心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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64話 予兆~選択を越えて~②

 

 

 サラからヴァンダイク学院長への面談を命じられた、その日のHR後。カイトはその命に背くことなく、真面目に学院長室前までやってきた。

 そこには先客がいた。

「あ、カイト君」

「お久しぶりです、トワ会長」

 緑の制服、カイトよりもなお小柄な茶髪の先輩、トワ・ハーシェルが立っている。

 学院の生徒会長であり、そしてクロウ絡みで交流も多いカイトとトワではあるが、八月はカイト自身がリベールに行っていたことなどもありほとんど会わなかった。

 つまりは帝都の特別実習の時が最後の会話だ。

「夏至祭の時はお疲れさまでした」

「カイト君こそ、ありがとう。流石は現役の遊撃士だね。すごい活躍だったよ」

「やめてくださいよ、照れるじゃないですか」

 なんの含みもなく、本当に満面の笑みで褒めてくるものだから照れる。

 生徒会長の手伝いとして自由行動日にほとんど毎回トワから依頼を渡されている忠犬のようなリィンを除けば、カイトもⅦ組の中ではよくトワと話している方だ。純粋に仲良くなっているし、気安く話しかけもする。

「オレはあの後、結局Ⅶ組と合流してずっと忙しかったですけど……トワ会長は?」

「私も避難誘導を手伝って、騒ぎが落ち着いてからは憲兵さんの聴取に協力して……その日はずっと帝都に缶詰だったなぁ」

「うーん、お疲れ様でした」

「カイト君こそね」

 カイトたちⅦ組が真っ直ぐ皇族を助けに行けたのも、憲兵隊やトワたちの住民避難誘導があったからだ。感謝の念は尽きない。

「ところで……会長も学院長室に用ですか?」

「あれ、カイト君も? 私はナイトハルト教官から言われたけど」

「オレはサラ教官からでした」

 数秒の沈黙。

「え、まさか同じ用事で?」

「うん……夏至祭のことかなぁ」

 世間話をしたのでやはりそこの共通項が思い浮かんだ。その他には、同じARCUSの使用者であったりする程度だ。生徒会の手伝いは、リィンを補助する形でしかしたことがない。

 よもや多少奔放に過ごしていたことがついに学院の逆鱗に触れたかと、昼間にフィーたちからからかわれた原因を考えたが、隣に立つ少女が居る時点でそれは有り得ないと否定する。

 サラとナイトハルトを経由して、ヴァンダイク学院長からの呼び出し。

 ともあれ、二人は意を決して部屋に入ることになった。

「失礼します。トワ・ハーシェルです」

「カイト・レグメントです」

 やや緊張した面持ちで扉を開くと、そこにはやはりヴァンダイク学院長がいた。

「ハーシェル君、カイト君。よく来てくれたのう」

 彼は専用の椅子に腰掛けることなく壁に飾られた絵画を眺めていて、背丈の低い二人を圧倒した。

 振り返る。度々見る好々爺然とした様子は変わらない。

 いたのはヴァンダイクだけではない。

「来たわね、二人共」

「HR終了からおよそ十分。ハーシェルはともかく、レグメントは意外だったな」

 ついさっきカイトが見たのと変わらないサラと、仏頂面のナイトハルト。どちらも変わらない光景だ。

 それよりも、今日は話す人話す人にけなされてしまうカイトであった。確かにナイトハルトからのカイトの印象はよくない。遊撃士という職業もあるのかもしれないが、ちょっとひどすぎないか。

 もう無視しようと思ったカイト。

「……今日オレたちを呼んだのはヴァンダイク学院長とのことですけど、一体全体どうしたんですか?」

「いや、なに。積もる話もあるしのう。まずは労わせてもらおう。座りなさい」

 あくまで優しく。応接の机に促され、恐縮しながらも腰を下ろした。サラとナイトハルトはヴァンダイクの後ろに控えている。

 いくつかの書類を取り出し、しかしそれをまだ明かさず、カイトとトワの対面に腰掛けたヴァンダイクはにこやかに言った。

「二人とも。夏至祭の避難誘導、ご苦労じゃった。学院の代表として、わしはとても誇らしい」

 開口一番の内容はそれだった。二人が半ば予想したものではある。

「いえ、そんなことないですよっ」

「勿体ないお言葉です」

 トワは少々恥ずかしげに、カイトは笑みを交えながら一礼する。遊撃士として多少は公の場に赴いたことのあるカイトのほうが、多少冷静でいられたようだ。

 カイトはⅦ組としてバルフレイム宮に招待されているので、今回はそれとは違う──トワがいることも含めて、Ⅶ組との合流前のヴァンクール大通りでの一幕が関係しているのは間違いない。

「帝都や政府には知り合いがいてな。事の顛末を聞かせてもらった。避難誘導に魔獣討伐……二人のそれぞれの経験を活かした適切な行動。現場の人間も高官も感心していた」

「私たちだけじゃ……他にもジョルジュ君やクロウ君や、アンちゃんがいてくれたからです。何より、カイト君たちⅦ組のみんなの活躍も」

「それだと、オレはどっちの立場でいればいいのかわからないですけど」

「ははは、胸を張るがいいじゃろう。『世の礎たれ』……君たちの行動は、まさしくその言葉の体現にほかならなかったのだ」

 褒めちぎられている気がして、カイトもトワと同じくくすぐったくなってきた。カイトは労いと謙遜の応酬に一先ずの終止符を入れることにした。

「それで、本題は何ですか? 学院長がいくら好々爺だからといって褒め倒すためだけに呼びつけたわけじゃないでしょうに」

「おや、相変わらずカイト君は手厳しいのう」

 後ろのサラとナイトハルトの眉がつり上がった。それも気にせず、はっはっはと笑う好々爺。そのあと優しげな顔つきになるその様子に、少年は一瞬だけジェニス王立学園のコリンズ学園長を思い出した。彼はヴァンダイクのように武闘派ではないはずだが。

「では、本題に入ろうか。謹んで読ませてもらおうかの」

 ヴァンダイクがおもむろに手にしたのは、机の上の書類。彼はそれをはっきりと告げた。

 

『トールズ士官学院、トワ・ハーシェル、並びにカイト・レグメント。夏至祭のテロに関しての避難誘導の活躍を讃える。そして(きた)る八月三十一日、クロスベルにて開催される西ゼムリア通商会議の随行団への参加資格を与える』

 

 カイトとトワが目を点にして、同時に声を上げた。

『え』

 ヴァンダイクは、後ろに控えるサラに促した。彼女は頷いてから口を開く。

「夏至祭初日の君たちの行動に対する公の評価は、今学院長が言った通りね。そのことだけじゃない。トワは生徒会長としての経験、カイトは……遊撃士としての実績。それが巡り巡って、通商会議への参加資格につながったのよ」

「ええっ!?」

 可愛らしく仰天したトワ。カイトは混乱しきっていた。

「んん!? んんっ!?」

「少しは落ち着くがいい、レグメント」

 ナイトハルトがピシャリと言い放った。それでも、カイトは落ち着かない。

「い、いや、ちょっと待ってくださいよ! 確かにオレもトワ会長も自分の考えで動きましたけど……なんでオレも!? というより、なんでオレだけ……?」

 それは他のⅦ組に対して、自分と同等の言葉が贈られていなかったことによる。

 ナイトハルトが続けた。

「まず、ハーシェルについて説明しよう。言ったとおり、君の生徒会長としての活躍は目覚しい。トリスタのみならず、学院生徒の窓口としての各所との折衝。社会貢献活動の実績。それらが、元より君の存在を内外に広めていた。君の能力は元から買われていた、それによって書記として通商会議に随行して欲しいという帝国政府の要請という意味合いもある」

 次にサラが。

「それで、なんで他のⅦ組が当てはまらなくてカイトだけにってことなんだけどね。ぶっちゃけるとね、オリヴァルト殿下の意向が大きいのよ」

「オリビエさ……」

 ナイトハルトの目が光った。

「オリヴァルト殿下の?」

「そう。トワが政府から書記として──《文官補佐》のような立場で招待されたなら、君は殿下の護衛──《武官補佐》のような立場での招待になるわ。まああの殿下だし、ちょっとのイレギュラーはよくあるしね」

 そもそもオズボーン宰相よりもちゃんとした護衛が少ないくらいだしねぇ、とサラは両手で呆れの意を示した。

「……Ⅶ組のみんなは招待しないで、ですか」

 自分で発言してから、入学する前では考えなかったほどⅦ組に愛着が湧いていることを実感した。

 ヴァンダイクが答えた。

「Ⅶ組ではなく、君個人への要請じゃ。彼らを貶めているわけではない。殿下がお認めになった友人である君だからこそ話すが……殿下は、Ⅶ組諸君に大きく期待しておる。そして同時に、君へはⅦ組としても友人としても、大切に思っているのじゃよ」

「……」

「これを後で読むといい。君に宛てた殿下からの筆が入っている。殿下の真意は、それで確かめるといいじゃろう」

「……オリビエさんの」

 ヴァンダイクから渡されたのは封筒だった。豪華な筆跡。中身は言わずもがなだ。

「もちろん、裏向きは要請じゃが、あくまで体裁は招待。カイト君も、トワ君もまた、これを拒否する権利がある」

 トワに関しては、真面目な性格もあってこの要請を拒否することはなさそうだ。だが、カイトには昼にエマたちと世間話をした、嫌な予感があった。

「君なら予想していたと思うけどね。八月三十一日は特別実習の最終日なの。つまり、仮に招待に応じて通商会議に参加するなら、八月の特別実習は不参加……まあ特例で『C班クロスベル行き』みたいな扱いになるわね」

「……」

「わかってるわ。今の君にとって、Ⅶ組はオリヴァルト殿下との約束を果たすための腰掛けなんかじゃない。ちゃんと君の居場所だと思ってくれている。君の目標の髄が入っているような通商会議参加をためらうくらいには。あたしはそれが嬉しいのよ」

「サラ教官」

 サラの言葉は、どこまでもカイトにとっての事実だった。

「同時に、殿下の誘いは君にとっても渡りに船のはず。もう一週間だから、少し唐突だけどね」

「まあ、あのオリビエさんのやることですし」

「ふふっ。だからね、ここにあたしとナイトハルト教官がいるのは、君がしっかりと考えて選択できるように、今月の特別実習についての説明をすることなのよ」

「それじゃ、八月の実習地を教えてくれるんですか? もういっそのこと、全員でクロスベル自治州行きとかできません?」

「コラコラ、さすがにそれはできない相談よ。今回のスケジュールを考えれば、ね」

「えっと……今までみたいに帝国の都市か、帝国周辺の土地じゃないんですか?」

「次の実習は特別でね」

 サラはナイトハルトと視線を交わした。

 どういうことだ。今まで特別実習に関して、サラ以外の教官陣が関わることはなかったのに。

「あの、私は席を外したほうがいいでしょうか?」

 トワが言った。

「いや、巻き込むようですまないが、ハーシェルにも把握してもらう。君の知見も合わせ、レグメントに意見を渡してくれ」

 カイトに厳しいナイトハルトだが、第一感情はともかく行動は全ての生徒に平等……帝国軍人らしい矜持と誇りを持つ男だった。その彼のトワへの言葉。意図はすぐに理解することになるのだが、この時点では疑問符ばかりになるカイト。

 そして仲間たちよりも一足早く、八月の波乱の舞台を知ることになった。

「今回の内容は帝国正規軍の規律に深く関わる。他の生徒や部外者は勿論、スケジュールが確定するまではⅦ組にも口外を禁止する」

「わ、わかりました」

「実習予定日は八月の二十八日から三十一日まで。初日から三十日の午前までは、過去の実習と同じ方針の課題をこなしてもらう」

「……その先は?」

「三十日午後、及び三十一日。この間、Ⅶ組諸君はA班・B班で合流し……《ガレリア要塞》の見学任務に就いてもらう」

 

 

────

 

 

 学院長室を辞したカイトとトワ。二人はまだ喧騒のある本校舎から離れ、生徒会室に入った。

「……なんだか、とんでもないことになっちゃったね」

「そ、そうですね……」

 未だ現実感のないカイトは、トワのコミュニケーションににべもない返事をしてしまった。学院の才女はそんなことは気にせず、カイトをソファーに促した。

「とりあえず休憩しよっか。座って。紅茶を入れるよ」

「あ、オレも手伝います」

「いいよ、いいよ。ここは生徒会室。私がもてなす場所だもん」

 子供が大人にするように、トワはカイトの背を腰を落として精一杯押して、無理矢理座らせた。

 そうしてカイトは紅茶をもらい、トワも自分のカップに暖かさを入れてからソファーに座った。

「……でも、『戸惑った』とか『迷ってる』とかは、今はカイト君に相応しいのかな。色々と悩んじゃうよね」

 言うまでもなく通商会議の参加要請の件だ。

 あくまで最終判断はトワとカイト自身に委ねられる。時期が迫っているため数日中の判断が求められるが、それでもヴァンダイク、サラ、ナイトハルトたち教官陣は迷う時間を二人にくれた。

 『通商会議に参加するか否か』と、さらにカイトにとっては『ガレリア要塞の見学と通商会議のどちらに参加するのか』という選択肢だ。

 ガレリア要塞の前日まで、A班とB班がそれぞれどこに向かうのかは決められていない。それは、つまり教官陣にとって、通常の実習よりもガレリア要塞の見学に相当な重きを置いていることを意味する。

 帝国正規軍の対外的な最重要軍事拠点だ。たかが見学であっても、その重要性は通常の実習とは比較にならない。『軍とはなにか、武力とはなにか』という本質的な問いを味わうことになるのだから。

 カイトとしても、ガレリア要塞をクロスベルの側からしか見たことがない。内側から見ることができるのはこれ以上ない好機。

 それでも、それらの軍事を実際に扱う首脳陣が集まる国際会議の場は、これ以上ないくらい魅力的だ。

「トワ会長はもう決めたみたいですね」

「うん。私は参加しようと思う」

 トワの言葉に迷いはない。

「私もカイト君と同じような目的があったし。世界のことを知れるのはせっかくの機会だから」

「やっぱり、そうですよね。トワ会長もオレも、本当なら国際会議への出席なんでできるはずがなかった。そのチャンスが巡ってきたんだ」

「でも、カイト君が悩む気持ちもわかる。私も嬉しいよ。リベールから来たカイト君が、自分の目的以外に、Ⅶ組のみんなと一緒にいたいってことが伝わってきたもん」

「……だから照れますって」

 カイトは頬をかいた。

 ガレリア要塞の見学と通商会議への参加。悩む理由は単にカイトの目的のためだけじゃない、というのは自覚していた。サラやトワに言われるでもなく。

 オリビエとの絆。Ⅶ組との絆。どちらも大事だ。

 別に今回の選択でどちらを不意にするわけではないけれど。

『オリヴァルト殿下も強制はしておらん。あくまで君自身の選択を尊重している。しっかりと悩むのが、彼への君の友人孝行じゃろうて』

 ヴァンダイクはこうも言っていた。

 そして今、カイトの手元にはオリビエの手紙がある。

「学院の理事長を勤められているオリヴァルト殿下と、カイト君がリベールの異変で苦楽を共にした仲だった……この間リィン君から聞いたけど、改めて納得しちゃったなぁ」

「あはは……」

「カイト君。きっと、どちらを選んでもそれは間違いじゃないよ。学院長の『殿下はカイト君の意志を尊重する』って言葉は間違いじゃないはずだし。それにきっとⅦ組のみんなも、同じようにカイト君の答えを尊重してくれると思う」

「会長……」

 カイトは正面に座る少女を見た。見た目には年端もいかなくて、アンゼリカにも弄ばれるような少女が、本当に頼もしくて格好良い。

「どうかな? リィン君は、アリサちゃんやユーシス君は……他のみんなが、カイト君が一生懸命決めたことに文句は言うかな?」

 その瞬間を想像してみる。胸の内が暖かくなったように感じた。

「ユーシスは憎まれ口だし、フィーなんかは『一緒に連れてけ』とか言いそうだけど……そうですね、誰も否定しないと思います」

「えへへ、でしょ?」

 トワは立ち上がった。そうして、懐から取り出した金属をカイトに手渡した。

「はい、この部屋の鍵だよ。今日はカイト君が持っていて」

「トワ会長?」

「ナイトハルト教官が私にもガレリア要塞の件を伝えたのは、一緒に考えれるからだと思うんだ。私にクロウ君にジョルジュ君にアンちゃん……去年みんなでガレリア要塞を見学したから」

「えと、それってもしかして試験導入で?」

「うん。だから……明日、また私たち四人と話そう。ガレリア要塞の件は口外しないにしても、通商会議のことは相談してもいいと思うし」

「そう、ですね。頼もしいです」

「だから、カイト君は、今日はここで殿下の手紙を読むことっ。一人で集中できるように。それで、鍵は明日返してくれればいいからね」

 そうして、トワは部屋の管理方法だけごく簡単に教えてくれた。

「それじゃあ、また明日ね」

「はい。また明日」

 トワは生徒会室から出ていった。

「……小さくても格好良い。あんな先輩になりたいな」

 しみじみとそう独り言ちた。いつだったか、背丈が低い頑張り屋な彼女に共感を得た覚えがあるが、それで正解だと思った。

「ありがとうございます、トワ会長。おかげで、久々に『オリビエさん』と話せる」

 手紙を通して。帝都での《Ⅶ組》を介した関係性じゃない、オリビエとカイトとしての繋がりを確かめられる。

 カイトは封を切って手紙を取り出した。皇族のそれにしてはどこか庶民的なものだった。

 

 

 親愛なるカイト君。ごきげんよう。今、僕は君たちⅦ組が帝都を去った後にこの手紙を書いている。

 本当は女学院でもバルフレイム宮でも再会したのだから、こんな堅苦しい挨拶はいらないのかもしれないね。学院生活が君の糧となっているようで、招待した甲斐があったと思ったよ。それに、リベールの異変から一回り成長した君が頼もしく見えた。……色々と僕のココロのトキメキや熱烈な愛を語りたいのだけど、後ろにいるミュラーの顔がどんどん怖くなって来ているからまたの機会にしようと思う。

 

「あははっ……相変わらず仲いいなぁ」

 カイトは笑った。執務室でこれを書いたのだろうか。ミュラーが彼の背後で鬼の形相となっている姿が見えた。

 

 この手紙を読んでいるならば、君とトワ・ハーシェル君に通商会議の随行団への参加要請が来ていることはヴァンダイク学院長から聞いただろう。まあ、君へのオファーは僕がしたようなものではあるが。

 それでも、Ⅶ組としての枠組みでなく君が帝都でトワ君と共に成し遂げた成果があればこそ、僕もそれを利用できた。その意味で、おめでとうという言葉を贈らせてほしい。

 ただ、この参加要請によって君には多少の苦痛を与えているかもしれない。通商会議の時、Ⅶ組は特別実習のカリキュラムの真っ最中。しかも今までとは違い君にとっても興味を引くはずのガレリア要塞の見学予定がある。色々な意味で、どちらに行くか迷ってしまっているだろう。

 Ⅶ組の諸君と共に特別実習へ行くか。トワ君や僕と共に通商会議へ行くか。あくまで僕は選択肢を提示しているだけ。どちらを選ぶか、それを決める権利は君にある。

 だが、僕も少し躍起になっているみたいでね。Ⅶ組にいながら、リベール時代からの友情を持つ君には、一緒に激動の時代を駆け抜けていきたいと思ってしまった。それを正直にミュラーに話したんだが、注意と歓迎を同時に受けたよ。通商会議に連れて行ける護衛が少ないのもあって、彼にとっても、気心の知れた君がいるのは貴重らしい。

 さて、君のためであり、僕の我が儘であり、そして()()のために……僕が君に用意できるものを明かそう。

 

「……彼女?」

 カイトは疑問符を浮かべる。自分とオリビエ以外の《彼女》なる第三の人物。それは誰だ。

 

 君は通商会議の中の、オリヴァルト・ライゼ・アルノールを護衛する隊、その隊長であるミュラーの下に付くことになる。さすがに会場の、会議のその場にはミュラーも含めて入れないが、会場のある程度の場所への出入りができるようになる。君が望めば別行動で数日前にクロスベルに入り、自由に情報収集することも保証できる。

 リベール・クロスベル・帝国を旅してきた君の見解、そして遊撃士としての見解。それらを合わせ大局を俯瞰できる眼が欲しかった。会場にはかの有名な《風の剣聖》もオブザーバーとして出席するけれど、そこは知り合いの方が気楽にやれるしね。

 ガレリア要塞へは不参加になってしまうのが申し訳ないが……あ、それとアリス君の誕生日とブッキングしてしまうこともすまないと思っている!

 

「……そういう冗談はいらないよ。でもそうか。あれだけ話したアリスの誕生日と被ることになるのか」

 よりによって……という感情も出てきた。アルフィンも含め、一緒に祝おうという話しをしたのに。通商会議を諦めれば特別実習への参加が決定するので、どの道当日に祝うことはできないけれど。

 カイトは、複数枚ある手紙の内、最後の用紙に目を通した。

 最後まで、含みあるいつものオリビエの言葉だった。

 

 それと最後に。会議の前日には、お忍びで『小さな同窓会』も開くつもりだ。今の成長した姿を見せる……その意味でも、君にとっては悪くない数日間になると思う。

 それでは、また。通商会議を選んだ暁には、よろしく頼むよ。

 オリヴァルト・ライゼ・アルノール 改め 漂白の詩人オリビエ・レンハイム。

 

 

 









投稿が滞ると言ったな。
あれは(半分)嘘だ。
ストックが増えました〜!

軌跡本編のプレイ状況は? ※空零碧閃創黎

  • ・空から全作やってるぜ!
  • ・発売順じゃないけど全作やった!
  • ・初プレイ作品より過去作はやってない!
  • ・プレイ状況はまちまち(例:閃と空だけ)
  • ・軌跡本編? 知らんよ
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