カイトたちⅦ組B班、そしてアリスはイステットに到着した。
ラクウェルの北、ゼムリア大陸極北の二地方へと繋がるだけあって、秋口にも関わらずトリスタよりも寒さが際立つ。
アリスがイステットに戻ることに対するカイトの心配は、アリスが言った通りの結果となった。
鉄道を下りて改札を出た時、確かに駅員や駅にいた町民から驚かれた。けど、それだけだったのだ。声をかけてくる者たちもいたが、それは友好的なものだった。
イステットは山脈の麓に作られた町。ある程度の高低がある。
駅前広場は噴水を中心に商店が並んでいる。ラマール州ではあるが帝国解放戦線の蜂起の報はまだ届いてないのだろう。雰囲気は賑やかなものだった。
トールズ士官学院、特科クラスⅦ組。トールズの名はともかく、赤い制服の存在は知られていない。だから歩く度にカイトたちは注目を集めることになったが、それでもアリスを先頭に黙々と歩く。
アレスレード伯爵邸は、街の中心からやや離れた丘の上にあった。
さすがにその頃には領邦軍の兵士たちもアリスに気づく。
それでも、アレスレード伯爵邸の前。門を守る兵士たち。カイトたちⅦ組を訝しむけれど、アリスが毅然とした態度で入邸を許可させた。アリスの態度が、今までのそれとは違っていたのだろう、兵士も驚き、何も言えないようだった。
カイトにとって、貴族の屋敷として入ったのはレグラムのアルゼイド子爵邸だ。武門ということもあり落ち着いた子爵邸と比べると、あまりに華美に感じる調度品が目立つ。四大名門の出であるユーシスとしては珍しいことではないらしいが。
そして、アスベル・A・アレスレードが待つ執務室。
カイトは、ユーシスたちは。油断なく、恐怖もなく、その男の前に立った。
形だけは優雅な紺の外套を纏っている。茶髪の短髪に朱色の瞳、少し日に焼けた肌を持った壮年の男。
男──アスベルは動かしていた筆を置き、そして目線をあらためた。
「これは……ユーシス様。このような時に我が屋敷に訪れるとは。歓迎のご用意もできず、申し訳ない」
「構いません、アレスレード閣下。本来、私たちの方が分をわきまえぬ訪問でしょうから」
ユーシス、そしてラウラ。両腕を後ろ越しに回した二人の貴族の連なりは、作法としての佇まいは保っていた。
「しかし、閣下。私は今日、ここにいる級友と共に、特科クラスⅦ組の一人としてここにいます。公爵家としてのユーシス・アルバレアのことは、どうか忘れていただきたい」
「なるほど……では、その紅い制服こそ、噂に聞くトールズの」
アスベルまだ、アリスには目を向けない。ユーシスから、ラウラ、マキアス……と順に吟味していく。
カイトは伝え聞いただけの話だが、バリアハートの実習では、ユーシスはどこまでも貴族の御曹司だった。それは彼自身の態度の話ではない。領邦軍兵士にせよ、位の低い貴族にせよ、ユーシスを見た瞬間にそれまでとはまるで違うへりくだった態度になったという意味でだ。
アスベルにはそれがない。今のユーシスの促し。偉そうな態度ではないが、それでもユーシスを歯牙にもかけないのは、ユーシスを四大名門の一人として扱いきっていない、ということなのかもしれない。
アスベルは、態度をどこまでも冷めたものにした。カイトにとっては、ウルスラ病院で初めて目の前の男と会った時、アルスに向けていた冷徹な態度を彷彿とさせるものだった。反吐が出るくらいに。
「では……トールズⅦ組。何故、ここにいる? ユーシス様、ラウラ嬢。貴族に連なる二人は、この場に立つ価値は確かにある。だが……」
マキアス、ミリアムを見ている。
「革新派の手下どもがいる……自分たちがどのような愚を犯しているか、わからないわけではあるまい?」
カイトが遮った。
「その質問には、オレが答えますよ」
「……名も知らぬ平民などに用はない。失せろ」
「そうはいきません。一応、リーダーみたいなことをやらせてもらってますからね」
Ⅶ組のリーダーは、重心はリィンだ。そこは揺らがない。でも今だけは、Ⅶ組B班として動き、そしてアリスを支えるために仲間の力を借りている今だけは、その称号を掴みたい。
微かな怒りは懐に、顔には得意げな笑みを張り付けて。カイトはアスベルの眼の前に立った。
「久しぶりですね。アレスレード伯爵閣下」
「貴様は……」
アスベルはわずかに逡巡したが……やがて気づいたようだった。表情は変えず。けれど、瞳孔がわずかに開く。
カイトをただの平民ではなく、邪魔な存在として見始める。
「そうか。アリスが馬鹿な真似をしたこと……貴様の差し金か」
「それは納得がいかないですね」
それは責任逃れで口にした言葉じゃない。
アリスのここまでの道程が、選択や意思が。それらを蔑ろにされるのが嫌だと思った。
「
「競売会も知っているか。カイエン公爵閣下から、アリスと同行していた少年の話を聞いたが」
「改めて──遊撃士。トールズ士官学院、特科クラスⅦ組所属。カイト・レグメントです」
「カイト・レグメント……」
アスベルとしては、娘の周囲にいたらしい子どもの姿がはっきりとしたわけだ。
とはいえ、だからどうというわけではない。二人とも、未だはっきりとした因縁が作られたわけではない。
ただ、カイトはアリスを支えると決めただけだ。
「オレは、ただリーダー役だから前に出ただけです。オレ自身がこの場で何かを貴方に言えるわけじゃない。言えるとしたら──」
カイトは一歩下がった。そして、アスベルの血縁でありながら、声をかけられることもない少女を後押しする。
「ただ、アリスと面と向かって話をしてほしい。それだけです」
アリス・A・アレスレードが、アスベル・A・アレスレードの前に立った。Ⅶ組B班の前に立って、正面に。
「……お父様、これ以上は止めてください」
「何のことだ、放蕩娘が」
「これ以上革新派を刺激してしまっては……早晩、双方に悪影響が出かねません」
「お前が気にすることではない」
アスベル自身がオルディスを混乱に陥れている。それを否定するでも、肯定するでもない返答。
「いいえ、気にします」
「……」
「セントアークの事件、今日の兵器工場の爆破、それに鉄鋼石の預かり先の手配にいたるまで……」
アリスとカイトが予想したアスベルの所業。それに証拠はないが、この場に証拠は必要ない。
実際、アスベルもそこについて真偽を問うつもりはないようだった。認めているのか、それとも気にしていないのかはわからないが。
「それに、私とユーシス様の婚姻も含めて」
ガイウスが驚く。婚姻という重さの意味と、アリスが語ったその真の理由についても。
ユーシスは驚かない。自身が貴族の御曹司でもあり、カイトに語ったことでもある。婚姻関係が貴族家同士の結束となる。それは最初から分かりきっていたことだ。
ユーシスからその話を聞いていたカイトも、従姉の件があるマキアスもまた、驚かない。
「貴族派として動いて、四大名門に取り入って、地位を広げて……その結果にお父様が何を見ているのか。私にはわかりません」
「……」
アスベルは押し黙った。
アリスとアスベル。アスベルが無理やりアリスを休学させた時など、話す機会はないわけではなかった。それでも、いつもアスベルの一方的な報告で終わってしまっていた。
今、アリスはカイトたちに背を押されながらとはいえ、自分の言葉を語っている。それがアスベルにとっては予想外だったのかもしれない。
加えて、こんなことを実の娘に言われてしまっては。
「それとも……」
アリスは一瞬言葉を区切った。
発せられた言葉は、カイトにとっても、誰にとっても予想だにしないことだった。
これまで、決してアリスが口にしたことのない、彼女の深淵。
「……私のせいでお母様が亡くなってしまったことと、関係があるのですか?」
「……っ」
アスベルの動揺。明らかに何かがある。だが、さすがに合点がいかない。
カイトもわからない。ユーシスを除けば、最もアリスと語ったことがあるだろう。それでも、アリスとアルスの母親のことは、聞いたことがなかった。
アリスも、母親のことを、それ以上カイトたちに語ろうとはしない。それがどういうことなのか、カイトたちにはわからない。
それでも、葛藤があるのはわかる。今まで多くを語り合ってきたカイトでさえ、初めて知ったことだった。今この時、アスベルの前に立って初めて口を開けたこと。それだけで、決意を振り絞るには十分すぎる。
アリスは続ける。
「私は……たとえどんな理由があっても、貴族派と革新派がいつか衝突して瓦解する……そんな道を歩きたくはありません」
アスベルも返していく。
「お前の母が亡くなったのは……」
父親の声には、かすかな震えが。
「何よりも鉄血宰相の愚行だ。それを止めねば、同じ悲劇がいつまでも続く。それはわかるだろう」
「それは違います。あれは……事故です。そしてお母様を事故の犠牲者にしたのは……他でもない、私です」
「……」
アスベルが押し黙った。そして、その沈黙をこじ開けたのはユーシス。
「もしや……イステット駅の鉄道脱線事故の?」
アスベルは答えない。アリスが、ユーシスを見ずとも静かに頷いた。
「ユーシス、それって?」
カイトの問いかけ。遮る者はいない。
「……鉄道網が拓かれていた当時、イステット近郊で発生した脱線事故だ。十年ほど前になるか。死傷者もそれなりに出たと聞いたことがある」
百日戦役後の小さな出来事。それ自体は大きなことではあった、けれど改革の中ではこのイステットに限らずどこでも発生していた、帝国の悲劇の一つ。
アリスは否定しなかった。
「その事故の現場に……私の母はいました」
詳細はまだわからない。だが、なんとなくの合点はいった。
カイトは、アルスから聞いたことがある。自分の母は幼い頃に亡くなった、と。
アスベルがアリスとアルスを邪険にし、不和が生じている現状。
きっかけは、そこにあるのか。そしてその事故、鉄道網の拡充には、鉄血宰相──革新派の増長が絡んでいる。
そこに繋がるのか。帝国の二大勢力の争いと、一つの家族の在り様が。
アリスは、カイトと会わない時期でも調べていたのだろう。
貴族派の在り様を調べて、
その上で、アリスは一つの可能性にたどり着いたのか。
それでも、まだ詳細はわからない。カイトたちは見守るしかない。
アリスはアスベルを見据える。
「お母様もきっと……今のお父様の姿は望んでいません」
「黙れ。お前に何がわかる」
「私が二人の娘だからです。貴族も平民も関係ない。大切な人や家族のために、これから大切になる人たちのために、誠実である貴族でいたい。お母様も、きっとそう思っている」
「それは貴族ではない。持つべき権力で人々を導くのが、他ならぬ貴族の在り様だ」
どこまでも、アスベルは冷たい。アリスの母のことを引き合いに出されて動揺したが、既に冷徹な目線に戻っていた。
それでも、カイトもわかってきた。アリスの問いかけが是なのだとすれば、アスベルの行動原理は『貴族だから』ではない。『憎悪があるから』ということになる。
単なる貴族の質ではない問題の源泉が、そこにある。
「鉄道網の拡充は、貴族も平民も関係なく、すべてを壊した。力があるからこそ、それを止めねばならない」
アリスの語気が、強くなった。正面で、机に座ったまま、自分自身を睨むアスベルに、ひるまずに。
「では、今こうしてラマール州を混乱に陥れているこの現状は、その『すべてを壊している』と、どう違うのですか……!?」
「っ……」
この時間は、今までのアリスの行動が結実した瞬間でもある。この瞬間のために、アリスは意志を固くして動いてきた。
どうしたって、平静ではいられない。息も苦しくなる。手足は冷える。
それでも。
「私は……お父様が、どうしてここまで革新派を倒すために動くのかがわからなかった。だから、クロスベルにも行って、貴族のことを知ろうとしました」
アリスは、今もなお、陰謀を巡らせている父親を理解しようとすることを、諦めない。
「貴族が平民を導く。それはもちろん、帝国の伝統として正しいかもしれない。けれどそれだけで貴族派の今の行動を正当化する理由にはならない」
対して、アスベルは。
「だからお父様は──」
「やはりお前は……私とは違うようだな」
アリスの言葉を遮った。
「これ以上、重ねる言葉はない。だがお前がどうあっても私に従うつもりがないのはわかった」
「……私は、ただ」
「お前も、アルスも。すべてを奪った鉄血宰相を倒すための力の糧にもならない。だからこそ、私が動かなければならない」
アスベルの言い分が正しいと、そう考えるⅦ組ではない。アスベルには、アスベルの考える理由がある。それが分かっただけでも、少なくともカイトやアリスにとっては収穫だった。
そしてアリスにとって、アスベルがアリスの行動を理解すること。納得したわけでもない、今もなお、アスベルの態度は変わらない。
それでも、アスベルと会話をしたこと。それこそが、アリスとアスベルの関係にとってきっと、最大の進歩なのだ。
「お前たちもだ」
アスベルはカイトたちを見やった。
「娘と同様、お前たちも、今回の事件に私の関与を疑っているのだろう?」
カイトたちは沈黙を貫く。そして否定はしない。
「そんな証拠などない。動くなら、勝手にすればいい。娘やお前たちが今更動いたところで、私のすべきことは変わらない。鉄血宰相が止まらないのと同じように」
「……お父様」
「アリス。お前はお前で、勝手に動けばいい。だが、私の庇護を受けられるとは思うな。お前が自分の母のために動くつもりもないのなら」
話はこれで終わりだというように、アスベルは両手を叩く。領邦軍の兵士がやってきた。
カイトたちはアリスを見た。アリスも迷いのなくなった表情をしていた。後悔もない、今話すべきことは話した、というように。
カイトだけが、まだ少しだけ。カイト個人としてアスベルに言いたいことができてしまった。
「貴方は、それでいいんですか?」
「なに?」
「アリスが……貴方のためを思って動いたアリスが、ここまで言っているのに」
少し出しゃばったものいいだろうか。それでも、カイトは、先の自分の意志に矛盾しても、言葉を紡ぐことを止められない。
「鉄血宰相を倒す……その目的は、実の娘を遠ざける理由になるんですか?」
業を煮やしたように、アスベルは言う。
「ならば、お前は……鉄血に
カイトの脳裏に、蘇る光景があった。
炎に包まれたタワー。熱く、焦げた匂いが広がる。その中。燃える大扉を前にして、対峙する男。
たった一ヶ月前の、鈍い記憶。
──では、お前たちは……鉄血に
アスベルの問いかけが、ギデオンの縋るような投げかけと、重なった。
「……」
カイトは何も答えられなかった。ギデオンに問われたときと同じく。
その言葉に、強大な鉄血宰相を前に、どうすればいいのか。
「鉄血はすべてを滅ぼす。それを止められぬ貴様に……私の行動を諭すことはできん」
それが、この執務室で語られた、最後の言葉になった。
────
兵士に連れられて、アレスレード伯爵邸を後にする。
イステットの街並み。山岳の麓。吹く風が、少し冷たい。
その風を額に受けて、少しだけ身震いして、カイトは振り返った。
「……いいのか、アリス?」
目線の先にはⅦ組B班だけではく、アリスもいた。邸宅を辞する時、アリスが拘束されることはなかった。アスベルの言う「勝手にすればいい」とは文字通りだったらしい。
カイトの問いかけは、ユーシスたちB班の面々としても同じだ。あれだけ対話を求めていたはずのアリスは、けれど大した情報を引き出すことはできなかったようにも思える。実際、TMPが求めた情報というのはなかった。アスベルの態度が事実上の肯定だった、というのは収穫だろうが。
「いいんです」
アリスは笑っていた。
「私はずっと、お父様と話すこともできなかった。ずっと……私を見てくれなかった」
アルスのことにしてもそうだ。アスベルはアルスのことも、まったく歯牙にもかけなかった。
だから、クロスベル──本来はアルスを縛る鳥籠にこそ、アリスは魅力を感じてしまっていた。セシルをはじめとした看護師や、シズクというアルスの友達。
血縁もない人たちの愛情と、血縁である父親の空の愛情。矛盾したそれらを、一次は許容してしまった自分は、どう動けばいいのかわからなくなってしまったから。
だから、アリスは願い続けてしまっていた。どうすればいいのか、自分に答えを投げかけてくれる人を。
私を、見つけて。と。
「でも今日、初めて、私の我を通すことができた」
けれど気づいたら……がむしゃらに進んでいた。迷いのままに動いて、
そうして、少なからず父親の軌跡を辿って。いつしかアリスは、アスベルに精一杯の抵抗を示した。
「だから、私にとっては、何よりの収穫」
「……そっか」
カイトも笑った。
アスベルの所業は何一つ明らかにはなっていない。情報も少ない。
でも、アリスにとって何より価値のある時間だった。
カイトたちにとってはまだわからないこともある。アスベルとの対話の中で、予想でしか考えることのできないこともあった。
「えっと、その、皆さん。私の母のことは……」
「いいよ、アリス」
カイトはアリスの声を遮った。
「母さんのこと……確かにオレも知らなかったけど、それはアリス自身の問題だ。語れないことだってあるさ」
パルムの実習で、カイトは仲間たちに自分のことを話してほしいと語った。でも無理には聞きださなかった。「気の向いた時でいい」と。
アリスも、今までカイトにたくさんのことを話してくれた。とはいえアスベルも動揺を隠せていなかった以上、母親のことはアレスレード家全体の、しかも核心に迫る出来事なのだろう。
だから、無理には聞きださない。いつか、その時が来るまでは。
それはⅦ組の他の面々も同じだ。
「そこの眼鏡など、俺やクラスメイトが吐露するのに焦って、ようやく八月に性根を語ったくらいだからな」
「僕を引き合いにだすなっ! 君だって、カイトが曝露しなきゃわからなかっただろう!?」
と、いつもの喧嘩友達は放っておくとして。
「だから、アリス。ここから先はオレたちに任せてくれ」
カイトはアリスの肩に手を置く。アリスは非戦闘員だからこれ以上は危険だ。少しでも安心させたいと思った。
「カイトさん……うんっ」
イステットに来たのは、アリスを支えるためだ。それはTMPと協力して情報収集を図るため。
ミハイル少佐が望むような情報はなかっただろう。けれど、代わりにとっておきの言質を得た。
「さてみんな。準備はいいよな?」
カイトはB班の面々を見渡す。
「もちろんだ。兵器工場の争乱にTMP隊員の危機……アルゼイドの者として見過ごすわけにはいかぬ」
「ラウラじゃないが……僕も六月の実習で海上要塞のことは知ってる。無視できるわけがない」
ラウラが、マキアスが、毅然として。
「四大名門筆頭の領地。そこでの騒乱は必ず俺の故郷にも関わる。どうか、手伝わせてくれ」
ガイウスが、頼もしい笑みを浮かべて。
「ニシシ、僕は立場上危ういけど……ガーちゃんがいれば、動きやすくなるかもね?」
ミリアムは、こんな時でも遊びに出かけるような朗らかさだ。
「是非もない。アリス嬢の代わりに……貴族として、せめてお前を補佐してやる。カイト」
ユーシスは少し憮然として、そう答える。
アスベルが、事実上カイトたちの行動を黙認した。自分たちの実習責任者であるオーレリア将軍については少々怖いが、そんなことはどうでもいい。
貴族派と関りのあるテロリストたちが、TMP隊員を領邦軍の本拠地であるジュノー海上要塞に連れ去った。その理由も定かではないが、いずれにしても、確かめてしまうのが一番だ。TMP──革新派はジュノー海上要塞に乗り込むこともできないだろう。
昨日、オーレリア将軍はルーレに行くとも言っていた。今日ラマール州にはいないだろう。そしてカイエン公爵もいない。
その意味で、アスベル・A・アレスレードから行動を黙認された。それはこれ以上ないカードだ。
「アリス。お父さんとテロリストの暴走は、オレたちが止めてくる。だから、ミハイル少佐への連絡……そういったところは、任せた」
「わかった……カイトさん、皆さん。どうか、女神の加護を」
ジュノー海上要塞を攻略し、テロリストたちの暴走を止め、囚われたTMP隊員を解放する。正規軍と領邦軍の衝突ができないこの状況で、第三の立場である自分たちが動くことで、訪れてしまうかもしれない鋼鉄の咆哮を止めて見せる。
立場も不明瞭、踏み入れるのは内戦という地雷を踏んでしまうかもしれない、冥府の入り口。
九月、特別実習。半年間の総決算。
ガレリア要塞攻略、オルキスタワー解放。それらにも劣らない、最大限の高難度ミッションが始まる。
次回、オルディス実習の最終盤。
77話 solid as the Rock of JUNO