旧校舎地下、特科クラスⅦ組特別オリエンテーリング。
Ⅶ組に選ばれたカイト以外の生徒たちと出会った。一部を除けば、完全に初対面の少年少女たち。交わした内容は、名前の紹介、得物の説明、出身地など。それだけなのに、学生という立場なのにもたらされる特性が、カイトにも大きな衝撃をもたらした。
既に全員の進行度を把握しているカイトが後退し走っているのは、同じく目的地から離れているマキアスと合流するためだった。
「マキアス! おい待てよ、マキアス!」
そして今、背中を見つけたマキアスに近づいた。しかし彼は振り向かず、カイトが肩に置いた手を振りほどく。
「来ないでくれ……!」
疲れ果てた後。今のマキアスはその一言に尽きる。抵抗するが続かない。口答えもすぐに沈黙となる。
「そうは言ってもな……そんな状態で、一人で放っておけないだろう?」
カイトの言葉は偽りのない真意だ。
平民であるマキアスは、貴族の御曹司であるユーシスに対して頑なな態度を崩せないでいた。二人は予定調和のように喧嘩沙汰となった。止められたマキアスは意気消沈している。
「オレたち、まだ知り合ったばかりだろう? 仲良くするのも、突き放すのだってまだ早いよ」
「……すまない」
ようやく、こちらを見てくれた。
「あそこまで取り乱すなんて、どうかしていた」
「馬鹿にしてるわけじゃないんだけど、相当嫌いなんだな、貴族のことが」
「ああ」
マキアスは今、しおらしくしている。怒りにまみれたことを、少し後悔もしているようだ。
現帝都知事の息子。その立場があるといっても、理知的に見えるマキアスが激情を飛ばすのを、カイトはそのままで済まそうとは思えなかった。少なくとも自分はユーシスではないのだから。
「嫌いだ、傲慢な貴族のことが」
「……そっか」
「否定しないのか?」
「いや、だってオレ、マキアスのことも貴族のことも全然知らないし」
「……」
「だから、さ。とりあえずは協力しよう。教官も言ってたじゃんか、文句は後で受け付けるって」
「そう、だな。その時に言いたいことは言ってやる……!」
カイトは貴族ではないし、今のカイトもマキアスを邪険に扱うほど度量は小さくないつもりだ。
「……ま、オレだって人のことは言えないけどさ」
カイトはマキアスに聞こえないよう配慮しながら、けれど呟かずにはいられなかった。
思い出すのも恥ずかしい、準遊撃士資格を得る前後の自分のことだ。貴族を帝国に置き換えたら、自分もどれほど怒りを吐き出していたことか。
カイトとマキアスは来た道を戻る。双銃と散弾銃、それぞれ得物を調整する。魔獣はほとんど倒していたが、数匹残っていた。その残りを二人は打ち倒す。
マキアスは戦闘経験はないらしい。だが胆力はそれなりにあって、冷静さを取り戻したマキアスの補助はありがたかった。散弾銃の威力は双銃と比べるまでもなく強力だ。
道中、マキアスが声をかけてくる。終点も近い。
「君に聞きたいことがあるんだが」
「いいよ」
「先程、アルバレアと同行していたみたいだが、どうして貴族と一緒に行動できたんだ?」
「ああ、さっき聞こうとしてた……」
カイトがマキアスの話を執拗に遮ろうとしていた時のことだ。
「君は、リベール人──平民だろう? その、物怖じしないんだなと思って」
「そうかな?」
カイトとしては自然な態度をしていたつもりだが、それがまた方々には珍しく見えていたようだ。そういえば、嫌うでないにせよエマもカイトに対してユーシスのことを聞いていたか。
「それなりに顔は広くてさ。偉い人ともあったこともあるし、慣れかなぁ」
「それは……ずいぶんと気になるな」
「はは、それはみんなもだろう?」
「なに?」
「マキアスも、ユーシスも、他のみんなも。オレにとっては気になる存在だよ。それに無関心でいられないのはみんな一緒だ」
リィンやアリサにせよ、ユーシスとマキアスにせよ、興味はないと言っていても協力はしてくれるフィーも。特異な状況で集められた自分だち。ただ騒ぎだけを起こして終わりとしたくないのは、カイトだけではないはずだ。そこだけは、マキアスもユーシスも変わらないはずだ。
その時、前方の扉から音が聞こえてくる。気配は感じることはできないが、経験上激戦を繰り広げているのだとわかった。
「行こう、マキアス。喧嘩をするにしても文句にしても、このままじゃ終われない」
「ああ、わかったよ。みんなを助ける」
それぞれ銃を構え、カイトとマキアスは走った。みるみる間に戦闘の音が大きくなる。魔獣の咆哮に、斬撃音に、魔法の異音。
空いた扉から終点の部屋の奥が見える。リィンたちが奮戦するさらにその奥に、学院の敷地内にいるとは思えないような異形の姿があった。
「な、なんだあれは……!?」
マキアスの呻きを耳に届ける。
石像から飛び出した悪魔の使いのような、禍々しい翼を携えた四足獣。
「石像が動き出したのか? 中々骨が折れそうだな」
「き、君はこの状況で何を平然としているんだ!?」
「いやぁ、慣れで」
「だから君は何者なんだ!?」
カイトとマキアスが並走し、さらにカイトの隣にもう一人、人影が加わり追走する。
銀髪の癖っ毛、フィーだ。
「お、フィー」
「ん、少しぶり」
「よっし、銃使い三人でサポートするぞ!」
「ヤー」
「あ、ああ……!」
部屋には既に他の七組全員が集まっていた。石の守護者──イグルートガルムにそれぞれ攻撃を仕掛けているが、攻撃を加えた場所から常に損傷が再生しているようだ。優勢なようだが、完全な破壊には至っていない。
マキアスが緑色の波を収束させ、エアストライクを放った。その間にカイトとフィーは双銃を連射する。
振り返ったリィンの顔が明るくなる。
「カイト!」
「お待たせ、リィン」
戦線に参加する三人。Ⅶ組全員が、イグルートガルムに対峙する。
「調子はどうだ?」
カイトの声ははつらつとしていて、緊張は解けずとも一同活力を呼び戻す。リィンがすかさず返した。
「そこまでの脅威じゃない! ただ、再生能力が高くてジリ貧になっている!」
最初、リィン・ガイウス・エリオット・ユーシスの四人では大きな痛手とはならなかった。打撃力のあるラウラがいる女子たちも彼らに遅れて参戦したが、それでもイグルートガルムの隙を突くには至らなかった。
また、エマ、アリサ、エリオットは戦闘経験がない。補助として奮闘しているが、それは決定力とはならない。
「だったら、絶え間ない連携が必要になるけど……」
そもそも、今日出会ったばかりの面々だ。何もなしで連携を期待する方がおこがましい。
「ああ、勝機を掴めれば……!」
カイトの呟きに、リィンが同調する。
そう。勝機さえ掴むことができれば、勝てない相手ではない。
やらなければならないのなら。
「みんな、続け!」
叫び、カイトは跳躍した。わざとイグルートガルムの視界に入って挑発し、決定打とはならなくても銃弾を浴びせる。隙を作る、連携の最初を担う。
大きく手を振りかぶる異形は、咆哮とともに振り下ろす。カイトは風圧を感じながらも、それを避けた。伊達に化物たちと対峙してはいない。
生まれたわずかな隙。動き出したのは一人だ。
「ま、仕方ないか」
フィーは動いた。イグルートガルムの死角を縫って動き、背後へ。
「一人じゃなくてよかっただろ?」
カイトはフィーに笑いかけた。少女はまだ無表情で、それでも声は少しだけ柔らかくなった。
「ま、少しはね」
双銃剣を十字に振り下ろす。抜け目ない一撃は自重を支える足首を捉え、苦悶の叫びとともに体を揺らした。
カイトが作り、フィーが繋げた確かな隙。リィンが叫んだ。
「今だ……!」
思うところがないわけではない。けれど今、目の前の障害を乗り越えて地上へ戻る。
その思いが一致した時……全員のARCUSが光り輝いた。
まず俺が槍で翼を貫く。アリサも弓で射るんだ。
わかったわ。エマもエリオットも、追撃を頼むわね。
頑張るよ。
わかりました。
(なっ……)
カイトは困惑した。誰が何をしているかが手に取るようにわかる。
そしてその通りになった。ガイウスとアリサがほぼ同時に翼を穿ち、エマとエリオットの魔法のがイグルートガルムの体を翻弄した。
最後の一撃はラウラが頼む。俺が一太刀を浴びせるから、次にマキアスが撃ってくれ。
任せたまえ。
了解した。ならばユーシス、追撃を頼むぞ。
いいだろう、レグメントも続くがいい。
具体的な思考ではない。けれど言葉にならない意思が、次の者の行動を物語っていた。
リィンが動き、マキアスが続き、ユーシスが騎士剣の一撃を浴びせる。破壊力のある散弾と慣れのある二人の剣士の続け様の連撃は確かにイグルートガルムを跪かせた。
フィー、続くぞ。銃弾をありったけに浴びせるんだ。
いいよ。
困惑、それでもカイトは戦闘行動を止めなかった。再び双銃が火を吹いて、イグルートガルムの行動が止まる。
「はぁぁああ!」
既にラウラは
「せいやぁ!!」
大剣の重さを感じさせない跳躍、迷いのない剛撃が深々と首を跳ねた。
体部は衝撃とともに倒れ、頭部は遥か遠くへ転がる。両者の色味が石像のそれへと戻り、完全に沈黙した。
「や、やった……!」
「一筋縄ではいかない化物だったな……」
エリオットが、ユーシスが疲労を隠せずに息を切らす。リィンとラウラは残心を解き、ゆっくりと得物を鞘に収めた。
魔獣の気配もない。安全を確保しつつ、十人はまた集まった。
再会を喜ぶ。反りの合わない者もいるが、一息つけたのは全員同じだ。
話題は一つしかなかった。
「それにしても、最後のあれ、なんだったのかな……?」
エリオットの疑問符。考えることは同じだった。
戦闘の最後、止めの一撃の直前に生じた現象。十人全員が導力魔法とも違う淡い光に包まれ、同時に仲間の動きが手に取るように視えた。
カイトは言う。
「全員の思考……とは言わないけど、目標や意図がなんとなくわかった。何を狙っているのか、何をしてほしいのか、だ」
言語的な理解ではない。感覚的な理解は、少なくともカイトには覚えがあった。
「ああ、もしかしたらさっきのような力が──」
「そう、ARCUSの真価ってわけね」
リィンの言葉を遮って答えたのは、学生ではない。彼らを導く教官だ。
終点には一階へ続く階段があった。そこからサラ・バレスタインが拍手をしながら降りてくる。
「いや~、やっぱり最後は友情とチームワークの勝利よね! お姉さん、見直しちゃったわ!」
生徒たちの不信の目線を一身に受けながら、それでもサラの笑顔は崩れなかった。彼らの正面にたち、サラは少し困ったように笑う。
「これで特別オリエンテーリングは終了なんだけど……なによ君たち、もっと喜んでもいいんじゃない?」
「よ、喜べる訳ないでしょう!?」
マキアスの大声は今日だけでそれなりに聞いてきたが、これについては誰も彼を止めはしなかった。
疑問、不信。それがⅦ組の顔面に張り付いている。多少事情を知るカイトもそれは同様で、最初からこんな戦いを演じることになるとは思わなかった。
ユーシスが口を開いた。
「単刀直入に問おう。特科クラスⅦ組……一体何を目的としている?」
身分や出身に関係ない人選というのは、既に理解したとおりだ。だがなぜこのクラスができたのか、なぜ自分たちなのか。サラ自身が保証した、文句質問罵詈雑言の時間だ。
サラは続ける。
「君たちが選ばれた理由は
サラもまた、それを所持している。懐から取り出した赤い外装の戦術オーブメントだ。
「エプスタイン財団とRF社が共同開発した最新鋭の戦術オーブメント、ARCUS。
カイトはサラを見た。彼女が自分を見ていたのは、果たして偶然か。
「ARCUSの真価は《戦術リンク》──さきほど君たちが体験した現象にある」
カイトが尋ねた。
「戦闘……いや、あらゆる行為における他者との意思疎通ですか」
「さすが、よくわかってるじゃない。そう、平たく言えば、君たちのような初めて出会った者たちでも高度な連携を可能にすること。それが《戦術リンク》よ」
先の戦闘で証明されたように、戦場で《戦術リンク》がもたらす影響は絶大なものだ。あらゆる状況でも互いの行動を把握し、最大限に連携する。そんな部隊が存在すれば、現状の限界を超えたあらゆる作戦行動が可能になる。
それは戦場における革命とも呼べる進化だ。それが軍事大国エレボニアで開発されているというのは、納得ができるし、同時に恐ろしくもある。
「でも、現時点でARCUSには個人的な適正に差があってね。新入生の中で君たちは特に高い適性を示したのよ。それが、君たちが選ばれた理由よ」
身分や出身に関係なく、ARCUSの試験運用における適正を何より重視した選抜。結果として平民や貴族、留学生が入り混じった人選となる。
「な、なんて理由だ……」
マキアスは口をあんぐりと開けていた。
「ま、多少の思惑はあるだろうけど……」
カイトは笑う。自分を名指ししたのはⅦ組の創設者オリビエだが、戦術オーブメントの適正という点でも選ばれてもおかしくないという自負があった。
その意味において、サラが明かした人選は決して間違いではないはずだ。だがオリビエは、絶対にこの人選に笑みをこぼしているだろう。
学院に来て一日目。予想外の展開に驚く生徒たち。カイトも例外ではない。
サラは十人全員を見渡した。
「学院はARCUSの適合者として、君たち十名を見出した。でも、やる気のない者や気の進まない者に参加させる程、余裕があるわけじゃないわ。それに例年のクラスよりもハードなカリキュラムになる」
トールズ士官学院は文字通りの士官候補生としてだけではなく、名門高等学校としての一面もある。生徒たちが優秀だとはいえ、それだけで忙しい学校生活になるのは言うまでもない。加えてARCUSの試験運用となれば、何が待ち受けているかは想像に難くない。
「それを覚悟してもらった上で、Ⅶ組に参加するかどうか……改めて聞かせてもらおうかしら」
ちなみに辞退をしたら、本来所属するはずだったクラスに行くらしい。カイトであれば、平民クラスだ。
仮に全員が辞退すれば、このⅦ組というクラスそのものが消失するのだろうか。
(ま、それはありえないけど)
決意はクロスベルを出立する時点で固まっている。オリビエが誘ってくれたこの道を辞退する選択なんて、それこそありえない。
他の生徒たちは、それぞれ悩むところがあるだろう。だからまずは自分が手を挙げよう。そう思った時、隣から声がした。
「リィン・シュバルツァー、参加させてもらいます」
一歩前に出たリィンは、その瞳に強い意思を秘めていた。
「一番乗りは君か。何か事情があるみたいね?」
「我が儘を言って入学させてもらった学院です。自分を高められるのであれば、どんな場所でも構いません」
「……」
その言葉に、カイトはリィンを注視する。
「そういうことならば私も参加させてもらおう」
リィンに続き迷いなく告げたのはラウラだ。
「もとより修業中の身。此度のような試練は望むところだ」
次にガイウスが。
「俺も同じく。異郷の地から訪れた以上、やりがいのある道を選びたい」
サラは笑う。
「新入生最強クラスの使い手に、ノッポの留学生君も参加、と。他には?」
次にエマとエリオットが手をあげる。
「私も参加させてください。奨学金をいただいている身ですし、少しでも協力させてもらえれば」
「ぼ、僕も参加します! これも縁だと思うし、みんなとはうまくやっていけそうな気がするから」
「魔導杖のテスト要因も参加と。ARCUSと同じくまだテスト段階の技術だから、運用レポート、期待してるわよ~?」
彼らの迷いのない──いや、迷ったとしても強い申し出に、カイトは驚いた。目を見開いた。
突然明かされた特別クラス。とてつもなく忙しくなる、と言われるカリキュラム。それでも、自分と同じように決意をもって、あるいは喜々として参加する者たち。
紛れもない、カイトが飛び込もうとした帝国の各地から来た少年少女たちだ。
「ふふ、ははは……」
「あら、なに? どうしたのよ?」
サラに聞こえてしまうくらい、笑い声が漏れてしまう。
「いや、こんなに嬉しいこともないって、思ったんです」
カイトは前へ出た。リィンと同じように。
「カイト・レグメント、Ⅶ組に参加します。あの人だけが理由じゃなくなりましたよ、たった今ね」
「……そう。君にも、期待してるわよ」
「……はい!」
「さて、と。これで六名だけど──」
「七名にしてください。私も参加します」
続いたのはアリサだ。
「あら、意外ね。てっきりあなたは反発して辞退するかと思ったんだけど」
「確かに、テスト段階のARCUSが使われているのは個人的には気になりますけど」
(もしかして……)
カイトは思い至った。カイトのような事情もないのにARCUSを知っていて、地元がルーレで、姓が《R》。
(……ま、本人も隠してるし今はいいか)
カイトの思慮も待たず、アリサはつっけんどんとした態度を崩さない。
「この程度で腹を立てていたらキリがありませんから」
「ま、それもそっか」
サラは事情を知っているのだろう。そのままフィーへ顔を向ける。
「改めて、これで七名。フィー、あんたはどうする?」
「別に、どっちでもいい。サラが決めていいよ」
「だめ、アンタが決めなさい。『自分のことは自分で決める』……そういう約束でしょ?」
「めんどくさいな。じゃ参加で」
サラのみならず、その場の全員が困惑してしまう。そういう生徒もいるようだ。
「はぁ、まあいいわ。君たちはどうするつもりなのかしら?」
残るはマキアスとユーシス。リィンとアリサのハプニングを除けば、既に問題を引き起こしている二人だ。
その二人は沈黙している。Ⅶ組という場所だけでなく、お互いに対して思う所があるのは明白だった。
「ま、色々あるんだろうけど深く考えなくてもいいんじゃない? 一緒に青春の汗でも流していけば、すぐに仲良くなれるわよ」
地下に落とされる前の発言の焼き回し。
案の定だったのだろうか、マキアスも逆戻りして大声をあげた。
「そんなわけがないでしょう! 帝国には強固な身分制度と、明らかな搾取の構造がある! この問題を解決しない限り、帝国に未来は──」
「ならば決まったな。ユーシス・アルバレア、Ⅶ組への参加を宣言する」
驚くのはマキアスだけではない。カイトも、リィンも、他の全員も。
「な、何故だ……君のような大貴族の子息が平民と同じクラスに入るなんて、我慢できないはずだろう!?」
「勝手に決め付けるな。アルバレア家からしてみれば他の貴族も平民も同じようなものだ」
その無遠慮過ぎる物言いに、カイトは呆れるよりも先に納得してしまった。
「な、なるほど……」
「勘違いした取り巻きにまとわりつかれる心配もないし、好都合というものだ」
「た、確かに」
「……妙な虫にまとわりつかれるのも御免だがな」
「ユーシス、こっちを見るなよ」
ユーシスはマキアスへ向き直る。
「さて……虫もそうだが、無用に吠える犬を側に置いておく趣味もない。ならばここで袂を分かつのが互いのためだと思うが?」
余裕綽々、自分のことなど意に介さない態度。それが刺激したのは、マキアスの敵対心だった。
「だ、誰が君のような傲岸不遜な輩の言う事を聞くものか!」
マキアスもまた、一歩前へ。
「マキアス・レーグニッツ、Ⅶ組に参加する! 古ぼけた特権にしがみつく時代から取り残された貴族風情に、どちらが上か思い知らせてやる!」
最後まで一語一句聞き届け、サラは不敵に笑った。
「ま、そういうのもいいでしょう。これで十名、全員参加ってことね!」
サラは全員を見た。これから困難な道を歩むことになる、十人を。
「この場をもって、特科クラスⅦ組の発足を宣言する。この一年ビシバシしごいてあげるから、楽しみにしていなさい!」
教官サラ・バレスタインの言葉が響く。それでも、まだマキアスとユーシスはいがみ合っている。
隣ではたった今、リィンとアリサが小声で笑いあったと思ったらまたアリサがそっぽを向いてしまった。
(ふぅ、前途多難だな……あれ?)
視界の端、サラが降りてきた地上への出口付近。見覚えのある金髪が見えた。
カイトは笑う。あえてその場所を視線から外して、これから苦楽を共にする九人を見た。
リィン・シュバルツァー。
アリサ・R。
ラウラ・S・アルゼイド。
エリオット・クレイグ。
ユーシス・アルバレア。
マキアス・レーグニッツ。
フィー・クラウゼル。
エマ・ミルスティン。
ガイウス・ウォーゼル。
そしてカイト・レグメント、自分がいる。
七耀歴千二百四年、三月。導力革命から五十年余り。各国が凌ぎを削り軍事力を高める時代。西の覇権国エレボニア。
始動する特科クラスⅦ組に、自分は飛び込むのだ。
────
サラの宣言により発足する特科クラスⅦ組。それを見届けているのは二人だった。
「やれやれ、まさかここまで異色の顔ぶれが集まるとはのう」
佇む二人の内、一人はヴァンダイク学院長だった。彼はⅦ組設立に協力した一人だ。だからこそⅦ組の面々の事情はほとんど知っているし、彼らが全員参加を宣言したことに驚きを感じている。
「これは、色々と大変かもしれませんな」
「フフ、確かに」
ヴァンダイクが気さくに、しかし言葉遣いは恭しく話すのは発足を見届けたもう一人の青年だ。
金髪を後ろでまとめた青年──オリヴァルト・ライゼ・アルノールは不敵に笑う。
「ですが、これもまた女神の巡り合わせというものでしょう」
「ふむ、それは貴方が推した
「ええ、それはもう。彼と僕の喧嘩は続いている。きっといい影響を与えてくれるでしょう、そしてその逆もまた」
「はは、それは楽しみですな」
「あのクラスの産みの親であり、そして友でもある。不思議な気分ですよ、学院長」
「誇りを持たれるが良いでしょう。今はまだ可能性でしかない、しかし始まりは常にその一歩を礎とするのですから」
「ええ。こんなお気楽な一歩だが、放蕩皇子としては上出来だ」
放蕩皇子。それは彼を親しむ立場であり、蔑む名前でもあり、誇れる称号でもあった。
リベールの旅の前から、今まで、故郷のためにできることを模索してきた。
そうして特科クラスⅦ組は帝国に生まれた。リベールの翼も巻き込んで、新たな軌跡を描くことになる少年少女たち。
「ひょっとしたら……彼らこそが光となるかもしれません」
まだ、あがき足りない。銃と硝煙が立ち込める黄昏、そんな結末はゴメンだ。
それを避けたい。この身に替えても。何においても。
「動乱の足音が聞こえる帝国において、対立を乗り越えられる光に」
彼らとともに、自分は帝国の未来を変えてみせる。
カイト、オリビエ、そしてそれぞれの生徒たちの決意とともに、
Ⅶ組の始まりです……!
次回、48話「爽やかな陽射し」