「……くそっ!」
議長邸の裏ホール、一面池となっている中の浮島の広場。
カイトは周囲を見回した。視界に迫るのは黒服の男どもと魔獣、それぞれが群れをなして囲っている。
前の戦闘で受けた傷はティアラによって癒やされた。けれど失った血はすぐには戻らない。軽い酩酊感と疲労が少年に襲いかかっている。
カイトがロイドたちを先に行かせてから一分後。状況はすぐに悪化した。
「おいガキ! 他の侵入者はどこだ!?」
「さあね。聞きたきゃオレを倒していけよ」
「ああ!? 殺すぞ!」
襲いかかる銃撃を躱しきれず服に血の線が走る。魔獣の突撃をまともに受けて転んでは跳ね起きるを繰り返す。それでも魔法駆動は怠らず、マチェットの斬撃や軍用犬の噛み砕きは防ぐ。
ただ、限界だった。今の自分にかつての最高位魔法はない。グランシュトロームのように大波を持って彼らを一息に蹴散らすことはできなかった。
(それでも、時間は少しでも稼いだ! あとはとことん、逃げてやる!)
自分の真骨頂はこのすばしっこさだ。昔から、エステルたちと出会った頃から変わらない。
攻防の最中、不意に少年はあらぬ方向に銃弾を飛ばした。それは黒服にも魔獣にも当たらない。
コントロールのなさを嘲笑う黒服たち、しかし一人が気づく。借り物の場所で戦う彼らだからこそ焦るものだ。
「おい、窓が……!」
一発目でひびが入り、二発、三発と続いてそれは明らかに大きくなる。
四発目でついに窓ガラスが割れる。《銀》ほどの正確性はないが、それでも退路は確保できる。
地属性のアダマスガードを纏う。そのままカイトは一目散に走り、柵に足をかけ、飛び越えた。
「うわぁっ!」
一瞬の浮遊感。背後から襲いかかる銃弾が防壁に防がれ、カイトは辛うじて窓枠に足をかける。
とはいえ体力もそれなりに消耗している。加えて場所は二階だ。
「あ、まずった……!」
勢いを殺せず倒れる。眼下に広がるは軍用犬が徘徊する裏庭だ。
「うわぁ!?」
そのまま落下、カイトは無様に転がり落ちる。落ちた先が芝生だったのが幸いだった。
まだ危機は去っていない。軍用犬は新たな獲物を見つけて嬉しそうに喉を鳴らす。
『まったく、力を持たぬくせに無茶をする』
どこからか響く中性的な声。大きな斬魔刀が回転しながらカイトの眼前にいた軍用犬を吹き飛ばした。
「《銀》!?」
斬魔刀を回収して音もなくカイトの隣に着地。影のように現れた伝説の凶手の顔は拝めないが、やはり声は呆れているようだ。
「お前、逃げたんじゃ?」
「伏魔殿、と言っただろう。正体はわからないが、この議長邸にはお前たちの他にも怪物共が潜んでいる」
「なんだってぇ……?」
確かに自分たち以外にも、ガルシアやキリカや、カイトに恐怖を与えたジェラールという男に、立ち場の強さを考えればカイエン公爵もいたわけだが。
「少々、興味が湧いてな。この宴がどう落着するのか。お前の隣を守ればいい観客席になるだろう」
「好き勝手言いやがって。まあいい、協力しろ!」
「ふふ、よかろう」
《銀》は黒月に雇われている。敵対する組織の目玉のイベント、しかも《爆弾》を調べに来たのだから、事の顛末を見届ける気なのだろう。
気に入らないことは多い。もしこれでルバーチェが堕ちたとして、待っているのは平和ではなく新たなシンジケートの台頭だ。
それでもやるしかない。キーアの存在は、絶対に放っておけないのだから。
カイトは翡翠の波を纏った。《銀》が姿を消し、残像が軍用犬を襲う。鋭い牙がカイトの喉元を切りにかかり、それは叶わない。凶手の残像が魔獣を屠る。
その隙を逃さない。カイトは疲労を気合で押さえ込み、渾身の力で魔獣を蹴り飛ばす。同時に《銀》の背後を狙った魔獣の獅子を銃弾で穿った。《銀》はその一連の動きを目もくれずに正確に把握し、暗具である《符》を立て続けに放つ。それだけで魔獣は爆発に呑まれ絶命する。
カイトが魔法を放つ。エアロシックル、エアリアルとは違う指向性を持つ風の刃が一直線に魔獣へ放たれる。
少年と暗殺者、二人は背中合わせで裏庭を睥睨する。短い攻防だが、やはり《銀》の実力は凄まじい。まだまだ軍用犬はいるが、その犬たちも二人に突撃することを止めて様子を伺っている。
「《銀》、あんた……」
「なんだ? 遊撃士」
「伝説の暗殺者とは言うけど、意外と連携ができるんだな」
影に紛れて一人で、任務のままに標的の命を絶つ。そんなものだと思ったら意外に冗談も言うし、こうして遊撃士と共闘もする。もちろん偶然の状況ではあるが、それがカイトには意外だった。
「異なことを言うな、レグメント」
「付け焼刃だけど、ずいぶん人と合わせるのが得意と見た」
「……ふん、余計なことを」
若干怒られた気がする。
「こちとら、敵との共闘は慣れてるんでね。それより」
カイトは《銀》の腕を掴んだ。一瞬、《銀》の肩が震える。敵意はなかったからさすがにすぐに弾かれることはなかった。
「そろそろこの場を任せてもいいか? オレ、アリスたちに追いつかなきゃいけないんだけど」
「バニングスたちか。まあいいだろう、貴様の無駄口に付き合うのも飽きてきた」
「ええ……オレの隣ならどうとか言ってたくせに」
不老不死の伝説の暗殺者にしては微妙に反応が若々しいのが気になった。
《銀》がカイトの首根っこを掴んだ。腕を掴まれたことに対する仕返しか。カイトは僅かに焦る。
「貴様を三階へ送る。今なら黒服どもも少ないだろう。精々お仲間たちと合流するといい」
「ありがとう、でも次会った時は覚悟しとけよ」
「はっ。それは怖いな。遊撃士の逆鱗には触れないようにするさ」
短い気迫とともに《銀》は腰を落とす。力の限りを入れてカイトを投げ飛ばした。
視界には三階の窓ガラス。カイトは再び拳銃に火を吹かせる。ガラスを壊し飛び込む。
「ったく忙しすぎるよ、記念祭の最終日!」
転がり、擦り傷をつくり、悪態をつきながらカイトは顔を上げた。場所を確認する。ここはキーアを見つけた商品の保管部屋だ。降り出しに戻ってしまったわけだが、あの時よりはカイト側に人が集中していない。
ロイドたちは今どこにいる? ガルシアを躱すにはどのルートが正しい? アリスは無事なのか?
思考が巡り、動悸を覚える。一度リベールの異変を意識したのに、逸る気持ちが止まってくれない。
「くそ、とんだ逃走劇だな」
あたりに人がいないのを確認してから移動する。屋敷の中を、部屋を隠れながら静かに。二階へ降り、今度は宿泊部屋から外の様子を観察していく。
「……いた!」
窓の外から地上が見えた。議長邸入口の門。ロイドたちがいた。アリス、キーア、エリィ、ワジ、そして外で待機していたというランディとティオもいる。自分がいる場所がその真上にいるのだと把握した。
七人がしかし、アーケード街方面から増援にきた黒服たちに道を阻まれていた。黒服たちは重機関銃を持ち、アリスたちを迎え撃つ形だ。
カイトの心臓がどくんと跳ねる。このままでは、彼らが黒服たちの手に落ちるのは明白だ。
仲間たちは、アリスは、オレが守る。
カイトが走る。稲妻のような蒼の波。窓へ向かって一直線に。二発だけ銃を撃ち、窓ガラスにひびを入れる。
「……っ!!」
両腕を交差して顔を守りながら、ボロボロになることなど気にせずに突っ込んだ。何度目の物損だろう、そんなことなどどうでもいい。
衝撃が全身に襲いかかり、鼓膜が嵐に飲まれる。ガラス片が飛ばないよう目尻に力を込める。それでも恐怖などない、決意だけがカイトの心を満たしていく。
月の下、少年が銀粉を纏い空を舞った。
────
「ぉぉおおっ!」
黒服のマチェットがロイドのスーツを撫でる。その一瞬に肝を冷やすも、心に炎を宿す青年は止まらない。
エリィの
「よし! みんな、脱出するぞ!」
ロイドは息を切らしながら周囲を見回した。この場にいないカイトについて、信頼と心配は同居している。それでも彼の意を汲んで、ロイドたちは脱出しなければならなかった。
エリィはアリスとキーアを呼び寄せた。
「二人共、大丈夫?」
「はい……!」
「アリスがぎゅっとしてくれてたから大丈夫!」
キーアとアリスが出てくる。二人共無事だ。
ロイドたちはキーア発見から今までほとんどを奇襲として戦闘をこなせた。挟撃を受けそうになってもカイトが一方を対応してくれた。ロイドたちはほとんど苦戦せずに対応することができた。
脱出するなら今しかない。
「お、お前たちはぁ!?」
ロイドたちは突然のダミ声に振り向いた。オークション会場の入口から太った悪目立ちする金品装飾をつけた丸々しい男。
「あ、まるっこいヒト!」
キーアがなんの捻りもない言葉を投げかける。それで脂ぎった顔にさらに汗が浮かぶ。
支援課は知っていた。ルバーチェ商会のトップ、マルコーニだ。
「問題ない、このまま脱出するぞ!」
ロイドがキーアを抱き抱えた。エリィとワジがアリスを庇う。五人は議長邸を脱出する。
ランディとティオが正面から走ってきた。エリィは彼らに通信で連絡していたが、それでも見慣れない二人の少女に困惑する。
「ヒヤヒヤさせるぜ……って、何だその子たちは!?」
ランディはロイドから預かっていたトンファーを渡した。
「通信で伝えたでしょう、女の子を一人保護したって」
「こっちの子はアリスだね。ふふ、君たちと同じく潜入してたカイトの連れだよ」
詳しく話している暇はない。端的に伝えるが、この場に本人もいないのでティオとランディも困惑している。
「カイトさんもカイトさんで、ずいぶん大胆ですね……」
ティオが呆れた。不良の喧嘩騒動に魔獣事件、市長暗殺未遂事件と何かしらの形で関わってきたカイトと特務支援課。もはやお互いの行動の向こう見ずさには何も言えなかった。
ランディはアリスを見た。
「アリスちゃんだったか。大丈夫かい?」
カイトの連れで知人だというアリス。この場において一人孤独な存在だが、カイトがいないことでより一人ぼっちでいるように見える。
少し塞ぎ込むような少女の様子に、誰も何も言えなかった。特務支援課と少女は、まだなんの関係性もない。
「時間がない、早くここから──」
「ハッ、そうはいくかよ!」
ロイドの指示はかき消された。議長邸から追ってきたのではない、アーケード街からやってきた黒服たち。彼らは導力式の重機関銃を携えている。
「若頭の指示通り張って正解だったな。警察の小僧ども!」
「知らねえガキどももいるみてぇだが……運が悪かったな、もうオイタが過ぎたんだよ」
脱出は絶対に許さないという意志。ルバーチェたちからしてみれば、侵入し詰所を襲い混乱を招いた特務支援課はもはや生かしてはいけない存在だ。
「抵抗してもいいんだぜ? この間合いだったらあっという間にミンチだろうがな」
月光を反射して重機関銃が鈍色に輝く。
ロイドに抱き抱えられたキーアが神妙な面持ちで問いかけた。
「ねえロイド。もしかして、これがぴんちったいうやつ?」
「ああ、どうやらそうみたいだ……」
突破も絶望的、後ろからも敵はすぐにやってくる。とはいえ降伏したところで結果はたかがしれている。ロイド、エリィ、ワジ。そこにランディとティオが加わったとしても、彼らも楽観できなかったし、それはアリスも同様だった。
(……どうして)
今、アリスは一人だった。ロイドたちのことはまだ知らない。一緒にいることで少し不安は薄れた、それでも少しだけだ。
自分は貴族だった。貴族の父の娘だった。
弟がいた。けれど自分も弟も、貴族の立場を是とする父からは疎まれていた。自分は女という記号としてしか見られず、弟は持って生まれた病によってそもそも家族としての触れ合いすらない。この家族が本当に存在しているのか、自分はわからなくなった。
だから、
なのに、一人になってしまった。なけなしの勇気はずっと弱々しかった。現状を変えるための行動を起こしたくても、一人ではずっとできなかった。クロスベルの弟に会いに行くことが唯一の抵抗であり、同時に鳥籠への逃避でもあった。
アリスがカイトに会ったのは、そんな時だった。クロスベル帰りの帝都、些細なことで出会った二人。ウルスラ病院での二度目の邂逅で、二人の関係は確かなものとなった。父親を前にして怯まなかったカイトの言葉は、アリスの勇気を少しだけ大きくした。
カイト自身も黒の競売会に興味を持っていた偶然も重なって、アリスは黒の競売会へ行く勇気を持てた。二人一緒だったから、例え黒服を前にしても、カイエン公爵と対峙しても、アリスはアリスのままでいられた。
けれど、今アリスがこの場に来た所以を知る者はいない。アリスを《アリス・A・アレスレード》だと知りながら
ロイドたちを信頼していないわけではないけれど、アリスは動けなくなった。また、自分が何者なのかわからなくなってしまった。
焦るロイドたち。卑下た笑いを浮かべる黒服は銃口を向けている。誰も《私》を見ていない。
少女は再び願った。願い続けていた願いが再燃した。自分に答えを投げかけてくれる人が、答えを探してくれる少年が彼らしく現れるのを求めて。
少女は願った。
(私を、見つけて──!)
突如、ロイドたちの後ろ上方から襲ってきた窓ガラスの破砕音。
「──見つけたぁ!!」
少年の叫び声が聞こえた。カイト・レグメントの声が。
仲間たちが、アリスが振り向いた。黒服たちも圧倒されていた。
望洋とした大きな月を背景に、ガラスの銀粉と蒼い波を纏う少年が待っている。その金の瞳は輝いていて爛々とした希望に満ちていた。
少年の纏う蒼の波が収束する。カイトの眼前から巨大な水塊が溢れ、瀑布が指向性を持ったのように黒服に向かう。ハイドロカノンの一撃が身構えられなかった黒服たちを重機関銃ごと吹き飛ばした。
それだけではない。カイトとはまったく別の方向から
(キリカさん……ったく、いい援護ですよ!)
カイトのみが理解した。
戦闘に長けたランディとワジはその好機を逃さなかった。カイトが吹き飛ばし、謎の援護射撃を持って総崩れした黒服たち。蹴りと斧槍の一撃を持って、障害となった黒服たちを完全に無力化した。
その光景を見届けてカイトは辛くも着地する。
「──ととっ!」
全員が驚く。予想もしなかったカイトの登場は劇的だった。
カイトは一瞬ふらついてから全員の顔を見た。ティオ、ランディという今日初めて会った二人とも。全てを察して少年は笑った。
「へへ、お待たせ!」
議長邸の上階層から窓を破って脱出するなど、カイト以外の誰にとっても予想外。全員の心臓が爆音を響かせる。
それを察したのか、笑い続けるカイトは意地悪な態度を取る。
「な? 無事合流できただろ?」
そんな様子に、特務支援課リーダーはほっとため息をついて喜んだ。
「ヒヤヒヤさせてくれるよ……よく戻ってきてくれた!」
ロイドはカイトの背を押した。時間はないが、カイトから一つの仕事を任されたものとして返さなければならないことが一つだけあった。
押されたカイトの前には、アリスがいた。
たった十分程度前のことだ。それだけなのに、二人はとてつもなく長い間離れていたような錯覚を感じていた。
だからか、場違いな言葉ではあったけれど、カイトはこの言葉を伝えた。
「ただいま、アリス」
「うん……」
「ここが正念場だよ。一緒に行こう」
「……うん!」
カイトはアリスを優しく撫でた。泣きじゃくる少女は笑っていた。
その様子を見てランディたちも笑顔になる。カイトの有無でアリスの様子が面白いくらいに変わった、その事実に安堵したから。
「おうカイト! とんだ登場の仕方だな、王子様!」
「……一瞬カイトさんがロイドさんに見えました」
「二人も、援軍ありがとう。一緒に頑張ろう」
全員が揃った。一応は五体満足。装備も整いつつある。
「ところで、今の飛来物は?」
エリィの問にはカイトが答える。
「頼りになる助っ人なんじゃないかな。敵意はなかったし」
カイトだけが真相を知っているが、それを説明している暇はない。今は逃げることが先決だ。
「今ならちょうど水上バスが来ています!」
「とにかく波止場に向かうぞ!」
体力が残っているランディとティオが先導する。議長邸は脱出した、それでもまだ窮地には変わらない。ミシュラムから脱出しなければいけない。
もうルバーチェもなりふり構ってはいなかった。高級住宅街とアーケード街にも軍用犬が放たれる、それほどまでに追い詰められていた。
アーケード街を抜け、波止場へたどり着く。だが待っていたのは絶望だ。
遊覧船が、ティオが伝えた時間よりも早く波止場を離れる。マフィアが一般人に影響を与えかねないこの状況、カイトたちのことを考えなければ正しい判断だった。
それだけではない。
「クク……ようやく見つけたぜ、ガキどもがぁ!!」
アーケード街の扉から黒服がやってきて、カイトたちがそれに気付くよりも早くに轟く咆哮のような悦びの声。
ガルシア・ロッシだ。彼は手下たちを引き連れているが置き去りにして、破壊獣のように突進してきた。
とっさにロイドが、ランディがそれぞれの得物を駆使して最大限の防御姿勢を取った。圧倒的な破壊力の前に鼓膜を破るような金属音。少しでも対応を間違えていたら体を破壊される一撃だ。
ランディが今までになく険しい表情を浮かべる。
「ッ! おいオッサン! ちょいとトシを無視しすぎじゃねえか!?」
「ハッ、何を言ってやがる。こんな絶好の狩りの機会を……逃すわけねえだろうがぁ!?」
危機的状況と判断して、エリィがアリスとキーアを引き連れた。もう逃げ場はないが、波止場の奥まで逃れるしかない。ボートがあったとしてもとても退避できる状況ではないが、非戦闘員をガルシアの前におくのはもはや人道的に許されない。
押されたロイドたちを目の端に捉え、カイトが黄土色の波を纏いながらガルシアに向かう。カイトの体躯では攻撃後のガルシアの硬直を一瞬伸ばすだけだが、それでも構わなかった。
「──ワジ!」
格闘術の貴公子はカイトではない。ワジはカイトの掛け声に応じて完璧に仕事をこなした。細身の体をバネのように縮めて反転、最大限の破壊力を拳に乗せてガルシアに伝える。
少年二人の攻撃をガルシアはいとも容易く制した。そうしてガルシアはカイトとワジを目にとどめ、驚きをあらわにする。
「レグメントにヘミスフィア……!? てめぇらまで潜ってたのか」
「オレもロイドたちもワジも正規の招待状だ。参加しちゃいけない決まりはないだろ!」
「へぇ、僕のことも知ってるんだ。まあ、部下とよろしくしたわけだしね」
ガルシアは咆哮を上げた。それで少年二人が吹き飛び、それだけでなくカイトも魔法駆動を霧散させてしまう。
男四人が全員後退する。構わず追随するガルシア。後ろからティオが導力杖に秘められた力を解放、防護フィールドを展開して四人を守る。
「止まってください! それ以上は……!」
ティオが叫んだ。それは仲間もガルシアもマフィアに対しても、全員に込められた声だった。
カイトが後ろを見た。エリィ、アリス、キーアが波止場の端まで後退していた。ガルシアとの戦線とは五十アージュは離れている。それでも危険なことに変わりない。
これ以上は下がれない。ロイドが、ランディが、カイトが、ワジが。ふっと息を吐いて正面の障害を見据える。
大切な、重要な、それぞれの存在を守るなら。これ以上は下がれない。もう、ガルシアたちを近づけさせる訳にはいかない。
「特務支援課に遊撃士のガキ、それに不良リーダーか。随分俺たちをコケにしてくれたじゃねえか」
ロイドが緊張をにじませる。
「別に俺たちはなにもしていませんが……ずいぶんと手荒な歓迎をしてくれますね」
「そりゃ当たり前だろう? 警察も遊撃士も不良も関係ない、来る者は拒まず、お得意様なら大歓迎だ。それが因縁の相手なら……相応の対応をしなくちゃあなぁ?」
ガルシアの殺気が満ちる。レーヴェのように、レンのように、《C》のように、それだけで全身を針が撫でるような圧を感じるのだ。
「俺は元猟兵……こういう状況は大歓迎だ」
そして、ガルシアはその場のただひとりを睨んだ。
「その激情は同じだろう? ──ランドルフ・オルランドォ!!」
カイトが、ロイドが、赤髪の青年を見る。仲間たちはアリスも含めて全員がガルシアの言葉を聞いてしまった。
「なっ」
「ランディ……?」
もつ得物と戦闘力の特性上、ランディは四人の一番前にいた。その表情は仲間たちからは見えなかった。
「……なるほどな。オッサン、あんた《西風》の出身ってわけか」
「ご明察だ。その様子じゃ仲間には伝えてねえと見た。どうするんだよ……《闘神の息子》?」
「抜かせ。その名前で呼ぶな……
なんだ、この会話は。状況が飲み込めない仲間たち。カイトも同様だったが、一つ思い当たる節はあった。
記念祭二日目のチェイスバトルの時だ。チェイスバトルの時、ランディが今までにない爆発力を見せた。それは現状でも戦闘力のあるランディをさらに破壊的にさせるものだった。後でヨシュアがランディを気にしていた場にカイトは同席していた。
ヨシュアが知らない以上結社の関係者ではないだろう。けれどヨシュアが例えばケビンを気にしていたように、ランディもまた裏の世界の住人だったのだ。
そしてカイトが今まで出会った裏の人間たちの中で、もっとも今のランディの雰囲気に合致しているのは──ジェスター猟兵団の《赤獅子》。
「ランディさん……もしかして、猟兵の?」
ランディは笑っていた。今までのような陽気な兄貴のそれではない。地獄の案内人のような笑い方だ。
「ククッ、正解だカイト。やっぱりお前さん、只者じゃねえな」
ガルシアは暴露する。大陸西武最強の猟兵団《赤い星座》、その団長の息子にして幼少の頃から部隊を率いてきた《赤き死神》。それが《闘神の息子》であるランディの正体なのだと。
「バレちまったら仕方ねえ。ま、そのオッサンの話はだいたい合ってる」
ランディは身を縮め、そして体幹を仰け反り気迫を開放した。ガルシアと同等、いや下手をすればそれ以上の爆発的な殺気──
「ロイド。ワジ。カイト。このオッサンは俺が刺し違えても止める。そしたらティオすけたちと一緒に他を倒せ。嬢ちゃんたちのことは……まあ、任せたぜ」
その言葉が意味することは明らかだ。
「ふざけるな、ランディ……!」
ロイドが怒気を顕にする。だが、ランディとガルシアの闘気は異常だった。
ガルシアが飛び出す。
「さぁ……古巣の因縁にケリをつけるとしようぜぇ!!」
《キリング・ベア》ガルシア・ロッシ。
《赤き死神》ランドルフ・オルランド。
戦場に解き放たれた獣の咆哮が、ミシュラムの波止場を蹂躙する。
VSガルシア