心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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70話 8/31TP:蜂起③

 

 

 

「アリオスさんが……押されてる?」

 それは、少なくともカイトにとっては予想外の事態だった。

『ああ、負傷ではないが人形兵器の奇襲を受けた。防衛線の手がまわらなくなり始めているんだ』

 通信先のオリビエの声色もまた、やや張り詰めたように聞こえる。

 支援課が地下へ、レクターたちが屋上へ、そしてカイトたちが34階にいる中、首脳陣を守るために敷かれたアリオスと他の護衛たちによる防衛線。

 これだけの事態だ。事態が悪い方へ転がることは十分にありえる。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実が、何よりも衝撃だった。

『時間が惜しい。関係者の避難に人手がいることも理解している。だが、誰か一人でも戻ってこれないか?』

「わかりました。すぐに向かいます」

『頼むよ』

 通信を切る。カイトのそばにいたユリアもトワも、表情と会話で理解したようだ。

「二手に別れましょう。避難ルート確保と、35階の応援。どちらも無視はできません」

 ユリアが一瞬沈黙した。

「……だが、君の言うとおりどちらも無視はできない。戦力分布はどうする?」

 大剣による圧倒的な力を持つミュラー。一点突破のユリア。変幻自在の魔法使いカイト。いずれも手練だが、それぞれ長短を持つ。誰か一人が孤立するのは避けたい、というのがユリアの談だ。

 だが、ユリアを除く()()には、もう一つ手があった。

 カイトはトワに向き直った。

「……武器(導力銃)のない会長にこれを言うのは忍びないですけど」

「状況は理解してるよ。ARCUSも持ってる。守られるだけじゃない、役にだって立てると思う」

「君は、カイト君と同じ士官学校の?」

「トールズ士官学院生徒会長、トワ・ハーシェルです。戦闘は得手ではありませんが、是非数に数えてください」

「ユリアさん、トワ会長の実力はオレが保証します」

「……了解した。この状況だ、少しでも戦力は欲しい」

「はい!」

「それで分担なんですけど」

 再びのカイト。

「押されてるとはいえ、35階にはアリオスさんがいる。似た突破力を持つユリアさんとミュラーさんには、このまま避難経路の確保をお願いしたいんです」

「ということは。君とトワ君が?」

「はい。回復も攻撃もできる。身のこなしにも自身があります」

「何よりも……私たちは戦術リンクができますから」

「わかった。すぐに動こう。お互い、女神の加護を」

 休憩もそこそこに、カイトとトワは動き出す。ミュラーとも互いの生還を祈り別れた。

 緑と赤の学生服。クロスベル出身でない二人が35階を目指す。

 人形兵器は少なくなりつつあるものの、以前として通路は安全圏とは言えなかった。カイトの銃撃を主体に小型の人形兵器を倒しつつ進む。

 その最中、非常階段を駆け上る一瞬だけではあるが、カイトは考えた。

(G……一体どういうつもりなんだ)

 帝国解放戦線。その目的が鉄血宰相の暗殺であることは疑いようがない。

 だが、少なくとも今までここまでの事態を引き起こすことはなかった。少なくともカイトが関わってきた2年前、そしてⅦ組が実習で巻き込まれた事件。それらのすべてで帝国解放戦線は裏側で暗躍するのみだった。

 例外は一つだけ。先月の帝都夏至祭の事件。だがそれも宰相暗殺という目的とは異なる、皇女誘拐を企てただけだ。それ自体は恐るべき所業ではあるが。

 今回の行動は明らかに先月とは様子が異なる。今まで慎重に革新派の出方を伺ってきた割には、行動が露骨。今回は確実に鉄血を仕留める気なのだ。

(だったら、Gはまだタワーのどこかにいる……?)

 彼が脅した爆弾を解体できたとしても、彼を止めなければ。

 35階にたどり着いた。

 34階に降りる時に比べればまだ敵の勢いは弱い。だから非常階段を昇るまでは順調な道程だったが、国際会議場前通路の状況は完全に別世界だった。

 ゼフィランサスだけではない。トライアタッカーは言わずもがな、重歩兵型のヴァンガード、拠点防衛タイプのレオールガンイージ……小さい通路に圧倒的な戦力が集結している。

 国際会議場と通路を隔てる大扉は既に破壊されていた。

「くそ……どれだけ横流ししてんだよ結社の野郎……!」

 単なるテロリストの特攻が、リベールを震撼させた結社の陰謀に並ぶ危険さを得てしまっている。怒りに震えてしまいそうだった。

(そもそもなんで結社がこんなに協力してるんだ……!)

「カイト君!」

「──っとと、はい!」

 先ほどまではENIGMAⅡを使っていたカイトだが、トワとパーティーを組むにあたってARCUSに切り替えている。戦術リンクを駆動。同時に翡翠の波を纏う。

 発動させる魔法は、既に意思疎通で共有していた。

『──ジャッジメントボルト!』

 裁きの雷光が迸る。35階の通路、左翼から右翼までの一直線を増幅された2つの雷光が穿つ。破壊には至らない、けれど確実に敵の注意を弾ける。

「アリオスさん!」

 通路側から叫んだ。

『来たか、カイト!』

 くぐもったアリオスの声が聞こえる。

「こちらはオレとアーツ主体が一人! 指示をください!」

『負傷者が多数だ! 細かい作戦以上に、そちらから陽動をしてくれ!』

「了解! 会長、引きつけますよ!」

「うん!」

 再びARCUSを駆動。今度はトワが琥珀の波を、カイトは蒼色の波を纏う。

「オレより前に出ないでくださいよ!」

 拠点防衛タイプには焼け石に水だとしても、注意を引き付けるのには役に立つ。銃撃を放ち、同時にトワを下がらせる。

「防壁を張るよ!」

 トワのアダマスガード(地の防壁)が発動、どんな攻撃も弾く鉄壁を生み出す。

 同時、カイトの波が拡散した。水砲撃(ハイドロカノン)は人形兵器を打ちのめす。

 だが、その攻撃から免れた重歩兵のヴァンガードが突っ込んでくる。

 カイトの強みの一つは身のこなし。安定して避ける。そのまま短い駆動を経て魔法を駆動。カイトの前面から小規模な雷の弾丸を生み出す。スパークアローだ。

 先のトワとの同時攻撃には劣るが、それでもカイトの魔法は強力だ。並戦駆動をいかんなく活用し、複数体の人形兵器の間で立ち回る。トワの援護も役立った。

 だが、流石にカイトだけの前衛には多少の無理があった。

「カイト君、後ろ!」

 トワの叫びに振り向いた。運の悪さもあった。ヴァンガードの大斧槍がカイトの背中を力の限り叩きつける。

 アダマスガードの効力は()()()()()()()()()()()ということを除けば第四世代のアースガードと変わらない。直撃の衝撃は防がれた。しかし吹き飛ばされ壁に激突し、肺腑の空気が漏れ出る。

「ぐぁ……!」

 慣れている。転がり、立ち直り、戦線復帰。しかし劣勢は簡単には変わらない。

「くそ、想像以上に硬いな。ミュラーさんと配置が逆だったか……」

 カイトの双銃は大型の人形兵器には強くない。主に浮遊都市での話だが、大型人形兵器と相対する時のカイトは常に中級以上の攻撃魔法を使っていた。それは人のいなくなった浮遊都市という場所故だ。この狭いオルキスタワーの、それも通路の中で迂闊に中上級の魔法を使う訳にはいかない。しかもやはり運の悪いことに、カイトのARCUSにセットされている中上級の魔法はほとんどが火属性だ。

 ジャッジメントボルトでさえ指向性がコントロールしやすかっただけで、確実に人形兵器を焼き溶かすわけじゃない。

 攻めあぐねる。トワを孤立させる訳にもいかない。だがいつまでもリスクを取らない訳にはいかない。

 どうする、どうする。

 カイトはスパークアローやファイアボルトを放ちつつ、再び人形兵器を牽制する。

「カイト君、私も出るよ!」

「ちょ!?」

 後ろから予想外の声。宣言通り、小さな少女が非常階段付近から前へ出てくる。

「後ろに下がっててください! そのままじゃやられるでしょ!?」

「でもリスクを取らなきゃいけない! カイト君が動きやすくするためには、私も囮にならないと!」

 トワによる魔法が放たれる。トワの現在の技量では未完成な並走駆動程度。なんとか魔法駆動と回避を繰り返す。ほぼ自殺行為だ。

 ヴァンガードの攻撃を今度は器用に避けつつ、

「だからといって! オレはクロウと約束したんですってば!」

 クロウもトワも同じ仲間だ。先輩後輩の違いがあっても。

 そしてカイトはクロウから意思を託された。何があってもトワを護れと。それなりに絆を紡いできたクロウの言葉は、殊更カイトに響いていた。

 だが、攻撃を必死に避けながらトワはカイトを向いた。

「クロウ君の言葉だって、カイト君の想いだって嬉しいよ! でも、大事なことを間違ってる!」

「え……!?」

「クロウ君もカイト君も、そうやって子供扱いしてばかり! 私だって、トールズの生徒会長だよ! 何よりも──」

 トワの瞳が煌く。魔法が駆動した。それは紺碧の波、上位魔法だった。

「助けられるばかりじゃない! ()()()()のが仲間だよ!」

 床氷瀑砕(クリスタルフラッド)。一直線に床に氷が張り巡らされ、その床を這うように巨大な刃が生み出される。多数の人形兵器を巻き込みながら切り刻んでいく。

 トワの戦闘能力は決して低くはない。素の身体能力はともかくとして、戦況を見渡す眼と頭脳は並みの人間のそれを遥かに凌駕している。

 だからこそカイトと同じくリスクを取る必要性はわかっていた。そして二人の予見の通り、リスクは牙を向いてきた。

 ゼフィランサスの胸部からエネルギーが膨れ上がる。前に出ただけトワが一人で避けるのは困難だった。

 時間が走馬灯のように流れる。同時、クロウとの約束がカイトの脳裏に閃いた。

「──会長っ!」

 一目散に走り、トワに覆いかぶさる。多少の衝撃と共に二人して地面に転がった。

「あぅっ!」

 少女を抱きしめたことなんて意識する間もなく、頭上をレーザー光線が通り過ぎる。

 立ち上がる暇もない。二人が横這いのまま見上げると、ヴァンガードが大斧槍を振り上げていた。

 もう、避けられない──

「立て、レグメント!!」

 男の声が響いた。アリオスのそれではない。左翼非常階段、カイトたちが来た場所から聞こえたものだ。

 重苦しい発砲音と共に、眼前でヴァンガードの腕部に弾丸が炸裂する。そのまま腕が引きちぎられ、大斧槍が床に落ちて反響しない金属音が響いた。

 戦場に生まれた一瞬の静寂。カイトとトワは自分たちを救った人物を見上げた。

「ダドリー捜査官!?」

 クロスベル警察、捜査一課のメガネスーツ捜査官。アレックス・ダドリーが大柄な散弾銃を構えていた。

「グズグズするな。まだ戦闘は終わっていない!」

 少しばかり癪に障る言動だが、無闇に突っ込みや漫才を繰り広げている場合ではない。トワを立ち上がらせ、自身も復帰し、ダドリーと横並びになって人形兵器を睨んだ。

「どうしてダドリー捜査官がここに?」

「クロイス市長より応援要請の連絡があった。こちらに戦力を増やすようにとな」

「オレがオリヴァルト殿下から連絡を受けたのと一緒か」

「ロウラン室長とアランドール書記官は屋上で爆弾処理を続けている。二人共実力は確かだからな」

 再びダドリーが散弾銃を打ち込んだ。横に広がる射線が確実に小型の人形兵器を破壊する。

「お前は魔法攻撃を主とする戦法を得意としていたな。全く、ヴァンダール少佐と変わっていれば良いものを」

「だから一々言動がムカつくんだっての……!」

「ハーシェル嬢も、感謝する」

「いえ。文官補佐でも、私も士官候補生ですから……!」

「無視するな堅物眼鏡!」

 カイトとトワが重ねて魔法と打ち込む。トワの二発目の氷床爆砕(クリスタルフラッド)にカイトの裁きの雷光(ジャッジメントボルト)がまとわり付く。余裕を持って放たれた魔法連撃は、今度は確実にレオールガンイージを後退させる。

 カイトとトワだけでは打撃力に難があった。だが今は一人増えた。

「会議前に言ったな。『立場も実力も関係ない、貴様の力を最大限に発揮しろ』と」

「言いましたね……しゃあない。気に食わなけど協力しますよ」

「フン……その言葉が虚勢でないといいがな」

「無理やりにでも会議場に入る必要があります。オレじゃあ不足だったけど貴方の力なら……」

「可能だ。貴様とハーシェル嬢は防護魔法を。準備をしろ」

 ダドリーを前線に、トワが再び地の防壁(アダマスガード)を発動。今度はカイトとトワに同時にだ。

「では……行くぞ!」

 ダドリーが掛け声と共に突進する。普通に考えれば人形兵器に突進するなど無謀だが、彼に直接組み伏せられたことがあるカイトはよく知っている。彼の力も、実力の一端も、その覇気も。

 並みの捜査官の実力を遥かに凌駕していると、知っている。

「──ハァァァアアッ!!」

 ダドリーが突進。戦術オーブメントで強化された強靭な肉体を武器に繰り広げられるショルダーチャージ。

 トライアタッカーを、片腕を削がれたヴァンガードを、ゼフィランサスを押しのける。

 会議場の扉を守る最後の一体。レオールガンイージの巨大がダドリーを阻む。

「グオオォォッ……!!」

 苦悶するダドリー。いけない、このままでは。

「させないっ!」

 トワの魔法が発動した。フォルテの効力によってダドリーの膂力が膨れ上がる。

 それだけではない。

「大見得張ったまま終わらせねえよ堅物眼鏡!」

 カイトの魔法が閃く。水砲撃(ハイドロカノン)が足元からレオールガンイージの巨体を押し上げる。

「あんだけ啖呵切ったなら……この程度の無茶押し通せ!」

「言われず──ともぉぉぉ!!」

 突破した。レオールガンイージを吹き飛ばす。戦場に現れた突進の痕跡。

「会長、行きますよ!」

「うん!」

 カイトとトワはダドリーの後を追う。一息に会議場へ飛び込んだ。

 会議場の状況はGが去った直後とは一変していた。

 中央の長机は完全に木っ端微塵になっている。全面窓ガラスは割れてはいないもののいくつもの弾痕が痛々しい。天井の照明は一部が破損している。そして放置されている人形兵器の残骸。

 戦場そのものだ。

「三人とも、来たか!」

 会議場に突入した三人の目の前、人形兵器との戦闘を続けているのはやはりアリオス・マクレインだった。

「護衛のほとんどが負傷している。応急処置を頼めるか!?」

「回復アーツですね? 私に任せてください」

 アリオス自身も負傷しているが、彼はまだ戦っている。

 トワがすぐさま護衛待機室へ向かった。負傷者が首脳陣と共に護衛待機室にいるらしい。本当にギリギリのところで首脳陣を守りきってくれていた。

 ダドリーのショルダーチャージで通路側の人形兵器は吹き飛ばした。そのおかげか会議場内の攻防も落ち着いている。

 小康状態といったところか。

 アリオス、ダドリー、そしてカイト。3人が集まり顔を見合わせる。

「2人共、助かったぞ」

「少しはアリオスさんにお礼を返せました?」

「ああ、この上なくな。ダドリー捜査官、屋上の調子は?」

「問題ない。時間は要するが、さすがは二大国の諜報関係者といったところだ」

「じゃあ、それが収まるまでここをオレたちで守りきれば……」

「少なくとも、首脳陣の避難は果たせるということか」

 Gの出現からRF社飛行艇の墜落、そして列車砲。重ねられた絶望の中で、やっと希望が見えてきた。

「マクレイン、レグメント。覚悟を決めろ。守護する」

「言われなくても!」

「支える篭手の名にかけて。ここは通さん!」

 再び、人形兵器が会議場の大扉から侵入してくる。一体どれだけの数がどこからやってくるのか。

 それでも、カイトに迷いはない。アリオスとダドリーの二人が両脇を固めている、この布陣なら。

 アリオスが一歩踏み込む──と同時に消えた。

「二の型──《疾風》」

 小型の人形兵器たちが、が即座に一刀のもとに両断された。小規模な爆発が起きる。リィンも扱う八葉の技だ。

「ARCUS駆動!」

 カイトが魔法を駆動させる横で、ダドリーが再び散弾銃を放つ。ポンプアクションだが巧みな操作で射撃を繰り返す。人形兵器が確実に押されている。

「人形兵器の残骸、木っ端微塵の机、広い部屋。はは、ここなら魔法を抑える必要もねぇ!」

 カイトの魔法が駆動する。火炎爆撃(ヴォルカンレイン)が会議場の中心で吹き荒れる。続けざまにカイトは銃撃で牽制する。

 高熱に浮かされる会議場をアリオスは疾駆する。《風の剣聖》の名は伊達ではない。カイトが共に戦ったあらゆる人間の速度を越えている。それだけではなく、剣術もリシャール以上、レーヴェに並ぶ実力者。

 細い刀身と鉄の体躯。その圧倒的な差に臆することなく、アリオスは的確に関節を突いていく。

 カイトもまた、単純な実力で敵わなくとも魔法を途切れることなく発動させる。水砲撃(ハイドロカノン)火球爆撃(イグナプロジオン)などの威力の高い魔法を繰り返す。並戦駆動によって単独でも強力な魔法を放つことができるカイトは、数々の修羅場をくぐり抜けたことで確かに実力者と肩を並べる戦闘力を誇っている。

 銃撃を繰り返しながら、そんな二人の遊撃士の奮戦を見るのはダドリーだ。

「マクレインはともかく……レグメントの実力も本物だったか」

 二人の縁は、カイトが初めてクロスベルに来た日から始まった。

 当初から犬猿の仲だった二人だが、実のところダドリーはカイトを疑っていたわけではなかった。ただ、警察組織が腐敗していたこともあってカイトという遊撃士がクロスベル入りした事は知らなかった。だからジオフロントの出入り口から現れたカイトを反射的に拘束してしまったのだ。

 そして、クロスベルに集まる遊撃士は全員がB級以上という先入観もあり、それとカイトとの受け答えもあってお互いを牽制するような仲になってしまった。

 だが、その後のカイトのクロスベルでの生活は知っていた。高い戦闘能力を秘めていることも、正遊撃士として着実に戦闘以外の経験を積んできたことも。特務支援課と共に黒の競売会(シュバルツオークション)で暴れまわったと聞いた時には呆れに呆れたが。

 そして、ダドリーとカイトはおおよそ半年ぶりに再会した。今日、通商会議の場で。

 小憎たらしい物言いは変わらない。それでも、遊撃士から帝国の武官補佐としてやってきても、その本質は全く変わっていなかった。

 特務支援課と関わる中で、ダドリー自身も少しずつ柔軟性を得ていった。だから表面上はともかく、確かに同じ目的を持つ護衛としてはカイトを信頼している。

 風の剣聖が奮迅し、そしてカイトまでもが活躍している。その状況で、純粋にクロスベルを守るべき自分が動かない訳にはいかない。

「私を舐めるなよ……人形兵器め」

 わずかな隙を利用して、ダドリーは煙で(すす)けたスーツを脱ぎ捨てた。

 そもそも、全ての原因はテロリストにある。首脳陣を暗殺し、このオルキスタワーを破壊するなどと。

 細かい事情などどうでもいい。絶対に正義に反している。

「キサマら……もう許さんぞ」

 絶対に、止めてやる。

 アリオスの斬撃とカイトの魔法、それらの攻撃から免れた一体のゼフィランサスに目を向ける。

 ゼフィランサスはアリオスに向いていた。

 マグナム? ショットガン? それらは確かに強力だが……最も信じるのは己。このクロスベルで生き抜いてきた自分自身だ。

 ダドリーは跳躍した。ただの捜査官ではあり得ない跳躍力。その拳には、あり得ないほどのエネルギーが集約される。

「喰らうがいい──《ジャスティスハンマー》!!」

 戦略も技術もあったものでない。肉弾戦が専門でもない捜査官の全力の拳が、爆発にも勝る勢いでゼフィランサスに襲いかかった。

 地震に見紛う揺れが会議場を襲った。

 そうして3分後、会議場は久しぶりに静寂が訪れる。

「……やったのか?」

 少しばかり息を切らし、カイトが呟く。

 アリオスが答えた。

「油断はできん。だが一山は超えたらしい」

 いくら結社の人形兵器とは言っても、無限ではない。アリオスが鉄壁の守護を果たし、カイトとダドリーという強戦力が合流したからこそ果たし得た静寂だ。

「状況はどうなっている?」

 アリオスが問う。カイトはオリビエと、ダドリーはクロイス市長と通信をしているから、獅子奮迅の活躍をしていたアリオスだけが知らないのも無理はない。

 トワによって回復した護衛たちに再び扉の守護を任せ、3人は護衛陣待機室へと入った。

「カイト!」

「さすがの実力だね、カイト君」

「へへ……推薦分の働きはできましたか?」

 カイトにクローゼとオリビエが近づいた。それはいつかのリベールの異変の時と同じ空気だった。

「ダドリー君……」

「マクダエル議長、ご無事でなによりです。クロイス市長も」

「ああ、ご苦労様だ。それでは、情報共有といこうか」

 アリオスを交え、全体の情報を共有していく。

 屋上ではレクターとキリカが爆弾処理を続けている。

 33階では会議関係者が籠城を続け、彼らが地上及び地下へ避難できるようルート確保にミュラーとユリアが動いている。

 地下ジオフロント区画では、特務支援課がテロリストを追っている。

 絶望はまだ色濃いが、一筋の希望はある。

 扉を守護する護衛やカイトたちだけではない。首脳陣の全員もまた、待機室の机に座ってはいるが聞き入っている。

 いずれにしても、他の階層にいる面々の同行が重要だった。

 通信がかかるまでの5分間は、とても重苦しい時間だった。

「こちらアレックス・ダドリー」

 ダドリーのENIGMAⅡに通信が入る。

「ええ……ええ……本当ですか!?」

 ダドリーの語気が強くなった。しかしそれは焦りではない。

 通信を終えたダドリーがすぐさま全員に届く声で断言した。

「ロウラン室長より、連絡です。ガンシップの爆弾処理を終えたと……!」

 護衛たち、他にもオリビエやクローゼらの喜ぶ空気が伝わる。

 これで首脳陣たちが避難できるかもしれない。

 残る案件は一つ。だれが首脳陣を護衛するかを決めなければ。

 だが──まだ獣たちの狂宴は終わらない。

 今度はカイトの懐から通信音が鳴る。そしてARCUSではない、ENIGMAⅡからだ。

 カイトは通信を始めた。

「こちらカイト──」

『カイト、やられた……!』

「っ……ロイド? どうしたんだ?」

 予想外の通信だった。地下にいるはずのロイドからだった。彼がどうして、例えばダドリーでなく自分に通信をかけたのか。

 だが切迫した声色からして、こちらに対して不利な何かがあったのは確かだ。

 テロが始まる前と同様にスピーカーモードにする。待機室の全員がカイトの様子を注視していた。

 ロイドの声が聞こえる。

『共和国テロリストが……黒月に拘束された』

「──え」

 テロリストが押さえ込まれる。それ自体は喜ばしいことのはずなのに。

『全部、仕組まれたことだった。帝国系テロリストも……赤い星座に蹂躙される!!』

 まるで、悪夢の始まりのように聞こえる──

 

 

 

 








現在地(状況):人物

◆屋上(爆弾処理を要する)
:キリカ、レクター

◆35F護衛陣待機室(最終防衛)
:オリヴァルトら首脳陣、カイト、トワ、ダドリー、アリオス、

◆35F国際会議場(人形兵器との戦闘)
:その他護衛

◆34F関係者控え室(関係者が籠城)
:その他関係者

◆33F以下通路(1Fへの通路を開拓中)
:ミュラー、ユリア

◆1Fタワー前広場(RF社ガンシップが墜落)

◆タワー地下(ジオフロントをテロリストが籠城)
:支援課、帝国解放戦線、真なる優士団

◆クロスベル市内(爆破テロ発生)
:遊撃士、捜査二課など

◆場所不明(???)
:G



次回、71話
《8/31SH:獣たちの狂宴》
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