは仲間たちに向き直った。

「あの、みんな? 沈黙が怖いんだけど」

 アリサが「とは言ってもねぇ……」とため息を吐く。「いろいろ衝撃発言も驚きだけど」とエリオットが漏らして、「我らが帝国の至宝に『輩』とか不用意な言葉を覚えさせるのは……」とラウラが苦々しく言って、「さすがに見過ごせませんよ」とエマが目を伏せる。

 カイトが思わず叫んだ。

「オレのせいじゃない……!」

 あの変態のせいだ。といってもⅦ組の面々は一向に信じてくれないのだが。

 フィーが唯一いつもどおりの低いテンションで言った。

「あ、ユーシスの顔が怖い」

「ひっ……!」

 公爵家御子息の空気がめちゃくちゃ怖かった。腕を組んでいる。後ろに悪魔が見える見える。だからオレのせいじゃないっての……!

 そこにアルフィンが火をくべた。

「わたくしは『オレは、姉さんのことが諦めきれない……! 世界中の誰よりも愛してる!』というのが。同じ女子として、憧れてしまいます……!」

「オレと姉さんの二人での会話なんて、あの人が知る由もないでしょうっ!?」

 だから創作が過ぎる。一介の少年遊撃士なだけなのに、あの変態は本当に何を吹き込んだ。

 最初、リィンが標的にされている時の目論見はとうに失敗していた。もうカイトは完全にまな板に置かれた食材である。

 が、そこに救いの手が一つ。アリスが柔らかくたしなめた。

「姫様、セドリック殿下。あまりカイトさんを困らせないでくださいね?」

「あら、ごめんなさい。アリス先輩と二人、裏社会の晩餐会で火遊びした仲ですものね。少し嫉妬しちゃいます?」

「ふふ、違いますよ」

「胃が痛い……」

 カイトが腹を抱える。というか競売会のことはアリスが話したんだろう。自分はミュラーにしか伝えていない。それアリスのことは話していないのだ。

 そしてクラスの、特にユーシスの視線が痛い。そんな目で見るな。怒りの視線を向けるな。ついにエマやラウラまで訝しい目線を向けてきてるじゃないか。

 アリサが一つ疑問符。

「……その、両殿下はどうしてカイトのことを?」

「あら、カイトさん。話していないんですの?」

 カイトが両手をぶんぶんと振った。

「い、いやいや! さすがに簡単に明かせることではないですし!」

 仲間たちに先んじて遊撃士時代の経験を話したカイトだが、さすがにオリビエのことだけは言っていない。特にユーシスなどは、ルーファスとの邂逅を明かしただけで凄まじい剣幕になったのだ。気軽に話せるわけがない。それに、オリビエの意思を邪魔したくもなかった。

 だが、今回ばかりは隠しようがない。アルフィンはⅦ組メンバーに向かって微笑んだ。

「わたくしたちがカイトさんのことを知っているのは当然のことです。だって──わたくしたちのお兄様の無二の親友である方ですもの」

 ……沈黙。驚いていないのはアリスやエリゼだけ。Ⅶ組メンバーの思考が停止している。

「殿下の兄君ということは……」

「リィンのこと?」

「フィーさん、それは違うんです……」

 勘違いするⅦ組妹分にエリゼが困ったように言った。

 が、頭のいい面子の多いⅦ組である。すぐに一同状況は理解する。

「ま、まさか去年リベールに赴かれた……」

 マキアスが狼狽した様子だ。

 そして、響くリュートの音。

「ふっ、そういうことさっ」

 女学生でもセドリックでも、Ⅶ組生徒でもない男性の声。面白がり、悦に入ったような男の嬌声。

 現れたのは、紅いコートにやはりリュートを演奏している金髪の青年。カイトには誰なのか一発で分かる。

 誰だ、という他のⅦ組の思考を察してか、男性──オリビエは言う。

「世を偲ぶ女学院の音楽教師でね」

「あちゃー……」

 カイトが頭を抱えた。

「汚れなき乙女の園に迷い込んだ愛の狩人……うーん、ロマンなんだが」

「まじかよぉ……」

 カイトが頭を抱え続ける。自国でもそのノリは変わらないのかよ。

 アルフィンが立ち上がった。そしてオリビエの後ろまで行って、女学生らしからぬ予備動作で腕を振りかぶった。

 そのまま小さくジャンプしてオリビエの頭に盛大なロイヤルチョップ。

「えいっ」

「あたっ」

 帝国の至宝の片割れの所業に、Ⅶ組が目を剥いた。

「お兄様、そのくらいで。皆さん引いてらっしゃいますわ」

「ふっ、さすがは我が妹。なかなかのツッコミじゃないか」

 そしてセドリックも、若干困ったように笑ってしまう。

 アルフィンが話した『お兄様の無二の親友』という言葉と、今の二人の言動。Ⅶ組もいよいよ目の前の青年の正体に察しが付いてきて、「ま、まさか……!」という声も聞かれる。

「ふふ、それじゃあ名乗らせてもらおう。オリヴァルト・ライゼ・アルノール──通称《放蕩皇子》さ」

 青年──オリヴァルト──オリビエは、そうしてⅦ組メンバーと、そしてカイトを見る。

「トールズ士官学院のお飾りの理事長で、そしてカイト君──君たちのクラスメイトとかつて背中を預けあった友でもある。よろしく頼むよ、Ⅶ組の諸君」

 一転して真面目な、真摯な笑みだった。リュートを置き、オリビエは上座につく。

 女学院に呼ばれることに戸惑った。アルフィンとセドリック、二人だけでも驚きだった。

 そして今、目の前にいるのは帝国の社交界を二分する放蕩皇子。エリオットやマキアスなどは既に思考停止しかけている。

 カイトだって例外ではない。帝国軍との国境線交渉の時のように、出し抜かれた気分だった。

「改めて……ようこそ、Ⅶ組の諸君。今回直接招いたのはアルフィンだが、話をしたかったという発端はトールズの理事長たる私の方でね」

「学院の理事長をされているのが皇族の方というのは知っていましたが……今回のこの席も殿下が?」

 リィンが聞き返す。先ほどアルフィンにからかわれていたが、その矛先がカイトに向いていたので調子を取り戻したらしい。

「はっはっは、驚くのも無理はない。今をときめく放蕩皇子が伝統ある士官学院の理事長なんてやってるんだからねえ。あまり聞こえがよろしくないのは確かだろうね」

「あ、兄上……」

「お兄様、ご自分でそれを言ったら身も蓋もありませんわ」

 自虐心丸出しである。皇族の長男がそれを言っては他のメンバーも何も言えなくなる。

「元々トールズの理事長職は皇族の人間が勤める慣わしでね。私も名ばかりではあったんだが──そう、一昨年のリベール旅行で心を入れ替えたんだ」

 今までになくオリビエの空気が柔らかい。カイトとしてはそこにも違和感を感じるが。

 フィーがカイトに目を向ける。

「カイト、もしかして知ってた?」

「……ああ」

 カイトはため息を吐いた。

 ユーシスどころかマキアスまでカイトに訝しげな目線を向けている。「今日話したんだからお前も話せ」という顔だ、あれは。だんだんARCUSがなくても理解できるようになってきた。

「……わかった、白状するよ」

 言わなくてもⅦ組の面々は察しているだろうが、エリオットやマキアスのように、自分から話すのが筋だ。

「オレをトールズに推薦してくれた人。それが他ならない、オリヴァルト殿下なんだ」

 そして、この推薦人の話を以前はノルドへ向かう列車の中でしていた。リィン、アリサ、エマ、ガイウスが合点のいった顔になる。

「Ⅶ組のことも入学前から存在だけは知っててさ。といっても何をする場所かまでは知らなかったけど」

「ふふ、カイト君にはあえて何も言わなかったからね。君の驚く顔を見れなかったことだけが心残りだが」

「まったく……」

 こちらは帝国皇族としてのオリビエなのだから、カイト自身いつもの態度で接しかねる。

「一昨年のリベール旅行……カイトさんも言っていた《リベールの異変》ですね」

「そこでカイトと出会った、ということですか」

 エマとガイウスが聞いて、それにオリビエが頷く。

「ああ。あの危機において、私はかけがえのない出会いと経験をしたんだ。いくつもの忘れられない出来事があった。それが、帰国後の私の行動を決定づけた」

 オリビエはアルノール家の長男だが、リベールに来る以前は社交界にほとんど出ていなかった。

 今、オリビエはルーファスとともに帝国の社交界の話題を二分している。それがオリビエがカイトにも話した『ある敵を倒す』戦いのための一手であるというのは、カイトも察している。

 カイトがリベールからクロスベルに旅立った一年半ほど前、オリビエはまずアルセイユで帝都へ華々しい凱旋を果たした。そこから第一皇子の立場を利用して行動するための地盤を整えている。

「そしていくつかの『悪あがき』をさせてもらっているんだ」

 オリビエは、そうしてカイトを見る。

「カイト君とは、その異変の中で友情を深めてね。君たちも知っての通り遊撃士としての才覚に溢れている」

「そうだったのですか……」

「とてもそうは見えませんが」

「おいマキアス、ユーシス、殴るぞ」

 こんなところでも喧嘩友達二人の印象は変わらないのかよ。

「カイト君は僕を助けてくれたし、リベールのことを教えてくれた。そのお礼に、帝国への道筋を提案させてもらったのさ」

「いや、実際のところは貴方がオレに頼んだんでしょうに。トールズに来てほしいって」

 軽い口ぶりでカイトはオリビエに返答する。オリビエもまた、「そうだったかい?」とおちゃらけた様子だ。

 その様子を、アルフィンとセドリックは頼もしげに見ていた。そしてⅦ組の面々は、カイトの今までになく、そしてオリビエと気安く話す様子に不思議な感覚を覚える。

「その悪あがきの一つが……」

 リィンが言う。オリビエは満を辞して答えた。

「そう、トールズ士官学院に新たな《風》を巻き起こすこと……すなわち君たち、特科クラスⅦ組を設立することだった」

 マキアスが当初は否定し、Ⅶ組の全員が振り回された身分に関係のないクラスというⅦ組の采配。特別実習という名目で帝国各地に向かわせること。ARCUSの適性という条件があったにせよ、全てオリビエの発案だ。

 全て……エレボニア帝国で起きている二大派閥の対立という問題を意識させることに繋がっている。無論、そこからどういう選択をするかも、各自の自主性に委ねられているけれど。

「……私は現実に、様々な壁が存在するのをまずは知ってもらいたかった。貴族派と革新派だけではない。帝都と地方。伝統や宗教と技術革新。帝国とそれ以外の国や自治州までも……」

 公爵家の御曹司と帝都知事の息子がいた。騎士道を貫く少女と戦場で生きた少女がいた。帝国と縁ある遊牧民と、かつて帝国と争った小国の留学生がいた。

 帝国軍人の息子も、何者でもない平民の少女も、帝国を支える武器商人の連なりも、全てを抱え込む重心もいる。このクラスで過ごすだけで、帝国という周辺諸国に影響を与える国の問題は牙を向いてくる。

「そして各地で生じている衝突。この激動の時代において必ず現れる壁から、目を背けず自ら考えて主体的に行動する──そんな資質を、若い世代に期待したいと思っているのだよ」

 かつて、エステルやヨシュアがクーデターを防いだ時に培った力であり、太陽の少女に絆された仲間たちが結社の陰謀を跳ね除ける遠因となった資質だ。

 遊撃士にも似た実習での行動基準。身分や立場によって行動を強く決める規律が求められる帝国で、その殻を破るⅦ組という枠組み。

 カイトが最高だと思ったⅦ組は、オリビエやカイトが異変で見出した希望が表れている。

 オリビエの、Ⅶ組の産みの親のその言葉に、子供たちは神妙な顔つきとなった。

 エリオットがたどたどしく言った。

「正直、身に余る期待ですけど」

「ですがようやく、いろいろなものに合点が言った心境です」

 ラウラが力強く言い切った。オリビエは静かに聞き入っていた。

 四月始まった帝国各地への実習。仲間と心をぶつけ合って、生じた問題に向き合って。オリビエの言った資質を得られたという手応えがⅦ組の中には確実にある。

 オリビエは続ける。

「Ⅶ組の発起人は私だが、既にその運用からは外れている。それでも一度、君たちに今の話だけは伝えたいと思っていたんだ」

 そうして、アルフィンがセドリックやアリス、エリゼも巻き込んで今日の席を用意した。それがⅦ組が集められた理由だった。

「ふふ、お兄様のため、というのもありますけど」

 アルフィンが笑う。リィンとカイトを見た。

「エリゼの大切なお兄さんに、お兄様の親友のカイトさん。お二人に、どうしてもお会いしたかったというのもありますから」

「ふふ、さすが我が妹。抜け目がないじゃないか」

 オリビエがカイトを見て笑った。

「僕もカイト君の活躍は弟と妹に話した。セドリックも慣れない女学院に来てまで、カイト君と話したがっていたんだよ?」

「あ、兄上……!」

「オリビエさん、ちょっと悪ふざけが過ぎるんですよ……」

 カイトはため息をついた。さすがに五十万ミラのワインをタダ飲みして捕まったりとか、仲間を騙しこんで盛大な茶番劇を演じたりとか、そこまでのはっちゃけぶりはしないが、やはり質実剛健の帝国人の皇子としては軽妙な発言が目立つ。

 カイトは自分がいるからだろうかと、変な心配をすることになった。

「どうだい、カイト君。少し君の武勇伝を話してくれてもいいんだよ?」

「ちょっと興味あるかも」

「確かに、《リベールの異変》の概要は表面しか聞いていないからね」

 フィーやエリオットまでもが追い打ちをかけてくる。

 カイトは何度目かもわからないため息を吐いた。そろそろ仲間たちの誰かに同情して欲しい。

 ガイウスを見た。静かに笑顔を返された。それだけ。

 ユーシスを見た。憮然とした表情をしている。怖い。

 エマに助けを求める。丸眼鏡が光る。味方はいない。

「ちょっと同情するわ……」

「アリサ……!」

 常に自分を信じてくれなかったアリサがついに優しくしてくれた。だがそれだけだったけど。

 カイトは諦めた。

「……はぁ。それじゃ、少しだけですよ?」

 せっかく話を聞きたいと言ってくれたセドリックもいる。セドリックだけは物静かで大人しいのが少しだけ好感を持てたのもある。

 別にアルフィンも可愛らしくはあるのだが、カイトにとってはリィンに対する言動とオリビエの妹という条件だけで警戒心が上がるものだった。

「リベールでの旅は……オレにとっての『忘れられない旅』なんです」

 意を決して、カイトは過去の出来事を語る──

 

 

 








閃Ⅰ『Ⅶ組、始動』
閃Ⅱ『Ⅶ組、集結』
閃Ⅲ『Ⅶ組、帰還』
閃Ⅳ『Ⅶ組、反攻』

心Ⅱ『Ⅶ組、飛翔』



いつかのバルフレイム宮
オリビエ「かくかくしかじか……で、カイト君がリベールで活躍したのさ」
セドリック「そんな立派な方が……是非お会いしてみたいです……」
アルフィン「あら、Ⅶ組といったら……」
兄「ふむ、どうかしたのかい?」
妹「わたくしの親友のお兄様がいるはずです」
オリ兄「ほう……これはなかなかの偶然だ」
妹「そうだ! お兄様、ご提案が──」
兄「ふむ」
妹「──ということで、女学院に招待してはいかがでしょう? わたくしもリィンさんやカイトさんにお会いしてみたいですわ」
兄「さすが我が妹! いい提案じゃないか」
弟「ちょっとアルフィン……とてつもなく羨ましいんだけど」
妹「なに言ってるのよセドリック。あなたも一緒に行くのよ?」
弟「え」
妹「さすがにカイトさんを独り占めはしないから。沢山お話しましょう!」
兄「いい機会だ。乙女の花園。社交界ではないが、セドリックもそろそろ慣れていい」
弟「兄上!?」
妹「いっそのことわたくしの制服を貸すから、ウィッグもつけて女学院に潜り込みましょう。どっちに転がっても乙女(わたくし)たちにはご褒美です!」
弟「さすがに制服のサイズは僕のほうが大きいからね!? というか合っても着ないからね!?」
変態「カイト君たちⅦ組との邂逅。ふふ、楽しみだ」
変態妹「ええ、本当に。リィンさんにカイトさんに……女学院にセドリック!」
弟「(そりゃカイトさんとは話してみたいけど──)ねぇ、二人ともぉ!?」

だいたいアルフィンのせい
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