──18:00。
オルキスタワー地上1階、エントランスホール。ようやく飛行艇の炎上の勢いが止まり、しかし未だに鎮火の気配を見せない頃。
《魔人》ギデオンが、炎の通り道となっていた正面玄関を塞ぐように出現した。
人型であることは確か。だが、人ではない。甲殻類のような銀色の皮膚があり、男性であった以上の異形の面や相貌、金赤色の瞳孔のない双眸。多くの角が生えた頭部、肩、肘、腕。
全長5アージュを超える
人間のものとは思えるはずもない轟音、そして咆哮が襲いかかる。
それだけではない。魔人ギデオンと相対するカイト、ロイド、そしてランディは、鋭敏ではないその感覚に肌がひりつくような霊圧を感じていた。
カイトが思い出すのは、浮遊都市で戦ったアンヘルワイスマンだった。
そこまでの圧倒的な存在ではない。だが、それに似た超常的な力を持っている。
「くっ……なんだよこれ……!? 二人は知ってるのか!?」
剣山で撫でられるような感覚に耐え、カイトはなんとか目を開けながら隣の二人に聞いた。二人は明らかにギデオンが飲み込んだ紅色の錠剤の正体を知っていた様子だった。
ロイドが答える。
「教団事件でばらまかれた
「それって……」
かつて大陸中の子供を
そして市内に流通したのは《蒼色》の錠剤。
「対して紅色の錠剤は……服薬したものを《魔人》に変えるんだ」
ロイドの言葉に絶句する。
教団事件の時、一部のマフィアや主犯ヨアヒムが用いたのが紅色のグノーシス。
例えばマフィアは、それを一錠服薬して2アージュを超える魔人となった。
市長暗殺未遂事件の犯人だったアーネスト・ライズは、教団事件の後、共和国にあるロッジという場を借りることで一錠を飲んで目の前のギデオンとほぼ同等の姿になった。
そして主犯ヨアヒムは、《太陽の砦》で紅色のグノーシスを今のギデオン以上に
ランディが呻く。同じ圧力を感じる中、斧槍を地面に突き立て耐えている。
「あれだけの量を服用しちまったら……」
「ああ……正直、生存できるのかはわからない」
「そんな……」
ロイドの言葉が、カイトが掲げていた士気をそぎ落とす。
それでは、いったい自分たちは何のためにここに来たのか。
Gを止め、命を落とさせることなく拘束し──自分たちの誇りを証明するために来たのに。
だが、皮肉にもギデオンによって士気は保たれる。
『ナルホド──首脳陣ハマダ屋上ニ向カッテイル途中カ』
声が聞こえた。肺腑を震わすような振動。だが、それは間違いなくギデオンのものだった。
「あいつ……
ロイドが叫んだ。
それはグノーシスによる全能視とも見紛う超感覚。どういう理屈か、それでもギデオンは確かにオルキスタワー上層の状況を理解している。
そして。
『コノ
玄関の方向へ振り向く。そうして立ち上がろうとしている。
──まさか、タワー側面をよじ登って直接屋上に行くつもりか。
『させるか!!』
三人全員の声が重なった。ランディが斧槍を振りかぶった。ロイドが走り出した。カイトが魔法を駆動ささせた。
ランディの振り下ろした斧槍から炎が吐き出される──サラマンダー。ロイドが気合とともに突進する──ブレイブスマッシュ。カイトによる魔法で小規模な地震が巻き起こり、ギデオンの行動を止める──クエイク。
それらがギデオンの体に直撃し、揺らす。それぞれの大きな一撃が確実に気勢を削ぎ、そしてギデオンは忌々しい様子で再びカイトたちの方を向いた。
『マアイイ……首脳タチが飛行艇ニ乗ルマデアト十分。ココデ貴様ラヲ潰シテカラデモ遅クハナイ』
そんなことまでわかるのか。
『来イ。貴様ラが鉄血ニ飲ミ込マレル前ニ……セメテ私ガ飲ミ込ンデクレル』
ギデオンがその禍々しく大きな右腕を振り上げた。それだけで、手配魔獣クラスを遥かに凌駕する恐ろしさ。その攻撃の狙いは──先の攻撃で最も近づいたロイド。
振り上げる動作は緩慢に見えるが、巨体による錯覚に過ぎない。ロイドがそれを辛くも避けることができたのは、過去に同等の敵と戦った経験によるものだった。
跳躍したロイドが立っていたその地面──タワー1階の光が反射する床が粉々に砕かれる。重い衝撃。
ギデオンの視界は未だロイドへ。その死角を縫ってランディが忍び寄り、掌底した右手と対側の左側から跳躍する。
支援課随一の膂力を誇るランディの閃撃。しかしそれはギデオンの左腕によるエルボーが襲いかかる。
『マルデ蝿ダ。人間トハココマデ小サイモノダッタノカ』
一撃を、ランディは斧槍を振るうことでなんとか防いだ。それでも衝撃は強く、エントランスホールの側壁まで弾かれる。元猟兵の身体能力がなければ無様にぶち当たってたところを、ランディは体をひねって持ちこたえる。そして叫んだ。
「
着地しながら懐をまさぐり投擲。数秒も立たずに
「今だ、カイト、ロイドォ!」
魔法駆動。シルバーソーンの銀色の茨がギデオンに絡みつき、自由を奪うと同時に爆発した。
ロイドが再び跳躍する。特攻による渾身の連撃。虎の猛攻とも見紛う攻撃だ。
カイトとロイドの攻撃は確かに通用した。しかし大した手応えがない。
『ヌルイ』
ギデオンが両腕を同時に床に叩きつけた。衝撃がタワー全体を震撼させる。何度も、何度も。タワーが免震構造でなければどうなっていたかもわからない。
揺れる大地に手間取りながら、三人の人間は体勢を立て直す。カイトは少しでも主力二人への攻撃を抑えるためにあえて前に出る。焼け石に水であっても、銃撃で牽制することも忘れない。
『……かいと・れぐめんと』
ロイドとランディの側面からの攻撃を意に介さず、ギデオンは自身の正面に相対するカイトを捉える。
『貴様ハ昔カラ変ワラナカッタ。弱イ時モ、今モ』
ギデオンの腕が天に掲げられる。巨大な魔人は3階分の高天井に吊り下げられている巨大な導力灯を引きちぎり。
『今コソ、ソレデハ鉄血ニ勝テナイ現実ヲ教エテクレル』
金属ごとカイトに向かって投げつけてきた。
それを避けるも、流石に圧倒的な投擲速度だった。避けるだけの行動は着地を失敗させ転げさせ、カイトにしては本当に久しぶりに魔法駆動を失敗させた。
「カイト! 大丈夫か!?」
導力灯が後方の壁に激突し、金属がひしゃげる工事現場のような音が響く。その中でロイドはカイトの様子に焦りを覚えた。
──それは悪手だった。
「カイト、今体勢を──ぐぁっ!?」
ギデオンが、ロイドの体を鷲掴みにした。そして眼前に持ってくる。
もがく。意味がない。全身に力を込める。ギデオンの万力は微動だにしない。
『くろすべる警察。狭間デ身動キ取レヌママ消エテイクダケノ塵ガ』
「~~っ!?」
そして、ギデオンはその掌の
迸る琥珀の輝き。
「クソッ、慣れない魔法を使わせるんじゃねぇよ……!」
発動させたのはランディだった。動かず、集中し、魔法を駆動。戦況は完全に防戦一方となる。
遅れて復帰したカイトが、最初のランディと同じようにギデオンに突っ込む。ランディよりも軽い体だが、そうも言っていられない。
短い駆動で
『貴様……』
「オレの仲間を、殺させねえよ!!」
ギデオンの意識がカイトに向く。空いている左腕でカイトを払おうとする。その隙を突き、ランディが斧槍の穂先で渾身の刺突を右手首に繰り出した。
デススコルピオン。かつてガルシア・ロッシの肩を抉った一撃が腱を引きちぎる。握力が弱まる。
「負け……るかぁっ!!」
喉を震わせ、声が裏返るほどの気合とともにロイドが魂を震わせる。体を回転──遊撃士リンによって泰斗の動きを取り入れた全力の
──解放された。無様な着地、ギデオンの足元に落ちる。
『クドイ……ドウシテ、コウモ抗ウ……!』
肘から先を全て床につけた。大地を薙ぎ払う。狙いはロイドとランディだった。
ランディは後方に跳躍した。動けなかったロイドは、今度はカイトの魔法によって守られた。それでも吹き飛ばされ、結果全員がギデオンから遠ざかることになる。
『ソンナ
ギデオンの咆哮。魔獣のような理性なき叫び。魔人化した直後と同じ霊圧が塵やガラス片が吹き飛ぶ。
三人は、なんとか後方のカウンターに隠れてやり過ごす。
途絶えることのない霊圧と激震に、カイトは頭を抱える。
「なあ、副作用とかないの!? 拉致が開かないぞ……!」
「薬が切れるにせよ、亡くなるにせよ……彼の体力を奪わなきゃならない。けど……」
「ヨアヒムの時は支援課とエステルちゃん、ヨシュアの六人がかり。アーネストの時はロイドとノエル、アリオスとダドリーの四人がかりだったよな?」
「ああ……あの体躯に見合う致命打が必要不可欠とは言わないが……それでも俺たちだけじゃジリ貧だ」
「結局それかよ! 応援を呼ぶ暇もないのに!?」
咆哮だけでなく、カイトたちが身を隠すカウンターや、その周囲の壁に窓ガラスや砕かれた瓦礫が飛んでくる。土煙が生まれる。ギデオンが、タワーの外壁に使われている鉄骨や窓ガラスを手当たり次第に投げてきている。
攻撃どころではない。前に出れば女神行きは確実だ。
「とはいえここで足止めするためにも攻撃は必須だ。どうにかして、隙を見つける必要がある」
幾分平静を保っているロイドがそう言った。方針とすら言えないが、ひたすらに事実だった。
飛行艇の墜落による火事は徐々に収まりつつあるが、それでも限界はある。そもそもクロスベル警察も警備体も装備は限られている。
轟音、激震、命を消す投擲の数々。それらに震えながら、カイトは考える。
(……どうして、こんなことになってるんだ)
魔人と成り果てる前、ギデオンは言っていた。
『私は死にたくない』
『怪物になるのはっ、私だけでいい』
それは、先月までのギデオンとはまったく異なる態度だった。
(なんだよ、オレたちと同じじゃねえかよ)
ずっと、ギデオンは残虐な人間だと思っていた。実際テロを起こし無関係な人間を巻き込んだ。例え鉄血宰相の政治手腕が過激なものであったとしても、許されることではない。
それでも、魔人化という片道切符を前にして……彼にとっての仲間たちを慮ったことが、カイトの脳裏をよぎる。
『願わくば、同志が償う道を、見つけてほしい』
「なんだよ……アンタだって、そう思ってるんじゃねえかよ……!」
大切な人を想い、彼らのために行動でも言動でも、わずかであってもできることをする。それはカイトたちと同じ行動理念だ。
それなのに、魔人化してからはカイトやロイドたちを蔑み、ただ邪魔なものとして排除しようとしてくる。
超常の力を得て、再び鉄血を倒すという意志が湧き出ているのか。それでもカイトにとっては、先の言葉が怒りや悲しみを払った本当のミヒャエル・ギデオンの意思なのだと思いたかった。
「だったら、自分でやれよ……」
カイトの声が震える。隣のロイドやランディがその様子に気づく。
ルナリア自然公園から始まり、ノルドで嫌な再会を果たし、帝都で極まってしまった縁。
人は様々なものに影響を受けながら生きていく存在だ。逆に生きているだけで様々なものに影響を与えていく。それこそが縁であり、縁は深まれば絆となる。そして一度結ばれた絆は決して途切れることはない。
そして、それは敵であっても変わりない。どれだけ許せない存在であっても、縁は既に紡がれてしまっている。
だから、余計に許せない。ふざけるな。
仲間を救いたいんなら。
「自分でやれ、クソメガネ……!!」
隠れたまま蒼い、蒼い波を纏う。感情に震える体は動き出す。
「カイト……!?」
「おい、やめろ!」
仲間たちの声を聞かず、ギデオンが投げつける瓦礫の嵐が落ち着いた頃合を見て、カイトは身を乗り出す。
数十秒ぶりに見たエントランスホールは、もはや廃墟といっても差し支えない状況だった。辛うじてタワー前広場の火事が落ち着きつつあることだけは見える。
カイトを目視したギデオンの、その双眸がギラリと光る。
『……死ネ!!』
ギデオンは手で地面を抉り出し、そうしてカイトに向かって投げつける。カイトと同じく感情を顕にしたギデオンの投擲は単調だった。だが威力は凄まじく、カイトは集中を保てない。
投擲を避ける。ふらつく。それでも駆動を保とうとする。魔法を発動に導いたのは精細な感覚と才覚ではなく、許さないという苛烈な激情とこの窮地に対しての自暴自棄だった。
深い蒼色の煌きがカイトから迸る。魔法が発動する。
カイトの近くから放たれる、特大の水球が威力のあまり鋼鉄ほどの破壊力となって、長い長い砲撃となる。
ギデオンからすれば、それなりに強い一撃程度ではあった。生命を脅かすのには痛痒もないことのはずだった。
──突如として背後から穿たれた鋼鉄のような水の
『──グァ!?』
ギデオンの姿勢が、明らかに崩れた。
状況を見ていたロイドもランディも、魔法を放ったカイトですら、予想外の出来事に脳が高速で回転し始める。
カイトの魔法は強力だったが、それでも魔人の苦悶は予想外だった。
ロイドが核心に迫る。
「もしかして……ここは太陽の砦とも、アルタイルロッジとも違うからなのか?」
ロイドはティオのような鋭敏な感覚を持ってはいない。だが、上位三属性が働いていた場所と比べ、このエントランスホールは明らかに普通の場所だと言うのはわかる。
カイトとは離れた場所で、ロイドはそうした経験を重ねていた。その積み重ねによって導きだされた一つの可能性。
魔人ギデオンの肉体は、ヨアヒムのそれと比べれば不完全。場の霊力がないために、少しの時間しか保てないのではないか?
現状、真実はわからない。カイトの攻撃が強力だったのは確か。しかし確かに最初は効かなかった攻撃が効いている。
だったら今すべきことは。
ロイドもまた飛び出した。
「ランディ、カイト、畳み掛けろ!!」
リスクは承知。死は目の前にある。けれど首脳陣を護ることが、自分たちの最良の勝利だ。
ランディもまた飛び出した。カイトも、怒りと困惑の中でロイドの声を確かに聞いた。
『フザケ──ルナァァ!!』
もはや会話が出来ているのかも分からない。魔人ギデオンは四足魔獣のように身をかがめて、そうして突進してくる。
エントランスホール後方からギデオンに向かっていた三人。カイトは再び蒼い波をまとっていた。猛攻を辛くも避けるが、突進によって長椅子の残骸や瓦礫が吹き飛ぶ。
攻撃を受ける。それでもロイドはトンファーで、ランディは斧槍で直撃を防いだ。
──カイトだけが防げなかった。頭部に瓦礫が直撃した。
「カイト!?」
「おい!?」
魔法駆動に集中しすぎた。並戦駆動を怠り、少年は瓦礫の餌食となった。
吹き飛ばされる少年。無様に転がり、倒れる。それでも駆動は止めない。
苦悶の表情とともに身を起こす。揺れる視界の中で、カイトは叫んだ。
「っ……チャンスは今しかないんだろ!?」
好機だった。ギデオン渾身の突進はホールの後方まで届き、壁に激突してめり込むことでギデオン自身の行動を拘束していた。
全てが視えようとも、人間は女神でもなんでもない。ギデオンの言動はもはや冷静さを欠き、そして今カイトたちに有利に働いている。
カイトの頭部から血が滴る。視界が赤く染まる。それでも、カイトは起き上がって戦場を見据えた。
「止まるな!! 特務支援課!!」
突き動かされるように、二人が走る。無防備なギデオンに向かって、最後の一撃を叩き込む。
ロイドが彼にしては珍しいほど戦場を駆け回り、何度も何度も一撃を喰らわせる。そして、最後に莫大なエネルギーを生み出す。竜のような覇気とともにライジングサンを叩き込んだ。
ランディの斧槍が彼によって回転する。炎を纏った斧槍の薙ぎ払い、間髪入れずに飛び出た穂先で敵を穿つデススコルピオン。
そこからもう一度。ロイドとランディによる
『ゴアァァァァッ!!』
苦悶とともにギデオンが振り返る。怒りに任せた両腕による掌底──いや違う。
「カイト、避けろ!」
ロイドとランディにはその攻撃に覚えがあった。だから腕を地面に突き刺し、それに続くような赤黒い茨による拘束を二人は回避することができた。
カイトだけは、なすがまま捕まってしまった。
「──オレが、ただの化物に成り下がったアンタにやられるかよっ」
それでも、少年は止まらない。
魔法が発動する。初歩的な時属性魔法であるソウルブラー。黒色の波動が数十の連鎖となって、突き出た茨を自分ごと攻撃した。
末期の咆哮が響く中、それでも魔人は止まらない。
『わたしハ……わたしハ! てっけつヲォォォ!!』
再びの突進。カイトは足を動かせない。ランディが自分の斧槍を放り投げ、そしてカイトを抱き抱え辛うじて救った。
ギデオンはエントランスホールを駆け、正面玄関をぶち破り。墜落した飛行艇まで押しのけ。この世のものとは思えない地獄の音響をもたらして、そうしてタワー前広場へ出て転げまわる。
タワー内部にいる三人は、ギデオンがぶつかった壁や瓦礫に銀色の粘液のようなものが付着しているのを見た。
体の崩壊が始まっている。
「あの野郎! まさか最後の最後で屋上に……!」
「追うぞ!」
最悪の結果を予見するランディに対し。ロイドはそう言った。特務支援課のリーダーが外へ向かって走る。
続こうとするランディに対し、抱えられたままのカイトは続けた。
「ラン、ディさん……」
「おい、カイト」
「オレを抱えて。外まで……」
少年の言葉に、ランディは逡巡した。
カイトの容態が危険だ。しかし治療をする1秒の余裕もない。自分の斧槍も今の猛進でどこかへ吹き飛んでしまった。
「……おうよ!」
ランディは走り出す。
方や、晴天の下のタワー前広場もまた、阿鼻叫喚の景色となっていた。
破壊された正面玄関の瓦礫を飛び越えたロイドの眼前に広がるのは、焦げた地面と、散らばった金属片と、所々に残る炎の残滓。そして理性とその命を失おうとしている魔人ギデオン。
もう、ギデオンは飛び出したロイドにさえ目もくれなかった。命の残り香を実感して、本懐である鉄血を亡き者にしようと動いているのがわかる。
ギデオンはその巨体をかがめ、跳躍した。崩壊し溶けていく四肢に構わず、タワー正面上階にあった屋外広場の柵に捕まる。
「させない!」
ロイドもまた、最後の力を振り絞って跳躍する。飛行艇の残骸と瓦礫によってできた足場を頼りにして、飛び乗る。電撃をまとわせたトンファーによるスタンブレイク。ギデオンの動きが数秒だけ止まる。
それでも、ギデオンは落ちない。もがき、小さくなりつつある脚でロイドを蹴り付け吹き飛ばした。なおもその四肢でよじ登ろうと、もうロイドの跳躍でも届かない高さまで。
「ジアータイタニス」
カイトの静かな声が、ロイドの耳に届いた。
タワーの側面を中心に激震が走る。タワーよじ登ろうとするギデオンの体を震わせる。
ギデオンがいる側面から、大岩が隆起して腹部を押し出す。
それはランディに抱えられてタワー前広場に出たカイトによるものだった。そして、それが決定打となった。ギデオンは空中に放り出され、背中から落下する。
受身も取れず、魔人は地面に叩きつけられる。
最後の衝撃だった。
タワー前広場の中央に、魔人ギデオンは倒れた。
次回、11章最終話
『72話 祭りのあと』