心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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第7章 いつか重なる標たち
35話 影の国①


 

 

 

 七耀暦千二百三年、夏。

 帝国と共和国の狭間、クロスベル自治州。自治州の中心地であるクロスベル市内の東通り。

 日は完全に落ちたが、クロスベル市内の夜は明るい。それはビジネスマンが特に多いこの市では当たり前のことだ。今、夕餉の時間を楽しむ家族をよそに、仕事人たちは残業に追われていた。

「さあ……! あと報告書二枚!」

 遊撃士協会支部の二階では、遊撃士たちも例外なく事務作業に追われている。カイトは周りに目もくれず、鬼の形相で書類にペンを滑らせていた。

「あはは、カイト君頑張ってー」

「はい……ってエオリアさんもさっきまで四枚とか言ってたじゃん!」

 カイトの先輩であり、医師免許も持つエオリア。彼女はいつの間にやら導力ポッドを台所で操作しており、おどけた様子で珈琲を沸かしている。

「今日の仕事はウルスラ病院での業務補佐が多かったから。この手の報告書類はお手の物よ」

「くっ! ならリンさんは……」

「残念。私はあと一枚」

 カイトの隣で同じ姿勢で、けれど少年とは違い黙々と作業を続けるのは、エオリアとペアを組むことが多い女性遊撃士リン。彼女も先輩にあたり、少年にとって馴染み深いのはジンと同じ泰斗流を修めている武人だということだった。

 やや小馬鹿にするような言い方にカイトが悪態をつく。

「……武術家のくせに」

「カイト? それは私が脳筋だといいたいのかな」

 あ、まずい。泰斗流の地獄の戦闘訓練に参加させられる。

 それでもカイトは先輩方に見向きもしない。

「滅相もございません」

「ふぅ……いいかい? 報告書の効率的な書き方は──」

 リンがカイトの報告書を見比べ、簡単な指導を受ける。その合間、エオリアは何も言わずともエオリアの珈琲、そしてリンの緑茶とカイトのココアを作っておいてくれた。

 女性遊撃士たちは主に作業において、面倒見をよくしてくれていた。

 と、そんな中今まで一言も発さなかった男二人が不意に立ち上がった。

「俺たちはこれで帰るぞ」

「三人とも、お疲れ様」

 ぶっきらぼうなヴェンツェルと、穏やかなスコット。それぞれ愛用の鞄を持ち、一階に続く階段へそそくさと歩いていく。

「ちょ……裏切り者ー!」

 カイトが叫んだ。ちなみにこれについてはリンとエオリアも同様の感情を抱いたようで、無言の避難が男二人に浴びせられる。残業をしてまで働いた誠意ある人間に対して足を引っ張るこの台詞。これもある意味、魔都クロスベルの闇だった。

 それはカイトもリンもエオリアも判っているが、人間の心理というのは悲しいものである。男二人は苦笑しながら弁明した。

「そもそも、支部への最新導力器の設置のために夜遅くまで残業をする羽目になった。長居していられるか」

「ははは、……まあ、無駄な残業はしたくないしね」

 自治州内にいる遊撃士が、五人同時に残業をしているというのは滅多に起こらないことだった。その珍しい現象が起きているのは、ヴェンツェルが言った通りの理由で、配線点検や試運転に駆り出されたためである。とんだ残業だった。

 ちなみにここにいないアリオスは例によって現在総本山レマン自治州への出張中だ。

 スコットとヴェンツェルは三人の恨みも何のそので、あっという間に退散した。

 まったくもって身勝手だが、心根寂しくぼそりと呟く少年。

「……うらぎりものー」

 再度沈黙が流れる。その十秒後。

「よし、終わり。エオリア、お茶を用意してくれてありがとね」

「お粗末様」

 さらに逃げていく先輩たち。彼女たちは業務終わりの一服を楽しんでいる。

 カイトが報告書を一枚終わらせた。次が最後の一枚だ。

「……これで終わりだ」

 もはや鬼神の如き覇気だった。集中力は周囲に駄々洩れているが。

 そんな少年の様子を眺めつつ、女性二人は帰り支度と共に世間話に興じている。

「でも、スコットとヴェンツェルも薄情だよね。滅多にない機会だし、久しぶりに五人で飲むのもいいかと思ったけれど」

「ちょっとリン、カイト君はまだ未成年でしょう。あ、でも龍老飯店ならお酒じゃなくてもジュースもあるか」

「久しぶりに、スコットとパープルさんのことも聞きたかったし」

「むしろそのことで、今日はヴェンツェルと帰ったんじゃない? 今頃二人して《ガランテ》に向かってるわよ」

 カイトが口をはさむ。自業自得だがこれも彼の仕事が遅い原因だった。

「《ガランテ》ってなんですか?」

「裏通りにあるジャズバー」

 エオリアが即答した。カイトが戸惑う。

「え、ちょっと即答すぎて心がこもってない──」

 が、リンに遮られる。

「パープルさんとのことでって、エオリアどういうこと?」

「あの二人、恋仲になってからそれなりに長いじゃない? そろそろ進展してもいいはずなのよね……」

「ええ、でもそれなら私たちに相談してくれてもいいじゃないか」

「まずは気さくに男と相談したいんじゃないかしら。私たちに頼るには……って色々考えちゃってるのよ、きっと」

 目の前に一応は男がいるのにそんなこと言うから相談しにくいんじゃないかなぁ。そんなことは賢明にも言わなかった。

 最期の報告書も残り半分。カイトは背もたれに寄りかかってから指を組んで後ろに反らした。

 クロスベル自治州に来て早くも三か月が経とうとしている。相変わらず遊撃士協会支部は激務の毎日だ。充実しているが、緊張の連続。

 鬼神だった反動か、正直な言葉が魂のように漏れ出た。

「はー。姉さんに会いたいぃ」

 と、滅多に吐かない欲望の塊を吐いたところで。

 幸か不幸か、急な光が溢れ出す。

 それはカイト自身には判らないが、少年を中心にして発せられた光だった。

「え、ええ!?」

 カイトは訳が分からない。

 突然の異常事態にリンとエオリアが即座に警戒態勢をとる。反動で二人のカップが床に落ちて珈琲と緑茶をぶちまけてしまう。

「敵襲!?」

「いや、そんな気配はなかった! カイト、大丈夫かい!?」

「負傷はありません! でも本当になんだこれ!?」

 瞬間的に武器を構えた女性遊撃士は、しかしカイトを助けることも他を警戒することもできない。いくら何でも突然すぎて、どうにもすることができないのだ。

 太陽がすぐそこにあるかのように、みるみる光は膨張していく。

 最早視界は白く染まり、眼を開けられなくなるほどになった。カイトの耳にはつんざくような高い音まで聞こえてくる。

「スタングレネード!? まずい、二人とも早く退避してください!!」

 光が収まる。次に現れるであろう敵の姿を想像し、カイトは咄嗟に双銃を体の前で構えた。

 リンとエオリアの実力は織り込み済みだ。それでも異常事態ならどうなることか判ったものじゃない。だから少年は警戒を促した。

 完全に光が収まる。目の前に佇む緑の髪の人物に向けて、少年は油断なく言い放った。

「協会支部に襲撃を働く……何者だ!?」

「えっと……ケビン・グラハムいいますわ」

 聞こえてきたのはなんとも平坦な声だった。それも、聞いたことのある。

「──は?」

 下手に突っ走らず、落ち着いて状況を確認。その手順はクロスベル支部に来たことで様になってきた。そしてそれ故、目の前の光景はますます混乱するものだった。

 遊撃士協会の二階ではない。天井がない。故郷の孤児院で深夜に見上げたような満点の夜空が、まさに()()()()()()近くに存在している。

 しかしそんな夜空に反して風は吹かず、周囲の光源はしっかりと保たれている。目の前の青年然り、その周囲の人々然り。

 見知ったはずの、けれどここにいるとは思えない青年が乾いた笑いを浮かべている。

「あはは、久しぶりやねカイト君。とりあえずその、な。銃を下ろしてくれると嬉しいんやけど」

「は? ケビンさん?」

 銃を下ろして二度目の疑問符、仮に先輩や高貴な者の前でしようものなら制裁者の言葉遣い。

 そろそろ思考が戻ってくる。落ち着け、自分は半年前、非現実的なことなんて何度も経験している。だからあり得ないことなんてない。目の前の減少をしっかり見るんだ。

 青年の奥に控える人々もまた、そのほとんどが見知った顔だ。

 緑髪の青年──ケビン・グラハムの後ろに控えるシスター姿の少女は、控えめに会釈をしてきた。

 《不動》の異名を持つ大男、ジン・ヴァセックが「ようっ」と軽く手をあげる

 リベール王室親衛隊大隊長ユリア・シュバルツと、帝国正規軍第七機甲師団ミュラー・ヴァンダールが微笑を浮かべてこちらを見た。

 ZCFの技術少女ティータ・ラッセルが「わぁ、お久しぶりです!」と満面の笑みを浮かべれば、カプア特急便のジョゼット・カプアが「元気してた?」と軽い調子で聞いてくる。

 遊撃士であり親友、ヨシュア・ブライトが「久しぶり、カイト」と穏やかな笑みを浮かべている。

 カイトはまだ理解できないでいた。

「えっと……何がなんだかよくわからないんだけど」

 現実だとしても、まだ信じられない。だが目の前にいる懐かしい人々が浮かべる表情を見て、カイトは何故だか確信した。

 これは夢でも幻術でもない。そこにいる人たちは紛れもない、仲間たちだ。

 それに。

「元気そうで、よかった」

「……姉さん!」

 仲間たちの中に見える薄紫の髪の少女を見つけて、カイトの声色は殊更に上がる。

 リベール王国が王太女、クローディア・フォン・アウスレーゼ──クローゼは、表情を緩ませて優しく言った。

 そして、少し気まずげに二言目。

「えっと、それと気を付けたほうがいいと思うよ?」

「え」

 何を? と返す暇もなく。カイトの左長至近距離から身の毛がよだつ男の艶声が右耳に入り込んできた。

「おはよう、茶髪のお・う・じ・さ・ま」

「!?」

 鳥肌が立つ。自分の耳元で囁くエレボニア帝国第一皇子、オリヴァルト・ライゼ・アルノールは、顔を赤らめた陶酔の表情を浮かべていた。

 瞬間的に、一度崩した警戒態勢を最大限に搾り上げて、カイトは右腕を振りかぶる。

「何やってんだこの──」

「へ?」

「変態がぁー!!」

 放たれる渾身のボディブロー。アレスレード伯爵など比較にならないほど崇高な血筋の皇子は、田舎育ちの少年に殴られて一アージュ飛んだ。

 地面に背をぶつけ、大の字に手足を広げて伸びる皇子。

「うーん……」

「はぁ、はぁ……」

 ぜぇぜぇと息を吐くカイトを見て、一同は沈黙する。

「この阿呆が……」

 主の奇行に、皇族の守護職はただただ呆れるしかなった。

 

 

────

 

 

 いきなりの小休止を挟み、カイトはようやく変態の奇行による感情の揺らぎを落ち着かせた。そしてオリヴァルト皇子──改めオリビエもようやく気を取り戻し、一同は混乱しかけているカイトを中心に話を進める。

「改めて……リース・アルジェントです。よろしくお願いいたします」

「あ、どうも。カイト・レグメントです。リースさんって呼んでも?」

「どうぞ、お好きなように」

 涼やかな視線を保つ、桃色の髪にシスター服の少女。年は自分より二つほど上らしいが。カイトが初めてであったこの少女は星杯騎士団に所属するケビンの部下らしい。立場は従騎士。といっても私的にケビンとも知り合いらしく、話す様子は平坦なものだったが。

「いきなりですまんね、カイト君。まずは話を聞いてくれると助かるわ」

「はい。オレも、全然状況が判りませんし」

 嫌なことだが、クローゼとの再会とその直後のオリビエの奇行によって、どうあがいてもここが現実だということは確信できた。それにしても、未だ自分や仲間たちが置かれている状況は理解できない。

「長くなるんやけど、まずは俺たちのことから聞いてもらうで」

 そう言って、ケビンは自分とリースを見て話し始めた。彼が今回仲間たちを主に取りまとめているということで、この場所が何なのかというよりもここに来るに至った経緯からだ。

 事の発端は、現在ケビンが手にする方石型の古代遺物(アーティファクト)だった。ZCF関係者が主導したヴァレリア湖でのサルベージ計画──崩壊した浮遊都市の残骸を調べる計画の中から、その方石が発見されたのである。

 古代遺物を回収する役目を持つケビンとリースは、この方石を回収するためにリベール王国に訪れたのだった。実際のところはティータの母親と方石の所有権を巡って一悶着あったというのだが、結果として今はケビンが所持している。

 が、アルテリア法国へ帰るための定期飛行船の最終便を待っている時にそれは起こった。身喰らう蛇に入り強化猟兵として活動していたギルバート・スタインが何故かケビンとリースを尾行していたのである。それ自体はあっけなく返り討ちにしたのだが、その直後に現れた黒衣の男がケビンを名指し、こう言った。

『罪深き《聖痕》を背負い、道なき闇を這いずる贖い人よ』

「その直後、たぶんカイト君が経験したのと同じ光に包まれてな。気がついたらこの、《隠者の庭園》にいたんや」

「隠者の庭園……」

 カイトはあたりを見渡す。先ほども驚愕した、満天の星空。今はまだいけていないが、開れた通路を辿れば泉の休憩所、古今東西の本が読める書架、居大樹の広場など、多彩な色彩が広がる空間。

「それじゃ、ケビンさんもリースさんも巻き込まれた形なんですね」

「そりゃこれだけのことを計画して十人も招待したらとんだ誘拐犯やんけ!」

「……」

 ケビンはカイトの疑問に盛大に突っ込み、リースはジト目でケビンを睨むのみ。

 この場に来た当初は、ケビンとリースの二人だけ。当然二人は状況把握のためにこのこの庭園を調べ始める。

 やがて、突如として出現した魔法陣に飛び込むと、現れたのは夜空に浮かぶ翡翠の回廊だった。情報がほとんどない二人はその回廊を攻略する他なく……そうして二人は、上位三属性が働く不可思議な回廊を《魔物》と呼ばれるおよそ現実にはいないような敵と戦い、《封印石》と呼ばれるものを見つけた。

「最初に見つけたのは、ティータちゃんが封じられた封印石やった」

「えとえと、そうなんです。本当に驚きました」

「じゃあ、オレも?」

 クローゼも付け加えた。

「うん。カイトも、封印石をかざして解放されたのよ」

 翡翠回廊にてティータとユリアを封印から解いたのを皮切りに、その次の異界化した王都ではミュラー、ジョゼット、ヨシュア、クローゼと続き、その先の分かたれた金と銀の道を二班で攻略し、それぞれの道でジンとオリビエを解放した。

 そして金と銀の道が交わった先、現れいでた巨大な《悪魔》を倒したあとに出現したのが、カイトの封印石だったのだ。

 探索で発見したのは、当然仲間たちが封じられた封印石だけではない。仲間を増やし、道を進むごとに、ケビンとリースは少しずつこの世界の謎や明確な敵の存在を明らかにしている。

 この空間が《影の国》という世界であること。影の国が《星層》と呼ばれる階層概念で成り立っていること。

 不敵な言葉をもって一同を煽り、なにやらケビンに執着しているらしい《影の王》の存在。

 影の王の先兵として仲間たちの前に現れた、《黒騎士》と名乗る男。

 探索の時々に現れる、未だ顔も見えない女性の姿。彼女からは敵意を感じず、そして現れるごとに少しずつその姿をはっきりとさせていること。

 この世界の存在がケビンたちにとっての試練であるという、影の王の啓示。

 現れる協力者の人選から、ケビンの知り合い、かつリベールの異変に関与した人物たちが選ばれるのだろうという予想。

「……判らないことも多いですね。まあ、探索が途中だからって言うのもあるとは思いますけど」

「そうやね。まだまだ戦いの準備の途中なんやと思うわ」

 カイトも含めた仲間たちは、《駒》でもあるという。だとすれば、ケビンとリースを除く駒は九人。浮遊都市リベル=アークを始めとした《異変》を共に駆け抜けた仲間たちはまだ全員ではないのだ。

 駒を盤上に集めなければ影の王も、ルールを教えないということか。

 いずれにせよ、まだ謎は多い。探索は必要だった。

 今まで踏破してきたのは、第一星層《翡翠回廊》、第二星層《異界化王都》、第三星層《金の道、銀の道》。

 そして次に向かうは第四星層……カイトの封印石が現れた終着点の先だった。

「そのための準備を、今してるって状況やね」

 魔獣とは違う、聖典から這い出てきたような魔物は、いずれも一筋縄では行かない。そしてカイトを除く十名は大なり小なり戦いの心得を持っている。カイトはリースのことを知らないが、ケビンと星杯騎士でありここまで仲間たちと共に戦ってきた経緯を聞けば、その実力を疑う余地はないだろう。

「当然、オレも協力します。連れて行ってください」

 ここまできて協力しないなど、支える籠手の名が廃る。それにクロスベルに戻らなければいけないのだ。

「うん、うん。カイト君の実力は織り込み済みや。遠慮なく頼らせてもらうで!」

 仲間たちは四~六人程度の班を組んで探索を進め、残るメンバーは主に待機しているとのこと。

 まずはこの世界で目覚めたばかりだ。カイトは自分も探索班に加わると言おうとしたのだが、そこで。

「少し体調がすぐれないので、私は遠慮させていただきます」

 と、リースが突然に休憩宣言を放った。言葉通りなら休憩すべきだと思うのだが、リースはケビンと共にすべての星層を探索してきた。急なかつぶっきらぼうな発言には彼女をよく知るケビンのみならず、ほぼ全員が違和感を抱いた。

 目覚めたばかりのカイトと、彼女をよく知るからこそわからないケビンはしどろもどろになる。

「カイトさん、皆さん。申し訳ありませんが……ケビンをよろしくお願いします。無茶はしないと思いますが、少々詰めが甘いところがありますので」

 リースはすたすたと歩いて書架の方向へ。戸惑う女性陣。

「……いいのか? 追いかけなくても」

 頼れる遊撃士、不動のジンは変わらず安定した配慮でケビンに告げる。

「……すんません。ちょっと行ってきますわ」

 ケビンはいつもの軽そうな雰囲気を少し落として、神妙な様子でリースを追いかけていった。

 残された九名には、少しだけ沈黙した。

 ある程度自由な場所に転移できる方石はケビンが所持しているのだ。彼がいなければ探索も順調には行えない。

 かといって何やら思う所のあるリースを知るのはケビンだけだ。

「リースさん……どうしたんでしょう」

 もっとも早くに星杯騎士二人と出会ったティータは心配げな様子で見守る。それに対し、彼女より年上な分だけ機微に気づきやすいクローゼが言った。

「ケビンさん、影の王の言葉を濁していましたし……リースさんは何か気づいていたんでしょうか」

 ユリアは思索の後に呟いた。

「ふむ……彼女は従騎士、ケビン殿の部下にあたる。二人は旧知の仲……彼の煮え切らない態度に思う所もあったのだろうな」

 ほんの少しだけクローゼを半目に捉えての発言だが、クローゼは気づかなかった。

 少なからずリースを配慮する女性陣。

 一方男性陣は。

 カイトが言った。

「ジンさん、判ります?」

「ふむ……俺に言うな。旧知の女はいるが、キリカのことなんてさっぱり判らん」

「ふふ……僕のピロートークで彼女を桃源郷へ誘う時が来たようだね」

「オリビエさん、国際問題になるので止めておきましょうね。それにしても、リースさんはどうして?」

 ヨシュアの言葉に、ジョゼットは溜息をついた。

「これだから男はさ……」

 カイトは目覚めたばかりで本当に何もわかっていない。ジンとオリビエも比較的最近に仲間となったばかりなので似たようなものだ。ヨシュアは仲間内では周知の如く朴念仁。

 その中で女性陣が一番頼りにしたのはミュラーだが、生憎と彼は寡黙なうえにジョゼットが苦手とする人間だった。

 遠くを見ると、ケビンはリースに追い付いて何やら話しているのが見える。彼はまだリースとの話を難航しているようだが。

「……ケビンさん」

 カイトは考える。脳裏に浮かぶのはリベール復興後、空中庭園での祝賀会の夜のことだ。

 カイトは関係者への挨拶で庭園を歩き回ったが、ケビンとの会話で争点となったのは浮遊都市でのケビンの行動や言葉だった。

『教会にとってワイスマンは破戒僧にあたる異端者やから。その動向は多少なりとも注目しなきゃいけなかったんや』

 ケビンはワイスマンを追いかけた。そのことに、どこか引っかかったのを覚えている。

 そしてカイトはこう言った。

『何かあったらオレやみんなのことを頼ってください。約束ですよ?』

 ワイスマンのことを誰にも伝えていなかったケビン。あの時は大して考えずの発言だったが、今は信頼できる仲間を繋ぎとめられる言葉だと思う。

『まあ、約束しようや。その時は正遊撃士になったカイト君を頼らせてもらうで』

 ケビンはこうも返した。言質は取っている。

 カイトは頭を掻いた。

「ケビンさんの言うとおり、オレもエステルに感化されたかな」

 そうして世間話にこれからの方針と、諸々を話している仲間たちから離れた。

 同時に、示し合わせてもいないのに歩き出す黒髪の少年。

「ヨシュアも行くの?」

「ああ。二人を結ぶことに、不用意に突っ込むつもりはないけれどね。カイトは?」

「オレは、まあ約束のためかな。それと……外道野郎のことについて」

 ヨシュアの表情が驚きを示す。ワイスマンの話題に対して陰りが帯びるものかと思ったが、魔法使いの呪縛は着実に晴れてきているらしい。

「カイトは今、クロスベルにいるんだよね?」

「そうだよ。どうして?」

「いや……もう、遊撃士としては完全に追い付かれたと思ってね」

 それはカイトの洞察力を指しての発言だった。

 照れ臭くなって、カイトは言った。

「そりゃ、ヨシュアはブランクがあるからね。負けてられないさ」

 肩を軽く小突き合って、親友二人は不良神父──頼れる仲間へ言葉を紡ぎに行く。

 

 

 







影の国編、開始です。
既プレイの方は察していると思いますが、カイトが目覚めた時点で第四章開始となります。

そしてケビンとの対話。カイトにもちょっとずつ強キャラムーブしてもらいましょう……
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