オリビエの話が終わり、アルフィンのリィンとエリゼへのからかいも終わり、セドリックのカイトへの質問も終わった。招待人たちはⅦ組たちに食事も勧める。それらも全て終わり、いよいよ特別実習中の晩餐会も幕引きだ。
だがⅦ組にとっては皇族とのまたとない会話の機会でもある。名残惜しく、全員が立ち上がっても会話は続いていた。
エリゼとリィンの兄妹に、ラウラが打ち解ける。
アリスとユーシスの関係に、マキアスが珍しく割って入る。
アルフィンの可愛らしさにアリサとエリオットがしどろもどろとなっていて。
セドリックが少し緊張しながらガイウスと話し、そこにエマとフィーが加わっている。
オリビエは、そのどれもを眺めて満足そうに笑みを作っていた。ただ一人でいようとしていたⅦ組の産みの親に、カイトは近づいた。
「カイト君」
「……どう呼べばいいんでしょうかね。帝国では、貴方のことを」
「今更な話だね。君が思うように呼んでくれればいい。少なくともこの場に不敬罪で引っ捕える者はいないよ」
「それでもユーシスが頭を叩いてくるんですよ……」
「はっはっは、それは重畳だ。エステル君やヨシュア君以外にも、君が羽目をはずせるような友人ができたようで」
「羽目をはずす相手の筆頭が貴方なんですけどね」
カイトは肩を落とした。オリビエと同じように談笑するクラスメイトを見る。
「どうだい、Ⅶ組は?」
オリビエが聞いてきた。たぶん、一番カイトに聞きたかったことではないかと思う。
カイトは正直に感じたことを答えた。
「最高のクラスですよ」
「そうか……僕としても嬉しい限りだ。悪あがきが無駄ではなかったと証明されたからね」
「ただの一般人の言葉だけで決めないでくださいよ」
「親友の言葉だ。これが証明にならないで何になるっていうんだい?」
「まぁオリビエさんの、オレたちの意志は確実に受け継がれていると思います。というかオレもⅦ組なんですから」
第三の風。帝国に蔓延る問題を解決する糸口になればと、オリビエが求めた主体的に動ける資質。
元々が柔軟なⅦ組のクラスメイトたちだ。当初は頑なだったマキアスも、今では変わってきている。まさに今日自分の過去を話したように。
自分のような存在がいなかったとしても、きっとⅦ組の資質はオリビエが言うように強くしなやかに成長しているのだと思う。
「実習や実技テストのレポート、バレスタイン教官の報告書も逐一読んでいる。僕も満足している。若者の成長を縛り付けるつもりはないが、それでも僕にとっては希望に見えるよ」
「オリビエさん?」
少し、違和感があった。Ⅶ組と話している時、オリビエの態度は皇子でありトールズ理事長としてのそれだった。けれど今、オリビエの態度は弱々しく見えた。カイトにとっては。
カイトには自覚がなかったが、それはオリビエがリベールの仲間たちと共にいる時に出す空気感だ。
そしてオリビエは、他の誰にも聞こえない声でカイトに語った。
「カイト君。帝国の情勢は、やはり厳しい」
「藪から棒……ではない、ですね。オレも実習で各地の事件を見てるし」
「ああ。君の班や別の班が巻き込まれた問題は切実だ。いつどうやって、導火線に火がつくかもわからない」
かつて川蝉亭でエステルとクローゼが語った感覚。リベールでの事件が着火剤となり、大陸各地に張り巡らされた導火線がリベールを通して向かっているような感覚。それは帝国においても例外ではない。
「鉄血宰相も、老獪な貴族たちも、どちらもとてつもなく大きな力だった。帝国に蔓延る彼らはもう、単に排除すればかえって深刻になるほど歯車の一部となっている」
帝国という飛行船をボロボロにした貴族派。そしてそんな飛行船に無理やり油を刺して無茶な操縦をしている鉄血宰相。そんな言葉がカイトの脳裏に閃く。
「人脈を駆使した。放蕩者を演じた。中立派とも縁を繋げた。そして……君たちを集めたんだ」
オリビエがいつになく、帝国臣民の前ですら見せない真摯な態度をとる。
浮遊都市に不時着した後にオリビエの本懐を話した時。あるいは、影の国でカイトをトールズに誘った時。今のオリビエは、それだけ真剣で、苦しそうだった。
「オリビエさん……」
カイトは考える。オリビエと初めて出会った時、ここまで道を共にするとは思ってもみなかった。一時はオリビエを拒絶していたくらいだ。
けれど、今オリビエとの縁は絆となっている。
ここにはオリビエを叩きつけるシェラザードも、太陽の少女エステルも、他のリベールの仲間たちもいない。
ならば、とカイトは声をかける。
「心配するな、とは言いません。けど、希望は持ってくださいよ。オレたちが、オリビエさんのちっぽけな悪あがきを最大の成果にしてみせますから」
「……何よりも、心強い言葉だよ」
「実際、オリビエさんから見てどうなんですか? 激動の時代の予感は」
「……内戦の足音は、確実に迫っている」
「ちくしょう、としか言えないなぁ」
「けど、僕はまだ諦めない。諦めたくない。だから……どうか共に悪あがきに付き合って欲しい」
「何当たり前のことを聞いてるんですか」
カイトは、オリビエの肩に拳を当てた。例えユーシスが見ていたとしても、そうせずにはいられなかった。
「オレは貴方と一緒に戦った仲間です。協力しないわけないじゃないですか」
「カイト君……」
「わかってますよ、オリビエさん。貴方は今、漂白の詩人じゃない。帝国の皇子です。悪ふざけ出来ない分、貴方を後ろから叩くのはオレの役目ですから」
それが、この場にいる自分の役割だとも思った。もちろんミュラーはいるけれど、彼は帝国軍人として動かなければならない時がある。そのミュラーと正反対な遊撃士で、そして学生の立場として、オリビエを焚きつけるのが自分だ。
「だからオリビエさん。貴方は、貴方の思うままにやってください。覚えてますか? オレが川蝉亭で言ったこと」
「お互いに喧嘩をしよう。そう言った時だね」
「その前です」
「その前?」
「はい。オレは貴方になんて言いました?」
「ふむ……」
オリビエは瞑目する。
カイトは今も覚えている。あの時、自分が語った言葉を。
『オリビエさんは、オレたちの仲間です。それは誰もがそう思うでしょう』
『その仲間たちが示して支えてくれた道なら、悪いものではないでしょう』
『その選んだ道を行って、もしもアンタが腑抜けた態度をとっていたのなら』
カイトはオリビエの前に立った。指先で銃を構え、オリビエに向けた。銃口は人差し指、撃鉄は親指にして、殺意でなく不敵な対抗心を銃弾に据える。
「その時は、オレが『ふざけるな』って言ってやりますよ。あんたには随分とむついているんだし」
「……!」
一語一句、間違えずに。オリビエは目を見開いて、そして笑った。
「ああ……頑張ろう、カイト君。内戦なんて結末は、絶対に防ぐ」
「そうですよ。オレを、前みたいに怒らせないでくださいよ?」
「はは、肝に銘じておこう」
オリビエとカイトの会話に、区切りのいいタイミングを待っていたらしいアルフィンも混じってくる。
「お兄様、カイトさん。お話は終わりましたか?」
「おお、アルフィン」
アルフィンは少しだけ上目遣いでカイトを見た。
「カイトさん、今日は本当にありがとうございました」
「アルフィン殿下。こちらこそ、ありがとうございました。こんな素敵な席を用意してくれて」
小さな金髪の少女を見返した。
「さすが、オリヴァルト殿下の妹君ですね」
「うふふ、素敵な褒め言葉です」
アルフィンは茶目っ気たっぷりに返した。
「カイトさんも、お兄様のお話以上に素敵な方でしたわ。それこそ、リィンさんと同じようにダンスに誘いたいくらい」
「あ、あはは……」
だからオリビエの妹は心臓に悪いのだ。
「ヒューッ、我が妹とカイト君の将来か。それはそれで素敵じゃないか」
「だから悪ノリしないでくださいってば」
「うふふ、でも私もアリス先輩に申し訳がありませんので、遠慮しておきますね」
「え」
アルフィンは少しだけ踵を上げて、そっとカイトにそっと耳打ちした。本当だったらアルフィンにそんなことをされたら心臓が跳ねるのかもしれないが、やはり微妙に喜べない。
「カイトさん。先輩のことを、どうか頼みますね」
そんなことを言われた。
「アリスのことを……?」
「先輩からもカイトさんのお話を聞きました。先輩、カイトさんのことをすごく信頼していますから」
少しこそばゆいが、アリスとの信頼関係は確固たるものだと感じている。アルフィンがそう話すということは、アリスも学院でアルフィンたちにそう自分のことを話しているのだろう。
アルフィンが微笑んだ。
「気づいていましたか? わたくしがクローディア殿下のことを話した時、先輩、とっても動揺していましたの」
「え、それって──むぐっ」
すっと、アルフィンはカイトの口先で人差し指を立てた。
「お父様のことで色々と気苦労をしているみたいで。アレスレード伯爵家の噂は色々とありますから」
カイトは静かにアリスに目を向けた。
アリスと目があった。お互いしばらく見つめ合い、そして彼女が近づいてきた。
その間、沈黙することになったカイトにアルフィンが疑問符を浮かべる。
「カイトさん?」
「いえ」
アルフィンに目線を合わせ直し、カイトは微笑んだ。
「わかりました。アリスはオリビエさん以外で、帝国で初めて仲良くなった子ですから」
「では……?」
「任せてください。オレは兄君の親友で、正遊撃士で、Ⅶ組の一人ですからね。知り合いの一人ぐらい、守ってみせますよ」
背筋を張り胸を叩いた。アルフィンもまた微笑んだ。
「そうだ。よければ先輩の誕生日も、一緒に祝ってもらいたいです」
「アリスの誕生日?」
「八月三十一日なんですよ。一ヶ月後です」
「もう、姫様。人のことを勝手に話すのは意地悪ですよ」
話せる距離まで近づいたアリスが少しぶっきらぼうな様子でアルフィンへ返した。
「あら。でもアリス先輩も、カイトさんにお祝いされたら嬉しいでしょう?」
アリスの目が、どことなく鋭くなった。カイトは覚えている。これはクロスベル創立記念祭三日目、ご立腹の時の彼女と同じ目だった。
(そういやあの時アリスってエステルと話したんだよな。変なこと吹き込まれてなきゃいいんだけど)
少なくともエステルがクローゼと自分のことを話していないのは僥倖だった。
「カイトさん」
「んえ? アリス?」
「お姉さんがいたんですね。義理の」
「ああ」
「初恋の」
「ねえ、なんでそこを掘り起こすの……」
「別に?」
「え、なんかアリスが怖いんだけど」
オリビエとアルフィンが笑った。
「ね、先輩。カイトさんにも一緒に祝ってもらいましょうよ?」
「男としても、女性の晴れの日を祝えない不幸はない。カイト君のためにもどうかな? アリス君」
アルノール兄妹がウィンク。
人が人の産まれた日を祝う。別におかしい話ではないのだけれど、カイトとアリスにとっては少しだけ違うものでもある。
帝都で出会って、クロスベルで出会って、黒の競売会で共に戦って。
カイトはそうして、最後に少女の笑顔を見た。月明かりの下、懐かしい笑顔を。
それはとても印象的だったから。
カイトは少し恥ずかしがりながら、諦めたように笑いかけた。
「……わかりました。一緒に祝うよ、アリス」
そんなカイトを見上げて、わずかに目を細めて了承する。
「……うん」
────
エリゼの案内によってⅦ組は皇族やアリスと別れ、女学院の正門へ戻る。
先のアルフィンのからかいもあって、エリゼはリィンに対して一番のツンとした態度を貫いていた。
リィンが何を話しても知らぬ存ぜぬの一点張り。
「それではみなさん、お気をつけてお帰りくださいませ」
それでもリィン以外のⅦ組を前に笑顔を作れるのは彼女が女学院で得た能力なのだろう。アリサやエマを先頭に次々とメンバーが声をかける。
「あの、エリ」
「おやすみなさい。それでは──」
女学院の正門を閉め、エリゼはリィンの弱々しい声かけにも反応を返さない。そのまま夜の闇に消えていくのであった。
「……はぁ」
普段の彼では考えられないほど絶望するリィンに、カイトは無言で肩に手を当てた。カイトの心境と同じ言葉をフィーが吐いた。
「どんまい」
「あはは、でもエリゼちゃんの気持ちもわかるよ」
「エリオットの言うとおりだぞ」
ラウラがうんうんとしきりに頷く。
「まさかアルフィン殿下からあんなお誘いを受けるとはな。隅に置けないではないか、リィン」
「いや、それって俺のせいか?」
言うまでもなく明日の園遊会のダンスの誘いである。それによってエリゼ──とアリサ──が動揺したわけで。
リィンはカイトに目を向けた。
「なあ、カイトならわかってくれるだろ?」
「いや、全然。アルフィン殿下がリィンにお熱の方が助かるんだけど」
「裏切り者……!」
リィンの目が血走っている。ふざけるな。オレはもう変態の毒牙にかかるのはゴメンだぞ。
カイトに怒りかけたリィン。しかしアリサがそれを許さない。
「よかったわね~、リィン? 皇女殿下に、あそこまで、気に入って、もらえるなんて……!」
ユーシスは笑っていた。
「あのままお受けすればよかったじゃないか。
「いや、あり得ないから。たぶん、友人の兄に興味をもたれただけだろう」
そもそもリィンだけでなくカイトにも大きな興味を示していた。からかいの対象はエリゼだけでなく、先輩のアリスにまで多少伸びているのも事実だったりする。
「本気という感じでもなかったし、妹込みでからかっているだけさ」
「ですがそれだけでもないような」
「委員長、それを言わないでくれ……」
「あ、あはは……」
委員長エマの苦笑を受け、副委員長マキアスが大きく息を吐いた。
「しかし心臓に悪いというか、こっちもハラハラしたぞ。オリヴァルト殿下も噂以上の方だったしな」
出し抜けにユーシスがカイトの頭を鷲掴みにした。
「痛っ! 何すんだ!?」
「心臓に悪いというならこいつの言動だ。帝国臣民として、こいつは刑に処さねばならない」
「なんて物騒な! それってオレのせいか!?」
「当たり前だ、阿呆め」
先ほどのリィンと全く同じ言葉を使っていることに気づいていないカイトであった。
ユーシスの奇行に自分の味方が増える……と思いきやそうではないようで、ラウラも笑いながらではあるがユーシスに同意している。
「うん、そうだな。帝国の至宝であるお二人からも羨望の目を向けられる……臣民からすればこれほど羨ましいことはない」
「僕もそう思うぞ。特に帝都民に知られたら……」
「リィンとアルフィン殿下のダンスの件じゃないけど、帝国時報の注目の的だよね」
マキアスとエリオットの帝都組がそう言ってくる。ついでにアリサも。
「本当よ。オリヴァルト殿下と親しい仲だったなんて……しかもトールズ入学の推薦者ですって? ノルド行きの列車の時に正直に言いなさいよね」
「いや、オレはオリビエさんの意を汲んだんだけど」
「何よりもだ」
再びのユーシス。
「オリヴァルト殿下に気安く語りかけ、あまつさえ脅しかけ……殿下が許しても俺が許さん」
カイトがすかさず反論した。
「いや、そもそもリベールの頃のオリビエさんは皇子だなんて一言も言わない、しかも川のど真ん中でボート漕いでリュート弾いて馬鹿騒ぎするような変態だったんだぞ!?」
ワインをタダ飲みして捕まったことを話さないだけでも温情だというのに。むしろどれだけオレがあの変態皇子に恩を売っていると思うのだ。
それでも納得の行かないユーシス。カイトの両の肩を掴み、そして殺気のこもった眼光を飛ばした、
「今日は寝れないと思え」
「睡眠を縛るのは女神も恐れる愚行だぞ!?」
「あ、貴方たちねぇ……」
「そういう言葉選びは一部の人に刺さるんですよ……」
リィンがエマのぼやきに疑問を浮かべた。
「委員長?」
「あ、いえ! 別になんでも……!」
「もう、オレの味方なのは帝国人じゃないガイウスとフィーだけじゃないか……」
「別に味方じゃないけど。でも、面白いヒトっていうのは同じ」
「うむ。愉快な御仁だったな」
「あの軽妙さはともかく、改めて気が引き締まったな。それ以外にも気になる情報を教えてくれたし」
リィンがまとめた。さすがの重心である。
「母様をはじめとした私たちの親兄弟。それにサラ教官の経歴よね」
「ちょっと驚きだったよね。遊撃士かぁ……最近見かけなくなったけど」
「まあ僕たちのクラスメイトに一人現役の遊撃士がいるわけだが」
「A級遊撃士といえば実質上の最高ランクだ。フィーとカイトは知っていたのだな?」
ラウラが聞く。
「ん、猟兵団の商売敵としても有名だったし。何度か団の作戦でやりあったこともあるかな」
「実は、サラ教官のことは二つ名しか知らなかったんだ。サラ教官がリィンとマキアスとユーシスをボコボコにした時気づいた」
『おい』
二人の声が重なった。それらを誰かが突っ込むより早く、Ⅶ組の背後から女性の声がした。
「うーん、カイトとフィー以外にもバレちゃったか」
サラの声だが彼女一人ではない。隣にはクレア大尉もいる。珍しい組み合わせだった。
「みなさん、こんばんは。帝都での実習も順調そうですね」
「知事閣下の伝言を伝えるけど、明日の実習課題は一時保留よ。代わりにこのお姉さんたちの悪巧みに協力することになりそうね」
前日、特別実習の開始時にはあくまで言ったとおり場所を提供しただけとは言うが、こうも連続して頭を合わせるといよいよ勘ぐる部分はある。
「悪巧み……?」
どちらかといえば悪い顔をしているのはサラではないか、とはカイトは賢明にも口に出さなかった。
「ふぅ、サラさん。先入観を与えないでください」
クレア大尉が突っ込みつつ、改めてⅦ組に向き直った。
「実はⅦ組の皆さんに協力していただきたいことがありまして。知事閣下に相談したところ、こういった段取りとなりました」
クレア大尉はその尉官から、当然の如く部下を指揮する立場にある。その事実に違わず、狙ったかのように搬送用の導力車両が二台やってきた。サンクト地区には少し似つかわしくない、鉄道憲兵隊の紋章が描かれたものだ。
「どうぞお乗りください。帝都中央駅の司令所にて事情を説明させていただきます」
Ⅶ組とサラの十一人はクレア大尉によって連れられ、前日もレーグニッツ知事と話したブリーフィングルームにやってきた。
クレア大尉が説明したその
「テ、テロリスト……!?」
Ⅶ組のリアクション担当マキアスが驚く。といっても、彼の場合は仕方ない。毎月の実習の中で、
クレア大尉は神妙にして頷く。
「ええ、そういった名前で呼称せざるを得ないでしょう。ですが目的も、所属メンバーも、規模とする背景すらも不明。名称すら確定していない組織です」
「ノルドの地を戦火に沈めようとした、あの男……」
「セントアークでも、カイトが接触したんだよね」
ガイウスとフィーが言う。《G》と《C》のことだ。そしてGはケルディックでも関与したことが半ば確定している。
「《ギデオン》……そう言っていたわね」
「確かに、テロリストとしか言いようのない下郎どもか」
アリサとユーシスが呟いた。
そしてクレア大尉は続けた。
「各地の実習でも皆さんが接触した彼らが明日、夏至祭初日に行動を起こす。
帝都の夏至祭は三日間をかけて催される。他の地方では一ヶ月早く行われることや、帝都では盛り上がりが初日くらいしかないのも異なる。
「ケルディックで暗躍し、セントアークで騒動を起こし、ノルドで戦争を引き起こそうとした……彼らが次に何かをするならば、明日である可能性が高い」
サラが補足した。
「あたしも同感ね。テロリストってのは基本的に自己顕示欲が強い連中だから。そのギデオンってのがわざわざ名前を明かした以上、本格的に活動を始めるはずよ」
過去三回の実習で生じた騒動さえも、彼らの準備行動に過ぎなかった。それはⅦ組にある種の衝撃と恐怖を与えてくる。
サラはカイトを見た。
「リベール出身で、しかも調査当初の事情もあってあまり口には出してなかっただろうけど、どう? 今なら答えられるんじゃないの?」
さすがにサラも知っていたか。カイトが初めて帝国入りした時のことを。
「最初に奴らをテロリストだって断定したのはオレの先輩です。クレア大尉も会ったことのある……」
「ジン・ヴァセックさんですね。カルバード共和国のA級遊撃士」
「ジンさんか……懐かしいわねぇ。私も色々教えてもらったわ」
お姉さん二人が異なる反応を示した。
「あいつらはノルドの時と同じように猟兵の残党を雇っていました。それで、鉄血宰相の主導で活動が規制した遊撃士たちをさらに追い詰めるように……遊撃士を襲撃していたんです」
少し、クレア大尉が困ったように目を伏せた。カイトは続ける。
「遊撃士を襲ったのも、たぶん今までの実習の目的と同じだと思います。最終的な目標達成のための布石……まだ、あいつらの本懐は別にある」
だから帝都夏至祭で何かをする可能性は十分にある、と思う。
言われるまで気付かなかった自分の不甲斐なさに少し打ちひしがれる。そんなカイトの様子を見て、Ⅶ組メンバーも固唾を呑む。
「
だからこそ、イレギュラーであるⅦ組に友軍として協力する。それがクレア大尉の要請だった。
サラがクレア大尉に少しキツくものを言う。
「ま、帝都のギルドが残ってれば少しは手伝えたんでしょうけど?」
「ええ、そうであれば心強かったですが……あの、サラさん。遊撃士協会の撤退にTMPは一切関与していないのですが……」
「そうかしら? 少なくとも親分と兄弟筋は未だに露骨なんだけどね」
クレア大尉は珍しく声を詰まらせた。
彼女は
だからこそのサラとクレアのこの態度の違いなわけである。クレア大尉も今までカイトが接してきたとおり立場を取り除けば優しい人物だし、気まずさはあるのだろう。
「それで帝国で活動した実績のある遊撃士の中でも、奴らと接触したことのあるカイトを都合よく使えるわけだし、アンタたちからすれば万々歳よねぇ」
「……えっと」
「サラ教官、オレ、別にもうそこまで気にしてないんですけど」
「アンタは遅れて帝国に来て青春してるからそんなことが言えるのよ!」
サラは昔絡みの因縁でこの態度だが、彼女も表面上あからさまな言動なだけで必要な仕事はしっかりとこなす。なのでⅦ組に促した。
「どうかしら、君たち? 特別実習での活動内容として受けるも断るも君たちの自由よ」
唐突に真面目な口調になったので少し戸惑うが、それでもⅦ組の十人は互いを見る。
Ⅶ組のほぼ全員がテロリストの巻き起こすトラブルに衝突してきた。それを通して帝国に蔓延る問題を見てきて、そしてオリビエが求める資質を養ってきた。
今、目の前に彼らに対し反撃をできるかもしれない状況が整っているのだ。
どうするか、そんなことは決まっている。
それぞれの班のリーダー格、リィンとアリサが答えた。
「Ⅶ組A班、テロリスト対策に協力させていただきます」
「同じくB班も、協力したいと思います」
帝都特別実習最終日。自分たちのやるべきことが決まった。