劇団アルカンシェルにて、新人アーティストであるリーシャ依頼を受けることになったカイトと特務支援課たち。依頼の中心人物である炎の舞姫と出会いを果たし、彼女の許可を得たのは僥倖だった。
「まったく、イリアさんったら……いきなり抱きついたりして、ロイドさんに失礼じゃないですか」
しかし、ロイドが知り合いの関係者だったのが分かるやいなや、イリアがかましたのはロイドへの盛大な抱擁だった。
そのことをリーシャにたしなめられたイリアは、しかしどこまでもあっけらかんとしていた。
「まあまあ、固いこと言わないっ。それにロイドくんも、お姉さんに抱きつかれてちょっとは嬉しかったでしょ?」
「ははは……」
苦笑いをするしかないロイドである。実際彼に非はなかった。女性に、しかもそれが大スターとなれば抱擁を受けて舞い上がらない男は少数だろう。
仕事中でなければ。
「……ティオ、そんな目で見ないでくれ」
「じー……」
「声に出して『じー』なんて言わないでくれ」
「セシルさんに続いてまたしても……」
「エリィ、それは違う。断じて違うっ」
「何が違うの?」
「……」
針千本の如く冷ややかな態度の女性陣。
「これが弟至上主義か! この弟帰属め! 弟ブルジョワジーが!」
「ランディさん、オレも一応『弟』なんで一緒にされると困ります」
うざったい男性陣。特に男性陣には無視を決め込んだロイドだった。
というかこの場合、セシルにとっての弟分という意味で、カイトの見識はまったく的外れなものなのだが。
「そ、それでイリアさん。脅迫状の件なんですけど」
「ああ、そうだったわね。ちゃんと手紙は持ってきてるわよ」
いい加減に空気を戻したロイドが率先してイリアから手紙を受け取った。他の四人もそこはしっかりしていて、ちゃんと戻ってくる。
謹んで封を開けた。なんてことはない、百貨店でも買えるような洒落てもいない封筒だった。中身も便箋一枚。同じく人に、大スターにファンレターで送るようなものではない。
五人でその文面を読む。恐ろしく簡潔に文章が書かれていた。
『新作ノ公演ヲ中止セヨ。サモナクバ炎ノ舞姫ニ悲劇ガ訪レルダロウ──《銀》』
タイプライターで書かれたもので、筆跡鑑定などは望めない。余計な文章もない。内容だけ見れば紛れもなく脅迫状だった。
ただ、それを送られた当のイリアはあっけらかんとしている。真剣さが増していくカイトたちの水を差そうというわけではないのだろうが、まったく怖がることなく否定してみせた。
「脅迫文というよりただの悪戯じゃない? この程度の脅し文句なんか珍しくもないわよ」
「そうなんですか?」
劇団アルカンシェルはクロスベルの看板だ。当然収益も独占とまではいかないが羽振りもいいだろう。有名人には付き物なのか、この程度の脅しは珍しくもないという。
ただ、とリーシャは付け加えた。
「単なる悪戯だったら特に差出人もないんですけど、今回は思わせぶりな名前が書かれていて、悪戯には思えないんです」
差出人は《銀》だ。
カイトは熟考した。
「
「そう、それは私も思ったのよ、カイト君」
イリアもリーシャも心当たりはないらしい。ロイドがさらに問う。
「悪戯じゃない脅迫状を受けるような心当たりはありませんか? 失礼とは思いますが、最近恨みを買うようなことがあったとか」
沈黙するリーシャ。
「あら、あんた誰かに恨まれることしたの!?」
「私じゃなくてイリアさんの話ですよ! ほら、例の会長さんのことで」
「ああ、あのハゲオヤジか」
二人の温度差に気が抜けてしまうが、次の会話でカイトたちはリーシャ側に回る事になる。
「マルコーニってい脂ぎったハゲオヤジよ。ルバーチェ商会っていうゴロツキどものトップの」
「ルバ……!?」
カイトが吹いた。痴態でないにせよ、驚いたのは支援課四人も同じだ。その名前は不良の諍いの時と魔獣事件の時に嫌というほど聞かされた。特に支援課にとっては宿敵、といってもいいほどだ。
アルカンシェルと会長マルコーニの関係だが、彼が接待で劇団によく客を連れてきているらしい。さらには、アルカンシェルに対して帝都のオペラハウスへの進出援助を持ちかけたのだとか。
「そんな予定があるんっすか?」
「ぶっちゃけ、うちって帝国からも共和国方面からも要請があってね。それ自体は珍しいことじゃないんだけど」
「ルバーチェはどちらかというと帝国との繋がりが深いマフィアです。帝都の暗黒街とのコネクションを持っていても不思議ではありませんが……」
エリィの補足に、再度カイトは考えた。
旅した帝都は簡単には知っている。あの頃は帝国をただ嫌いな対象としてしか見ていなかったが、クロスベルがそうであるように帝国にもそういった裏社会があってもなんらおかしいことではないのだ。
「それで、イリアさんは引き受けるんですか? 帝都公演を」
「帝都でやるかはともかくとして、ハゲオヤジの誘いは断ったわ。丁重に、ビンタかましてあげたわよ」
その言葉でカイトたちはむしろリーシャに目を向けた。それは『苦労してるな……』という目線だった。何も言わなくてもリーシャがルバーチェに恨み云々の話をした理由がわかったからだ。
「……お話は判りました。まずは心当たりを探っていこうかと思います」
ともあれ、動かなければならない。不安はあっても悪戯かどうかもわからないこの状況、手がかりを探らなければいけないのだ。
カイトたちは劇団アルカンシェルを後にした。リーシャの見送りを受けて、彼女の提案でロイドとエリィとは砕けた会話になった。年齢を聞いてみると、カイトと同じ十七歳らしい。
「さて……どうするんだ?」
アルカンシェルの看板を名残惜しそうに眺めながら、ランディがメンバーに聞いた。とは言っても、今のところ手がかりは《銀》という差出人と、可能性の低いルバーチェ商会との揉め事だけだ。
「……悪戯はそれはそれで問題だけど、悪戯じゃなくて本当に、イリアさんに対する恨みはなさそうだよな」
「カイトさん、どういうことですか?」
「仮にさ、ティオ。本当にイリアさんを亡き者にしたいって思ったら、あからさまにこんな脅迫状だすか?」
カイトが気になったのはそこだった。
確かにアルカンシェルやイリアがこの脅迫を気にせず公演行を行う場合もあるだろうが、普通はリーシャのように相談に来るはずだ。そうなればいっそう警戒されるし、本当に殺めたいなら脅迫などせずに闇に紛れて事を成したたほうがいいに決まってる。
実際特務支援課やカイトが動くことになったし、場合によっては捜査一課やアリオス・マクレインが出張る可能性もある。犯人からすれば目標は遠のくばかりだ。
「俺もそこは気になったよ。《銀》なんて名前をつけるくらいだ。単純にイリアさんを手にかけようというのとは違う意思を、この脅迫状には感じる」
要は、イリアというよりアルカンシェルを公演中止にして得するか、あるいは別の目的があると言ったほうが話が早い。
「だから、その仮定で動いたほうが……なに、どうしたんだよみんな?」
エリィ、ティオ、ランディがカイトを凝視していた。自分の思考を止めざるを得なかった。
「気になっていたのだけれど……カイト君、貴方は何者なの?」
「リベール出身と聞きましたが……エステルさんやヨシュアさんと同じなんですね」
「俺たちと変わらない新人とは言うが……その推理力、実力。お兄さんにゃそれが気になるぜ」
ランディは冷静に分析している。カイトからしてみればランディのことも気にはなるのだが、それは置いておいて笑った。
「まあ、それなりに修羅場は潜ってると思う。だからちょっとはやるけど、本質的には変わらないよ。オレもロイドたちと同じ、この街の闇を払うのにどうすればいいのか悩んで、その方法を模索してるだけだ」
リベールの異変の経験を除けば、本当に特筆しようがない。孤児院育ちで少し目上の人と縁があるだけの成長期途中の少年遊撃士なだけだ。
「無茶な夢を見て……どうしようもない《壁》をどうにかしようとしてる子供だよ」
四人からすれば、カイトは少し異質な人間に見えるのだろう。先を走る実力を持ちながら、その実同じ目線で見る少年のことが。
だが、カイトの言葉に四人が、殊更にロイドが柔らかい表情となる。
「ああ。わかったよ、カイト。俺たちもだ、《壁》を乗り越えるために」
そして、驚くべき提案をした。
「みんな……一度ルバーチェ商会を尋ねてみないか?」
カイトは静観した。
「脅迫状を出したのが会長とは思えないけど……面倒を避けてるだけじゃ真実にはたどり着けないと思う」
どの道、辿るべき手がかりは少ない。まずは一つの可能性を潰すべきでもあった。
「いい機会だと思うんだ。あれだけのことをしても捕まらず、大手を振って歩いている。そんなどうしようもない壁が、どんな実態なのかを掴むには」
はっと、支援課メンバーが顔を向ける。
そう、行動しなければ、もがいてみなければわからない。
五人はさっそく歩き始めた。とはいえ歓楽街からルバーチェ商会の本拠地は近い。隣の裏通りの奥の奥に商会は居を構えている。
遊撃士の先輩たちが時折飲み明かすというバー《ガランテ》が近くにあるというのも、カイトにとっては微妙な心境だった。
カイトは警察官ではない。今回において、ロイドたちの協力者のようなものだ。ロイドたちが『容疑者ではなくあくまで参考人』という立ち位置なのだから、カイトも堂々と一緒になって正面玄関に立つ。
玄関口には構成員が二人立っていた。当然ながら、物々しい雰囲気だ。
「なんだぁ、お前らは?」
明らかに堅気ではない空気を醸し出す一人。少しでもこちらが舐めた態度をとれば、簡単に手が出そうな、無法者という印象だ。
カイトがマフィアという存在と直接接触するのはこれが初めてだった。こういった裏稼業の存在と対面するのは、帝国で接触したジェスター猟兵団や帝国解放戦線ぐらいだった。結社は異質すぎるので数に数えるつもりはない。
対してロイドたちは、逆に猟兵たちなどとは面識がないがルバーチェとは複数回接触している。というより交戦している、と言ったほうがいい。
「ここはお前らガキが来るような場所じゃない──」
適当にあしらおうとしたのだろう、無遠慮に近づいた一人はしかし急に後退して手に持つ導力銃に手をかける。反射的にカイトも導力銃を引き抜いた。
「おい、どうしたんだ!?」
「このガキ、警察のガキどもだ! 旧市街とマインツの仕込みを邪魔しやがった……!」
二回の交戦の末、ロイドたちの面子は完全に割れたらしい。
「一人、警察じゃないガキもいるけどな」
「なにぃ?」
「カイト・レグメント、遊撃士だ。今日は支援課の付き添いで来てる。そんな物騒なものはしまってほしいんだけど」
「遊撃士だと……警察と絡んでなにしやがるってんだ」
カイトはともかく、支援課四人の自己紹介は必要なさそうだった。
ロイドは自分の警察手帳を掲げた。その姿は新人にしては堂に入っていた。
「改めて……クロスベル警察、特務支援課です。今日は捜査任務でこちらに伺いました。こちらの会長さんに取り継いでもらえませんか? とある事件に関して話を聞かせてもらいたいんです」
矢継ぎ早になっているあたり、ロイドも多少は緊張しているようだ。相手を考えれば無理もないが。
当然、簡単に了承する組織ではない。導力銃はお互いしまったものの、剣呑な空気は変わらない。
「容疑者ではありません、あくまで参考人として話を伺わせていただきたいだけなんです」
エリィは努めて冷静だったが、返って火に油を注ぐ結果となったらしい。
「少し調子に乗らせすぎたみてぇだな。こりゃ、痛い目に合わせて──」
「通してやれ」
意外にも許可が降りた。だがその声は門番の二人のものではなかった。たった今扉を開けた、見上げるような体躯の大男だった。
「お前らが警察のガキどもか。話には聞いてたが思った以上に若いじゃねえか」
「……特務支援課、ロイド・バニングスです。あなたは……?」
「ガルシア・ロッシ。ルバーチェ商会の営業本部長を勤めている。まあ《若頭》と呼ばれることのほうが多いがな」
体裁はあくまで商会だ。だが、その実態は明らか。若頭、実質的に会長に次ぐ権力者だった。
支援課も、カイトさえも緊張を隠せない。それほどまでに大物だ。そしてガルシアは構成員が持つ激情を感じさせず、なのに凄みを顕にしている。
「──入れ。話くらいは聞いてやる」
加えてガルシアがそう言うものだから、やはり警戒せずにはいられなかった。例えガルシアが背を向け、明らかに死角をこちらに許しているとしても。
ロイドとカイトは言葉を交わさず目ぶせした。ついて行くほか、選択肢はなかったのだ。
豪奢な正面玄関を通り、そのまままっすぐ。ついた応接間はやはり豪華絢爛な調度品が所狭しと並び、《商会》と謳うには余りにも不釣り合いだ。
ガルシアは、その上座に偉そうな空気も隠さず大仰に腰を据える。
カイトと支援課の五人が座ってすぐ、当たり前だがもてなしもせずに口を開いた。
「それで? どうして遊撃士と警察がつるんでやがるんだ」
いきなりそれだ。当然といえば当然だが。
「オレはクロスベル支部所属の──」
「カイト・レグメント、リベール出身の正遊撃士だな。わざわざ名乗る必要もねぇ」
「……! 知ってたんですか」
「風の剣聖やその取り巻きほどじゃないがな。十七歳のガキにしてD級のランクを持ち、リベールの異変解決にも尽力したって話だったか」
リベールの異変。カイトは当事者だが、王国中の導力が停止し浮游都市が出現したあの出来事は諸外国にも知れ渡っている。
むしろ、ロイドたちのほうが反応してしまう。
「……そこまで知ってながらどうして?」
「紹介はいらねえと言った。どうしててめえらがつるんでんだって聞いてんだろうが。正義の味方が手と手を合わせてカチコミにでも来たか?」
「……オレは《支える籠手》だ。民間人と彼らの願いを叶えるためにいる。今日は悪党退治でも何でもない、一つの依頼のために来ただけだ」
「警察のガキの手伝いをしてやってると?」
「してやってる、じゃない。してるだけだ」
「ならてめぇと語ることは何もねえな。黙ってろ」
「……そっちが聞いてきたんだろうが」
とは言え、言葉通り押し黙るしかなかった。
ガルシア・ロッシ。並みの人間ではない。リベールの異変を共にした仲間たち、戦闘力という意味では彼らがいても簡単に勝てる相手でないのは分かる。肩を並べた仲間の中で、一対一で勝るのは恐らく、ケビン、レン、リシャールぐらいだろう。
覇気も単なる強者のそれとは一線を画している。街中のマフィアというには余りにも血を見すぎているというか。カイトが知る中では、ジェスター猟兵団の赤獅子が近い雰囲気だったが。
カイトが静観する中、ロイドはルバーチェを尋ねた理由を説明していた。イリア・プラティエに送られた脅迫状のこと、先日あったルバーチェとの揉め事のこと。
返ってきたのは一笑だった。
「
「もちろん、決めつけてはいません。ですがこちらとしても手がかりが何もない状態でして」
「確かに会長がイリア・プラティエに叩かれることはあったが……ありゃ酒の席のお遊びだ。会長本人も覚えちゃいねえだろうよ」
完全な否定。マルコーニの素行には思う所がある五人だが、それでも話の筋は通っている。元々自分たちでさえ、ルバーチェが脅迫状を出す可能性は薄いと考えていた。
ロイドは懐から脅迫状を取り出した。イリアから預かったものだ。
「念のため、実物を見ていただいても?」
「ふん、いいだろう」
もはやそう見えるよう努力しているのかと疑うくらい横暴な所作だった。ぼやきながら中身を確認している。
「ったく、なんでこっちが疑われなきゃらねぇんだ……確かにイリア・プラティエの公演を妨害しようとしてるようだが……ん?」
ガルシアか怪訝な表情をした。とある一点を凝視しているらしい。明らかに何かを知っていて驚くような。
だがガルシアは言及を避けた。ロイドに脅迫状を投げ返して。
「ハッ、くだらねえな。脅迫状というよりは単なる悪戯じゃねえのか?」
「え」
予想外過ぎて、この場で最も思考力のあるロイドが呆けたほどだ。
確かに悪戯というのはしつこいくらい可能性としてありえることだが、しかしあの反応の次に出た言葉としては見過ごせるものではない。
「心当たりがあるような反応なのに……?」
「なんのことだ、遊撃士のガキ。文面も全く心当たりはねぇな……ま、少なくともうちの会長や組織の人間が書いたんじゃねぇ。クク、とんだ無駄足だったなぁ?」
どうやら、今回の件に関してルバーチェがシロであるというのは確かなようだった。少なくとも、カイトとロイドの中では定まりつつあった。
ロイドがもう一歩踏む込む。
「……ところで、今の話を会長さんから直接お聞きできないでしょうか?」
「──は?」
ガルシアの凄みが、一瞬消えた。
「ああ、確かにそういった話は本人から聴きたいっもんだ。なんだ、留守にでもしてんのかい?」
ランディも畳み掛ける。
だがこの時、カイトも含めて五人は失念していた。目の前にいるのは、クロスベル最大の闇の副頭目であることを。
「ははははは!!! ……はぁあ!!!」
脅すように、怖がらせるように。ガルシアは応接室の机を蹴りつけた。部屋中が震憾して、少女二人が縮こまってしまう。
そしてガルシアは両足を地につけた。肘を膝に付け、体を丸める。そうだとしても、そのまま突進してきそうな恐ろしさだった。
「調子に乗るなよ小僧ども。てめえらみたいなガキに会長が会うわけねえだろうが? いつでも捻り潰せる無知で哀れな子犬どもによ?」
動けない特務支援課。
カイトの視線は眼下のそれに向いている。
ガルシアほどの大男が脅しのためとはいえかなりの力で押し込んだ机。にも関わらずどうして机が動かないのか。
(この机……もしかして?)
「本来なら俺も警察の窓際部署なんざ付き合う義理もねえが……親切に忠告してやろうと思っただけだ」
大きく息を吸う。特務支援課にとって、カイトにとって、一番言われたくない一言だった。
「──てめえらが何をしようがこの街の現実は変わらねえ。ましてや、俺たちをどうこうすることなど……
「……ふざけ」
「わかったら、とっとと失せろ。警察も遊撃士も関係ねえ、これ以上歯向かえばガキだろうが……容赦なく叩き潰す」
立ち上がるロイド。
「……忠告、ありがたく受け取っておきますよ。行こう、みんな。聞き込みはこれで十分だ」
実力でも権威でも、覇気でも。この場でできることは何もなかった。
応接間から出る。その間、もう支援課とカイトたちは話すことはないとばかりにのそのそと歩く。
「へ、茶の一杯くらい出しやがれってんだ」
ランディをしんがりに。背後からガルシアの不機嫌な声が聞こえた気がしたが、もはや注意を割こうとも思わなかった。
ルバーチェの建物を出る時にもやっぱり門番の構成員はこちらを睨みつけている。ただ直前にガルシアの圧に呑まれていたせいで、ひどく軽く子供じみたものに感じたが。
歓楽街の外れまでそのまま歩いてから、一同は盛大に消沈した。
「まいったな……」
「……めっちゃくちゃ疲れた」
カイトの台詞は全員の心境を如実に表している。カイトも強敵と戦ったことは何度もあったが、基本的に頼れる先輩たちが隣にいた。それが、今日はカイトにとっては少し違う状況だ。疲労もいつもより余計感じた。
ともかく、ガルシアはカイトたちを完全に子供扱い、それ以前に、警察ごときが何をしたところで痛くも痒くもないといったような感じだ。議員の後ろ盾もあるだろう、とは言えそれでもあの余裕綽々な言動には嫌気がさしたが。
長いこと沈黙を続けていたエリィ。
「それより、これからどうするの? ルバーチェには心当たりがあるみたいだったけど」
話は振り出しに戻った。結局、ルバーチェが犯人である可能性は低いように思える。
「明らかに反応してましたよね?」
「ティオすけの言う通りだぜ、ロイド。少なくとも、何か関係はありそうじゃねえか?」
「もちろん、それは考えてる。おそらく差出人の名前に反応したんだ。あの態度は、まるで関係がないことを最初から確信しているような感じだった」
つまりは《銀》、結局はこの存在が手がかりになるということだ。そしてそれは、ルバーチェと無関係でありながら彼らが強く意識するような相手、ということ。
「……カイト、君にも聞きたい。ここまで言って何を思う?」
「そりゃあ、もちろん──」
『
同世代の少年と青年が二人して薄ら笑いを浮かべるものだから、ランディやティオも興に乗るしかなかった。
次の目的地が決まったのだ。