魔人との戦闘前。
八年前、渓谷での出来事をリィンは語ってくれていた。
当時九歳のリィンは、エリゼと一緒に渓流遊びに来ていた。今日と同じように大雪が降り始めた。
里へ戻ろうとする二人の前に、熊の魔獣が現れた。
当時のリィンはまだ八葉の修業を始める前。戦う術は持っていない。リィンは妹を守ろうとしたが。自分の身を犠牲にして嬲られることしかできなかった。
やがて魔獣の殺意がエリゼへと向かった時。
妹を守ろうと激昂したリィンは──旧校舎地下の時のように、異形の力を振るい、振り回され──魔獣を枝払い用の鉈で斬殺した。
それが、リィンが自分の力を恐れ、やがて八葉の道を進むことになるきっかけの出来事だった。
一通りを話し終えて、リィンは悲しげに笑っていた。俺は今もトラウマを消せないと。誰かを傷つけてしまうと。
けれど、誰もリィンを咎めたり、笑ったりはしなかった。打ち明けてくれたことが嬉しいと、仲間がいるから大丈夫だと。
──そう。仲間がいるから、大丈夫なんだ。
「はぁあああっ!」
リィンの覇気が広がっていく。リィンにだけではない。繋がるカイトに。繋がる仲間たちに。
赤黒く、ではない。力強い紅さ。
先頭に立っていたリィンは熱を纏い、雪を溶かしながら魔人を迎え撃つ。
業炎撃。八葉一刀流の参の型。太刀から生まれた業火が振り下ろされた。爆炎と共に魔人に纏わりつき、今までとは違って確実に一撃を与える。
明らかに今までのリィンとは違う。
それだけではなく、覇気と業火の熱は仲間にも届いた。熱さでも痛みでもなく、活力として。
氷が解ける。ユーシスが大地に着地し声を張り上げた。
「動ける……!」
「ああ、オレたちもだ!」
カイトが即座に魔法を発動させた。オーラブレス、癒しの風はこの寒さを打ち消すような暖かさをもたらす。
そして、アリサが叫んだ。喜び、安堵、たくさんの感情が込められている。
「リィン……!」
リィンは油断せず、けれど振り返って仲間たちを見る。
「みんな、行こう。全霊を持って、目標を撃破する」
静かに、力強く。紛れもなく、Ⅶ組のリーダーの言葉だった。
同時、リィンから、カイトから光の線が伸びていく。
リィンから他の五人へ。カイトから他の五人へ。
オル・ガディア戦を経ていないアリサ、ユーシス、ガイウスも多重リンクの存在は知っている。そしてこの時、リィンもカイトも迷いなくそれを選択した。
魔人を倒すために高度な連携が必要なことは言うまでもない。けれど、それ以上にリィンは仲間との繋がりを求めた。カイトもリィンの身に宿る力を恐れずに信じた。
仲間たちは、言葉を発することなくリィンとカイトの意志を受け入れた。光軸が結ばれていく。
アリサとガイウス、ユーシス。フィーとガイウス、ユーシス。それぞれの間にも光の線が生まれる。
これ以上なく密度の高い繋がりが練り上げられ、全員の意志が、ほとんど淀みなく全員に繋がる。
ARCUS。入学してから常に装備していたそのオーブメントがもたらしたものは、良いことばかりではなかった。人間関係を簡単に可視化して、諍いの原因にもなった。
それでもⅦ組はチームとなって、仲間となって、絆で繋がって。それぞれの持つ良いも悪いも、決意も迷いも受け止めてきた。
今更、リィンの何を拒むと言うんだろう。
ARCUSの力。多重リンクの結果を待つまでもなく。
──心は、もう重なっていた。
俺が槍で風を起こす。追撃は頼むぞ。
わかった。じゃあ、私が敵を引き付けるよ。
俺の役目は魔法か。せいぜい有効に使うがいい。
リィン、皆。一緒に乗り越えましょう。
大丈夫、オレたちなら、どんな壁だって。
乗り越えられる。頼む、あの雪の日を……みんなと一緒に!
ガイウスが十字槍を天に掲げ回旋させる。生まれた竜巻はこれまで見た中で最大規模だった。雪の結晶を晴らし、魔人の前進を防ぐ。
その竜巻を追いかけ、フィーが疾駆した。魔法による援護よりは慣れた動きだ。
「やっぱり、私はこれが性に合ってる」
跳躍しながら双銃剣の引き金を動かし続ける。攻撃力そのものは弱く、大きな魔人には大した痛痒もない。それでもその身のこなしで、風によって動きやすくなった大地を
魔人の四つ腕がフィーを見定める。一つ目、二つ目、三つ目と殴打を避けた。魔人の最後の腕、大剣が迫る。
ユーシスの魔法が駆動した。
「──させるわけがなかろう」
ユーシスが臆することなく言い放った。
行動そのものが飛躍したわけではない。魔人に追いつめられていた時と動きそのものは
たとえ借り物の装置による結果でも、それを成せるまで絆を深めたのはⅦ組の力に他ならない。
カイトが
「そうだよ、リィン。人は──人の間にいれば、どこまでも強くなれる」
自分の中のおぞましい力にだって、きっと勝てるんだ。
だから、一緒に乗り越えよう。努力も、理由もいらない。ただ心を重ねる、それだけでいいんだ。
アリサのジャッジメントアローが魔人への道を作る。開幕の一撃と同じ紅蓮の弓矢。けれど単に雪を溶かすのとは違う。
リィンへの道を作った。炎の橙色の残滓の中、リィンの覇気は膨れ上がっていた。
(エリゼと約束したんだ。無事に乗り越えるって)
太刀が熱を帯びる。けれど、赤色ではない。
カイトの魔法によって大地は揺れ、魔人の脚は止まっていた。それでも最期の抵抗か、再び咆哮により氷の拘束がなされようとしていた。
けれど、アリサの紅と、リィンの蒼。二種の炎が余さず大地を飲みこんで、拘束を許さない。
リィンが疾風の如き速度で迫り、太刀を振り抜く。横薙ぎ一閃、袈裟掛けに二閃。大上段からの三閃目。
末期の咆哮とともに、魔人の姿が薄らいでいく。それは魔獣が死骸として息絶えるのとは異なる、影の国の悪魔のような存在。
沈黙。カイトたち五人は、リィンを見ていた。
リィンは静かに太刀を振り払い、蒼色の熱を散らせる。名残惜し気に雪を溶かす。
納刀。仲間たちへ、振り向いた。
「──ありがとう、みんなのおかげだ」
その眼に怯えはなかった。当たり前のように戦闘後の残心を解いて、何もなかったように。
まだ多重リンクは簡単にできることではない。けれどその意思疎通が必要ないくらいにわかる。
リィンは今、一つの壁を乗り越えた。
「お疲れ様、リィン」
「やったのね……!」
「ああ。もう気配は感じない。石碑に封じられていた存在が帰っていったみたいだ」
近くにいたカイトとアリサ。二人だけじゃなく、残る三人も近づく。
「やったな、リィン」
「実力はあった。そうでなくては困るがな」
「今度こそ、リィンに負けちゃったかな」
ガイウスはともかく、ユーシスもフィーも言葉に合わない表情だ。
吹雪も止んでいた。
季節外れの積雪を止める。それがⅦ組の目的で、仔細はわからなくても達成したといえる。
けれど。
「リィン」
カイトが一言。それだけで、リィンは頷いてある一点を目線で示す。
「ああ」
その所作に仲間たちが違和感を覚える前に、カイトは動き出していた。
唐突に右手の銃を構えて放つ。照準は虚空を向いていた。けれど、確かに空中で
「いい加減に観劇気分は止めてもらうぞ」
リィンが再び太刀を引き抜く。先の納刀は魔人との戦闘の終わり。そして今は、新たな警戒の始まり。
カイトが怒りをあらわにした。
「姿を現わせよ──ど畜生快楽主義変態怪盗紳士!!」
もう一度銃撃。そこにいた何かは姿を現わした。白色のマント、羽を模した気障な仮面、青色の髪。カイトが良く知り、そしてⅦ組も帝都で知ってしまった結社の執行者No.Ⅹ。
「はーはっはっはっ!」
誰の耳にも不快に届く高らかな
怪盗紳士ブルブランが、変わらず不敵な笑みを浮かべてそこに立っていた。
「よくぞ我が正体を見たり。その慧眼には素直に敬意を表そう」
「黙れ、変態紳士。最初から隠すつもりなかっただろ」
カイトが吐き捨てる。
遅れて仲間たちが得物を構えた。大なり小なり怒りが構えに表れている。
そう、カイトのみならず、全員が帝都の《紅蓮の小冠》の件でブルブランを警戒している。カイトは立ち会うことはなかったが、ケルディックとバリアハートでもA班と接触していたのだ。その気持ち悪さはもう筆舌につくし難いものがある。
加えてこの小旅行の中での労苦を強い、自分たちの感情を逆なでした。怒りに震えるのも当然だった。
「今回の異変は貴方の仕業ね?」
「いかにも。アリサ・ラインフォルト嬢」
「……いい加減にしてちょうだい!」
「フフフ……ずいぶんと嫌われてしまったものだ。だが」
ブルブランはカイトを見た。隣に立つリィンも。
「カイト・レグメント。そしてリィン・シュバルツァー。何より、オリヴァルト皇子が創設したⅦ組という枠組み。私が興味をそそられて止まない存在を前に、何もしないわけがあるまい?」
「黙れよ。ここには六人いるんだ。トラウマ呼び起こしてやる」
「君と姫殿下の連携のように、かね?」
「そうだよ。今ならそれくらいの連携も、魔法もできる」
「面白い。だが今の私にとって、興味をそそられるのは──」
「俺のことだろう、怪盗紳士」
リィンがカイトを守るように前へ出た。
「リィン……」
「ほう……? よくわかっているじゃないか」
「当たり前だ。このユミルで、この渓谷でⅦ組をおびき寄せた。帝都での一件もある。俺の力に興味があるんだろう?」
「その通りだ。十二年前、ユミルの男爵が吹雪の中で拾ったという浮浪児」
ブルブランの指がしなやかに、リィン一人を示した。帝都、遊撃士協会支部で対面した時と重なる。
「果たして、平民なのか貴族なのか、帝国人なのか外国人なのか、一切が分からない」
「そうだ。そして俺はこの力を恐れて、八葉の道を進んだ」
「そう、それだよ……! 教会の聖痕にも劣らない、結社の執行者など霞んでしまうような闇──怪盗が求めるに相応しい!」
以前、クローゼを捉えようとした時と似ている。あの時はクローゼを恐怖させ、絶望の感情を引き出そうとしていた。今回も、リィンの素性というものを求める副作用だろうが、リィンを、仲間たちの碇を引き出している。
「ふ、ふざけないで……! リィンがどれだけ苦しんでいるか……!」
「よせ、アリサ。怪盗ごときの言葉、戯言にすらならん」
もはや怒りを隠さないⅦ組。ユーシスなどもう人を視る目をしていない。
「そうだね。魔獣だと思った方がいいかもしれない」
フィーも臨戦態勢だ。
けれど、一番の当事者であるリィンが誰よりも落ち着いていた。得物を構えるのは仲間たちと同じだ。けれどそれは敵を前にして油断しないためであって、殺気はない。
リィンは吐き捨てた。
「怪盗紳士ブルブラン、はっきりと言わせてもらう。あんたには無理だ」
「なに……?」
「真実を知ることと、真実を得ることは同じじゃない。真実というものは、経験や体験を通してしか得られないものだ」
リィンが胸に手を当てる。
それは紛れもなく特別実習でⅦ組がしてきたことだ。帝国の現状、仲間たちの過去や信念。それをⅦ組は、眼をそらさずに向き合ってきた。時には乗り越えてきた。
「そうして得られるものこそ、俺の──俺たちだけの真実になる。それ以外に大した意味はない。」
「……」
ブルブランの口が閉じている。カイトにはわかる。ブルブランの眼が冷ややかになっている、と。
「たとえ怪盗ごときが何かを見つけたとしても、それは単なる事実で、俺にとっての真実じゃない」
明らかに、ブルブランはそのお株を奪われている。ブルブランが何よりも求める宝という盗むべきもの。それはブルブランだからこそ絶対に手にすることができないのだと、リィンは言っているから。
そして、カイトも。
「結社も、リィンの真実を知らないんだな」
ここぞとばかりにブルブランをこき下ろしていく。
「浮遊都市の件もそうだけど、結社リベール王家でさえ知らない情報を持ってた。けどアンタたちだって全知全能じゃない」
リィンの言葉は、カイトとリベールの仲間たちにも当てはまる。仲間たちは戦いの中でリベル=アークの真実を得た。そして仲間との旅路があったからこそ、その真実は大きな価値を持つ。
「だからオレに負けたんだよ」
「そう、あんたの出る幕じゃない。悪いが時間の無駄だ」
「……良い返答だ」
重心、そしてその鏡写し。帝国の内と外、その両の存在が怪盗の存在を求めない。
かつて、ブルブランは高みから人を見降ろして、けれど格下の予想外の返答にイラつきを隠さないことがあった。オリビエやクローゼや、そしてカイトがそうだ。
そして、今はそうした敵の啖呵を面白がっている。
格下だった者の進化を見て、ブルブランもまた変わっている。
「Ⅶ組という枠組み。八葉の在り方。そして、翼持つ者の系譜。全てがそろった故の啖呵か。気に入ったぞ、リィン・シュバルツァー」
ブルブランがステッキを掲げ、花弁が吹き荒れる。いつものように撤退の合図。
「次なる邂逅は近い。その時、君たちがどのような真実を見いだすか。せいぜい楽しみにさせてもらおう」
ブルブランの姿が薄れ、完全に消える。
ユミルの異変。季節外れの積雪を引き起こした張本人が撤退した。
愉快犯であることはわかっている。これ以上ユミルを混乱させることはないと直感していた。
無粋なⅦ組の特別実習が終わったのだ。
────
一泊二日の予定であったが、結果的に一日延長となった小旅行。
ブルブランの横槍はあったが、結果的にリィンは一歩成長して、多重リンクもよりその密度を増やして成し遂げることができた。あの怪盗のおかげとは思いたくないⅦ組たちだったけれど、それでも怒りを覚えた以上そう思わなければやってられない、という感情もあった。
怪盗紳士ブルブランとの対面。けれど初対面ではない。そしてその正体が結社の執行者であることも知っている。手強いが恐れる必要はない。リィンの態度が何よりそれを物語っていた。
とはいえ、結社の一人が帝国内で動いていた。それは軍事クーデターの時のリベールにも言えることで、二大勢力の緊張高まる帝国の中で、導火線が爆発する瞬間が近いことは誰もが理解していた。
その爆発を防ぐために、あるいは爆発したとしても被害者を出さないために。帝国の現状を見てきた自分たちは、今から目を背けずにいようと思う。
積雪が溶けた次の日の朝。Ⅶ組とサラ、そして先輩たちはケーブルカー係留所の前にいた。ユミルを発つ時が近づいていた。
ユミルを後にする面々だけではない。
「リィン、どうやら老師の宿題は解けたようだな」
テオ・シュバルツァーがリィンの肩に手を置いた。テオの後ろにはエリゼ、そしてルシアがいる。
三人は見送りに来てくれたのだ。
「はい。今まで俺はあの力を恐れて、そして眼を背けていました」
八葉で技術を学んで、精神の構えを覚えても、力へのおぞましさや、家族への後ろめたさがあった。そこには、むしろ眼を背けることができなかった。
「でも……やっぱり俺は、俺自身の真実を無視できません」
リィンはトールズ入学の理由を『自分の道を見つけるため』と言った。そして、自分の道を見つけるには自分が何者であるかを知らなくてはならない。
「この身に眠る、得体の知れない力が何なのか。十二年前、俺を吹雪の中に残していった人は誰なのか。それを知りたい。偽らざる本心です」
「そうか」
「兄様……」
「エリゼ、大丈夫だ。俺はどこにも行かないからさ」
リィンが自分のことを知りたいと思ったのは、確かに力への恐れもある。生来の生真面目さも理由の一つだろう。
けれど、今は違う。リィン・シュバルツァーであり続けたいと、改めて思ったからだ。
「胸を張って、大切な家族の一人として、そして、仲間の一員としてあるために、俺はなんとしてでも真実を見つけたいと思うんだ」
「どんなに厳しい真実だとしてもか?」
テオは息子を見やる。もう、その肩を支える必要はないと思う。とはいえ大切な家族の一人だから、心配ではあるけれど……。
「大丈夫ですよ、男爵閣下」
答えたのはリィンではなかった。
「リィンにはオレたちがいます」
今度はカイトがリィンの肩を叩く。
リィンのクラスメイト。リベール出身で、そして一昨年の異変を乗り越えてきた少年。
「それがどんなに辛い真実だったとしても……仲間がいれば、一人でいるより強くなれる」
カイトもまた、一人では大した力もない子供に過ぎなかった。一人では、帝国を恨む感情は変わらなかったかも知れない。
今のカイトがあるのは、クローゼのおかげで、オリビエのおかげで、エステルたちのおかげだった。
カイトもそれを自覚していて、リィンもこの小旅行で、そんな手応えを得た。
リィンは胸に手を当てた。心臓の鼓動を確かめて、テオの目をまっすぐ認める。
「みんなと一緒に、受け止めるだけの器を養ってみせます」
「……そうか。いい仲間を持ったようだな」
それはカイトだけではない。カイトと同じことを、仲間たちが確信している。
Ⅶ組の迷いのない眼をみればわかる。
「……父さん?」
「リィン、これを受け取りなさい」
それは東方でよく見る巻物だった。テオは言う。
「八葉一刀流・中伝の目録だ」
リィンはもちろん、Ⅶ組の面々も驚く。
「お前が剣の高みへの可能性を示した時に渡してほしいと、先日ユン老師から託されていたものだ」
「老師が……」
「彼もお前の成長を期待してくれていたのだろう。謹んで受け取るがいい」
「……確かに、賜りました」
八葉一刀流。奥伝を授かった者は理に至ると呼ばれる、剣仙が興した東方剣術。実際にカイトは、理に至ると称されるカシウスとアリオスを知っている。正統後継者ではないが、理の数歩手前にいるリシャールという孫弟子を知っている。
初伝止まり。そう自嘲していたリィンは、新入生最強クラスと目されていたラウラに迫り、ユーシスやパトリックに勝っていた。
そして今、初伝止まりは中伝へと至った。
係留所から駅員が顔を覗かせる。もうすぐケーブルカーが出る時間だ。
Ⅶ組を初めこれからトリスタへ戻る面々は、領主やその家族へ口々に礼を述べる。
リィンは違う。
「次の休暇には、また帰ってきなさい」
テオが頼もしく。
「このユミルこそが、貴方の故郷なのですから」
ルシアが優しく。
「私も学院祭には行きますが……その時まで、兄様もお元気で」
エリゼは寂しそうに、でも嬉しそうに。
リィンは、旅立つ者だ。それはいつかここに戻ってくるという決意でもある。
いつか、リィンは思っていた。シュバルツァー男爵家は実子であるエリゼが継いで、自分は軍属にでもなって、家を出るのだと。
自分が家督を継ぐべきか、それはまだ迷う。不安がある。けれど。
自分はリィン・シュバルツァーなのだと、そうありたいと思う。それは紛れもない
だから。
「はい……三人も、どうかお元気で」
リィンは、いつか帰るために、一時の別れを告げた。
またいつか会うために。
ユミル小旅行終了。
閃の軌跡Ⅰの時系列も、いよいよ最終章となります。
(色々な意味で)なげぇ……! 既に心の軌跡Ⅱも150話を越えています。
次回、80話「青空の解放感」