「お兄さんは、今リベールにいるの?」
隠者の庭園の片隅で開かれた、レンとカイト、たった二人の小さなお茶会。
カイトによる数々の質問の後、逆にレンから聞かれたのはそんなことだった。
「はは、さすがにオレの情報までは追いかけてないか」
カイトは朗らかに笑った。執行者と言えば、なにかと情報通のように感じていたのだ。隠形を得意とするヨシュア。なぜが変態的に情報収集能力のあるブルブラン。レーヴェはワイスマンの過去まで把握していた。
裏社会の情報は、表の人々にはそうそう回ってこない。だがここまで情報を知られているとなると、案外表と裏の境界に厚い壁があるだけで、裏同士では知っていて当然のことも多いのかもしれない。
いずれにせよ、レンも情報通だとは思っていた。だがさすがに大局を左右しない一少年遊撃士の行く末などそうそう情報網にも引っかからないだろう。意識的に探そうとでもしない限り。
「今はクロスベルにいるよ」
「……そう」
「遊撃士としての目標を叶えるためにね。修行中なんだ」
返答に違和感を感じた。だがその理由までは判らなかった。
「どうして気になったんだ?」
「別に、どうでもいいことの一つよ」
「そっか」
「お兄さんはどうして遊撃士になったのかしら?」
「気になる? エステルもヨシュアも遊撃士だもんな」
「……」
本気と冗談の中間程度の嫌悪感を感じた。顔は年相応にむくれている。いまいち一貫性のない反応。天才とはいえ十歳過ぎの子供だからなのだろうか。どれだけ卓越した能力を持っていたとしても、それを正しく扱えるようになるための時間は絶対に必要だ。
中枢塔での彼女の顛末は聞いている。彼女は今、感情も能力もあらゆるものを持て余しているのかもしれない。
クロスベルにいる、という答えに対する反応。一つ思いついたことはあったが、それを口にするのはやめた。それは前を見据える彼女の眼が、暗い深淵を除いているように見えたから。
だが、唯一彼女に勝る年齢を持つものとして、傲慢にお節介を焼くことは、一回くらいなら構わないのではないだろうか。
「エステルとヨシュアと、追いかけっこをしてるんだって?」
「勝手なエステルがワガママを言っているだけよ」
「でも、あのヨシュアをとっ捕まえたエステルだよ? 油断したらつかまっちゃうんじゃないか?」
「仮にそうだとして、レンを捕まえてどうしたいっていうのよ」
「さあ……オレも詳しく聞いてないから判らないけど。でも、一つ予想はあるよ」
エステルがヨシュアを探し出したのは、大切で大好きな家族だからということに他ならない。外ではなく、自分の内にあるものとして。
「エステルにとってレンは、我が儘に追いかけまわしてでも捕まえて、そんで近くに来てほしい子だってこと」
「……」
こうまでかみ砕いて説明すれば、さすがの反抗期娘も理解してくれたか。少しだけ、目が潤んでいるようにも見えた。
「有り体に言えば、大切な存在だってことさ」
「所詮は、他人よ」
「他人だって、大切な人はいるだろう? エステルとヨシュアは義姉弟だし。……そうだ」
このお茶会はレンとカイトのものだ。せっかくなのだから、自分のことも語りたい。
「なあ、レン。オレの家族のこと知ってる? ……まあ知らないよな」
「あのお姫様のことかしら」
「まあ、クローゼ姉さんは言っちゃえば家族じゃないんだけど。オレの今のお母さんと、弟妹たち。みんなも元々赤の他人だったんだぜ?」
「そうなの?」
「マーシア孤児院。ルーアン地方の海岸沿い近くにあるんだ。良ければ今度、遊びに来てくれよ」
「レンをそんなに簡単に誘っても大丈夫なのかしら」
「まあ……あの大鎌を振り回さなければね」
苦笑しながらレンに冗談を返した。なんとなくであるが、パテル=マテルに関しては危害さえ加えなければ子供たちははしゃぐのではないかと考えた。現実にそんなことがあれば自分がテレサに叱られると思う。
カイトは《家族》について考える。とはいっても、考えるというのもおかしいと笑う。
多くの人にとっては、家族と言えば血縁者と言うのが当たり前なのだろうか。カイトにとってはそうでないのが当たり前だったので、考えるというよりはすでにそこにあるもののようにも感じる。
「血の繋がりは、もちろん大切だと思う。切っても切れない関係だ。でも何も家族ってのは、それだけじゃないと思う」
もちろん実の父と母にも、愛と呼べるであろう思いがある。何があったと言えなくても、遠い昔感じだ温もりは、今もどこかで感じている。けど同時にカイトには血による絆というものが今一実感しづらいのも事実だった。少なくとも、自分の家族としては。
血縁の家族だって、仲間内のように愛して、尊敬して、失って悲しんでいる人たちがいる。一方で、つい最近自分は見た。見てしまった、子供たちに本当の意味での眼を向けないアスベル・A・アレスレードのことを。
「家族の定義なんて、人それぞれだよ。でも……」
ここまで話して、思いつくものがあった。レンに違和感を感じたのだ。
彼女にも両親が、家族がいるはずだ。だとすれば、この大陸のどこかには確実にレンの肉親が、あるいはその残り香が存在しているはずだ。
自分だって、テレサとの会話で行きついて、アリシア女王との語らいで決意したこと。
だから、カイトは思う。先の自分の言った言葉と反してでも口にしてしまっていた。
「血の繋がった人のことも、見てみたいよな。会って話して、触れ合ってみたいよな」
「……そうね。貴方の家族と、会えるといいわね」
レンは立ち上がった。唐突な行動で、カイトは追随する暇もなく、見上げるのみだ。
「レン?」
「付き合ってくれてありがとう。それじゃ、私は失礼するわ」
「……楽しかった?」
「つまらなかったわ、とは言わないわ」
「……それじゃあ及第点だ」
レンは身軽な挙動で階段を上っていく。さすが執行者という身のこなしだった。
「……んー」
未だ夜空に足を延ばしたまま、カイトは独り言ちた。
こんな自分だが、少しは彼女の何かに触れることができなのか。それなら、それが彼女を怒らせない程度なら、エステルと同じ仲間としても嬉しい。
それにレンと自分に共通点を見つけられるとは思わなかった。
自分は祖父母の話を、導力停止現象下のテレサとの話まで聞いたことがなかった。少なくとも、、未だリベールでレグメントを姓にもつ人間や、父アラン・母ライラの知り合いに会ったことがない。
さっきは、レンを諭すような感情が強い『会ってみたいよな』だ。だから次の台詞は、自分に向けられたものだった。
「俺も少しだけ……会ってみたくなったなぁ」
後ろから声が聞こえた。少女の声ではなかった。
「おーい、カイト君!」
振り返って見上げれば、ケビンが階上でこちらを呼んでいた。
「ケビンさん、今行きます!」
カイトは立ち上がった。今度は立ち上がるのに何も障害はなかった。
階段を時間をかけて上がりきって、ケビンと合流する。
「さっきレンの嬢ちゃんが変な顔して走ってたけど、彼女と何話してたん?」
「まあ、ちょっとお茶会を」
「それ俺らからしたらトラウマやんけ……」
「ですよねー、ははは」
彼女との話の内容は、秘密にしておいた。恐らく、今後しばらくはエステルとヨシュアにも話さない気がする。猫のように。
「それで、どうしたんですか? というか探索お疲れ様です」
おう、とケビンは軽く肩をあげる。彼が言うには、第二の試練の舞台は鏡写しとなった結社の研究施設だったらしい。そこでアネラスのパーティーであるグラッツ・カルナ・クルツたちが立ちはだかり、最終的な守護者はジンと関りの深い、キリカ・ロウラン女史だった。
リベールの異変の時、彼女はそれほど表舞台には上がらず、遊撃士協会受付としての職務を全うしていた。だが一部の人間が知るように、彼女の実力は得物を持てば執行者にも届きうるもの。ケビン・アネラス・ジンをはじめとした強者たちでも、相当苦戦したようだ。
その隠せない疲れに苦笑しつつ、ケビンはこう言った。
「次の試練場は《鉄壁の要塞》で、必要な《駒》はリシャールさんとユリア大尉だったんやけど」
ケビンの相棒として同行していたリースでさえ、疲労は免れていない。《方石》を扱うためケビンだけはパーティーから外せないとして、同行者の一新を図っての事だった。現時点でケビン・リシャール・ユリア。他に三人ほど、人選を募っているところだったのだ。
特に第一の試練でも同行しなかった人間に焦点が当てられている。
そろそろカイトも、戦いに参加したかった。縁者との接触と戦いは比べられない。けど、前向きな思いに少し熱が生まれたのは事実。
カイトは言った。
「是非とも、同行しますよ!」
────
ケビン・リシャール・ユリア・カイト・エステル・ヨシュア。これが第三の試練に赴いたメンバーだ。
理由はいくつかある。それは試練場を表す言葉が《鉄壁の要塞》だということに起因する。
影の国の舞台となる場所は、仲間たちが旅した場所。そしてリベールが圧倒的に多い。《鉄壁の要塞》は、一つしか浮かばなかった。必要な《駒》がリベールの軍関係者だというのにも、その予想に拍車をかける。
ならば道中で立ちはだかる強敵たちは。その果てに待ち受ける第三の守護者は。
希望者は多かった。アガットも名乗りを上げたし、レンも興味を示したし、シェラザードも恩返しをしたいとも言う。
予想される守護者と関係の深いエステルとヨシュアが選ばれることになった。カイトがそこに潜り込めたのは、立ちはだかる強敵たちとの多少の縁と、そして最初にケビンが話しかけたという運の要素が圧倒的に多い。
この場に少年がいたのは、本当に偶然だった。
それでも、必然でなくとも、カイトにはそこに立つ資格がある。彼がリベールの異変を駆け抜けた一人である限り。
「準備はいいですか? 皆さん」
ケビンは言う。言葉を受け止めるのは五人の仲間たち。その中でも、殊更に硬い顔をしているのはリシャールだった。ユリア以上に、必要な駒として選ばれたリシャール。《影の国》に現れた直後は自分なんかがいてもいいのか、そう言っていた彼だが、いよいよこの世界の理に指名されたことで逃れられなくなった。
「……ここまでお膳立てをされては、報いないわけにはいかないな」
それは独り言なのか、仲間たちに向けたものかは判らない。ただ一つ確かなのは、その言葉が意味を持って聞こえたこと。
リシャールは仲間たちと向き直った。
「ケビン殿」
「はい」
「君は今回の事件にある種の因縁を感じている。それは間違いないかな?」
「……ええ、否定できませんわ」
「ユリア大尉」
「はい」
「君は王太女殿下との今までとの距離の違いに、少しの戸惑いを感じている。それは間違いないかな?」
「おっしゃる通りです。同じ境遇の者と語らい、晴れはしました。ですが、確かにその感情は完全に拭えているわけではありません」
「そうか」
煮え切らない、とらえどころのない会話。だがそれは、彼にとって必要なものだ。
「こんなことを偉そうに指摘できる私ではない。だが、それを不躾にも掘り出したのは、私にも乗り越えなければならない壁があるからだ」
リシャールが影の国に来たことで露呈し、仲間たちにも晒すことになった王国軍への未練。
質は違えど、仲間たちはまだ迷いを秘めている者たちがいる。リベールの異変という危機は去った。だが夜が明けても次の朝が来るように、同じように、人間は新たな迷いと共に走り続ける。
恩赦を受けて立場としての遺恨を断ち切ったリシャール。その次は、心の迷いを断ち切るとき。それは幸か不幸か、今この時に訪れた。
「この壁を乗り越えたい。そのためにどうか……過去の逆賊たる私に、力を貸してほしい……!」
異を唱える者は誰もいなかった。それぞれの得物を構える鉄や布切れの音が、リシャールへの相槌だった。
リシャールが石碑に触れると、その瞬間に光が彼らを包み込む。
浮遊間に包まれる不思議な感覚の後、一同はその地に立っていた。
「やっぱりか」
「まさか、ここまでもが再現されるとは……」
ケビンとユリアは、すでに試練の祭場への転移を経験している、だから最も冷静に状況を把握できた。かつ、《鉄壁の要塞》が何を示しているかは、凡そ予想がついていた。二人は、神妙な面持ちで目の前の要塞を眺めていた。
カイトの意識と共に、今、要塞の門が開かれる。現実とは不釣り合いに大きく、禍々しい黄昏の太陽は、ぎらぎらと輝いている、その西日によって陰影を作りながら、百日戦役であの帝国軍の親交を寄せ付けなかった《レイストン要塞》が、門を開く鋼の咆哮を轟かせていた。
試練の祭場に控える人間は、直接的にせよ間接的にせよ、何かしらの形でそこに縁のある、仲間たちの知り合いだった。ここはリベール王国軍が誇る要塞。ならば、そこに立つものは果たして何者なのか。考えるまでもない。
一同は、慎重に要塞内を進む。幸いにしてリシャールとユリアがいたので、要塞内の構造を確認することは容易だった。再現されたものだが現実と寸分の狂いもないことを確かめると、さっそく守護者と見つけるために探索を開始する。
道中には、一兵卒やかつて情報部が使役していた軍用魔獣が立ちはだかった。今となってはそうそう後れを取る敵でもないが、それでもさすがは帝国軍を退けた王国の尖兵で、油断はできなかった。屋外に守護者はいない。ならば、立ちふさがるのは屋内か。
「要塞内は基本的に通路と部屋が多い。だが、侵入されたこことを想定し、撃退が可能な大部屋も配置してある。そこにきっと、守護者や立ちはだかるものがいるはずだ」
軍事機密だからくれぐれも内密に頼むよと、リシャールは冗談めかして言う。このあたり、ユリアよりはウィットに富んでいるらしい。どちらも真面目で自戒的なのは変わらないが。
そして。
そう時間をかけずに、彼が言うところの撃退用の大部屋に辿り着いた。
「遅いぞ! いったい!! 何を!!! 遊んでおったぁ!!!!」
部屋に入るなり、響き渡る怒号にカイトのみならず全員が顔を顰める。聞き覚えがある。王国軍の兵士すら腰を抜かしてしまうほどの大音声だ。
この場にいる人間で、彼を知らないはずはない。
「……お久しぶりです、将軍閣下」
「久しぶりだなリシャール。それより、儂の怒りはどこにぶつければいいのだ?」
「怒り、ですか」
「当たり前だ! 《影の王》だと? なんの説明も了承もなく勝手につれてきおって……まったくもって腹立たしい!!!!」
「し、心中お察しします……」
仲間内では年長であるはずのリシャールがたじろいでいる。リベール王国軍のトップ、《武神》モルガン。彼は、部屋の中央、やや奥に陣取り、完全に仁王立ちをしていた。腹立たしいなどと言うが納得のいかない様子なのに、この世界の理か彼の性格上か、完全に真正面からこちらを睨んでいる。
「シュバルツ大尉も壮健で何よりだ。だがそなたがいるということは、よもや王太女殿下も巻き込まれているのではあるまいな!?」
語尾が一々轟いている。カイトはうるさいと思ったが、発言とその怒りは自分も同じものだった。
「おっしゃる通りです、将軍閣下」
「なんということだ……! 貴様、ケビン・グラハムといったな!?」
「へ、俺? はい、そうですが」
「ええい、何をボケっとしておる。さっさと武器を構えんか!!」
モルガン将軍が、背後にかけられていた得物を手に取った。それは大斧槍。モルガン将軍が武神と称される所以。軍が機甲化する以前、戦場で何人もの兵士を蹂躙してきた軍神だ。
「貴様が今、リシャールたちを先導しているのであろう!? ならばさっさと道をこじ開け、殿下たちをお助けするのが筋であろうが!」
「ええ……とんだとばっちりやで」
「だからこそ、一息に決着がつくよう、この場に集まっているのだ、たわけが!」
一同が、予想外の言葉に疑問符を浮かべる。
そこで気づいた。モルガン将軍の怒号のせいで意識の外に言ってしまっていたが、この部屋には自分たちとモルガン以外にも、人の気配がある。
「ようやく気付きましたか。遅いですわよ、貴方たち」
一同の内、リシャール、ユリアが右を見た。かつて情報部の特務部隊が纏っていた戦闘服に身を包み、カノーネ・アルマティア──元情報部副官が壁に身を預けている。
「カノーネ君……」
「……久しぶりだな、カノーネ」
「閣下……このような形でお会いすること、恥辱の極みでなりません。ですがどいうか理解してください、私もモルガン将軍たちも、その望みに関わらず戦わざるを得ないことを」
「もちろん判っているさ。だが《閣下》はやめてほしいな。この場でそれが許されるのは将軍閣下のみ。君の《所長》と言う呼び方も、ようやくなじんできたのだからね」
そして、左手を見るケビンとカイト。
「あんた、確か波止場で会った情報部の特務兵やったか」
「神父も、少年も、それだけでなく、アランも大尉も、君たち姉弟も。もはや全員が久しぶりだな」
「ああ、そうだな……オルテガ・シーク。オレも久しぶりだなって思うよ」
カイトとケビンが見据える、黒衣の老兵。モルガン将軍ほどでないにせよ、大きな斧槍持つ彼は、かつてカイトの前に立ちはだかった強敵だった。
そして、もう一人。金髪の若者が、同じく特務兵装束に斧槍を持って立ちはだかる。
「俺もいるぜ。俺はまあ……神父は知らないがな。覚えているか? ガキンチョ」
「もちろんだよ……ルーク・ライゼン」
情報部クーデター、エルベ離宮解放作戦。突撃隊として解放に動いたカイト、エステル、ヨシュア、ジン。彼ら四人は覚えている。忘れるはずがない、正攻法では勝ちきれなかった強敵の存在を。
知り合いばかりの部屋で、特務兵上層部とモルガン将軍たちの話を聞きつつ、後ろに得物を構えたのはエステルとヨシュアだった。
「シード中佐、久しぶりじゃない!」
「ご無沙汰しています」
「ああ、そうだね。エステル君、ヨシュア君。まさかこんな形で会うとは……喜んでいいものか判らないが」
五人が入ってきた扉をたった今閉めて、袋の鼠にした人物。彼もまた、リベール王国軍の関係者。レイストン要塞の守備隊長、マクシミリアン・シード中佐。
過去と現在をひっくるめた、王国軍の精鋭たち。それがレイストン要塞における守護者との戦いの前哨戦というわけだ。
四面楚歌となった六人はたじろぐ。一人さでは大した数の利もなく、相手の五人は誰もが本物の強敵たち、誇りある王国軍の精鋭だ。
にしても、モルガンはあえて人を集めたといった。それは本来であれば、彼らを一人ずつ相手取ることになっていたのであろうか。
モルガンは、改めて大斧槍を構えた。徐々に、彼の白虎のごとき覇気が見えてくる。
「旧知の仲。久しく、身を削り合った相手だ。全員、それぞれ投げかけたい言葉はあるだろう。だが、儂の意志は変わらん。殿下たちを一刻も早くお救いするために無駄な時間を使う気はないのだ!!」
それが、この世界に囚われて諍えないモルガン将軍の、たった一つの優しさだった。泣く子も黙るモルガン将軍、その厳しすぎる優しさだ。
「来い! リシャール、それにカシウスの息子たちよ! 儂が直接相手をしてやろうっ!」
「将軍閣下……」
「どうやら、退くことはできなさそうね!」
「うん……この上ない強敵だ」
シードが、その身に翡翠のきらめきを纏いながら剣を構える。
「それに、この人数とはいえ私たち程度を退けられないようでは、司令室で待つ《彼》に勝つなんて、夢のまた夢だろうからね」
「……やっぱ、奥に待つのは《彼》ですか。こりゃえらいきついでぇ」
「謙遜することはないよ、ケビン神父。私はレイストン要塞の守備隊長……ここは因縁の少ない者同士、互いに裏方に回るのはどうかな?」
ケビンは、最近の彼にしては珍しくにこやかな笑顔を浮かべた。
「おお、良いですね。ほな防衛戦と参りましょうか。仮にも現リーダー、そして星杯の騎士として、守りについては負けませんでぇ」
事件の発端となったレクルスの方石、それをめぐり語り合った二人が、今対峙する。
「わたくしは閣下に切り捨てられないのは悔しいですが……でも、あなたとの腐れ縁も飽き飽きしていたところです。過去の忌まわしき姿を断ち切るために、今日こそ決着をつけますわよ、ユリア!」
「そうだな、何だかんだ、波止場ではお互い仲間がいた。これが正真正銘、一対一だ。行くぞ、カノーネ!」
こちらは文と武、士官学校時代に双璧をなした二人だった。これが二度目の戦いだ。
そして。
「脇役には、脇役の戦いがある。さあ、ガキンチョ。オルテガさんを退けたその胆力、俺にも見せてくれよ?」
「誰がガキンチョだっ! 今日こそ覚えてもらうぞ、オレの名前は、カイト・レグメントだっ」
斧槍を振り回す、ルーク・ライゼンと、そしてオルテガ・シーク。
「私も、君と矛を交えたいものだ。君の意志が、異変でどう成長したのか。私たちに示してくれ」
「ああ……もちろんだ!」
カイトもまた、己の双銃を構えた。そして、青の波を纏う。シードと同じように。
一触即発、舞台は整った。
「決まりだな。儂らは、逃げも隠れもせん。求められるのは嘘偽りのない真剣勝負。必要があれば、陣形の変化でも暗技でも、いくらでも試すがいい。こちらもあくまで、
夕暮れのレイストン要塞。一瞬の沈黙。
「では……行くぞぉおおお!!!!」
モルガン将軍の大斧槍が、雷のごとき地鳴りを生み出す。
それに負けじとリシャールが咳き込まんばかりに声を張り上げる。
「全身全霊で、挑みますっ!!」
レイストン要塞が、震えだした。
モルガンVSリシャール・ブライト姉弟(ガチンコ対決)
カノーネVSユリア(女の意地)
オルテガ・ルークVSカイト(ガチンコその2)
シードVSケビン(戦線の制御対決)
一応、ほかの戦線に割り込んでもいい。
レディー、ファイッ!
次回、37話
「帝国を穿つ閃」
投稿が遅くなりました……
1ヶ月前に発売した復讐の旅を見届けるゲームがね……最高すぎて止まらんのです。
あれほど心を動かす物語を見るとね……自分のものがかすむのです。別に落ち込んでるわけではないのですけど。
それはそうと、創の軌跡もあと1ヶ月で発売で楽しみですね。