心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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80話 青空の解放感②

 

 

 十月二十二日。前日の夜に続き、Ⅶ組は朝早くから旧校舎でリハーサルを繰り返した。

 ユーシスとマキアスのデュオ。エマのソロ。それぞれの曲を演奏し、調整する。高頻度でエリオットからの()()が入る。

 カイト・フィー・ミリアムのバックダンサー組はクロウによる演出のてこ入れ。三人とも本番に強い心臓を持っているので、こっちはエリオットと違って割と穏やかな進行だ。ちなみにクロウは相手が子供なので過剰な演出欲を出さなかったというのもある。

 本番は学院祭二日目、残るは四十八時間。

 それだけではない。Ⅶ組のライバルとなる各クラスの出し物についても、万全の準備が整えられていく。

 そして。午後三時。

 エマの澄んだ歌声が響き渡った。ラストのサビの最後、ロングトーンが儚げに散って、それでも残響は聴いた人の心に刻まれる。

 同時、ギターの、バイオリンの、ベースの。全ての楽器が一斉に音を潜めた。ラウラのシンバルが区切りとなって、そして沈黙。

 この三週間、ずっと練習してきた。最初はただの《音》でしかなかった。エリオットの指導と、何よりも個々人の頑張りによって少しずつ《音楽》となっていた。

 そして、今。曲は確かに《ライブ》になった。

 リィンが何も言わずに成功を噛みしめている。ミリアムは逆に全身で喜びを表した。

「やったあああ! 今の、一番いいんじゃない!?」

 全員の胸中にやりきった達成感があった。

 とはいえずっと演奏に集中して、休憩は途中の食休みくらい。疲れもあって、特にエマは顕著だ。

「はあはあ……もうこれ以上は無理です……」

 魂が抜けているというか、息絶え絶え。エマはこの半年間で一番憔悴している。

 一連の流れを見ていたクロウが讃えてくれる。

「いや~、お疲れさん。これ以上やっても仕方ねぇし、あとは本番でいいだろ」

「ああ。クロウも、お疲れ」

 カイトが返した。キーボード役、それにバックダンサー。エリオットとクロウのどちらにも無茶ぶりを受けたカイトだが、疲れはあっても楽しさと達成感が強い。

 誰よりもこの企画を楽しんでいるクロウに言ってもらえるなら、安心だ。

 それぞれが楽器を置く。

 アリサが珍しく体を伸ばした。それはもう、お嬢様ではなくて単なる疲れた人としての動きだ。そして時計を見る。

「今の時間は……午後の三時ね。もう夕方くらいかと思ったわ」

「と、とにかく寮に戻って休みたいです……」

 エマの悲痛な声が、普段の彼女より低い位置で聞こえた。というか、エマはフィーの肩に手を置いて寄りかかっていた。フィーは「重い……柔らかい……」と呟いている。

 そんな中。

「おいおい、何を寝ぼけたこと言ってんだ?」

 クロウの言葉に、他の全員が『は?』と不良生徒を見やる。

「ステージにはサプライズとアンコールがつきものだ。やっと他のクラスに勝てそうなダメ押しが狙えるんじゃねぇか」

 沈黙。リィンが、アリサが口をぽかんと開けている。ガイウスとフィーはよくわかっていないようだが。

 一方、カイトとエリオットは。ユミルでの一幕を思い出した。鳳翼館のロビーで、ステージの打ち合わせをした後のクロウの言葉を。

「ま、まさか……クロウ?」

「冗談で言ってた()()をやるつもり!?」

 数名がカイトとエリオットを見てくる。いつの間にそんな話をしたんだ、自分たちを殺す気か、という非難轟轟の目線。

 カイトもエリオットも、断じて了承なんてしていない。

 マキアスとユーシスの語気が荒くなる。

「ちょ、ちょっと待ちたまえ!」

「このうえ、追加の曲をやれと抜かすのではあるまいな……!?」

 戸惑いと混乱の極みにいるⅦ組。ただ一人、クロウは笑った。

 

「クク、そのまさかだ」

 

 死刑宣告をしてきた。

 クロウが一歩前へ。Ⅶ組に対する圧を強める。

「なあに、聞いちまったらお前らだってやりたくなるだろ」

 もう一歩前へ。笑顔が怖い。エリオットとは別の意味で怖い。

「メロディはシンプルかつ有名、歌詞も知られてるあの曲だ」

 さらに一歩。

「さあて……段取りを説明させてもらおうか?」

 

 エマが傾いた。体力の、というより気力の限界だったらしい。

「はあう……」

「あ、委員長──」

 フィーにかかる体重がさらに増して、特に耐える気のないフィーの脚が動く。その先にいたのはラウラ。

「む、フィー、なにを──」

 ラウラにフィーとエマが覆いかぶさる。こうなると耐えられず、ラウラは下がって、けれど腰にフィーが抱き着いたおかげで耐えられずに横へ──

 そこにいたのはアリサ。

「きゃっ──」

 アリサはラウラの身体に耐えられず、後ろから隣にいた一人にダイブすることに。その一人というのはもちろん、

「……へ?」

 ここ最近で一番間抜けな声を出した八葉の剣士である。

 ドサドサと、ドミノ倒しで倒れるⅦ組の半分。

「いいんちょー!? みんなー!?」

 ミリアムが驚いた。もはや男子たちも何もできずに成り行きを見守るしかない。

 掃除もまばらな旧校舎の壇上。ほんの少し埃が舞って、それが落ち着いたころには、リィンがアリサを守ろうとしっかりと抱きとめていた光景があらわになった。

「エ、エマ君……」

 立場は一緒なので深く同情したマキアス。

「まったく……」

 散々な状態に頭を抱えたユーシス。

「……無念」

 エマとラウラに挟まれたフィーはポツリと言った。

 ドミノの前半組がゆっくりと立ち上がる。とはいってもエマはカイトとガイウスに介助されていたが。

 そして、一同はリィンとアリサを見ていた。旧校舎の地下、特別オリエンテーリングを思い出す光景を。

「あ、アリサッ……違うんだこれはっ」

「っ……!? ……っ!?」

 声を出せないで顔が真っ赤になるアリサ。そして。

「んんっ!!」

「うぶっ!?」

 とてもいい音が弾けた。

 そんな光景を愉しげに見つつ、クロウは悪魔のような笑みで陣頭指揮を執り始める。

「オラオラ! とっとと始めんぞ!」

 カイトとガイウスが呆れてしまう。

「……結局、クロウが一番熱心だよね」

「そうだな。とことん、付き合うしかないだろう」

 留学生の二人も、楽し気に笑っていた。

 

 

────

 

 

 午後九時。Ⅶ組はアンコール用の三曲目の練習も終えて第三学生寮に帰還することになった。三曲目は楽器隊も含めて全員が歌うから、クロウも一緒でエリオットからのダメ出しを喰らい続けたが。

 そんなわけで、クロウも含めて死に体となったのは全員だ。寮に戻る最中に出会ったトワとジョルジュに心配されるくらいには。

 夕食はシャロンが作ってくれたが、全員会話もなく黙々と食べ続けた。

 寮のシャワーも交代で使う。全員ようやく煉獄から生還したような心地だった。

 そして。

「疲れた……ほんとしんどかった……」

 髪を乾かすのも億劫なくらいの疲労。カイトは寝間着の格好でベッドに飛び込んだ。天井を見上げる。

 体は実習の修羅場の後かというほどに疲れている。けれど眼は冴えて、気分はどことなく高揚している。そんなアンバランスさがあった。

 すぐに眠る、ということもできそうにない。

 五分ほどたっても微睡に入らないので、力を入れて起き上がる。

「……明日はいよいよ学院祭か」

 この三週間、ずっとⅦ組は頑張ってきた。それだけでなくて、学院全体が一致団結して協力していることが嬉しかった。貴族だ平民だと確執のある年代の自分たちが、一つの目標に向けて協力する。貴族派と革新派のいざこざが絶えないだけに、学院の中だけでも平穏を作る。仮初であっても、ここから始めなければならないのだと、オリビエの意を汲むカイトとしては思う。

「……心配事がないわけじゃないけど」

 帝国解放戦線も一部の幹部は生存しているし、結局二大勢力の争いは解決していない。クロスベル方面では独立の機運が高まり、それは大陸情勢の混乱を意味する。

 気にならないわけがない。けれどカイトは一心不乱にライブステージの練習に励んだ。不安を打ち消すように。

 嵐の前の静けさ。そんな予感がしているから。

「……」

 心臓に手を当てていると、不意に自室の扉を叩く音が聞こえた。

「はーい?」

『リィンだ。カイト、入っていいか?』

「どうぞ」

 リィンが顔を覗かせる。寝巻ではないとはいえ、彼も軽装だった。

「お疲れ様。頬の紅葉は消えた?」

「うっ……やっと目立たなくなってきたよ」

「アハハ、それはなにより」

 カイトは目線でリィンを促した。察しの良い八葉の剣士は、それで机に備え付けられている椅子に座る。その手に持つ物にカイトは注目した。

「それって……」

「導力ラジオだ。一緒に聴こうかと思って」

「ああ、ジョルジュ先輩からもらったっていう」

 リィンは導力をカイトの机の上において、セットした。

「にしても、どうして急に?」

 半年間の寮生活のなかで、カイトもリィンの部屋で過ごすことは多々あったし、その時に導力ラジオを聴いたこともある。けれど部屋の外で聴いたことはない。

 リィンはラジオのスイッチを入れ、ダイヤルを回しながら答えた。

「ほら。なんとなく……昨日のことが気になったんだ」

「昨日の? もしかして、ミスティさんの?」

 リィンは頷いた。折よくラジオ放送が流れる。音楽番組の途中らしい。

 

『それじゃあ、またね。明日の放送もよろしくね?』

 

「考えてみたら、ミスティさんは別にアーベントタイムだけのパーソナリティーじゃないからな。せっかくなら聴いてみようかと思って」

「なるほど。ちょっと頭も冴えて眠れそうになかったし、それじゃあお言葉に甘えて」

 ラジオからここ最近の流行りの曲が流れてくる。

「……オレたちの選曲、流れないな」

「だな。全部、それなりに有名だから流れてもおかしくないけど」

「でも、アイドル文化に合うように選曲したし。帝国の有名どころともまた違うもんな」

 と思ったことを深く考えずに語っていると、そのうちにカイトにとってなじみのある曲が流れてきた。

「あ、《星の在り処》だ」

「これ、たしかカイトがクロウに推してた曲だったよな?」

「うん。知り合いが良く吹いてて。さすがにステージの雰囲気に合わないって言われたけど」

 クロウには少しだけ怒りを覚えているカイトである。

「エリゼちゃん、学院祭に来るって言ってたよな?」

「ああ。二日目だ。アリスさんも来るんだったか?」

「一緒に来るって言ってたね。だから、オレも案内だ」

「だったら、お互い自由に回れるのは一日目だな」

「そうだなぁ……リィンは誰かと一緒に回らないのか?」

「なんだったら一緒に回るか?」

 カイトはベッドに座りながら頭をガクっと滑らせた。そのままベッドに上体を預けた。

「あのな……リィン。そりゃ嬉しいけど、もうちょっと考えなよ」

 学院祭を回るということの意味を。別に友人同士気楽に遊ぶのもいいけれど。

「え?」

 とことんこいつは……と思いながらカイトは口を開いた。

「アリサ。アリサと回ってやりなよ」

「あー……でもちょっと気まずいというか」

「昼間の件? リィンとアリサなら経験済みだし、大丈夫じゃ──」

『──あー、テステス』

 カイトがまくし立てようとしたところで、不意にラジオから人の声が流れた。先程までの音楽は消えている。リィンもカイトも意識がそがれた。

「……これって」

「ミスティさんの声か?」

『え。もう入ってるんですか?』

 間の抜けた、というより昨日話した素に近い声。

『コホン、失礼しました。番組の途中ではありますが臨時ニュースをお伝えします』

 まさか本当にミスティの声が聴こえることになるとは。

「……ミスティさん、当たったな」

「っていうかこれ、臨時ニュースだよな?」

 訝しんだカイト。けれど感じた何かを自分自身が理解する前に、ラジオからはこれまでのすべてを吹き飛ばしてしまう情報の羅列が流れてくる。

 

『本日午後、クロスベル自治州で国家独立宣言が行われました』

 

 途端、カイトは体を起こした。リィンもそれまでのリラックスした体勢から変わって、緊張している。

 ミスティはあくまでアナウンサーとして、感情の読めない声色で、どこまでも怖い事実を伝えてくる。

 

『これは、先の住民投票の結果を受けて自治州政府が独断で行ったものであり、法的実行力を伴うものではありません』

『既に帝国政府からは、この独立宣言を断固認めないとの声明が出されています』

『同自治州の領有権を主張するカルバード共和国の大統領府からも同様の声明が出されているようです』

『ですが、自治州代表のクロイス市長は、《クロスベル独立国》という新たな国家名を同時に発表しており、《国防軍》なる軍隊の保持も宣言し、内外に緊張が走り始めています──』

 

 クロスベル独立国。国防軍。

 激動の時代。

 カイトの脳裏に、二人の傑物が説いた言葉が反響していく──

 

 

────

 

 

 十月二十三日。士官学院祭一日目。

『これより第127回、トールズ士官学院祭を開催します!』

 トワの声が学院中に響く。

『どうぞ心ゆくまで楽しんで、みんなで盛り上がってください!』

 学院入り口の門扉が開かれ、その前で待っていた来場客から歓声が上がる。

 学院はトリスタ住民と良好な関係を築いてきた。それにトールズは帝国でも有数の名門校。当然全土で知られていて、学院関係者も含めて訪れる人の数は多い。

 どんどん人々が流れていく。正門付近で待ち構えていた部活動の屋台。客引きのために声を張る一年の各クラス代表や二年の有志。

 Ⅶ組一同は、その様子を東の図書館前、目立たない場所から眺めていた。

「さてと、僕たちの出番は明日の午後だ」

 先頭に立っていたマキアスは振り返って、仲間たちを見た。こういう姿は副委員長らしい。

「今日一日、ステージは忘れて学院祭を満喫するとしよう」

「忘れるなんてそんなの無理ですけどね」

 エマがめちゃくちゃ冷めた声で言った。マキアスと打って変わって委員長らしくない。Ⅶ組一同は気まずげに沈黙するしかない。

「はっ……ごめんなさい」

「エマ君、気持ちはわかる」

「あはは……えっと、今日は終日自由行動です。でも備品のチェックもあるので帰りにはいったん集まりましょう」

「クロウ、そこでまた練習……とか言わないわよね?」

「アリサ。俺はエリオットじゃねぇぞ」

「二人とも僕をなんだと思ってるの?」

『赤毛のクレイグ』

 エリオットはなんとも言えない表情になった。

 本番まで三十時間ほど。けれど全てをやりきったⅦ組は、観客の多さを前に緊張はしていない。それも空元気な部分もあるが。

 エマのちょっと幽鬼のような表情を除けばいつもと変わりない。なのでミリアムが言った。

「みんな意外と冷静だよね。クロスベル方面で結構でっかいニュースがあったばかりなのに」

「……そなたもそなたで遠慮がないな」

「気にはなるけど、現実味薄いからね。そもそもクロスベル、まともな軍隊ないし」

 フィーが低いテンションで言う。元猟兵であるフィーだからこそ、外国の特性もよくわかっている。

「そして、自治と独立は実力をもって勝ち取るもの。口先だけで独立を宣言してもすぐに撤回するのが落ちだろう」

 ユーシスの言葉にガイウスが返した。

「ふむ、一理あるが」

 貴族と辺境の遊牧民。性質は全く違うけれど、自分たちが過ごし、守る領域をよく考えている二人だ。

 そしてユーシスは、横の項垂れている一人を侮蔑した。

「むしろ、これに関しては昨日の委員長以上に腑抜けている男がいるからな。冷静になるというものだ」

『あー……』

 全員言葉に詰まった。

 カイトは、まだ腑抜けていた。

「カイト、大丈夫か?」

「……ありがとう、リィン。正直、気が気じゃなくてさ」

 いうまでもなく、クロスベル独立の大ニュースが原因だ。

「当然、クロスベルには知り合いがいるし。正直みんなには悪いんだけど、オレは独立には賛成でさ」

「そっか、そうなのね」

 アリサが返す。

 あの魔都で闇をたくさん目の当たりにしてきた。帝国、そして共和国と繋がりのあった汚職議員のことも知っている。

 ひたすら二大国から搾取され、生きたまま殺されているに等しい状況。常に上がいて、自分たちには誇りがない。そんなクロスベルでもがく人たちと一緒に過ごしてきた。

「だけど独立が早計だっていうユーシスの言葉にも賛成だ」

 誇りには、自由には責任が伴う。そもそも、二大国が上に立つことでその責任が育つ時間も猶予もない。だからユーシスの言葉すら、クロスベルの人々からすれば搾取する人間の詭弁に聞こえるのだろう。

 それでも、明らかに早すぎる。今無理やりに時計の針を動かしても、誰も味方はしてくれない。

「クロスベルの知り合いが、仲間たちが……心配なんだ」

 ロイドたちから直接《独立》という言葉は聞いたことがなかったと思う。精々、通商会議の時に搾取への抵抗として挙がった安全保障と条約の話くらいだ。

 とはいえ、何もできないところから立ち上がって、クロスベルに誇りを持ってきたロイドたちは、きっと《それ》を考えているはずだ。

 そのロイドたちは、この現状にどう思っている……?

「今日は学院祭に専念しよう」

 手を叩く音。リィンだ。

「俺もそうだけど、みんなの家族は明日来るんだよな?」

「ええ。母様もそう言っていたわ」

「俺もだ。とはいっても、父ではなくあくまで理事の兄上だが」

「僕もだな。この状況で来れられるかどうか、というのはあるが」

 理事三人の親族が言う。

 他にも、ラウラの父。エリオットの父。ガイウスの兄弟。

 明日のⅦ組は忙しくなることが確定している。

「カイトも、気にはなると思う。でも……だからこそ、学院祭を楽しんでくれ」

「リィン」

「同意だな。俺たちの中で最もクロスベルに精通している。貴様がそんな調子では、事がどう運ぶにしても俺たちにとって不利益だ」

「ユーシス」

「だから、そなたも少しは気を緩めるといい。休んで、そしてまた力を貸してくれ」

「ラウラ」

 全員が自分を見ている。信頼して。

「みんな……わかったよ」

 まだ気持ちは晴れないけれど。それでも。

 クロウが手を叩いた。リィンと同じように。

「それじゃ、解散! 全員悔いなく楽しめよ。今日の学院祭は今日だけなんだからよ」

 Ⅶ組は散っていく。部活仲間と待ち合わせたり、一人で楽しんだり、規格の手伝いに回ったり。それぞれの楽しみ方がある。

 そして、カイトは。

「とはいえなぁ……考えないようにするとむしろ考えちゃうんだけど……」

 そんな風にぼやいている中、後ろから膝に衝撃。

「のわっ」

 人は急に膝を曲げられると弱い。無様に体勢を崩して、転ぶとは言わないけどつまずく。

 そして復帰して後ろを振り返ると、そこにはフィーがいた。

「狙い通り」

「フィーっ……! なにやってんだ……!」

 たまにやられることはあるのだが、わざわざ来場客もいる場所でやらなくてもいいだろうに。

 反撃に額を指で弾こうとして、腕を掴まれた。さすがに反応が早い。

 腕を掴んだまま、フィーは言った。

「みっしぃパニック。付き合って」

「……え?」

 

 

 

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