『なんだって……!? カイトにも《銀》からのメールが!?』
「うん。ご丁寧にリベール出身者を名指ししてね。『も』ってことは、ロイドたちにも?」
『ああ。そっちと違って暗号のような文書はなかった。ティオが送信元を突き止めてれたから手がかりがないわけじゃないけど』
「同時に送られた趣向の違う挑戦状か。どういう意図なんだろう」
『……虎穴に入らずんばってこともある。それぞれ別ルートで辿ってみよう』
「わかった。ところで、その後エリィの方は?」
『大丈夫さ。元気を取り戻してくれたから、もう心配はない』
「オーケー、ならお互い頑張ろう」
カイトはロイドとの通信を切った。ENIGMAをしまって顔を上げる。そこは見慣れた東通りで、視界にはエステルとヨシュアがいる。
二人は双剣の最終調整をしたり、髪留めを直したりと各々準備をしていた。
「それじゃ、行きましょっか」
「手がかりは例の暗号文。でも、カイトには心あたりがあるんだね」
「うん」
カイトもカイトで導力銃の調整をする。
『《銀》より《白き翼》の申し子たちに依頼あり。試練を乗り越え、我が元へ参ぜよ。さもなければ汝に使命を授けん』
それが遊撃士協会──というより、ほとんどカイトを名指しして送られた挑戦状だった。宛先を変えてロイドたちへも同じものが送られていたという。導力ネットワーク技術に詳しいティオが送り先をIBC──クロスベル国際銀行を経由していると断定したが、ロイドたちのメールと違いこちらには明確な暗号文があった。
『交わる世
女神の光
堕とせしむ
水面の月なら
逆も然るや 』
《銀》はそれぞれのルートで自分のもとへ来いと言っているのだ。危険は承知、けれど断る理由はなかった。
「……でもエステルもヨシュアも、他の依頼は大丈夫なのか? オレ、別に一人でもいいと思うけど」
「なーに寂しいこと言ってんのよ。宛先は『翼の申し子
「《銀》が狙ってるのは明らかにカイトと特務支援課だとは思うけど……ここまで用意周到な人物が狙いを間違えるとも思えない。少なくとも指名が外れるまでは付き合うよ」
「……わかった。それじゃ、一緒に行こう」
チームリベール組再結成だ。
暗号文についてだが、メールを確認しミシェルに報告し、こうして遊撃士協会を出るころには、おぼろげなら答えというものが見えてきた。
「これは東方の、しかもさらに極東の文化だった短歌だね。詳しくはないけれど、韻を踏んで歌とするんだ」
これはヨシュアの談だ。
「東方由来のもの……間違いなく、これは《銀》からのものだと証明するものだと思う。それでもう最初からオレの心当たりを言うけど、アルモリカ村の近くにある《太陽の砦》だと思うんだ」
交わる世。女神の光。堕とせしむ。水面の月なら。逆も然るや。
一見して意味がわからない文章だが、昨日一日脅迫状事件を調べて回ったカイトだからこそ気づくものだった。
「今回、《銀》は脅迫状で太陽の姫であるイリアさんを狙った。女神……つまり
「アルカンシェルかぁ~。ねぇヨシュア、今度一緒に観に行きましょうよ!」
「はぁ、ちゃんとチケットを取れたらね。カイト、続きは?」
それでどうして太陽の砦になるのか、という意味だろう。
「『堕とせしむ』……物騒な言い方だけど、まあ『女神の光』と合わせたら、イリアさんを手にかけるってことだと思う」
そして『水面の月』だが、事件において月として思い浮かぶのは月の姫である。舞台演目は《金の太陽、銀の月》。恐らく《銀》のことを指していると思われる。
「それで……直感なんだけどさ。水面に映る月なら、それは《偽物の銀》を言ってるんじゃないかって思って」
偽物の《銀》が本物の太陽を狙うなら、本物の《銀》は偽物の太陽を狙おう。そんなメッセージが隠されているように思える。
エステルが目を剥いた。
「それって……」
「中央広場にある《クロスベルの鐘》は太陽の砦から移動させたものらしいから、その近くとかも考えたんだけどさ。オレたちをおびき寄せるなら、人里離れた場所の方が都合はいいと思う」
「なるほど。確かに事件を追っているカイトじゃないと気づかないことだろうね。でも、カイト」
「うん。あっちじゃロイドも薄々勘づいてるとは思うんだけど……」
脅迫状を出した人物と挑戦状を出した人物。どちらかが、いやどちらもが、《銀》を騙る偽物かも知れない。
────
仮にも激動のリベールを駆け抜けた三人である。クロスベル市から途中まではバスを使ったが、残りは徒歩で。襲いかかる魔獣を秒速で蹴散らして、太陽の砦までやってきた。
自治州成立以前、クロスベルが帝国-共和国間の戦争の前線だった頃、その古戦場跡の奥にある太陽の砦。徘徊する魔獣も多く、観光地という括りではあるが学者や遊撃士、警備隊関係者程度しか訪れない場所でもある。
それだけでない、人間もまた三人に襲いかかってきた。カイトには彼らが誰かわかっていた。
彼らは強襲の形で襲い掛かり、そして拳撃を浴びせては素早い身のこなしで去っていく。カイトたちはそれらを時に逃がし、時に返り討ちにして突き進む。
「おやカイトさん、お連れの方も。ようこそいらっしゃいました」
「……あんたがいるってことは、暗号の答えはここで正解みたいですね」
古戦場のは屋外でも複雑な地形となっている。丘陵があるだけでない、砦の外壁が所狭しと、まさに敵を迎え打てるような狭路や広場まで。
そんな広場にいたのは、カイトが昨日も顔を合わせたツァオ・リーだった。
「黒月貿易公司のツァオ支社長。こんなところで会うなんてね」
「私どもとしては、願ったり叶ったりと言ったところですねぇ」
「なに、この人有名なの?」
「昨日オレが会ったって言ったでしょ、エステル」
ツァオだけではない。三人の背後からもぞろぞろと黒月の構成員が集まってくる。全員が武術を収めているのが分かる。統制された動きだ。
「ツァオさん、脅迫状の件は無関係じゃなかったんですか」
「ええ、無関係
変わらず、どこか鼻につく高い声だ。
「カイトさん、エステルさん、ヨシュアさん。貴方がたがここまで来れたら、この書状を渡すよう言われたのです」
ツァオは懐から鉄製の刃を取り出した。
ツァオは言った。
「まずはどうぞ、お受け取り下さい」
ツァオはそれをカイトの足元に放った。寸分狂いもなく地面に突き刺さり、少年は平静のままそれを受け取る。
そこには、次の目的地が書かれている。
「それにしても、さすがはカイトさんたちだ。私が見込んだ通り、貴方なら《銀》殿の暗号を解けると思いましたよ」
「期待に応えられて光栄ですよ」
エステルが割り込んだ。
「ところで、カイトはともかく私とヨシュアも誘い込んだのは貴方でいいのかしら?」
「ほう?」
ツァオの目が見開いた。ヨシュアが前へ。
「僕とエステルは、今回脅迫事件には関与していませんでした。その時点で、《銀》から誘われるのは有り得るとは言え不可解です。そして貴方はカイトを……リベールの異変に関わったカイトを注目していた」
黒月の本質を見れば、情報通であり情報を重宝しているのは理解できる。シンジケートにとってはたかが遊撃士だろうが、ある意味爆弾のような立場の自分たちを放っておくとは思えない。実際、カイトは特務支援課とともに支社内まで飛び込んだのだから。
「特務支援課を《銀》が名指しした以上、カイトのそれも本物。しかしツァオ支社長……貴方は僕エステルを見定めている。違いますか?」
「……なるほど。将来有望とはいえまだ未熟な支援課の方々とは違う。風の剣聖に迫る驚異のようですね」
三人の推理の果て、ツァオは飄々とした空気をかき消す。
「リベールの守護神の子息であるお二人、クローディア王太女殿下と懇意にされるカイトさん」
カイト、エステル、ヨシュアは身構えた。
「クロスベルにおける異分子たる貴方がどのような力を持つのか……それを確かめるいい機会と思いまして。よろしければ、少々お付き合いください」
「断ったら?」
「話は変わりますが、書状を渡す権限は私に委ねられています」
既に書状を渡しているのにそれを言うとは、卑怯な態度である。
戦うというわけでもなし、話に付き合えというのである。むしろ逃げたらツァオや構成員に得物を向けられそうだった。
「まずは、ヨシュアさん。かつて結社の執行者であった貴方に聞きたいのです」
「……そこまで気づきますか」
「この魔都に、蛇の気配はありますか?」
この質問は、むしろカイトとエステルも緊張する。
「今現在、結社が蔓延るような感覚はありません。彼らは蛇……目的を達するその時、何に変えても叶えようとするでしょう」
「それを聞いて安心しました。我々が現在見据えるべき敵はルバーチェのみ、ということですねぇ」
「ただ……僕のことを知る貴方なら判るでしょうけど、結社の目的はまだわからない、ただマフィアやシンジケートや猟兵のような、わかりやすいものではない。各勢力の状況が入り乱れた時は……共和国最大のシンジケートだとしても、一筋縄ではいかないでしょう」
「結構。それでは、エステルさん」
「……なにかしら?」
どことなくエステルの物言いに棘があるように感じる。リベールを離れてからの旅で、自分と同じように成長したのだろう。彼女とヨシュアが二人揃って相乗的に力が高まるのは確かだろうが、恐らく一人の遊撃士として動いたとしても、スコットやヴェンツェル、リンやエオリアに迫る能力かも知れない。
「貴女の父君は稀代の軍略家と言われるカシウス・ブライト准将。ある意味抑止力なる可能性を秘めた貴女は……この街で一体何をなさるのでしょう?」
「……どーもこーもないわよ。私たちがここに来たのは追いかけっこのため。旅に出たのは修行のため。それ以上も以下もないわ」
「ふむ……そういえば、迷い仔が街にはいるという噂でしたね」
「そうそう、そうなのよ! ツァオさん、なにか知らない!?」
「どちらかといえば私が知りたいところですよ。それにしても、なるほど不思議なお方だ」
笑うツァオにカイトはぼやいた。
「エステルから王国軍の動向とか聞きだそうとしても無駄だと思いますけどね」
「な、ちょっとカイトー!」
エステルの棍の攻撃をガシガシと受けながらカイトはツァオを見据える。
「では、カイトさんにも」
「答えられる質問ならね」
「言うまでもなく、貴方は遊撃士です。民間人を守る正義の味方。同じ民間人のために動く特務支援課。貴方は何のために共に行動したのですか?」
「直接の原因はリーシャ、依頼主からの要請ですけど」
「……」
無言の催促である。単なる直接の理由だけでは足りないと。
「……あんたら自身がわかってるだろうけど、遊撃士にも限界はある。あんたたちみたいな組織を、オレたちは簡単に退かせることはできない。でも特務支援課ならどうにかできるかもしれない。……ま、あんたたちと同じ期待だよ」
遊撃士と黒月、ひいてはツァオが抱く期待というのは全く違うものだ。だが現状を変えるという別の可能性を期待するという意味では。
「私どもは商社です。利益を追求する立場にある。そのためにクロスベルへ進出しました。それと遊撃士であるカイトさんが同じとは、
「そうじゃない。
カシウスはかつてカイトに言った。これから訪れるのは激動の時代だ、と。
ならば、その激動は誰が作り出すのだろうか? 少なくとも自分たちではない。リベールに対する結社のような、企みを持つ者がいるかもしれない。
クロスベルにおいてルバーチェが代表的な闇であることは疑いようがない。だがルバーチェは今、闇として街に根付いている。そして黒月はそんなルバーチェに変化を強要した。カイトには、それが結社がリベールに侵攻する姿と重なって見えた。
「なかなか面白い視点です。なるほど、その意味では確かに同じようだ」
これから問題を起こそうとする者。これから起こる問題に立ち向かおうとする者。能動的に進出して来た意味では確かに同じだ。
「だから、オレからも聞きたいことがある。もう少し話そうぜ。ツァオさんだって、質問ひとつだけじゃつまらないでしょ?」
カイトが口を動かし続ける。ツァオは不敵に笑うのみ。
「結社はあの空中都市が標的だった。リシャールさんは軍事国家とすることが目標だった。でもあんたら黒月は、お金を集めて犯罪に手を染めて……一体何が目的なんだ?」
ただ単に何が目的だといえば、それはついさっき返されたようにされるだけだろう。
「やはり貴方は面白い。そうですねぇ、企業秘密は語れませんが……私の考えでよければ明かしましょうか」
「……是非」
いつの間にか、エステルとヨシュアも聞き入っている。
「黒月には《長老会》なるものがあります。組織を束ねる長老の家々があり、私もそれに属している。その意向や許可があって初めて私どもは動くことができ、この場にいるのも目的でも目標でもなく、一つの《結果》に過ぎません」
黒月は東方人街にルーツを持つ。それはつまり、カルバード共和国よりはさらに東方に根を張る組織ということだった。それはこの場の遊撃士の中ではヨシュアのみが理解していて、カイトさえも知らないことだ。東方から西へ進み、共和国に巣食ってさらに西へ侵食しようとしている黒月が狙うことが、そう簡単に判明するわけではないが。
「ですが……組織もまた一枚岩ではない。私には私の進み方がある。黒月としてルバーチェと《競合》はもちろん行いますが、与えられた手札を如何に使うか……私が支援課や貴方に興味を持っているのは、そういうことです」
「……まじかよ」
「カイト、この人話すの止めといたほうがいいわよ」
「僕も同感。利用し続けるつもりだよ」
「そんな気がしてきた……」
なんてことはない。橋頭堡として出汁に使おうとしていたというのだ。遊撃士に特務支援課も。
だめだ、この男とまともに話していたら精神が抉られる。カイトは気付いた。あとで特務支援課にも教えなければ。
カイトは苦無に付けられた書状をもう一度見た。そこには次の行き先が書かれている。
『翼の申し子へ告げる。今こそ門は開かれた。いざ《星の塔》に挑み、我が望みを受け取るがよい』
「ヨシュア、エステル、これって……」
「一回目が太陽の砦なら、次は《星見の塔》だろうね。間違いない」
「《銀》さんがカイトへ宛てた招待状てわけね。残念、次は『翼の申し子
カイトたちが予想したとおり、《銀》にとっての標的はカイトのみ。エステルとヨシュアは黒月によって誘導されたものだった。
カイトたちの目的は達成した。
なんだか、ツァオにはもはや挨拶する価値もないように感じてくる。ツァオたちも強い理由があってこの場を用意したわけではないだろう。立ちふさがる構成員たちの中を突っ切ろうとする。
「カイトさん」
そんな三人の背に向かって後ろからツァオが言う。
「貴方が仰ったように、私たちはクロスベルにおいて進む側。ですがあくまで傍観者です。敵を見定める者同士、この場にたどり着き親交を深めたお礼に、ひとつだけ進言しましょう」
カイトは振り返る。その先に佇むツァオは、劇場を楽しむ観客のような、そんな愉快な笑みを浮かべていた。
「信じがたい可能性にこそ、往々にして真実は潜むものです。闇が光を飲み込むくらいに深い、この街ではね」
信じがたい可能性にこそ、往々にして真実は潜む。
カイトがその言葉を実感するのは、数ヶ月先の話である。
────
次の目的地は《星見の塔》。クロスベル市から南の医科大学に向かって伸びたウルスラ間道、その脇道にひっそりと存在している。
リベール三人組が訪れた太陽の砦、星見の塔、そして月の僧院。クロスベル自治州には各地に遺構があった。大崩壊以降の中世に建てられたと言われる歴史的建造物だ。
エステルとヨシュアとはクロスベル市で別れることになった。《銀》の狙いが遊撃士においてカイト一人である以上、それを妨害した時何が起こるかもわからなかったからだ。特にエステルは同行できないことに多少の悔しさを感じていたが、我慢してもらった。
単身星見の塔へ乗り込む。入口は開かれており、クロスベル警備隊の装甲車があった。特務支援課が警備隊とともに入ったのかはわからないが、この塔でなにかが起きようとしているのは間違いなかった。
塔を登る。数度襲いかかる魔獣と戦って、塔内部で影の国と同じように上位三属性が影響していることを実感する。魔獣の強さもウルスラ間道にいるそれより手強く、カイトは苦戦を強いられた。
苦労して上層部まで登る。聞こえてきた喧騒は、ほとんどが馴染みが出来つつある者たちだった。
「ロイド、みんな! やっと追いついた!」
屋上を除いた最上層なのだろう。巨大な書棚、天球儀。天井には星屑のような光が灯されている。人が出入りしていない以降とは思えないほどだ。
そんな場所に、特務支援課の面々は武器を構えて立っていた。それだけでない。一人、警備隊の制服の女性がいる。
「貴方が遊撃士のカイトさん、ですね。私はクロスベル警備隊、タングラム方面隊所属、ノエル・シーカー曹長といいます」
同年代らしい。ハキハキとした気持ちのいい女性だった。特務支援課が塔に入る際に調査のために同行したらしい。
状況が状況だけに、挨拶は簡単なものとなった。ロイドとカイトがそれぞれここに来た経緯を伝える。
カイトがエステルたちとともにツァオと対面するなんて精神衛生上面倒なことになっていた一方で、ロイドたちもIBC総裁とその令嬢だったり、ジオフロントを根城にする少年ハッカーと対面したりと大変だったらしい。
いずれにせよ、《銀》の誘いに応じてこの場に来たことに変わりはない。
カイトは言った。
「ランディさん、気づいてますか?」
「おうよ……いるなら出てこいよ、《銀》さんよぉ!」
青年の張りのある声。突如、くぐもった中性的な声が返してくる。
『そう急くこともないだろう。古の錬金術師の夢の跡……その遺産を壊したくないのであればな』
その音はどこから響いたのか、一瞬わからなかった。
あたりを見回す一同だが、数秒の沈黙ではわからなかった。やがて、霞から夜の月が生まれたかのように、一同のほぼ正面に、
闇のような黒衣、年齢も性別も全てがわからない。見えているはずの瞳を移さない仮面。
初めて見た風貌だが、わからないはずがない。《銀》だ。
「はじめまして、特務支援課の諸君、そして遊撃士カイト・レグメント。……どうやら余計な者が一人紛れ込んでいるようだが?」
その声はノエルに向いていた。ノエルは自分のことは気にするなと言う。《銀》はそれ以上の興味をなくしていた。
「お初にお目にかかる。《銀》というものだ。まずはここまで足労願ったことをねぎらおう」
「随分と引きずり回してくれたもんだ。東方人ってのは、こんな回りくどい小細工が好きなのか?」
「それは心外な質問だな。黒月どもよりは正直に答えているつもりだが」
カイトが辟易した表情となる。
「いや、それはないない。だったらオレのほうにツァオさんを任せたりしないでしょ」
「お前なら、確実にあの二人を連れてくるだろうと思ったのでな。契約主の意向もある。少々課題を与えさせてもらった」
「いやーな課題……」
ロイドが前に出た。
「コホン……《銀》。改めて、ロイド・バニングスだ。俺たちを読んだのはアンタで間違いないんだな?」
「フフ……ほんの数秒前に話したはずだが? 私が《銀》だと」
「それはもちろんそうだが、今回は目に見えない事実が多すぎる。最後まで信用しきれなくてね。貴方が本物なのか偽物なのか、どちらにしてもこの行動が真意なのかそうでないのか、わからなすぎるんだ」
「ほう? ならば気づいている、とでも?」
その会話はこの事件と現象の核心だった。ロイドもやはり気づいていたか。
「ああ……今日俺たちとカイトに挑戦状を送りつけたアンタと、イリアさんに脅迫状を送った人間は別人、という可能性だ」
エリィ、ティオ、ランディ、そしてノエル。誰も驚いていない。恐らくはロイドが事前に推理を伝えたのだろうか。
「カイトも気づいていたみたいだな?」
「ああ。違和感はあったけど……ロイドほどに確証はなかった。《銀》の挑戦状でわかったようなものだよ」
やはり、脅迫状を出したのは目の前の《銀》ではなかった。《銀》が沈黙を貫いているこの状況こそが、ロイドの推理を肯定している。
本物の《銀》が脅迫状を出す可能性を考えた。しかしそれは明らかに理由が足りなかった。
ただの悪戯で誰かが脅迫状を出すのかと考えた。しかしそれでは一部の人間しかしらない《銀》を語る理由にはならない。
理由があるとしか思えないのだ。誰かが明確な意思を持って、《銀》として脅迫状を出す理由がだ。
散々騒ぎになった伝説の凶手の表情は未だ見えない。だが、声は笑っているように感じる。
「その通りだ。特務支援課、カイト・レグメント。よくぞ気がついた、と言っておこう」
事件における新たな手がかり。伝説の凶手自身がそれを証明している。だが、この事件で疑うことをこれ以上ないくらいに覚えた一同は、それだけではわからなかった。
ロイドが言う。
「ただ、それもアンタが《銀》であると証明できればの話だ。この推理、それがなければ結局は予想に終わる」
「警察だけじゃない、遊撃士だってここにいる。だから、オレたちに示してくれ。勝手に名前を使われて迷惑かけられてんのはアンタも同じだろ?」
「……それを証明するためには、どうすればいいと?」
ロイド、そしてカイトがそれぞれの得物を構えた。
「警察としてあまり乗り気じゃないけど、アンタの実力は、今後この都市において知っておくべきものだ」
「オレはそれなりに強敵との経験はあるつもりだ。共和国の知り合いもいる。戦えば、きっとわかるさ」
その決意は残るメンバーにも伝播した。その瞬間、星見の塔は戦場となる。
《銀》は確かに笑った。
「ハハハ、いいだろう。ならば東方人街の魔人と恐れられし術の数々をお見せしよう」
《銀》が
「しかし後悔するなよ? この《銀》に開戦を求めた以上、生半可な実力では興味は失せる。お前たちか我が望みに叶う強さを持っているか、貴様たちこそ証明してもらおうか……!」
《銀》が吠えた。本物の達人の圧だ。
ランディが斧槍を構える。武者震いのように吠え散らす。
「多勢に無勢ってところだが、気をつけろ! 凄まじく強いぞ!」
「エイオンシステム全開! やっぱりお約束ですが、今回は焚付役がいるような……」
ティオが導力杖の光を拡散させながら、そしてぼやいた。そのぼやきはエリィに繋がる。
「ええ、そうね。ランディとは違う意味で、二人集まると火に油……今後は抑えないと」
エリィが導力銃を構える。突っ込みがちな少年たちの制止役は自分だと言うように。
ノエルもまた二丁機関銃を手に笑う。
「警察と遊撃士が一緒にいる……頼もしいですね」
「総員戦闘準備! 目標は《銀》!」
「みんなの連携力は知ってる。オレもサポートするから、行くぞぉ!」
東方人街の魔人との、特務支援課とカイトの最初の共同戦闘が始まる。