心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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77話 solid as the Rock of JUNO①

 

 

 ジュノー海上要塞への潜入は、ある意味でⅦ組始まって以来の最高難易度のミッションだった。

 攻略という意味ではガレリア要塞が、防衛や解放という意味ではオルキスタワーが、Ⅶ組の中でかなりの危機を伴う体験だったのは疑いようがない。

 どちらにしても、あるいはノルドや帝都といった多数の事件でも、ある程度は行動を許容してくれる最終的な後ろ盾があった。

 今回、実行犯であるテロリストは明らかに混乱を起こしている。軍人ではあるが、命の危機に晒されているTMP隊員もいる。それらを救うという結果的な善意はある。

 けれど、潜入場所は領邦軍の本拠地であるジュノー海上要塞だ。カイエン公爵、オーレリア将軍という貴族派の重鎮が席を外していて、TMP隊員であるミハイル少佐へは、アリスがアスベルとの対話の事後報告をしている。

 そして、貴族派の暫定的な意思決定権を持つアスベルから事実上の黙認を得た。たったこれだけの、許容ともいえない、責任の置き所がないだけの結果的な後ろ盾。もはや盾ともいえない。

 その中で、部外者である自分たちⅦ組が個人的な平和のためだけに潜入する。それはあまりにも脆弱な足場だった。

 だが、起きている問題を前にして、起きてしまうかもしれない内戦を前にして、ただ座して見ていることなんてできるはずがない。

 だからこそ、自分たちは動くのだ。

 ただ、ひたすらに前へ。

 激動の時代を前に、壁から目を背けずに、乗り越えるために。

「……よし、行くぞ」

 カイトたちは()()にいた。

 イステットを後にしたカイトたちは、オルディスへと戻った。そして実習課題で縁のできた宿酒場の女店主の協力を取り付け、ボートを手配した。あとは単純だ。ボートでオルディスから北東へ進み、崖際を進んで人目につかないよう、ジュノー海上要塞へ近づく。

 ジュノー海上要塞へ正規の方法で入るには、陸路で自然が形成した要塞への橋を渡るしかないが、そこにはTMP関係者、マスコミ、領邦軍関係者がいる。その人混みを突っ切ることはまず不可能。

 そして、今海上要塞を占拠しているのはテロリストだ。海上を見張る眼も薄いだろうという判断だ。

 海上でミリアムがアガートラムを呼び出し、Ⅶ組B班の六人を順々に運んでいった。

 全員が屋外の通路に侵入する頃には、既にテロリストの尖兵が。

「──結社の人形兵器! みんな、迎撃するぞ!」

『おう!』

 ファランクス、ゼフィランサス、バランシングクラウン、それらの大型の人形兵器が容赦なくカイトたちに襲い掛かる。

 それでも、何度人形兵器と戦ってきたか。何度死線を潜り抜けてきたか。

 ガイウスが槍を振るい、穂先が適格に継ぎ目を穿つ。ラウラの大剣が頭部を斬り飛ばす。ユーシスの魔法が人形兵器の動きを鈍重にさせ、そこにマキアスが放った散弾が確実にダメージを与えた。ミリアムがアガートラムを変形させた大槌で大地を震わせ、動けなくなった人形兵器をカイトの十字衝撃洸(エクスクルセイド)が余さず溶かし、破壊していく。

 息を吐いて、カイトは口を開いた。

「オルキスタワーでも人形兵器はいた。確か、ガレリア要塞でもそうだったんだよな?」

 ラウラが肯定した。

「ああ。要塞内の至るところにだ」

 同日に起こった二つの事件は、どちらもテロリストの陰謀があった。

 今回もだ。結社が協力しているのか、それとも単に兵器供給の目的でしかないのかはわからないが。

 すべての人形兵器を無力化する時間はない。

「ミリアム、この要塞を攻略する方法……有益な情報はあるか?」

「うん、情報局から聞いたことだけどね──」

 このジュノー海上要塞は、ラマール州における領邦軍最大の拠点だ。当然内部は恐ろしく広く、そして複雑な作りをしている。

 海上要塞には天守閣がある。その天守閣を抑えることができれば、事実上この要塞を攻略した、とは言える。

 天守閣へ到達するには、主攻と副攻の二手に分かれて攻略する必要がある。

 だが、重要なことがある。

「ここまでの情報は、あくまで『天守閣を抑えるなら』のハナシだよ」

 拉致・拘束されたTMP隊員が天守閣にいないなら、前提は崩れる。

 カイトたちの目的の第一目標はTMP隊員の救出だ。テロリストがラマール州で暴走している現状を見過ごすことはできないが、少なくともTMP隊員を救出すれば貴族派と革新派の一触即発の状況は収まる。

 オルキスタワーを攻略したテロリストは、まず最初に屋上から乗り込んだ。最も乗り込みやすいからだ。同じことをされる可能性を考えているだろう。空ではないが、自分たちも海上から乗り込んだのだ。

 なら、TMP隊員はどこに捕らわれているのか。

 ガイウスとマキアスが沈黙する。二人からすればまるっきりわからないことだろう。貴族であるユーシスとラウラとて条件は同じだ。東部クロイツェン州の二人が、西部ラマール州の情報を知るわけがない。

 幸いなのはミリアムがいるから、主攻ルート・副攻ルート関係なく通路を移動できることか。しらみつぶしに探すしかない。

 そう覚悟を決めかけた時、カイトのARCUSから通信音が鳴る。

 周囲を警戒しつつ、全員で耳を澄ませた。

「──はい。カイト・レグメントです」

『昨日ぶりか。オーレリア・ルグィンだ』

 全員、度肝を抜かれた。

 ジョルジュやトワでもなく、ミハイル少佐でもなく、この海上要塞の主とは。

『代表としてそなたにかけさせてもらった。どうだ? 我が海上要塞に侵入してみせた気分は』

「……どう考えても、あまりいい気分じゃないのは確かです」

 カイトの横からユーシスが顔を出した。

「それよりも将軍。私たちの行動を予測していたのですか?」

『さてな。だが特科クラスⅦ組の活躍は耳にしていた。そして、実際にそなたらの眼を見た。海上要塞にどうにかして乗り込む……そんな姿は容易に視えたものでな』

 恐ろしい将軍だった。実際に対面して、達人レベルの実力者であったことは理解した。それこそカシウスにも並ぶのではないかと、リベール出身のカイトが考えてしまうくらいには。

 そして、それほど理に達している人物というのは、どこまでも先を見据える眼を持っている。

「将軍……貴女は今、どちらから通信をしているんですか?」

『我々にも守秘すべきものはある。まあ、昨日の私の言が嘘ではない、とは伝えておこう』

 オーレリア将軍は続ける。

『さて……正直なところ、私は特にそなたらを止めようとは思わない』

「そう、なんですか?」

『言ったであろう、昨日の言は嘘ではないと。そなたらに興味を持っているからな』

 一応はオーレリア将軍の眼鏡にかなったということか。

『だが、これだけは問うておこうか。()()()()()()()()と。理解できなかったか?』

 全員が押し黙った。

 オーレリア将軍。アスベルの上に立てる権力者。彼女がカイトたちに待ったをかけるのであれば、事実上の許容も霞に消えてしまう。

 返すべき言葉はたくさんあった。一人一人が、それぞれの立場から答えられる。遊牧の民として。貴族として。剣士として。情報局として。平民として。

 それでも五人は、ただ一人を待った。

「……確かに、オレたちはただの学生です。貴族派と革新派のいざこざに首を突っ込む権限もなけりゃ、大した力もない」

 そして、カイトは。遊撃士ではなく、ましてや特科クラスⅦ組の一人でもなく。

「でも、オーレリア将軍。オレたちは、正々堂々アンタの言葉を跳ね返してやる」

『ほう?』

 ただ一人の人間として、言葉を返す。

「目の前に混乱があって、命がかかっている人がいて」

 ラマール州の騒乱。天秤にかけられたTMP隊員。

「オレたちを頼って、願ってくれた人がいる」

 アリス・A・アレスレード。

「なのに……! 貴族派だの革新派だの!」

 カイトは、後のことも何も考えず、ただただ、怒りのままに叫んだ。

「わけのわからない事情なんかで、人を支えることを諦めてたまるかーっ!!」

 周囲のことなど考えない、声も裏返るくらい大絶叫。酸欠になったカイトは、呼吸を荒げている。

 そこにラウラとユーシスが割って入った。

「将軍、申し訳ありません。お叱りは後日受けます故」

「これが俺たちなりの貴族の道です。どうか、見定めてもらえると」

 二人にしても、カイトの意見と同じだ。ただ、口にする言葉が違うだけで。

 わずかな沈黙の後、オーレリア将軍の短い吐息が聞こえた。

『ならば何も言うまい』

 そして。

『拘束者を抑えるならば、司令室などいくつか適した部屋がある。白兎の傀儡も利用して、見事そなたらの本懐を遂げてみるがよい』

 

 

────

 

 

 カイトたちはオーレリア将軍が教えてくれたいくつかのポイントを順々に巡っていった。

 仮にも要塞を管理する主が示した場所だ。攻略する立場からの助言は信頼するに余りある。そしてある程度の道順も示してくれた。

 道中、領邦軍兵士はただの一人もいなかった。偶然なのか、それともこの事態を予見していたのか。いったいどこに真実があるのかはわからないが、領邦軍は襲撃を受けた時点で地上一階まで後退させられていたらしい。カイトたちが潜入した地点は三階層だ。

 司令室、救護室、兵舎──それらを順調に捜索していく。

 通路や大扉など要所をテロリストが護っているということもなく、全て徘徊しているのは人形兵器、そしてガザックドーベンなどの軍用魔獣。カイトたち全員が少なからず相手取ってきた敵たちだ。

 もちろん簡単に踏破できたわけではない。要塞は素直に侵入者を通してくれるわけではなく、通路の地形そのものがカイトたちを苦しめもした。

 それでも、カイトたちはたどり着いた。オーレリア将軍が提示したいくつかの心当たり、その最後の場所に。

 カイトたちは昨日ジュノー海上要塞を訪れた。その時は正面から招かれ、そして最初に目にすることとなる大演習場──吹き抜けとなっており、屋外ともつながっていた。

 今、カイトたちが入ったのは要塞内の第二演習場。大演習場とは異なり室内で、しかし強化ガラスに守られ戦闘をするに申し分ない広さ。近くには緊急の救護室もある。少なくとも、大演習場とは異なり戦車や装甲車の運用は想定されていない部屋だ。

 そこにいたのは。テロリスト帝国解放戦線。

 帝都で、ガレリア要塞で見たメットを被ったテロリストたちもいる。数にして十名。

 それだけではない。

「あらあら、よく会うわね坊やたち」

「ルーレとオルディス。確率は五分と五分だった。それでも、また会ってしまうんだな、少年」

 悠然と流れる赤髪、眼帯。妖艶な女性。法剣を構えた、同志S。

 ポニーテールの金髪、赤い瞳。落ち着いた空気の女性。身の丈ほどの大剣を構えた、同志L──レイラ・リゼアート。

 対峙した特科クラスⅦ組B班。カイトは先頭に立ち、その後ろに仲間たちが続く。

 マキアスが憎々しげに唸った。

「幹部クラスはあんたたち二人か。なら、CとVは……」

「あら、さすがにわかっちゃうかしら?」

 Sは妖艶に笑う。あくまで女性としての立ち振る舞いであって、テロリストのような残忍なそれではない。

 それでも、数々の非道を見てきた。故郷を焼かれかけたガイウスは槍を構え、彼らしからぬ怒気を発する。

「ルーレにはA班がいる。お前たちの謀は何度でも砕かせてもらう」

「なるほど……やっぱり私たちと貴方たちには面白い縁があるのね」

 クロスベルとガレリア要塞も、形は違えど二正面作戦となり、そこにそれぞれⅦ組が立ちはだかった。それの焼き増しだと思うと、確かに笑い事ではあるかもしれない。

 だが、笑っていられるわけがない。

 ルーレでも動乱が発生し、ザクセン鉄鉱山の鉱員が危険にさらされている。オルディスでは兵器工場が襲撃され、そしてTMP隊員の命もまた、やはり帝国解放戦線が握っている。

 笑えるわけがない。

 ラウラが大剣を振るう。威嚇であり、ラウラの精神集中の癖でもある。

「ルーレとオルディスでのTMPの二正面作戦。そして帝国解放戦線の反抗作戦というわけか」

「それもご明察。ふふ、もう仔猫なんて呼べないくらいには小賢しいじゃないの」

 Sは好戦的に笑った。

「そこの三人とは一カ月ぶりね」

 Sが眼で捉えたのはラウラ、ミリアム、マキアスだ。ガイウスとユーシスの二人とは初対面。そしてカイトとは二回目だが。

 Sの視線がカイトを捉える。

「貴方とは、ほとんど初めて。やっぱりその小賢しさが貴方の肝なのかしら?」

 カイトの纏う空気感は、もういつもの気さくで呑気なものとは隔絶されている。覚悟、怒りや焦燥。けれどそれらを内に押し込めて、カイトは冷静に口を開いた。

「……どうしてそう思うんだ、アンタは」

「Gに、Cに、V……自然公園、ケルディック、ノルド……色々なところで貴方のことを聞いたから。厄介な存在だってね」

「いやな評価だ」

「ま、小賢しいからと言って、貴方のクラスメイトを乏しめるつもりはないの。薙ぎ払う対象になったこと……どうか、恨まないでちょうだいね?」

 カイトは即座に返した。

「アンタがしてきたのは()()だろう」

 Sの片眼がわずかに細く。それはカイトの言葉に、彼女の根幹に触れる何かがあったからだ。

 カイトは意識的に《祈り》という言葉を使った。今、レイラという存在を前にして、カイトは幾ばくかの遊び心もない。

「七耀教会、星杯騎士団。正騎士か従騎士か、どっちかなんじゃないか?」

 マキアスが驚く。Sと対面した彼にとっては、やはり驚くべきことでもある。

「カイト、わかるのか? それに星杯騎士団って」

「ミリアムなんかはわかるんじゃない? 帝国の情報網で」

「ニシシ、もちろん。七耀教会の隠密部隊で、古代遺物(アーティファクト)の管理に関わる組織だよね」

 ミリアムはそこまでのようだ。あくまで知識としてだけで、教会とSを結びつける鍵はなかった。

 カイトにはその鍵がある。それは別に突飛なものではない。ただ知っていただけだ。

「二人。守護騎士と従騎士を知ってる。アンタは法剣(テンプルソード)を使ってる。当然でしょ?」

「なるほど」

 Sはレイラに向き直った。

「貴女の言う通りね、茶髪の坊やはあらゆる世界に精通している。危険だわ」

「世界にとっては、頼もしいことだよ」

「レイラさん」

 カイトは、Lとは言わない。言えない。

 そんな少年の機微なんて知らないのか、知ったことではないのか。Lは続ける。

「少年、いや特科クラスⅦ組。君たちが私たちの前に現れる理由。TMP隊員の解放で間違いないね」

「当然だ」

 カイトを差し置いて、ユーシスは言い放った。

「貴族も平民も、立場など関係ない。無為に同胞に刃を向ける──そんな愚か者を止めるだけに過ぎん」

「ああ、ユーシスの言う通りだ」

 そして、マキアスは散弾を装填した。いつでも、その時に引き金を引けるよう。

「レイラさん──僕たちは貴方に恩がある。それを正しい形で返させてもらいます」

「それでいい。成長したね、誰もかもが。四月とは大違いだ」

 各々が、獲物を構える。どうあがいても衝突は免れない。

 まだ、一人だけ。その双銃を構えることができていない。

「レイラさん」

「少年。ここはもう戦場だ。それがわからない君でもないだろう」

 双銃を、構えずとも握り続けている。

 手が震える。力なく笑う。

「わかってます。それでも武器を構えられない理由がある──それがわからない貴女じゃないでしょう……?」

「少年……」

 沈黙。

 長い沈黙、早く事態の進行を望む、そんな誰かが業を煮やして口を開きかけた。

 それを防いだカイトの言葉。

 

『私は死にたくはない。だが宰相を倒すためには、死を厭うわけにはいかない』

 

 カイトの声色は、仲間たちの口をつぐませるには十分だった。

 

『怪物になるのは私だけでいい。願わくば同志が償う道を見つけてほしい』

 

 その言葉は、同志たちの意志を揺らすには十分だった。

「Gが──ギデオンが、オレに言ったことだ」

 通商会議に向かった帝国解放戦線のメンバーは、例外なく《赤い星座》によって女神送りとなった。

 怪物となった人間の想いを知っているのは、もうカイトだけ。

「貴女たちは確かにテロリストだ。けど理解できない狂人なんかじゃない。当然だよな、血みどろの争いになるのは血が通ってる人間だからだ」

 カイトは続ける。不自然なくらい、戦場はまだ静かなままだ。

「『この血みどろの道に、同志を巻き込みたくはなかった』──これも、ギデオンが言ってたことだ」

 Sとレイラ。持っていた刃の切っ先が、虚空を震わせる。

「ほんと……堅物だったのね、Gは」

「ああ……そうだね」

「ギデオンのやり方は間違ってた。でも気持ちは本当だったと思う」

 テロリストでさえ、仲間を想う心がある。

「それを聞いて──どう思うんだよ!?」

 叫んだ。ありったけの気持ちを込めて。

 ほとんど間を置かずに返したのは、Sだった。

「変わらないわ、何も」

 法剣が、またⅦ組に向けられる。震えのままに。震えに熱を変えて。

「悲しい。辛い。その気持ちは確かにある。当然よね。私たちは人だから恨むの。後悔も、怒りも、仲間の想いも、何もかもがあの怪物を倒す糧になる」

 Sの言葉に迷いはない。

「……S」

 カイトが語る。

「私たちを巻き込みたくない、か。そうよ、私たちは巻き込まれないために戦うの」

「……S!」

 カイトが叫んだ。Sは言葉を止めず──剣を。

「きっとわかってくれるわ、Gも。だって、私たちの誰もが、Gと()()なんだから……!」

 剣を、振りかざした。炎をまき散らして。

 突然の開戦。広がった炎は大きくうねり、大蛇のようにカイトたちへ向かう。

 散開を余儀なくされたⅦ組B班。カイトを除いた全員が、瞬時に戦闘行動へ移ることができた。

 Sの初撃に続こうとしたテロリストメンバーをマキアスが散弾で牽制した。ガイウスは散らばる炎を槍を振り回して起こす風によって吹き飛ばす。迫ってきたSをミリアムの掛け声と共にアガートラムの殴打が迎え撃ち、そこにラウラが追撃を仕掛ける。

「カイト!」

 叫び、ユーシスはSのように突貫した。振るった騎士剣の先には、レイラの深緑の大剣。

 しかしレイラは、ユーシスの決して遅くない挙動をその大剣をもって防いだ。そしてすぐさま斬り結びから反転して攻勢にでる。

 ユーシスだけでは拮抗できない。カイトは遅れて銃を掲げ、弾丸をレイラに撃ち込みながらユーシスを守るように、レイラを遠ざけるように大剣を蹴り飛ばした。

 Sとラウラ、ミリアムの攻防も止まり、拮抗する。

 そんな中、Sは笑った。

「ありがとう、坊や。Gの最期を教えてくれて。これからも、私たちにはGの意志が生きていく」

 ガイウスが消すことができなかった、戦場の端々の残り火が揺らめく。

「さあ始めましょう、特科クラスⅦ組。お互いの目的のために。迷いなく……ね」

 Sの眼前には、ラウラとミリアム。

 射程の長いガイウス、そして散弾銃を持つマキアス。二人は、テロリストを前に身構える。

 そしてユーシスは。

 カイトは。

「……レイラさん!」

「まだ聞きたいことがある……そんな顔だ」

 ユーシスと同じく、カイトも戦闘態勢に入った。どれだけ心が乱れても、少年を形成してきた数々の戦いは、カイトを一流の強者へと成長させていた。

 心の揺らぎを隠さずに、それでも体が動くほどに。

「けど、説得は無駄だ。Sと同じく、私も覚悟を決めている。語れるのは迷いではなく決意だけ」

「このっ、分からず屋……」

 小さな、誰にも聞かれないカイトの呟き。

「私の決意を聞きたいなら、君にも見せて欲しい。私が捨てた支える篭手の、可能性を」

「どいつもこいつも……このっ、分からず屋ぁぁ!!」

 レイラが、ユーシスが、剣を構える。

 カイトの周りに。かつてないほど吹きすさぶように、黄金の波がほとばしった。

 

 

 

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