心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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66話 8/29:西ゼムリアの行方②

 

 

 遊撃士協会クロスベル支部の二階。カイト、アリオス、ミシェル、そして特務支援課の五人が集まって長テーブルに座っている。

 遊撃士と警察。かつてお互いを意識し遠慮し、縄張り争いすら繰り広げていた組織の人間が膝を合わせている。政治の健全化と特務支援課の台頭。それによって遊撃士()()が過剰に崇拝されているようなクロスベルは過去の姿になった。今、カイトたちはそれぞれの情報をすり合わせ、通商会議という同じ目的のために動いている。

 そして、再会の流れもあり最初に語られたのはカイトのここ数ヶ月の経緯だった。

「……そうか。そんな理由でカイトは帝国に」

 ロイドは一通りを聞き終えて大きく息を吐いた。

 Ⅶ組のクラスメイトと同じく勝手にオリビエの名前を出すのは憚られたので、その辺はぼかしている。けれど自分がそもそもクロスベルに修行をしに来た理由や、帝国へ旅立った理由などは包み隠さず明かした。

「エステルちゃんとヨシュアもそうだけどよ、リベールの異変経験者はハードなことをやるもんだな」

「そりゃそうですよランディさん。あの忘れられない旅に影響されない仲間なんていない」

 ため息を吐いたランディ。エステルたちとも異変の話をしたのか。カイトは驚きと納得を同時に感じた。

 剣聖を追い越すため。剣帝に追いつき贖罪を果たすため。世界を知り、全ての人たちを守るため。それぞれがリベールを旅立った理由は単純明快だ。

 ワジはいつもの含み笑いを崩さない。

「ま、もの好きなのは変わりないよね。昔は嫌ってた帝国の立場に立って、しかも今でも帝国を警戒してるクロスベルに来てるんだから」

「帝国そのものは、確かにクロスベルにとって警戒しなきゃいけないと思う。なんたってあの鉄血宰相だしね……」

「カイト君、オズボーン宰相にお会いしたことがあるの?」

「一目見た程度だけど。エリィは?」

「帝国への外遊の時にね。私も見かけた程度だけど」

 どちらもその程度で圧倒的存在感を植え付けられたのは変わりないらしい。

 カイトは吐きかけたため息を堪え、笑顔を取り繕った。

「でも、帝国の中にいる人は必ずしも敵にはならないと思う。オレや、オレを助けてくれた協力者がいる。何よりも……Ⅶ組がいる」

「Ⅶ組……」

 ロイドが、カイトが属するそのクラスの名を反証した。

「帝国や内外に存在する『壁』から目を逸らさずに、主体的に行動する。今はまだ何者でもないけど、そんな強さを持った奴らだ」

 クロスベルを守る。帝国の問題に目を向ける。リベールや世界を守る……全てが同じではないにせよ、協同できるものはある。それぞれの標は、重なるはずだ。

「立場が少し変わっただけだよ。志は変わっていない。だからオレは今ここにいる。ロイド、みんな……これからも、オレたちは仲間だ」

「カイトさん……」

 面識が一度しかなかったノエルにとっては、カイトの印象を少なからず決定づける対話だった。

 ロイドは笑う。

「わかった。競売会の時から、俺たちの関係は変わってない。一緒に頑張ろう。同じ『壁』を、それそれの方法で乗り越えるために」

 リベールだけでない。帝国だけではない。クロスベルにだって同志はいる。カイトはそれを再認識した。

 ミシェルが手を合わせた。

「さぁ、そろそろ本題に移るわよ。アリオスやカイトが知り得る情報もあるけど……まずはロイド君たち。教えてもらえるかしら?」

「はい。俺たちの知っていること……《赤い星座》についてお話しします」

 ここからは、改めての情報共有だ。

 支援課のリーダーであるロイドを中心に、彼らの知り得る事実と謎がもたらされた。

「なるほどな。《クリムゾン商会》にそんな裏があったとは」

 昨日もミシェルと話した《赤い星座》。彼らは大陸西部で双璧を成す猟兵団であり、一人一人の実力もさる事ながら武装兵器の火力が群を抜いているというのが他の猟兵団と異なる。当然、その資金は単一の依頼だけでは賄えない。

 アリオスが発した《クリムゾン商会》とは、最近クロスベル市の歓楽街に居を構えた、帝国や共和国でも有名な商社だ。赤い星座の資金源のひとつで各地で高級クラブも経営している。

 ますますもって、猟兵の存在感が浮き彫りになるとカイトは思った。カイトは今までの人生のほとんどを平和で牧歌的な、もっと言えば猟兵の運用を禁じているリベールで過ごしてきた。猟兵とも無関係、百日戦役を除けば戦争とも縁のなかった地帯。例えばフィーの記憶の根源にあった『気がついた時には戦場にいた』という言葉は、正直なところほとんど想像がつかなかった。

 だから、カイトは本当に戦場で死とともに生きる猟兵を知らない。

 ワジがアリオスに聞いてきた。

「しかし、《赤い星座》の情報はそっち(遊撃士協会)でも掴んでないわけ? ギルドって猟兵団と小競り合いをすることが多いって聞くけど」

「確かに多いが、《赤い星座》クラスの猟兵団と事を構える機会は滅多にない。下手をすればお互い全面戦争になりかねないからな」

 無数に存在する猟兵団の中でも。赤い星座は別格だ。大陸全土にコネクションを持ち、紛争の兆しがあれば即座に介入して自分たちの存在を売り込む。そうしてできた戦場で血を対価に生まれる蜜を貪りながら生きている。

 規模は小国の軍隊と同等。とてもクロスベル警備隊が勝てるものではない。

 カイトが手を挙げた。

「オレは以前、《ジェスター猟兵団》の……残党と争ったことがある。先輩遊撃士三人と一緒にだ」

「へえ、ジェスターといやぁ中堅手前の猟兵団だ。残党とはいえ、やり合うたぁさすがカイトじゃねぇか」

 ランディが返してきた。さすがに詳しい。

「とはいえあの時はカシウスさんが団を壊滅させた直後で、向こうも武装が心許ない状況だったみたいだし……油断はできませんよ。今の状況じゃ」

「現状については、カイトのジェスターの話はひとつの経緯として捉える程度の心構えが必要だ。遊撃士四人と残党の争いとは違う。今のクロスベルには、赤の戦鬼(オーガ・ロッソ)がいる」

 やはり問題はミシェルと話した重要人物にして超危険人物だ。

「シグムント・オルランド……俺の叔父。《闘神》と呼ばれる俺の親父にも、《西風の旅団》の団長、《猟兵王》にも負けない化物だ」

「ランディ……」

 エリィの目が伏せられた。ランディが《闘神の息子》であるとか、《赤い星座》がクロスベルにやって来たとか、それだけでは納得のできない悲しげな表情。

 この数週間だけでも何かがあったのか。ランディの心をかき乱すような何かが。

 少しの沈黙を経て、カイトは口を開いた。緊張した空気は変わらないが、少しでもランディの気を逸らしたいと思った。

「オレのクラスメイトにも《西風》の関係者がいるけど。聞いたのは確か《猟兵王》ルトガー・クラウゼル……だったかな」

「とんでもねぇ切れ者で、人を小馬鹿にするようなオッサンだ。……今ここにいる誰にも、あの化け物共に太刀打ちできる人間はいないだろうな」

 ランディのその言葉。エリィの声が震えた。

「風の剣聖が太刀打ちできない……!?」

「うーん、あたしの見立てじゃ五分五分だと思うけど……剣士と猟兵じゃ得意とする間合いも戦闘スタイルも違ってくるし」

 アリオスは自分を過小評価するきらいはあるが、それでもA級遊撃士としての分析力は持ち合わせている。ミシェルの若干のプライドが込められた言い分に対しても、風の剣聖は首を横に振った。

「遊撃士は支える籠手。その本分は護ることにある。対して猟兵は──」

 アリオスの説明をランディが遮って、そして引き継いだ。

「屠ること、それが本分だ。いかに相手の喉元に喰らいつくか。その意味じゃ、俺たちは既に奴らに負けていると言っていい」

 それは戦闘に入る前の、戦略の意味での話。だがあくまで真実だ。

「オルランドの言う通りだな。実際問題、全力で向かったとして……良くて相討ちだ。俺の剣は敵を屠るためには練られていない」

 少し含みを持つ言い方に聞こえた。それで、カイトは少し気になった。

「そういえばアリオスさんって、八葉のどの型を修めているんでしたっけ?」

「弍の型《疾風》になる。カシウス師兄の《螺旋》とも、お前の同級生とも、R&Aリサーチ所長の《残月》とも異なるな」

「いやさらっと怖いことを言わないでくださいよ。なんで知ってるんですか……」

 身震いしつつカイトは考えた。

 カシウスもカシウスで「護るための象徴として棒術を選んだ」と言うし、リシャールも戦い方や得物に自分の魂を乗せる人間だ。

 遊撃士が苛烈な戦いに慣れていないのは当たり前だが、アリオス程の実力者ならいざという時に容赦はしないだろう。

 アリオスやカシウスが《剣聖》と、そう評されるのは戦闘能力だけが理由ではない。理を見通し、あらゆる盤上において最適な解と道筋を見つけ出し、掴み取る力を称されているのだ。

 そういった人間は勝つのではなく負けないこと、落とし所を見つけることを異常な程得意とする。

 そんなアリオスが、シグムンド・オルランドに対して少なからず慎重な姿勢を見せている。

 ロイドが考え込んでいる。事戦闘に関して名実ともにクロスベル最強であるアリオスの言動に。

「……だが、必要とあらば敵対することもある。問題は彼らがなんの目的でクロスベルに入ったかだが」

「結局はそこですよね……」

 ノエルが溜め息を吐いた。ワジがカイトに目を向けた。

「根本がわからないんじゃねぇ。手がかりは帝国政府が絡んでいるってことくらいかな?」

 カイトは掌を上に向けてヒラヒラと振った。

「オレに言われても。言っとくけど、幸運で随行団に潜り込めただけで上層部の意向なんてまるっきり知らないよ」

「それについてだが、関連しそうな情報がある。共和国方面で掴んだものだ」

 再びアリオス。

「《黒月》の本拠地でもある《煌都ラングポート》。ここに数週間前、通商会議に出席するロックスミス大統領が非公式に赴いた」

 それが意味することは。

「黒月と共和国政府が何かの取引を行った。そう考えるのが妥当だろう」

 それだけではない。アリオスが話したその非公式の会談を主導したのは、カイトもよく知るロックスミス機関室長のキリカ・ロウランだ。

 どうやらロイドたちも知り合っていたらしく、カイトよりも驚きを示していたが、それ以上に重要な事実がある。

「ちょ、ちょっと待ってください! 赤い星座と黒月は以前抗争しているんですよね!?」

 エリィが珍しく声を荒らげた。お嬢様でなければ机を叩いて立ち上がっていたくらいの勢いだ。

 エリィの言うそれは、去年カルバード共和国で生じたことだ。

「その両者に二大国の諜報関係者が接触しているということは……!」

 帝国−赤い星座。共和国−黒月。

「見事な対立構造が出来つつあるというわけだ」

 二大国の係争地であるクロスベルで、二大国の関係者の対立構図が出来上がる。それはある意味おあつらえ向きで、そして当のクロスベルにとってはこの上なく苦しい状況だ。

 クロスベルで二大国の代理戦争が始まる。不戦条約がある以上そう簡単に武力抗争にはならないだろうが、可能性は常にそこにある。おまけに明日からは要人のオンパレードだ。

 代理戦争という事象を肯定する要因も、否定する要因も多すぎる。そもそもの対立関係に、戦争勃発による周辺諸国からの批難。

 あるいは代理戦争という分かりやすい予想を隠れ蓑にした陰謀かもしれない。

 未だ真相は闇の中だ。

 数々の予想に、ロイドは表情を強張らせていた。それでもリーダーとして、捜査官として冷静に状況を俯瞰しようと試みる。

「……いずれにせよ、現在生まれつつある構図には何らかの意図があるはずです。たぶん、俺たちが手にしていない欠けたピースが」

 真実を明らかにし起こりうる災厄を止めるには、ロイドが発した方針が当たり前で、そして核心的なものだ。

 通常の業務とともに。あらゆる領域に注意を張り巡らし、そして欠けたピースを手に入れる。

 警察と遊撃士。協力しない選択なんてない。今のクロスベルなら。

「お前たちの方でも何か掴んだら知らせてくれ。明日からの三日間を無事に乗り切るためにもな」

 協力関係を再認識した時、遊撃士協会の扉が開かれる音がした。

『ただいまー!』

『こ、こんにちわ』

 二人の少女の声。そのまま階段を上ってくる。

「お、お姫様たちのご到着じゃねぇか」

 ランディがそう、少しわざとらしく笑ってみせた。アリオスも同様に笑顔を、取り繕う。

「帰ってきたか」

 ドタドタと、トコトコと。特徴的な足音でやって来たのは、ランディが言い表したようにこの場の誰もが知っているお姫様たち。

「みんな、ただいま!」

 碧色のふわふわとした癖のある髪の毛。カイトも知っている少女キーア。

「お父さん、帰ったよ」

「ああ」

 アリオスと話したのは彼の娘であるシズクだ。

 順々に声をかけあうその場の人々。キーアはカイトを目に届けると、目を大きく見開いて笑った。

「あー! カイトだ! 久しぶりー!」

 対してシズクはわずかな驚きを浮かべる。

「え、カイトさんがいるの?」

 シズクは目が視えない。誰がいるか、誰が来たかは声と足音で判断している。まだカイトは椅子から立ち上がっていないのでわからないのも当然だ。

 その後ろからツァイト──以前にも顔を合わせた白狼が現れて喉を震わせた。少女たちの護衛をしていたらしい。

「キーア! 久しぶりだ、よくオレのこと覚えてたな!」

「忘れないよー! ロイドと一緒にお目目まんまるにしてたんだもん!」

「シズクちゃんも、久しぶりだね。今日は楽しめた?」

「はい、とっても。お久しぶりです」

 アリオスの娘。支援課の看板娘。そういった縁もあり、二人は仲良くなったらしい。

「おいおいカイト、うちのキー坊を誑かすなよ」

「キー坊……あ、キーアか。ってランディさん、再会を喜んだだけじゃないですか」

「カイト君。キーアちゃんと話すときには『悪影響を与えない言葉遣い十箇条』があるからそれに目を通してね」

「え? ちょっとエリィ、目が怖いんだけど……」

「コラコラ。ごめんカイト、キーアのことになるとみんな目が据わっちゃってさ」

「そういうロイドが一番可愛がっててパパみたいだけどね」

「黙るんだ、ワジ」

 一連の流れをカイトはなんとも微妙な感覚で聞き届けた。

「溺愛してるなぁ……なあ、キーア」

「なーに?」

「君のパパとママたちが怖いよ?」

「んー? いつもこんなふうに楽しいよ?」

「あ、そう」

 愛らしいのはその通りだし、可愛がりたいのもわかるが。他人事で聞いている分には面白い。

 まあ、この絆があればこそ教団事件を乗り越えられたとも言えるか。

 娘たちも帰ってきたところで、情報交換もお開きだ。窓の外を見ると夜の帳が下り始めている。

 アリオスは珍しく今日の仕事を終わらせているようだ。この後はシズクと共に外食するのだという。

「カイト、お前も来ないか? シズクとも久しぶりだろう」

 そんなアリオスの提案には、さすがに首を縦には振れなかった。

「いやいや、父娘水入らずに割って入るのは悪いですよ。だから、どうか二人で楽しんできてください」

 ウルスラ病院にお見舞いに行っていた頃から、シズクがアリオスとの遠さに寂しさを感じていたのは知っている。邪魔はできない。

 と、そこでキーアがカイトの制服の袖を引っ張った。

「それじゃ、カイトはこっちに来てよ!」

 これはむしろ嬉しい誘いだ。そもそも今日、支援課ビルを訪ねたのに誰もいなかった経緯がある。たった今果たした情報交換もそうだが、それ以上に共に戦った仲間として旧交を温めたかったのが大きい。

 ミシェルに目線で問いかけると、肩をすくめて思いの外柔らかい笑顔が返ってきた。許してくれるらしい。

「そうだな、支援課に行くのも会うのも久しぶりだし。一緒に食べようか」

 そうしてミシェルを除く全員で遊撃士協会を後にして、さらにアリオスとシズクとも別れる。

 特務支援課にとっては久々の外食らしい。一同どこに行こうかと、キーアも含めてしきりに語り合っている。

 そんなメンバーの中、カイトは自分と同じく後方にいたロイドと話した。

「改めて……久しぶりだ、リーダー」

「はは、カイトこそ。五ヶ月前のことが随分と昔のことのように感じるよ」

「色々あったもんなぁ、お互い」

 カイトは帝国各地を飛び回り、その中で騒動に巻き込まれた。支援課はクロスベルの中で壁を乗り越えてきた。

 恐ろしく密度の濃い五ヶ月間だった。これ以上濃い数ヶ月間があると言ったら笑ってしまう。といってもカイトはカイトでリベールの異変を経験しているわけだが。

「以前、ランディの部屋で一緒に飲んだ時……『悩んでいることがある』って言っていただろう? あれは帝国行きのことだったんだな」

「うん。でも……活動する場所と立場が変わっても、オレの志は変わっていないよ。だから……例え帝国の士官学院にいても、ロイドたちの仲間でいたい」

「ああ。俺たちは仲間だ」

 自分の立場が帝国に寄っていることで、カイトは多少なりともロイドたちからどう思われるかを気にしていた。もちろん、ロイドたちがそのように抵抗を示すことがないとはわかっていたけれど。こうして直接話すことで、少し気持ちも前向きになる。

 ここ最近、どうしても立場のままに行動することがなかった。遊撃士でありながら士官候補生として。帝国の隊士ではあるがクロスベルの人たちと共にいる。そんなことが多かった。

 それでも、そういった想いを仲間に、級友に語る度にカイトの意思は歓迎された。その度に、少しずつカイトは自信を得ていっている。このままでいいのだと。

 カイトはロイドに向き直る。

「さて、差し当たっては通商会議を頑張ること。それと、今日は支援課のみんなと一緒にご飯だ」

「ああ。課長は忙しくてこれないだろうけど。あとティオもまだ帰ってきてはないけれどね」

 再び支援課メンバーとキーアを眺める。

 出し抜けにキーアがランディに聞いた。

「ランディ、もしかして元気ない?」

「ハハ、そんなことねえって」

 ランディは弓を射るような姿勢をとり、さらに膝を曲げつつ決めポーズとなった。

「シャキーン! ほれみろ! いつも通りのクールでハンサムなナイスガイだろ?」

「ないすがいー?」

「先輩……ナイスガイはさすがに死語なんじゃ」

「空元気がまるわかりだね」

「ええい、交ぜっ返すな後輩ども!」

 やいのやいのと言い争いは続いている。再びカイトとロイドは声を潜めて語り合う。

「ランディ……《赤い星座》の件、相当気にしてるみたいだな」

「ああ。実は彼らがクロスベルに来たその日に接触してはいたんだ。ランディがちょうど支援課に合流した日だったんだが」

「それって……」

 ランディは教団事件の後、薬物の後遺症を負ってしまった警備隊のリハビリのために支援課を離れていた。そこから久しぶりに支援課に合流した……その当日に心かき乱されるようなことがあった。

「……心配だな」

 フィーとラウラの仲違いを知っている。彼女たちとランディの問題が同じとは思わないが、市井とは全く違う猟兵という価値観の中で生きてきたことで相違が生じているのは共通しているだろう。

 ロイドは僅かに思いつめた表情となった。

「相棒として、なんとかできればいいんだけど……」

 仲間、親友、相棒。言葉は違っても他人ではない何者か。フィーとラウラの関係を好転されたのもそうだった。

 ランディと話しているエリィが言った。

「そうね、こういう時のために私たちがいるんだから。くれぐれも自分だけでなんとかしようと思わないでね?」

「はは……わかったよ。そのうちにな」

 ランディは観念したように笑っていた。

 後ろからそのやりとりを見る二人。ロイドもカイトも気持ちだ。間柄は異なるが、同じ仲間だ。

 しばし無言になる。支援課のリーダーとして。支援課に関わる外側の仲間として。どうすればいいかを考える。

 けれど、ここは魔都クロスベルだった。人々の感情なんて置き去りにして、物事は際限なく激動へと向かっていく。

「グルルルル……ッ」

 ツァイトが唸り声を上げる。支援課ビル前、玄関の目の前で。

 違和感に気づく仲間たち。

「なんか『お客さんが来てる』って言ってるよー?」

 キーアが呑気に答えた。意思疎通ができるらしいティオがいないのもあって、表現が弱冠稚拙だ。

 反比例するようにランディの空気が冷えていく。

 声を発さず、無駄のない所作でビルの扉を開けるランディ。不真面目ながらも冷静にリーダーを立てるナイスガイなお兄さんのする行動ではなかった。彼は勝手に一人でビルの中へ。

 仲間たちもそこへ続く。支援課ビルのレイアウトは以前と変わっていない。扉を開けて最初にあるのは応接机とソファだ。

「あはは。遅かったじゃーん。待ちくたびれちゃったよ~」

 赤髪。町娘とは無縁の、下着部分だけを隠すような無骨なチェストアーマーとホットパンツ。年だけを見ればアリスやエリゼたちと変わりない、無邪気な笑顔の少女。

 にへらっとした笑顔で雑誌を読んでいる、その少女は。

「えへへ、どもども。シャーリィ・オルランドでぇーす」

 人喰い虎。血染めの(ブラッディ)シャーリィがそこにた。

 

 

 

物語内容を知っている軌跡作品について……

  • すべて、最初は自分でプレイした。
  • 動画、その他メディアで知った作品がある。
  • 全て別媒体で知った(プレイ有無は問わず)
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