心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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40話 特務支援課②

 

 

 ジオフロントA区画へ進入してすぐに感じたのは違和感だ。

(魔獣が討伐されてから時間が経ってない?)

 連絡回廊や小部屋を見れば、散見できるのは飛び猫やラッチュウなどの魔獣の死骸。共喰いではなく、弾痕や殴打のような武器でついた傷が目立つ。

 それがアリオスの成したものなら、一刀に斬り伏せているはず。つまりは誰かが既にいるということだが。

 すぐには判らしないし少年たちを見つけることもできなかったが、答えは単純明快だった。それはアリオスよりもカイトよりも、もっと早くに少年二人を保護した一団がいたということだ。

 ジオフロントA区画における一つ目の連絡回廊は、カイトがクロスベル初日に探索したB区画の大広間とよく似ていた。吹き抜け構造、魔獣が跋扈しやすい広さ。戦略的に迎え撃つにはおあつらえ向きの場所には大量のドローメと、そして六人の人間がいた。

 内二人は十歳かそこらの少年二人。事前に聞いていた容姿とも重なる。リュウとアンリだ。

 その他の四人は、一見してこの場に似つかわしくない四人だった。青年二人、少女二人。それぞれの得物を手に、ドローメに立ち向かっている。

「彼らか……道中の魔獣を倒していたのは」

「あれ、遊撃士さん!?」

 保護対象の少年たちは、一人が青年二人に守られている。そして、一人はカイトのすぐ前にいる。

「君がアンリか?」

「はい! えっと、その!」

「大丈夫、もう一人も助かるからね」

 ポンッと頭に手を置いた。そのままカイトは前へ進み、後方支援をしている銀髪と水髪の少女の隣で立ち止まった。

 戦場を見据える。ドローメはまだ五体いる。

 気づいた銀髪の少女が、美麗な射撃銃を構えたままこちらへ顔を向ける。

「貴方はっ?」

「通りすがりの遊撃士です。助太刀します……よっ!」

 即座に二丁を繰り出し、二体のドローメの核を撃ち抜く。この区画の徘徊魔獣ならば、カイトは余裕で対処できた。

「ヒュウ、やるじゃん」

「助かります! どうか、そのまま援護を!」

 赤髪の青年は飄々と、茶髪の青年は熱心にこちらへ声をかけてくる。

 このまま任せても問題はなさそうだが、放っておくのも寝覚めが悪い。

 残りのドローメが全て倒れるまで、カイトは銃に火を吹かせ続けた。

 やがて広場から喧騒が消え去る。四人で多少手こずっていたようだが、カイトが加わることによって余裕を持って討伐できた。

 魔獣自体はそれほどの強さではなかった。だが、彼らも全員が手練れというわけではないようだ。小さな子供を守りながらの戦い、精神的に疲弊しているようだった。

 少女二人が得物をしまい、茶髪の青年は得物を離さないながらも膝をつく。

「リュウ、よかった~! 怪我してない!?」

「へ、この程度へっちゃらだって!」

 少年たちは再会を喜び合う。カイトはクラムとダニエルのことを思い出した。懐かしさを感じつつ、青年たちに向き直った。

「おかげで無事に保護することができました。いや……この場合は貴方たちが保護してくれたんですよね」

 カイトは茶髪の青年に言葉をかける。

「いえ……助力、感謝します」

「おかげで助かったぜ。俺たち四人だけじゃもっと苦労してたからなぁ」

「はは、それならよかったです」

 もっとも手練そうな赤髪の青年に感謝されたのは少し意外だった。

 彼らに任せても問題はなさそうだったが、こちらも西通りの婦人に頼まれたという理由があった。少年たちの保護を申し出ようとしたのだが。

「それでは、彼らの保護はオレが引き継ぎますよ」

「それでは、ご一緒に警察本部まできてください。謝礼もでるはずです」

「え?」

「え?」

 どうにも噛み合わない会話。茶髪の青年と一緒になって呆けてしまった。

 それに、流すに流せない言葉も聞こえた。クロスベル警察?

 視界の端で少年たちも驚きに駆られている。

「えっと、貴方たちは?」

「俺たちはクロスベル警察の──」

 と、横暴な殺気を感じる。

「おい、まずいぞ!?」

 気づいたのはカイトと赤髪の青年、その二人だけ。青年はとっさに手に持つ斧槍を構え、カイトは後方に飛びつつ双銃でその魔獣を牽制した。もっとも、相手は牽制という概念を知る存在ではなかったが。

 敵は先のドローメの親玉と、人を丸呑みできるほどに大きく成長し肥大した蝙蝠(こうもり)。ビッグドローメ、そしてメガロバットだ。

 その両者が轟音とともにカイトたちのいる階層に着地し、獰猛な気配を今度こそ隠しもせずに近づいてくる。

「手配級魔獣が二体! 私たち四人の戦闘能力ではとても……!」

「どうするの、ロイド!?」

「くっ……」

 狼狽する四人、少年二人。確かにカイトがいたとしても、手配級魔獣二体を押さえ込むのは難しかったが。

「さて……オレが一体、皆さんでもう一体。それでも子供達を助けるのは大変だけど」

 そんな折、ロイドと呼ばれた青年が叫ぶ。

「俺がこいつらを引き付ける! みんなは協力して脱出してくれ!」

 かつてリベールの異変で、カイトはたくさんの仲間たちと協力してきた。その中でも即座に自己犠牲の手を出せる人間は少なかった。ヨシュアやケビン、そういった過去の闇が深い彼らならばよく言っていてエステルを筆頭に叱責されていた覚えがある。

 だからロイドの発言は、密かに舌を巻いた。熱血そうな青年にしては予想外の発言だったからだ。

 この実力で、珍しい人だと思った。遊撃士ではない、そしてよく悪評を聞く警察組織の人間がだ。

 それがカイトの、ロイドに対する最初の印象だった。

 カイトは笑って言った。少し後に振り返ってから、この感情が嬉しさであることを理解した。

「……大丈夫ですよ、ロイドさん」

「え……?」

 勝手に青年の名前を呼ぶ。

「もう誰も犠牲にはなりませんよ。最強の助っ人が来てくれましたからね」

 その人物がこの場にたどり着いたのは、本当にたった今だ。尊敬する遊撃士の一人。ましてやつい数分前までは一緒に行動していた。その気配に気づかないカイトではなかった。

「──やれやれ。自己犠牲も結構だが、少々短絡的すぎるな」

 見上げる。そこに風の剣聖がいた。既に太刀を持って、いつでも振るえるように構えている。

「カイト、左をやれ」

「わかりました!」

 剣聖が跳ぶ。同時にカイトが駆けた。カイトが行動するよりも疾くアリオスが無数の剣戟を浴びせ、その余波がカイトが相手取るメガロバットの体を切りつけた。カイトが双銃でも一撃で絶命させるよう調整した一撃だ。

 結果、二体は瞬きする間に沈黙することになる。

 再びの轟音だった、ただし、今度はもう殺気はない。

 一同の注目を一手に集めたアリオスは、太刀を収めて向き直る。

「お疲れ様です、アリオスさん」

「無事保護はできたか?」

「ま、オレの力じゃないですけどね」

「そうか」

 特にカイトが貢献できたことは少ない。だからこそか、アリオスもカイトの行動を評するようなことはしなかった。

 置き去りにされる警察所属らしい四人。逆に少年二人の顔は高揚していた。

「す、すっげー!! すっげーかっこいいよ、アリオスさん!」

 少年の一人、リュウがはしゃぎながらアリオスに駆け寄る。クロスベルに来て日の浅いカイトはともかく、守護神と謳わわれるアリオスのことは流石に知っていたようだった。

「なんでだよ、どうしてここに来たの!?」

「お前たちがいなくなったと、西通りの住民から聞いたからな。対応できた遊撃士で探しに来たんだ」

「それでアリオスさんとオレがね」

 カイトは手を挙げた。片方の少年、アンリが丁寧に応えた。

「お兄さんは最近遊撃士協会にはいった人ですよね? ありがとうございます!」

「ま、新人って言えば新人なのは確かだけどね」

「それより二人共、随分な無茶をする。もしものことがあったらどうするつもりだ?」

 大人からの叱責だ。このあたりはさすが子を持つ親と言うべきか。

 多少なりとも落ち着く二人を慰めつつ、アリオスは踵を返した。

「もう夕暮れだ。早く家に帰るぞ」

 それはその場の全員に向け放たれたものだ。リュウとアンリは素直に従い、そしてカイトも続こうとする。まだ依頼は終わっていなかったから。

「あ」

 けれど気づいた。呆気にとられたまま呆然とする四人がいることに。

 カイトは振り向いて、武器を構えたまま動かない彼らへ近づいた。

「なんか、ややこしくなっちゃいましたね。ひとまずは一緒に戻りましょうか」

「あ、ああ……」

 色々と思う所があるのだろうか。そうだ、と思い、カイトは地上に戻る前にこれだけは話そうと決心した。

「改めて。オレはカイト・レグメント、遊撃士です。彼のことは知っていると思うけど、アリオス・マクレイン。同じく遊撃士です。貴方は?」

「え?」

「名前ですよ。リーダーみたいだし、挨拶だけでもしたいなーって」

 カイトは笑顔を青年に向けた。青年は、戸惑いながらも笑顔を向け返した。

「……クロスベル警察所属、ロイド・バニングスです」

 

 

────

 

 

 警察四人、遊撃士二人、少年二人。計八人となると流石に大所帯だ。それほど狭くないジオフロントA区画では、ゆっくり歩かなければならなかった。そうして地上に戻る頃には、あと数分で夜になる程度には暗くなっていた。

 アリオスが先導し、その後ろをリュウとアンリが。さらに後ろをカイトが歩き、殿をロイドたちが。

 地上に出ると開放感を感じるよりも、都市と同じ導力の光源にさらされることになる。

「おおっと、出てきました! アリオス・マクレインとカイト・レグメントです!」

 この大都会の喧騒にも負けないぐらい。少し興を乗せたような女性の声だった。

 灰色の髪、溌剌とした瞳。動きやすそうな黄色のコート。

「げ、貴方は……」

 カイトは、少し嫌な気分になった。一度だけ話したことがある。クロスベルにおける新聞社《クロスベル通信社》の記者だ。名はグレイス・リン。

 尚もグレイスは導力カメラをこちらに向けている。フラッシュが目に痛かった。

「危機に陥った少年たちを救ったその手際の良さ! 今回も最新号の記事にさせてもらいますから!」

「あまり騒ぎ立てないでくれ。この子たちの行動にも問題があった。俺だけの功績ではない。偏った記事は感心しないぞ」

 そそくさとアリオスの後ろに隠れるカイトだったが、そもそも最初に名前を呼ばれた時点でそれは無駄な行動だった。

「それに! カイト君、貴方も活躍したのかしら? できればインタビューを──」

「やめてくださいよ。いい加減にしつこいですよ!?」

 そうなのだ。クロスベルタイムズは例えばリベール通信社と比べると、ややゴシップなどにも明るいきらいがあった。そのせいか遊撃士が讃えられるこのクロスベルにて、新たに着任したカイトは何かとクロスベルタイムズの記者に注目されてしまった経緯があった。

 そして目の前のグレイスには、一度依頼で席を共にした折にしつこくインタビューを迫られた過去がある。タイプで言えばナイアル・バーンズなどもけっして硬派な男ではなかったが、グレイスはそれ以上に押しが強い女性記者だった。

「まあまあそう言わずに! 『クロスベルの守護神の下修行を続ける異国の遊撃士! 期待の少年が見据えるクロスベルの未来は』とかそんな感じの記事を考えてるんだけどね?」

「だーもう! これ以上しつこいと警察にとっちめてやりますよ!?」

「あらあら、そこまで言われちゃうと流石に撤退かしら。まあいいわ、カイト君。インタビューはまたの機会にしましょう」

「だからいい加減に」

 問答をやめ、グレイスはたった今地上に出てきた四人に視線を移した。

「私も警察の厄介にはなりたくないし。それに警察関係については、今回のゲストでお腹いっぱいだからね?」

 カイトはその言葉で、後ろの四人の存在を思い返した。

 グレイスは、ともすれば先ほどのアリオスたちに向けたものよりも激しいフラッシュをたく。

「クロスベル警察の未来を担う《特務支援課》初めての出動! しかし力及ばず、いつものように遊撃士たちに手柄を奪われてしまった! ああ、未熟さを痛感した若者たちは、果たしてこの先に待ち受ける試練を乗り越えられるのか!?」

 いつものグレイス節に呆れつつ、カイトは興味深い単語を反芻する。

(特務支援課? 初めて聞いたな)

 青年たちも、女性記者の挙動に動揺を隠せていない。その場の空気を変えられるのはアリオスだけだった。

「彼らに関しても決めつけは感心しない。一応、この子たちを最初に助けたのは彼ら特務支援課だ。まあ、詰めは甘かったようだが」

 少しのどを鳴らすロイド・バニングス。

 グレイスによって少し場は乱されたが、アリオスは努めて冷静だった。

「まったく……カイト」

「はい?」

「お前はグレイスを新聞社まで送ってやれ」

「はい!? なんでオレが!?」

「この子たちは俺が家まで送る。ミシェルへの報告も俺がやる」

「おっと、アリオスさん! それは先輩がカイト君への私のインタビューを許可したと──」

「無論、彼女が暴走しないためにだ。お前はそのまま帰っていい。いいな?」

 アリオスなりの優しさだったようだ。だが、このままだと子供たちも含めて記事にされそうだから、カイトというお目付け役をつけたということか。アリオスの有無を言わせない雰囲気に、カイトとグレイスは同時に身を小さくした。

『はい……』

 そのまま、アリオスは子供たちを連れて駅前通りに続く階段を登っていく。

 カイトは傷心をなんとか持ち直し、アリオスに任された大役を遂げることにした。

「それじゃ、グレイスさん。行きますよ」

「はいはい。ちぇ、遊撃士の大スクープとはならなかったか」

「……」

「沈黙が怖いわよ、カイト君」

 グレイスは無視して、カイトはロイドたちの方へ振り返った。

「それじゃ、皆さんお疲れ様でした」

 ロイドが応える。

「あ、ああ。ありがとう、カイト」

「機会があれば、また」

 そして、数秒前のアリオスと同じように階段を登る。

 クロスベル通信社のビルは港湾区にあった。駅前通りからは少し歩く事になる。

 道中グレイスに絡まれることもあったが、それでもカイトは彼女をいなしつつ脅しつつで港湾区まで送り届ける。

「それじゃ、カイト君またねー! 今度はご飯でも奢ってあげるから、ぜひぜひお姉さんの質問に答えてね!」

 グレイスは最後までお調子者のような様子だった。そんなグレイスがやっとビルにはいったことで、カイトはようやく溜息を吐くことになった。

「ほんっとう、あの人疲れるなあ……」

 子供たちの保護の報告はアリオスが担ってくれた。《ENIGMA》の説明も受けたし、遊撃士協会に戻る必要もない。とはいえ、自分の家に帰るには東通りを通り越して旧市街まで戻らなければならないが。

「なんか、腹減ったなあ」

 もう完全に夜になってしまった。どこかに動く気もないし、そういえば今日は家になにも食材がなかったはずだ。

「なんならどこかで軽く済ませるか」

 遊撃士としてクロスベルにやってきておおよそ八ヶ月。もう地理に関しては裏路地以外は把握したが、馴染みある店以外はまだ知らない。

「あ、でもアリオスさんから穴場の屋台があるって言われたような……お、ここだここだ」

 カイトは一人歩き、そして見つけた。クロスベルタイムズのほぼ目の前にあった。簡易的な屋台と、黙々と立ち込める料理から出る蒸気。そして屋台の暖簾(のれん)には《麺処オーゼル》のいぶし銀な東方文字。

 席は五席。先客が何人かいるようだが、その狭さも屋台の醍醐味だ。カイトは臆せず暖簾を潜った。

「へいらっしゃい」

 名前を冠する麺職人オーゼル氏は、武骨な声でカイトを迎え入れた。アリオスの談では「ぶっきらぼうな態度は彼の歓迎の証だ」とのことで、それを聞いたときはなるほど同じ仏頂面同士の理解かと思い納得したものだ。

 席に座ると、屋台のカウンターが視界に広がる。正面には一枚紙のメニュー表。麺処だけあって、ラーメン数種類とおつまみ、酒類の簡単な並びだ。

 カイトは左端の席に座ったが、数秒で右隣の客が親切にも僅かに体を反らした。それで礼を言おうと客の顔を確認して、それがアレックス・ダドリーであることに気づいた。

「む」

「げ……」

 お互いを確認して表情が固まる。少なくともカイトにとっては、グレイスから解放されて訪れたゆったりとした空気がまた冷え固まった気分だった。

 両者の間を沈黙が支配する。割って入れるのは店主オーゼルのみだ。

「お客さん、注文は?」

「……天上麺《日輪》を一つ」

「あいよ」

 お冷が出された。口をつける。直後、ダドリーにラーメンが出される。

「はいよ、天上麺《日輪》だ」

 カイトがダドリーを見た。同じだったのかよ。

 ダドリーがカイトを見返した。私の勝手だが。

 他の客は、ダドリーも含めて無言だった。客の麺をすする音と、オーゼルが麺を打つ音だけが響く。

 沈黙が痛い。数分後、カイトはたまらず口を開いた。

「……行政区勤めの捜査官がなんでここにいるんですか」

「オーゼルさんの麺はクロスベル市民の有名処だ。貴様こそなぜここにいる」

「依頼の帰りですから。こんな時間ですし、外で食べようかと」

「ふん、遊撃士にしては暇を持て余しているな」

「どの口が……!」

 オーゼルがカイトの前にラーメンをだした。

「はいよ、天上麺《日輪》だ」

「あ、どうも。いただきます」

 東方由来の割り箸を使い、カイトは麺をすすりはじめる。

 美味い。リベール育ちだし、カイトはそれほど東方料理に縁がなかった。最近は龍老飯店にも寄るようになって東方向けに舌が肥えつつあったが。

 食欲をそそる出汁の匂い、腹にたまる麺の食感とコシ、豚肉や海苔などの空腹をくすぐる具材、何よりもとことん《食》を突き詰めたまっすぐな味。

(美味すぎる……!)

 至福の時間だ。隣に警察官がいなければだが。

「協会支部で襲撃を受けたと聞いたぞ。遊撃士が聞いて呆れるな」

 ダドリーの言葉にげんなりとするとともに、数秒で合点が行った。数ヶ月前、影の国に巻き込まれたときのことだ。

「それ、単なる事故だから。っていうか本当にどこぞの襲撃だったら警察も掴んでるはずでしょ、アンタたちこそ情報収集はちゃんとしろ」

 お冷を再び一口あおった。どういうわけか、二人して同じタイミングだった。

「……遊撃士協会は我々の手をかけるような軟弱者ではと思っていたがな」

「なっ、だったらそれは皮肉か……!?」

「皮肉を皮肉と感じないとはな。マクレインは一体どんな教育をしているんだ」

「アリオスさんは関係ないでしょ! この堅物眼鏡捜査官!」

「この街を大して知らない若輩遊撃士がよく言う」

 舌戦を繰り広げていた所、唐突に机の二人の中間の領域に強い衝撃とともに皿が置かれた。焼き鳥が串に刺さって二本ある。

 予想外の衝撃に、二人して正面を見直した。オーゼルが無表情で二人を見ている。

「オーゼルさん?」

「どういう……」

「焼き鳥、それぞれ一本ずつ。おごりだ」

「……感謝する」

「……どうも」

「それと」

『そ、それと?』

 カイトとダドリーの声が重なった。オーゼルは風の剣聖もびっくりな凄みを持って言った。

「拉麺を不味くするなら、で、て、い、け」

『……』

 若輩遊撃士と堅物眼鏡捜査官は無言で頷くしかなかった。

 再び沈黙が支配する。ラーメンをすする音だけが聞こえる。

 先に食していた客たちが次々店を後にする。やがて客は二人だけになる。

 ダドリーが焼き鳥も含めて食べ終わったタイミングで、喧嘩をしないのならとカイトは口を開いた。

 ここでダドリーと出会ったのは完全に予想外だったが、彼やセルゲイなど警察関係者に会ったら聞いておきたいことがあった。

「今日、なんか特務支援課っていう人たちとあったけど」

「……私は捜査一課所属だ。管轄外は関係ないが」

「でも、警察関係者なら知ってるでしょ?」

 オーゼル番人の目を利用した形だ。ぶっきらぼうなことは言わせない。カイトのささやかな復讐でもあった。

「……まさに今日、クロスベル警察に新しく新設された部署だ。お前も会っただろう、セルゲイさんが課長を務める」

 覚えがある。影の国に巻き込まれる前、冗談にせよ自分を警察に勧誘した捜査官だ。

「……警察って、市民へのサービスは二の次じゃなかったんですか? なんか魔獣討伐というか、子供たちの保護を一緒にやりましたけど」

 とはいえ、あの状況だったら警察だろうが遊撃士だろうが軍人だろうが保護するのは当たり前ではあっただろうが。

「そういう部署だ。『市民の安全を第一に考え、様々な要望に応える』という目標を掲げている、な」

「……ええ?」

 何だ、その部署は。まるで遊撃士の真似事ではないか。

「……警察色々しがらみとか思惑とかがあって一枚岩じゃないってのは知ってますけど」

「ふん、部外者が減らず口を」

 オーゼルの目が鋭く光った。

「……勝手に言うがいい。そういう部署だ。怒るなら怒ればいい」

「まあ、協力してくれるならありがたいですけど」

 これ以上の会話には疲れたのか、ダドリーはオーゼルにミラを渡して挨拶もなしに出て行った。

 話し相手がいなくなり、カイトは再三の沈黙を作った。

 思考の対象となるのは、やはり特務支援課について。

 急に警察の意向が市民へ向いたとも思い難い。一人一人の警察官と触れて、彼らが職務に忠実な人たちであることはこの半年ほどで理解できた部分もある。それでも警察という組織としてのクロスベルの闇があることは事実なのだ。そんななか設立された遊撃士の真似をする部署。カイトにとっては興味深いことこの上なかった。

 そして、それはロイドの人柄についても同様だった。今日は話せなかったが、他の三人とも機会があれば話したいと思った。

 クロスベルにおける遊撃士稼業が忙しすぎる以上、純粋に協力してくれるのはありがたいが。ただ、純粋にそだけじゃただただ便利な人たちでしかない。

 カイトは、残る水を口に持って行って、そして呟いた。

「……まあ、警察は警察の役目を果たしてくれって思うよ」

 その言葉は、オーゼルにしか聞かれることはなかった。

 

 

 








エステルに続きロイド、本編主人公二人目との邂逅になります。
アリオス(とカイト)に助けられ、壁を知った熱き男。
しかしこの話で一番熱いのは飯が絡んだオーゼル氏であった……!



お久しぶりです。

黎の軌跡Ⅱ、そして閃の軌跡Northern War(つづりあってるかな……)
それぞれ発表されて、今から楽しみですね。
気が向いたら、活動報告やnoteなどで、思ったことを色々書いていこうと思っています。
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