心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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45話 私を、見つけて②

 

 カイエン公爵。帝国西部ラマール州を束ねる領主であり、四大名門の筆頭──帝国に存在する貴族の中で軍事力・財力全てが最高峰の存在であり、その威光に違わず貴族派を代表する存在だ。

 黒の競売会(シュバルツオークション)。帝国と繋がりの深いハルトマン、そしてルバーチェ商会だからこそできる帝国大貴族との共演だった。

 帝国はゼムリア大陸で共和国と覇権の座を争う大国だ。その国において皇帝に次ぐ存在は、この世界においてトップクラスとも言える力を持つ存在。そんなカイエン公爵が登場すれば、場がざわつくのは当たり前だった。例えばリベール王国でさえ、純粋な力としてカイエン公爵家には敵わないのだから。

 彼は優雅な足取りで、自分の力を疑わない所作で笑顔を振りまく。我先にと寄って集る有力者たち。その光景は、カイトたちにとって異質に見える。

 しかし、おかしいとカイトは考える。確か去年ハルトマン議長は、帝国革新派筆頭の鉄血宰相と会談したはずだ。その革新派と敵対する貴族派筆頭がこの場にいるというのは。

 いや、違う。そんな勢力図など無視して、盗品などが見なかったことにできるこの競売会の場は開かれるということだ。

 予想外過ぎた。あまりに、この競売会を軽く見ていた。

 アリスは呆然とする。状況についていけていない。

「アラン君」

 キリカがカイトを呼んだ。そうして、カイトは僅かに平静を取り戻す。これが最後の手助けだ、というようにカイトに進言する。

「彼の目は抜け目ない。恐らくもう、旧知の仲のアリスさんは見られている。精々、一緒に闘ってあげなさい」

「……はい!」

 これ以上この場に留まるのも躊躇われた。キリカもキリカで注目されやすい体質だし、話し続けるのも悪い気がした。

「行こう、アリス。……覚悟はできてるか?」

 カイトとしても恥ずかしい話だが、守るばかりではない。アリスにも、貴族としての場の掌握を求めなければならないところだった。

 アリスは沈黙をつくった。近くのボトルからノンアルコールのジュースをコップに注ぎ、一口呷る。

「うん、大丈夫」

 アリスはカイエン公爵を見据えた。彼も人々と話しながら徐々にこちらに近づきつつある。もはや接触を避けることはできない。

 挑まなければならなかった。

「アランさんは……後ろにいて。それで、安心できる」

「わかった」

 数歩進む。そこで笑顔を振りまいていたカイエン公爵は、まるで最愛の人との再会を遂げたように手を広げる。

「おお……! そこにいるのは、アリス嬢ではないか! なんという偶然だ!」

 カイエン公爵に、アリスはしとやかな態度を崩さない。

「ご無沙汰しています。カイエン公爵閣下。お会いできて嬉しいです」

「なに、そんなに畏まることはない。私とアレスレード伯爵の仲だ。父のように思ってくれていいのだ」

「……ありがとうございます」

「ところで、伯爵はどこに? 姿が見えないが」

 カイエン公爵は大仰に辺りを見渡す。その様子を、まだサロンにいる半数は注目しているが、本人はまったく意に介さない。

 アリスは少しだけ焦りを覚えた。いつものような、カイトやアルス、病院の人々との会話とは違う。

「……父は、今日は出席していません。私が名代として参加したんです」

「なんと。伯爵も異なことをする。いや、社交界デビューを果たした娘への社会勉強といったところかな?」

「……はい。ですが閣下、私もまだ未熟者です。だから今回の件は」

「わかっているとも。伯爵には語るまい。ただ、そうだな」

 カイエン公爵は一人、アリスの後ろで立つ少年を見た。

「そこの彼のことを、どうか紹介してくれないかな? アリス嬢との関係性……四大名門の筆頭としては、気に留めておきたいのだよ」

「……っ」

「それは……」

 アリスとの会話の様子を、カイトは見ていた。その少ない時間だけで、カイトは理解した。目の前の男は正真正銘の大物だ。これはカイトの眼が鋭いからわかるのではない、明らかにカイエン公爵の力量が、誰でも理解できるくらいの巨大さを持っているからだ。

 帝国貴族としての自負。筆頭としての度量。競売会に訪れるコネクション。群衆の中でアリスの存在に気づき、どういう意図かはわからないが寛大に接する余裕。

 そして、その目は恐ろしく遠くを見ているように思う。この場の誰もが図れない、全てをひっくり返すような何かを見ている。

 キリカを棚に上げるようだが、彼女のような人を除いてこの場にいる参加者が良心的な人間とも思えない。

 カイトが帝国を旅した時、カイトはルーファス・アルバレアと会った。彼も四大名門に連なる者だった。あの青年とは別ベクトルで凄まじい人間だ。

 オリビエは鉄血宰相に立ち向かうと言っていたが、同時にこうも話したのだ。貴族派も好きにはなれないと。

 カイトは確信した。理由はない。だが自分は恐らく、いつかこの男と敵対する。

 カイトは前へ出た。努めて丁寧な態度を表す。

「……初めまして、公爵閣下。アラン・レグメントといいます」

「うむ、結構。帝国貴族ではないな?」

「はい。本日は、アリス嬢の付き添いで参りました」

「私が頼んだのです。父も参加できない、知り合いもいない。そんな中で頼れる存在ですから」

「ふむ……」

 貴族の息子という設定でなくてよかったと思った。一発でバレるところだった。

 しかし、なおも値踏みするような目線は続いている。貴族でなければ何者か、そういった目線。

 カイエン公爵は言った。

「君は何者だ?」

 答えられない。

「わかるだろう? アリス嬢は帝国の貴族。君は、その格に見合う存在でなければならない」

「それは」

「君がどこの国の者かは知らない。それでも、君は今ここにいる。貴族社会に」

「……」

「アリス嬢と共にいる。ならば君の格を示すことが必要だ。違うかね?」

 その圧は恐ろしいものだった。戦闘能力としての実力はないだろうが、それ以上に自分が絶対であることを疑っていない。

 カイトは逡巡する。どうするか。ここは相手の土俵だ。うかつな真似はできない。

 遊撃士の身分も明かせない。そうなれば招待客も、黒服たちもどう動くかわからない。

 カイトの思考が停止しかける。だが、カイトは一人ではなかった。

「公爵閣下。私を信じて頂けませんか?」

 アリスが笑った。

「アランさんは、信頼のできる人。それはあらゆる理由を除いて、ここに一緒にいて欲しいと思えるからなのです」

「しかし、アリス嬢。君の立場はどうなる?」

「ここはクロスベル、黒の競売会(シュバルツオークション)の場です。表明は必要ない。そうではないですか?」

「もちろんだとも。だが、君はその体に流れる血を理解したほうがいい」

 貴族の血。貴族という立場の人間にとって、貴族という存在がそうであるための存在証明。

 それほどまでに、カイエン公爵にとってその事実は重要なのか。全てをおいてでも。

「もちろんです」

「ならば、なぜだ? 何故そのような少年を連れる?」

 アリスとカイエン公爵が互いを見た。

 カイエン公爵はなおも愉快そうに笑っていた。

 もう、アリスは笑っていなかった。強い意志を抱えている。

「私のために。私が()であるために、必要だと思うから」

 アリス・A・アレスレードであるために。

 少しの沈黙だった。周囲の少しの群衆が、二人を注目するくらいに。

 そして、カイエン公爵は。

「わかった。若者の行く末を見届けるのも、また長者の務め」

 カイエン公爵はカイトに近づき、その肩に手を乗せる。

「アラン君。どうやら短気を抱えていたのは私の方だったようだ。非礼を詫びよう」

「……いえ」

「アリス嬢は帝国の未来を担う一人。どうか健やかな道へ導いてくれたまえ」

 それだけ言って、カイエン公爵は離れる。

 人々は見ていた。少なからず注目を集めたカイトとアリスだったが、所詮は子供にしか見えない二人だった。コネクションを作ることに躍起になる人々はすぐに興味をなくし、カイエン公爵や他の有力者に群がっていく。

「アリス、とりあえず行こう」

「……はい」

 サロンを離れる。今はとにかく、人の少ないところへ行きたかった。

 小階段を上り、月光が人のいない廊下を照らす。そこでもまだサロンの喧騒が聞こえるから、二人は歩き続けた。

 喧騒が小さくなるにつれて、今度は水飛沫の音が大きくなる。廊下の曲がり角までやってきて気づいた。

「……まじで?」

「すごい……」

 精神的に疲労困憊になってしまった二人。その光景にもう一度度肝を抜かれる。

 位置的に正面ホール、オークション会場の真上だろう。議長邸に入った時に微かに見えた会場内には小さな滝が流れているようにも見えた。その上層であるこの場所は周囲全てが池になっていて、通路が観覧用に作られている。ここの水がオークション会場まで流れているのだ。

 通路の真ん中、小規模な踊り場まできてやっと二人は一息ついた。とはいえこの世の贅を尽くしたような場所に、すっかり気合をなくしてしまったが。

 カイトは大きく息を吸って、そして吐き出す。

「……疲れた。ほんっとうに疲れた」

「うん。私も……」

「アリス、ありがとう。オレじゃだめだった。あの公爵には立ち向かえなかった」

「ううん。私も、きっと一人じゃ何も言えなかった」

 二人にとって予想外すぎる登場人物だった。カイトにとってはクロスベルの闇を、アリスにとってはアスベルが関係する闇を見るつもりが、まさか帝国の大貴族が来るとは。

「アリスのお父さんとあのカイエン公爵は、仲間なんだろう?」

「うん、お父様は自他ともに認める貴族派だから。同じラマール州だし、きっと話す機会は多いはず」

 だからこそカイエン公爵は友好的な態度をとたとも言えるし、アリスのこともカイトごと見逃した。気に入らないことはあったのかもしれないが。それでもああして引いたのはどこまでも余裕だったからだ。

 アリスが迷うことになった父親の貴族派主義の価値観、その頂点に居る存在は、恐ろしく堅固で大きい。

「でも、そうなんだね。あれが、私がいる場所なんだ」

 アリスはそう独りごちる。ある意味、自分が見たかったものだったから。

 ミシュラムに来た時と同じように柵にもたれるアリスを、カイトは頼もしく思った。やはり、この子は強いと思った。

「ありがとう。おかげで大事にはならなかった。あの公爵相手に正面から立ち向かった、すごいことだ」

「……無我夢中で、思うことを言っただけだけど」

 アリスは手を胸に沿える。まだ心臓の鼓動が鳴り止まない。帝国貴族の令嬢であるアリスにとって、上に存在する貴族家に対抗的な態度を示すことは、それ自体が危険行為だった。そうしなければ二人の立場が怪しくなるにしてもだ。

 自信をなくしてしまう。どこまでも闇は深いと知った。アスベルがどんな存在と繋がっているのかを知ってしまった。ヨシュアが問うた知る覚悟の意味が、今になって突き刺さる。

 ポツリと言った。

「……私、どうすればいいんだろう」

「え?」

 カイトが振り返ったとき、しかし二人だけの時間が終わった。カイトたちが来た通路と反対方向から、青年と女性が一人やっていたから。

 カイトは疲労を感じているものの反応し、違和感なく姿勢を正す。まだ少しぼーっとしているアリスは、緩慢な動作でカイトに続いた。

 現れた二人は、恐らく恋人同士なのだろうか。近い距離で言葉を交わす様子。茶髪にモダンな黒のジャケットを着る眼鏡の青年。もう一人はパールグレイの髪をなびかせた美女。紫のドレスは胸元の露出度が高いが、むしろ扇情的な印象はなく美しさを与えている。

 二人もカイトたちに気づいた。お互いに会釈をする。

 そこでカイトは気づいた。どこかで見たような顔だ。

 向こうも不審な顔をしていた。まるでこちらのことを知っているような。

 きっちり三秒、四人は沈黙して。

 そして絶叫。

「うぇええ!? ロイド!?」

「カイト!? なんでここに!?」

 ここが水辺で良かった。水流が激しいおかげで絶叫が響かなかった。

 知らないはずがない。特務支援課のロイド・バニングスとエリィ・マクダエルだ。

 カイトとロイドは言葉が出なかった。「あ」とか「え」とかしか言えず、驚きが過ぎて何から言えばいいのかわからない。エリィも同様に目を白黒させている。アリスだけが絶叫はしなかったが、代わりにカイトの叫びに仰天したので彼女だけ体が凍ったように固まってしまった。

 全員が平静を取り戻すのに一分ほど要した。

 カイトがロイドに尋ねる。

「えっと……もしかして潜入捜査なのか? ずいぶんと無茶するなあ」

 特務支援課のことは頼もしい同志として見ていたが、まさか警察組織がここまでするとは。

「それを言うなら君もだろう? 遊撃士が潜入するなんて」

 そっくりそのままロイドに返された。遊撃士にしても同じことだった。お互いのことはこの数ヶ月で理解した。お互い、どういう意志と目的を持ってこの場にやってきたのかは想像に難くなかった。ちなみにティオとランディは住宅街で待機しているらしい。

 まるで鏡を見ているようだ。

 カイトとロイドは同時に吹き出した。

「ふふっ……ちょっと、笑うなよ」

「ははっ、君こそ。……改めて、()()だ」

 この場での偽名だと理解した。

「オレはアラン。よろしく。えっと……」

「私は身分を明かしていないわ。こういう催しだからね」

 エリィはそう言って笑った。自分たちと同じくうまく黒服を騙したらしい。さしずめ身分違いの恋人たちでも演じたのだろう。

 カイトははっとする。

「そうだ。紹介するよ」

「アリス・A・アレスレードです。よろしくお願いします」

 アリスの簡単な素性を伝えた。帝国貴族令嬢であること。前々からの知り合いだったこと。弟がウルスラ病院にいること。彼女の意志でこの場にいること。

「そうか……カイトが紹介してくれたアルス君のお姉さんか」

「よろしくお願いするわね、アリスさん」

 同じ気持ちを持つ人たちがいる。それだけで、少し心が軽くなる。

「それで、俺たちはこれからサロンのほうに行くんだけど、アランたちはどうする?」

「オレたちはまさにそのサロンから来て、それで休憩しに来たんだ」

 あの巣窟に戻るのはもうごめんだ。なんならオークション会場でもなるべくカイエン公爵からは離れていたい。

「そうか。それじゃ──」

「わっ!!」

 四人の死角から響いた大音声。四人全員が驚く。

「あ、貴方は……!?」

 ロイドとエリィは声以上にその存在に衝撃を受けたようだ。面識があるらしい。

 赤髪の青年。ランディと同じように少し軽い雰囲気を感じる。というより服装がやたらとフリーダムだった。サンダルにダボダボの短パン、アロハシャツ。バカンスルックである。

「よう、ボーイズ&ガールズ。ドレスアップ姿、なかなか似合ってるじゃないか。ふむふむ、パーテイに来るだけの分別はあるみたいだな」

「いや、その格好で言われても……」

 ロイドが呆れていた。だいぶ厄介な人物らしい。

 青年はカイトたちに向き直った。

「初めましてだなぁ青少年。こいつら(ロイドたち)の知り合い?」

「は、はい。アランといいます」

「アリスです」

「うむうむ、苦しゅうない。……おやぁ?」

 レクターはそれぞれを見てケラケラと笑っていたが、視線をカイトに移したところで止まった。

「お前さん……どこかで見たことがあんなぁ」

「え、ええ? そうですか?」

 青年はすいっと顔を近づける。

 体を近づけられるのはワジで間に合ってる。いや間に合ってほしくはないが。

「俺はレク・ターランドールという者だ。この名前、覚えない?」

「レクさん……? いやまったく」

 ロイドが呆れた。

「カイ……アラン、この人の話しをまともに聞かないほうがいい。レクターさんだ。レクター・アランドール」

 どうやら彼の前ではそこまで猫を被らなくれもいいらしい。

「ええ……なんで嘘つくの」

「なんだ少年。俺が嘘ついちゃ悪いってのか?」

「悪いでしょ」

「ちっ、つまんねえな。知り合いの姫さんはもうちょっと可愛い反応をしてくれたんだが」

「んん? なんのこと?」

 ロイドの言うとおりいまいち要領を得ない。確かに適当だというのは本当らしい。

 レクターはにまにまと笑う。

「けどよ、ハルトマンのおっさんも『自分の家のようにくつろげ』とか言ってたしな。アンタらもぼちぼち楽しんでいるようで何よりだぜ。ダブルデート、楽しんでくれよ」

 爆弾発言降下。エリィがあたふたとした。

「ちょ、ちょっと、何を言っているんですか!?」

「んー? まんざらでもないじゃないか、女子二人ぃ。ほれほれ男子ども、楽しめ楽しめ!」

「何を言っているんですか、レクターさん」

「あの、どっちもそういう設定ってだけなんですけど」

 ロイドもカイトも呆れた。そのカイトの対応に無表情となる少女が一人いるのだが、カイトは気づいてない。

「ふー、俺だったら鉄拳制裁がこない限りはいちゃつかせてもらうが。なるほど、俺に比べたらまだまだだな四人とも」

「え」

「楽しむなら……これぐらいやろうぜ青少年っ!!」

 レクターは釣り竿を取り出した。

 釣り竿を取り出したのである。

「はぁ!?」

「どれどれ、あのあたりにするかね」

 レクターは柵に乗り、我が物顔で腰掛けると釣り糸を垂らした。仮にも他人の、しかも豪邸の中とは思えない佇まいである。

 ロイドとエリィが焦りだした。

「いきなり何をやっているんですか!?」

「信じられない……というか、こんな場所で魚が釣れるはずが──」

 水飛沫が上がった。

 釣れた。秒で釣れた。

「キタキターッ!!」

 もはやオリビエを超えると見紛うほどの自由人である。

 四人が何を言えばいいのかわからず固まっていると、レクターはあっという間に釣れた魚を手に持って、釣り竿をその場にほったらかして消える。

「ふはははは! アンタらもいいもん釣れるといいな! それではさらば、アデュー!!」

 木枯らしが吹いたような気がした。室内なのに。

「寒い……」

「カイトさん、私のファー羽織ります?」

「えっと……エリィ」

「見なかったことにしましょう……」

 盛大に疲れた四人だった。

 少しだけ追加で小休止をしてから、カイトたちは行動を再開することにした。

 ロイドとエリィは左翼サロンへ。カイトとアリスは右翼側に向かう。お互い事情はわかっているから、会場でまた会うかはわからないが、それぞれの健闘を祈った。

「それじゃあ、二人共気をつけて」

「アリスさんも、どうか気をつけてね」

 ロイドとエリィを見送る。再び場が静まる。

「よし……それじゃあオレたちも行こう」

「うん、行こう」

 気力を取り戻したカイト。比べてアリスは少しだけ元気がなかった。ただ、カイトも気付かない程度の小さな変化だった。

 カイトの後ろを歩く。アリスはカイトの背中を見る。

(キリカさん、ロイドさん、エリィさん……すごい人たちだな)

 カイトとの縁はそれほどない。五回も会っていない仲。それでも信頼している。そんな人だ。もっとたくさんの人と長い時間関わって、信頼し合っているのは理解できる。

 それに比べて、一緒にいるはずの自分はとても弱く感じた。とても自分が同じ場所にいるとは思えない。

 まだきっと、無意識でアスベルの思想をどうにかできるかもしれないと考えていた。そうすれば、自分がよく知る家族という在り方になれると。自分のいる場所が理解できると思っていた。

 けれど、皮肉にも現実を知ることでそれが困難であることを知る。

 いよいよ、少女は向き合わなくてはいけなくなる。アスベルに疎ましく思われる自分や弟は、アスベルの子供と言えるのか。故郷を故郷と思えず、アルスがいる偽りの楽土に安らぎを感じる自分が、本当の自分でいいのか。

 そんな迷いを抱える自分が、本当の自分を見つけられるのか。

「誰か……私を、見つけてよ」

 その声はとても儚く消えて、カイトの耳に届くことはなかった。

 

 

 







なにげに、アリスもエステルやロイドなど歴代主人公と顔見知りになりつつあります。



ところで今回の物語と関係はありませんが、某進撃する巨人漫画の
「頼む…誰か…お願いだ……誰か僕らを見つけてくれ……」

という台詞とキャラが大好きなのです。
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