夏至祭の最中のテロ。人々は悲鳴をあげ、混乱に喘ぎ、蜘蛛の子を散らしたようにパニック状態となっている。
そんな人ごみをかき分けて、カイトはマーテル公園にたどり着いた。
「はぁ……ついた!」
思わず息を切らし、額には運動によるのか緊張によるのかわからない汗がにじみ出る。
それでも、今は非常事態。息を切らしたままクリスタルガーデンの様子を窺う。
そこは明らかに殺気立っていた。
橋を渡ると同時、所々で聞こえていた下水道の爆発のような地響きが起きる。明らかに震源は地下だ。
「テロリストの狼煙……魔獣を使った陽動……本命としての帝国の至宝……全部が狙い通りかよっ」
ガーデン内部へ突貫。近くにいた衛士隊の制止を振り切り、無理矢理に突破。混乱している彼らの横を通過するのは容易だった。
(何してるんだよ……帝国の精鋭だろうっ!)
内部は、昨日までの景色を知っているカイトからすれば地獄絵図にも等しかった。窓ガラスは一部が壊れ、草花が踏みしめられ、半分ほどの地盤が諸共崩れ去っている。土煙が舞い上がっていた。
その異常と正常の境目付近、片膝をついてもなお兵士たちの前にいて、歯を食いしばって崩れた地盤を凝視している男がいた。
「レーグニッツ知事!!」
マキアスの父親に、カイトは駆け寄った。彼は右肩を抑えていた。出血もしている。だが生気は衰えていない。
「……カイト君か。応援に来てくれたのか」
「はい! リィンたちは!?」
事情を理解している帝都知事に説明は不要だ。他の兵士たちも、帝都知事が止めないのを見てそのまま静観している。
「マキアスを含めたⅦ組が五人、先行している。誰かはわかっているね」
「はい……つまりは、アルフィン殿下が」
「ああ。連れ去られた。お付きの侍女諸共、テロリスト共に」
「……っ」
十五時の騒動からわずか数分。クリスタルガーデンの岩盤が崩れた。直後に繋がった地下から魔獣が出現。レーグニッツ知事は負傷し、混乱の中テロリストたちが襲撃。アルフィンと彼女に付いていたエリゼを連れ去った。
恐らくはテロリストたちの狙い通り、自分たちとしては最悪の状況に事が進んでいる。最悪の中の最善としては、テロリストたちはアルフィンたちの気を失わせただけで、その御体に傷をつけていないところか。
カイトは立ち上がった。双銃を構える。
「リィンたちの援護に向かいます」
「了解だ。クレア大尉たちTMPの応援も呼んでいる。それまで、なんとか持ちこたえてくれ」
それで会話を終え、カイトは一人瓦礫が群がる地下空洞へと向かう。
近くにマーテル公園と繋がる地下道の入口はあるが、クリスタルガーデンの真下はそれとは異なる空間になっていた。それでも洞窟ではなく、かつて人が地下道として整備した面影は残っている。
一本道だった。進む方向と反対は、天井の岩盤が崩れているためどこに繋がっているかもわからない。だが、目の前には大空間が広がっていた。
「改めて……西の覇権国の謎は多いなんてもんじゃないな」
バリアハートにもセントアークにも地下道はあった。それらよりもより複雑な地下道。
仲間たちと話した沢山の謎。吸血鬼伝説、巨大な騎士の伝承、劫火に包まれる魔人、精霊信仰。
きっと、それが自分たちの旅路に関わる時が来るのかもしれない。リベールの時と同じように。
「……」
焦る気持ちをできる限り抑え、カイトは進む。
数分で再び地響きが起きる。単なる爆発ではない、魔獣が闊歩するような鳴動だ。
四月からずっと、常に《G》による魔獣の被害があった。それだけではない。二年前のザクセン鉄鉱山でも。
とうとう、奴は過激な手を帝国の至宝にまで伸ばしてきた。これ以上放ってはおけない。今度こそ、奴の悪事を止める。
カイトは進む。進む度にクリスタルガーデンから届く地上の光は薄くなり、そして大音声と地響きは大きくなる。
たどり着いた、墓所とでも言えるような空間。大聖堂のような大広間。
Ⅶ組の面々は死闘を繰り広げていた。
「骸骨の竜……!?」
そうとしか表現できない。黒い瘴気を纏い、いかなる法則によってか暴れている巨大な竜の骸。
カイトは過去に
リィンが太刀を振りかぶり、マキアスとフィーがそれぞれの導力銃で必死に牽制し、エリオットが導力魔法で仲間たちを助け、ラウラが必殺の瞬間を見定めている。
善戦していた。それでも、巨大な敵を前にして危機であることは変わらない。
「──みんな!!」
挨拶代わりの並戦駆動で
登場した六人目のクラスメイトに、仲間たちは驚きと嬉しさを顕にする。
「カイト、そなた……!」
「心配した……!」
ラウラとフィーが共に喉を震わせた。
「もう、びっくりさせないでよ〜!」
「まったく君は、つくづく心臓に悪い……!」
エリオットとマキアスが、そう毒吐きながらも笑顔になっている。
「リィン、心配をかけた」
「本当にだ……!」
リィンが駆け寄ってきて拳を突きだす。戦闘中だが、まるで勝利が確定したかのように、カイトはそれに応じた。
楽観視などできない。眼の前にいるのは相当な強さの敵。それでも、この六人でなら立ち向かえる。
「オレのことは落ち着いてから話すよ。こっちの状況は?」
フィーが答えた。
「私たちは交戦中。その背後にテロリストが三人。お姫様とリィンの妹が薬で眠らされてる」
骸骨竜が威嚇する向こう側で、確かに三人のテロリストと気絶したまま抱えられた少女二人が見えた。そして、内一人は《笛》を持っている。眼鏡に灰白の髪の男。見間違えるはずもない、《G》だ。
「竜はあの笛で操ってるのか……」
ザクセン鉄鉱山ので、ルナリア自然公園で、セントアークで、ノルド高原で。遊撃士の旅と特別実習の日々に危機を与えていた元凶が、今ここにある。
「リィン──
カイトとリィンが戦術リンクを繋ぐ。しかしリィンも既にその考えに行き着いていたようで、カイトの思考を受けて、真剣な眼差しの中に少しの笑みを宿らせた。
「ああ、援護は任せた」
「まずは目の前の障害を──」
カイトとリィンの声が重なった。
『突破する!』
マキアスとエリオットが。ラウラとフィーが。そしてカイトとリィンが。それぞれ戦術リンクを繋いた。
最初、五人は骸骨竜の生み出す圧倒的な瘴気に慄いていた。それでもリィンが太刀を振り覇気を飛ばし、負けじと仲間たちに活を入れた。そして今、もう一度。Ⅶ組は体を恐怖ではない感情で震わせた。
Gが憎々しげに少年少女たちを睨んだ。
「……遊撃士が一人増えたところで結果は変わらん! 行け──《ゾロ・アグルーガ》!!」
それがGの意思に従ったのかはわからない。しかし、骸骨竜ゾロ・アグルーガは声帯のない
鎌のような掌の骨を振りかぶる。前衛はそれを跳躍して、後衛はさらに後ろへ下がって回避する。
巨大な骸の隙。リィンが、ラウラが、フィーが突貫。双銃剣が頭頂を揺らし、太刀が指の骨一本を関節から断ち切り、大剣が肋骨の一本を砕く。
ゾロ・アグルーガは止まらない。両の前腕を地に叩きつける。Ⅶ組だけでなくテロリストたちにも余波で痺れるほどの衝撃波。
カイトが跳躍しながら琥珀の残滓を収束させた。
エリオットの生み出した
五人でも善戦していた。そこにカイトが加わったのだ。連携による手札が増える。
だが、疲労は著しかった。
暴れる骸骨竜の攻撃をかきわけてフィーが至近距離から頭部に銃を乱射した。その幼い体を切り裂こうとした右腕を、ラウラが大剣で受け止める。青髪の少女の表情が苦悶に歪む。
もう一方の左腕が、さらにフィーへ。
「……リィン!」
ラウラが叫んだ。リンクを切り替え、ラウラとリィンが繋がる。その意図を正確に受け取り、リィンは炎を太刀に宿らせて左腕に斬りかかる。
ラウラほどの重い一撃ではない。それでも切断ではなく破壊を意識した一撃がフィーへ向かう左腕の動きを鈍らせた。衝撃に耐えかね、リィンが丸太のように地を転がる。
「フィー!!」
カイトが叫んだのと、狙いが反れた左腕が少女の足首を撫でたのは同時だった。
衝撃は凄まじく、フィーの体が軽く飛ぶ。カイトは一心不乱に駆けてフィーを受け止めた。そのまま二人して地面を転がった。
「ってぇ……」
「ありがと……助かった」
「礼は後だ! 起きるぞ!」
Ⅶ組の疲労は確実に溜まっている。そしてゾロ・アグルーガに疲労の色は見られなかった。骸骨の竜だ、そもそも体力という概念がないのかもしれない。
駆け回り、仲間たちとリンクを切り替え、並戦駆動でゾロ・アグルーガを追い詰める。他のⅦ組も、それぞれがそれぞれの役目を全うした。
そうして、体力に制限はなくとも骨である以上避けられないダメージを与えて、やっとゾロ・アグルーガは沈黙した。
ほとんど息も絶え絶えとなるⅦ組たちは、残るテロリスト共を睨みつける。
だが、操った怪物を倒されてもGはあくまで冷静だった。
「フン、さすがにグルノージャやギノシャ・ザナクを退かせただけはある」
再び、笛を吹かれた。瘴気が蘇り、再び歪な軋轢音とともにゾロ・アグルーガの骸が動き出した。
「だが、今回こそは確実に仕留める。何度でもだ!」
叫ぶGの意志を表わすかのように、ゾロ・アグルーガは声のない咆哮を放つ。圧され、思わず膝をついてしまう六人。
マキアスが呻いた。エリオットが嘆いた。
「くっ……! 奴は不死身なのか!?」
「やっぱり笛を吹いて操ってる……!」
ラウラが、フィーが憎々しげに言葉を吐いた。
「ならばカイトが言うように叩き斬ってしまうのが正解か。だが……」
「骸骨が強すぎてテロリストを狙う隙がないのが厄介だね」
そう、敵が強すぎる。たった今倒してみせたように自力では勝っている。けれどゾロ・アグルーガを倒すのではなくテロリストを止めるのが目的である以上、辛勝では足りないのが現実だった。
圧勝し、同時にテロリストに襲いかかり、Gの持つ不可思議な笛を破壊しなければ。
ならばどうする? ゾロ・アグルーガを受け止めるのが精一杯のこの六人で何ができる?
追い詰められた表情を取ったのはラウラ、フィー、エリオット、マキアスだった。
リィンとカイトが、戦術リンクを繋ぎながら悠然と前に出た。
「二人とも……!?」
「エリオット、心配はいらないよ」
戸惑うエリオットに、カイトは振り返らぬまま笑いかけた。
「策があるのか?」
「ああ、マキアス。といっても俺とカイトだけじゃない。みんなの力を合わせるんだ」
リィンの出した提案は、まるで冒険譚の主人公のような内容だ。現実であれば具体性の欠片もなく、呆れさせてしまうような、『力を合わせる』という案。しかし、それは一つの導力器を持つⅦ組にとっては明確な意志を感じる言葉だった。
そして、カイトもまたリィンの意志に同調している。それはリンクを繋いでいるからではなくて、そもそも二人共『力を合わせる』ことの意味を理解しているからだった。
カイトが言った。
「やるぞ。六人での戦術リンクだ」
「ろ、六人で!?」
「……やれるのか?」
問いただしたのはマキアスとラウラだった。それぞれ、ユーシスとフィーとの戦術リンクに苦心していた二人だ。それが改善されたとはいえ、六人で同時になどと。そういう感情だろう。
カイトが言い返した。
「じゃあ、諦めるのか?」
それは、いつかのクロウと全く同じ言葉。
戦術リンクを得意とするリィンに、戦術オーブメントの扱いに長けるカイトとはいえ、クロウを交えた三人での多重リンクができた。
そしてあの特別オリエンテーリングで、一瞬だけとはいえ十人でのリンクができたのだ。ならばこの六人でそれができない道理はない。
ここには、高度なリンクを繋げたラウラとフィー、リィンとカイトの二組がいる。そして帝都で己を曝け出したエリオットとマキアスがいる。絆は十分に繋げてきた。
リィンもまた不敵に笑う。
「立場も考えも違う俺たちが、ここまでやってこれたんだ。これからだってそうさ。必ず成功する」
Ⅶ組の重心が、そう語った。何よりも仲間たちにとって、これほど頼もしいことはなかった。
ラウラが、フィーが。エリオットが、マキアスが。目に光を宿して立ち上がる。
「そこまで言われたら、立ち上がらない私じゃないよ」
「同感だな。リィンたちにだけいい顔はさせられない」
ラウラとフィーの間でリンクの光が閃き、ぶつかり瞬く。
「ぼ、僕も……! 一昨日の言葉を証明するんだ! 『Ⅶ組に入れて良かった』って!」
「ユーシスの奴とだってリンクは繋げられた。君たちと同時に? やってやるさ……!」
エリオットとマキアスから光軸が生まれ、中心点でぶつかり絡まる。
三組の戦術リンクが、それぞれ力強く煌めいた。
「オレとリィンの考えた作戦、もうみんなわかってると思う」
「勝負は一瞬だ。その一瞬に俺たちの力を出し切る」
後ろからの返事はない。それでも迷いはない。各々の返事はわかりきっている。
まだ、Gはこちらの異変に気づいていない。やるなら今だ。
ゾロ・アグルーガの
互いが離れて遠ざかっても、むしろ途切れないようにARCUSの光軸は太くなり、煌きを増していく。
「中間には俺とカイトが立つ! みんなは何があってもリンクを断たせるな!」
「必要なのは重ねること──オレたちの目的を、意志を同調させるんだ!」
それまでの敵の隙を見据えた連携ではなかった。繋がり、猛攻撃を行うまでの
リィンが叫んだ。
「今だ──
リィンとカイトから、同時に仲間たちへのラインが伸びていく。
《多重リンク》。複数人で同時に戦術リンクを繋ぐ、さらなる連携。
先にクロウとそれを成し遂げたカイトとリィンには、複雑なその感覚を理解しつつあった。
リィンからエリオットへ。カイトからラウラへ。光軸が迸り輝く。
さらにリィンからフィーへ。カイトからエリオットへ。雷鳴のように光の線が走る。
複数人でのリンク。リィンとカイトの意志を乗せた輝きが、繋がれた仲間たちに《重なる心》を意識させる。
エリオットとフィーの光軸が、ラウラとマキアスの光軸が、それぞれ繋がれた。
六人全員が、別の三人とのリンクを同時に繋げている。今、ゾロ・アグルーガを前に拙い力を重ねて寄り集まるように、六人の間にいくつもの光軸が埋め尽くされていた。
──心が、重なる。
狙いは《G》の笛……俺が斬る。
私は攪乱をする。隙は一瞬だよ。
なら僕は、その隙を見てテロリストたちを牽制するよ。
僕の役目は魔法か……せいぜい有効に使いたまえ。
感謝する。竜の首、必ずや討ち取ってみせよう。
さあ、行くぞ。テロリストたちに目にもの見せてやれ──!
エリオットが魔導杖を掲げて振り下ろした。単調な攻撃だが、それはゾロ・アグルーガの苛立ちをエリオットに向かわせた。少年への一撃を加えようとした右腕の一閃。それでもエリオットは怖がらない。すぐさまアーツ駆動の待機に入る。
マキアスとカイトから同時に、いつもよりも素早い駆動で魔法が放たれる。
ラウラが突貫。繋がっているフィーとカイトの戦術眼に、マキアスの頭脳が加わる。それらの能力がラウラの思考に上乗せされ、大剣使いが持つ弱点──大仰な動きが消え去った。本来連携の末に放つはずの洸刃乱舞が、精細な挙動とともに全てゾロ・アグルーガに会心の斬撃を与える。
(なんという……)
重なる思考の中で、ラウラは自分の技に震えた。もちろん自分だけの技術や強さではないが、自分の内から、確かに放った完全な一撃。重心としての思考など、まだずっとはできない。それでも間違いなく自分より格上の者たちに届く一撃だった。
それでも、ゾロ・アグルーガは倒れない。倒れかけた体をそのままに地団駄。それは竜の巨体であれば恐ろしい衝撃波となる。
長い長い激震。それは仲間たちの跳躍時間を優に超える。けれど、フィーが着地寸前のリィンの肩を踏み込んで再度跳躍した。
そして、エリオットが魔法を解き放つ。
跳びながら銃火をあらん限り噴かせ、フィーはゾロ・アグルーガに飛び込んだ。そしてその肋骨の中に侵入する。小柄な少女ならではの捨て身の突入だった。
(いや、違うね。だって、負けないってわかってる)
猟兵時代でも、ここまで捨て身にはならなかった。それは死ぬことがわかっていたから。
今は違う。これはあくまで勝つための突貫。
骸骨竜の咆哮が耳をつんざく。それでも、フィーは動きを止めない。内蔵をえぐり暴れるような。少女の連撃だった。
片や、若者たちの抗いを苛立ちながら見据えるGがいた。
「例え力を重ねようが、憎しみには抗えん」
学生たちは確かに動きを良くしている。だが、Gにはゾロ・アグルーガが負けるはずがないと自身を持っていた。
負けてはならないのだ。同じだ。骸となっても骨だけで存在を生き永らえさせ、遥か数百年も前からここで目覚めの時を待っていた暗黒竜の屍。
強大な存在を今日まで屍たらしめたのは何か。言葉を介さなくても、語らなくともわかる。
──怒りだ。
──負けるはずがないのだ。
──負けてはならないのだ。
憎しみが、正義などに負ける道理はない。
「殺された怒りは──」
祖父を、弟を、仲間を、故郷を、心を。そして己の肉体を殺された怒りは──
「決して、負けはせん! 例えこの身が朽ち果てようともっ!」
フィーに内腔を食い散らかされ、激震に動けなかった学生たちを喰えなかった。再度の咆哮は怒りか。
そこにマキアスを起点として、カイトとエリオットの思考が重なる。フィーが飛び出してから間髪入れずに、三人が同時に魔法を発動させた。
(魔法が……こんなにもスムーズに発動できるなんて!)
驚愕するのはラウラだけではない。エリオットもまた、多重リンクの可能性を広げる一端だ。意志を共有する戦術リンクにおいて、相手と繋がることは魔法の連携力を大幅に強める。
(いつも、こんな思考をしていたのか、カイトは……!)
カイトと繋がっているマキアスの驚愕は、さらに強い。
大規模魔法の連携。それはゾロ・アグルーガを少なからず慄かせる。氷と炎による急激な温度変化と、地属性魔法の圧力。それが確実にダメージを与えた。
一度は倒したのだ。例えGがその笛で蘇らせようと、力が増したわけでもないだろう。再び倒せないわけがない。
だからこそ、ラウラが始め、フィーが繋ぎ、男子三人が継いだ攻撃を止めさせない。多重リンクの経験があるリィンは、驚くこともなく当然のように太刀を振り切った。
「──斬っ!」
カイトには見覚えがあった。それは八葉の七の型の奥義。想いを無にし、故に敵を打ち破るただ一刀。《無想破斬》。
──グオオオオオッ!!──
今までの骨と骨がぶつかるような咆哮ではない。初めて、胃の底から湧き上がるような叫びが聞こえた。
再び沈黙しようとするゾロ・アグルーガを前に、諦めも悪くGが笛を口に近づける。
今だ。
今だ……!
──今しかない!──
六人の思考が、寸分違わず同調した。誰が何をすべきか、一瞬のうちに理解する。
エリオットが魔導杖の特殊モードを起動させた。変形し、
マキアスが、導力式散弾銃にロングバレルを取り付ける。同時に通常の散弾ではない、円錐状の弾丸に螺旋の溝が生まれ、そして内部に高威力の火薬を内蔵した《スラッグ弾》を装填した。
《セブンラプソディ》、《マキシマムショット》。二つの戦技が戦場を蹂躙し爆発する。復活しかけたゾロ・アグルーガにたたらを踏ませた。Ⅶ組発足以来の最高峰の連携が、勝利を疑いたくなかったGに焦りを産ませる。
何度でもⅦ組を殺してやる。そう瞳を滾らせたGが三度笛に口を当てた。
そうはさせないと、Ⅶ組が動き出す。
フィーが懐から閃光手榴弾を取り出し、テロリストのいる方向へ投げつける。テロリストと元猟兵、その手のものの扱いの心得があっても、今回は少女に軍配が上がった。発動を抑えきれず、敵のいる空間が光と鼓膜を破壊する音に包まれる。
それが収まった頃、ラウラが骸骨竜の首に大剣を叩きつけた。何度も重ねた攻撃の末、ついにイグルートガルムと同じように頭部を吹き飛ばすことができた。理解できないところからの衝撃がテロリストたちの至近距離で発生し、Gたちも狼狽を隠せない。
「……今!」
叫びと決意とともに、カイトは真正面からGに向かって駆ける。銃と蹴りの照準は、もちろんGが持つ笛を叩くためだ。
カイトの床を蹴る音が微かに聞こえたか。Gが反応し、導力銃を向ける。
双銃の連射と、一丁銃の速射が拮抗した。互いの銃撃を弾き合い、そうしてカイトは跳躍する。体ごと回転しての踵落とし。
「……カイト・レグメント!!」
カイトの体術を、Gはむしろ体からぶつかりにいった。理知的なGだが、戦闘力も弱くはない。
「言ったな、G。『遊撃士が一人増えたところで』って」
着地し、カイトは懐に潜り込んでGが持つ笛に狙いを定める。
「甘い!」
Gがカイトを手で振り払った。体重の軽いカイトでは、さすがにGを御せなかった。
だが、カイトもそれはわかっている。
「生憎、今は遊撃士なだけじゃない。トールズのⅦ組なんだよ!」
自分は一人じゃない。Gを狙うのは、カイトだけではない。
Gの死角からリィンが現れた。
「なっ」
「──そこだ!」
まったく予想外のところから、リィンの斬撃は生じた。
その斬撃は笛を──古代遺物《降魔の笛》を叩き斬った。
次回、10章最終話
62話「後日譚」