心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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78話 小旅行~温泉郷へ~②

 

 

 Ⅶ組全員と先輩たちを加えたユミルへの小旅行は、まだまだ始まったばかりだ。

 学院祭のステージ構成の説明も完了した。この後は夕食まで自由行動となる。

 一気にステージのメインに躍り出てしまったマキアスやエマは、ちょっと疲れた表情でロビーを後にした。それぞれの部屋で休憩するのだろう。もったいないとは思うが、同情もする。アリサはエマをなだめていた。他のメンバーもユミルを訪れたのは初めてで、ガイウスやラウラはさっそく観光をしに鳳翼館を後にした。

 カイトはなんとなくリィンに声をかけた。

「リィン、この後はどうするの?」

「そうだなぁ……エリゼと約束したし、実家にちょっと顔出してみようかな」

「だよね。リィンは家に帰ってもらわないと困る」

「え?」

「だって、オレがリベールに帰郷したのもリィンたちが勧めてくれたからだよ? それなのに自分は行かないなんて、ちょっと卑怯じゃないか?」

「あー……」

 リィンは頭をかいた。自信がないリィンのこと、実家に帰ることに引け目もあったのだろうけど、カイトは許さない。

 エリオットとクロウもリィンの背中を押した。

「ちょっとなんて言わないで、ゆっくりしてきなよ。半年ぶりなんでしょ?」

「遠慮すんなよ、リィン」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 リィンは鳳翼館を後にした。

 ロビーに残ったのはカイト、クロウ、エリオットだけになる。

「……みんな、なんとか納得してくれたね」

「ちょっとは揉めると思ったけど」

「揉めさせるかよ。人生に一回の学院祭ステージだぞ? 俺が絶対に納得させてやるよ」

「クロウは二回目だよね? 学院祭ステージ」

 カイトはやれやれと肩をすくめた。クロウは正真正銘のお調子者だ。

「ともかく、後は学院祭までひたすら練習だね。クロウ、機材の準備はお願いね」

「おうよ。お前も、演奏指導は頼むぜ?」

「もちろん。()()()みんなを上達させるから」

「お、お手柔らかにね、エリオット」

 クロウが指を鳴らす。

「演目は二曲。だが、注目をかっさらうならアンコールの準備も必要だ」

「アンコール?」

 カイトは首をかしげる。さすがにエリオットはわかっていた。盛り上がったステージにおいて、観客側が『もっと演奏を!』と息をそろえ、奏者がそれに応えて追加の演奏を行う、一種の様式美。

「いや、ただでさえ初心者の集まりなのに」

「まあ……まずは演奏をそろえるまでみんなに慣れてもらいたいからね。アンコール対策は二の次かな」

「ああ? 何言ってんだ。青春だろ? 枠にはまってないで、一点賭けするのが面白いんじゃねぇかよ」

 クロウはにやりと得意顔になった。自信満々なクロウに、カイトとエリオットは口をそろえて笑った。

 

『はは、クロウも冗談が好きだね』

 

 

────

 

 

 カイトはエリオットたちとの談笑もそこそこに、ユミルの散策を始めた。

 準遊撃士時代も訪れたことのない、アイゼンガルド連峰の中腹。

 標高は高く、自覚できるほどではないが酸素も薄いのだろう。空気は澄んでいて、秋口でも肌寒い。

 まずはケーブルカーの辺りに向かう。

 特別実習で巡ったのは、都市にせよ田舎町にせよ人の営みがあるところだった。もちろんユミルも人里だが……ノルドを除けば今までで一番自然を感じる。

「地理的には……向こうは南だから帝都あたりか。斜め後ろ、東にはノルド高原」

 子供みたいに体を回転させて、指で示す。山の向こう、遠く空の下の世界を想像する。

「……北東にはレミフェリア公国。北西にはノーザンブリア自治州……それにジュライ特区」

 景色は見た。歩きながら独りごちる。ここ最近は情勢も相まって、クロスベル以外の帝国の外に意識を向けることがなかったように思う。

 考えたくないことだが帝国では内戦の可能性が加速的に高まっているし、そうなれば影響は帝国内にとどまらない。いつかユーシスも言っていたことだ。

 自分は大陸南西の田舎国出身で、そこから飛び出して世界の実情を知り始めたばかり。帝国の端に来て、久々に国境線の外側を想像した。

 特に、帝国の北に存在するノーザンブリア自治州。レーヴェから《塩の杭》の話や、あの《白面》の出身地でもあるという話を聞いた。そしてリベールから飛び出した頃合いで、大陸で最も貧しい地帯であることも知った。大陸最大規模の猟兵団《北の猟兵》の本拠地であることも。

 国がそのまま猟兵を抱えている以上、理由もなしに遊撃士がノーザンブリア入りするのも問題だ。仮に入国する必要や理由ができたとして、誰かノーザンブリアに関わりのある伝手でもあればいいのだが。

「カイトくーん!」

 ふと、声のした方へ振り向く。ケーブルカーから降りた時も見えた足湯スペースだ。トワが可愛らしく手を振っていた。ジョルジュ、アンゼリカも一緒だった。

「先輩方。足湯ですか?」

 カイトは三人に近づいた。思い思いにくつろいでいる三人。クロウはいないが、先輩たちはどこでも変わらないらしい。

「うんっ。癖になるよね」

「私としては……もう、この状況がまさに癖に刺さるというものさ」

「アンゼリカ先輩もぶれないですね……」

 女好き、特にトワを異常に愛しているアンゼリカ。この状況というのは、トワと一緒に足湯に浸かっていることだろう。ジョルジュも一緒なのはカウントしなくていいのだろうか。

 カイトも靴を脱いでスラックスの裾をたくし上げた。ためらいもなく足を湯につける。素肌に心地よい暖かさ。

「ふぅ……染みる」

「君はユミルには来たことがあるのかい?」

 アンゼリカが聞いてきた。足湯への反応からそう感じたのだろう。

「いや、初めてです。でもリベールにも温泉の村があったので」

「馴染み深いと? なるほど」

「私は家族に東方のルーツがあるし、まったく異文化って感じはしないな」

「そっか。温泉って東方でも盛んですもんね」

 リィンの八葉一刀流も東方剣術。その開祖ユン・カーファイも東方の人物だと聞く。温泉郷のユミルに東方文化が馴染むのも必然だったのかもしれない。

 ジョルジュも足湯でくつろいでいるのは同じだが、鳳翼館でも売っていたらしい小豆の饅頭を食べていた。体格からくる予想を裏切らない。満足気に口に運びながらにこやかでいるのは微笑ましい。

「この間のルーレはともかく、本格的にトリスタの外に出たのは久しぶりだよ。だから僕たちも楽しめてる」

「先輩たちって……クロウも含めてARCUSの試験運用をしたんですよね?」

「ARCUSはもちろん、Ⅶ組の枠組みすら私たちの試験運用の範囲だったかもしれないね」

 クロウを含めた先輩たち四人は、正真正銘Ⅶ組の先達なのだ。

 ユミルの静寂。Ⅶ組は視界にちらほらといるが、静かで湯の湧き出る音だけが響く。

 カイトは頭を下げた。

「三人とも……本当にありがとうございました」

「カイト君、突然どうしたの?」

 カイトは頬をかいた。三人とも後輩のいきなりの態度に目を瞬かせている。

「ルーレでリィンたちを助けてくれて。B班も情報があったから事件の概要を把握しながら動くことができました」

「気にすることはないよ。私にとっては、親父殿や領邦軍が起こした不始末だ。自分でケリをつけるのは当たり前だろう?」

「私は学院でみんなの情報をまとめただけだけど……役に立ったのなら、よかったよ」

「僕も右に同じく。それにカイト君たちB班は、あのオルディスの微妙な情勢の中でよくやってくれたと思うよ」

 ジョルジュが言った。確かに、B班はほとんど後ろ盾のない中での活動だった。オーレリア将軍、アレスレード伯爵はもちろんカイエン公爵にさえⅦ組の存在は明確に記憶されることになっただろう。実際最後にはジュノー海上要塞の中で拘束もされた。

 だからこそ、カイトたちの後ろで方向性を示してくれたトワやジョルジュには感謝したいと思っている。もちろん、アンゼリカも。

 アンゼリカが浸かっている両脚を揺らした。湯面に波紋。彼女にしては珍しい仕草だと思った。

「私はリィン君やアリサ君たちと一緒に戦えた。せめて、先輩として背中を見せることができたからね。悔いはないよ」

「どうしたんですか? 先輩。今生の別れみたいに」

 そんな風に笑った。けれど、カイトの笑顔に続く笑い声はなくて。

 見ると、トワも、ジョルジュも、口をつぐんでいる。無表情。それがむしろ、嫌な寂しさを感じさせた。

 水の音がうるさかった。

 アンゼリカは肩をすくめていた。

「まあ、少なくともこんなに顔を合わせることもなくなるからね」

 冗談ではないらしい。少し考えて、理解した。

「先輩、もしかして学院を……」

「さすが、察しがいい。親子喧嘩のようなものさ。ザクセン鉄鉱山で私が出しゃばったのが気に食わなかったようだ」

 事実上の退学扱い。それが今のアンゼリカの処遇。四大名門の息女であるにも関わらず貴族派の利に逆らうような行動を取り、あまつさえそれがあそこまでの大ごとになったから。

 天衣無縫、自由奔放に過ごしているアンゼリカ・ログナーが、親の意向に逆らえずに学院を去る。改めて、今の貴族派というものの力と醜悪さを思い知らされる。

 退学扱いというのは、ヴァンダイク学院長が休学となるよう取り計らってくれたということだ。結局、今いる同級生や後輩たちと別れることに変わりはない。

「アンゼリカ先輩」

「私たちの試験運用を基に立ち上げられたⅦ組。君たちには、直接話しておきたかった。特に君やリィン君には、導力バイクの件でも色々と良い時間を過ごしたから」

 アンゼリカは、既にⅦ組のほとんどの人間に話しているのだという。まだ話していないのはリィンだけだ、とも。

 アンゼリカとの別れ。寂しいものがある。

 そして不思議な気分だった。あれだけ嫌っていた帝国に来て、初めて誰かとの別れを経験する。そこには清々した気持ちなんてどこにもなくて、ただ、寂しさがある。

 帝国の内と外。貴族と平民。違うものばかりの自分とアンゼリカが、寂しいと思えるまでの関係になった。

(感謝しなきゃな。いろんなことに)

 カイトは立ち上がった。アンゼリカの隣に座り直す。

 右手を差し出した。間髪入れずに握り返される。

「困ったことがあったらいつでも頼ってください。大陸のどこにいたって、助けに行きます」

「ありがとう、カイト君」

 

 

────

 

 

 先輩たちと別れて、ユミルの散策を続ける。

 ふと立ち止まったのは、シュバルツァー男爵邸の前だ。緩やかな傾斜、小高い丘の上にある領主の屋敷。カイトが直近で見たことがあるのがカイエン公爵の城館であるのも相まって、一層庶民的に感じる。木造であるためか、リベールの旧市長邸よりも控えめに感じた。

「リィンはここで育ったんだよな」

 リィンがいて、エリゼがいて、そして両親がいる。

 町並みを見て、鳳翼館スタッフや町人とも少し話したが、誰もが朗らかで、そしてリィンを必要以上に立てることがなかった。貴族でありながら、それでいて平民としての在り方も理解できる。そんなリィンの気質が醸成されたのは、間違いなくこの故郷あってこそなのだろう。

 今頃は家族団らんができているだろうか。リィンは変わらずに何かを悩んでいたようで、ここで少しでも払拭できればいいと、リベールで世話を焼いた身として思う。

 リィンの両親にも挨拶はしたかったが、割り込むのも気が引けるので門戸を叩くつもりはない。

 その代わり。少し考えた。

「リィンの両親は、どこまで知ってるんだろう」

 リィンの出生のことだ。

 リィンは五歳の頃以前の記憶を失っている。吹雪の中、ユミル近郊でテオ・シュバルツァー男爵に拾われてからの記憶がリィンの全てだ。

 以降、発覚した自分の中の異形の力。それを恐れて、防ぐために学び始めた八葉。自分を見つけるために来たトールズ。リィンは見えない何かに振り回されながら今を生きている。

「……記憶がなくて、義理の家族と一緒にいる、か」

 カイトは自分のことを考えた。実の両親の記憶はあるが、血の繋がらない家族がいて、本当の家族のルーツを知らない。異形の力なんて持っていないが、リィンと自分をどこか重ねて共感はしている。けれど自分は、過去に振り回されてはいないと思う。良くも悪くも。

 良くも悪くもだ。リィンの心境や境遇にレッテルを吐くことはできない。

「せめて……オレみたいに」

 血の繋がらない家族や大切な仲間ができて、それを守るために一生懸命になれる。リィンのそんな存在になれたらいいと思う。

 なんて黄昏ていたところで、シュバルツァー男爵邸の扉が開いた。

「あら……カイトさん?」

 エリゼがやって来た。自然お互いに近づいた。

「エリゼちゃん、案内ありがとうね。助かったよ」

「シュバルツァー男爵家の娘として当然のことです」

 相変わらず、少女の身に無駄のない礼節を携えている。

「私のほうこそ、兄共々良くしていただいております」

「そんな。リィンは仲間だし、その妹さんだしね。良くもするよ。リィンはまだ実家?」

「はい。久しぶりの帰省だというのに、すぐに戻ろうとする兄ですから」

「はは、そりゃだめだ。せっかくオレが忠告しておいたのに」

「ええ、本当に」

 エリゼとは、なんだかんだで個人的に話すことも多かった。共通点もあって、割合気楽に笑い合うことができる。

「兄から聞きました。Ⅶ組の皆さんは、学院祭でステージに立つとか」

「聞いた? うん、詳細は言えないけどね。もしかして……」

「はい。私も学院祭にはお邪魔しようかと」

 言葉遣いこそ淑女のままだが、表情は純粋に家族の晴れの日を楽しみにしている少女だ。それに、リィンへの感情も考えれば本当に嬉しいのだろう。カイトも自然嬉しくなる。

 そして、エリゼがはっとしてくる。

「そういえば、アリス先輩がカイトさんのことを話していましたよ」

「アリスが? そっか、ちゃんと女学院に戻れたんだ」

 ルーレではアンゼリカが父親と大喧嘩をしたというが、オルディス側でそんな動きをしたのはアリスに他ならない。

 オルディスの騒動の時、アレスレード伯爵は最終的にアリスへの強制を諦めたような態度だった。少なくともカイトにはそう見えた。

 怒りのあまり学院を退学させたログナー侯爵。正面切って話に来た娘を突き放したアレスレード伯爵。似ているようで、対極なような。

 ただ、少なくともアリスがいたかった場所に戻れた。それだけは、喜んでいいのだろう。

「学院祭の時は、アリス先輩とも一緒に行きます」

「そっか。楽しみにしててって、伝えてくれ」

 

 

────

 

 

 その後もカイトは、所々で出会う仲間たちと談笑しつつ観光を続けた。

 初めての場所で、いつものように実習や、あるいは遊撃士としての依頼ではない。純粋な小旅行としての散策。動く度に、歩く度に、話すたびに、カイトは日々の緊張感が晴れていくのを感じた。

 そして、ユミルで一番の楽しみといっても過言ではないのが、温泉だ。

「はぁー……」

 夕方。まだ全員集合の夕食前の時間を使って、カイトは仲間たちに先んじて温泉をいただいた。

 トリスタの第三学生寮やクロスベル旧市街の下宿先に浴槽はなかった。カイトにとっては本当に久しぶりに浸かることになる湯舟だ。

 何といっても一番の魅力は露天風呂。エルモ村にもあったが、ユミルでもその魅力は変わらない。散策で気分が晴れ、そして湯につかれば体が溶けていく。常に暖かさが周囲を揺蕩う。体が文字通りに軽い。

 極楽そのものだ。

 しばらく心地よさに浸っていると、後ろから石畳を歩く素足の音が聞こえた。

「はは、楽しんでるなぁカイト」

 隣に座ってきたのはリィンだ。

「お先にいただいてるよ」

「ああ、存分に楽しんでくれ。ユミルはどうかな」

「なんというか……リィンの故郷だなって感じがする」

 仲間同士、学院でも第三学生寮でもたわいもない話をすることはいくらでもある。授業のこと、天気のこと、明日のこと。

 今日はいつも以上にゆっくりだ。のぼせそうになるくらいに、ゆっくり話した。

「ご両親とは話せたの? ゆっくりしないと」

「ああ……もちろんさ」

「ほんとにぃ?」

「ほ、本当だ……! さすがにみんなに言われたから、無下にはできないし」

「いや、オレ以外にも言われたのかよ」

 男爵家から鳳翼館に戻る途中でアリサあたりにでも鉢合わせたのだろう。

「エリゼちゃんも文句を言ってたよ。それに心配事もまだ残ってるみたいだし」

 リィンが驚いたような表情をした。

「……さすがにわかるか、カイトなら」

「もちろん。別にオレだからってわけじゃないけど。クラスメイトだし」

 七月にエリゼとアリスが学院を訪ねに来た時、兄妹でした話も軽くは聞いている。それに、リィンの内に潜む力もある。

 大方、中途半端な形で故郷に戻ってきたことについて悩んでいるのだろう。

「どんな時だってそこにあって、戻ることに躊躇もない。それが故郷ってものだと思うけど」

「まあ……それこそ、カイトの故郷を見て思ったよ。じゃあ、別のことを話していいか?」

 リィンの悩みはいくつかある。けれどカイトに、あるいはカイトに関わることで話したいことがあるとすれば。

「ユン老師から、手紙をいただいたんだ」

「ユン老師……その人って、八葉一刀流の開祖、リィンのお師匠だよね」

 リィンは頷いた。シュバルツァー男爵邸で受け取ったユン老師からの手紙には、大陸各地の放浪の報告と、師としての言葉が記されていたのだという。

 

『お前に授けた(なな)の型は《無》。あることとないことはそもそも同じ。その意味をもう一度考えてみよ』

 

 聞いて、カイトは揺蕩う湯面を見つめる。数々の達人さえ凌駕する剣仙の言葉は、当たり前なようでつかみどころの内容な、不思議な一言だ。

「あることとないこと……」

「答えを見つけるのは、あくまで俺だ。けど、ちょっと吐き出したいとも思った。老師にはがっかりされるかもしれないけど」

「いや、そうでもないんじゃない?」

 遊び半分、カイトは指で水面を弾いた。狙い通りにリィンの顔まで跳ねた。ちょっとうっとおしそうにしていたけど、笑ってもいる。

「カシウスさんが言ってた言葉がある」

「それは……是非、聞きたいな」

「うん」

 

『自分たちの隣を見てみろ。激動の時代を共に歩く、何よりも心強い仲間たちがいる』

 

 それは影の国で再現されたカシウスの言葉だ。けれど影の国で再現された人格は本物だ。他ならぬカシウスのメッセージであることに疑いはない。

「師匠だって、すぐにわかるような言葉を伝えるわけじゃないでしょ。教えて導くのが師匠だし、別に一人だけで答えを出せとも言ってないだろうし」

「……ああ、そうだな」

「一つだけ確かなのはさ」

 それなりの時間湯に入っていた。体が熱くなって、立ち上がって縁石に座った。冷たい風が心地いい。

「今日は小旅行。リィンだって楽しまないと」

 リィン自身が言ったのだ。ゆっくり休んで英気を養おうと。

 そんな時間なのに、剣の道のことで悩んでいる。もったいないと思うのは、Ⅶ組どころかきっとリィン以外の全員の総意だろう。

「……なんだか、今日はカイトにとことん論破されている気がするよ」

「当たり前だよ。もう半年も一緒にいるんだから」

「そうだな。実習に学院に寮生活……ずっと一緒だった」

 Ⅶ組の絆は、今や固く、そして濃密なものになっている。入学した時、こんな強い繋がりになるとは思わなかった。カイトにとってもリィンにとっても。知らない過去があっても、考えていることが少しはわかるようになったくらいには。

 カイトがリィンを諭した形だが、それは逆もあるのだ。

 リィンは言った。

「カイトは吹っ切れたみたいだな。レイラさんのこと」

 カイトが遠くを見た。

 両班の実習の経緯は当然報告している。それにリィンは、帝都でカイトと共にレイラと話した。

 カイトは呆れたように笑った。

「……吹っ切れてはないよ。でも、レイラさんにはレイラさんの覚悟があるんだ。それだけは変えられないってわかった」

 海上要塞で、遊撃士としての肩書きを形だけでも捨てて、そしてⅦ組としてレイラを下した。それでもレイラは変わらなかった。

 ギデオンというテロリストの末期を見届けた。レイラという見知った人がテロリストとしての顔を見せた。そこまで経験して初めて、テロリストの覚悟を理解した。

「あの人に銃を向けるのは……少し怖いよ。でも、躊躇ってたらきっと、レイラさんを止められない」

 だから。

「だから、やりきろうって思った」

「そうか……やっぱり、カイトは強いな」

「それはみんなのおかげだよ。オレ一人じゃできない」

「……一人じゃ、できない」

「だからさ」

 剣仙の言葉はカイトにはわからない。けれどカシウスの言葉は少しはわかる。

 エステルやロイドたちと肩を並べてきた。だからカイトもわかる。だからしつこいくらいに、何度でも言っていく。

 

「リィンもオレも、みんなで頑張ろう。オレたちは、Ⅶ組だから。Ⅶ組はみんなでⅦ組だから」

 

 

 

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