心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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64話 予兆~選択を越えて~①

 

 

 八月十四日。夏期休暇直後の朝のHR。突然にサラが言い切った。

「今日はみんなに新しい仲間を紹介するわ」

『は?』

 ガイウスとエマを除いた全員の反応である。

 特にカイトやらフィーやらは『なに言ってんの?』と言わんばかりの口の開き具合だった。若干の殺気がサラから漏れ出ても気にしない。

 休暇開けの初日だ。前日に第三学生寮で色々と話もしたし、朝からの汗ばむ気温に男女問わず参りもした。時事の出来事に色々と思索をふくらませもしたが、そんな矢先にHRに遅れたサラの一言だ。呆れもする。

 だが冗談でもないらしい。開け放たれたままの教室の扉から、驚きと期待の編入生が現れた。

「クロウ・アームブラストです! 今日から皆さんと同じⅦ組に参加さてもらいます。……てなワケで、よろしく頼むわ!!」

 これには全員が驚いた。まさかの先輩である。

「ボクはミリアム。ミリアム・オライオンだよ。よろしくね! Ⅶ組のみんな!」

 これにも全員が驚いた。幼女である。しかも鉄血の子供たち(アイアンブリード)である。

 というか、一気に二人追加である。

 事の発端というか……クロウ・アームブラストとミリアム・オライオンの編入理由はまったくもっておかしなものだった。

 まず先輩であるはずのクロウだが、彼は一年次の欠席過多による不足単位の埋め合わせという、マキアスもユーシスもカイトすらも呆れるような理由だった。

 元々トワたち四人でARCUSの試験導入に参加していた実績もあり、Ⅶ組の密なカリキュラムをこなすことで不足単位分を埋め合わせる措置がとられることになったらしい。

 一方のミリアムについてはサラも「上からの指示よ」としか言わなかったが、臆面もなく当の本人が「オジサンに『Ⅶ組に入れ』って言われたんだ! オモシロそうだしね!」と満面の笑みで語った。

 『冗談……ですよね?』『んー、あたしもその方が面倒がなくていいんだけどねぇ』という、リィンとサラの会話がⅦ組全員の心境を物語っていた。

 ようやくクラスメイトたちの結束も強まって、学院生活にも慣れてきたこの頃。

 かくして、Ⅶ組は新たな仲間を迎えることになったのだった。

 

 

────

 

 

 八月二十一日。

 クロウとミリアムの編入から一週間が経った昼休み。カイトは学食の丸テーブルの一つで、人気のトマトグラタンを食べていた。

「へぇぇ、ガクショクっておいしいね!」

 カイトと同じくトマトグラタンを頬張るのは少年の左隣にいる少女ミリアムだ。テーブルに座る少女は背が低く、十歳後半の利用者がほとんどのテーブルでは、頭と距離が近くなってしまっている。

 Ⅶ組への編入ということで、ミリアムは当然ながら第三学生寮の三階に越してきた。シャロンから微笑みとともに特製弁当を渡されているのだが、今日になってミリアムは「ねぇユーシス、お弁当を持ってないのはどうして? ねぇどうして?」としつこくユーシスに絡んだ。

 鬱陶しそうなユーシスが少女をカイトに投げ飛ばしたので、偶然にも学食で済ませようとしていたカイトはミリアムを誘って学食にきたわけであった。

 なお、クロウはまだ引越準備が整っていないとのことで未だ第二学生寮に居を構えている。既にシャロンの夕食をたかりに何度か来ているが。

 学院に来て日の浅いミリアムとの親睦だ。せっかくなのでと、カイトは他にも二人誘っていた。

「あらあらミリアムちゃん、ほっぺたにグラタンがついてますよ。ほら、フィーちゃんもこぼさないようにしないと」

「……ん。やっと慣れてきたんだけどな」

 エマとフィーだ。四人座りの丸テーブル。カイトの正面にエマ。右隣にフィー。

 野郎共はオレを差し置いて全員弁当を用意していやがった。カイトは少しだけ嘆息した。

 眼鏡で優しげ、女子としてはそれなりに長身で、そして色々とダイナマイトな委員長が、左右の猫のような少女たちに忙しそうにお世話をしている。

 そのエマの様子をまじまじと見るカイト。

「……委員長っておか」

「カイトさん?」

「すみませんでした」

 既視感と丸眼鏡の恐怖感を浴びるカイトであった。

「ん~~、ボクもうお腹いっぱい!」

 少し雑に、それでもグラタンのルーを全てすくいきって、そして軽快にスプーンを転がした。ミリアムは満足げだ。

 当たり前だが、ミリアムはノルドで見たボディスーツではない。トールズの、特科クラスⅦ組の紅い制服だ。それでも巷の少女に人気の猫耳帽子を被っていて可愛らしげな様子だ。そのあたりは幼年組でもフィーの感性とは違うらしい。

 エマに恐怖を覚えたので、カイトは今度はミリアムをまじまじと見続けた。

 数秒どころか数十秒も見つめれば、いい加減ミリアムも気づくし、調子に乗ってくる。

「んん、どうしたのカイト? もしかしてボクに見とれちゃった?」

「見とれてはいないけど、気になるのは確かだよ」

 なんとなしに言った。嘘偽りのない感想だ。

「ニシシ、カイトも物好きだねぇ~」

「何をおっしゃる。突然、フィーよりも年下のガキんちょが士官学校に入学するほどには面白くもないよ」

「ム~、カイトがエラソーだ」

「むー。カイトがえらそーだ」

「フィー、真似するんじゃありません」

 幼年組二人が両サイドから迫ってきた。アガットなどから散々ガキんちょ扱いされていた自分がまさか誰かにガキんちょと言うことになるとは思わなかったカイト。

「ニシシ、ボクはボクで楽しんでるんだからさ。カイトも気にしないで、楽しくいこうよ!」

 ミリアムはなおもあっけらかんとしていた。

 自堕落なところも頼もしいところも知っている既知のクロウはともかく──彼も彼で突然の編入には驚いたが──バリアハートで目撃しノルド高原で共闘したミリアムの編入というのは、Ⅶ組メンバーに少なくない警戒をもたらした。

 オーロックス砦潜入。監視塔砲撃の犯人拘束。それらと、謎の傀儡アガートラムの存在。帝国軍情報局に所属しているという肩書き。これまでの実習で、Ⅶ組は貴族派と革新派の争いを何度も見てきた。その革新派に属するミリアム。警戒をしないわけがない。

 そして、特にカイトにとっては、鉄血の子供たち(アイアンブリード)であることも頭からちらついて離れない。

 鉄血宰相ギリアス・オズボーン。オリビエが警戒している稀代の傑物。つい数週間前、Ⅶ組は彼と対面した。あの時の『協力』という言葉が、まさかこんな形で果たされることになるとは思わなかった。果たして本当に協力であるのかもわからないけれど。

「でも、ミリアムのボスだって今は忙しいだろ。こんなとこで油を売ってても平気なのか?」

「カ、カイトさん……」

 歯に衣着せぬ物言いのカイト。エマがさっきとは少し違う表情となる。

 それでも、ミリアムもまた動じていない。

「オジサンねー、だって通商会議のこともたいして話してくれないし。たぶん、レクターもいるからゼンゼン大丈夫なんだと思うよ? それに殺したって死ぬようなオジサンじゃないし」

「ミ、ミリアムちゃん……」

 エマが少し引いていた。

 クロウとミリアムを覗く元々のメンバーで話し合ったことだ。ミリアムの所属を考えれば信用しきれないというのが、貴族派の御曹司ユーシスとオリビエの盟友カイトの意見だった。

 それでも、エリオットの部活を見学したり、フィーと一緒に昼寝をしたり、マキアスの眼鏡にいたずらをしたりと、ミリアム自身は年相応──十三歳らしい──の快活な様子しか見せていない。情報局としての立場はともかくミリアム本人のことは信用しよう、というのがリィンとガイウスの、そしてその他のメンバーの感情だった。

 そして感情については、子供に好かれやすいカイトとユーシスも同じ。ともかく仲間としてクロウと一緒に歓迎しようと、Ⅶ組全員で決めたのだ。

 若干まだ尾を引くものはあってミリアムを観察していたカイトだが、穿った眼で見るのはやめてミリアムの出した話題を膨らませることにした。

「《通商会議》ね……そうだな、今は宰相のことよりも会議そのものが気になるか」

 エマが返してきた。彼女も、ついでにフィーも昼食を食べ終えた。

「オリヴァルト皇子も出席されますし、私たちとしても気になりますね」

 そもそも、クロウとミリアムの編入を知るまではⅦ組内でも話題になっていたことなのだ。

 西ゼムリア通商会議。五月、現クロスベル自治州議会の議長ヘンリー・マクダエルの市長職を継いだディーター・クロイスIBC総裁。《教団事件》の後、彼が市長となってすぐ諸外国に提案した、初の大規模国際会議だ。

 招致国としてクロスベル自治州から市長ディーター・クロイスと議長ヘンリー・マクダエルが出席する。

 エレボニア帝国からは帝国政府代表ギリアス・オズボーンと皇帝名代として第一皇子オリヴァルト・ライゼ・アルノール。

 カルバード共和国からは大統領サミュエル・ロックスミス。

 リベール王国からは女王名代としてクローディア・フォン・アウスレーゼ。

 レミフェリア公国からは大公アルバート・フォン・バルトロメウス。

 以上西ゼムリアに存在する五つの国家群から政治的なトップないし統治者の名代が出席することになった、史上まれに見る規模の会議。

 元々西ゼムリアの二大国である帝国と共和国は犬猿の仲で会議などほとんどなかったし、辛うじてリベールが提唱した三国の《不戦条約》にしても限定的なもの。今回の会議はそれらに加え北方で権威を持つレミフェリア、そして経済の中心にしてゼムリアのホットスポットであるクロスベルが出席するのだ。これに興味がないのは知識のない子供くらいだろう。

 フィーが訪ねた。

「カイトってクロスベルにいたんだし、クロイス市長にも会ったことある?」

「いや、残念ながら。でも共通の知人がいるんだけど、聞いた話じゃ切れ者のナイスガイらしいよ」

 当時は知らなかったが、特務支援課と交流を深めた中で知った話だ。イリア・プラティエへの脅迫状事件の時、カイトがブライト義姉弟と共に黒月とかち合っていた裏でロイドたちはディーターと面会していたらしい。

 それでも別に羨ましくもなく、カイトにとってはマクダエル議長との面識が一瞬でもあるのでそこで帳尻は合っているつもりだ。

「私たちとしてもオズボーン宰相やオリヴァルト殿下のことも気になりますし。カイトさんにとっては、色々と重なっていますね」

「さすが委員長。抜かりないなぁ」

 ミリアムが笑った。

「そういえばカイトって、リベールの王女サマと姉弟なんだっけ? それだとカイトも王子サマだねー!」

「あのさ、その話フィーから聞いたんだろ」

「ぶい」

「いらぬ誤解を生むんじゃありません。なんだよオレが王子様って」

「カイトさんはそんな感じじゃありませんしね」

「え、委員長ちょっとひどい……?」

 盟友オリビエに、その宿敵オズボーンに、家族同然のクローゼが、修行したクロスベルの地に集まる。気にするな、という方が不可能だ。

 二大国がいるのだ。しかも、オズボーン宰相が出る。カルバード共和国のロックスミス大統領はカイトもそれほど詳しくないが、民族問題と対外政策で容赦のない共和国の大統領なわけで。オズボーン宰相に負けず劣らずの性格をしていそうだ。

 間違いなく、今後の大陸情勢の分岐点となる議題が上がるだろう。

 例えば、クロスベルの存在そのものについて、とか。

 どうあがいても嫌な議題なので、カイトとしては考えたくないし、同時に考えなければならないことでもあった。嫌気がさしたカイトは話題を帰ることにした。

「西ゼムリア通商会議……個人的には、それでいいのかってところもなくはないんだけど」

「カイトさん、それはどういう?」

西()ゼムリアって括りだし、東部の国が出席しないのもまあわかるけど。表向きは通商会議だし。でもそれなら、ノーザンブリアはどうなんだってさ」

「ノーザンブリア……帝国の北にある自治州ですか」

 博識のエマと、Ⅶ組の中では諸外国に詳しいカイト。二人が同程度の状態しか知りえないのがノーザンブリア自治州だ。

 カイトにとっては大陸最大の猟兵団《北の猟兵》の本拠地であることと、そしてレーヴェが話してくれた《塩の杭》についての情報程度。

 猟兵ということであれば、フィーが詳しい。

「ノーザンブリアか。私が言うのもなんだけど、異変の災害と北の猟兵のこともあってある意味クロスベル以上にやっかみのある自治州だし、それで外されたんじゃない?」

「フィ、フィーちゃん……」

 エマがフィーに少し引いた。これで委員長は同席している三人全員から距離を取ることになった。

「北の猟兵ねー。オジサンも何度か雇ったこともあるみたいだし。そもそも国ごと帝国と共和国にとっては便利な戦争屋だし、確かに呼びにくいよねー」

「ね」

「物騒な幼女共め……」

 カイトも呆れた。情報局の諜報員に、元猟兵。一番年下の二人が、クラスで誰よりもぶっ飛んでいる経歴なことだ。遊撃士の自分より、大貴族のユーシスよりも有り得ない。Ⅶ組ならではの光景だった。

「ところでさ。カイト、さすがに通商会議は出たいんじゃないの? ミリアムとクロウが編入してきたのと関係なく、リベールから帰ってきてからずっとそわそわしてるよ」

 フィーの言葉に、カイトはばつが悪そうな顔となった。

「……わかる?」

「バレバレだよ。ね、委員長」

「そうですね。帝都実習の後よりは、カイトさんも落ち着かれてますけど。それでも、皆さん気づいていますよ」

「ま、なんども思ったけど気にするなってほうが無理だし。でも自由行動日に行くのも現実的じゃないし、今回は諦めるよ」

 通商会議は八月三十一日だ。八月の特別実習の日付が今まで通りなら、その日程は八月末になる。特別実習の前か、あるいは後に通商会議に乗り込むのも過酷なスケジュール。

 そもそも、自分がクロスベルに行ったところで国際会議の場にどうやって乗り込めというのだ。リベールの異変でオリビエと喧嘩をした状況とはわけが違う。一遊撃士が、あるいは士官候補生が気楽に行けるようなイベントではない。

「でも、カイトなら平気で紛れ込んでそう」

「おいフィー、なんて物騒なことを……」

「でも皇子サマと友達で、王女サマの弟だって言い張って、《リベールの異変》の渦中にいて、浮遊都市にも乗り込んで、こうして今トールズにいるんだよ?」

「……」

 今更ながら自分の経歴に戦慄するカイトだった。

「さらに言えば、実習で帝国各地やノルドにも趣いて、ユーシスさんやマキアスさんと交友関係がありますしね」

「やめてくれ、委員長」

 数週間後に本当に自分がクロスベルにいそうな気がして怖くなってきた。

「あらカイト、リィンに負けず劣らずの人気じゃない」

 昼食後の談笑も一区切り。そろそろ休憩もお開きかという頃。四人以外の声が聞こえた。

「あ、サラ」

「あ、サラだ!」

「ハロー、ボーイズ&ガールズ」

 軽い調子の教官殿。今日は実技教練はないはずだが。

「あらカイト、どうしたのよ。そんなにうなだれて」

「ちょっと怖い想像が働きまして……」

「自業自得だね」

「自業自得ですね」

「自業自得だよー!」

 女子三人から異口同音の返しだった。

「別にリィンみたいにたらしなことはしてないのに、なんの仕打ちだこれ」

 妙な経験をしていることへの若干のからかいだった。エマなどは、カイトがアルフィンに気に入られていることもからかいの理由に入っていたりする。

 そんな少年少女の青春に入る気はないサラだった。

「はい、シャキっとする! カイト、君に連絡なんだから」

「オレに?」

 カイトは顔を上げた。

「別に伝えるのはHRの後でも良かったんだけどね。カイト、HRが終わったら学院長室に行きなさい。学院長がお呼びよ」

「本当にHR後でよかったじゃないですか……って、ヴァンダイク学院長が?」

 リィンのように旧校舎の調査を直接頼まれているわけでもないのに。

 校内を散策しているヴァンダイク学院長と会って、好々爺な彼と話をすることは今までもあったが、直接彼と学院長室で話したことはない。

「カイト、ついに何かやらかしたの?」

「ニシシ、年貢の収めどきみたいだねー?」

「カイトさん……すみません、私の勉強の付き添いが至らなかったばかりに」

「ねぇ、オレが悪いことしたとかクロウ先輩みたいに単位落としたとかの前提じゃん、それ」

 これでも中間試験は中間値程度だったんだぞ。Ⅶ組内ではフィーに続くブービーだったけど。

 気を取り直して、カイトはサラに訪ねた。

「それ、Ⅶ組関係ですか? リィンとかも呼ばれてます?」

「いいえ。リィンは呼ばれてないわ」

「んん?」

 ますますもって謎だ。自分個人へ、ヴァンダイク学院長から。なんの関係があるのだろうか。

「……まあいいや。分かりました。HR後ですね」

「よろしい。楽しみにしてなさいな」

 HR後の予定が決まった。サラの後ろ姿を見届ける。

 ミリアムと話し、大陸規模のイベントについて語らい、過去の所業に色々とからかわれ、最後にサラから腑に落ちない予定を告げられる。気が休まらない、八月の昼休みだった。

 

 








ちょっと気になったので、よければアンケートに付き合って頂けると嬉しい……

軌跡本編のプレイ状況は? ※空零碧閃創黎

  • ・空から全作やってるぜ!
  • ・発売順じゃないけど全作やった!
  • ・初プレイ作品より過去作はやってない!
  • ・プレイ状況はまちまち(例:閃と空だけ)
  • ・軌跡本編? 知らんよ
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