心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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70話 8/31TP:蜂起②

 

 

 ──オルキスタワー頂上に着陸するヴェルヌ社のガンシップ。

 晴天と青空の下、やや不遠慮に着陸したガンシップは、動きを停めても産まれた熱が消えることはない。中に乗っていた共和国系テロリスト、()()()()()()()()()()()()()()()導力式アサルトライフルを手に颯爽とタワーという大地に降り立ち、自らの悲願を叶えるために内部へ侵入する。

 

 ──クロスベル市各地で発生した爆破テロ。

 4つのジオフロント区画出入り口で発生したそれは住民たちを驚きと恐怖のどん底に陥れた。無知な人々は詳細を知る由もなく、そしてテロリストの可能性を知るクロスベル警官は飛行艇がタワーに向かうだろうと意識が集中してしまう。その決定的な瞬間をクロスベル自治州は許してしまった。

 

 ──オルキスタワー前広場に墜落したRF社製の飛行艇。

 飛行艇の中には導力爆弾でもしかけられていたのか、単なる飛空艇の機材の爆発以上の炎上を引き起こす。35F相当の高度からの墜落だ。人々がそれに気づいてから逃げるまでの時間はあった。タワー前広場にも警備員やマスコミ関係者はいたが、会議の主戦場出ないために人はそこまで多くはなかった。死傷者の詳細は不明。確かなのは、かなりの規模の爆発と炎上故に地上の出入り口は間違いなく塞がれているという認識のみ。

 

 ──そして、会議場に現れた帝国解放戦線の幹部、G。

 地上から遠い35Fの国際会議場。首脳、護衛、警備員たちの注目を集めるテロの主犯は、これだけの戦力差の前に一切怯んでいない。かといって余裕な態度というわけでもなく、どこまでも平静としている。

 「ガレリア要塞の列車砲がオルキスタワーに照準を合わせている」というGの言葉。そして爆破テロや飛行艇の動き。全て確実に鉄血宰相と大統領を確実にタワー内部で抹殺するための作戦だった。この場のほとんどの関係者がその結論にたどり着く。

 Gが歩き出す。アリオスや首脳たちに背を向け、そうして会議場の扉の前にいるカイトやロイドに近づいて。

「もはや退路はない。地下の避難経路は《帝国解放戦線》と《真なる優士団》が塞いでいる。列車砲が起動するまでの間、女神への懺悔をしたまえ」

 カイトは構えた双銃をGに向けていた。だが拘束に動くことはできなかった。他の護衛たちも同様だ。

 Gはつい先ほど、自身の首元に導力爆弾の仕掛けが施されていると宣言した。自身の命を引換にして、屋上に停まっているであろうヴェルヌ社製飛行艇を爆破する可能性を示唆している。

 だから、誰しもGの行動を止めることができない。

 カイトは叫ぶ。

「G、本当にこんなことをしていいと思ってるのかよ!?」

「愚問だな、レグメント。ケルディック、旧都、ノルド、帝都。我々の所業を見て、この行動が予想できなかったとでも?」

「そうじゃない! もちろんお前たちの目的はわかってた、だから何度も止めてきたんだ!」

「だとすれば、お前たち(Ⅶ組)は失敗したな。所詮お前たちのような力もない正義感では、何も止められなかった、ということだ」

「くっ……」

 Gはカイトと特務支援課たちの間をすり抜け、そして会議場の外へ。エレベーターホールへ消えていく。

「列車砲が全てを散らす。このタワーは鉄血を殺し、市長……貴方の言う通り大陸の平和と発展の象徴となる」

 ディーター市長へ向けたその言葉が、Gのこの場における最後の言葉になった。

 沈黙は一瞬で、すぐさま会議場がざわつく。それは護衛将校の部下たちの戸惑いだった。

 

──どうして帝国のテロリストがここにいるんだ……!?──

──共和国系テロリストの声もしたぞっ!──

──列車砲が起動しているというのは本当なのか!?──

──このままではオルキスタワーが……──

 

 それだけではない。会議場の外、タワー両翼から機械の駆動音。過去に結社と相対したことのある人間には、その正体を簡単に理解することができた。

「結社の人形兵器……!」

 ペイルアパッシュ、ファランクス、トライアタッカー……リベールの領土も蹂躙した大小多くのそれらが、会議場の大扉を破壊しようとしてくる。

「狼狽えるなっ!」

 ダドリーの声が響いた。護衛将校の部下たちや警備員たちに指示を飛ばす。

「マクレイン、先駆けを任せた!」

「承知!」

 風の剣聖が即座に飛ぶ。会議場に侵入しようとした数機を着地とともに振り下ろした斬撃で弾き飛ばす。

 隔壁もない、本当に護衛陣の十数アージュ先で戦闘が行われている。

「続け! 人形兵器を抑えこめ!」

 アリオスに警備員や各国将校の部下たちが続く。ここが正念場だった。銃弾が一つでも掠めれば、そこはもう悪夢だ。

 アリオスを前衛とした人形兵器との戦い。その最後方で即席の指揮官となりつつ、アレックス・ダドリーが振り返る。

「バニングス! 首脳陣を護衛待機室に退かせろ!」

「りょ、了解!」

「そのまま待機室の扉も防衛! なんでもいい、作戦を考えろ!」

 アリオスも叫ぶ。

「カイト! お前も待機室へ行け!」

「で、でも!?」

「相手は帝国のテロリスト……お前の力が必要だ!」

「……わかりました!」

 カイトがわずかに戸惑いつつ、その他の護衛陣や支援課が迅速に動く。

 空からの追撃はなかった。人形兵器の襲撃を防ぐアリオスたちの裏で、すぐさま首脳陣を仮避難させる。

 待機室と会議場そして通路を結ぶ二つの扉。これを二人の護衛に任せる。さらに残りの護衛に首脳陣を任せる。

 壁一枚を隔てた向こう側では、尚もアリオスを主軸とした防衛戦が続いている。その斬撃音や轟音が響く……沈黙と言えない沈黙には、重い空気が漂っていた。

 それでも。タワーの主導権を奪われ、人形兵器が跋扈し、そしてタワーそのものの崩壊が近くても、現状に嘆くだけの人間はここにはいない。

 護られる首脳陣が無言で成り行きを見守る中、緊迫感と共に円を組むのは11人。

 支援課の6人。ミュラーにレクター。ユリアにキリカ。

 そしてカイト。

「それじゃあ……脱出作戦を話し合おう」

 大陸の命運を預けられた者たちが、クロスベルの頂上で向かい合う。

 

 

────

 

 

 何に代えても果たすべきことは、首脳陣の安全を確保することだった。

「人形兵器の攻勢はどんなものなんですか?」

 カイトが問う。部下と話しつつ、レクターが返す。

「思ったより小康状態みてぇだな。風の剣聖サマサマかと思ったが……どうやら敵さんも人形兵器でこっちの戦力を圧倒できるとは思ってないらしい。あくまで護衛諸共首脳たちをここに引き付けるのが目的だろ」

 戦闘は一瞬では終わらない。単なる模擬戦でもなく、防衛戦。会議場のテーブルはアリオスや他の護衛たちが身を潜めるには最適なものだった。それも相まって、アリオスの最初の斬撃以降の攻防は途切れ途切れに聞こえている。

「けど、どうして一気に制圧をしないんでしょう……さっきの幹部の言動も──」

「決まってんだろ」

 ノエルの疑問。ランディが即座に決定づけた。今は一刻を争うからだ。

「奴らに──テロリスト共にとっちゃ確実な手だからだ。ここの護衛たちを押しのけるより、押し留めてタワーごとぶち壊す方が」

 それは、Gが話した列車砲の信憑性を増すばかりとなっている。

「だったら、我々がなすべきことは一つだ。一刻も早く首脳陣をタワーから……場合によっては市内から脱出させること」

 ユリアが言った。もはやタワーの安全は保障できない。自分たちができることはそれしかない。

「列車砲はガレリア要塞にある……カイト、確か君のクラスメイトがいるんだったよね。列車砲の起動はやっぱり阻止できないのかい?」

 ワジが聞いてきた。カイトは驚きつつも答える。

「えっそれどこから聞いた? ……確かにⅦ組なら動く。動かないはずがないよ」

 列車砲とガレリア要塞を帝国解放戦線が占拠した。それも大陸最大の軍事力を持つ帝国正規軍から。その事実も怪しいが、彼らは実際に帝都でアルフィン皇女を拐いかけた。

 だとしても……事実だとしても、リィンたちは絶対に動く。

 ガレリア要塞内部の構造は知らない。だが当日はナイトハルトが臨時教官として同行すると言っていた。士官候補生だとしても学生の身で、そして通常の指揮系統に収まらない彼らならば。

「けど……事が事です。万が一にも列車砲が起動すれば被害はタワー内部だけに留まらない。すぐに手を打たないと」

 どの道、自分たちがやるべきことは変わらない。

「だが、実際問題どのように首脳陣を避難させる?」

 ミュラーは全員を見渡す。

「地下からの避難は?」

 エリィが提案した。ロイドが答えた。

「今レイモンドさんにENIGMAで捜査二課の状況を聞いた。市内の騒ぎは続いている、と。爆破地点はジオフロント入口。そこに続くジオフロント内部(タワー基部への進入路)も既に抑えられていると考えたほうがいい」

 ここまでの事になるなら、どうして事前に十分な情報を得られなかったのか。二大国の政府は情報を教えてはくれなかったのか。それを痛感せずにはいられない。

「正面エントランスからの避難は?」

 ティオが質問。レクターは窓から地上を覗き込んだ。

「こりゃダメだな。鎮火する気配がねえ、大炎上だ。広場が文字通り広いから周りに燃え広がることはねえだろうが、とても1階からの避難はできねえだろ」

 そして地上からの消火活動も、市内のテロに人員を割かれ現実的ではない。

「……ディーター市長。1階、地下。別の階層からの避難経路は?」

 キリカが詰める。ディーター市長は立ち上がった。

「外観にある非常階段は地上10階からだ。だがそこまで行くには──」

 カイトの通信器が──ARCUSが鳴った。そして今、カイトのARCUSに連絡する人間は一人しかいない。

 カイトはスピーカーモードにして通話を始めた。

「こちらカイトです、トワ会長」

『うん。端的に34階(こっち)の状況を伝えるね。この階層も人形兵器が占拠してて、警備隊員の応援は来てない。たぶん33階も動けないんだと思う』

「わかりました。こっちは避難作戦の立案中です。会長、もう少しだけ耐えてください。先輩──クロウとの約束は守りますから」

『待ってるね』

 通信終了。10秒にも満たない阿吽の情報共有。学生とは思えない冷静な振る舞いに、二人をよく知らない者たちが驚く。

 ディーターが再び口を開いた。

「……今の通信の通りだ。外観に繋がる階層に向かうルートは全て抑えられているだろう。不幸中の幸いか、恐らく飛行艇の墜落によって非常階段は開放されているだろうがね」

 避難経路の全てにおいて、それぞれの手段で妨害がある。テロリスト側の作戦は用意周到。

「いや……待ってください」

 一つ可能性を示したのは、ロイド・バニングスだった。

「地上・地下。彼らはそこに集中を割いている。なら、空は……?」

 護衛陣たちの目線がロイドに集中する。ミュラーが快哉を上げた。

「……彼ら自身が乗り込んできたガンシップか!」

「しかしGは『ガンシップには爆弾が仕掛けられている』と……」

「いえ、ユリア准佐、落胆するには早いわ」

 キリカが制する。そしてレクターを見た。

「私とレクター大尉は情報畑の人間。爆弾処理はお手の物よ」

「ちっ、しゃーねぇ。ミッション・インポッシブルにご案内ってか」

 帝国軍情報局特務大尉、共和国ロックスミス機関室長。それぞれの能力を十二分に発揮する時だ。

 ロイドが言った。

「……敵も全ての可能性を潰しに来ている。こちらの反抗を悟られないよう、同時に行動しましょう」

 カイトも意見を述べる。

「首脳陣だけじゃなくてタワー内スタッフや報道陣の避難経路も確保する必要があります。……それに、どこかでGも見つけるべきだと思います」

 方針は決定した。

 35Fに留まり首脳陣の守護をアリオスとほかの護衛たちが。

 屋上へのルートを確保し、ガンシップの爆弾処理を行うレクターとキリカ。二人の誘導と護衛にダドリーが。

 地下へ向かいテロリストの確保行動で陽動を担い、可能であればGを捕らえる役割を特務支援課が。

 そして、会議関係者や報道スタッフの安全確保と避難誘導をカイト・ミュラー・ユリアが担う。

 目下の問題点は、タワー内に人形兵器にテロリスト、そしてGがいること。しかし捕らえるべきテロリストの所在が明らかでないこと。列車砲が起動する可能性が常に残されていること。

 破滅の可能性を押し返し、数多くの人を救うためには。タワー内部という狭い空間を利用した少数編成の多班構成で立ち向かうしかない。

 班を編成し、護衛の部下たちを配置してダドリーを呼び戻す。そして行動を開始する、

「おっし、そんじゃ精々死なないように働かせてもらうかね」

「精々彼が調子に乗らないよう協力するわ。ダドリー捜査官、道中の案内は頼みます」

「承知しました。とはいえ状況が状況です。お二人の戦闘力も期待しますが」

 レクター・キリカ・ダドリーが、待機室から通路へ続く扉を抜けていく。向かう先は頂上への非常階段。

「──特務支援課、これより地下へと向かいテロリストの捕縛、及び第二脱出ルートの確保を行う!」

『おう!』

 それぞれが号令に応え、支援課の6人もまた外へ。向かう先は地下フロアへ向かうためのエレベーターホール。

 そして……ミュラー・ユリア・カイトたちはそれらに続く3番手。大剣、細剣、二丁拳銃、それぞれの得物を手早く整える。

 ミュラーが口を開いた。

「再度確認する。我々の目的は34階の関係者及びスタッフの安全を確保すること」

 ユリアが次ぐ。

「非常階段から34階左翼に向かう。道中の障害を排除しつつ各室の人々を救出する」

 そしてカイトが音頭をとる。

「リベールの異変以来の共闘です……張り切っていきましょう」

「ふふ、そうだな。影の国の悪魔との共闘以来か」

「私とカイト君であれば、准将との戦いか。いや……3人での共闘は確かに初めてかもしれない」

「でも、負ける気はしませんよ。こんな状況だけど」

 カイトはその身に黒色の波動を纏いつつ、振り向いた。

「皇子殿下、王太女殿下……行ってきます」

 およそこの場に似合わない軽い声かけだった。首脳陣がカイトを注視する。この場に似合わない年若さで、珍しい赤い制服を来て、首脳の護衛とは思えない、家族にかけるような声の少年を。

 それでも、首脳の中の二人は抵抗もなく、心配もなく返す。

「ミュラーをよろしく頼むよ、カイト君」

「どうか、無理はしないで」

 それ以上は答えず、3人とも笑顔だけで返す。立場を越えた絆だ。

 カイトの魔法が駆動する。加速陣(クロノドライブ)が三人の動きを加速させる。

「──作戦、開始!」

 ミュラーを先頭に、ユリアとカイトが待機室の扉が飛び出す。硝煙と油の匂い、振動と熱が蔓延る会議場前通路へ。

 テロが始まった──RFの飛行艇が墜落したその瞬間からまだ20分も経っていないが、既に35階の廊下は人形兵器の残骸で溢れている。アリオスの防御陣、またロイドたちがつい数十秒前に倒したものだ。

 人形兵器の攻勢は弱い。それは時間を稼ぐためのもの。こちらが時間をかけるわけにはいかない。

「突貫する! 二人共、ついて来てくれ!」

「ええ!」

「了解!」

 ミュラーがその大剣で残る人形兵器を薙ぎ払う。すぐさま左翼方向へ。

 ミュラーが斬り損ねた小型の人形兵器はユリアが追撃する。

 そして最後方で、カイトが青色の波を拡散させた。

 氷結刃(アイシクルエッジ)、ENIGMAⅡによる氷の刃を生み出して人形兵器を屠る。室内、それも比較的狭い通路だ。大規模アーツは使えない。

 それでも、人形兵器を蹴散らすのに大した時間はかからない。

「時間はかけられない! 強引にでも突破する!」

 ミュラーの言葉。ユリアもカイトも否定しない。それだけの無理を通せるだけの実力が自分たちにはあると自負している。浮遊都市、そして影の国で大立ち回りを繰り広げたのだ。

 左翼から非常階段へ。平地でない場所にも人形兵器はうろついているが、それもさほど労せず突破する。ものの5分で3人は34Fへ降りることができた。

 非常階段からそれほど遠くない場所に報道陣や会議関係者の控え室がある。すぐに視認できる場所だ。

 やはり大量にばらまかれている人形兵器が──いや、違う。

「あれは《ゼフィランサス》だ!」

 歪な機械の体部と腕部を持ち、背後の歯車が回り威圧感を放っている。《ゼフィランサス》。

 結社が作り出したのは変わらないが、単純な哨戒機ではない。拠点防衛を主眼に開発された大型兵器。だが攻守に優れた兵装によって様々な状況に使われる。リベールの異変においても見たことがある。

 そのゼフィランサスが2体、今まさに報道陣控え室と会議関係者控え室の扉を破壊しようとしていた。

「──お呼びじゃねえんだよっ!」

 加速した集中が雷速の駆動を助け、黒い波動が収束。カイトが振りかざした手に合わせ、導力で生成された命を刈り取る大鎌が廊下を蹂躙する。致命打ではない、それでも中規模アーツである暗黒の鎌(カラミティエッジ)はゼフィランサスの敵性対象をこちらに移すことには役立った。

 すかさずミュラーが大剣を振るう。まるで踊るような、大剣術には似合わない流麗さを醸し出す。腕部を振り回す鋼鉄の腕を避け、続けざまに2体を切りつける。

 ユリアも同時に突進した。かつて披露した五芒星光陣(ペンタウァクライス)ではないが、その一辺だけを走らせ小さい衝撃派を生み出した。

 突如現れた敵性反応を前に、ゼフィランサスは体部を回転させつつ銃弾やレーザーを吐き出す。それらが地面や天井、そして全面ガラスに着弾して大音響を生み出す。会議場は特殊素材の防弾ガラスということだったが、全ての窓が同じではないらしい。呆気なくガラス窓は粉々になり、遥か地上に落下していく。

 強い風が巻き起こる廊下。飛び散るガラス片から顔を守るために腕を掲げる。目を凝らしながらカイトは戦況を見る。自分に向くレーザーを察知して非常階段に隠れる。それでも琥珀の波は止まらない。

 一方、ユリアとミュラーの側を向いたゼフィランサスは躊躇もなく砲弾を浴びせてくる。直撃はしない。噴煙から帝国正規軍の外套でユリアを守る。阿吽の呼吸でユリアは飛び出した。

「──ハァッ!」

 渾身の刺突。腕部がちぎれ飛ぶ。ゼフィランサスの内1体が暴走モードで暴れまわる。

 今度はミュラーが、もう1体に向けて大剣を振り下ろした。ヴァンダールの剛の剣。多少の刃こぼれがあったって、数々の敵を打ち下ろしたミュラーの一撃は確かに腕部を引きちぎる。暴走モードがもう1体追加。

「ミュラーさん、ユリアさん、避けてっ!」

 叫び声に、二人の守護者は散開した。

 やはり時間はかけていられない。目指すべきは迅速な敵の排除だ。

「止まりやがれー!!」

 弾痕が目立つ床から、溶けた粘土のようなものが泡立つ。蒸気のようにゼフィランサスの体にまとわり、それがみるみる間に石化していく。それは侵食という言葉が正しかった。

 数度の攻防でゼフィランサスの防御機構を破壊できたことが功を奏した。石化の吐息(ゴルゴンブレス)は見事に成功し、ゼフィランサスの大仰な動きを停止させた。

 カイトが叫ぶ。

「今です、吹き飛ばして!」

 ミュラーが、ユリアが体からゼフィランサスに飛び込む。さらに蹴りを入れて大きく転がす。

 最後にミュラーが渾身の、破邪顕正の一撃。ゼフィランサスは、体を浮かす機能すら石化に阻まれ、34Fから落ちていく。

「はぁ、はぁ……」

 カイトが膝を崩す。

「……流石に突貫は尋常でない気力がいるな」

 ユリアもカイトの様子に同調した。起点を聞かせ行動不能にしたが、ゼフィランサス自身はまだその体を破壊されたわけではなかった。とはいえ、この高所から落ちればもう結果は目に見えているが。

 ガラス窓が割れたことでできた手だ。乱用はできない。つまりは、もっと手こずる可能性が高い。

 ミュラーが大剣を構えたまま周囲を睥睨した。ゼフィランサスの他に人形兵器はいなかった。しかし兵器同士の通信で状況が明らかになれば、首脳陣を狙う人形兵器と同じように群れで襲って来る。

「カイト君、ユリア准佐。控え室へ入れ。ここの守りは私が受け持つ」

「は、はい」

 ひとまずの守りを任せ、息を切らせつつもカイトは扉を開けた。ユリアもそれに続いた。

「皆さん、ご無事ですか!?」

 会議関係者の控え室。各国の文官がおり、またクロスベル自治州の関係者やオルキスタワーの職員なども詰めていた。

「カイト君!!」

「トワ会長!!」

 真っ先に飛び込んできたのはトワだった。それはあくまで再会を喜ぶもので、彼女自身冷静さは微塵も失っていない。

「お待たせしました、トワ会長」

「うん、ちゃんとクロウ君との約束、果たしてくれたね」

「まだまだここからですよ。それでこっちの状況は?」

「説明するね」

 本来、33階に詰めている警備隊員が非常時に対応する手はずだった。しかしその33階から応援は来ていない。結社の人形兵器が相手とはいえ、全滅というのは考えにくい。あちらにも相応の数の人形兵器が放たれている。

 そして確認できた限り、Gを含むテロリストは34階に来てはいないらしい。

 風の剣聖は首脳陣の防衛のため拘束されている。支援課をはじめとしたメンバーもまたそれぞれの役目を全うしている。敵が企てた作戦に対して、圧倒的にこちらの戦力が足りてないのだ。

 一通りを説明し、トワがユリアに訪ねた。

 警備隊員が応援に来れないこの状況にも関わらず、関係者たちは最低限の防衛力だけで籠城できていた。やはりテロリストの狙いは首脳陣で、その他への攻撃は少ない。

「映像でテロリストの明かした情報はこちらでも把握しています。ユリア准佐。これからどうしますか?」

「……酷な話だが、やはり第一保護目標が首脳陣であることに変わりはない。それでも、ここにいる関係者は全員守らねばならない」

 現状カイトたちが考えている避難方法はテロリストが乗ってきたガンシップを使うこと。だが当然乗車人数の制限がある。護衛が操縦を兼任するとしても、最初の避難は首脳陣だけになるだろう。

 とはいえ、列車砲が起動する可能性がある以上関係者をここに置き去りにすることもできない。

 カイトとユリアが、いや護衛待機室で緊急の方針会議を行った全員が、言葉に出さずとも理解していた。自分たちが努力して確実に安全を確保できるのは首脳陣だけ。万一に列車砲が起動した場合、関係者を含めた自分たちに生還する可能性はない、と。

 それでも、思考を止めるわけにはいかない。33階にいる多くの人間の中で、命のやり取りを何度も経験しているのはやはりカイトとユリアだった。

「……どうにかして、ここにいる人たちと警備隊員を含めて、1階まで移動させるルートを確保しましょう」

 カイトが言った。

「ここで手をこまねくわけにもいかない。少しでも可能性に賭けるべきです」

 1階の広場の確保に賭けることもできる。ロイドたちが地下でテロリストを確保し、安全な避難を実現できるかもしれない。

 籠城して列車砲が起動しない可能性に賭けるか、前進して地上か地下に逃れる可能性に賭けるか。

 二つに一つだ。

 だとすれば。

「34階は戦力が少なくても籠城できる。その間人形兵器の数を減らしつつ、1階及び地下へのルートを確保する」

 ユリアがそう言った瞬間、カイトのA()R()C()U()S()に通信が届く。

「はい、こちらカイト」

『カイト君、僕だ』

 オリビエからだ。

「今、34階の関係者控え室にいます。関係者の安全はひとまず確保している状況です」

『そうか。至急ですまないが、35階に戻れるかい? 非常事態だ』

「どうしたんですか?」

 既に非常事態であるこの状況での連絡。それは間違いなく最悪だというように考えられる。

 そして、それは確かに最悪に近い知らせだった。

『風の剣聖が押され始めた。こちらの防衛線が崩れている』

 

 

 

 









現在地(状況):人物

◆屋上(爆弾処理を要する)
:ダドリー、キリカ、レクターが進行中

◆35F護衛陣待機室(最終防衛)
:オリヴァルトら首脳陣、その他護衛

◆35F国際会議場(人形兵器との戦闘)
:アリオス、その他護衛

◆34F関係者控え室(関係者が籠城)
:カイト、ミュラー、ユリア、トワ、その他関係者

◆1Fタワー前広場(RF社ガンシップが墜落)

◆タワー地下(ジオフロントをテロリストが籠城)
:支援課、帝国解放戦線、真なる優士団

◆クロスベル市内(爆破テロ発生)
:遊撃士、捜査二課など

◆場所不明(???)
:G
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