心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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40話 特務支援課④

40話 特務支援課④

 

 

 クロスベル警察特務支援課と協力して不良チームの抗争を解決することを決めたカイト。

 まず、カイトはロイドたちとともにワジの下へ行く。ヴァルドと比べたらワジたちの方がまだ話が分かるからだ。もっとも、カイトはワジの態度を苦手としていたのだが。

 カイトはテスタメンツが経営するプールバー《トリニティ》には一度だけ寄ったことがあった。といっても自分からワジの元に寄りたかったわけではなくて、旧市街で立ち寄れる場所を探してたまたま行き着いただけだが。あの時はワジに無駄に絡まれて大変だった。

 そんなわけでカイトは容易に中へ入れたし、支援課四人は四人でひと悶着はあったものの結果的にはワジと接触することが可能となる。

 そうしてワジたちから得た情報は『五日前の夜、テスタメンツのメンバーの一人がサーベルバイパーの闇討ちにあった』というものだった。

 状況証拠は揃っているのだという。襲われたメンバーは意識不明で聖ウルスラ病院に入院しているとのことだったが、メンバーが受けた傷が打撲と数十の裂傷──バイパーのメンバーが使う釘付きバットによるものだったのだと。

 相手チームからの襲撃。確かに報復として全面戦争を仕掛ける理由はあった。もっとも、それが確かならだが。

 支援課とカイトの五人はトリニティを後にした。日がわずかに寒い旧市街の路地を温める中、カイトはロイドに問いかける。

「さて、次はどうする……て、ロイド?」

「いや、何でもないよ……はぁ」

「ロイド……お前さんも随分気に入られたなぁ」

 ランディの慰めも無駄に終わりそうで、ロイドは盛大なため息をついていた。

 ワジは当初、わからない事情を聞き出そうとするロイドたちを邪険に扱っていた。これはカイトも例外ではなく、『今まで何もしてくれなかった警察や君がなにをしてくれるの? 遊び相手としてなら歓迎だけど』とのワジの言葉だ。

 それに対し、ロイドは毅然と答えたのだ。

『捜査官の仕事は闇に埋もれた真実を明らかにして人と社会に光をもたらすこと。もし君たちがほんの少しでも疑念という闇を抱えているのなら、それを晴らす手伝いは出来ると思う』

 随分と小っ恥ずかしくなるような言葉だったが、当のロイドはいたって真面目だった。

 どこなくヨシュアを想起させたカイトだったが、そんな思想を遮ったのはワジの情報提供だったのだ。

 結果、ロイドはカイト以上にワジに気に入られることになったわけだが。

「ま、いいさ。彼らの協力を得られるならね。……さあ、次はサーベルバイパーだ」

 不良チームの片方からだけではわからないということだろう。多角的な情報統合を行おうとする姿勢は、さすが捜査官と言えた。

 と、ここでカイトのENIGMAがけたたましく鳴り響く。

「とと……」

 ロイドたちに断りを入れ、カイトは通信モードをオンにした。

『もしもし、カイト? ミシェルよ』

「お疲れ様です。どうしたんですか?」

 珍しい……といってもENIGMAの運用自体がここ数日のことだったが、ミシェルからこちらに連絡が来るとは。

『少し、情報共有したいことがあるの。一度支部に戻れるかしら? ()()調()()は一旦終えてね』

「……はい、わかりました」

 何かと有能なミシェルのこと。少し見透かされているようで思うことはあるが、ここは素直に従うことにする。

「……ごめん、ロイド、みんな。オレはここまでだ」

「なんだ、協会支部から呼ばれでもしたのかよ?」

「はい。ちょっとミシェルさんから呼ばれちゃって」

 それにヴァルドとはできれば会いたくないのも事実だったが。彼と鉢合わせたらワジ以上にどうなるかわからない。

 共同戦線を解くわけじゃない。それにカイトがあっさりとミシェルの指示を聞いたのも、ロイドたち四人を信頼できると判断したから、というのもあった。

「ロイド。また協力しよう。オレも、不良たちの動向は気にかけておくから」

「わかった……遊撃士が協力してくれること、すごく頼もしかった。また協力しよう」

 

 

────

 

 

 協会支部に戻ると、意外なことにアリオスがいた。どうやらミシェルを通してアリオスがカイトを呼んだようだが。

 開口一番、アリオスが放ったのはカイトが予想もしない事実だった。

「不良たちの抗争の裏にはマフィアがいる。ルバーチェ商会だ」

「うぇえ……?」

 どうして不良たちの抗争の真実を知っている。どうしてカイトが不良たちの抗争の調査をしているという前提で話しかけたんだ。

 もちろん無駄な時間を省くための先輩方の選択だろう。人は会話をするのが普通のはずだが、この人たち少し人の道を外しすぎてはいないか?

「ミシェルさんもアリオスさんも……一体何者ですか?」

「失礼ね。気が利く素敵な遊撃士協会の受け付けよ」

「俺も一人の遊撃士に過ぎないな」

「いや、A級のアリオスさんにそれ言われるとオレの立つ瀬がないですけど……じゃなくて!」

 受付の机を叩いた。漫才をするためにこの場に来たのではない。カイトは息を整え、アリオスたちの説明を聞くことにした。

 要は、ミシェルたちがカイトを招集したのは、カイトが先行した不良立ちに関する調査への助け舟だということだ。

「それで、なんで不良たちのことを知ってたんですか? それに、マフィアって?」

「順に説明する。まずサーベルバイパーとテスタメンツだが、当然お前も含めて以前から協会も把握していることはわかるな」

「そりゃあもちろん」

 アリオスの言葉に頷いた。協会支部は東通りにあり、旧市街に近いのもあって今までの警察よりは不良をはじめとした市民と近い距離にあった。

「お前が不良たちと特務支援課、彼らとどこまで話したのかは分からないが。彼らは同時に、敵対するグループから襲撃を受けたんだ」

「! それって……」

 少なくともワジから聞いた情報とは符合する。バイパー側からは聞けなかったが、今頃ロイドたちも同じことを聞いているのだろうか。

 だがおかしい。二つのグループがまったく同じタイミングで襲撃を仕掛けるなんて、いくらなんでも偶然が過ぎる。統制が取れているグループたちだから取り巻きが暴走するというのも考えづらい。

「だがお前も想像しているだろうが、不良たちが互いを攻撃したわけじゃない。それぞれ攻撃したよう偽造して第三者がいる」

「それがマフィア。《ルバーチェ商会》って言いました?」

 ミシェルが答えた。

「ええ。貴方もクロスベルに来てそれなりの時間がたった。そろそろ知っておかないと、マフィアの根城に無警戒で突撃しちゃいそうだしね」

「……それって、オレが仮に今回の事件の真相に近づいたら暴走するから、釘を刺すために呼んだってことじゃないですか」

「そうとも言うわね」

 つくづく食えない受付だった。

「……話を戻すぞ。ルバーチェ商会は表向きは単なる貿易商会だが、その実は自治州に存在する最大のマフィア組織だ」

 ルバーチェ商会。そもそもクロスベル自治州は長年帝国と共和国の係争地として翻弄されてきた歴史を持つ。委任統治領として両国を宗主国とした自治州として成立したのは約七十年前、七耀歴千百三十年頃だが、ルバーチェ商会はその頃から存在している組織だ。帝国と共和国どちらとも繋がりを持ち、密貿易を通して自治州の裏社会を牛耳ってきた。その非合法ビジネスはミラ・ロンダリング、盗品管理など、多岐に渡る。

 そしてアリオスと話したクロスベルの闇とも繋がる話だが、自治州議会や警察上層部とともにルバーチェ商会ともほぼ真っ黒な灰色の疑惑がかけられているのだ。

 確かに存在する闇ながら権力との癒着があり、人の安全に関わる犯罪でないため遊撃士が迂闊に手を出せないジレンマ。クロスベルに来た当初の不甲斐なさを思い出したが。

「それで、アリオスさん。ルバーチェ商会と不良たちの抗争が、どう繋がるんですか?」

「ここ最近、ルバーチェの構成員が旧市街で頻繁に目撃されていた」

「……!」

「それともう一つは、黒月(ヘイユエ)の台頭だな」

「黒月? それって、どこかで聞いたような……」

 記憶を巡らせて数秒、幸いにもミシェルに釘を刺される前に思い出すことができた。影の国での時だ。ジンと共和国についての話をした時に、同名の共和国東方系シンジケートのことを聞いたことがある。

 黒月。カルバード共和国の東方人街を支配する犯罪組織だ。表向きはルバーチェと同じように様々な事業を手がける会社として共和国内で有名なのだが。

「ちんけなマフィアなら問題ないんだけどね。共和国最大のシンジケートだから、その影響力は少なからず大陸中に及ぶ。その黒月が、最近《黒月貿易公司》の名前を名乗って港湾区に拠点を構えたのよ」

「港湾区に?」

 気付かなかった。今度近くまで行ってみよう。

「迂闊に近づくなよ、カイト。痛い目を見るぞ」

「……はい」

 どこまでも見透かされる若輩遊撃士だった。

「でも……そうか、見えてきましたよ。要はルバーチェの戦力増強ってわけですね」

 クロスベルと共和国の国家組織としての力関係は明らかだ。当然同じ最大級という称号も、純粋に力比べをすれば黒月に軍配があがる。その黒月が支社とはいえクロスベルに台頭してきたなら、ルバーチェ商会としては面白くないだろう。

 だからこそ負けないために戦力増強を図り、その結果が不良グループに繋がる、というわけだ。

「ルバーチェ商会としては、帝国・共和国の意向を無視して猟兵を運用するのも得策ではない。だからこそ体のいい戦力としてワジ・ヘミスフィアとヴァルド・ヴァレス、彼らとその取り巻きを引き込もうとする動きが出てきた、ということだ」

 納得した。裏も取れている。はっきりとした証拠があるわけでもないが、限りなく正解に近い推理だろう。

「……それで、アリオスさん。オレたちはどうすればいいですか?」

 少なくとも不良たちという市民の安全は脅かされているが、やはり確証がない以上は動けないのが遊撃士としてのジレンマだった。仮に現行犯でも目撃すれば、マフィアだろうが、推理が外れて不良たちが暴力を起こそうが制圧できるのだが。いずれにしてもそれまで待たなければならない。やはりジレンマだ。

 答えを待つカイトに、アリオスは予想外の返答をしたのだった。

「お前ならばどうする? カイト」

「え?」

「お前が考えている通り。遊撃士は迂闊には動けない。待たなければならない。しかし闇は確かに存在する。払わなければならないものだ」

「その通りです」

「お前なら、この状況をどう解決に導く?」

 アリオスの指南……ではない。試練に近い。

 唐突なことだが、直感だった。この発言は、自分の今後に影響するかもしれないと。

(考えろ……)

 自分たちは市民を救おうともがく遊撃士でしかない。決して一人で何でもできる英雄ではない。

 単純に正義を振りかざせば、今回の市民である不良たちは確実に反発する。

 自分たちがルバーチェに喧嘩を売りに行くのも悪手だ。できるのならばアリオスたちが早々にやっている。

 単なる光では太刀打ちできない、闇に近づくのも論外。

 光と闇、双方を理解する必要はない。ただ、双方に立ち向かえる規範があれば──

『──闇に埋もれた真実を明らかにして人と社会に光をもたらすこと。もし君たちがほんの少しでも疑念という闇を抱えているのなら──』

「あ」

 思い起こされる言葉があった。まだ自分より力もなく、新人と呼ばれ続ける日陰者。けれどその胸にうちに大きな熱を称える彼と、その仲間たちだ。

 カイトは顔を上げ、アリオスとミシェルに進言した。

「見守ります……特務支援課を」

 ミシェルは興味深げにカイトを見た。アリオスは微笑を浮かべながら問うた。

「なぜ、そう考えた?」

「オレも協会も調査はしました。けれどアリオスさんたちが動くことなく静観しているのは、やっぱりオレたちはことが始まるまで動けないからですよね?」

「そうだな」

「でも、この事件に力を入れているのは遊撃士だけじゃない。彼らもいる」

「ま、まだ右も左もわからない新人ちゃんたちだけどね」

「でも可能性はあると思います。強制的に現行犯で、正義って力で黙らせる遊撃士だけじゃない、正しい力を使えるかもしれない、便利屋たちがいる」

 自信を持って、そう言えた。

 彼ら特務支援課の動向を見極めるべきだ。そんな思いが、カイトの中に生まれていた。

「決まりだな」

 アリオスが言った。

「カイト。旧市街に張り込み、万一があれば支える籠手として市民を守ること。本来は俺がやるつもりだったが、頼めるか?」

「それって……!」

「今回関与しているマフィアの構成員は末端だけだ。ヘミスフィアとヴァレスはわきまえられる。お前でも十分対処できるだろう」

 それは、クロスベルの遊撃士としての、アリオスからの最後の試験のように感じた。自分が動くのではない、あえて動かないという選択を取れるかという試験だ。

「任されました!」

 カイトは万感の思いで答えた。

 それは、カイトが初めて上に立つ人間としての役割を演じた瞬間でもあった。

 カイトはそれから数日間、依頼の範囲を旧市街や東通りなどに狭めて事件の動向を見守った。

 そして三日後、夜。カイトは旧市街の建物の上に立っていた。

 結論から言うと、アリオスがカイトに伝えた推理は事実だった。ロイドたちはあれから自力で真実にたどり着いたらしく、不良たちに真実を伝えて協力体制に入ったようだった。

 眼下には不良たちとマフィアの構成員数人、そして特務支援課の姿があった。ロイドがあえて不良の姿となって囮になり、マフィア構成員に三度目の犯罪を誘導させたのだ。その策は見事にはまり、マフィア構成員は特務支援課と不良たち、そしてカイトの眼前に自らの所業を晒すこととなった。

 その後マフィア構成員は二手に別れて逃走したが、旧市街を知り尽くした不良たちから逃げられるはずもなく、やがては不良と特務支援課たちとの戦闘になった。

 多少手こずりもしたようだが、戦闘は大きな事故もなくマフィアたちの制圧という結果に終わった。

「うわー……それにしても、ワジもヴァルドもマフィア相手に随分お灸を据えたなあ」

 不良だが不良なりの筋は通すのが不良たる所以だ。その筋から外れた馬鹿な真似をしたマフィアたち。彼らを直接白日のもとに晒すのはリスクも高いだろうが、末端構成員におめおめとアジトに帰らせるのはそれなりの恥になるだろう。特務支援課も上層部があるからこれ以上の強権は発揮できなさそうだ。そして、遊撃士もこれ以上は手が出せない。このあたりが落としどころだろう。

(特務支援課、か)

 彼らの声は聞こえない。だが辛うじて認識できる顔を見れば、疲労感と達成感が見える四人の感情は容易に察することができる。

 結局、自分はほとんど出る幕がなかった。それなのにこれほどまで嬉しいという感情が湧き上がるのも初めてだった。

 きっと、彼らは自分がいなくても事件をこの落としどころまでもって行けただろう。アリオスも元々は出張るつもりだったということだが。それのなにこの感情が出てくるとはどういうことだろう。

「きっと、同志ができたから、なのかな」

 遊撃士としてリベールを旅して、自分の実力不足や世界に存在する壁の高さを認識できるようになったカイト。自分自身が考えついた、絶対に解決できないけれど解決したいと思うようになった高い目標。そういった事を解決しようとしてクロスベルに来た自分と、色眼鏡で見られながらももがいてひとつの結果を導いた彼らを、少しだけ同じように見ていた。

 クロスベルに来て半年。やっとアリオスに認められるようになったばかり。まだ自分はここに来た自分のことを認めていない。ついでに言えば、戦術オーブメントも新調して少し戦いも弱くなったと自覚している。

 ふと特務支援課や不良たちを見ると、ワジが明らかにこちらを見ていた。唯一自分に気づいているようで、こちらにウィンクを送ってくる。

「あーやだやだ、とんだ曲者だよ、本当に」

 彼も彼で、不良にしてはどこか不思議な空気を持っているように感じる。単に妖艶で美麗な空気というだけではなくて、その振る舞いすら何かを隠すように感じる。自分は、彼と似た雰囲気の人間とどこかで喋ったことがあると考えていた。それが誰なのかまではわからなかったが。

「まあいいや。初心、忘れるべからずだ」

 リベールでエステルやヨシュアと初めて会ったとき。結社の調査チームに加わったとき。影の国で仲間たちと合流したとき。何もわからないことが多かった。孤児院放火事件の犯人、結社の思惑、影の王の正体。全ては謎に包まれていた。

 それでも、何もわからない零の状態から、自分は仲間たちとともにここまで積み上げてきたのだ。だから。

「気持ちを新たに、ここから始めないとな」

 まだ、自分はこの魔都で、なすべきことがある。

 

 

 







原作で場合によっては介入を考えていたアリオス。
恐らくは協力関係と役割分担を行うのが理想の両組織。片方が腐敗まみれなのも過剰に信頼されるのも、それはどちらも歪であると思うのです。


次回、41話「弟たちの前日譚」です。
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