心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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38話 帝国を穿つ閃④

 

 

 そこは、この世とは思えないほどの有様だった。あの世の果て、という言葉すら生温い。

 まさに煉獄と言う名が相応しい。瓦礫で積み上げられた大地と、地獄の業火が燻る世界。

 セレストはケビンの居場所を特定した。そしてこの影の国のルールに則り、巨大な門を開いた。それは禍々しさが威容を放つ煉獄門ではあったが、確かにケビンとリースが捕らわれている場所に直結していた。

 仲間たちと共に光の中を走る。その先に見えたのが煉獄と……そして、仲間たちのリーダー。

「大丈夫!? 二人とも!」

 最初に視界が晴れたのは先頭にいたエステルだった。順にヨシュアが、カイトが、他の仲間たちがどんどん前へ駆けていく。

 煉獄そのもの。辺りには熱気が漂う。仲間たちの視界の先には、ケビンとリースと、なぜかギルバートと……そして無数の悪魔の群れがいた。

「いいタイミングで到着できたみたいじゃねえか!」

 ケビンは膝をついて呆然としていた。リースは、そんなケビンを守ろうと法剣を構えていた。

 すでにボロボロな様子の二人だが、確かにその瞳は輝いていて、生きている。

「き、君ら……」

 動揺しているケビンたちを励ますべく、カイトは声を張り上げた。

「セレストさんにケビンさんたちの居場所を探ってもらったんです!」

 クローゼが続ける。

「本当につい先ほどです! 繋いでもらったこの門を潜れば、庭園に戻ることができます!」

 二人の様子を見るに、今の状況の前にも激戦と苦しみがあったのだろう。生きて仲間たちの元へ帰れる。クローゼが示したその光はケビンたちにも活力を与えた。

「……助かります!」

「話は後だ! 今から突入してそいつらの包囲を崩す!」

 ジンが開口一番、両腕に氣を集め、一息に雷神掌を放った。それで悪魔たちの注意がこちらに向く。

「君たちは、とにかく門の中へ飛び込むがいい!」

 ミュラーは叫び、自らの剛剣に雷を纏わせる。その剣の切っ先が、迷いなく悪魔たちに向けられた。

「おおきに!」

「よろしくお願いします!」

 二人の合図を受けたと同時、カイトが纏っていた琥珀の輝きが収束し、巨大な石柱が悪魔を押しつぶす。

 オリビエが導力銃を掲げた。

「それでは始めるとしようか……灼熱の炎の中、悪魔たちと踊るダンスを!」

 ケビンとリース、ついでにギルバートが走る中、仲間たちは特攻と補助に分かれて悪魔たちに強襲した。

 悪魔たちはアスタルテほどではないにせよ、それでも高位の存在だった。だが、ここにいるのは歴戦の仲間たち。勝つ必要のないこの戦いにおいて、逃げるための時間を稼ぐのはそう難しくはなかった。

 悪魔たちを大規模魔法で遠ざけ、ケビンたちが無事門へ入ったのを見届けて、仲間たちも撤退に転じた。

 再度門を潜り、庭園で待機していたセレストに合図を送る。そうして門が閉じられ、庭園には全員の大きな深呼吸だけが聴こえるようになった。そこに煉獄の熱気はなく、夜空の優しい冷たさが体を冷やしてくれる。

 時間としては数時間にも満たない別れだ。だがリーダーという指針の不在と、その経緯の衝撃はあまりに大きかった。仲間たちはケビンに声をかけて再会を喜び、ここまでの道程を労いつつ。それでもカイトやエステル、クローゼ以外の仲間たちはケビンたちの経緯を直接聞くことを望んでいた。

 それはケビンとリースも判っていたようだった。だからケビンは小休止の後、仲間たちを石碑の前へ集めたのだ。

 ケビンが一同の前に、そしてその隣にはリースを控えさせ、仲間たちの前に立つ。その二つの枠の外には、状況を見守っているセレストがいた。

「以上が、この事件の真相です」

 そこで語られたことは紫苑の家にいた三人が知ったこと以外にも、多くの彼の葛藤があった。《外法狩り》として外法を処刑することで自らを傷つける苦しみ、《異変》の時に仲間たちを利用し続けたこと。

「全ては俺が元凶です。皆さんはそれに巻き込まれただけ」

 ケビンの瞳は真っすぐだった。それは今までの剽軽な顔つきとも、冷酷な目つきとも違う。真摯なもの。

「申し訳ない……お詫びのしようもないですわ」

 深々頭を下げた。それはまさしく、今のケビンにとって嘘偽りのない感情で、彼がしなければならないと感じていること。

 そして、ようやく仲間たちと向き合うようになったケビンをあえて突き放すようにエステルは優しく微笑む。

「どうしてケビンさんが恐縮するの?」

「エステルちゃん……そりゃ、だって」

 ミュラーが遮った。有無を言わせない速さだった。

「話を聞く限り、環を失った影の国が主を求めるのは必然……ならば、君がいようがいまいがそれに相当する事件は必ずや起こったに違いない」

 輝く環が、それがケビンが影響を与えた結果であれ失われたのは事実だった。ならば他の誰かが選択されて影の国が誕生した事実は変わらないのだろう。

 ケビンが教会の人間だったにせよ、そうでなければ煉獄は生まれなかった。もっと無秩序な世界が生まれていたかもしれない。

「別にお兄さんのことをかばうわけじゃないけど。ある意味、影の国に選ばれたのがお兄さんだったのは幸いかもしれないわね」

 才ある少女であるレンは説明する。影の国が曲がりなりにも秩序を保っているのはケビンの聖痕が絶大な支配力を持っているからだという。

 その無秩序な世界では混沌を制御できずに影の国が暴走し、この十七人以上の人間が取り込まれていたかもしれないというのだ。

「それはそれで楽しいお茶会になりそうだけどっ」

「レ、レンちゃん……」

 苦笑いを浮かべるティータに追随してカイトもため息をついた。

「さすがにそれは勘弁してほしいな……」

 ケビンを中心とした十七人。それだけでない、クルツたちや、戦闘能力のない人々や、果ては執行者すら出現してくる可能性もあったかもしれないのだ。寒気がしてくる。

 ジンはあっけらかんとして言った。

「ま、そういう意味でも気に病む必要はないだろうさ」

 リシャールはカシウス戦の後休憩を重ね、ようやく調子が戻ってきた。疲労の表情は隠せないが、彼は彼で年長者としてケビンに一つの教えを説く。

「我々は立場も違えば生き様も違う……だが、この場にあってはすでに運命共同体だ」

 ケビンを責める者はいなかった。普通に考えれば困難な状況には違いないのに、誰もが楽観的にケビンに言葉を送っている。

 最初の頃、エステルやカイトのお人好し加減に驚いていたリース。彼女は嬉しさと驚きが同居して、言葉をうまく吐けなかった。

「皆さん……」

「はは……あんたら、ほんまアホやな。揃いも揃ってお人好しすぎるっちゅうか……」

 不良神父は、もはや不良神父自身が懺悔するような表情だった。諦めたような、悲しいような、それでいて救われているような表情だった。

「こっちは最初から最後まで利用するつもりだけやったのに……なんでそんな」

「まあ、人間諦めが肝心って言いますし」

「カイトの言う通りね。あたしたちに関わったのがケビンさんの運の尽きってやつよ」

 と、リースをしてお人好し代表のエステルとカイトがああ言えば、ジョゼットが即座に返した。

「ボクたちっていうより、主にアンタじゃないの? 強引だし、お節介だし、逃げても喰らいついてきそうだし」

「あ、あんですって~!?」

 お決まりの喧嘩腰だった。それに対してシェラザードもレンも、ティータ、アネラスも女子は全員ジョゼットに同意していた。というよりこの場に反対する者はいなかった。

「うんうん。私たち、まとめてエステルちゃんの影響を受けちゃってるんだろうね」

 アガットがにやりと口角をあげた。

「ま、確かに揃いも揃ってアホなんだろ。これだけ状況が厳しいのに切羽詰まった感じがしねえからな」

「これだけの面子がここに集まっているのだからね。第一皇子の名に懸けて、今ならエレボニアを国家転覆することだって──痛いミュラー痛いって!!」

「また貴様は微妙な発言を……!」

 お決まりの暴力を放つミュラー。カイトは呆れるしかなかった。

「また言ってるよこの人……」

 誰もが笑っている。浮遊都市のアルセイユの中で、中枢塔に行くことを決めた時も同じだった。四人の執行者と相対して、仲間たちに笑顔で「また会おう」と言ったときも同じだった。

「ハハ……降参や」

 ケビンは諦めたように言った。

「改めて……今度は本当の意味で改めてよろしくお願いするわ」

 それは彼の言う通り、今度こそ仲間の一人として合流したという証明だった。今度こそ、仲間たちはすべての想いを共有して、雑念もなく一つの目標に向かって走ることができる。

 影の王の正体が判った今、なすべきことははっきりとしていた。この事件の元凶であるルフィナ・アルジェントを止めることだった。

 煉獄にはケビンが葬ったというワイスマンが立ちはだかったのみで、ルフィナはいなかったという。

 ケビン達を救出する前にも話し合っていた。第六星層にも、第七星層にもルフィナの気配はなかったのだと。

「そうなると、姉さんはいったいどこに行って……」

『──その疑問には、私が答えられると思います』

 セレストはそう言った。

「セレストさん、さっきはホンマにありがとうございました」

『ふふ、良いのです。この場にいる以上は私もあなた方と同じ同志。仲間の一人としてそのくらいはさせてください』

 彼女はケビンたちの所在を探っていた。二人が煉獄に落ちたのと同時に判らなくなっていたルフィナの所在も、第七星層を調べる過程で掴めたのだという。

『影の王は現在、星層の外側にいます』

 星層とはつまり、影の王が影の国の中心に作り上げた多層構造物。その構造物の外側にも、原始以来の影の国は続いている。そこは何もない荒野のような形として放置されているのだが、影の王はその荒野の一点にいるのだという。

 だが、問題はその荒野の大きさだった。セレストは、荒野の広さはゼムリア大陸と同程度だと言う。輝く環や影の国の力が大陸規模にわたりかねないことの証左だともいえるが、セレスト個人の能力である方石の力は、庭園から離れすぎると使えなくなる。とはいえ徒歩となると、補給手段もない荒野を何週間もかけて移動しなければならなくなる。食糧を用意するのも現実的ではない。

 目的の場所が判ると同時に、到底そこには行けないことが判る。とてつもないジレンマだった。

 現実として、この世界から無事に脱出を図るには今影の国を支配している影の王を乗り越えるしかない。そうでなければ、自分たちは永劫この世界に閉じ込められたままだ。相手がわざわざこちらに向かうでもしない限りは。

 年長者や参謀役などがああだこうだとできる手を選択する中、解決の一手を与えたのは一人の少女だった。 

「あの……その……アルセイユは使えませんか?」

「え」

「ア」

『アルセイユ?』

 レンが、クローゼが、果ては全員が異口同音にその高速巡洋艦の名を口にした。

「アルセイユ……第一星層にあった偽物か?」

「え、えっとちょっと待って、ユリアさんもティータも何を言って?」

「ああ、カイト君は後ろの方だったから知らなかったか。翡翠回廊にあったんよ」

「それ初耳……」

 仲間たちはカイトを放っておくことにした。

「えっと、この影の国って人の願いが反映されるんですよね? あのアルセイユは偽物ですけど、形状や構造を含めてみんなよく知っている船ですし、イメージは充分だと思うんです」

 異変に立ち向かった仲間たちだ。他の全員がアルセイユのことはよく知っている。リシャールは情報部時代に乗っている。レンとアネラスは当時の敵と味方としての立場から印象に残っているし、幸いと言うべきか本物をまったく見たことがないリースも翡翠回廊での印象は大きかった。

 リシャールがその想念から軍服に袖を通したように、ヨシュアの思念からレーヴェが面をかぶったように、ここにいる全員で空に飛ぶ姿を願ったのなら、アルセイユは動くかもしれない。

「ティータ。それ、とってもいい考えかもしれないわ」

 レンの言葉は仲間たちの総意だった。

「セレストさん、どうかな?」

 エステルに問われ、庭園の隠者は黙考した。彼女は輝く環が失われる前、彼女は方石を介して外界の様子を認知していた。仲間たちがリベル=アークに乗り込むときにアルセイユを使ったことも。

『可能だと思います。あなた方全員が乗り込めば、白き翼は必ずや甦るでしょう』

 この影の世界の本来の管理者が断言した。道は開けたのだ。

 指針も決まった。影の王との最後の対峙に向けて、これから忙しくなる。

 遥か遠くで待ち構える影の王のいる場所まで向かえば、この庭園に戻れるかも判らない。方石による転移ができなくなってしまうからだ。つまり、本当に覚悟する必要があった。体調や得物の調整などができる最後のタイミングでもあった。

「そんなら……俺も一旦先導から外れますわ。必要があるなら方石の使い方を教えます。みんな、悔いの残らへんようできる限りのことをしましょうや!」

 リシャールが言ったように、運命共同体だった。エステルが言うように、ケビン一人の責任でもなかった。

 ケビンは今、本当の意味でリーダーとなることができた。

 ケビンの号令に、仲間たちが声をあげる。

『おう!』

 リベールの異変から半年。平和になり、平穏を取り戻しつつあるリベール王国。仲間たちは使命を果たした。元の居場所に戻った。国を飛び出して、世界を旅する者もいる。

 崩壊する浮遊都市から発見された方石が起こした、異変後の揺り戻しとも言えるこの事件。その収束の時が近づいているのだ。

 

 

────

 

 

 アルセイユで影の王の元へ向かう。その目的に向け、仲間たちは最後の調整に入る。先ほどケビンたちがいない時より、全員の士気は高かった。相変わらず模擬戦に移る者もいたが、これが最後の機会だからか仲間たち同士で話し込む者たちもいる。

 元より、この異界に巻き込まれる前には、王国、帝国、共和国、自治州、果ては法国と大陸中に散っていた。それぞれの立場がある。成さなければならないことがある。敵対している祖国もある。それでも仲間たちは同じ戦いを潜り抜けた同志としての意識を持っていた。指導者として、支える籠手として、市民として、技術者として。今は漠然とした平和への想いでも、いつかきっとその標が重なった時、同じ旗の下へ集まると信じている。

 その時のために、仲間たちは、来るであろう別れを前に、またいつか会うために言葉を重ねるのだ。

 そして、それはカイトとオリビエも同じだった。

「すまないね、カイト君。付き合ってもらって」

「ま、ケビンさん救出の前に約束しちゃいましたし。不本意ですけどね」

 カイトとオリビエは導力銃の調整を終えたところだった。戦闘スタイルは全く違うが、同じ銃使い。情報部クーデターの時を考えれば、仲間としては最も最初に知り合った銃使い同士ともいえる。

 ほんの数十分前の会話だが、カイトはオリビエと約束をしていたのだ。不安な決意だったが、それが悪い方向に行くこともなかったのはカイトにとっては喜べばいいのか悲しめばいいのか。

「それで……まあ、話すのはオレだけでいいんです?」

「ん? どういう意味だい?」

「オリビエさんは帝国でしょう? 立場も一応皇子だし」

「一応ってどういう意味だい……」

「エステルたちも遊撃士としては旅してますけど、あくまでそれだけですし」

 今、カイトとオリビエの近くには誰もいなかった。ミュラーは今はセレストの近くにいて、ユリア、ヨシュア、ティータ、リシャールなどもいた。彼らはアルセイユに乗るとき、臨時クルーとして席に座る。その打ち合わせをしているのだろう。

 ともかく、カイトとしては心配事もあった。

「オレたちと話す機会もないでしょう? のんびりしてていいんですか」

 自分以上にオリビエは縛られる立場だ。帝国では放蕩皇子として割と自由にしているらしいが、あの軍事帝国なのでいかんとも言い難い。

 話したいこともあるだろう。飲み仲間のジンとも、リーダーだったエステルとも。仲間たちとも。シェラザードとも。

 オリビエは朗らかに言った。

「安心してくれたまえ。君と話し終えたら別の所要も済ませるよ。今は君とこの星が煌めく幻想的な場所で二人だけの愛を語りたいからね」

 瞬間、二つの銃口がオリビエに向かわれる。

「ゴメンナサイモウイイマセン」

 掌を返すような謝罪だった。カイトは呆れた。

「銃を向けられるような真似をしないでくださいよ。帝国の皇子が」

「銃口を向けてるのは君だけどね」

 脱線した会話はそこで途切れる。カイトの目の前に佇む帝国の放蕩皇子は、わずかに目を細めて口を開くとゆるゆると語り始めた。

「エステル君、ヨシュア君、シェラ君。リベールで出会った全ての人たちとの繋がりは、かけがえのないものだと僕は思っている」

 先ほどまでの調子と打って変わった様子には、カイトも唾を飲み込まずにはいられない。

「それは、君も一緒だ。色々なことがあったと、懐かしんでいるんだよ」

「本当に、色々ありましたからね。初めて会った時と大違いだなあ」

 普段は間抜けで、場合によっては先ほどのような会話もある。そんな二人だが、当のオリビエがこうも真面目に語られてはカイトも共に懐かしまずにはいられなかった。

 まだ少年が準遊撃士ですらなかった頃だ。リベールの王都グランセルで二人は初めて顔を合わせた。まだ帝国嫌いがあったカイトは、オリビエを自分勝手に一方的に嫌っていた。一緒にいた遊撃士たちがいなければ、その場の空気はさらに最悪なものだったはずだ。

「君が今、帝国にも見るべきものはあると思ってくれていること。庶出とはいえ、皇子として感謝したいんだ」

 数々の旅路を経て、当時の弱く感情的だった少年は死んだ。そして生まれ変わった。リベールの若き英雄であるエステルとヨシュア。そして、旅路を共にした仲間たち。彼らと共に結社と戦いを繰り広げていくなかで、カイト・レグメントは確実に成長を遂げていた。

 人を守るということの意味を体感した。大陸に存在する国々の穏やかで歪な関係を知った。まだ自分が未熟であることも理解できた。

「少し、感傷に浸ることもあってね。君の両親のことを、少し空想していたんだ」

「らしくないなあ、オリビエさん。あなたのせいじゃないでしょうに」

 一方でオリビエは最初、自らの目的のためにカシウスとの接触を果たそうとしていた。そうして自称愛の伝道師としてリベールに入国し、エステルたちと出会ってその旅路を共にした。それは彼自身の酔狂な性格もあり、本来の目的のためでもあっただろう。その旅路の中て、オリビエはリベールという国の在り方を、その目に焼き付けていった。リベールに住む人々の暮らし、その繋がり、その心。

 今、彼を取り巻く状況は大きく変化している。

 カイトとオリビエの関係性も、変わってきている。

「貴方が自分のためだけじゃなくて、帝国の人たちのために何かをやろうとしていることは分かってる。だから胸を張ってください」

 カイトは思い出す。七耀暦が変わったその日、蒸気戦車の師団を携えてきたオリビエとの口喧嘩を。そしてその後、浮遊都市でオリビエと真意を語らったことを。

 オリビエは決めたのだ。大国であるが故に、不安定な情勢を抱え独特の闇を持つ帝国を変えてみせると。たとえ困難でも、不可能に近くとも、抗ってみせると決めたのだ。

「まあ、なんだ。君にそう言われると……なんだか興奮してしまうよっ」

「アンタは真面目に話したいのかふざけたいのかどっちなんだ!?」

「まあ、それは置いといて。君はいつか言っていたね、自分が守るべき存在は故郷のリベールだけに留まらない、と」

 その決意を最初に行ったのはクローゼだった。だがその後、カイトはオリビエに、エステルとヨシュアに、仲間たちに、それぞれ自分の目標を伝えていった。残念ながら全員に直接とはいかなかったが、カイトの意思は全員が知っている。

「たとえ不可能だと言われても、その力がなくても、この世の全ての人間を守るための努力は怠りたくないと」

「はい、言いました」

 カイトは帝国を訪れて、そこに住む人々はリベールに住む人々と何も変わらないことを知った。百日戦役によって両親を失ったカイトにとっては帝国が恐ろしく見えたことは事実だったが、その帝国も誰かの故郷であることに変わりはない。誰もが故郷を思い、そしてそこには愛する人がいる。

 もちろん、リベールを想う気持ちは少しも変わっていない。けれど、世界には沢山の、誇りと愛を持つ人がいる。それを理解した時、カイトは自らの無謀な目標を求めずにはいられなかった。

「だから今、オレはクロスベルにいます。リベールとは違う歴史を持つ所だから。どんな成り立ちで今のクロスベルがあって、どんな人々がそこに生きているのかを知りたい」

 クロスベル自治州だけでない。カルバード共和国。レミフェリア公国。レマン自治州。オレド自治州。ノーサンブリア自治州。アルテリア法国。そして、エレボニア帝国。

 できる限りの国家を自分の足で訪れてみたい、体感したい。カイトはそう思っている。

「そうか。なら遊撃士として、そしてカイト・レグメントとして眺めたクロスベルはどうだったかい?」

 体感しているからこそ、カイトはクロスベルの表面的な部分以外のことも知れるようになった。少なくとも遊撃士の目線からは、物事を語れるようになった、とは思う。

「一言でいえば歪ですよ」

 魔都クロスベル。二大国の緩衝国としての栄華を極める一方で、その裏ではだれが被害を受けるかも判らない犯罪が蔓延しているのだ。

 かの白面が全ての引き金だった百日戦役。その被害者の一人であるカイトのように。

「帝国と共和国が起こす理不尽は多い。帝国人が悪いわけじゃなくても、帝国を嫌ってるクロスベル人は多いです」

「そうか……」

 少し、オリビエは口調を落とした。さすがに帝国の皇子に対して無神経すぎたか、カイトも少しだけ反省する。

「オリビエさんも、話を聞くばっかじゃらしくないですね。話したいことがあるから呼び出したんでしょうに」

「はは、そうだね」

 カイトとしても知りたいことはある。帝国の一部の人々ではなく、帝国に住まう人々。彼らの立場から言えば一般人の心境だ。

「じゃあ、僕の話を聞いてもらおうかな。君も聞いて損はないことのはずだ」

 

 

 

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