『……オズボーン宰相から要請があった』
『休憩時間中、ほんの少しで構わない。君と一対一で、話がしたいそうだ』
ミュラーの言葉の意味がわからないなんて、そんなことはない。ミュラーの声色の意味も、内容も、はっきりとわかっている。
それでも、わかりたいと思うわけがない。
「──はぁ!?」
思わず立ち上がり、椅子を揺らして怒鳴ってしまう。
場所は34Fの休憩室。他にもたくさんの会議関係者がいて、カイトは──そして同じような剣幕のロイドにも──何事かと注視される。
周りの支援課メンバー、そしてイアン弁護士も驚いている。今尚通信をしているロイドは気づいていないようだが。
鉄血宰相が、自分と話をしたいと言っている?
カイトはミュラーに聞いた。
「一対一で?」
『ああ』
「オリビエさんや、ミュラーさんは?」
『同席の話は出ていないが……あくまで君との対話を望んでいるとのことだ』
「……マジですか」
一体全体どういうことだ。
面識なんてただの一度きり。一ヶ月前の帝都でだ。それも、自分はあくまでⅦ組の一人としていたに過ぎない。
自分自身、レクターやクレアにミリアムとの面識がある。それに帝国内で名が知れ渡りつつⅦ組にいる。だから自分の存在を認知されている可能性は否定できないけれど。
それでも、どうして。
「その話、オリビエさんは?」
『把握している。あいつも気にはしているが……あくまで君の判断に任せるそうだ』
そもそも拒否する選択肢が許されるのだろうか。
(……でも、またとないチャンスでもある)
自分が帝国へ来た理由は大きく分けて二つ。『全ての人を護る』という自分の命題を叶えること、そしてオリビエの助けになること。
オリビエが警戒し敵対している鉄血宰相。特別実習で見てきた帝国解放戦線や、貴族派が目の敵にしているギリアス・オズボーン。
帝国の軍事力を増大させ、リベールすら巻き込もうとした時代の傑物。
懐に飛び込んでみなくては、わからないこともある。
『宰相はどうやら特務支援課にも同じ要請をしているようでな』
(……ロイドが呻いてたのはそれでか)
特務支援課もレクターと面識があり、ルバーチェが崩壊した原因を作り教団事件を解決した立役者だ。飲み込もうとするクロスベルで注目されている存在だから、気にとどめておくのはわかる。
自分も、そうか。リベールの異変の関係者でもあるのだ。
『私たちはあくまで皇子の護衛、指揮系統は宰相側からは外れている。理由をつけて断ることもできるが……どうする?』
ミュラーの言葉は頼もしかった。
けれど、引くことはない。
今更、臆することなんてない。
「その話、了承してください。すぐに向かいます」
カイトが通信を切ると、ロイドも弱冠疲労と共に通信内容を仲間たちに伝えていた。カイトが想像した通りかつ加えられていて、それは『オズボーン宰相とロックスミス大統領が特務支援課と話をしたがっている』とダドリーから伝えられたというものだった。
宰相に加え大統領までとは。ロイドたちに同情した。
カイトも、ミュラーからの通信内容を彼らに伝える。自治州警察の一部署と帝国皇子の護衛では距離があるが、当事者にとって衝撃の申し入れだというのは互いに理解していた。
ロイドたちは最初、ロックスミス大統領に呼ばれているらしい。であればカイトは早々にオズボーン宰相の控え室に向かったほうが良さそうだった。
会議が再開する前にとんでもない時間が訪れることになってしまった。それぞれの健闘を祈りつつ、特務支援課とカイトはイアン弁護士と分かれることになる。
大統領の控え室は左翼の最奥。宰相の控え室は右翼の最奥。36Fまでやって来て、カイトは支援課と分かれる。
右翼へ続く曲がり角まで来る。手前から順に3つ扉が並び、最奥が目的地。そしてその手前、真中の扉はオリビエの控え室でもある。
部屋の前にミュラーが立っていた。そしてちょうど、オリビエが現れた。
「オリビエさん、ミュラーさん」
「やあカイト君、お疲れ様」
「なんか、とんでもないことになっちゃいましたね」
「僕はリベールから凱旋する時に、彼に
トールズ士官学院Ⅶ組とは別の枠組みで、自分はオズボーン宰相から注目されていた。
そして通商会議が始まった今日、どういうわけかオリビエを挟まずに対話を要求されている。
オリビエは言った。
「僕が浮遊都市で言ったことを覚えているかい?」
「オリビエさんの目的を聞いた、あの時ですね」
「『君を反鉄血一派に仕立て上げる気は毛頭ない』と言った。あくまで、君自身が決めることだ。報告をするか否かも」
自分たちの本質は主従関係ではない。互いが互いを信頼し、助け合うために協力している。一人一人が主役で、自身の信念に従って行動をするのだ。
「わかりました。あくまで自分自身のために、話をしてきます」
「せいぜい宰相殿に摘まれてひょいっと食べられないよう、気をつけたまえ?」
「あはは、いざという時のオレはしぶといですから」
オリビエとミュラーと別れ、そしてまっすぐ進む。レクターではない、別の機甲師団から召集された護衛将校に少しやっかみがられながらも、カイトはその許しを得て扉をノックした。
ノックに対しての返事はない。扉を開ける。
「失礼します、オズボーン宰相閣下」
軍人としての、士官候補生としての敬礼を果たす。
「カイト・レグメント。要請に従い参上致しました」
「入ってきたまえ」
──男は、未だカイトを見てはいなかった。低く艶のある声。階下に広がるクロスベルの街並みを見続けている。
言葉に従い、カイトは礼を解き部屋の内部へ歩を進める。
細かい調度品は異なるが、テーブルの大きさに配置などの大枠はオリビエの控え室と変わりなかった。それらを避け、カイトは、男の斜め後ろに控える。
あと2、3歩進めば手の届く位置に、革新派を主導する男が立っている。
「見るがいい。この景色を」
──男は、なおもカイトを視界に映さない。言葉だけでカイトを動かしている。
「……クロスベルが見えます」
「君の眼にはこの景色がどう映る?」
「1年半もの間、修行をした場所です。愛着もある。護りたい人たちがいる。故郷とは違う雑多な雰囲気だけど、オレはこの景色が嫌いじゃありません」
「それは経験故の感情だ。歳月を重ねた果ての感傷。何一つ間違った答えではない」
「貴方の眼には、この景色がどう映りますか?」
「高所であればバルフレイム宮が最も近い。だがこれほどの光景は見たことがない。遥か空の上から地上を見下ろす……国の舵取りを少なからず任されている私にとっても、この感動は大きい」
男は振り返った。長身、黒髪、彫りのある顔。鳶色の瞳がカイトを捉える。
「だからこそ問いたい。遥か天空の浮遊都市。その頂きから、君は滅びた栄華を見た。クロスベルの景色は、果たしてその栄華と重なるか?」
「……っ」
当然知っているか。自分のリベールの旅路を。
けれど、そこまで知っているか。浮遊都市に
「……重なりません」
カイトは答えた。
「何故だ?」
「あそこには、大いなる奇蹟があった。だから……人々は堕落してしまった。でもこの世界に奇蹟はなくて、地に足をつけた人たちがいる。だからクロスベルは滅びやしない」
「栄枯盛衰は世の常。まして導力文明はかつての奇蹟を取り戻しつつある。いったい何が違うと言える?」
かつて対峙した白面の言葉が蘇る。剣帝との対話を思い出す。
「……あの時とは違う。たくさんの志を共にする人たちがいる。オレがいる」
エステルがいる。
ロイドがいる。
リィンがいる。
他にもたくさんの人たちがいるはずなのに、どうしてかこの3人が真っ先に頭に浮かんだ。
「ふふ、よかろう」
男は笑った。油断ならない、こちらが全く笑えない、全てを飲み込もうとする不敵な笑み。
「自己紹介を」
「え?」
「自己紹介だ。とはいえ私と君は既に一度の面識がある……故に必要がないと、そう思うかね?」
「……それは」
「単純な話ではない。それは私に対しての表明ではない。己とは
牙をちらつかせているわけではない。むしろ友好的とすら言える。なのに、カイトは思い知る。
(……この人は《怪物》だ。間違いない)
視界を超越した全ての事象を認識し、その上で油断もなく構えている。
自分も、一瞬たりとも油断できない。ここから先放つ言葉は、例え一対一の会話だとしても『世界に刻まれるのだ』と思い知らされた。
戦闘力、知略、意志。それらを超越した力を、この男は持っている。
全身全霊を持って、自分はこの男と対話を成さなければならない。
「オレは……」
言い淀む。己は何者であるかと宣言すべきか。
特科クラスⅦ組としての顔か。それとも遊撃士としての自分か。
オリビエの盟友としての自分なのか。
(いや、違う)
直感する。目の前の男は、そんな表面上のことを聞くために自分を呼び出したわけじゃない。
オレが言うべきことは。
「……オレには目標があります。全ての国の、全ての人たちを護る」
クローゼとの確執を乗り越え、オリビエへの忌避を乗り越え、そうして今の自分の根幹を成す信念を告げること。
「何者だろうが関係ない。オレの全てはその目標にある。ただ、カイト・レグメントっていう名前を持つだけの……この世界に生まれ落ちた一人の人間です」
「及第点といったところか。さすがに皇子の盟友と呼ばれるだけはある」
普通であれば、自己紹介と言われてこんなことを言えば笑いものだ。
それでも、遊撃士とⅦ組という二つのカイト・レグメントを知る男は、少しは納得したように返すのだった。
「改めて……エレボニア帝国政府代表、ギリアス・オズボーンだ。特務支援課が来るまでの間……話に付き合ってもらおうか」
────
「改めて……オズボーン宰相閣下。どうしてオレを話し相手に?」
オズボーン宰相と、そしてカイト。二人は控え室のソファに腰掛け、テーブルを境に相対していた。それぞれ紅茶のカップを揺らし、適度に喉を潤しつつ会話を始める。
「君のことはレクターをはじめ方々から聞いている」
「お見通しってわけですか。ひょっとして、オレが知らない両親のことも知っていたりするんですか?」
「ふふふ……必要があれば情報局に調べさせる、ということもできるかもしれんな」
アリシア女王に「調べることもできる」と言われ、あえて好意を断った提案。
「どうした? 自慢ではないが、私は国の中枢にいる。士官候補生ならば問いただしたいことも多いだろう」
「……」
「殿下も異なことをする。ノルドの地はともかく、かつて敵対したリベールの人間に士官学院の地を踏ませるのだから」
「……貴方は、今でもリベールを敵として見ているんですか」
少し危なげがなく、けれどカイトにとっては聞かずにはいられない問いかけ。オズボーン宰相は、紅茶のカップを置いて答えた。目をつむり、懐かしむように。記憶を探るように。
「個人的にも好感を抱いている。悪意と苦難に抗い、しなやかな束となって業火を打ち払った。たとえそれが一人の圧倒的な《個》による結果だとしても、そこに集積する《個々》の意志がなければ成し得なかったことだ」
「……意外でした。貴方は《鉄血宰相》と呼ばれ、少なくとも旧体制からは悪態をつかれている。そんな風にオレや……オリヴァルト殿下と同じことを言うなんて」
「大いなる力で障害を破壊するのが私の本分だと思ったかね? ……人は愚かなだけの存在ではない。私もその可能性を信じているだけの《個》に過ぎん」
「じゃあ──」
「だが、私は同時に政治家でもある」
オズボーン宰相の目が、静かに開かれた。
「《鉄血宰相》にとって、《剣聖》が据わる南の領土。それをどう捉えるかは……推して知るべきだろう」
「っ……」
カイトの手が震える。目の前の男は、リベール王国を《領土》と言った。
自然、カイトの語気が強くなる。荒げる。
「蒸気戦車の一件。オリビエさんやカシウスさんの作戦がなかったら、どうするつもりだったんですか」
「どうするも何もない。私の意思に関わらず、どうなるかは明白であろう?」
「……」
「仮にリベールに《個の力》も《個々の集積》もなければ。浮遊都市は未だ太古の威光を放ち続けていた。結社の白面はその理想のために世界に真実を広め続けていた」
「あのゲス野郎まで知ってる……」
自分たちがアルセイユで浮遊都市へ向かうことができなかった、という仮定の話。オリビエとカシウスの作戦は恐らくもっと脆弱なものになり、下手をすれば結社と帝国に前後を取られ王国は
「リベールは空白地帯となる。導力器を持たない王国は死に体も同然。生活基盤もない。国民は共和国か、あるいは帝国に流れていた」
「……」
「民が消えれば国は消える。王家はその冠を降ろす。果たして共和国は、緩衝地としての役割が失せた王国と友好を結び続けるか?」
「……やめてくれ」
聞きたくない。耳障りな言葉が胃の中を埋め尽くしてくる。
「軍が導力停止のためにその力を失えば、それ以外の戦力を持つ猟兵が跋扈する。あるいは七耀教会が福音のために動くか、遊撃士が支える力のない篭手を振るうか……いずれにしても、
「……どうして、そんなことが想像できるんですか」
あらゆる可能性を探り、最善を尽くすことが分野を問わず目的を持つ人間の意識するべきことではある。遊撃士だろうが、政治家だろうが変わらない。
だが、それでどうして他国を侵略することや、他国が崩れゆく様をいとも容易く想像できる。
「それが、国を護るということだからだ」
オズボーンは答えた。
「現実は常に非情だ。死は時に平等に訪れる。それでも己が成すべきことがあるのなら、手段など関係ない。だからこそ、私はあの時一国の軍が秩序を持って『
「どの口がっ……」
思わずでかかる短絡的な腕を、カイトの自制心が辛うじて引き止めた。
自分の一挙手一投足が、どのように目の前の男に利用されるかもわからない。自分の今の立場はオリビエに付くミュラーの部下なのだ。
それだけのために鉄血宰相が自分を呼び寄せるとも思えないが。
カイトは努めて冷静に尋ねた。
「……蒸気戦車による帝国軍の進駐。あれでリベールを併合するつもりだったんですか」
「言っただろう、堅実な手段だと。まああれが思うように動かなくともやりようはあったがな」
仮にリベールが併合されていれば、オズボーン宰相が説明した未来だけではない。カシウスという存在が帝国軍に下っていた。それによる影響も計り知れないだろう。
リベールは軍事的な強国ではない。帝国にも共和国にも牙を向けることはまずない緩衝国。帝国からすれば得も損もならないであろう関係性。それでも、他に緩衝地はある。
自然豊かな大地だけの場所とも、既に権力争いが繰り広げられている都市とも違う。剣聖が護り女王が治める領土。そのままで構わない、ということか。
「ところで、ミリアムは変わりはないかね?」
話題を変えたのはオズボーン宰相だった。数時間前のレクターを思い出す。
「……貴方たちはやっている事のわりに関係者のことを気にするみたいですね」
「無慈悲な宰相だとでも思ったかね? これでも人並みの情は抱えているつもりだが」
「鉄血の子供たちとはいえ、あんな小さな女の子を……一体なんの差し金です」
「言わなかったか? ささやかな協力だと。それとも、
「一個人としてはまだ警戒は解けませんが。クラスメイトとして歓迎しよう……これがⅦ組の総意です」
「結構。あの子は優秀だ。精々、色々な体験をさせてくれたまえ」
「けれど、それは貴方個人に気を許すことと同じじゃない」
カイトは、オズボーン宰相を正面に見据えた。立ちふさがる全てを喰らい尽くすような眼に、負けたくないと思った。
気になること。全てを曝け出した。
「あの子が持つ
──リベールを混乱に陥れた白面との協定も。
──恨みを抱えてまで改革を推し進めて、貴族派との対決も辞さない在り方も。
そして、今日──
「今日、テロリストを野放しにして、クロスベルを危険にさらしていることもっ」
オリビエとの会話で、初めてギリアス・オズボーンの存在を意識した二年前。
ずっと敵だと思っていた。オリビエが警戒しているのは間違いない。貴族派の短絡的な所業が目立つにしても、革新派の攻勢も目に余る。だからこそ警戒は解けなかった。
けれど今日、目の前で語り合った、この一瞬だけでもわかったことがある。
単なる悪意を持つだけの政敵ならば、きっとオリビエはそれほどの力を出さずとも打ち勝てた。
間違っても善意ではない。それでも白面のような悪意との協定を持ち、オリビエ以上の知略を持っていて──そしてレーヴェのように世界を試す銀のいや
だから、一体何を──いや違う。『
「聞きたいことは幾らでもあるんだ……!」
貴方は、一体どこに向かっているんだ。
きっと、そんな自分の意図も理解されている。
沈黙。
オズボーン宰相は、ひたすらにカイトを見返していた。
カイトも、決して目を反らそうとは思わなかった。
例え力も知力も胆力も負けていても。自分がオリビエの後ろにいる存在だとしても、立ち向かう意志だけは負けたくなかった。
数秒だったような、数分がたったような。
ふと、オズボーン宰相は言った。
「……頃合いのようだな」
「え?」
「時間切れ、ということだ」
呆けていると、部屋の扉の向こうから護衛将校の声がした。
『宰相閣下。クロスベル警察特務支援課より報告がありました。ロックスミス大統領との対談を終え、まもなくこちらに到着するとのことです』
「わかった。到着次第、迎え入れてあげたまえ」
『はっ』
カイトはちらりと部屋の時計を確認した。休憩時間も残り30分を過ぎている。時間は確実に消費されていた。 特務支援課は一つの大きな壁を見たのか。そして、すぐさまもう一つの壁を目の当たりにすることになる。
「これ以上は無益な時間だ。支援課諸君もやって来る」
「……オレの問いに答えるつもりはないってことですか」
「今はまだ。まあ、君が皇子の下に付くべくして付いたことは理解した。ここから先は宿題としよう」
オズボーン宰相は不敵な笑みを浮かべる。
「力もない、指し手にはなれない。だが遊戯盤の壇上に上がり足掻くという、確かな意志。駒であってもそれなりには興味を引く存在だった」
「……所詮、オレは1個の
「ふふふ……彼だけではないことを祈っているがな。そうでなければ、この世は面白くない」
「なら──」
カイトは立ち上がった。
「貴方は、甘く見ない方がいい。オレを──オレたちを」
帝国に従属される運命を変えたカシウスやオリビエがいる。
浮遊都市の威光を遮ったエステルやヨシュアがいる。
昏い聖痕を受け入れたケビンやリースがいる。
強大な壁に立ち向うロイドたちがいる。
《世の礎》たるためにもがき続かるリィンたちがいる。
たくさんの仲間がいる。一人一人が英雄だ。
彼らは、物言わぬ駒として甘んじるような人間ではない。
これが、カイト・レグメントの宣戦布告だった。
「忘れないでください、オズボーン宰相。チェスはどんな駒も王を倒せる資質を持ってる」
「──なるほど」
「指し手を追い詰めるのは相手の指し手でも、チェックメイトを成立させるのは駒があってこそだ」
オリビエを勝者にするのは、紛れもなく自分たちだ。
「リベールも、クロスベルも……特科クラスⅦ組も。貴方にひょいっと飲み込まれるだけの軟な存在じゃない」
例え、革新派と貴族派が内紛を起こそうと。クロスベルを目当てにした二大国の爭いが起きようと。大陸のすべての国が巻き込まれる、明けない夜がやって来たって。
「弱くてか細いオレたちが、大きな一つになって、抗います」
「──いいだろう、皇子の盟友」
ギリアス・オズボーンは言う。
歯牙にもかけない、指し手ですらない、けれど宣言という標を灯した一人の敵に向かって。
「ならば、抗ってみせるがいい。激動の中で、お前のいう仲間と共に。最後に、一つとなるまで」
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