心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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42話 長い一日④

 

 イリア・プラティエに向けた脅迫状を調べることとなったカイトと特務支援課たち。この日は特務支援課が発足して依頼、市内では最も移動時間を使う長い一日となった。

 劇団アルカンシェル、ルバーチェ商会、黒月、ダドリー捜査官、さらにはマクダエル市長。数多くの人物と話し合ったわけで、五人の精神的な疲労はほぼ限界に近づいていた。せっかく一日かけた依頼が捜査一課への引き継ぎという悔やまれる形で終わりそうだ、というのも理由にある。

 だが、一同はまだまだ一日は長いということを理解することになる。

 空がもうそろそろ夜へと変わる頃、支援課とカイトは特務支援課分室ビルの玄関にやってきたのだが。

「ああ、よかった。本当にこの場所でいいのか迷っていたんだよ」

「アーネストさん。ひょっとして私を待っていたんですか?」

 ビルの前で鉄道路線を見ながら黄昏ていた青年。一時間ほど前にも顔を合わせたマクダエル市長の後ろにいたアーネストだ。エリィから、マクダエル市長の秘書を務めているのだと教えてもらった。

「用事ついでに訪ねさせてもらったよ。それにしても……やっぱり元気がないようだね」

 そしてアーネストはエリィがアルカンシェルに来ていたことについて尋ねる。ことこの状況において、ほかの人間は口出しできなかった。

 エリィとアーネストは一通りを話す。支援課は全員、発足依頼長期休暇などをとっていない。旧知の人間と再開するのもセシルくらいだった。積もる話はあっただろう。

 そしてアーネストは言う。

「単刀直入に言う。エリィ、警察を辞めて戻ってこないか?」

 その言葉には驚いた。ロイドたち支援課メンバーだけでなく、カイトもだ。

 思惑はわからないが、ロイドたちにとって邪魔者になってしまったアーネスト。彼は続ける。

「君にも考えがあって警察に入ったのはわかる。だが、そんな子供のように迷った眼をして……それは本当に君が歩む道なのかい?」

「そ、それは」

「今の政治状況に絶望しているのもわかる。おそらく警察にいるのもそのことが関係しているんだろう。けど、市長の今の状況を考えて差し上げて欲しいんだ。君がそばにいてくれたら、どれほど心強いかを」

「……」

 事情があるのだろうが、エリィはいつもとはまるで違う雰囲気だ。そしてアーネストは市長秘書という仕事柄もあるのだろう、立て板に水のように言葉が流れてくる。

「……どうしても見過ごすわけには行かなかった。昔から君を見ていた者として。もちろん君の道は君が決めるものではあるが……」

 それが本当に正しいのか、今一度よく考えてみて欲しい。

 そう言われたエリィは何も返さず……ロイドたちへ「部屋で休む」とだけ告げて、支援課ビルの中へ入っていく。

 知らない者通し気まずくなったの、それでもアーネストはロイドたちに穏やかに微笑む。

「君たち、いきなりすまなかったね」

「いえ……色々と事情がおありのようですし」

「ま、あんまりお嬢のこと苛めないでやってくれよ」

「ですね。私たちからエリィさんを奪おうとしてるみたいですし」

「はは、別にそんなつもりはなかったんだが」

 愛されているな。というより仲が良くて信頼し合っているチームだな、とカイトは思った。

 ただ、アーネストはロイドたちと違ってエリィの過去を知っていた。そのアドバンテージは確かにあり、ロイドたちにとって必要な事実を教えてくれる。

「けど君たちは、彼女がもともと政治家志望なのは知っていたかい?」

「オイオイ、そうなのかよ!?」

「確かに政治や経済にとても詳しいみたいでしたが……」

 それは毎日顔を合わせるわけではないカイトにとっては意外なことだった。ただ彼女がマクダエル市長の孫娘であることを考えると納得がいく。クローゼの立場と似たようなものだった。

 エリィはマクダエル市長の後継者として政治の道に進むべく、勉学を重ねてきたらしい。警察に入る前は各国の名門学校へ留学もしていたとか。それは深い教養と国際的な政治感覚を養うためでもあった。

「それが去年、帰国したと思ったらいきなり警察を志望してね」

 そこにどういう心境の変化があったのか。確かに経緯だけを聞くと予想だにしないことではあるが。

「できれば彼女の結論が出るまで、君たちも見守ってほしい。このまま警察を続けても、あんな風に迷いを抱えたままではやっていけないだろうからね」

 そう言って、アーネストは夜のクロスベルに溶けていく。ロイドたち支援課に爪痕を残して。

「……」

 ことの成り行きを傍観していたカイト。リベールでもそういったことがないわけではないが、今回は流石に立場が違いすぎた。

 十秒ほど沈黙が続いて、そうしてやっと沈黙が破られる。

「何やってるんだ、お前ら」

 支援課分室ビルの扉が開かれる。だがエリィによるものではない。

 セルゲイ・ロウ。特務支援課の課長だった。

「さっきエリィが上がっていったが」

「課長……お疲れ様です」

「お前らの今日の要請は脅迫状の調査だったな。フランから報告は受けたぞ」

「聞いてたのかよオッサン」

「仮にもお前らの上司だからな。それが遊撃士との共同調査になるとは、なかなか面白いことになってるじゃねえか」

「……お久しぶりです、セルゲイ捜査官」

「おう、お前さんもな。ククッ、やっぱり俺の勧誘を受けるかよ?」

「ま、それは継続して断っときますけど。……それよりも」

 ロイドはアルカンシェルからここへ来るまでの道中、セルゲイへの報告を行うと言っていた。

「オレも報告、同席してもいいですか?」

 セルゲイは頷いた。

「エリィやロイドたちの顔を見れば、捜査が難航してるのはわかる。一緒に行動している以上、当然お前さんからも聞かせてもらうさ」

 そうして、カイトとロイドたちはセルゲイの課長室に入ることとなった。いきなり白狼がいて驚くことになる。そういえば、魔獣事件の直後にこのツァイトという狼が『警察犬』として登録されたのだったか。そのまた直後に市内で子供を救ったことでちょっとした英雄扱いとなったことはカイトも知っている。

「ツァイト、よろしくな」

「……ウォンッ、アオォォン」

「ふふ……『依頼があれば優先して頼ろう』、だそうです」

「……そんなことまでわかるの?」

 狼が出す依頼ってなんだ。というか人の言葉がわかるのか。

 事のあらましをセルゲイに説明する。それは捜査とは直接関係のないマクダエル市長やアーネストのことも含まれていた。

「……なるほど、事情があるのだろうがはわかったぜ。で、このまま泣き寝入りするのか?」

 セルゲイはいきなり本題に入った。つまりは今回の調査を本当に打ち切るのか否か、ということだ。

 セルゲイ曰く、警察の縄張り意識というものは遊撃士と軍隊以上のもの。それが組織内の部署同士であれ変わらない。

「仮に俺たち支援課が食い下がったところで、あの狐が出てきて厳重注意が関の山だろう」

「ティオ、狐って誰のこと?」

「ルバーチェ会長とは別の意味でハゲオヤジな人です」

「そう言ってやんなよ。残り少ない頭の財産をまだ守ってんだからよ」

 ピエール副局長、警察のNo.2だそうだ。

「レグメント、遊撃士としてはどうだ? 今回の件は」

「……脅迫状の詳細がわからない以上遊撃士の民間人保護条項には当てはまります。けど元々遊撃士(オレたち)に来た依頼でもないし、捜査一課が担当するというのなら遊撃士が無理に動く案件じゃないです。依頼者から直接頼まれたら、話は別ですけど」

「なるほどな」

 脅迫状に関する事件といえば、カイトが思い出すのは殲滅天使レンが王都で起こした狂ったお茶会だ。直接少年が居合わせたわけではないが、エレボニア帝国・カルバード共和国・リベール王国の三国による不戦条約調印式を妨害する名目でだされたものだ。結局それは本物ではなく、レンが結社の実験を遂行するためのブラフだったのだが。

(……ブラフ、か)

 自身の思考に没頭しかけて、セルゲイの声が耳朶を打つ。

「支援課、遊撃士。どちらもこのままじゃ動けない……だが」

 セルゲイの口角が釣り上がる。

「ただし、黙ってやる分には話が別だ」

 カイトだけではない。部下であるロイドたちさえも耳を疑う。

「この特務支援課はある意味規格外の部署だ。本部からハブられているが、それは逆にある程度の裁量が任されているとも言える」

「……課長」

「それこそ黙ってやる分にはほかの部署の縄張りを踏み越えられる分にはな」

「オイオイ、そんなこと言っていいのかよ」

「とんだ不良上司ですね」

「言っただろう? 俺は基本的には動かねえが尻拭いだけはしてやるってな」

 覚悟を決めて動くのはあくまでロイドたち自身。そう言っているのだ。

 なんてことはない。カイトにとっては随分優秀に見える上司のようだ。遊撃士協会の受付のような。

 赤髪眼鏡の青年がこれ見よがしに笑ったような幻想を見た気がするが、カイトは心の中で導力銃を乱射しておいた。

 セルゲイは続けた。

「ま、そうは言ってもその様子じゃ無理だろうな。なにせ仲間内に迷ってる奴が居るくらいだ。チーム一丸となって腹を括れる状態じゃねえだろ」

 ツァイトがチームの割には気の抜けたあくびをして、その場はお開きとなる。

 時刻は八時になろうとしていた。結局、エリィがいない状況では外食をする気にもなれず、なし崩しにカイトは支援課ビル内で夕飯をいただくことになる。支援課は四人が持ち回りで家事もやっているらしく、彼らの異常とも言える連携の根幹を見た気がした。ようは、エステルとヨシュアのようであり、自分とクローゼのようなものだった。

 報告は既に終えたのでお開きになるのだが、ロイドが食器を片付けている最中にランディが宵の口に誘ってきた。特に断る理由もなく、カイトはそれを受けてランディの自室にお邪魔した。報告書を仕上げる能力が養われてよかったと思った。

 ランディが自身の部屋にあるボトルを開ける。カイトはまだ飲めないので、調理場にあったジュースを拝借する。

 そのうちにロイドがやってきて、カイトの存在に少しだけ目を見開いた。

「お疲れ、ランディ……あれ、カイトもいたのか」

「お邪魔してるよ」

「よぉ。せっかくだから男同士洒落こもうと思ってな」

 自然、ロイドも混じる。少し迷っているようだが。

 三人そろってランディの部屋のソファに座った。

 晩酌を始める男衆。夕飯前の空気を払拭するかのようにくだらないことも話す。同じくらい真面目な話もした。

 ロイドは真面目で、そして聡明な青年だった。ところどころ無自覚にたらしな発言が聞かれるところに笑ってしまったが。その辺りエステルのような印象を覚えるが、発言するロイド自身が男性であるためヨシュアのような天然さも見えて、彼自身の後々が若干心配にもなってきたが。

 ランディは彼自身が自負するように軟派な言動が目立つのだが、その実は年長者としての優しさも見えて一層頼もしさを感じる。特務支援課においては実戦リーダーとしての観察眼があった。

 カイトも自身のことを話した。孤児院のこと。家族のこと立場は明かさないが義姉のこと、リベールの故郷のこと。話題は尽きなかった。

 そして。

「ロイド、やっぱりエリィのことが気になるか?」

「ぶふっ! カ、カイト!? 何を!?」

 おやこれは意図しない部分に当たってしまったかななどと考える。確かにエリィは美人だしな、と考えているとランディが。

「なんだ、ロイドォ、お嬢がタイプなのか? 職場に好みの子がいるとはなかなか大変じゃないか」

「いや、別にそんな風に考えてるんじゃなくて!」

「実際、今日でお嬢様だってのもわかったしな。とんだ逆玉じゃねえか」

 恥ずかしがってるロイド。意外とまんざらでもないらしいが。

 笑いながらカイトは言った。

「まあ、それも素敵だけど置いておいて。今日はエリィにとっても災難な一日だっただろうしね」

「……ああ」

「そうだな。お嬢みたいな娘が警察入りっつーのは謎だったが、まさかの理由だったぜ」

 それぞれ、思うところもあるようだ。特務支援課でない自分でも同じように考えるのだから。

 ランディがこうして男衆を集めたのも、多少空気の読めなさはあるが、あえて空気を読まなかったとも言える。だからこうしてロイドとランディが、そしてカイトが共通の悩み事を共有している。

 そして、エリィの事を考えているのは男だけではない。

「じー……」

「うぉ!? びっくりした……」

 声を聞くまで、カイトは彼女の存在に気付かなかった。ティオはランディの部屋の扉を数リジュだけ開けて、片目をジト目にして三人の様子を伺っていた。それはもう、完全に不満げな様子だ。

 ティオは扉を開けた。そのままずいずいと中へ入る。日中来ている仕事着ではない、同じ黒色の寝巻き姿だった。導力器なのだと伺った猫耳センサーもないので、また印象が違って見える。

「お、ティオすけは風呂上がりか。どれどれ、お兄さんが髪を乾かしてやろうか?」

「ビミョーにセクハラです、ランディさん」

 ティオはジュースを持っていた。どうやら酒盛りに気づいて自分も参加しようと準備して来たらしい。

 ややぶっきらぼうな挙動でランディとロイドを動かして、ティオはその間に座った。

 そして一言。

「三人だけでずるいです。私も混ぜてください」

「ああ、もちろんさ。なあ、カイト?」

「おう、一緒に楽しもうよ」

 誰もそれを邪魔する者はいない。支援課の中でも最年少。可愛らしいものだ。そういえば、ティータと同い年だったかと思う。

「それにしても、俺とロイドが酒盛りしてたらうざそうにしてるのに。はっ、さてはお前カイトのことが──」

「やっぱりウザイです、ランディさん」

「あはは」

 ジュースを開けてコップに注ぐ。コップには《みっしぃ》と呼ばれるクロスベルのご当地キャラクターが描かれている。

 少し目線を下げて、ポツリと呟いた。

「その……やっぱりエリィさんの力になりたいと、思いまして」

 少しだけ間が空く男衆。全員優しげな表情になった。

「そっか、そうだよな」

「……お嬢の冴えない顔は、あまりみたいもんじゃないしな」

「チームじゃないけど、気持ちはオレも同じだよ」

 政治家希望でありながら、警察を目指した。カイトはそれほど感じる時間はなかったが、彼女の知識は本物なのだという。であれば、恐らく夢の本質は変わってないはずだ。アーネストがこぼしていた通り、エリィの警察入りの本心がそこにあるのは変わりないはずだが。

 カイトにはわからない。わかりようがないが、思うところはあった。

「……少し、自分の話をしてもいいかな?」

 無言の肯定。カイトは続ける。

「最近、オレもエリィと似たようなことで悩んでてさ。自分の目標のために、自分が居るべき場所に留まるべきかどうかを、考えているんだ」

「えっ」

「何だ、お前さん遊撃士辞めるのか?」

「いや、別に辞めるつもりはないですよ。ただ、オレを知ってる()()から、『この道はどうだ』って言われてて」

 名前を言ったら驚かれるあの皇子だ。そういえば帝国の皇子だから、ロイドたちにそれを言おうものなら仰天されるかもしれない。

「政治家希望だけど警察に入った。遊撃士だけど、()()に行くかもしれない。アーネストさんから話を聞いて、ちょっと重ねたんです」

「そっか……カイトには、その道に行きたいけど迷いがあるんだね?」

「ああ。本当に《今》離れていいのか……決心がまだつかないんだ」

 カイトは行動する前、エリィは行動後。その迷いはある意味似たようなものでもある。そして、その迷いの根源は内的なものであることが多い。

「エリィがどんな答えを出すのか、それがオレがこれから出す答えと同じなのか違うのかはわからないけど……」

「わかったよ、カイト」

 ロイドが立ち上がって上着を羽織る。

「エリィと話をしてくるよ。みんなの分まで」

 決意したような青年の瞳。その言葉を、この場の全員が待っていた。

「おうよ。頼むぜ。ロイド」

「よろしくお願いします、ロイドさん。私の分まで。……あまり得意ではないので」

「ああ。ティオの分も、伝えてくる」

「行ってらっしゃい、ロイド」

「ありがとう、カイト。俺も少しは勇気が持てたみたいだ」

 カイトは、決心をつけるためにどうすればいいかはわかっていた。エリィも行動を起こした以上決意は固いはずだ。それが変わらないのなら、迷いを払う手伝いが、同じ仲間たちにはあるはずだ。

 きっと、それがカイトの決意を固めることにも繋がる。カイトにとっては、そんな邪推もあったが。

 ロイドを見送ってから、残る三人はのんびりとした空気になる。

「あはは、青春だなぁ」

「後で二人の後をつけてみようぜ」

「ランディさん、デリカシーがないです。……まあ、今回は見逃しますけど」

「にしてもよカイト。色々と助かるぜ、商売敵なのに協力もしてくれてよ」

「ですね……ジオフロントの時も、病院の時もそうですし」

「いやいや、別にオレはオレのやりたいことをやってるだけだよ」

 感謝されて悪い気はしない。ただ、上に見られるようなことはない。

「オレもまだ新米さ、少し修羅場を潜った自負はあるけど、根っこのところは同じだよ。オレもロイドたちの環の中に、少しくらいは入りたいんだ」

 分室ビルでの夜は、穏やかに更けていく。

 

 

────

 

 

 翌日。遊撃士協会。

「へえ。それで、昨日カイトはロイド君たちと一緒に動いていたのね」

「そうそう、そうなんだよ……ってそうか、エステルたちもロイドたちと面識あったんだっけ」

 前日夜遅くに特務支援課分室ビルを後にし、カイトは深夜に旧市街の自室に帰ってきた。そこから所要を済ませて就寝したので、朝は少し起きるのに苦労した。

 朝方遊撃士協会支部に顔を出すと、掲示板を見ていたのはエステルとヨシュアだった。

 リベールで苦楽を共にした三人だ。気を置けない三人は、その日の依頼を始める前に当たり前のように世間話を始める。ちなみに他の遊撃士は二階にいたり既に市外に出ていたりと、とにかくこの場にはいなかったが。

 カイトの疑問にはヨシュアが答えた。

「うん。以前街道に出ていた時に、一緒に魔獣を倒してね」

「それにしても、カイトォ? あのイリアさんからの依頼なんて、なんで私たちに相談してくれないのよ!」

「……なーんかエステルと話をしてると『戻ってきたな』って感じがするなぁ」

「むっ! それってどうなの!?」

「褒めてるんだよ……痛い、痛いからつねないでくれ!」

 二人も一通りクロスベル自治州を回り、わずかながら土地勘を得たようだった。遊撃士稼業についてはエステルたちが、クロスベルについては自分が一日の長を持つちぐはぐトリオの結成である。

「あ、ねえねえカイト。久しぶりに三人で仕事しない? リベールの時みたいに。ね、ヨシュア」

「いいね。僕も、カイトがどれだけ成長したのか、気になってきたよ」

 この二人、バカップル具合が増していないか?

「まあいいや。ところで、ヨシュア。《銀》についてはなにか知らない?」

 昨日は濃い面子とばかり会っていたから、思考する余裕がなかった。なぜ今になって気づくのかと自分を叱りたくなってくる。こういう裏稼業、猟兵事情などの情報収集はヨシュアの得意とするところだ。

「《銀》だね。うん、少しは有力な情報を伝えられると思う」

「頼む」

「まず、黒月というよりツァオ支社長が上層部のコネを借りずに依頼を出したのが《銀》らしい」

「巨大シンジケートの支社長と長期契約かぁ……先が思いやられるな」

「はは、君も随分とクロスベルに馴染んできたみたいだ。……《銀》そのものの正体に関する情報もあるけど……聞くかい?」

「! ……もちろん」

「わかった。といっても、これは共和国支部を訪ねた時に、ジンさんから聞いたものだけどね」

「ジンさん、元気だった?」

「もちろん。始めの頃はA級でも下っ端と言ってたけど、今じゃ共和国の重鎮になってしまったって笑っていたよ」

「ま、リベールの異変のことも考えればねぇ」

 共和国方面に誘われた先輩遊撃士。今共和国は移民と人種差別、それによるテロリズムが問題となっているが、大丈夫だろうか。

「……話を戻すよ。百年前から不老不死と言われる《銀》が、一子相伝の暗殺稼業として成り立ってること」

「……それって」

「うん。少なくとも幽霊の類じゃない。僕たち以上……執行者並みの実力を持った何者かだ」

 カイトにとっては情報の整理となるヨシュアとの会話。

(そうなると……少し見えてくることもあるな)

 《銀》が共和国を拠点とし最近長期契約でクロスベルに潜入しているならば。その正体は最近クロスベルに来た人物である可能性が高くなるのだが……。

 と、その時。遊撃士協会支部の導力端末から着信音が響く。

「本部からの通信かな」

 ヨシュアが颯爽と受付側に回って導力端末を動かす。一緒に話していたので、なんとなくヨシュアの操作を見つめる。

「本部からじゃない。市内のどこかの通信端末からのメールみたいだけど……これは」

「なになにー?」

「……ははぁ、なるほど」

 その文面を見てにやりと、好敵手を見るような顔で笑う。

 

『《銀》より《白き翼》の申し子たちに依頼あり。試練を乗り越え、我が元へ参ぜよ。さもなければ汝に使命を授けん』

 

 そして画面をスクロールし、さらに続く短い文章を眺める。それは《銀》正体を探っていた少年遊撃士への挑戦状だった。

 

『交わる世

 女神の光

 堕とせしむ

 水面の月なら

 逆も然るや 』

 

 

 

 







ロイドたちとは別口で出された、カイトたちへの銀の挑戦状。そこに書かれている文章には、カイトたちが行くべき「我が元」が記された暗号となっています。
原作とは若干違う場所。次の話ですぐ明かしてしまうので、それまでに是非どこなのか、というのを推理していただけると嬉しいです。

『交わる世
 女神の光
 堕とせしむ
 水面の月なら
 逆も然るや 』


次回、第43話「零から閃へ~舞姫たちの舞踏会~」です。
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