エステルの解放。
それはカイトやヨシュアのみならず、仲間たち全員が待ち望んでいたものだ。
ケビンとの縁があり、この騒動に巻き込まれた。その人選を見ていれば、自然とエステルも同じ状況だということは予想できた。
ヨシュアが先頭にたち、一同はエステルが現れる様子を見届けた。
「な、なんなのよ今のは……」
数時間前の自分の様子を思い出して、カイトはそりゃ同じ状況だよなあ、と苦笑した。落ち着いてみれば光と音だけで衝撃も何もないのだが、スタングレネードと勘違いしても仕方がないだろう。
だが、さすがリベールの異変を潜り抜いた正遊撃士だった。かっと目を見開くと、棒術具に手を添えて叫んだのだ。
「ヨシュア、大丈夫!? ていうか今の光って──」
そしてやはり、今までの仲間たちと同じように、目の前の人々を見て文字通り目が点となっていた。
「へ?」
「うん、まあ……君が戸惑うのも無理はないよ」
あり得ない状況だ。そういったヨシュア自身、苦笑気味だった。
「あ、あり得ないっていうか……」
ようやく、ヨシュアの向こうの人たちに意味を持って気づく。ティータとクローゼが嬉しさ満面の笑顔で声をかければ、当然のごとくエステルも返す。
「ティータ、クローゼ! あはは、ちょっと涙でそうかも……!」
「ふふ、僕もいるよ、エステル君」
「ハァイ、エステル。元気してたかしら?」
「うわ、オリビエ!? すごく皇子っぽいんですけど! それにシェラ姉……いつの間に髪を切ったの!? なんか色っぽい服も来てるし!」
ヨシュアと共に、エステルの初めての旅路を共にした二人。
「かと思えば相変わらずの人たちもいるし」
エステルが安心したようないつもの笑い顔を浮かべれば、アガットが「相変わらずで悪かったな」と口を曲げ、ジンが「仕事着みたいなもんだからなぁ」と豪快に声を上げた。
カイトもそろそろ、とうずうずして飛び跳ねる。
「エステル、久しぶり! 元気してたかよ!?」
「ああ、カイト!? 久しぶり……てか背が伸びた?」
「……ちょっとまって! やっと気づいてくれた!?」
まさか最初に気づかれるのがエステルとは、意外過ぎて思わず涙ぐむカイト。
ちなみにクローゼは気づいていても言う時間がなかっただけなのだが、カイトもカイトで天然だった。
その後もアネラスが、ジョゼットが、ユリアにミュラーが、それぞれ言葉をかけていく。その言葉の一つ一つで、それだけで俄かに場の空気が変わっていく。
「はは……久しぶりやね」
「ケビンさん……? それに、そちらの人は……」
これも、カイトが来る前まではお決まりのパターンだったのだろう。エステルはリースと言葉を交わした。
「星杯騎士団の従騎士、リース・アルジェントと申します。エステルさんの噂は、ケビンと他の方たちから聞いています」
「あ、うん。えへへ、よろしくお願いするわね」
ケビンが静かに呟いた。
「しかし、まあ、さすがエステルちゃんやな。君がおるだけで……場が一気に明るくなったわ」
誰も否定のしようのない言葉だった。これこそ、太陽の娘の本領発揮だ。
が、当の太陽の娘は違うことを言う。
「そ、そういうもの? って、ケビンさんどうしたの? なんか顔色が悪いんだけど」
「え?」
リースすら、太陽の娘の引力に引き寄せられていたのだろうか。そうでないと、この仲間たちの中で一番ケビンを知っているリースが気付かないはずがない。
リースが振り向いた時には、ケビンはもう膝から崩れ落ちていた。
「ケビン!?」
「え、え!? ちょっと、本当にどうなってるの!?」
突然のことに驚くリースと状況を理解できていないエステルが慌てふためく中、ヨシュアとカイトが彼の近くへ駆けよる!
「さっきのあれの反動か……!」
「ああ、既視感あると思ったら……レーヴェのことじゃんかよ!」
「無様な所をみせてしもたな……二人とも」
ケビンは文字通りの苦笑いを浮かべ、懐から方石を取り出す。
「すまんリース……さっきの話はまた今度や」
消え入りそうな声だった。カイトがリースを呼びかけ、彼女はケビンの傍に駆け寄った。
「ケビン!?」
「しばらく、お前に任せる……今はとにかく、先に……」
ケビンは、それを最後に言葉を続けなくなる。
ずっと一同を導いてきたケビンが、ここへ来て停滞する。
影の国は、さらに混迷の様相を深めていく。
淀みない探索は、一時中止された。ケビンを介抱する者たちと、そしてエステルに事情を説明する者たちに分かれる。
当初は混乱に混乱を重ねたエステルも、彼女をよく知るヨシュアの懇切丁寧な説明によって早く理解していた。
「そっか……そんなことがあったんだ」
納得するエステル・ブライト。彼女もまたカイトと同じように、新人とは言えない空気を醸し出している。
「しかしまあ、聞けば聞くほど信じられないことばかりって感じね」
エステルの言葉には同意しかない。
階層は現在、第五星層の手前。エステルを解放し、仲間の数は十五人となった。未だ判らないことは多い。
だが、見えてきたこともある。ケビンと彼を介抱するリースがいないからこそ、一同は改めて未解決部分を整理していく。
影の国が、不可思議な法則によって構成された世界だということ。恐らくケビンを軸にして、それに縁ある人々が何らかの理由で巻き込まれているということ。
謎も多い。影の王及び黒騎士の正体。さんざん使用している方石及び女性の霊の正体。影の国の成り立ちと真相。
だが、ここへ来て謎が一つ増えてしまったと言える。それは零から話を聞いていたエステルが気付いた。
「でも、ケビンさんが気絶したことは、どういうことなの?」
ケビンの戦いを見ていたのは、リース、ヨシュア、カイト、アガット、ミュラー。全員が一つの現象に確信を持っていた。
ミュラーが言った。
「我々を拘束していたあの結解を破った力。そしてその時に現れた、紅い紋様の光だな」
オリビエが、彼独自の知見から進める。
「七耀教会に伝わっている法術当たりかもしれないが……」
だが、一番わかっているのはヨシュアだった。
「……あれは多分、《聖痕》だと思う」
一同にとって、それは意外な言葉だった。スティグマとも呼ばれる、ヨシュアの過去に関わる刻印。
ヨシュアの肩に出現していた、身喰らう蛇の紋様。それは白面のワイスマンがヨシュアを制御するために埋め込んだ術式、その深層意識のイメージが肉体に現れた結果だった。その暗示はまさに体に出るほど強力なもので、実際にヨシュアはワイスマンに改造されることにより超人的な戦闘能力を発揮している。
だが、とヨシュア。
「ケビンさんのあれも同じ。ただし僕に刻まれたものより、はるかに強力なものじゃないかと思う」
ヨシュアに渦巻くそれの恐ろしさはここの全員が知っている。だから聞いただけでは、それよりも強力だというケビンのそれは想像しようがない。
だが《深淵》のアスタルテと対峙した者は、納得しかできなかった。幾千もの禍々しき槍。あれはヨシュアのそれを容易に超え得る。
言葉にできずにいると、「よく気づきましたね」とリースが現れた。
リースは言った。ケビンの気絶の原因は、精神に過度な負荷がかかったことによるものだと。そしてそれは、《聖痕》によるものだと。
「しかしヨシュアさん……貴方のそれと違い、ケビンの《聖痕》は《原型》と言えるもの。
それは、カイトが既に聞いていた情報を補足するものだった。
ゼムリア大陸中部、七耀教会総本山であるアルテリア法国。その国を運営する典礼省、憎兵省、そして封聖省といういくつかの省庁。
封聖省の直轄の組織、星杯騎士団を統括する十二名の特別な騎士たち。彼らは一人一人が特別な異能を持つという。
リースはオリビエの噂話を否定しなかった。その異能とは、各々の聖痕の力によるものだと。
「通常では考えられないような肉体の強化や、高度な法術の使用を可能とする力の源泉です。ケビンはその聖痕を持つ、十二名の守護騎士の一人。第五位の位階を持つ人間です」
守護騎士第五位、《外法狩り》ケビン・グラハム。それが彼の正体だったのだ。今までの飄々な不良神父の像からすると、まったく考えられない。
アネラスは神妙に話を聞くのみ。
リースは続けた。
「本来の聖痕は意図して埋め込められるといったものではありません。あくまで自然発生的に現れるものだとされています。そして守護騎士の数は歴史を通じて常に十二名、どの時代にも必ず、聖痕を宿すものがどこかに現れて守護騎士になるといわれています」
ケビンとヨシュアが共鳴する理由が、今やっとカイトも理解できた。同じ魂の痕を刻む者。それがいかなる理由であれ、同族意識を生んでいたのだ。
ヨシュアに聖痕を植え付けたワイスマンは、封聖省に所属する司教だった。ワイスマンは司教職時代から身喰らう蛇に通じており、様々な秘蹟を盗み出していた。それがワイスマンの能力の本質であり、意図的に超人と作り出す技術を完成させたのだ。
カイトはレーヴェの言葉を思い出す。ノーザンブリア自治州の孤児、《塩の杭》と言われる悲劇の被害者だという、白面の過去。
(そうか、ただの悪い奴じゃなくて、教会に反逆した《外法》だからケビンさんが……)
アガットが問うた。
「その《聖痕》ってのはなんとなく判ったけどよ。どうしてケビンは倒れたんだ?」
ミュラーも続ける。
「聖痕とは、そこまでのリスクを伴うものなのか?」
リースが答えた。
「ケビンは聖痕の力を滅多には使わないそうです。唯一、それを解放するのは外法を狩るときのみ。『後戻りできない大罪人を処分する時だけ』と聞いています」
中枢塔でアンヘル・ワイスマンと戦った時のケビンの表情。それに納得がいった、エステル、ヨシュア、カイトだった。
「滅多に力を使わなかったから、その反動で倒れた。そういうことですね?」
カイトの質問に、返答役のリースは言葉を重ねるのみ。
「ええ、恐らくは」
リースは、ケビンの代わりに探索を続けるという。そして彼女はここの全員と初対面だ。探索を続ける上で信頼関係を築くために、リースはここまでの秘匿情報を明かしたのだと。
リースの態度が、少し変わっている気がした。出会ったばかりのカイトから見ても、それまでの様子とは少し違う。彼女もこの影の国の探索を通じて、何か思う所があったのか。
彼女自身ケビンのことは心配でたまらないだろうが、彼女もケビンと、そして仲間たちを信頼し始めているのかもしれない。
「倒れる前、ケビンは私に方石を託しました。これも従騎士の務め……どうか気にせず皆さんに協力させてください」
そこまで言われるのであれば、否定する者はいなかった。これも太陽の少女に染められた仲間たちならではの態度なのだろう。
そしてお人好しの張本人たるエステル・ブライトは、変わらないにこやかな笑顔を浮かべて言うのだった。
「なら、リースさん。私も連れて行ってくれない?」
────
リース、エステル、ジョゼット、アネラス、シェラザードの五人は、方石によって第五星層の探索へ出た。
その間、仲間たちは交代でケビンの様子を見守る。衣、食、住。現実世界と違ってそれほど住の要素が整ってない隠者の庭園──そもそも食の要素が整っているというのは不思議でならないカイト──だが、長椅子などはあるので簡易の休憩をすることには事欠かない。
ケビンは書架の長椅子で横になっている。
ジンはアガットと共に、泉へ向かう途中の広場で模擬戦をしていた。
オリビエは庭園のどこからか拝借したらしく、リュートを使ってお得意の演奏を披露していた。それをティータが和やかに両手を合わせて聴いていて、その後ろでミュラーが控えつつヨシュアと何やら話をしている。
ユリアは一人で泉の広場で息をほうっと吐いていた。彼女にしては珍しい一人休憩だ。
そんな中、カイトは何分毎かの当番としてケビンの介抱のために来る。
「変わらず書架は、本が多いけど……」
静かに胸を上下させているケビンは、傍目に見ても落ち着いていると言っていい。カイトが見たあの戦闘。《外法狩り》という渾名を持つに相応しい雰囲気が、今は嘘みたいに落ち着いている。
「はぁ」
カイトはケビンが横たわっている椅子とは別の椅子に座りこんで、溜息を吐いた。
予想以上だった。《世界》が抱える闇というものが。
異変後の祝賀会でカイトは新しい目標を持った。『このリベールだけじゃない。全ての国の全ての人々を守りたい』という。
その目標は、珍しいと言っても抱くまでにおかしいものではない。彼が遊撃士を志し、実際の支える籠手としてリベールを走り抜いたあの日々。国や民を脅かす結社との闘いを考えれば、元々少女を守りたいと思った感情から波及した目標は、至極当然のものではある。
叶えられるかどうかは別にして、そもそも支える籠手は子供にとってのヒーローであるわけで。
「……ヨシュアが《凄い》やつだから、それでよくやったと思っちゃったんだろうなぁ」
どうやら自分は勘違いしていたらしい。
人が抱える事の重さは比べるようなものではない。だがヨシュアを取り巻くワイスマンの呪縛は、控えに行って文字通り闇といっていい。その呪縛を取り払えたのだから、きっと自分たちの力は通じるのだと。
「そもそもヨシュアを取り戻したのは、エステルやカシウスさんのおかげだったよ……」
別に、覚悟をしていないわけではない。ケビンの過去を恐ろしいものと思えるような、生き様が滲み出るあの紋様。
世界には、闇が多い。その認識が甘かった。自分が予想した以上に、ずっと。
「カイト」
「あれ、姉さん?」
クローゼが書架までやってきて、カイトに声をかけた。
「どうしたのさ?」
「ケビンさんの様子が気になったから」
降りてきたクローゼは、二、三冊本棚から本を選んでカイトの隣に座る。
「ケビンさん、どう?」
「うん、だいぶ落ち着いているよ」
ティータとか他の人が介抱しているときは時折唸っていたらしいが、少なくともカイトが来てからは特にそんなことにはなってない。
「カイトは、ケビンさんの戦闘を見たんだよね?」
「見たよ。皆に説明したとおりだったけど」
「他にも何か感じた?」
「うん……正直、恐ろしさもあった」
それはカイトが見た通りのもの。言葉に説明するのは難しい複雑な感情だ。
「そっか」
カイトは溜息を吐くのだが、それを感じたのかクローゼは話題を変える。
「クロスベルに行って三か月……調子はどう?」
「うーん、まあまあ、かな」
初めはとにかく目が回るような忙しさ。慣れたと言っても未だ協会支部で夕食を取ることも多い。やっと定期的な休みを取れるようになってきた。
遊撃士がクロスベル市民から歓迎されているのも大きかった。その真相は前にアリオスと話し合った通り、少し複雑な嬉しさだったが。
色々な出会いがあることも伝える。堅物捜査官や不良たちのようにいけ好かない人たち、先輩やシズク、アルスたちのような恵まれた出会いも。
「そっか……よかったね」
クローゼが穏やかに笑った。
「姉さんは、調子はどうなのさ?」
「うーん、私も勉強と視察の毎日、かな」
お互い《異変》を境に生活が大きく様変わりしたものだ。カイトは田舎孤児院の遊撃士から、激動の魔都の遊撃士。クローゼは王立学園の生徒クローゼ・リンツから、クローディア・フィン・アウスレーゼ王太女に。百八十度変わったと言っても過言ではない。
クローゼの場合元々の勉学をさらに、帝王学ともいうべき特化されたものに。そして王国内の各地への視察も多くなってきたのだとか。
「お祖母様、『そろそろ私の名代として諸外国に向かってもらうかも』って言ってね。緊張してきたよ」
とはにかむクローゼ自身、《異変》の時のような後ろめたい顔ではない。今この時の事でないこととは言え、武者震いのような空気を感じる。
「うへぇ……それは緊張するなぁ。ってことは、もしかしたらクロスベルにも?」
「うーん……クロスベルは二大国の意向が強くて、そうそう王国の人が赴いたことはないんだって」
現在クロスベルの現状を理解しているカイトは、頷くしかなかった。
「まずはレミフェリア公国に。その次は、カルバード共和国に、かな」
「そっか。クロスベルに行ったら、ミシュラムに寄るといいよ」
「ミシュラム?」
「保養地だよ。オレはまだ行ったことがないけど」
「じゃあ、機会があったら一緒に行きたいね?」
「あー、まあ……そうだね。一緒に行けたら」
それは家族としてだよな? と思うのだけれど、カイトは気まずくなって話題を変えることにした。
「……ところで何読んでるの?」
「これだよ」
カイトは、にこやかに笑うクローゼが差し出した書物を見た。
《導力革命と進化する政治》、《災害復興~大公国の崩壊~》、《ディストピアへの途》。
「絶版になった本もあってね。この書架、とてもいい所だね」
「……そうだね」
リベール王国時期女王の恐ろしさを感じた。そしてさすがアリシア女王陛下の孫娘だと思える。
と、突然クローゼが読んでいた本をパタンと閉じて、カイトを見た。
「カイト」
「ん?」
「悩み事があるなら、聞くよ」
顔に出していたのかは判らない。それとも、ケビンを見ていたカイトの顔を見られていたのか。
戸惑いと共にクローゼを凝視すると、クローゼは目をつぶりながら笑って、
「弟のことだもん。それくらい、喋らなくたって判る」
と言った。
「あ」
カイトは思いつくものがあった。自分がクローゼに向け放った台詞を思い出す。
『姉さんのことだ。それくらい、喋らなくたって判る』
カイトは顔が熱くなるのを感じた。
「ふふ、この間のお返し」
そう言えば、自分は過去に何度かクローゼの台詞を流用したようなことがある気がする。というより、信頼し合っている義姉弟なので自然と言葉選びも似ているのだろうが。
というより、今のは明らかにクローゼが祝賀会の時の事を意識しての発言なのだろうが。
「……ずるいなあ、ほんと」
「それとも、私じゃ信用できない?」
「いや。ていうかそこから先は本当にずるいから……」
カイトはわしゃわしゃと頭を掻いた。本当に恥ずかしい。
観念して、カイトは両腕を上げた。
「判った、判りました。白状します」
「ふふ、よろしい」
カイトは、先ほどまで考えていたことをそのまま伝えることにした。
一番最初にクローゼに明かした自分の目標のこと。ヨシュアとケビンのことを考えると、少し
その一通りを聞いたクローゼは、ほんの少しだけ沈黙してから、カイトを見た。
「ねえカイト。エステルさんって、どんな人?」
「え?」
「いいから、答えてみて」
「うーん……」
なぜ今エステルのことを、と思うも、義姉に言われた通り従う。
「……太陽の娘。快活、優しい、リーダー、お人好し。あと、能天気」
「こらこら」
最初は影の王、最後はジョゼットから借りた。
「なら、戦闘技術は?」
「そんなの、一長一短だからなあ。今ならそう簡単には負けないって言いたいけど」
「ヨシュアさんや、ケビンさんとは?」
「うーん……」
エステルには申し訳ないが、あの二人と比べると彼女はまだまだとしか言いようがないだろう。
「でも、それでもこうやって一緒に戦っているのはどうして?」
「そりゃ、オレたち全員含めて仲間だからさ」
「うん、そういうこと」
カイトは疑問符を浮かべた。
「エステルさんはとても素敵な人だけど……私たちと何も変わらない一人の『人』でしょう?」
「うん……あ」
エステルはその輝きを持っているということについて、中々いる人間ではない。だがクローゼの言うこともまた、どこまでも真理であることには変わらない。
自分が言った言葉がそのまま返ってくる。
『どんな場所のどんな人たちでも、何も変わらなかったんだ』
クローゼは穏やかな顔をしていた。
「偶然なのか必然なのかは判らないけど、エステルさんは、
「うん」
「簡単なことじゃないけれど、きっと同じことが、他のどんな人とでもできると思う。その人が、そう在りたいと強く望む限り」
それは、大きく現状が変わったわけでも、問題が解決したわけでもない。
だが、確かにカイトの『絶望的な闇の中で、自分はとてつもなく甘かったのではないか』という問いは変容した。
「それに、不可能だからといって諦めたくはないんでしょう?」
「あー、そっか。そうだったよ」
さすが王太女であり、自分の義姉だった。
クローゼとカイトは、ともに笑った。
「すこし、後ろ向きになりすぎてたかな」
祝賀会の時の時と同じ。異空間という違いはあるが、それでも満天の夜空の下。
「そうだよ。カイトはきっと、今のままでいいから」
クローゼのその顔は、とても印象的だった。