心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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45話 私を、見つけて①

 

「保養地ミシュラムか。今まで来たことがなかったな。アリスは?」

「私も来たことはなかったかな。人から噂は聞いてたけど、忙しかったから」

 クロスベル市の港湾区から遊覧船で二十分。エルム湖を縦断すると、水平線と地平線の境界線に魅惑的な影が見えてきた。

 ミシュラムはクロスベル自治州のエルム湖に昔からある保養地だ。高級住宅街やアーケードが広がっていて、さらには二年前からミシュラムワンダーランド、通称MWLというテーマパークも併設されている。

 カイトとアリスは二十分の揺れから解放され、石畳の地面に戻った。

「アリス、少し疲れたか?」

「……うん、ちょっと」

 保養地の入口に入る前、アリスは少しやつれた顔になった。船酔いでもしたか。

「……おかしい、な。鉄道も乗ってるから慣れてると思ったんだけど」

 アリスは桟橋の柵に寄りかかった。少し天を仰いだ様子だ。カイトは大した意味はないだろうとは思ったが、手で団扇を作ってパタパタと振った。

「オレは飛行船に乗り慣れてる。けど別に振動に違いはなさそうだけどな」

 その間にも、同じ時間に遊覧船に乗った乗客は次々と保養地、アーケードに入っていった。

 アリスを休めながらカイトは北の方角を見た。クロスベル市のビル街が小さく見える。帝国や共和国より圧倒的に小さく、故郷のリベールよりもなお小さいクロスベル自治州なのに、その中心地から随分と遠いところまで来たように感じる。

 振り返って南を見た。右手奥は工事の手が入っているらしい。左手は白く広い建物、高級住宅街が見える。正面奥には賑わいが聞こえる。

(本当に、こんな穏やかな場所で開かれるのか。裏社会の社交界が)

 自分たちが向かおうとしているのは、マフィアが主催する盗品だらけのオークション。その危険過ぎる催しが行われるのが、大都市だからこそ発展したレジャー施設。正しく、光と闇を見ているようだった。

「カイトさん」

「アリス、大丈夫か?」

「うん、お待たせ。もう大丈夫」

 アリスが深呼吸して、腰で柵を跳ね返す。アリスはしっかりと大地を踏む。

 カイトはアリスに聞いた。

「それで……まずはどうする? 着替えを用意するって言ってたよね」

 アリスは答えた。競売会への潜入において、物理的な危険や推理を行い大勢を判断するのはカイトだが、貴族や有力者との交渉、そして参加者としての礼儀作法をリードするのはアリスの役目だった。

 とはいえ、アリスは自信と言えるほどの自信がなかった。帝国貴族の社交界デビューにはまだ年齢も浅く、アスベルがそうした作法をそれほど意識させてはいなかったのも理由だ。それでもカイトよりは知っているから、前に出なければならない時はある。

「事前に調べたけど、アーケード街にブティックがあるの。そこに行こう」

 ブティック《コルセリカ》。MWL用のカジュアルなものから晩餐会用のフォーマルな服装まで、老若男女問わず揃えている店だった。

 アリスは店内を見回した。女性用──というよりも少女のための服装は、自身がよく来ているので揃えられる。だが、少年を頭の上から足先まで見て悩んだ。

 少年は十七歳。ようやく背丈が同世代に追いついてきているし、顔つきも逞しくなりつつある。だが以前中性的な容姿は変わらないわけで、そんな少年に対してどういう服装を着させるかを決めかねた。

「カイトさん、こういう依頼みたいのはなかったの?」

 前例はないのかと聞いてみた。

「そんな潜入なんてそうそう……あ、あったな」

 クーデターの時を思い出した。情報部の監視を掻い潜ってアリシア女王と接触を図った時だ。

 しかし、カイトは表情を変えずに心の中で悶絶した。

(でも言えねえよ、女装してメイド服着たなんて)

 黒歴史である。

 結局、アリスもカイトもどうすればいいのか悩み果てる。正装の理由が理由なので安易に店員に聞くのもどうかと思われた。店員も悩む二人を微笑ましく見ていた。子供っぽく見られるのがカイトには少し堪えた。

「……アリス、オレ、ぶっちゃけ今何歳に見える?」

「え? ……十五歳?」

「……年下かよ」

「あ、でもカイトさんならちゃんとした正装をすれば、『背伸びして大人のドレスコードをした十五歳』みたいな風に見えるかも」

「……もうなんでもいいよ」

 結果。

 カイトは明るめの紺色に、少しきらびやかな金の線が入ったスーツと同配色のスラックスに落ち着いた。中には同色のベストを着込み、少し余裕のあるサイズに。魔導銃と双銃の片方はエステルたちに預けていた。カイトの今の装備はENIGMAと拳銃一丁だ。それを懐にしまった。大きい服装なら、アリスの言った背伸びをしている風も装える。

 アリスは十六歳、帝国ではちょうど社交界デビューの年だった。カイトと理由は違うが、少女としてのドレスは卒業しなければならない頃。薄赤のワンピースと白色のファーボレロ。瑠璃色の髪留めをアクセントとする。同じく、社交界デビューの少女が初めて選んだような格好となる。

 試着室から出てお互いの格好を見た。

「似合ってるな」

「似合ってる」

 カイトにとって社交界など知る由もないが、違和感はないように感じた。

 試着室の使用を見守っていた女性店員が笑顔を向けて言った。

「とてもお似合いです」

 支払いを済ませ、二人はブティックを後にした。ちなみにそれぞれミラは折半、お互い余裕がなかった。

「さて、と」

 時計を見る。現時刻は七時を目前としている。MWLの方向からは、定時で催されるらしい花火が打ち上がっている。

 記念祭の最終日だからというのもあるだろうが、まだまだ賑やかな空気は消えていなかった。アーケード街もブティックだけでなくてレストランなどもあるので、夕食も取れる。遊覧船の運行も遅い時間まで行われているらしい。どの道カイトたちはそれまでには帰らなければならなかったが。

 場所はアーケード街の十字路。カイトがそこの人々に意識を移すと、人の流れの方向が少し変化しているように感じた。MWLと遊覧船桟橋の方向に多かった流れが、高級住宅街の方向にも流れが強まっているようにも感じた。ハルトマンの議長邸は高級住宅街のさらに奥にある。

「あれ、カイトじゃない」

 少年を呼ぶ声。特徴のあるハスキーボイスで誰なのかはすぐにわかった。

 というか、早々に知り合いに露呈してしまうとは。反射的にアリスを後ろに隠した。アリスも身を縮める。

「ワジ……!?」

 カイトは振り返った。『カイト』と呼ぶものだから、アリスにも状況は伝わった。

 ワジ・ヘミスフィアは一人でいた。舎弟たちはいない。いつもと同じようにカイトに近づき、そして抱擁できるくらいに近づきすぎた。

「随分すました格好じゃない。似合ってるよ、背伸びした貴族の御子息みたいで」

 なんで全員同じことを言うんだ。人の弱点をえぐるな。

「いやそれよりどうしてここに……って、ワジこそなんだその格好?」

 彼もまたいつもの服装とは違っていた。鮮やかな青のタートルネックシャツにジャケット、十字架の金のネックレス。随分悪目立ちしている。

 というかこれ以上近づくな。こっちまで悪目立ちしてしまう。

「なに、ちょっとした副業でね。上流階級という冷たい社会で愛を失った麗しくも寂しいご婦人たちに、ひと時の夢を見せる……そんな仕事なんだけどさ」

「なんだよ?」

「いや、遊撃士もホスト業をやるんだって思って」

 ワジはカイトの後ろに目を向ける。もちろんアリスだ。

「初めまして、レディ。僕はワジ。ワジ・ヘミスフィア。カイトとは……そうだね、ただならぬ関係なんだ」

「え……!?」

「だから誤解を招く発言をやめろ! アリス、顔を赤らめない!」

 この役目はロイドに引き継ぎ出来たと思ったのだが、そうではないらしい。

 数回深呼吸をして落ち着いてから、カイトは改めてワジに向き直る。

「この子は……付き添いだよ。ホストなんて遊撃士はやらない。これは別に依頼じゃない」

「ふぅん?」

「初めまして、ワジさん。アリス・A・アレスレードといいます」

「アレスレード……ああ、帝国の伯爵家の」

 ワジは知っているようだ。やっぱり、不良の悪ガキにしては随分と知識の幅が広い。

「依頼じゃないにしても付き添い……やっぱり同じか」

「え」

「僕もだよ。ご婦人の付き添いでワケありのパーティーに行くんだ」

 カイトも理解した。ワジも黒の競売会に行くのだ。

「ええ……こっそり行くつもりだったのに、いきなり知り合いとこんにちはかよ」

 カイトは天を仰いだ。見えたのはアーケード街の目に痛い光だった。

「でも、君まで潜入するつもり? しかも女の子一人連れて」

 こちらが何も言ってないのに大方を察したのか。言葉の使い方に違和感を覚えたが、カイトの思考はワジの存在に引っ張られてそこまで回らない。

「オレはあくまで付き添い。もちろん主体的な理由もあるけど。でも本題は、アリスが行くことなんだ」

 アリスは競売会の招待状をワジに見せた。

「これは私の父のものです。あくまで名代として参加するつもりで。カイトさんは旧知の仲だったのでお願いしました」

「ふぅん……ま、そういうことにしておこうか」

 ワジは笑った。襟を正して踵を返す。

「ワジ?」

「マダムと待ち合わせの時間だ。僕はもう行くよ。会場で会ったらよろしく」

「これ以上知り合いと鉢合わせるのはゴメンだよ」

 嫌味を込めて返すと、ワジは喉を鳴らして笑った。

「なに笑ってんだよ」

「いや……今日は騒がしくなるって思ってね」

 そうして、ワジは消えていった。

 心なしか、カイトとアリスの周囲から人が離れている気がする。やめてくれ、自分たちはワジのような変人ではないはずだ。

「あはは……面白い人だね」

「あーあ、知り合いになっちゃったぞ。アリス、もう旧市街には近づかないほうがいい」

 何も知らない箱入り娘が不良の的になっては困る。箱入り娘というには少し行動が勇ましすぎる気もするが。

 思わぬ邂逅に精神がやられてしまったが、認めたくないことに今の談笑のおかげで時刻がちょうど七時となる。

 カイトがアリスを見た。少し早くワジとの会話から抜けた少女はMWLの方を見ていた。その目は少し茫洋としていて、焦点が合っているかもわからない。

「いつか……アルスにも見せたいな」

 カイトは言った。必ずしも望みが叶うとも言い切れない、けれどそれはカイトの持つ目標も同じだ。

 アリスはゆっくりとカイトの方へ顔を向けなおす。

「うん……みんなで、行きたい」

 アリスの瞳に光が戻る。

 カイトが襟を正した。髪を纏めなおす。アリスも服のシワを直し、髪留めを調整した。

「アリス」

「カイトさん」

「行こう」

「ええ、行きましょう」

 アリスの空気が変わった。カイトが今まで見ていた俗っぽい少女ではない。深窓の令嬢のような、貴族としての雰囲気をつくった。

 人の流れに沿って高級住宅街へ。アーケード街と比べれば人の数は少ない。夜、住宅街の街灯が照らす世界は淡く光って幻想的だ。

 住宅街の奥。まるで湖畔に浮かぶ城のような雰囲気だった。故郷のヴァレリア湖とグランセル城を思い出す。

 当然グランセル城より小さな邸宅だが、まるで貴族の屋敷のような豪奢な様子だった。

 カイトとアリスは隣同士で歩く。屋敷の前には、二人のルバーチェ構成員がいる。しかし商会本部を守っていたような剣呑とした様子ではない。彼らもまた統一された黒のスーツを着込み、ワックスで髪を整えている。

 今は執事のような丁寧な所作だった。

「ようこそ、黒の競売会(シュバルツオークション)へ。招待状を見せていただけますか?」

 アリスが前に出た。彼女が口を開く直前に深呼吸をしたのは、カイトにしかわからなかった。

 あくまで所作は丁寧に。社交界に初心な少女を装う。

 渡した招待状を見た構成員はそれをアリスに返した。

「確かに確認しました。念のためお名前を伺ってもよろしいですか?」

 カイトとアリスは顔を見合わせた。

「アリス・A・アレスレードです」

「おお、アレスレード卿の。お父上はいらっしゃらないのですか?」

「はい。父は多忙につき、本日は私が名代として参加させていただきます。是非、見聞を広めたいと思ったのです」

「なるほど。それはそれは、ありがとうございます」

 もう一人の構成員はカイトを見た。

「そちらの方は?」

「……アラン、と言います。こういった催しです。身分は明かしませんが、構いませんよね?」

 とっさに思いついた。父親の名前だ。アリスの身元が本物だからといって、自分の本名まで伝えるのは躊躇われた。クロスベル支部に所属している以上、お互いに末端とはいえ相手に知られている可能性もあった。

「ええ、構いません。ですが一応、お二人のご関係を伺ってもよろしいですか?」

 裏の社交界の割には意外にしつこい。万一を考えると当然の措置ではあるのだろう。

 ここに至って、カイトはどう答えたものか悩む。アリスは貴族の令嬢。自分はなんだ。

(同じ帝国かどこかの貴族はばれるかもしれない。実業家の恋人……だめだ、そんな年には見えないだろうが)

 構成員が訝しる前に、アリスは誰にとっても予想外の行動に出た。

 アリスがカイトの腕に自分の腕を絡めた。

「ア、アリスッ」

「私たちは、どんな関係に見えますか?」

 驚くカイトなどそっちのけ、アリスは悪戯な笑みを浮かべる。

 構成員も少し困った様子となる。

「……ご兄妹、でしょうか?」

「違います。残念、アランさんと私では恋人のようには見えないのですね」

「あ、あはは……」

「一人では心許ない夜ですもの。だからその寂しさを埋めて……夢を見せてくれる。そんな人なんです」

 その言葉が指しているのは、つまり。

「なるほど」

「お時間をおかけしました。どうか存分に、今夜の競売会をお楽しみください」

 あくまで丁寧に笑う構成員は少年少女を奥へ通す。議長邸へと。

 その道を歩きながら、カイトは苦笑した。アリスはまだカイトを離さなかった。

「あら、どうしたんですか。アランさん」

「あ、あはは……色々と思い出しまして」

 誰にも聞かれないのに、思わず設定の関係が継続してしまう。

「よく思いついたな。ワジが言っていたことを利用するなんて」

 つまり、この場におけるカイトはホスト、ということだ。名代として参加した貴族令嬢が、寂しさを埋めるために求めたという。

「十六歳でホストを連れるとか、ずいぶんませたお嬢様だな」

「許嫁の方がよかった?」

「いや、勘弁。ルバーチェにばれる」

「わかった。よろしくね、アランさん」

「オレ……そんな器用じゃないんだけどなぁ」

 幻想的な夜の中を歩き、議長邸へ入った。

 正面ホール。カイトは目を見張る。現在の導力技術では一般市民でも明るい夜を過ごすことができるが、あえて淡い導力灯を用意して妖しい空気を醸し出す。左右には上階から垂れ流しているらしい水と池が。

 人の数も多い。立ち話をする招待客、数人のルバーチェ構成員──警備の黒服。それに執事やメイドもいる。

 豪華絢爛が過ぎる。カイトはリベールのグランセル城に泊まったことがあるが、あの城は王族のものとは言え慎ましやかな壮麗さがあった。帝国のアルゼイド子爵邸は、屋敷ではあったが領民に寄せたような空気があった。

 ここは装飾が華美だ。カイトからしてみれば趣味が悪い。

 アリスも伯爵家令嬢だが、よくクロスベルにも来ているし価値観は一般市民のそれに近い。

「ここは、ハルトマン議長……帝国とも繋がる自治州政府議長の邸宅か」

「うん……ここまでなんて」

 遊撃士だが少年に過ぎない。貴族だが令嬢に過ぎない。そんな二人としては、圧倒されるしかなかった。

 招待客を招く執事から説明を受けた。正面ホール、奥に見える会場で九時からオークションが開かれる。それまでほとんどの招待客は一階左翼側のサロンで立食会が開かれている。二階は両翼ともに休憩室兼宿泊室となっている。三階はハルトマン議長の個室と黒服の詰所がある。

「アリス、確認しよう。ここでオレたちがやるのは、観ること」

「うん。なるべく、表立った行動はしない」

「でも、何があるかもわからない。だから油断せず、臨機応変に行こう」

「さっきのワジさんみたいに、どっちかの知り合いに会うかも知れないしね」

「それは避けたいけど」

 カイトたちは動くことにする。まずは一階左翼、立食会が開かれているサロンだ。

 そうして動き、カイトはふと正面ホールを見た。

「……カイトさん?」

「いや、何でもない。行こう」

 見知った誰かを見た気がした。

 八回目の黒の競売会。曰くつきの商品が出され、各国の貴族や資産家などが出席する裏の社交界。

 だがカイトの予想は儚くも散った。

「あら、ツァイスで推薦状を渡した時以来ね。貴方と会うなんて予想外だわ」

「もうやだこの競売会……」

 カイトはアリスのことなどそっちのけで膝に手を付いた。その頭の先ではキリカ・ロウランが優雅に座っていた。

「元受付としてはずいぶん無茶をする、と言いたいところだけど。招待状は正規のものよね?」

「あ、受付辞めちゃったんでしたっけ。はい、そこはちゃんと用意してます」

 カイトが準遊撃士としてリベールを飛び回っていた頃、工房都市ツァイスの遊撃士協会受付をしていた才女だ。ジンから共和国に帰ったことを聞かされていたが。

「カイト、貴方の心意気は買っている。でもこの場では遊撃士としてできることは何一つない。それはわかっているの?」

「……わかってます。今日は任務でも依頼でもない、付き添いで来たんですから」

 アリスが前へ出た。

「初めまして。アリス・A・アレスレードです」

「あら……どうも、ご丁寧に。カルバード共和国《ロックスミス機関》室長、キリカ・ロウランよ」

「……キリカさん、それって」

 カイトが目を剥いた。

 ロックスミス機関。それはカルバード共和国に親切されたと言われる、現大統領サミュエル・ロックスミス肝いりの諜報組織のことではなかったか。

 そんなところに、しかも室長の立場で引き抜かれていたのか。

「アラン」

 キリカは、カイトをあえてそう呼んだ。カイトが呼んで欲しいといったその名前を。

「私の立場は貴方とはもう違う。その上で……とやかくは言わないわ」

「……そうしてもらえると助かります、キリカさん。なんか、オレともエステルたちにもクロスベル入りしたのを伝えてないみたいですし」

「そうね。精々、お互いの無事を女神に祈る。それくらいにしましょう」

 政府直属の組織とあれば、やはり遊撃士とは対立する構図になるだろう。キリカがどうしてその道を選んだのかも、そもそもどうして協会の受付をしていたのかも、カイトにはわからない。

 だが、キリカが自分たち遊撃士にしてくれたことは事実だ。彼女がいなければ軍事クーデターやリベールの異変は止められなかった部分がある。

 その意味において、彼女自身は信じられる。

「わかりました。……ところで、キリカさんはどうしてここに?」

「あら、ここは裏の社交界よ。そんなことを聞くのは野暮ではなくて?」

 グウの音もでなかった。キリカは笑う。

「貴方の()の役目もある。しっかりとその子を守ったほうがいいわ」

 その言葉には、カイトもアリスも疑問符を浮かべる他なかった。

「もちろんそのつもりですけど、どういうことですか?」

「アリスさん、貴女も自分の立場とこの場の空気というものを再認識したほうがいい」

「……それは」

「アレスレード伯爵家。帝国において四大名門には遅れるものの、伯爵家の中ではトップクラスの筆頭……黒服たちも貴女の名前を聞いて態度を変えたでしょう?」

「確かに」

 カイトは納得した。アスベルもある程度参加している常連ではあるようだが、それにしてもアリスの存在を認知した瞬間に変わったのも確かだ。

「それだけじゃない。貴女を見て、帝国貴族としての態度を貫く者がいる。見なさい」

 キリカが促した。カイトとアリスはサロンの入口を見た。その瞬間、サロンにいる他の人々も同じ場所を見ていた。それは偶然ではなく、その場の誰もが注目するような存在だったからだ。

 マルコーニ会長やハルトマン議長ではない。貴族としての威光を示す青の外套は膝下まで届く、肩周りも豪奢なファー、そしてボヘミアンタイ。

 カイトは知らなかった。アリスは知っていた。茶髪に髭を生やした壮年の、まるでこの場をルバーチェがハルトマン議長から舞台の主役を奪ったような乱入者。

 キリカが告げる。

「クロワール・ド・カイエン。帝国四大名門筆頭……皇帝に次ぐ力を持つ者の登場よ」

 

 









ロイド・エリィ:身分違いの恋
ロイド・ティオ:世慣れぬ兄弟
ロイド・ランディ:悪友の誘い

カイト・アリス:ホストと令嬢の火遊び
ちょっとレベルが高すぎやしませんかね……

他にも、
ランディ・ワジ:競売会荒らし
ロイド・ノエル:表の社交場と勘違い
エリィ・ノエル:お嬢様たちの戯れ
ロイド・ワジ:禁断の花園
ランディ・ティオ:高飛車な兄妹
エリィ・ランディ:いけない火遊び(カイトアリスよりも)

とかそんなところでしょうか。改めてロイドの設定対応が広い。


黒の競売会、開始。しょっぱなからえげつない人とエンカウント!
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