心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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33話 Crossbell Diary③

 

 

 

「どうだったカイト。不良どもの相手は」

 そんなことを先輩遊撃士に言われたのは、魔都での仕事の忙しさにも、まだまだ慣れない日のことだった。

 昼下がり、魔獣討伐や配達・収集作業の合間の昼休憩。市庁舎前のベンチに座っていたカイトは、同じく居合わせた先輩の一人と会話を続けていた。

「え、と、スコットさん、それって?」

「お前さんが休暇の日があっただろう? あの時の不良との喧嘩。俺たち見てたんだよ」

「あれ見てたんですか!? 助太刀してくれなかったの!?」

 カイトの驚きに対しても全く動じずに朗らかに笑い続ける茶髪の青年スコット。クロスベルに所属し、戦闘では機関銃をもって後方支援を得意とするB級遊撃士だ。

「そうは言うがな、カイト。旧市街じゃ不良同士の諍いなんていつものことだ。遊撃士としてあれに首を突っ込むことは悪いことじゃないが、突っ込むなら一人で解決してもらわないとな」

 ぐうの音もでない。

 あの時の自分は騒がしさに苛ついての動きだったわけだが、結局近くにいた住民たちが自分以外の遊撃士に助けを求めることもなかったのだ。住民たちもある程度は楽しんでいることを理解してい置くべきだったし、そもそも故郷ルーアンのレイヴンを相手にしているのとはわけが違ったのだ。レイヴンは良家の子息が首を突っ込んでて……という騒動もあったが、クロスベルの旧市街では不良たちも統制が取れている分だけ無駄な騒ぎは起こさないのだろう。

「でもあのままじゃオレの良眠が阻害されてたんだけどな……」

「スコットの言う通りだな。未熟者だろうが、不良程度に劣るようでは困る」

「え」

 新しく聞こえた堅苦しい声はカイトの後ろから放たれたものだった。振り向くと、カイトは別の意味で固い声を出す青年がいる。

「ヴェンツェルさん」

 背に大剣を背負うヴェンツェルは声色に違わず仏頂面だった。オールバックの金髪は判りやすい強者の雰囲気。今まであまり見たことのないタイプの先輩で、カイトにとってはアガット以上に苦手な人物だった。

「お前は一時とはいえ共和国の《不動》や八葉の剣士とともに今の帝国を練り歩いたのだろう。このままではその勲章が霞む」

「うぐ……そりゃたかが不良たちでしたけど、リーダー二人は強かったんですよ!」

 精一杯の抵抗には、ヴェンツェルとパーティーを組むことが多いスコットが答えた。

「まあ確かに、あのワジとヴァルドは並みの遊撃士にも引けを取らないから、まあ今は及第点としとこうか。けど、このクロスベルで考えるならまだまだやりようはある」

「というと?」

「現代に生きる血気盛んな若者たちだ。喧嘩以外にも落ち着かせる勝負の方法はあるってことさ」

 金融都市クロスベル。経済産業における導力技術の粋が詰め込まれたこの都市は日々多くの情報が行き交い、それに比して価値観の変化も加速していく。牧歌的なリベールの少年少女とはまた違った価値観や葛藤を持つのがこの都市の少年少女たちだ。

 カイトが先の不良との抗争で不完全燃焼だったのは遊撃士としての経験と共に、この都市での生活そのものにまだ慣れきってないことも原因の一つだろう。それほどに少年にとっては、クロスベル自治州は異質なものだ。まだ帝国の地方都市のほうが親近感がわくと言えるほどに。

 休憩中、スコットは説明役を買って出てくれる。

「遊撃士や警察が扱う依頼にしてもだ。クロスベル市なら、例えば導力車の交通事故とか──」

 と言った直後だった。

 カイトにスコット、ヴェンツェル。三人が座るベンチの後ろで凄まじい轟音が鳴り響き、超大型地震のような衝撃と震動が一帯を襲った。

「な、なんだぁ!?」

 衝撃のあまり二リジュほど体を浮かしてから転んだ少年。対して先輩遊撃士二人の行動は早かった。すぐさま後ろを見て、少なくとも自分たちの得物を出すような戦闘的状況でないことを確かめる。

 そして二人して一秒だけ立ち尽くして言った。

「……スコット」

「いや、さすがに俺のせいじゃないからね!?」

 堅物な青年は変わらず仏頂面で相棒を見る。そんなわけないけれどまさか自分の言葉が現実になったんじゃないかと、否定しつつも冷や汗をかくスコットだった。

 遅れて状況を把握した少年の目に映るのは、小規模ながら凄惨な光景だった。

 通るべき道路から外れ、車体前面を大きく凹ませた導力車。それと衝突したらしい導力灯は根元からひしゃげ、人々の目を楽しませる花壇は土塊と化している。

 衝撃音の正体は言わずもがな導力車による交通事故だ。昼休憩の時間帯、外を歩く人の数もそれなりに多いのが相まって、辺りは騒然としていた。

「行くよ、カイト。まずは被害状況を確認。負傷者がいれば一時救護と治療を」

「は、はいっ」

 スコットが落ち着いた声で言うと、近くの野次馬たちに落ち着くよう指示し始めた。ヴェンツェルはすでに立ち、後続の導力車を誘導している。さすがに仕事が早い、自分も動かなければ。

 近づいて状況を確かめる。導力車の前面はやはり形を大きく変えているものの、火花や煙が吐き出されているというわけではなかった。不幸中の幸いか、爆発などの二次被害はなさそうだ。

 そのまま運転席側へ回ると、人を見つけた。裕福そうな身なりをした初老の男性だ。

「大丈夫ですか!?」

「う……ああ……」

 カイトの声掛けに反応するも声は弱々しく、瞳に宿る生気もまた弱っている。音だけでも強いとわかる衝撃だ。全身をフロントガラスに打ち付けた可能性が高い。

 医療者でもない遊撃士は、当然その資格もこういった状況で医療処置を施すことはできない。だが身体に害をなさないティア系統と、非常時のみだが命を繋ぐためのセラス系統の魔法だけは、それによる治療処置が許されていた。

 ショック状態で出血もしている。だが致死手前ではないというこの状況、まず行うはティアラルの発動だ。カイトはすぐさま駆動し、やがて青の波を収束させた。

「どうですか?」

「少しは……楽になったよ、ありがとう」

 次は負傷者の避難と現場の保全だ。やるべきことを判断し、助けを呼んだ。

 状況説明は簡潔に、明瞭に。

「スコットさん! 二次被害の可能性は低い! 負傷者は一名! 導力車からの救出の助けをお願いします!」

「了解」

 短い返事と共に、二秒と経たずにスコットが来た。小柄なカイトより頼もしく、二人して一先ず命の危機は去った負傷者を助ける。ひしゃげた導力車内部からなんとか足を引っ張りだして、安全域まで避難させた。

「カイト、次はどうする?」

 スコットは淡々と聞いてきた。先輩からの指導兼試験だ。

「負傷者は先ほど言った通りです。まずは医療施設と警察に連絡しましょう」

「聖ウルスラ医科大学へは、もうヴェンツェルが問い合わせてくれてるみたいだ。警察への連絡は……必要なさそうだね」

 市庁舎前の広場には警察署もある。これだけの大騒ぎだ、事故現場の長至近距離に自分たちがいたから十秒と経たずに動けただけで、すでに警察官が集まり始めている。そろそろ彼らに現場を譲るべきだろうか。

「なら次は状況の説明だね。発生原因として考えられるのは?」

「ここは車通りがそれなりに大きい、とは言え玉突き事故も起きてないし、他の導力車が急ブレーキをかけたようなタイヤの音も聞こえなかった。跳ねられかけたような通行人の人もいなければ、たぶん原因は負傷者かあるいは導力車にあると思います」

「さっき野次馬に誘導ついでに聞いてみたけど、怒り心頭の人も恐怖に駆られた人もいなさそうだった。カイトの言ったその二つの可能性が高そうだね」

 男性の急な体調不良があったのか、それとも導力車が故障したのか。それらは専門家が見ないとわからないだろう、あとは単純に男性の運転ミスか。

「いい動きだったよ、カイト。これが俺とヴェンツェルがいなくてもできるなら、事故の初期対応としては及第点だ」

 さらりと言われた先輩の言葉に、カイトは乾いた笑いで返す。

「これでも及第点なんですね」

「ははは、当り前さ。さあ、警察に後の手続きをお願いしようか」

 見れば、もう十人もの警察が近づいていた。見ればヴェンツェルも、誘導係と何かしら話し合っている。

 そしてカイトとスコットの前に現れたのは。

「げげ」

「誰かと思えば貴様か」

 カイトは呻き声をあげずにはいられなかった。

 堅物そうに整えた緑色の髪の毛、堅物なスクエアフレームの眼鏡、正義感もあるが堅物としか思えない瞳と仏頂面、濃紺のスーツに赤のネクタイ。

 皆まで言わなくても誰なのかわかりやすすぎる。クロスベル来訪初日から苦虫を嚙み潰すことを強要されたアレックス・ダドリー捜査官だ。

 敵意むき出しのカイトとは違い、スコットはあくまで冷静に彼に声をかける。

「ダドリー捜査官、貴方が来るとはね。交通課の面々は忙しいのか?」

「貴様ら遊撃士に言うようなことではない。急な事故だ、近くにいた警察官の一人が対応するのは至極当然のことではないか?」

 警察官が各々動いている喧騒の中にあって、この捜査官と遊撃士の間だけは水面下の攻防ともいうべき静寂と火花が同居している。

 ダドリー捜査官は一度自身の属する警察の建物を見やり、溜息を吐くとぶっきらぼうに告げた。

「ふん、まあいい。上に知られると厄介だ。早く説明してもらおうか」

 少し、カイトには不可解な言葉だった。その理由を、声をかけるのは嫌だがこらえて何とか聞いてみる。

「……ダドリー捜査官、『厄介だ』って、どういうことだ?」

「カイト・レグメント。貴様はどうしてそう浅はかなのか……少しは上司の手際を真似しようとは思わないのか」

「……あーはい無駄口でしたね悪かったですねこの堅物眼鏡捜査官……!」

「……貴様」

 お互い仕事中、しかも野次馬のいる事故現場だ。態度もすべて大人げなくするわけではないが、それでも怒り心頭になったカイトはダドリーを挑発した。結果、二人は至近距離の警官やスコットだけが判る程度の規模で一触即発の空気を作っている。

 スコットは努めて穏やかにカイトの肩を制した。ダドリーの言葉に思う所があるのは自分も同じだ。だけど遊撃士なら、己の役割や力量や引き際もまた理解しなければいけないのだから。

「カイト、気持ちはわかるけどそこまでだよ」

 スコットはダドリーにも非難の目を向けた。

「ダドリー捜査官も、少しは言葉を慎んでもらいたい」

「なら、未熟な子どもなど事故現場には入れてほしくないがな」

 変わらず、カイトのみならずスコットへの嫌な物言いは変わらなかった。カイトよりは冷静なのだろうが、ダドリーもまた少し怒りの感情が勝っている気がする。スコットは考える、最近の警察の物静かな動きを考えるに、事件の解決に手こずってそれが遊撃士への感情に影響をしているのかもしれないと。

 どうしたものかと、穏やかな先輩が考えたその時だった。

 不真面目で飄々とした男の声が一堂にかけられた。

「そうカッカするなよダドリー」

 その男は、がっしりとした体つきの中年親父だった。纏う雰囲気は違うが、話し方は少しだけリベールの中年親父とも似ている。白いシャツにサスペンダーをつけた彼は、一見してただのビジネスマンのようにも見えた。

 だが堅物捜査官ダドリーの肩に気軽に手を置き、そしてスコットも手こずっていた少年と捜査官の仲裁を始めた彼は、どう考えても一般人ではない。ダドリーは遊撃士とは違いその態度を軟化させている。

「セルゲイさん、そうは言われてもですね」

「相変わらず真面目なのはいいが、堅物すぎるのも変わらないか。遊撃士とは俺が話すから、お前は現場の指揮を執ってくれ」

 不和の原因である一人を遠ざけるその人物は、カイトにとっても少しは落ち着いて話ができそうだった。その存在を注視するカイトと違い、すでにスコットは中年親父との話を進めていた。

「よう、久しぶりだなスコット」

「こちらこそ、セルゲイ捜査官」

「ずいぶんと可愛らしい後輩を連れてるじゃねえか。クロスベル支部の期待の星ってところか?」

「まだまだ経験のない新人です。鍛えて回っていることろですよ」

「ククク、これは警察も油断できねえな」

 安心はできない雰囲気だが、少なくとも罵倒だけの意味のない会話にはなりそうにはなかった。

 スコットは現場の状況について説明し、そして事後処理を任せる。

「よろしくお願いしますよ、うちの後輩にも多少の非があるとはいえ、警察の内輪揉めに付き合いたくはありませんから」

「ああ、善処するさ」

 一応協力しなければいけない場所、事故の対応だけは平和的に行えた。個人的に自分に非があるというのは悔しいながらも認めざるをえなかった。

 それはそれとして、カイトはスコットが『セルゲイ』と呼ぶ目の前の人物に聞いた。

「貴方もダドリー捜査官と同じ、捜査一課の人間なんですか」

 アレックス・ダドリーが優秀な捜査官であるということは初日から聞いている。だが未だクロスベルのことを熟知していない今、他の警察官のことなんて知る由もない。今の自分では只者ではないだろうということくらいしか判らないのだから。

「ああ……いや、半分正解で半分間違いだ」

「半分?」

「俺はセルゲイ・ロウ。あそこのダドリーと同じくクロスベル警察の捜査官だ。と言っても、あと数か月の話だけどな」

「……それって」

「内輪揉めに関わりたくないってお前さんの先輩が聞いてんのに、ずいぶんと首を突っ込みたがるもんだ」

「あ、すみません」

「いや、悪い気はしない。むしろ俺が欲しい人材だからな」

「え?」

 遊撃士も警察も、空気に影響されている部分もあるだろう。だがお互い何か只事でないことを匂わせる割には、核心をつく前に煙にまくような不可解な部分がある。

 スコットはそれが何なのか判っているようだが、教えてはくれないらしくカイトとセルゲイの会話に入らない。ダドリーの態度は一貫しているし、セルゲイも同様だ。

 恐らく、その不和の原因がわからなければ自分は話し合いの舞台にすら上げてもらえないのだろう。

 体感はできても実感ができない。まだ自分はこの違和感の原因が判るほどクロスベルを知らないのだから。

 まずは情報を集めなければならない。そのためには気に入らない者もいるが、できる限り人や組織のことを知らなければ。

「オレはカイト・レグメント、G級遊撃士です。リベールから来ました」

「ほう、あのリベールからか。つまり……《異変》にも関わってたのか?」

「……はい。一応は」

「クク、いいねえ。ますます欲しくなった」

「……はい?」

 欲しくなった? どういうことだ。

 カシウスにも通じるような突然の話題転換というべきか。もう事故現場の指揮は完全に警察に引き継がれているからか、セルゲイはともすれば身内のダドリーでさえ困り果てるような言葉を紡いでいた。

 カイトは疑問符を浮かべ、スコットもまた不可解な顔をしている。

「何を言っているのかよくわからないです」

「ちょっとセルゲイさん、なに後輩をたぶらかしているんです。またお得意の《搦め手》ですか?」

「いや? 搦め手とも言えなくはないが、正真正銘の勧誘だ」

 勧誘。セルゲイ・ロウは確かにそう言った。そして告げられた内容は。

「お前さん、今からでも警察に転向する気はねえか?」

 とんでもなく突拍子もないものだった。

「……は?」

 カイトもは二の句が継げない。スコットも口をあんぐりと開いているところを見るに、あまり開いてはいけないタブーに踏み込まれているのだと感じる。

「ま、警察にもいろいろごたごたがあるってことだ。お前さんたちが理念を盾にしなきゃ内政に干渉できないようにな」

「ちょ、ちょっと、何を言っているのか余計に判らない……」

 セルゲイが

「俺がどうして正義の味方を引き抜こうってことにか? その口ぶりを聞く限り先輩方からこの都市の闇の部分を聞かされちゃいないか」

 だが、カイトが知ろうとしているこの都市の闇の部分。そこをちらつかれると、カイトはセルゲイの話を促さずにはいられない。さすがに初めて知り合った赤の他人の誘いに乗ろうとは毛頭思わないが。

「できれば自分で気が付くのがいいけど……人に頼ることだって、決して悪いことじゃない」

 カイトはそう呟いてスコットを見た。厳しいヴェンツェルであれば許さなかったかもしれないが、スコットはカイトと同じく人に頼ることを悪手とはしなかった。

「教えてください、セルゲイ捜査官」

 セルゲイはニヤリと笑った。目的のためには手段を問わないカイトの姿勢。恐らく『別にいい』とカイトが勇ましく突っぱねるだけでは見ることのできなかった顔だ。

 セルゲイは言った。

「民間組織の遊撃士と公的組織の警察や軍隊。それらは協力し合うことができるなら大抵の犯罪組織や犯罪者は一網打尽にできる。《リベールの異変》を辛くも乗り切った王国の遊撃士なら判るだろう」

 カイトは頷く。

「だが、この都市の敵は勧善懲悪じゃあない。リベールとは違うクロスベル自治州の地政学を考えれば、自然と判るはずだ」

「リベールとクロスベル……」

 カイトは考える。共に帝国と共和国に挟まれた緩衝地帯。だが一方は独立した王国であり過去には帝国の猛攻を跳ね返したこともある。そして一方は、両国を宗主国に持つという歪んだ状況にある自治州(じちしゅう)だ。

 セルゲイが続けた。

「ここまでがヒントだ。遊撃士なら、遅かれ早かれこの答えには辿り着くだろう」

「その理由があるからこそ、遊撃士と警察の仲は良くないし、勧善懲悪でない敵には勝てないと?」

「負けもしないけどな。このごたごたを解決する手段は、警察にはないし、恐らく遊撃士にもない。だからこそ、俺が造るつもりなんだよ。お前さんみたいな若者が失敗してものびのびと動けるような場所をな」

「……」

 悔しいとカイトは感じた。興味を持ってしまったから。

 だが、再三考えたが未だ自分は答えに辿り着かない人間だ。遊撃士としてその壁というべき敵に向き合う前に今の立場を放棄るのは節操がなさすぎる。

「頭の端には入れておきますよ、今のセルゲイ捜査官の言葉。まだ俺は半人前だしね」

「じゃあその答えが出た時、お前さんにはもう一度聞いてみるとするさ。きっとお前さんにとっちゃ、魅力的な場所になっているだろうからな」

 それじゃあな、とセルゲイは踵を返す。

 ダドリーといいセルゲイといい、つくづく一筋縄ではいかない。リベールでもリシャールやモルガン将軍や、他にもカシウスやシード中佐がいたように、遊撃士に勝るとも劣らない人たちだ。

 スコットが言う。

「……とりあえず、ここで俺たちがやるべきことは終わった。次の仕事もある、ヴェンツェルと合流して各々の依頼を始めようか」

「……はい」

「どうだった? 二度目の警察との接触は」

 カイトはスコットにすぐに返事を返さない。事故現場と野次馬たちと、視界の端に見えるビル群を目にしながら言った。

「そんなすごい感想ってわけじゃないです。クーデターの時みたいに敵対したわけじゃないし、《異変》の時みたいに協力したわけでもない」

 言ってみれば帝国での鉄道事故の時のように、少し睨み合いとなっただけだ。

 だが、その少しの睨み合いが、帝国の時と同じように少年に疑問や理を一つ、植え付ける。

 遊撃士を目指すきっかけとなった義姉への感情、そして次に自分を昇華させた帝国への憎しみ。この共和国と帝国の間に挟まれた《魔都》の闇は、きっと自分を次の段階へと至るための《壁》を与えてくれるだろう。一筋縄では行かない、心を揺さぶるような大きな壁だ。

「オレの予感は正しかった。ここならきっと、オレももっと色んな事を知れる」

「そうか。なら、もっと頑張ってもらわないとな」

 昔なら嫌になっていたかもしれない大きさの壁。そもそも、今はまだどれだけの大きさの壁かもわからないのだが。

 それでもカイトは不敵な笑みを浮かべていった。先ほどセルゲイが作ったような顔と同じだった。

「はい。きっとすぐにでも、答えに辿り着いてみせます」

 答えに辿り着くその時は、意外と早くなりそうだった。

 

 

 








昔と文体が変わっている気がしますが、ご容赦を。

次回34話「少女が求めたもの」です。
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