心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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45話 私を、見つけて③

 

 

 時刻は八時過ぎ。黒の競売会(シュバルツオークション)の会場、ハルトマン議長邸右翼側サロン。

 キリカ、カイエン公爵、ロイドとエリィ、そしてレクター。良くも悪くも濃すぎる面子を前に精神を削られたカイトとアリスは、休憩も考えて人が少なさそうな右翼側を尋ねる。

 だが、アリスはともかくカイトにとっては嫌な人間と出会う。

「どうだい、アラン。オークション会場は」

 ワジである。同じくワケありのパーティーに婦人と出席した彼だが、今は一人でいるらしく一人で長テーブルを占領して優雅にグラスを傾けている。

「ワジさぁ……お前何歳?」

「十七だよ。同い年同士楽しもうよ」

「ならまずそのワインを飲むな」

 ちなみにアリスは同じ部屋だが休憩している。やはり疲れたらしい。

 カイエン公爵の気に当てられたのはカイトも同じだが、ロイドたちとの出会いについては励まされた部分もあった。

 ワジはワジでホスト業もしっかりこなしているらしい。同行した婦人の旦那が別の女性と一緒に入場していたらしく、修羅場が展開されたらしいのだが結局は元の鞘に戻ったのだとか。それもワジの一言で婦人も心を入れ替えたのだとか。

「とんだ二枚目だ、お前」

「褒め言葉をありがとう。君も麗しのレディをエスコートしているんだし、これを期に転職するのも一興じゃない?」

「嬉しくない……」

 ホストなど願い下げだ。職業を馬鹿にしようとは思わないが、自分の価値観とは合わなすぎる。

 ワジは言った。

「まあ、でも競売会を楽しめしているようでよかったよ。どうだい? リベールの遊撃士として見た、クロスベルの闇の真髄は」

「ワジ……」

 カイトは考える。

 リベールの遊撃士、というよりカイトが世界を知るためにクロスベルに来て、そして競売会をの生の現場を見たカイトに聞いているようなものだ。

「……リベールじゃあ、たぶんこんなブラックマーケットはなかった。汚職がないとは言わなけど、それを裁くシステムもあった。世界は広いって、実感させられた」

 カイトがリベールの異変を通して抱いた、全ての国の全ての人々を守りたいという願い。そこに変化は生じていないが、その困難さを痛感させられる。

 今までカイトの視点はあくまでリベール王国の国民としてのそれだけだった。だからこそ帝国を無作為に恨んでいたとも言える。それが帝国を旅して、リベールと帝国を線で捉えることができるようになった。

 そして今、面という領域世界を捉え、その先の次元へと進もうとしている。正解など何一つないあやふやな世界に。

「そうだねぇ。リベール、クロスベル。国が違えば価値観も何もかもが違う」

 それだけではない。カルバード共和国にエレボニア帝国、ノーザンブリア自治州、オレド自治州、レマン自治州、アルテリア法国。一つとして同じ国などない。

 ワジもため息をついた。

「女神もどうしてこんな違いを許されたんだか」

「ワジ?」

「なんでもないよ。まあ、期待してるから頑張ってよ。遊撃士さん」

「他人事だなあ……それよりも、ワジ」

「なんだい?」

 カイトは極めて落ち着いた、冗談を許さない声色をつくった。

「お前、何者なんだ?」

 カイトとワジの間に沈黙が流れた。

 旧市街の不良。苛烈で粗暴、しかし舎弟への面倒見がいいヴァルドと対をなすように、ワジは不良とは一見して気づかないような空気を纏っている。

 最初にワジと出会って喧嘩騒ぎを起こした時、ヴァルドという存在と共存していたので隠れ蓑になっていたが、よくよく考えればワジは単なる街の不良にしては規格外過ぎる。戦闘能力はまだしも、知識と繋がりがおかしい。

 戦闘能力はまだ、喧嘩で鍛えられたというのもわかる。知識も場合によってはまだ得られる余地はある。

 だが例えホスト業だとしても、この場まできた胆力や繋がりは少し異常だ。これで本当にただの不良ならそれこそ天才と呼ぶにふさわしい存在だ。

「変に言い逃れしないでくれよ? これでも正体を隠されるのには慣れてるんだ」

 レーヴェ、ブルブラン、レン、ケビン。敵味方を問わずそれは多かった。

「それってカイトが騙されやすいからじゃないの?」

 反論できない。少なくともカイトが正体を暴いた存在はいないから。

 それでもカイトは物怖じしない。

「オレは真面目に聞いてるんだよ」

「まったく。それじゃあ、なんて言ったら信じるんだい。秘密結社の構成員? それとも神職の隠密部隊かな?」

「あのさ、それどっちとも笑えないんだけど」

 前例があるだけに。仮に目の前の不良が執行者だなんて言われたらショックで寝込む。

(まあ、レンがいるらしいけど目立ったコンタクトもないし、それはないか)

 ワジは、カイトが納得いく話を明かしそうになかった。そもそも証拠がないのだから本人が何も言わなければこちらも返せないが。

「……まあいいや。人に迷惑をかけないでくれよ?」

「了解、ボス」

 カイトは立ち上がった。

「じゃ、アリスが大丈夫ならオレはそろそろ行くよ」

「まだ早んじゃないかい? 三十分はあるよ」

 屋敷は立ち入り禁止区域を除いて全て回った。サロンで誰かと話す気にはなれない。

 ワジの言うとおり、まだ八時半。オークション開始までは時間がある。

「けど少し早く場所を取って、会場の人たちがどういうふうに動いて行くのかを観察したいんだ」

 事前にアリスと決めていたことでもある。黒服だけでない。クロスベルを利用する者たちの空気だ。

「そうか、わかった。僕はもう少し散歩してから行くよ」

 ワジも立ち上がった。

「……ねえ、カイト」

「ん、なに?」

「彼女、気をつけてエスコートしなよ」

 ワジはアリスを見ながら言った。

「ん? そりゃまあ……もちろん、しっかり守るけど」

「頼もしいね。でも、そうじゃない」

「なんだよ、濁すなあ」

 ワジは言った。

「目的は一緒でも、抱えるものは違うってだけさ」

 そう言って、ワジは去っていった。

「なんだ、あいつ?」

 カイトはアリスに近づいて声をかけた。

「行こうか。そろそろホールの準備ができるみたいだ」

「うん」

 カイトたちはオークション会場を歩く。

 三十分前だが、商品の品定めのために早めに目当ての席を取る──カイトたちと同じ考えの人はそれなりにいるようだ。ざっと見て二十人ほどは既にいた。ペア参加なのが大方だからだろうか、談笑している者も多い。

 キリカ、ロイド、エリィ、ワジ……旧知の者はいなかった。そして幸いにもカイエン公爵もいない。

 ホールの構造や席の配置は珍しいものではない。中央の通路を境に左右五列ずつ、それがずらりと並んでいる。

 あまりアリスを目立たせなくないので、カイトはアリスを右端の席に促した。そして後放列になるべく目立たないようにして座る。

「緊張してきた?」

 アリスがカイトに聞いてきた。少しあどけない表情のアリスは、群衆に紛れ込むことで多少は平静を保てているらしい。

「ああ。いよいよだなって思うよ」

 自分たちは別に商品の購入を狙うわけではない。人の話を耳にすると、オークションの熱はたまらないのだという招待客もいる。

「……アランさん、ありがとう」

 周りに人がいるからだろう。アリスはアランと呼んだ。

「なんだよ、急に。ムズ痒いなぁ」

「ここに来れたのは、貴方のおかげ」

「うん、受け取った」

「……」

「アリス?」

「ううん、何でもない」

「……そうか」

 憂いを持つ瞳。人は誰も何かを抱えている。

 それでも、できる限りのことをしよう。自分も四月から帝国に行くのだから、今までよりできることはあるのではないかと。ただアルスをは会いにくくなってしまうが。

 始まるまでまだ二十分はある。カイトは再び来場しつつある人々を見比べようとした。

 だがカイトの左隣、空席だったその場所に一人の男が座って、それでカイトに意識は引っ張られてしまった。

 さすがに席も埋まりつつあるので隣に座られるのも仕方なしだが、それにしてもどうしてだろうと思った。

「魔都クロスベル……その絢爛(けんらん)の中心で開かれる、劫火の如き狂瀾(きょうらん)のオークション。なんとも淫靡(いんび)な時間じゃないか」

 覇気のある男の声だった。カイエン公爵のような立場故のそれではなく、本当に武の境地にいるような、戦いに身を置くものだけが分かる声。

 カイトは喉を鳴らした。恐らく今隣の男と戦闘していたら、自分は既に死んでいた。そんな必要のない光景を無理やり感じさせられた。

 なんだ、こいつは。カイトは左を向いて、男の存在を見た。カイトのぎこちない様子に気づいたのか、男は静かに、豪快に笑った。

「おっと失礼、少年。一人で来たものだから話し相手もいなくて、いい加減口が寂しくなってしまってな」

 赤黒いシャツ、ストライプの入った白のスーツを着飾った、恐ろしく長身の男だった。目測百九十リジュか、カイトが比較的低身長なのもあって殊更に大きく感じた。それだけでなくガタイも堅牢で、ガルシアに迫るものを感じる。

 褪せた薄紫の髪を、カイトと同じく男性ながら長く伸ばしている。違うのは額を露出させ後ろに流していること。

 カイトは男の言葉を上手く飲み込めなかった。

「は、はあ……」

 直感が告げていた。危険だと。カイトはアリスに意識を向ける。準備中の壇上のスタッフに集中していて気づいていないようだ。

 そんなさりげない少年の狙いさえ、男は明らかにした。

「そちらのレディが連れか? いいじゃないか、守ってやるといい」

「っ……」

「そう警戒するな。取って食おうなど思わんさ。共和国の冴えない資本家に過ぎんよ。ここへはコネクションを繋げるために来た。あとは自治州に旧友もいてな。挨拶をしに来たに過ぎんのだよ」

「……ここにいる時点で、『冴えない』なんて言葉は外せそうな気がしますけど」

「はっはっは、違いない。分かっているじゃないか」

 男は鋭い眼光を備えて不敵に笑ってみせた。そしてカイトに周りを見るよう促す。

「ここには沢山の者がいる。見てみろ」

「……はぁ」

「あの男。あれは帝国鉄道省の幹部。あれは大陸全土で有名な菓子メーカーの社長。左を見れば、中東の新興国ヴァリス市国の重役。あちらは……ほう? 《愛国同盟》の若手議員までいるじゃないか」

「……ずいぶんと博識なんですね。この場で他人の素性をひけらかすのは、少し悪辣な気もしますけど」

「職業柄でな。表と裏、どちらも含めた相手の事情は知るに事欠かない」

「……貴方の仕事は?」

 自分のことを聞かれるのも怖かったが、男の素性に興味が出てくる。

 男は答えた。

「集めることだ」

「集める? ミラを?」

「そんなチンケなものじゃない。()()だよ。人が求めてやまない、人が人であるための根源。その道中でミラを集めることにはなるがな」

 なんだ、この男は。これ以上話すのは、少し危険な気がする。この男の隣に座ってしまった不運を嘆いた。

「お前の名は?」

「アラン・レグメント」

「そうか、レグメント。この場限りの偽物の称号だろうが、よろしくな」

 偽名である可能性を暗に指摘してきた。まるで自分が、全てこの男の手のひらの上で転がされているようにも感じた。

「第一印象としてはよろしくないんですけどね」

「それは悪かったな」

「……ところで、貴方の名前は?」

「ん? ああ、まだ名乗っていなかったな」

「別に偽名かも知れないので、まあいいですけど」

「ははは、ならば少しの寂しさを紛らわせてくれた礼だ。嘘偽りのない名前を明かそう」

 男は肩を落とした。膝に肘を付けて腕を組む。目線を下げたのにも関わらず、その眼光は鋭くなるばかりだった。

「ジェラール・ダンテスという。共和国にある商社の社長といったところだ」

「……っ」

 深淵を覗き込むような男の瞳。それに圧倒される。

 ああ、今わかった。自分が抱いていたものに。いつもの自分が保てなくなる違和感。自分はこの男に恐怖していた。

 反対側から服を引っ張られる。カイトは緩慢な動作でアリスに対応した。

「……どうした?」

「あれを」

 アリスは後ろを向いていた。カイトはジェラールから、まだ目が離せなかった。ジェラールはもう声を上げず、まだ威圧感のある笑みは崩さない。だが顎先で「行っていいぞ」とでも言うような所作をつくった。

 釈然としないものはあるものの、会話を終わらせることもほっとできるので、カイトは完全にアリスの目線の先を見る。

 自分の席の後方だった。ロイドとエリィがいた。隣には金髪のツインテールを巻いている特徴的な女性もいた。

 その三人にワジが話しかけている。みるみる間に顔に緊張感を帯びるロイドとエリィ。

 警察である彼らが、潜入した時以上の雰囲気を持つ。何かあったなと思う。普通、何もなければあまり目立ちたくないロイドたちも動こうとは思えないはずだ。リスクが高すぎる。

「アリス。オレはガイたちに合流する。アリスは……」

 ここにいてくれと言いかけて、気づいた。ここに置いていくのも怖い。隣の男も、これから来るだろうカイエン公爵もだが、そもそもオークション最年少であろう少女をこの場に一人で取り残すのは。

「どうする?」

 一応聞いてみた。

「一緒に行きます」

 即答。アリスも立ち上がった。

「よし」

 ロイド、エリィ、ワジの三人は人の流れから逆光してオークション会場を出て行く。若干目立つ気がしないでもないが、カイトたちもなるべく早歩きでついて行く。

 同時に周囲の黒服たちにも気を配る。オークション開始間近だから通路にいる人数も少ない。忙しさのせいか慌ただしくしているが、それも何が理由なのかわからなかった。

「ガイ」

 カイトたちは追いついて声を変えた。

「どうしたんだ、アラン」

 ロイドが反応した。三人が立ち止まる。

「ふふ、役者が揃ってきたみたいだね。実は──」

 ワジが言った。窓から、裏庭に何匹もの犬がいたのを見たのだと。

「軍用犬……もしかして?」

「ああ、君も調査を手伝ってくれた病院の魔獣だ」

 ルバーチェが使役している犬だ。

 ロイドが言った。

「その軍用犬が裏庭で眠っていた。恐らく侵入者が現れたんだと思う」

 今のルバーチェは余裕がないとも言える。末端構成員とはいえロイドたち支援課に計画を潰されていたし、黒月の台頭もある。

 その黒月が何かをしかける可能性を警戒するなら、軍用犬が待機されているのも不思議ではない。そしてその軍用犬が眠らされている。実際に侵入者が現れ、軍用犬の驚異を排除したのだろう。

 こうして正規の招待状とはいえ警察と遊撃士が潜入しているのだ。この分だと、黒月でなくとも別のシンジケートが紛れ込んでてもおかしくはなさそうだ。

「それで三人はどうするつもりだったんだ?」

 カイトは聞いた。

「調べに行く。見過ごせないからな。屋敷の中を見回ってみよう」

「そうか。オレたちも同行させてもらえるか? 集団になっちゃうけど」

 一同はアリスを見た。アリスは淑やかに、それでも強い光を瞳に浮かべている。

「どうか、お願いします。私も確かめたいんです」

 アリスに戦闘能力がないことはほかの三人も把握している。場合によっては危険な可能性も考えたが。

「何かあればオレが守るから、オレからも頼む」

 ロイドたちが数秒だけ考えた。とはいえ一人にさせるのも危険というカイトと同じ結論に行き着いたのだろう。

「……わかった。アリスさん。無理はしないでくれ」

「何かあれば、必ず後ろに下がってね」

「ま、姫の守護騎士もいるし問題ないんじゃない?」

 改めて、カイトたちは屋敷を回った。徐々に招待客も黒服もいなくなっていく。

 ロイドたち五人がその場所へ、誰にも見つからず黒服の詰所まで来た、それは偶然だったのだろうか。

 ただそんな事を考える前に、詰所の扉の前で黒服が一人倒れている姿を見かけたので疑問は吹き飛んだ。

「中へ入ろう!」

 ロイドの掛け声とともに一同は扉を開けてなだれ込んだ。

 そこでも、やはり黒服たちが地に転がっていた。導力銃にマチェット、議長邸にしては物騒な得物が散見してる。

「なるほど。妙な気配がすると思えばお前たちが紛れ込んでいるとは、無茶をする」

 《銀》。市長暗殺未遂事件である意味被害者だった黒月からの刺客が、斬魔刀を振り払いながら立っている。案の定オークションを妨害しに来たのだ。

「あんた……」

 星見の塔の一件以来、カイトも支援課も《銀》とは接触していなかった。あくまでアルカンシェルを守るために依頼を引き受けたが、依然として目の前の凶手が危険人物なのは変わらない。カイトもロイドもエリィも警戒を解けない。アリスもワジも同様だ。

「へぇ、ずいぶんと強そうな人だね。巷で噂されてる《銀》殿なのかな?」

 ワジが言った。やはり知っているのか、とカイトは思う。

「いかにも、ワジ・ヘミスフィア。まったく、今日は妙な気配が多すぎる。まさに伏魔殿、か」

「何を言っている?」

「カイト・レグメント。お前もお前だ。支える籠手が、力もない小娘を連れるとは。ずいぶんと羽振りがいいじゃないか」

「くそ……ここまでくると逆に紋章が煩わしいな。《銀》、ちょっと黙っててくれ」

 カイトは悪態をついた。それで興がそれたのか、《銀》は踵を返して壁に向かう。そこは天井から床までの壁一面が窓の領域。最上層だからだろうか、回った部屋の中のどこよりも豪奢だった。今は月明かりの怪しさ優っているが。

 《銀》は言った。

「お前たちを始末するのも骨が折れる。それよりはこの場を任せたほうが面白いことになりそうだからな」

「え……」

「隣の部屋には競売会後半の出品物がある。黒月に流れた情報によると、面白い()()があるらしいぞ?」

「爆弾だって?」

「そう、この競売会の参加者全てを巻き込む爆弾だ。その目で確かめてみるといい」

 返事の間も与えず、東方人街の魔人が駆けた。窓ガラスをものとせず飛び込んで脱走。破片が月光を乱反射いて、荒事に慣れているカイトやワジでさえも目を細める。

「きゃぁぁっ!?」

 アリスは耳をふさぐ。反射的にエリィがアリスに寄り添った。同じお嬢様だが、この辺りは慣れの違いがあった。

 ルバーチェ主催の競売会。黒月の刺客。侵入者の異常事態。その現場に自分たちが鉢合わせてしまったこと。

 状況は変化しつつあった。危険さが段違いで上昇する。それでもここにいるのは、それぞれの真実を見極めようとした者たちだった。

 ロイドが意を決する。

「奥の部屋を調べてみよう。あいつが言っていた爆弾、本当にあるなら確かめてみたい」

 黒服たちが完全に沈黙しているのを確認。一同は隣の部屋へ移った。

 《銀》の言ったように、オークションの出品物が置かれ倉庫のようになっている。商品の量も多かった。石像、絵画、書物に宝飾品……カイトには価値がわからない、曰くつきの品々。

 カイトが言った。

「時間がない……全員で調べて、早々に逃げようか」

 商品の価値がわかるからだろう、圧倒されるエリィとアリス。ワジは面白げに「了解」と呟く。

 ロイドの返事がない。いつもなら真っ先に指示をだすロイドがだ。

「ロイド?」

「……本当に、いるのか」

 ロイドは緩慢な動作で進んだ。いかにも彼らしくない、ゆらりとした足取り。

「おい、ロイド?」

「ど、どうしたの?」

「ふぅん……?」

 カイトが、エリィが、ワジが。今までにない青年の様子に、何もできなかった。

 不意にポケットから針金を取り出す。ロイドはほとんど迷いのない挙動で大型のトランクケースの前に片膝を付いた。

 針金を鍵穴に差し込む。後になって『捜査官研修で習ったピッキング対策用の技術』なのだと聞いた。

 カチリと、トランクケースの鍵が開錠される。

「これって、ローゼンベルク工房のトランク? それよりもロイド、何してるの!?」

 エリィが同僚の様子に戸惑う。ロイドが開けたのは目玉商品と称されるローゼンベルク工房製の人形が入ったトランクらしい。

 いや、それよりも青年の突然の行動はなんだ。

「ロイド」

 ワジがロイドの肩に手を当てた。それにより一瞬間を置いて、一同に背を向けていた青年は肩を震わした。

「え……いや、ワジ? どうしたんだ」

「いや、急にどうしたんだい? 君ともあろう人が、勝手に鍵を外すなんて」

「えっと……え!? いや、これは……」

 ロイドの眼に光はある。意識を失っていたとか、夢遊していたわけではないらしい。ロイド自身も自分のしたことに驚いている。

 一部始終を見ていたカイトとアリスも、状況の変化に追いつけていなかった。恐らくこの場でもっとも熱くて冷静なロイドのある種の奇行。

「ごめん、みんな。うまく説明できないんだけど、何かがあって」

 その頃には、ロイドも落ち着きを取り戻している。

 なんだ、今の何かに導かれたような様子は。

「……とにかく、開けてみよう」

 カイトが促した。爆弾の件もある。時間もあまりかけていられない。

「……ああ」

 改めて、ロイドはトランクケースに手をかけた。それぞれ商品を確認するつもりだったが、結果的に全員がロイドを見守る形となった。

 軋む音と共に開くケース。

 その中で、少女が眠りこけていた。

 

 








ワタシヲミツケテ
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