心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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49話 初めての実習~紡績町パルム~③

 

 

 紡績町パルムは帝国の一都市とはいえ、産業の特質もあって比較的牧歌的な町だった。住民は農家も多く、朝早くに起床し夜も早い。

 カイトたちⅦ組B班が自分たちを助けてくれたレイラ・リゼアートと疲労と共に町に帰ってきたころには、日は完全に落ちていた。町の生活リズムもあり、一瞬深夜に帰ってきたのかと勘違いしてしまう。

「到着だ。お疲れ様だったな、学生諸君」

「ありがとうございました、レイラさん」

 カイトが返す。

 宿酒場《白の小道亭》の前。レイラは学生五人を見た。

「私は別の宿をとっているんだ。少し町を散歩してから行く。君たちも、今日はゆっくり休むといい」

「……そう、ですね」

 カイトは後ろの四人に意識を向ける。直接見てはいないが、その様子は明らかだ。

 終始無言のユーシスとマキアス。考え込むフィー。疲労困憊のエマ。

 カイト自身、クロスベルにやって来た最初の日々程度に疲れている。

 パルムまでの道中、レイラとは簡単な自己紹介をしつつ帰ってきた。だがとても穏やかに話す空気でもなかった。レイラもそれを理解してくれて、最低限の会話だけで道中を進んできた。

 四者四様、言葉少なげに別れる。

「感謝する……」

「ありがとうございました」

「助かりました」

「……ども」

 レイラは静かに、穏やかに返した。

「そう焦らなくてもいい。君たちは伸びるよ」

 そんなことを言って、レイラはパルムの闇に消えていく。

「みんな、ごめん」

 五人だけになってから、カイトは仲間たちを見た。

「オレが判断を間違えた。フォローしきれなかったよ」

 そして謝罪する。曲りなりにも、カイトは手配魔獣戦の指揮と、そしてユーシスとマキアスのペアというリスクを取ったのだ。その責任感からくるカイトの発言に対し、仲間たちの返答はそれぞれだった。

「カイトのせいじゃない。私も全力を出しきれなかった」

「だから言ったんだ。僕たちで《戦術リンク》を繋ぐなんて」

「……身の丈を弁えないほど、無様な真似はない」

 最後、エマが強く意識して口を開く。

「……私たち全員に、それぞれ反省点があると思います」

 カイトでなく、Ⅶ組委員長であるエマによる言葉。そこに批難や嘲笑の意図はない。それでも、エマだからこそ四人にのしかかる。

 けれど、エマは疲れの見える表情に笑顔を見せて笑った。

「今日はもう、依頼もありません。夕食を頂いてレポートを書いて、ゆっくり休みましょう」

 四人は弱々しく頷くのだった。

 宿に入り、夕食の席に着く。ベルトランは疲れの見える学生たちを見て労ってくれた。農家から取れた野菜、またケルディックほどではないが、交通の中継店だけあってそれなりに食材は豊富だ。様々な料理に舌鼓を打った。

 夜半前、B班の面々は個々で動く。一日の締めであるレポートに取り掛かり、部屋にあるシャワーを交代で浴びているのだ。

「お先に使わせて頂いて、ありがとうございます」

 シャワーを浴び、簡易な服に着替えたエマが部屋に戻ってきた。

「構わないよ。お疲れ様、委員長」

 宿についたばかりでは同室の件についてマキアス以上に戸惑っていたエマだが、この一日だけでも色々ありすぎて気が抜けているようだった。汗を流してさっぱりと出来たのか、少しだけ表情は清々しい。

「次のシャワーはフィーちゃんですよ」

「私、別に一日くらいいいんだけど」

「だめですよ、女の子なんですから身だしなみはしっかりしないと」

「でも別に大して汗かいてない」

「うふふ、フィーちゃん?」

 エマの丸眼鏡がキラリと光った。体が火照っているからではないだろう。

「……行ってきます」

 気圧されたフィーは、着替えを持ってそそくさと動き出す。

「……レポートまだ終わってないのに」

 意味はないが、フィーはその言葉をささやかな抵抗にして部屋を出て行った。

 一部始終を目撃していたカイトがため息をつく。

「まったく、あいつは少し生活習慣を直さないとな」

「ご飯も好き嫌いが多くて、食事が偏り気味なんです。私もお弁当とかを渡してるんですけど」

「……委員長ってお母さんみたいだよね」

「うふふ、カイトさん?」

「……何でもないです」

 カイトは視線をレポートに戻した。

 とはいえ、エマに対するカイトの認識は他のⅦ組もそれなりに持っていたりする。フィーが寝坊したり朝食を抜いたり間食を食べ過ぎたりと、やたらと生活が乱れているのでカイト、リィン、そしてエマの三人が気にかけることが多かった。特にエマはまだ一ヶ月しか経っていないにも関わらずモーニングコールを行い、昼食時に消えるフィーを探し回ったりしている。

 同じ部屋で無言でレポートを書いているマキアスとユーシスだが、カイトの談には意外と心の中で同意しているのだ。

「ん~、書いた書いたぁ」

 カイトは背もたれに寄っかかって上体を伸ばした。今日一日のレポートを書き終えた。

「なっ、カイト、もう終わったのか!?」

 マキアスが椅子を揺らした。わかりやすく動揺していて、カイトは不思議に思いながら返答した。

「え、終わったよ。見る?」

 マキアスはつかつかとやって来てカイトのレポートを受け取った。それを見る。

 自然、エマもそれを見始める。

 マキアスはしげしげと言った。

「授業の成績の割には構成がうまいな」

「本当ですね。信じられません……」

「なあ委員長コンビさあ、オレのこと馬鹿にしてない?」

 エマまで言うものだから少し傷つく。

 カイトは授業に望む態度は比較的熱心なのだが、いつかの帝国史のようにいかんせん知識がなかった。オリビエ──学院理事長からの特別推薦として入学しているため入学試験は受けていないし、実のところ入学時の成績はフィーに続くⅦ組のブービーなのである。

 とはいえ、それはあくまで純粋な勉学の話。遊撃士として報告書を依頼の数だけ書き上げてきて、さらにクロスベルの重労働で極限まで効率化された書類能力は伊達ではないのだ。それは学年主席にも引けを取らない。

 驚く学年主席次席を尻目に、カイトはフィーの作っていたレポートをちらりと見た。はっきり言って書き方は乱雑で、あまり褒められたものではない内容だ。

(あとで手伝うか……)

 カイトはユーシスのほうに目を向けた。

「ユーシスはどう?」

「余計なお世話だ」

「……そっか」

 会話はそれで終わった。

 やはり、ユーシスの態度は固い。感情が先に出やすいので先のレポートなどでは会話になるが、マキアスも同じだ。カイトの積極性が裏目に出た形だ。

 どうすべきかと、カイトは頭をかく。

「カイトさん」

「ん?」

 エマが声をかけてきた。

「私もレポートは一人でできます。今日一日私たちを引っ張ってくれましたし、少しは体を休めてください」

「あ、ああ」

 それはエマの助け船だった。フィーも今は不在。カイトが気にかける必要もない、ユーシスとマキアスは無言でいるし、少しならカイトがいなくても大丈夫だというエマの意志だった。

 言葉には出さず、カイトはエマに笑いかけた。

「ユーシス、マキアス、少し散歩をしてくる。フィーがシャワーから出たら、マキアスから先に入っててくれ」

 そうしてカイトは夜のパルムへ繰り出す。

 四月末、まだ夜は冷える。トールズの赤い制服でも少し身にしみた。

 当然ながら露店に人はいなく、《白の小道亭》などの宿酒場から男たちの笑い声が響く程度。また川辺の建物の内、いくつかの紡績場の明かりがついている。

 礼拝堂の前まで歩いてきた。ちょうど、住民が中から出てくる。

 扉の隙間から、見覚えのある人物が見えた。カイトは礼拝堂に入る。

「……レイラさん」

「少年か。いい夜だね」

 大剣を外し、レイラは祈っていた。

「改めて、今日はありがとうございました」

「必要ないとは思ったけどね。君も含めて、見込みのある者たちだったよ」

「いえ……遊撃士として、あの戦闘は少し反省です」

「ふふ。少し話そうか」

 幸運にも、礼拝堂の中に二人以外の人影はなかった。ミサのための長椅子に隣り合って座る。

「それにしても、よくオレのことを覚えていましたね」

「それなら、君こそよく私のことを覚えていたね」

 カイトとレイラの出会いは、二年近く前にさかのぼる。

 帝国遊撃士協会支部連続襲撃事件。リベール王国軍大佐であるカシウス・ブライトは、王国の遊撃士に帝国を震撼させたこの事件の再調査を依頼した。その人員として選ばれたのが、カイト、そしてカイトの先輩であるジンとアネラスだった。

 帝国入り初日、カイトたちは翡翠の公都バリアハートに降り立った。まずは方針を、と半壊状態だったバリアハート支部を訪れ、そしてカイトはレイラと出会ったのだ。

「遊撃士としての最後の日々に出会ったんだ。君のことも、ジン殿とアネラス君のこともよく覚えているよ」

「遊撃士として最後の?」

 記憶を巡らせる。あの時、レイラは言っていた。

『ちょっとした修行のため、ゼムリア各地を回るんだ』

 カイトは失礼かと思いながらも、レイラの体を見つめた。どこを探しても《支える籠手》の紋章が見当たらない。

「もしかしてレイラさんって」

「お察しの通り。遊撃士は辞めた」

 あのカイトが調べたあの事件以降、鉄血宰相の計略もあり、帝国の遊撃士は活動に大幅な制限を受けている。各都市の支部はことごとく撤退し、今でも残っているのは遊撃士と領主が協力体制にあるレグラムのみ。

 もちろんトヴァルや一時期のエステルとヨシュアのように、個人的に活動するだけなら問題はないのだが、支部や国からの保護を受けられないのは遊撃士の強みを殺しているに等しかった。

 ヴェンツェルのように他国の支部に転属する者もいた。その中でレイラは、遊撃士そのものを辞めるという選択をしたのだ。

「君はどうなんだ? 帝国出身ではないが、その制服はトールズのものだろう」

 カイトは説明した。リベールの異変に関わったこと。カイトの決意。知り合いを介して今のトールズの道を選んだこと。

「それで、今は特別実習としてパルムに来ているんです」

「なるほど。アルバレア家の子息に帝都知事の息子、他にも一癖も二癖もある同級生たちとの実習か。中々楽しそうじゃないか」

 レイラは笑った。カイトとしてはまだ実習に手応えを感じていないので、少し複雑な気分ではある。

「レイラさんは、修行を切り上げて戻ってきたんですか?」

「ああ……少し帝国が恋しくなったからね」

 そうして、レイラはパルムの地で祈りを捧げていた。

 それは余りにも少ない要素で、情報を繋げるには確実性と分析が足りなかった。カイトがそれらの情報を繋げて一つの予想を導いたのは偶然だった。

「……祈っていたのは、もしかして弟さんを?」

「──」

 レイラの目が見開かれる。

「どこでそれを?」

「バリアハートで支部襲撃について調査をしていた時、街の人から教えてもらったんです」

 カイトは帝国の旅路で、多くの人と出会っている。印象が強すぎる人もいれば、エリオットのように少し思い出すのに時間がかかる者もいた。そんな中で一瞬の邂逅だったレイラのことをよく覚えていたのは、調査の中で彼の弟が支部襲撃によって殉職したということが忘れられなかったからだ。

 カイル・リゼアート。レイラの弟だ。

「年の離れた弟でね。昔から私の後ろをついて離れなかった。……君より少し上だったかな」

 殉職したのが二年前なら、今のカイトはその時のカイルに近い。

「物怖じしない性格で、働き者だった。私のたった一人の家族だった」

「レイラさん」

「しばらく想ってやれなかったからね。いい加減に怒られそうで、それで戻ってきたんだよ」

 その悲愴を前に、カイトは何も言うことができなかった。

 カイトは帝国に対する感情をほとんど克服しており、オリビエから誘われたトールズは希望を胸にやって来た。だから、悲しい感情を覚えたのは久しぶりだった。

 久しぶりの再会で嬉しさを感じ。けれど現れる後ろめたさ。無理やり扉をこじ開けてしまったような感覚。

 気まずげに次の言葉を考えていると、レイラはふっと笑っておもむろに立ち上がる。

「さて、君を待つ妹分もいる。私はそろそろ帰るよ」

「え?」

 言われ、カイトは振り返った。いつの間にいたのか、フィーが佇んでいる。彼女は寝巻き姿に、上着としてトールズの制服を羽織っている。礼拝堂には不釣り合いな格好だった。

「やっと見つけた」

「フィー、どうしたんだ?」

「レポートの添削。ユーシスに聞いたら『カイトが暇してる』って言ってたから」

「まあ間違ってはいないけど……」

「すまないね、フィー君。お兄さんを返すよ」

 そして、レイラは座ったままのカイトの頭に手を置いた。

「わっ……」

 撫でられる。

「また会おう、少年」

「あ、はい……」

 軽く髪をくしゃくしゃにされる。レイラはそのまま去っていく。

 入れ違いにフィーが座った。

「デート、邪魔した?」

「いや、別にそんなんじゃないけど」

「結局、カイトとあの人ってどんな関係なの?」

 手配魔獣戦の直後で名前を明かす以上のことができなかった。カイトはレイラのことを『以前世話になった人』とだけ説明している。遊撃士だと説明しなくてよかった。危うく(うそぶ)くところだった。

「遊撃士だった人なんだ。ほとんど話したことなかったから、オレもそれ以上の説明はできないんだけど」

「ふーん……」

 淡白な返事。少し、心ここにあらずといった様子だ。

 カイトとフィーは礼拝堂を出る。

 少し無言でいると、おもむろにフィーが口を開いた。

「《戦術リンク》ができなかった」

 合点がいった。手配魔獣との戦いの時、フィーはそれを気にしていたのか。

「それは」

「私とカイトがいれば、別に個々の戦いでも勝てたとは思う。でもあれは確かに失敗だった」

 フィーが落ち込んでいるのを見るのは珍しかった。相当リンクが弾かれたことを気にしている。ユーシスとマキアスのリンクブレイクを見ているから、というのもあるだろう。

 カイトとしても、反省点ではある。仲間たちを危険にさらしたのだから、多少肩を落としているのは事実だ。

 だが、仲間が落ち込むのは見ていられない。カイトは前向きに断言した。

「心配する必要はないよ」

「どうしてそう言い切れるの?」

「オレたちとマキアスたちじゃ事情が違うんだ」

 リンクを『繋ぐ』のに必要なのは意志の共有だ。そこに仲の善し悪しは関係ない。

「マキアスとユーシスは今日、途中までは()()リンクを繋げられてただろう?」

「あ」

「本人たちにはかえって逆効果だから言わないけど、曲がりなりにも協力姿勢は見せてくれた」

 だから短時間であってもリンクは発現した。高度な連携とはいわずとも、簡単な意志の疎通だけはできていたはずだ。

「それでも、発現したリンクを『継続』させるのにはある程度の関係性は必要だ」

 それは親密さであったり、相手を理解することでもある。必要なのは波長を合わせること。故意にせよ意図せずにせよ、リンクブレイクは波長の乱れによって生じてしまう。

 だから、ユーシスとマキアスは一度発現したリンクを維持できなかった。お互いへの感情や戦況の変化にリンクが耐えられなかったのだ。

「どちらかが悪いんじゃない。今回に限り、運の悪さもあった」

 協力姿勢を見せた二人は、今日一歩進んだ。お互いの思考の特性を知り、純粋な戦闘技術も上がれば、理屈で言えば次のリンクは容易になる。それでもまたリンクブレイクが生じたとすれば、そこが二人関係性の正念場だ。

「それで、あの二人とオレたちの違い。オレたちは、そもそもリンクが繋がらなかった」

「うん」

 フィーはコクコクと首を縦に振り続ける。

「それは、あの時オレがフィーに通常のリンクよりも強い連携を求めたからだ」

「それは……」

 悪影響によってリンクブレイクが起きるならその逆も然り。より相手を知り、相手を理解し、戦闘技術と精神が鍛えられれば、ARCUSによるリンクはさらに密度の高いものとなる。

「オレとフィーが強いリンクを結べれば、あの窮地でも逆転できると思った。でも……それは自意識過剰だったな」

 あの時、カイトはフィーに全力以上を求めた。それは信頼し合い、協力し合った果てに見いだせる仲間との連携に等しい。

「オレたちは、まだ知り合ったばっかりだ。お互いのことを何も知らない。それで全幅の信頼なんて、難しいもんな」

「……」

 ユーシスとマキアスを置いても、自分たちはまだ出会って間もないのだ。お互いのことを少ししか知らない。出身地や身分を知っていたとしても、それ以外のことを知らないのだ。

 カイトも、一番反省すべきはそこだったのではないか、と思う。自分がフィーのことを知らないだけではない。フィーもまた、自分のことはほとんど知らないだろうから。

「いつも通りのリンクをするには問題ない。また明日から、よろしく頼むよ」

「……ん」

 ARCUSとは中々困りものだ。仲の善し悪しに関係なく、そこから先へ進むには困難と障害を伴うのだから。

「差し当たっては、宿に戻ったらフィーのレポート添削だな。委員長にも手伝ってもらって、頑張ろう」

 特別実習も折り返しだ。

 

 

────

 

 

 そして、特別実習二日目の朝。

「なによ君たち、随分な調子じゃない」

 生徒たちを見て、サラ・バレスタインはいつもの調子で答えた。

「そうは言っても、随分と引っ掻き回してくれたと思いまして」

 憎たらしげな教官殿に、カイトはそんな風に毒を吐く。

 早朝八時。サラは昨日の夜にセントアークまで移動したのだという。そうして今日の始発でパルムに向かってきた。

 前日はケルディックでA班のフォローをしてきたのだという。帝国を鉄道で走り回るのは随分疲れただろう。だからといってそれを案じるような状況でもない五人だったが。

「実習は充実していますが……」

「ぶっちゃけ大変」

 女子二人も含みある目線を向ける。

 サラはカイトが作成したレポートを眺める。その間、男子二人が。

「教官殿は生徒の神経を逆撫でするのがお好きなようだ」

「そもそもこの特別実習の趣旨も不明瞭です。カイトが予想しましたが、実のところはどうなんですかっ」

 口々に文句を言うが、サラはまったく意に介さない。

「ふふん、色々悩んでいるようね。B班の特別実習も、想像よりはいい感じじゃない」

 全員が確信していたことだが、口ぶりからしてもユーシスとマキアスを同じ班にしたのはわざとだ。つまりサラの想像では今よりももっと酷いことになっていたということか。

 もはや埒が明かないので、班分けの件については放っておくことにしたカイトだった。

「それで、特別実習の目的はどうなんですか?」

 カイトが予想した、帝国各地を知るという目的。その上で遊撃士のように足を使って現地の依頼に着手することで、帝国に潜む問題というものを理解していく。それは果たして正解なのか。

「いいでしょう。少しは教えてあげる」

 サラは腕を組んだ。

「ARCUSのテストは入学式で伝えた通りね。依頼を通して現地の情報やそこに住む人を知る……カイト、アンタの予想も目的の一つよ」

 実際、カイトたち五人はパルム全域を歩き回った。その中でパルムの特産の流れを知った。手配魔獣のために街道を歩き、魔獣の生態に街道を歩く人の様子を()()した。

 短時間だが領邦軍とも接触している。マキアスなどはほとんど拒絶していたが。

「でもそれだけじゃないわ。『やれ』という指示があるのは必須のものだけ。実習範囲を除いては、『やるな』という指示はない」

 サラは五人を見た。ここに至って、それぞれを見る目線に差はない。

「現地で一日過ごして、事の大小を問わず君たちは《問題》にぶち当たったはずよ。それに対してB班がどうするか……」

 そしてウィンク。

「ま、平たく言えば『色々話してみなさいな』ってことよ」

「……俺たちを馬鹿にしているのか?」

「いやいや、真面目な話よ」

 カイトが聞く。

「真面目に、その問題がなんであるかも話し合えってことですか?」

「ふふっ……特別実習は今日まで。君たちの刻限は長くても三時。それまでには、列車に乗らなきゃならない」

 そうして、サラは《白の小道亭》の扉を開く。

「教科書通りにいかない世界を前に、何を目的にどう考えるのか……せいぜい、動いてみることね」

 そうしてサラは宿酒場に消える。朝食もまだだと言っていたので、これから取るのだろう。

「行ってしまいましたね」

「くっ……どうすればいいんだ」

 エマとマキアスがため息をつく。

「……わかってたけど、結局なんの説明にもなってなかった」

「振り出しか……おい、ひとまず今日の依頼を確認するぞ」

 ユーシスがカイトに促した。サラに会う前、例によってベルトランから受け取っていた二日目の依頼だ。

 カイトは頷いてユーシスに渡した。

 今日も今日とて依頼は存在するが、昨日と比べて少なく二つ。パルム町内で済むものだ。順調にこなせれば昨日よりも時間は余る。

 そうなった時、その時間をどうするべきか。B班の面々は考える。サラははぐらかしたとはいえ、釘を刺したものだから迷ってしまう。

 結局のところ、パルムは至って平穏な様子だった。依頼を除いて外的な事故などもなく、士官候補生として奉仕すべきことも見えてこない。

 そんな中。

「──なあ、みんな」

 実習開始時の考察に、手配魔獣の件。もう昨日一日で、B班にとってカイトはトラブルメーカー気質となりつつある。ユーシスとマキアスもいるが、その二人を焚きつける意味でた。

 だからカイトが意味ありげな口調で呟く時点で、ユーシスとマキアスは何を言われるのかと警戒してしまう。

「なんだ……まさかまた戦術リンクを繋げというのかっ」

「いい加減、諦めたらどうだ」

 実習の前から一日目、二日目の朝と常に喧嘩腰の二人だが、この時ばかりはその矛先がカイトに向かう。

「言う前から断るんじゃないよ……ああ、もう!」

 ガシガシと頭をかく。

「依頼については昨日と同じ意見だ。できる限りやっていきたい」

「……もちろん、異存はありませんが」

「私も同じく」

「……手配魔獣はもうないぞ」

「だからユーシスもしつこいっての!!」

 はぁっとため息。

「……サラ教官の言葉は、オレも少し考えた。それと昨日の戦闘はオレも反省してる。そのうえで、戦術リンクとは別で話したいことがある」

「なんだ。まどろっこしいな、早く言いたまえ」

「違うよマキアス、ここじゃダメなんだ」

「……話が見えないぞ」

「見せたい景色もあるんだ。その場所は──」

 カイトの言葉を聞き届けた五人は、驚きを顕わにすることになる。

 

 

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